とある中佐の悪あがき   作:銀峰

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それぞれの思惑

「……勝つぞ」

 

操縦桿を強く握り締めながら、呟く。別にこれに負けようと実際に死ぬわけではない。所詮は模擬戦だ。

こちらとあちらの機体差。パイロットの採用。色々な点を見ても分かりきったことだろう。だがあの技官の思惑にのるのは癪だ。

 

「唯一ついい所は、万全な機体状態と言うとこだけだな」

 

コンソールを操作して、武装一覧を出す。

120mmザク・マシンガン

280mmザク・バズーカ ×

ヒート・ホーク

クラッカー

脚部3連装ミサイル・ポッド

175mmマゼラ・トップ砲 ×

ミサイル・ランチャー ×

改めて見ると、多彩な武装集だ。いかにザクが兵から愛され、様々な戦場に対応出来る様にとの要望か。事前に説明があった通り、バズーカは使えない様だった。それ以上の口径の武装もだ。選択できる武装は片っ端から選んでいく。120mmザク・マシンガン。ヒート・ホーク。クラッカー。両脚部に3連装ミサイル・ポッド。

 

「こんなもんか。ミサイルポットは謎だが、使えるだけありがたいな。120mmのマシンガンでも敵に当たれば撃破もしくは、致命傷は与えられる。……決して無理な勝負じゃない」

 

自分に言い聞かせる様にして呟き、武装選択完了のボタンを選択。すると、機体の外の景色が、どこかの船の格納庫の様な場所に変化した。ガウ攻撃空母の中の様だ。想定上は事前に説明があった通り、地球上のどこかに下されるらしい。

 

「ユーセル出撃する」

 

ザクを操り、ガウから降下する。宇宙と違い落下する様相はなかなか慣れない。降下加速。高度を表すカウンターが勢いよく減っていく。

こえぇ。恐怖心を打ち消す様に、口角を上げる。

かの有名な人形もこんな気持ちだったのだろうか、飛んでるんじゃない、落ちてるだけだ。かっこつけてな。懐かしいなぁ。えいがみてぇなぁ。

 

「4500……4000……3200…3000,。今!っつ」

 

高度3キロ地点で減速開始。ブースターを吹かし、機体の加速を緩やかにする。先程までの浮遊感は消え、地上の重力に捕まる。そのまま地上に優しく……とは言わないが無事に降りる。

 

「どこぞの街か?結構簡単に壊れそうだな」

 

モノアイを左右に動かし、周囲を警戒する。どうやらどこぞの放棄された街に降りたらしい。見る限り機体の背丈以上ある建物がちらほら乱雑している。街の外には……砂漠が広がっている。ダカールあたりの地形だろうか?ビルにかかっている黄色の看板が風に煽られて、ぷらぷらと揺れている。

 

「あのジム改は何処だ?」

 

ザクのセンサーをアクティブに。機体に搭載されているセンサは、スペック上は半径3200mを探ることができる。たちまち機体に情報が次々と増加していく。幸いか、ミノフスキー粒子は散布は薄い方だが……

 

「敵影なしか……ちっこのオンボロめ。もたもたしてっと見つかっちまうぞ」

 

画面が荒く乱れている。

どうやら察知できそうにない。ミノフスキー粒子かのことを考えて、ジオンの機体はお世辞にも、良いとは言い難い。まぁ、どうせ使えないものを頼るより、有視界域を強化した方がいいのは分かる。だからモノアイをジオンは多く採用している。連邦製の機体は逆で、センサー類は上等だ。一年戦争時の量産機のジムですら、センサー有効半径6,000m程は有る。

 

「先手は譲ることになるな」

 

ビル群を背にしながら、死角がないよう街の中心部に移動していく。機動力に劣っているこちらが街の外に出て、勝負する気はない。多少障害物がある方が、こちらにとってプラスに_

ロックオンアラート。90mmマシンガンから吐き出された砲弾が、ユーセルの駆るザクに殺到する。アラート鳴り始めるほぼ同時に、彼は機体を動かす。先に発見されるのは分かっていた。が、機体が急な運動に追いつかない。もつれ込むようにして、近くのビルの後ろに回り込む。

 

「お返しだ!」

 

腕部を突き出し、120mmザク・マシンガンを連射。めくら撃ちだが、撃ち返すことに意義ある。マシンガンから打ち出された砲弾が、豪雨の様に敵機のいるであろう方向へ打ち込まれる。30発ほど発砲。撃ち込まれた地形は大きく歪み。土煙が立っている。

 

「……何処に行った?」

 

『……よく避けた!』

 

大気が揺れる。自機の右翼から、50mもの距離を消しとばすようにしてRGM-79C_ジム改が自機に飛びかかる。今の短い時間で、ビル群を回ってきたのだ。

 

「!?_早すぎる!」

 

数瞬間の時間が、何分かの様に引き伸ばされる。もう目と鼻の先だ。

咄嗟に手足を動かすと、MS-06F_ザクF型が気が遠くなるほどゆっくり、とのけぞる様にして後ろに跳躍する。

金属の悲鳴。

10数mほどの円錐状フィールドを発振し、高い切断・溶解力を持つ巨人の刃が、ザクの胸部装甲を削る様に孤を描いた。並のパイロットなら反応できずに、ここでコクピットを真っ二つにされていただろう。

ザクの背部バーニアを盛大に吹かし、殆ど後ろに転ぶかの様にして後方に距離を取る。ユーセルは機体のライフルを真正面に構えた。殆どめくら撃ちだった。3発立て続けに放たれた砲弾が、奥の建物をずたずたにする。

 

「……奴は!?」

 

『……もらいだ!』

 

「上!……そう簡単にやられるものかよ!」

 

