とある中佐の悪あがき   作:銀峰

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思ったより月人気ありそうで困る(照
原作キャラアンチあり。飛ばす人は飛ばしてください


月面での潜伏
アナハイム入社


 

「おひさしぶりです!ユーセル中佐!」

 

「おお!ジオニックの主任!おひさしぶりです」

 

月のフォンブラウン、アナハイム・エレクトロニクス社の会議室にユーセルは来ていた。ジオニックの社員だった物も50人程が集まっていた。今日アナハイムから招集があり、集まっているのだ。

 

「まさかまた会えるとは。先日のア・バオア・クーでは激しい戦闘だったと聞いていたのですがね」

 

「残念ながら生きている。幸運だったよ。……あと、中佐は辞めてくれ。今はただのアナハイムの社員だ」

 

「……はぁ。どうして急に?そもそもアナハイムは最近の株価上昇で結構、入社倍率も高いはずでは?良く入れましたな」

 

訝しげな顔をして、こちらをみてくる主任。主任の疑問も尤もだ。最近まで軍人だった奴が、いきなり技術者として、自分と同時にアナハイムに入社するとは思いもしていなかっただろう。

 

「軍人を失業して老後が心配になってね。ジオニックに入社したんだよ。アナハイムに吸収される3日前にね」

 

「!?良くそんなこと出来ましたな。……まぁ良いでしょう。天下のアナハイム社だ。そう悪い扱いを受けるものでも無いでしょうしね」

 

片目を瞑り、愛嬌たっぷりにウインクしてみせる。ユーセルにとって茶目っけのつもりだったのだが、どうも不評だった様だ。主任は乾いた笑いを浮かべて、受け入れた。どうやら詮索しても無駄だと思われたらしい。ユーセルはそれはそれで助かるので、特に突っ込みはしなかった。

 

「そう言えば数が少ないな。前見た時はもっと多かった気がするが?」

 

「ここにいるのは移籍を断れなかった者たちです。他は連絡がつきません。どこで何をしているのやら……」

 

「そうか……」

 

周りと見渡す。前開発室にいた面子が大半だが、もっと数がいたはずだ。今この会議室には暗い顔をしている者。あとは、既婚者とかか?様々な奴らがいる。全体の絶対数は少ないが。

ジオニック社はアナハイム・エレクトロニクス社に吸収され、ジオニックの社員は強制的に移籍させられた。もし断ったとしても敵国のモビルスーツ開発陣だ。自由にこれまでの生活を送れるはずもないし、何かしらの監視か。連邦軍から最悪何かしらの刑をでっち上げられて捕まるだろう。おかげさまで途中入社として、試験もなしに入れたので、こちらとしては好都合である。

 

「まぁ。これだけいれば形にはなるだろう。おいおい考えればいい。これからよろしく頼む。ユーセルさんとでも呼んでくれ」

 

「あぁ。ユーセルさん。これからよろしく」

 

「よろしく頼む」

 

二人で握手を交わす。前途多難そうだが、やれなくはないだろう。これからのことに想いを馳せながら次を待つ。

主任以外の人員ともぽつぽつ話していると、こつり、こつりとブーツを打ち鳴らす音が扉の外から聞こえてきた。

皆私語を辞めて、部屋の中が静まり返る。

ブーツの主は、ジオニックの社員たちの前に回った。

鋭い切れ長の三白眼。まず印象に残ったその眼光とは裏腹にほおは膨らみ、ベルトから贅肉がはみ出している。背は低い。肥え太らせた豚に冷徹な知性を与えたらこの様な感じになるのではないだろうか。

 

「アナハイム・エレクトロニクスへようこそ。フォン・ブラウン支店のオサリバン常務だ。君たちの上司で、不安なことは有るだろうが安心して欲しい。これからの生活はアナハイムが保証しよう」

 

優しそうな声だった。声だけ聴くと良い上司といった様子だが、その眼光は、こちらを値踏みする様だ。嫌な目だ。ユーセルは思った。

 

 

 

 

 

 

オサリバンとの顔合わせを終え、事後の行動や月間予定行動など社のルールその他を指示され、その日は解散になった。初日ということで早めに切りあげ、明日からの仕事に集中してもらいたいとの事だ。今回のジオニック社の吸収で得たモビルスーツや技術をアナハイムで解明、動作点検等するのが主な仕事らしい。

アナハイム社はハービック社やボウワ社、ブラッシュ社など両軍の主要兵器企業を次々に買収し、地球圏の兵器開発・製造業をほぼ独占するそうだ。

リバモア工場など、多数の工場を保有したうえ、宇宙世紀0080年代にはラビアンローズという研究開発施設兼自走ドック艦を建造するとの話も聞いた。この初日ののんびりさは、アナハイムも吸収した企業を、情報として整理したいというのもあるだろう。だがまぁ。休みは休みだ。満喫させてもらおう。

 

 

「さて、何をするか」

 

特に用事も無かった為アナハイム・ビルのゲートを社員証をかざして、門番のにいちゃんに挨拶して通る。

突如降って沸いたちょっとの休暇だ。フォンブラウン郊外の近くの借家に帰ってもいいが……

クーディの顔が浮かぶ。彼女とは月に潜伏するといった時に、艦に残るか聞いたのだが、

 

(ユーさんが行くなら私も行くよ。……約束忘れたの?そんな長い間放置する気?)

