とある中佐の悪あがき   作:銀峰

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覚醒?

「世界征服のために」

 

「バカな。たかだか一師団艦隊規模で何ができる。こちらはまだ数倍の戦力を保有しているのだぞ。もう戦争は終わったのだ!…これ以上の血を流してはいかん…!」

 

「いいえ。コーエン将軍。まだこちらには余力がある」

 

「なにをバカなことを、ジオンの総帥ザビ家は全滅。宇宙のサイド3にもグラナダにも連邦軍が軍を送っている状況だ。完全に敗戦国の末路ではないか」

 

まぁそれはそうだ。この状態でこの時代の敗北者はジオンだ。しかし勝者側の連邦軍も深く傷つき宇宙軍の再編もまだろくに進んでもいない。

 

「数倍の戦力差?絶望的?違うね。たかだか数倍の戦力差だ!無傷のジオン本国と、グラナダを残している。それも含めればどうなるかな?ジオンは負けたが、まだまだ余力があるのだ!だだ頭をやられただけで本当に負けたとは言えないよなぁ?」

 

本来なら俺の艦隊の規模なんて、戦力比率。連邦の艦隊の数パーセントだ。何百倍の戦力差が高々数倍になっている。それでも差があるのはそうだが、ここまで被害を受けているのは大きい。だから戦術レベルの戦いの話で、情勢が変わる。0083はそのような時代なのだ。戦略レベル…例えば、ジムの生産体制の確立とか?国家規模のプロジェクト。にまでいかなくても良いそれが利点だ。

しかも連邦はこんだけボロボロにされた宇宙軍の再建に手間取っている。今後数年は新しい機体を開発する力や新型戦艦を作る力は小さい。

 

…アルビオン?…バーミンガム?なにそれぇ?

 

うるさい。金があるとこにはあるんだよ。

しかもこちらはザビ家の御旗の存在を隠している。今は公開時期ではないのは、確実だが。強いカードは強い場面で切る。今ではない。まぁ言わなくていいことは、無理に言わなくてもいい。

 

「バカな。もう戦争は終わった。国家も解体され、ザビ家という旗頭を失い。南極条約も批准できない。何度でも言う!貴様らは負けたのだ…ただのテロリストだよ…!構わん撃て!」

 

「…バカなことを!クーディMSで護衛を引き離せ!」

 

話し合いで血が昇ったか、出血が激しいコーエン将軍。周りにいた敵護衛小隊がこちらに発砲。撃たれる前に身を隠しておく。

クーディの乗るガルバルディが護衛小隊を排除しようと腕部を近づける。

 

「わかった。ごめんねちょっと痛いかも。…ってうわ」

 

 

 

 

「やらせるかよ!宇宙人ども!」

 

上空から降下してきたジム改が、ガルバルディにむけマシンガンを発砲。咄嗟にガルバルディは回避運動を取り、ビルの影に隠れる。

軍港に配備中の部隊が駆けつけてきたようだ。コーエン将軍を前に喜びすぎたな。時間をかけすぎたらしい。しかもこの声なんか聞いたことあるな。

 

「おいモンシア!何を勝手に撃っている。味方に当てたら、どうするつもりだ!」

 

「ですがね?バニング中尉。どうもそうも言ってられない状況のようで」

 

「これは…確かに言ってられん状況のようだな。しかもあの新型のゲルググか?」

 

カメレオンとIVをモチーフとした部隊章って。

うぉい!不死身の第4小隊!しかもよく見たらジム改じゃねえか。

一年戦争末期に配備された機体。ガルバルディも同時期だが…0083には地球連邦軍の主力MSとして運用され、ジムIIの登場まで主力機を務めた。連邦のなかなか優秀な機体だ。

先頭で撃ってきたのはモンシアのやつか!それにうしろはバニング中尉?まだ大尉じゃないのか。…哨戒部隊のやつがたまたま来たのか、厄介だな。ベイはもう、俺の部下たちがサラミス級を横転させて封鎖している。外はともかく。中には来れない筈だ。ん?不死身の第4小隊ってことは、2機の筈が…

 

「避けろ!クーディ!」

 

 

 

 

 

「避けろ。クーディ!」

 

「!…了解」

 

