とある中佐の悪あがき   作:銀峰

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ジオン公国から共和国に?おいおい滅んだわあいつ

「やった!」

 

これであとは逃げるだけ!急降下する機体の中彼女は暴れる機体をどうにか制御していた。

ビル群の死角に足を下ろす。スラスターを吹かし、斜め前のビルに着地。さらに前へ。脱出ポイントまでの距離を詰める。

 

「追わないでくれるといいのだけど……」

 

高速離脱中の機体から後方を確認する。どうやらこれ以上追手は来ないようだ。

安堵のため息を吐く。時間は稼いだ。後は離脱するだけ操縦桿を握りしめて、思い切り足元のフットペダルを踏み込む。

 

「どうやら。今回も勝ちみたいだね。ユーさん!」

 

 

 

 

 

 

 

「アデル!モンシア!生きているな!」

 

サウス、バニング中尉は自分の小隊を確認する。手ひどくやられた。

損害を確認する。屈指の激戦であるソロモン攻略戦やア・バオア・クー攻略戦の中においても、1人の戦死者も出さずに終戦まで戦い抜いたことに由来する。この不死身の第四小隊が…

酷い有り様だ。モンシアのやつは……無事だな。胴体部以外の損傷が酷いが、重要な部分は守り通している。本人も別状は無さそうだ。

モンシアをアデルの方に救援に行かせる。逆にアデルのやつは生死不明だ。一番損傷が大きい。弾薬と燃料が詰まったバックパックに、直撃をもらってしまった。無事だといいが…

 

「ここら辺が潮時か、ベイト。アデル、モンシアを連れて離脱だ。急げ!」

 

「バニング中尉!しかし敵は一機で連戦に次ぐ連戦。弾薬も尽きているはず!今追撃すればやれます!」

 

「先程メインのドッキングベイから、出入り不可能との連絡が来た」

 

「…?増援がないというのは承知しました。ですが敵の弾はない。機体性能がジムとは比べ物にならない!あの機体が敵の手にそのまま渡れば…」

 

「ベイト!頭を冷やせ!…あの敵はどこからきたのか、そしてどこへ逃げたのか。あの機体は高性能だが、単独では長距離を移動はできない。回収隊がいる。追撃を仕掛けて、その先には待ち伏せ隊がいる。俺の感がそう言っている」

 

「…くっ。このままやられっぱなしか!」

 

バンッと何かを叩く音が聞こえる。ベイトがモニターを殴った音だ。

 

「…悔しいのは俺も同じだ。この件は上に挙げておく。敵の新型モビルスーツ性能差。それでコーエン将軍の方にも伝わるだろう。俺たちの任務はここまでだ。モンシアとベイトを回収して離脱する」

 

「…了解」

 

不服そうなベイトを連れ、モンシアとアデルの回収に向かう。満身創痍のバニング隊、とは別に追撃を仕掛ける部隊もいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ホテルコントロール。ホテルコントロールこちら、ウィスキー1。ウィスキー1。ジム3機がガルバルディの後方5000を追尾中。攻撃許可求む」

 

『ウィスキー1こちらホテルコントロール。こちらでも確認した。ポイントにつき次第攻撃を開始せよ』

 

「ウィスキー1了解」

 

ユーセル中佐麾下の機体3機が、敵の接近経路上に待ち伏せをしている。ウィスキー1が隊長機、それ以降が2と3らしい。

三機それぞれのポイントを通過した際にいつでも攻撃できる体制だ。

 

「ウィスキー小隊各機。攻撃開始」

 

『ウィスキー2了解』

 

『ウィスキー3了解』

 

待ち伏せ側攻撃開始線をジムが気づかず超えた時、三機は一斉にそれぞれの火器で襲いかかる。

離脱してきたガルバルディの追撃隊三機の内の一機。隊の後方を前進してきたジムをサーベルで後ろから貫く。

引き抜き、距離を取る。と、同時に爆発。スペースデブリを明るく照らす。

慌てて他の二機も気づくが、遅い。ウィスキー2とウィスキー3がそれぞれビームバズーカで応戦。

 

『貰いだ』

 

二機が放った弾は、対応できていないジム2機に吸い込まれるように命中。誘爆。撃破。

残るのは味方のドム2機と、物言わぬジムの残骸のみ。

 

「ホテルコントロール。敵は撃破した、追敵もない。ジュリエット1…ガルバルディを回収して帰投する」

 

『ホテルコントロール了解』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「不死身の第四小隊は追撃にこなかったか……」

 

