とある中佐の悪あがき   作:銀峰

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模擬戦

『そんな旧型で!』

 

大気が揺れる。50mもの距離を消しとばすようにしてRGM-79C_ジム改が自機に飛びかかる。

 

「!!」

 

咄嗟に手足を動かすと、MS-06F_ザクF型が気が遠くなるほどゆっくり、とのけぞる様にして後ろに跳躍する。

金属の悲鳴。

10数mほどの円錐状フィールドを発振し、高い切断・溶解力を持つ巨人の刃が、ザクの胸部装甲を削る様に孤を描いた。

ザクの背部バーニアを盛大に吹かし、殆ど後ろに転ぶかの様にして後方に距離を取る。ユーセルは機体のライフルを真正面に構えた。殆どめくら撃ちだった。3発立て続けに放たれた砲弾が、奥の建物をずたずたにする。

 

「……奴は!?」

 

『……もらいだ!』

 

「上!……そう簡単にやられるものかよ!」

 

腰部に備え付けられたマウントラッチからヒート・ホークを取り出し後ろに振りかぶる。熱核融合ジェネレータからの出力を受け、赤熱化。降下してくるジム改のサーベルに叩きつける。ビームサーベルとヒートホークの接触点から眩いばかりの熱量が溢れ出し、アイフィールド内に留まれなかったプラズマが、両機の装甲を眩く照らす。

 

(……割りに合わない)

 

背中に冷や汗が垂れる。押しつぶされそうになる機体をどうにか、制御しつつ彼はこの事を後悔していた。

何故こんなギリギリの戦闘をしているのか、入社してしばらく経った後に遡る。

 

 

 

「いやぁ順調ですなぁ」

 

満開の笑顔で、開口一番に言ってきたのはこのアナハイム・エレクトロニクスのジオンモビルスーツ解陣班第一研究班の主任からだった。ちなみに、ジオニック社の引き抜きの人材で、その時からの知り合いでもある。

 

「まぁ、君たちが作ってたモビルスーツ群だからね」

 

そんな主任の様子にユーセルは、やれやれ、というふうに力なく笑った。入社してからここ数ヶ月は、月のフォンブラウンで買収できたモビルスーツの性能テスト、又解析を行っていた。解析といってもこの研究陣は元ジオニック社の社員が大半を占めており、一から情報を収集するというよりも、元から分かっている事を、データに落とし込むという作業ばかりだ。簡単な部類に入る仕事だ。上からの指示も今月までにザクFの解析をしろ。今度はグフ。ドム。といった具合である。わからないことは郊外にある演習場で動かして、データを収集する程度。

 

「今日も早く上がれそうだな」

 

「そうですね。……今夜行きますか?」

 

「……たまにならいいか」

 

「お、そうこなくちゃ!」

 

主任が、右手でクイッと盃を飲みほす動作をする。うーむ。結構誘われているが、同居人の存在もあるので、毎回断っている。壁に掛けてある時計に目を向けると就業時間は過ぎていたが、いつもよりかはだいぶ早い。一軒行って帰ったら遅くなり過ぎないだろう。偶にはこういう付き合いも大切だろう。

 

「他も行くか?」

 

「いいっすねぇ。行きますかぁ」

 

他の同じ班の奴にも声を掛ける。数人はちらほらは賛同し、行く流れの様だ。先程まで立ち上げていた仕事用の端末を落とし、主任や同僚に連れられて、オフィスから出る。

 

「おっとすいません」

 

「……ちっ。金食い虫が」

 

同僚達とたわいもない話をしながら社内の通路を歩いていると、通行人にぶつかり掛けた。一言謝り、道を譲る。通行人は30代くらいの男で、アナハイムの制服を着ていた。うちの部署では見ない顔なので、よそのところだろう。男は吐き捨てる様に言い、そのまま通路を曲がっていった。

 

「なんだありゃ。がら悪いな」

 

「連邦シンパの奴ですよ。会社が元ジオニックの俺たちのことを良く思ってないんです。アナハイムに直接文句も言えない。小心者の集まりですよ」

 

「……俺たちだって好きでこっちに移籍したわけじゃ無いんだがな。移籍しなきゃ。何かしらの制裁を受けるとなれば、選択肢なんてなかった」

 

噛み締める様に呟いて、俯く主任。主任は既婚者でお子さんも居たはずだ。家族を養うためには仕方がない選択肢ではあったのだろう。タガが外れた様に次々と文句が出てくる。

 

