とある中佐の悪あがき 作:銀峰
「こいつはすげぇ」
サスロザビの墓。施設3キロほど奥にあった。大きな部屋にでた。モビルスーツぐらい軽く入りそうだ。奥の方をよくこらしてみれば、機体もありそうだ。
照明はと、そこにあった端末を操作する。低い音を立てて、コンソールが立ち上がる。パスワードと指紋を要求されたが、伊達にドム等の研究に関わっていない。解除。
開いたままの場面、どうやらこれはモビルスーツの設計図らしい。最初に表示されMS-05 ZAKU 1いわゆる旧ザクだったが、それこそ旧ザクからジオングやドムの最新式のデータまで。これと生産ラインを整えるだけでモビルスーツは作れるだろう。戦争国家の中枢と言っても過言じゃ無いな。
「これだけの物が有れば小さい国の一つや二つは買えそうだ。マハラジャ・カーンが頼み込んで来るわけだ」
いうならば、ジオンの技術は連邦に比べて10年は進んでいる。これは紛れも無い事実だ。キシリアが劇中でも語っている。この卓越したモビルスーツに関する知識、技術があったからこそ連邦と渡り合えていたにすぎない。そうでなければただの1コロニー国家が地球全土を敵に回して、敗北させる寸前になど行くものか。そこまで良いとこ行って負けた理由?敵の15倍の性能差が有っても、1機で30機の敵には勝てんよ。早期決着できんかった時点で負け負け。戦いは敵が勢い付く前に叩く。又はそれが無理なら良い落とし所に持ってかないとな。戦争は交渉術の一種だ。戦争に勝ってもその領土や国民を餓えさせたら意味がない。
「まぁいいデータは根こそぎ持ち帰る!時間がないぞ!徹底的に縛り上げろ!」
「了解!」
部下たちからの頼もしい返事。荒事があると思って戦闘要員ばかり連れてきてしまったが、モビルスーツも扱える連中ばかりだ。問題ないだろう。あ、誤解なきように言っておくぞ。MS乗りは粗野な連中ばかりと馬鹿にされやすいが、大体の奴らが頭が良い。MSと言うのは実は繊細だ。本当に馬鹿な奴らだと複雑な計器が有るコクピットの中でまともに動かせるものか。
「中佐!MS関連のデータを取るだけでも1時間はかかります」
「ダメだ!その半分以下で済ませろ!他のデータもとるだけ取れ。迂闊にコロニー内で戦闘出来ないからと行っても、連邦の占領地域内と言うのは変わらないんだからな!」
「了解!急ぎます」
それでもここにそれだけの時間拘束されると言うのはは大きいな。連邦政府の手はまだここまで来てないだろうが、表に見張りがつけられてたくらいだ。何か異変があったらここにすぐ駆けつけてくるだろうな。まぁそうならないために一応、策は用意してあるが…
「…まぁ保険程度。どの位時間稼ぎになるかだな」
「なんのこと?…そう言えばここに来るときは、もっと人数は居たよね。後から合流すると思ってたんだけど、きてないね。残りの人たちは何処にいったんだい」
「まぁ一応の策って奴だ。お前に言ってなかったか?あいつらは…っておぉ」
そんなことを話しながら、奥に進んでいく。部屋が大きく入口からでは奥が見えないのだ。
手持ち無沙汰そうにしていたクーディが横についてくる。おそらく機械も使えないし大人たちの作業を見守ってることしか出来なかったんだろう。
まぁ彼女のことは良い。問題はこの目の前のコレだ。
「こりゃすげぇや。これが量産できれば0083時代なんてへでもねぇなぁ…」
「そんなにすごいのかい?この機体?ていうか0083って…」
「あー気にすんな。そんぐらいすごいってことだよ」
すげえのなんの。これが1年戦争時代にできてる時点でだいぶオーバーテクノロジーだろ。やっぱりジオンの科学力は宇宙1はっきりわかんだね。
まぁ好みで言えば、スリムすぎてあんまし好きでもないんだよな。ドムトルーパーぐらいゴテゴテした機体の方が好きだ。わかる奴たぶんいる。というかこれZまでいけるだろ…
おそらく正史では、ここがバレてこの機体のデータが渡ってしまったんだろう。劇中でもガンダムを追い詰めていたくらいだ。相当期待できる。
このデータが連邦にわたってみろ。ただでさえ苦しい戦いがキツくなるな。まぁ俺らが先に見つけたわけだけどな。こんなところにあるとは予想だにもしまい。
コクピットまでのタラップが近くにあったので、クーディと一緒に登ってみる。
コクピット解放スイッチ…ここか、ジオン系の機体なんてだいたい変わらんな。
シートに座り、コンソールを起動してみる。が、どうにも起動が遅い。
まぁ試作品なんてそんなものか
「こいつ、動けるのか?」
ようやく端末が起動した。それと同時にコクピットの外の光景が周りに広がる。地下なので壁しか見えないのだが。
「うごきそうかい?」
「システムは立ち上がったが、どうにもうまく融合炉に火が入らない安定はしないな」
「bからvの項目どうなってるんだい?ゲルググ系統なら少しは分かるけど?それ多分違うよ。c−系統は…こう。ここが違うところまだ他にもあるけど…うん、だいたい同じみたい」
「ほんとか!?いつの間に覚えたんだそんなこと?」