ティべ級の艦橋に立ちながらこの艦隊の司令ユーセル中佐はつぶやく。

眼下には、帰投するドム3機が映る。

彼らの報告には撃破したのは通常のジムばかりで、改良型のジム改はいなかったそうだ。

未来の原作開始のことを考えると、アルビオン隊の戦力を削っておきたかったが……

それに……

 

「コーエン将軍を逃したのは大きかったなぁ」

 

彼を逃したおかげで、ガンダム開発計画は続行。(今から実行されるかは分からないが)ガルバルディの性能、あの一瞬で機体の後ろを取れる。性能の鱗片を敵も感じたはずだ。この技術差、連邦はこれを埋めるために必死になるだろう。

 

「まぁ、その差は元々敵は知っていた。こちらもガルバルディの性能を知れただけでもよしとしよう」

 

まぁどうしようも無いことはどうしようも無い。頭の片隅に入れておく程度でいいだろう。

そんなことを考えていると、ブリッヂに繋がる扉が開き、今回の小隊長が鞄状の端末を持ってきた。

 

「……問題はこれだな」

 

「中佐。これが手に入りましたデータになります。全部とはいきませんでしたが、8割ほどの情報は抜き取れました。」

 

「わかった。ご苦労。下がって今回作戦に参加したものは休め」

 

「了解しました」

 

小隊長を下がらせて、受け取った分厚い端末を受け取る。ずしりと重い感覚が持った瞬間伝わる。どうも軍隊の物品は頑丈さを求めて大きくなるのがいけない。オペレーターに渡しデータを表示させる。

 

「すごいな」

 

オペ子に奪ったデータを表示させた瞬間、膨大なモビルスーツのデータ及びモビルアーマーの情報が濁流の如く表示される。

それこそザク1からガルバルディまで

 

「はい、司令これほどの情報があれば、一からモビルスーツを作れるぐらいです。それこそジオン再興も夢じゃありませんね!」

 

オペ子が興奮したように、こちらに話しかけてくる。たしかにこのデータがあればいくらでも作れる。まぁ問題は……

 

「そうなんだけど…問題は金がなぁ」

 

「あぁ……実質無一文ですもんね私たち。こんだけ設計図があってもこんな高価な物大量に製造できないですよねぇ」

 

問題は金と資材である。茨の園ができたのなら資材はなんとかなりそうだけど、デラーズ閣下に甘えるのもちょっと、って感じだ。あちらも規模は大きいが、更に我が艦隊規模を加えてモビルスーツ製造は厳しいのではなかろうか?原作ではドラッツェとか製造していたからいけそうではあるが……でもあれも完全新規の機体ってわけではなくて、胴体はザクのパーツを使い、脚部にはガトルのスラスターを付けた簡易MSで、哨戒程度しか出来ない。直線加速はなかなかのものだが、そんなに使い勝手いいわけでは無い。宇宙でしか使えないしな。

 

「はぁ…どこかに金塊でも落ちてて、簡単にモビルスーツ作らせてくれるとか無いかなぁ」

 

「司令。疲れすぎですよそんな都合のいいとこあるわけじゃ無いじゃ無いですか、ジオニック社もツィマット社も金がないと、作ってくれないですよ、流石に」

 

「そうだよなぁ。そもそもその会社ももうそろ連邦に吸収される運命だろうしなぁ」

 

ジオニック社とジオニック社はジオン公国、お抱えの軍需産業の会社でそれぞれザクとかドムとかを製造している会社だ。それぞれライバル関係で、モビルスーツの開発でやり合っている仲だ。

ジオンのモビルスーツの大体の製造はこの2社が手がけている。

ため息をつく。うまくいかないもんだなぁ。これだけのデータがありながら、何もできない。

 

「ん?吸収される?まだされてませんよ?あの2社は軍需会社ですけど軍と同じ扱いじゃないです。軍なら戦犯で問答無用で戦犯ですけど、その会社はあくまで、国に所有されている会社で、強制押収はできません。接収というより売却という形で連邦傘下になるでしょうしね」

 

「いまはまだジオン公国の傘下だし、お願いしたら作ってくれないかなぁ」

 

「無理でしょうね。ア・バオア・クー戦の後で、ジオン公国の不利な状態です。しかも我々の海賊騒ぎや今回の騒ぎで、不安定な土台が崩れかかってるんです。これ以上継戦の疑いが掛かるようなことは避けなければいけないでしょうね」

 

「……うっせ。いってみただけだよ」

 

「……やけにならないでくださいよ。ただでさえジオン本国が解体されて、共和国になろうとしている動きがあるんです。そんなんじゃ艦隊に動揺が広まってしまいます」

 

「……なに?初耳だぞ」

 

「今日の日刊です。出撃部隊にお願いしておきました」

 