「それなのに文句言われてもって感じっすよ。噂じゃ連邦産の機体こそが至高で、それ以外はゴミだってね」

 

「なんだそりゃ?戦線のデータ見てねぇのか?大局では負けたが、戦闘では明らかにこっちの方が優ってる」

 

「おいやめろ。社の中だぞ。聞かれたらどうする。愚痴は店の中で聞く」

 

「かまいやしません。なんだって_

 

「やめろといった」

 

主任は、なお愚痴を吐こうとした部下を睨みつける。

 

「すいません……」

 

「分かればいい。……さぁ行こうか!」

 

主任はわざとらしいほど朗らかな声で、そう告げた。

 

「……」

 

俺は先ほどのやり取りよりも、すれ違った男のことを考えていた。

たしかに元々アナハイムは、()()()連邦軍の下請け企業だった。いきなりジオニックの余所者を受け入れ難いのだろう。

(まぁ時間が解決してくれるだろう)

その時の俺は楽観的に、考えていた。もしかしたらこの時引き止めて話し合っていれば、この時の亀裂はまだ治ったのかもしれない。いや、もう遅かったのか。それはifの話で誰にもわかりはしないのだろう。

 

 

 

 

数日後

 

「模擬戦?ですか……」

 

「実戦データ収集のためだ。機体と技術を手に入れたといっても、我々には実際の運用には関わらない。実戦に近い状況でテストするのも大切だろう」

 

いつものように、機体の詳細情報をフロッピーディスクに入力する作業をしていた俺たち。開口一番、オサリバン常務が言い放った。

 

「はぁそれは構いませんが、機体は?パイロットは誰です?」

 

「機体はこれだ。パイロットは君たちのうちの誰かだ。ジオン系のモビルスーツを動かせる者がいないのでね」

 

「んな馬鹿な、それに機体ってこれ」

 

主任がオサリバンから、タブレット型端末を受け取る。そこに表示されていたのはMS-06F ザク II MASS PRODUCT TYPE とあった。ザクF型ジオン軍で多く使われたF型の初期生産品らしかった。単純にザク、あるいはザクIIと言った場合は本機を指すことが多い。問題は次のファイルだった。

 

「RGM-79Cって、ジム改!連邦の最新鋭じゃないですか!これで戦ったら100%こちらの負けですよ」

 

「別に勝ち負けにこだわる必要は無い。ただの実戦データの確認が主な仕事だ。何も問題なかろう?」

 

型式番号。RGM-79C ジム改。ジム系MSの規格が乱立していたことから開発された機体。ただのジムの改良機と侮ってはいけない。一年戦争末期のU.C.0079年11月から日の目を診。その後、U.C.0083年には地球連邦軍の主力MSとして運用され、ジムIIの登場まで主力機を務めた

 

「それはそうかもしれませんが……。本当にただの模擬戦なのですか?」

 

「ごちゃごちゃうるさいぞ。ジオン野郎。ただの模擬戦だ。大人しく出すんだな」

 

こんな不利な条件で、やってられるか。言外にそう言う雰囲気を纏わせた主任がオサリバンに抗議する。それを遮り、今まで控えていた取り巻きが身を乗り出す。

 

「これは業務命令だ。大人しく従うんだな。それに?お前らジオンの機体が連邦より優ってるって言ってたよな?ならそれを証明できるいい機会じゃねぇか。どっちちが勝ってるか白黒つけようや」

 

「……問題はパイロットだ」

 

ニヤニヤと口元を歪ませながら、男は言い放った。どうやら前会社で話していたことを聞かれていたらしい。主任が言ったわけでは無いが、部下が言ったことだ。勝ち目がないと考えたのか、バツの悪そうな顔をして、論点を逸らしにかかる。うまい手だと思った。確かに技術者という面子は、言っちゃ悪いが筋肉ムキムキのやつは少ない。ダカールで、砂漠の無いところを探すようなもんだ。事実うちの解析班にはそんな奴はいな_____

 

「パイロット?いるじゃないかそこに。ガタイが良いのが」

 

「……ん?」

 

男から人差し指を指す。見落として、居ただろうか?確かにいないは言い過ぎたな。この中で比較的身長がある奴を見る。そいつも不思議なことにこちらを見ていた。?周りを見渡す。さらに不思議なことに解析班全員と目が合う。

 

「俺かよ……一応技術者なんですけど」

 

「他に誰がいるってんだ」

 