 

と、袖を掴まれながら睨みつけられた。月といえばキシリア麾下の部隊がいたところだ。ニュータイプ機関の奴らに目をつけられたらと考えて提案したのだが、間違えてしまったらしい。艦橋の奴らも、やれやれと言わんばかりの様子で首を振っているだけだった。

 

(連れてってあげましょうよ。こちらは司令の作戦計画の通りに進めておきますから)

 

(むしろ司令が居てする事あんまり無いですよ。必要になったら呼びますから)

 

副司令とオペ子から、ぼやくように吐き捨てられた。お前らなぁ……

一応上官では無いが、茨の園にお邪魔させてもらってる都合、デラーズ閣下に相談はした。クーディのことではなく、俺が艦隊を離れて月に向かうことをである。

 

(むう。月のフォンブラウンに?まぁいいだろう。ここ数年は雌伏の時。茨の園もこれだけの規模いれば構築できる。モビルスーツ製造できる様になるまで暫しかかる。戦士にも休息は必要だろう)

 

との事だった。ちなみにアナハイムに入るとは言ってない。どこの世界に30隻はいる艦隊の司令がアナハイムの一社員として行動するというのか。将来的にコネクションを結べればいいな程度だ。金はあるが、モビルスーツのパーツはどこにでも売っているわけではない。アナハイムに頼るぐらいしか入手方法はないだろう。

大体、金さえ有ればモビルスーツ売ってくれるところは他にはない。逆にいうと、対価さえ払えれば売ってくれる。その事実が、正規軍ではなくなってしまった我々には、ありがたいことだった。

 

「ガトーのとこにでも行くか」

 

会社に行くといってすぐ帰ってくると言うのは、まるでリストラされた親父の様でなんとなく気が引けた。

彼はそんなことを考えているが、ちなみに別にクーディは気にはしない。むしろ両手を上げて、喜ぶ事だろう。

 

「さて次のバスは」

 

社から近くのバス停までここから10分は掛かる。折角の自由時間だ。遊ばせてもらおう。

そう決め、口笛を緩く吹きながらバス停へと向かった。

 

 

 

 

 

「ガトー!よう。元気か?」

 

「ちゅ……ユーセルさん」

 

ガトーが、瓦礫の中から顔をだす。どうやら廃棄されたザクの腕を修理している様だ。ザクといっても手の平部分しか無いが。

ガトーは、長髪の白髪に鋭い眼光をしていた。戦場から離れてしばらく立つはずだが、四肢は緩むどころか更に鍛えられているのがわかる。

薄汚れた作業服を着ていたが、軍服を着ている姿を見慣れているせいでどうにもしっくりこない。他所から見ても一目でジャンク屋の親父には見えない。

 

「よう。遊びにきたぞ。しかし似合ってないな。その()()()やっぱり軍服の方が似合ってるよ。あんたは」

 

「私もそう思います。しかし今は雌伏の時。こういう作業もしなければなりますまい」

 

ガトーは小さく鼻を鳴らすと、憮然として黙り込んだ。

 

「まるで、ジャンク屋が悪いかの様な言い様だな。ガトー」

 

「レズナー大尉」

 

黙り込んでしまったガトーの奥。同じく作業服を着た男が顔の汗を肩にかけた手ぬぐいで拭いながらでてきた。ケリー・レズナー大尉。元ジオン公国軍宇宙攻撃軍所属のモビルスーツパイロットで、左腕を失っており、この負傷が原因でモビルスーツの搭乗資格を剥奪されたらしい。

 

「ケリー。いやジャンク屋を虚仮にしたわけではない。ただふと考えてしまうのだ。私の戦場はここではない。戦友と肩を並べ。悪しき連邦の体制を解き、我々の正義の剣によって。それが我が使命。全てはデラーズ閣下の大義の為。この命いつでも捨てれる覚悟だ」

 

ガトーはそう唸る様に吐き捨て、空を見上げる。その瞳は現状への不満。行き場のない想いを溢れさない様に自らを縛っている様だった。

「……ガトー」一言噛み締めるようにケリー・レズナーはガトーを見つめる。

その目は何を思うのか、彼の今はなき左腕のことか、それともその心の中で燻る熱い魂の叫びか、それはケリー・レズナー本人にしか分かりはしないだろう。

 

「……いや。硬いわ」

 

そんな二人を見て、俺は苛立っていた。他所から見ていたら、カッコいいなこいつらで終わっていたのだろうが、何故かその時は引っかかってしまった。

どいつもこいつも、死に急ぐ様なことばかり。とあるモビルアーマーの姿が、フラッシュバックする。それは半身が焼け焦げ、巡洋艦にめり込む様に突撃。巡洋艦と共に爆発する。そして鳥の様な紋章を掲げた組織の出現。

策は、なかなかのものだったと思うが、問題はそれを監視、修正できる組織の消滅だ。中途半端に敵対組織が消滅したせいで、スペースノイドにその矢先が向いてしまった。

 