フットペダルを蹴飛ばし、急いで後方に離脱する。

直後先程まで盾にしていた建物が木っ端微塵に吹き飛ぶ。背中に嫌な汗が流れる。直撃していたら、いくらガルバルディといえど、木っ端微塵になっていた。撃ってきた敵方を確認する。先程の砲撃のあとを見るにどうやら、120ミリキャノン砲の攻撃のようだ。

コンソールを叩き、モニターで遠方を拡大する。離れているがキャノン砲をつけたジム改が一機。その横にジム改、バーズカを持っている。

そして増援の2機にも、カメレオンとIVをモチーフとした部隊章。どうやらこの四機が、将来アルビオン隊の精鋭中の精鋭。不死身の第四小隊…!

 

 

 

 

 

 

 

「どうも中尉は無鉄砲でいけません。あの人に学習の文字は無いんでしょうか」

 

ジム・キャノンのパイロット、チャップ・アデルはそう言ってスコープを覗き込み。砲撃。前方のバニング中尉を援護する。

不死身の第四小隊の一員で、ちなみに言うと既婚者である。

 

「そう言ってやるなよ。アデル。それがあいつのいいところサ。見てて飽きないね」

 

そうアデル機に返すのは、アルファ・A・ベイト。不死身の第四小隊一員で、モンシアとはよくバカやる仲である。原作でも、アルビオンの着艦デッキ壁面の基板に悪戯してコウのコアファイターIIの着艦を妨害し、大事故につながる寸前の事をやったりしていた。

 

「しかしベイト中尉。哨戒任務中にこんな場面に出くわすとは、戦争は終わった筈では?」

 

「そう言うなよ。まだ連中は戦争がしたいのさ。本拠地まで攻められてもまだ負けた気でいねえんだよ。ったく。敵さんの往生際の悪さだけは一丁前だぜ」

 

 

 

 

 

「クーディ!アレは不死身の第4小隊だ!かなりの手練れだぞ!合流予定ポイントまでいけるか!?すぐに離脱しろ!その機体なら離脱できる!」

 

「…?不死身の第四小隊?有名なのかい?じゃあ離脱したいのはやまやまなんだけどねー」

 

下に視線を落とすと、数人固る味方がいる。ガルバルディがここを離れると、彼らは全滅だろう。

 

「…あはは。ちょっと苦しそう。とりあえずユーさんは逃げてよ。戦いにくい」

 

「くっ…ここにいても全滅か。足枷にしかならんとは…」

 

離れたところにアレはベイト中尉?とアデル?という連邦兵らしい。しかしこんなツーマンセル2ペア編成?っていうのかな?ちょっとわからないけどどうにも隙がない。二機でお互いの死角をカバーしあっているようだ。こちらから仕掛けたら十中八九こちらが撃墜されそうだ。ベテランというのは本当みたい。

眼下の彼に目を向けるとどうやら、撤退してくれている模様だ。切り替えてもらわなければ困るのだが、その心配は無用だったよう。少しだけ寂しさを覚えたが、彼は生身だ。無理も言えない。

車を止めてあるから、搭乗して15分程度は離脱に時間がかかる。

時間を稼がなければ。歩兵組を逃がしてしまえば、あとはこのガルバルディの推力なら逃げられる。

 

「…よし」

 

軽く息を吸う。バニングとやらとモンシアとやらのジムは護衛に徹しているようだ。いや一機だけか?

護衛中の2機は適当に射撃しておけば、こちらには来れないだろう。

ビルの影を利用しながら移動。コーエン将軍のいるであろうポイントに射撃。もちろん2機は持っているシールドで防ぐ。が、 目論見通りだ。このまま、護衛の二機は、張り付きにできる。無力化したも同然だろう。

あとはジムキャノン、ジム改、私の順で敵の射線が味方にかぶるように位置してやればいい。さっきのキャノンも撃てはしないだろう。

キャノン組も射線を確保しようとするが、移動先のアデルの乗るキャノン機にライフルで牽制射撃。ベイト機に防がれる。でも、これでいい。常に対角線上に敵が来るように誘導を続ける。これなら動けばしないだろう。あとはどちらが我慢できなくなった方の負けだ。このままこう着状態が続けば楽なのだけれど…

 

「…ちっ!ちょこまかと!鬱陶しい奴だ!」

 