「……抜かりないなお前」

 

えっへん、とでも聞こえそうなポーズで胸を張るオペ子。なかなかやるなお前。受け取った新聞を受け取り、広げる。

見出しはと、

 

「ジオン共和国としての新たなる一歩!連邦政府との休戦。宇宙世紀0080年1月1日、グラナダにて終戦協定、か」

 

新聞で見ると、負けを自覚してしまうな。ジオン公国軍人としては残り数週間か。この記事を見るだけで、いろいろな思い出が蘇る。今まで戦い抜いてきた記憶。艦隊も大きくなった。俺は、戦うことを決意した。だが部下達はどうか?これを見せたら離反していくものも出るだろう。

とはいえ伝えないわけにもいかない。

 

「これを艦のみんなに伝えますか?」

 

「……あぁ、わかってるよ。国は降伏した。艦を降りるものは民間人になる。被害を受けるのは軍人だけで十分だ」

 

「……司令」

 

静けかえる艦橋、空気が重くなった気がする。そう、心配そうな顔で見るなよ。騙し騙しやってきたが、ここが潮時かも知れない。まだまだ戦闘を続けるだけの力は残っているが、今がピークで、これ以降は下がっていくばかりで回復の見込みはない。補給も断たれ、国も負け公国から共和国になり、連邦に降伏した。モビルスーツのデータというなんとかできるかも知れないという希望を見せられた後で、この事実は、くる、ものがある。

 

「ユーさん。ただいま!」

 

その中ブリッヂの扉が開き、一人の少女が入ってくる。

クーディだ。帰還して、医務室の検査が終わり、艦橋に登ってきたようだ。

 

「クーディ!無事でよかった!怪我ないか?」

 

先程のことはとりあえず脇に置き、今は彼女の帰還を喜ぶ。彼女には無理をさせた。

帰還した彼女の元に駆け寄り、その小さな身体を抱き止める。

 

「よしよしどうどう。ほーら大丈夫だよ」

 

「ごめんな。無理させて。怪我なかったか?」

 

「全然!むしろ役に立てて嬉しいよ」

 

彼女は、ゲガをしてないというように体をくるりと回し、ニパーと笑った。

彼女の体を上から下に観察する。

ほっ、安堵の息をつく。とりあえずどこも怪我をしたりしてはいなそうだ。

 

「……そんなに見つめられると恥ずかしいんだけど」

 

ずっと眺めすぎだようだ。顔を赤くしてそっぽをむかれた。

慌てて謝る。

 

「悪い」

 

「……別に構わないよ」

 

そら好きでもないやつに、ジロジロ見られるのも気分が悪いだろう。

少し気まず気持ちになったが、彼女はモニターに展開しているデータに気付いたようだ。

 

「うわー。すごいものだね。これだけのデータが有ればモビルスーツ作り放題じゃないの?」

 

「それがそうでもないんだよ。データだけじゃ資源がないと」

 

「へぇーでもお金があれば作れるんでしょ?前ユーさんに借りたゲームだったら店のおじさんにお金渡すだけで、戦車とか作ってたよ?」

 

「……そりゃゲームだからな」

 

ちなみにそのゲームは昔の第ニ時世界大戦の時の戦争を追体験できるものだ。ちなみに俺は独裁者のいる国を選んでプレイしていた。戦車とか強いし、最初から落下傘部隊を作れるからいいんだよな。かなり重宝していた。

 

「そうなのかい?意味がないの?」

 

「意味がないわけじゃないけどなぁ、そら金だけ渡して作ってくれるところがあったら助かるけどな……って、ん?」

 

「どうしたんだい?」

 

なんか引っかかる。いるんじゃないのか?金を渡すだけで武器モビルスーツを作ってくれる所が、この時代に。いやもう少し先か。死の武器商人。そんな企業が。どうして忘れてたんだ。今まで申請するだけでモビルスーツが手に入る軍という環境にいたから忘れていた。

 

「オペ子。さっきの新聞貸してくれ」

 

「?はい」

 

「さんきゅ」

 

企業一覧。これであの会社がなかったら終わりだ。いや確実にいるはずだ。

新聞を探し、しばらく経つ。

 

「……ははっいけるかもしれない。金もモビルスーツ製造の環境も一気に手に入る方法!やったぞ!クーディナイスだ!」

 

「えっえっ?そりゃよかった。……ちょっと振り回さないで」

 

テンションが上がり、クーディの両手を掴み、ブンブンと振る。

その拍子に新聞が彼の手から落ちる。

その新聞の夥しい文字の中にはA.Eという文字が踊っていた。

 

 


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