いやいるだろ。本属のパイロット連れてこいや。

そんな言葉がギリギリ口から出かけたが、キツく口を結ぶことで我慢する。そんな様子を見た常務は……おっ。渋い顔している。これは中止の流れになりそう_____

 

「いいんじゃないか。自分で弄っている機体だから少しは動かせるだろう。データ収集だ。ベテランが乗った方がいいというのでもあるまい」

 

 

_____なんか戦うことになった。

 

 

 

「ルールは1対1。バズーカの使用はなし。一撃で勝負がついたらデータ収集にならんからな。それ以外なら自身の機体に付いている兵装ならなんでも良い」

 

アナハイム社のシュミレーター室。50メートルほど開けた空間にクレーンのような機械が数機備えつけられていた。クレーンの先が球体になっておりそこにパイロットが乗って操縦できる。関節部分が稼働することによって、搭乗部をふりまわす。それによって擬似的なGも発生させられるらしい。

 

「バズーカ無しか、そりゃきつい」

 

『おう。いいぜ』

 

早くこちらとは対照的に、ジム改のパイロットは、余裕ありげに淡々としたものだった。お互いに一撃必殺で撃破できるようになったら、ギャンブル性が高い。バズーカ抜きとなると、お互いマシンガンしかない。あとは純粋な機体性能の差だとでも思っているのだろう。

 

「……舐めてもらっては困るなぁ」

 

「なんだって?」

 

「いやなんでもない」

 

搭乗部にいる二人から見下せる場所にいる、他のアナハイム社の人だかりが、2つある。ザクサイドとジムサイドだろう。ジム側の人間にこの話の言い出しっぺのやつがいた。ニヤニヤとこちらを見下ろしている。

 

……いや、お前が戦うんやないんかい。

 

こちらは一応技術者枠で来てるのに、あちらは恐らく正規の軍属経験者だろう。そんなに恨みを買ったのだろうか?

 

「まぁ。勝てば良い話だ」

 

ぽつりと呟き、ザクを再現しているコクピット部に乗り込む。

 

「すぅ……よし。やるか」

 

乗り込むと、まず驚いた。ほとんどザクF型のコクピットが再現されている。薄暗い機内に、モニターのやかましいほど眩しい光が照らす。機体の司令塔にあたる電子機器に、指令を送り機体を立ち上げる。

高鳴るエンジン音。

駆動系の力強く軋む音。

 

「すごいな。ゲームみたいなモンだと思っていたが、ここまで再現されてるとは。まるで実機に乗ってるみたいだ。」

 

『すごいもんだろう?これがアナハイムの技術力だ』

 

髭面のハゲ。……我らの常務オサリバンから通信が入る。その顔はニヤニヤとおもちゃを自慢する子供のようだ。相当嬉しそう。足の小指ぶつけて苦しめばいいのに。

くそ不利な条件での、模擬戦の恨み忘れんからな。

 

『ゆくゆくは連邦軍にも普及したいと思っているが、どうにもジオン系の機体やジムの規格に合わせるとなると、コストがかかってねぇ。いい手段があるといいんだが』

 

「……噂の全天周囲モニターを導入されたザクを、作られた時にでも作成すれば一つの資材でいけるとおもいますねぇ」

 

『なんか言ったか?』

 

「いえ。ザクのコクピットそのまま移行したものですからね。最新のものと比べると雑が多いです。そこら辺も要改善ですね」

 

『……分かった伝えておく』

 

「お願いします」

 

『まだかよ。まちくたびれちまう』

 

ジム改のパイロットも準備ができたのだろう。うんざりとした声が割り込んでくる。

 

『よし、それでは開始だ。用意はいいかな?』

 

「いつでも」

 

『こっちも準備良しだ』

 

お互いに報告。オサリバンは頷くと開始を宣言する。

 

『状況開始』

 

 




wiki参照


量産型ザクII (F型)
ZAKU II MASS PRODUCT TYPE
型式番号
MS-06F
全高
17.5m
本体重量
56.2t
全備重量
73.3t
装甲材質
超硬スチール合金
出力
976kW
推力
43,300kg

ジム改
GM TYPE C
型式番号
RGM-79C
所属
地球連邦軍
生産形態
量産機
全高
18.0m[6]
本体重量
41.2t[6]
全備重量
58.8t[6]
装甲材質
チタン・セラミック複合材
出力
1,250kW[6]
推力
12,500kg×4[6]
1,870kg×4[6]
総推力:57,480kg


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