「モンシア!あくまでも護衛が最優先だ!先走るなよ!」

 

「了解です。バニング中尉。ただ自衛は構わんのでしょう。バカスカ撃たれたままでおとなしくする気はないんでね」

 

「おい何する気だ!モンシア!」

 

「要はこいつをやっちまえばいいんだ!たった一機!」

 

釣れた。分離してくれたらこっちのものだ。各個撃破に持ち込む。高速移動する敵機を盾にするような軌道は取り続け、そしてベテランの敵と対敵する!ああ、どうにも疲れる仕事だ。

 

「でも、こんなものゲルググで艦隊に挑んだ時と比べれば!」

 

ジム改がスラスタを吹かして、接近してくる。こちらにライフルを向けてきた。ジムの装備火器、ジムマシンガン90ミリだ。

発砲。

 

此方も負けじと接近するジム改に向け、トリガーを絞る。

ジム改は盾で防ぐが、ここまでは想定通りだ。少しでもこちらの姿が見えなくなればいい。

フットペダルを蹴り、全速力。意識を持ってかれそうになるが、耐える。この機体の性能を持ってすれば、敵機の裏を取ることなど容易だ。

 

「ど、どこに行きやがっー「モンシア後ろだ!」」

 

「遅い!」 

 

「なにぃ!」

 

「…まずは一機!」

 

サーベルを振り抜く。完全に背後からバックパックを狙ったつもりだったんだけど、身を捻り避けられてしまった。残念。損害が思ったより小さい。

追撃を仕掛ける。シールドを引き裂き、ジム改の右手を両断する。続けて畳みかけるようにビームライフルを撃つが、3発ほど撃ったあたりでキャノンからのロックオンアラート。

 

「逃がさない。……正確な射撃。こんなに敵機と密着してる状態での精密射撃だなんて。…あと一撃で倒せたのに」

 

「モンシア中尉!」

 

アデルのキャノンから砲撃を受ける。これ以上は追撃は不可能だ。

ビルを盾にしつつ射線が切れるところまで移動する。

連携が上手い。並の隊なら撃破できていた。タイムリミットまであと7分。時間は稼げそうだけど…あとは離脱も考えなければいけない。キャノンが厄介だ。他のジムは振り切れるだろう。でも長距離射程を持つキャノンを放っておいていいのか?間違いなく背中を狙い撃たれる。

撃破しておきたい。とは言ってもこちらの武装は、シールドとビームライフルだけ手が足りない。少しカメラを出し、敵の様子を伺う。どうにもさっきのジムは胴体部には弾は命中していない。モンシア?とか言うパイロットも生きていそうだ。はっきりとは確認してないが、おそらくはもうモンシア機は、戦線に復帰できてないだろう。

少しづつ他の機体も距離を詰めてきている。撃破した機体に近いのはキャノンか…

発砲。顔を出したところが射撃を受ける。反応が早い。腕部で、ビルを掴み、握った破片をサーベルで少し焼く。ライフルの残弾も少ない。

先程見た時、敵小隊がジリジリと包囲を縮めてきているのが見えた。

ここまま黙って指を咥えているつもりはない。逆に言えば撃破のチャンスだ。混戦に持ち込めばまだ勝機はある。

 

「うーん。ちょっと合流できそうに無いかなぁ…これ。でも、やるしかないか…!」

 

深呼吸をして前方を注視する。いや前方だけじゃなく360度視野を広げて

操縦桿を動かし勢いよく、盾にしていたビルの影を飛び上がるようにして急加速。濁流のように周りの景色が流れる。その中で状況を確認。バニング機は動いていない。ビームライフルでバニング機を牽制。それと同時に握っていた瓦礫をモンシア機に投擲。瓦礫を熱を持たせて、グレネードと誤認させる作戦。お願い…ひっかかってーー

 

「…やった!釣れてくれた。キャノンの護衛を剥がせた!」

 

ガルバルディが何かを投擲した瞬間。ベイト機がスラスタを吹かし、モンシア機に接近。モビルスーツの手のひらサイズの物体を弾き飛ばす。シールドでモンシア機を庇うように構えるが爆発はしない。それはそうだただの温めた瓦礫なのだから。だけど邪魔な護衛は離せた…!