「……今なんと?我が大義を愚弄するものは許さん。いくら上官であろうともです。撤回してもらいたい」

 

「いや!言わせてもらう。簡単に命を捨てるなんて考えは捨てろ。スペースノイドの剣なんだろう?一回で折れる刀になんの価値がある」

 

「…… 頑陋至愚。それだけでしょうか?それに我々は仕事中でありますので御引き取り願いたい」

 

「仕事ってのはさっきショート操縦系の回線の事か?」

 

「……むっ」

 

先程までガトーがいた位置に箱型のコンデンサーが落ちていた。よく見ると相当弄ったのか配置はバラバラ。固定するべき所が切れており宙ぶらりんな状態になっていた。ジャンクだからとかじゃなく、傍に工具が散らばっていて、固定部分もまだ暖かい。自分で直そうとしたのだろう。

 

「へたっぴぃか。貸してみろ。関節部のここにはめ込むやつか。……後は、n56とy80のここが悪いっぽいな」

 

工具箱を借用。修正されている所を片っ端から解体し、こてでくっつけていく。一手間では行かなそうだが、パーツ交換と回線を繋げ直すだけでいけそうだ。しばらく作業する事1時間以上は弄っただろうか?

 

「これでよし」

 

人間で言う動脈の部分に、電源ケーブルを接続して信号を送ってやる。

すると、人差し指の部分が折り曲げられて完全に閉じられた。

まぁこんな短時間じゃ人差し指が限界だな。

 

「大したもんだ。並のジャンク屋なら他の部位と見比べながら結構な時間がかかるものだが……」

 

ケリーが感心した様に、ザクの手のひらをしみじみと見つめる。ガトーはそれがなんだと言わんばかりの表情でこちらを見ていた。まぁ。これだけじゃ自分の技術を見せびらかしたやつだな。

 

「ガトー。俺らは戦うだけの剣じゃない。人間だ。こうして直して人々の役に立つこともできる。デラーズ閣下が月に我々を潜伏させているのは、錬成させる為じゃ無い。少しは止まって視野を広げる事を覚えろと言っているんだろう」

 

「デラーズ閣下が……?」

 

もちろんだ。多分。でもおそらくこう言わないとあまり考えは変わらないだろう。デラーズを心酔しているからな。前から思っていた事だ。どうしてコロニーを落とした後は知らんぷりなのか、テロでは何も変わらない。革命を起こしてその後の統治まで面倒みてからの世界だ。事実デラーズ紛争の後はティターンズの台頭を許してしまった。

 

「スペースノイドに夢を見せたのは、我々軍人だ。ならその責任は我々軍人が取らねばならない。この戦争は100年は続くぞ。ただの一矢では終わってはいけないんだ」

 

「……一矢では終わらない、か。考えておきます」

 

さっきまでの勢いは消えて、考え込むガトー。どうやら多少思う所があったらしい。

 

「まったく。いつ殴り合うのかとヒヤヒヤしたぞ。中佐。ガトー」

 

「レズナー大尉」

 

ガトーとの話をしている間、ずっと蚊帳の外だった、ケリーが顔を顰めて話しかけてくる。作業着の上にジャケットを羽織っている。どうやら作業中に取ってきていたらしい。更にガトーにジャケットを無造作に押しつけて告げる。

 

「ケリーでいいです。中佐。……そうだ。もう今日の仕事はこのザクのパーツを治すことだけでしてね!仕事終わりなんだ!良ければ飲みに付き合って頂けないでしょうか?」

 

「……いいのか?」

 

空を見てみると薄暗くなろうとしていた。相当話し込んでいたらしい。

帰ってもいい時間帯だが……

 

「もちろん!ガトーもくるだろう?」

 

「……」

 

そうガトーに問いかける。が、ガトーは表情が押し殺されたようで、読み取ることはできない。

うーん。気まずい。

 

「ちなみに中佐のオゴリだ」

 

「……なら行くとするか。まだ話したいこともあるしな」

 

「決まりだな」

 

ケリーはにっ、と軽快な笑みを浮かべた。彼なりに場を和まそうとしてのことだったのだろう。顔に似合わず気遣いができる男である。ケリーの気遣いに感謝しつつ3人で街に降りることにした。

問題は、いつのまにか俺の奢りになっている事だが……まぁ発端は自分だ。ここは払うとしよう。

 

「フォンブラウンの飲み方ってやつをお教えしますよ」

 

「ほう?それは楽しみだ」

 

「ケリー。お前最近気になっている女いるとか言ってなかったか?」

 

「ばかいえ。ラトーラとはまだそんなんじゃない」

 

ケリーの表面の強気の膜が割れて、戸惑いが透けて見えた。ガトーは反撃開始と言わんばかりに口角を上げて喋る。ラトーラとはもう会ってはいるらしい。そこらへん気になるな。時間はまだある。そこらへんはゆっくりと聞けばいいだろう。そうだ。ガトーにもそこら辺聞いてみよう。今後の事を考えて高揚する気分を抑えつつ、3人は夜の街に入っていった。

 


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