腰部に備え付けられたマウントラッチからヒート・ホークを取り出し後ろに振りかぶる。熱核融合ジェネレータからの出力を受け、赤熱化。降下してくるジム改のサーベルに叩きつける。ビームサーベルとヒートホークの接触点から眩いばかりの熱量が溢れ出し、アイフィールド内に留まれなかったプラズマが、両機の装甲を眩く照らす。

 

(……割りに合わない)

 

背中に冷や汗が垂れる。押しつぶされそうになる機体をどうにか、制御しつつ耐える。

 

 

 

 

アナハイム社シュミレーター室。そこを見渡せる様に作られた部屋にオサリバン以下の者はいた。複数の大型ディスプレイが所狭しと並んでおり、二機の戦闘の様子を様々なアングルからモニタリング。記録として、落とし込んでいた。ディスプレイを眺めていた男は、感心した様に肩をすくめた。

 

「なかなかやるもんだな。彼は」

 

ユーセルのザクF型は、地形や障害物を利用してなんとかジム改の猛攻を凌いでいる様子だった。

 

「はい。オサリバン常務。彼も軍属と言うこともあり、ジム改の性能を十分に引き出しています。推進力のデータも想定値の理想に近い。良いパイロットですよ彼は!」

 

「ジムのパイロットもなかなかやるもんだが、そちらでもない。ザクのパイロットの方だ」

 

オサリバン常務と言われた男は、フンと鼻を鳴らす。

 

「そちらですか?ただのジオニック崩れの民間人でしょう?事実逃げ回るしか出来ていない」

 

「連邦くずれのパイロットも、ジム改の良いところを十分に活かしている。それはわかった。ほぼ最初期のザクでよく持っている」

 

ニヤニヤと余裕そうな笑いを崩さないのは、今回の計画書を持ってきた男だ。オサリバンは概ね何を考えているか、事の端末を概ね察している。でなければこの様な性能差のある模擬戦を実施しようなどと、思わないだろう。別にジオニックから合併吸収した奴らから嫌われたいわけではない。彼らの技術力は貴重だし、機体を回収したと言っても、その機体を支援する人員がいないと、修復すら出来はしない。

 

「……あの腕前に名前。余程の馬鹿か、それとも何か考えがあるのか」

 

「はぁ…なにか?」

 

「なんでもない。おしゃべりは終わりだ。仕事に専念しろ」

 

「は、はい」

 

静かだが、どっしりとした声に遮られてそれ以上彼は何も言わなかった。バタバタと怯えた様に仕事に取り掛かる。

一つ意見を通せたからといって、調子に乗ってもらっては困る。一見公開リンチの様なカードを組んだのも、確かめたいことがあったからだ。

 

オサリバンは懐から、木製のシガーケースを取り出した。

滑らかでささくれなどない落ち着いた色合い、葉巻店の店主の一推しの品だ。本当はクーズーの皮で作りたかったのだが、あえてその時は一ランク落とした。

葉巻を咥え、火を付ける。

 

「……さて、これは私への福音か。それとも破滅の笛か」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「流石は連邦の最新鋭機。こちらが一つ動く間に2挙動は先をいかれている。……だがこれだけ近ければ!」

 

ザクはビームサーベルを受け流し、機体を急激に離す。ジム改は反発していた力が急に消えたことで、ビームサーベルは空を切る。敵機はやや前のめりの姿勢になり、重心が崩れる。その隙に腰部マウントラッチからクラッカーを取り外し、敵機の前に浮かせる様にして離す。クラッカー《くるみ割り器》の名を表す()()は、放物線を描く様にジム改の前に落ちていく。ジム改は慌てて、シールドを構えようとするが、もう遅い。

爆発。

()()は割れたくるみの様に、破片を周囲に撒き散らす。その破片一つ一つが、時限信管子弾をばら撒くクラスター爆弾だ。

煙が周囲に満ちる。

 

「……煙幕になって見えないか。だが、あれだけ至近距離でクラッカーを爆発させたんだ。やれてない筈がない」

 

クラッカーを投げる際に、急速離脱したとはいえ対応の暇を与えないために十分に離れられていない。通常だったら上空に投げ、その破片が爆散することで広範囲に威力を発揮して相手に損害を出す兵器だ。クラッカーを投げた左腕部が肘から先がなくなっていた。拠点に帰って、修理しないともう使い物にならないだろう。

煙が晴れ、クラッカーが直撃したジム改の無惨な姿が_

 

『よくも!』

 

いや、違う。シールドは失っているが、銃口をこちらに構えて_

 

「!」

 

ジム改が発泡。右肩にマウントされているシールドを構えるのが精一杯だった。

被弾。被弾。被弾。

フルオートで放たれた90mmの砲弾が、自機に殺到する。ジム改の放った砲弾は、主人の恨みを晴らすかの様に、あちこちでザクの装甲を弾き飛ばす。頭部センサ半壊。ザクマシンガンに被弾し、爆発。左肩部全損。ひっきりなしに警告が流れ、被害を報告してくる。これ以上は行動不能になる。もう喰らえない。

 

「まだだ!」

 

ザクに搭載されている火器管制システムが、ロックオンを求めてくる。数秒はかかる。そんな悠長なことはしていられない。ロックオンをキャンセル。

両脚部についている3連装ミサイル・ポッドを3発発射。だが、ろくにロックオンしていないミサイルは目標を失う。ミサイルに搭載してある赤外線センサと熱源センサが目標を再選択する。正面で最も熱を持ち、銃身か赤熱化するほど撃ち続けている。マシンガンに。が、今から軌道を修正するには距離が近すぎた。

ミサイルは命中せず、ジム改の数メートル手前で落下。爆発。地面を大きく穿ち、2機の周囲を爆発が包み込んだ。


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