 

「ここからでは狙えない」

 

機体のスラスタをふかし、高度をあげる。いた。キャノン機に向け照準。此方が飛び上がった時にはもうシールドを構えられていた。このままでは致命的なダメージは与えられないだろう。このライフルではジム改のシールドを抜けないのは先程のモンシア機との交戦で確認済みだ。

…構わない。照準を少しずらし、発砲。

案の定、此方の射撃はシールドで防がれてしまった。キャノン機の損害はほぼゼロ。

 

でも、その後ろの機体はどうかな?

 

先の戦闘で撃破したジムに向けて、緑の閃光が吸い込まれるように命中。ジムの機体に命中したビームは鋼鉄の機体に食らいつき、燃料に引火。

爆発。あたりを黒煙がおおいつくし、アデルの駆るキャノン機は視認できなくなる。

融合炉に誘爆させるつもりだったが、どうやら機体の当たりどころが悪い。大きな爆発は起きなかった。

爆発に巻き込むつもりだったが…

終わりだ。ビームライフルの弾は後一発。これでは撤退したとしても、キャノンに狙い撃ちされて終わりだ。いやそもそも自分の機体は射界を確保するために上空に飛んでいる。着地した瞬間には煙は晴れ、下にいる2機に狙い撃ちされるだろう。

 

あぁ、ここで終わりか

 

頭が真っ白になる。

そう思うと、不思議と怖くはなかった。どうにも生に執着しないタイプだと、自分でも思っていた。

 

でも、頭に思い出されるのは、彼の言った言葉

 

お前は前の人格に負い目があるのだろう?なら逆にその体で人生を楽しめ!

俺は地球連邦政府を転覆させる!大革命だ!これまでだれも成し遂げてきたことがないことをする!いや言いたいのはこうじゃ無いな。わるい。

ああもう!何が言いたいかと云うとお前を幸せにしてやるってことだ!

 

自信満々に言う姿は、今の私には眩しすぎて…

 

いや諦めてたまるもんか!こんなところで死んでなんかられない!元のクーディにも謝れてない!何より彼の行先を見ていたい。あと、私にもう一度のチャンスを。

 

一気に血が周り、視界がクリアになる。モニターには見えない。見えないはずだ。なのに地上の2機の動きが分かる。黒煙の中の人影すらも手にとるように分かる。

何故か自分でもわからないが、はっきりと見えないはずのキャノン砲がみえる!本体の盾だけでは防ぎきれない。その大きな砲塔は…!

 

「当たって…!」

 

引き金を絞り、ガルバルディのライフルの銃口から熱源が発射される。常に位置が変わる。落下しながらの射撃だ。高難易度当たる筈のない周りを見れば大勢がそう答える。が、彼女にははっきりと見えていた。

 

それは必然か

 

過去の様々なエースパイロットたちは、射撃に優れていたから、格闘の当て感が優れているからエースなのか? 

否。強烈なGに耐えられるから?それらだけでは無い。生への執念。それらが合わさる事によって、エースパイロットの扉は開かれる!

ではさらに上のニュータイプは?

ニュータイプの観測されている能力。 超人的な直感力と洞察力を併せ持ち、空間認識能力を事項に付け加えたのならば?

 

その一撃は必中の一撃となる!

 

 

 

 

「くっ、こうも視界を遮られてはキャノンが!だが落下地点は予想できる」

 

煙で見えなくとも、落下位置は予想できる。伊達に長く戦場に居ない。アデル中尉の駆るジムキャノンが、予想地点に砲塔はを向ける。

こんな黒煙の中こちらの位置は分かるまい。モンシア中尉がやられたのは誤算だが、確実に仕留める。

 

「終わりだー…なに!?馬鹿な!こちらの位置は見えない筈だ!この煙の中で!見えるはずが!」

 

深翠の高熱原体が、構えていた砲塔を食い破る。

誘爆。急いでキャノンを切り離し、たが間に合わない。ジムキャノンのキャノンはバックパックに近い位置にある。弾薬もだ。激しくきりもみしながら前方に投げ出される。コクピット内に破片が飛び散り、四肢を傷つける。18mもの巨大な物体が横転したのだ。ただでは済まない。パイロットの身体は激しくシェイクされ、頭部を強く打つ。

 

「…ばか…な…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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