余りの詳しさに、驚いて彼女の方を見る。整備士連中に混じって色々教わっていたが、詳しいもんだ。俺は作って運用する側で、整備士たちは受領して、実際に動作をしている側だ。設計者より現場のやつの方が詳しいというのは、良くある。ましてや戦時中の高速でラインを回している状況だ。規格で定められた最低限の基準時間で現場に回している機体も少なくない。そんな機体を、不具合を直してる現場の方が詳しいと言うのは、設計者としては不甲斐ないが…ある。その整備士たちから教わったというのなら本当にわかるのかもしれない。っていうか下手すりゃあ俺よりわかるかもな…
「じゃあ任せてもいいか?」
「…うん、任せてよ!」
彼女は一瞬キョトンとした後、嬉しそうな顔で胸を叩いた。小さな頭を上下に動かしてご満悦の様子だ。可愛いかよ。頼られるのが相当嬉しかったらしい。しっぽが生えてたらブンブンと音を立てて揺れていることだろう。
「でも動かせるとは思うけど。どうにも触ったことのない機体だから、どれがどれやら…コクピット的に言えば統合整備計画の機体っぽいけど。うーん。ちょっと時間かかりそう」
統合整備計画とは何か?コックピットの操縦系の規格・生産ラインを統一することにより、生産性や整備性の向上、機種転換訓練時間の短縮を図った計画で、兵士の不足による学徒動員などを見越し、操作系のフォーマットを統一することで未熟なパイロットでもMSを効率的に運用することも目的にしてる計画のことだ。
わりかし最新鋭の機体はこのコクピット周りのシステムが応用されている。コクピットの規格が合うから、ザクのシステムをゲルググに移したりもできるわけだ。これはかなり画期的で、うちの艦隊も数機は配備しているのだが、うまく行ってないらしい。
「出来るだけ急いでくれ。データだけでもいいが、実物があった方がいい」
「やってみる」
起動はまぁ最悪出来なくともいい。問題はこれをどうやって輸送するか、デカすぎる。脱出経路は概ね絞ってはいるが、こんな大きいものが街中を闊歩していたらそれはそれは目立つだろう。タラップから降りる。
「ハミルトン軍曹!こっちに来てくれ。君はサイド3の出身だったな?このMSを見つからないまま運送する通路等この辺でないか?」
「はい。中佐ここの周辺ですと、当該区域から隣のブロックを通過して荷物搬出用のベイがありますが、そこに辿り着くには、約20キロは前進しなければなりません。車両等は問題無く通過できるでしょうが、流石にMSが通過したら目立ちます。なおかつ連邦軍の艦が複数隻コロニー内部に確認されています。港にたどり着いた後が問題かと…」
「いやいい。ベイの問題は手段は整えている。ベイについて、宙にさえ出れればこちらのものだ。近くにティべ級を配置している。出てしまえさえすれば問題はない。」
「秘密工場らしく秘密の入口とか無いんですかね?」
「うーん。区画の見取り図があったがそれっぽいゲートは無かったんだよなぁ。サイド3は本拠地だし、わざわざくりぬく必要もなかったんだろうが…本当地下に作るんなら直接出れるゲート作っとけよ…」
「…はぁ。強行突破しかないですか」
「そうなりそうだなぁ」
2人で頭を抱える。どうにも手っ取り早く脱出できそうにない。地下に作るんなら本当に、それっぽくしろよ。直接浸宙するゲートがないのなら、わざわざ近くのベイまで搬出して宙にだす必要がある。ここの所在が近隣住人に見られそうなもんだが、ここまで攻めることを想定して無かったんだろうなぁ。ただがか20キロで飛ばせばいけそうなもんだが、条件はあちらもかわらん。接敵せずに貨物搬出用ベイまで行けるものだろうかは、ギリギリだ。少なくとも巡察のMSとの戦闘はあるだろう。どうにかスムーズに出れないものか…MSまであるとは想定してなかった。歩兵だけなら行けそうなんだが…最悪機体は破壊しなければなぁ。
「一応機体は立ち上げておいてくれ。何かに使えるかもしれん。データの抜き取り急がせろ」
「了解」
幸いここからは入った場所に引き返さなければならないということは無さそうだ。ここから直通で上に出れる通路は見つけた。近くドアに視点を向ける。どのくらいの高さなのか見ておくか。
ドアに近づき、空けて上方向を見る。どんだけ地下なんだ螺旋階段がビルの10階分ぐらいはありそうだ。
「うへぇ。こりゃ登るのも大変だな。と…ん?」
階段上からカンカンと足音が聞こえる。人はやってない筈だが?作業中の部下を見る。ひふみよ…全員いるな。目を凝らす。灰色の戦闘服にヘルメット。連邦兵だ。その考えに当たった瞬間心臓がドクンと跳ねる。おいおい嘘だろ。どうしてバレた?慌てる気持ちを押さえる。俺は指揮官だ。いかなる時も指揮官は動揺をあまり出さない方がいい。恐怖が部下に伝わるからな。扉をそっと閉め、部下に指示を出す。
「おい。作業中止。3人こい」
「中佐どうしましたか?まだ終わっていませんが…」
「敵だ。後1分も無いうちに来る…!急げ」
「へ?…バカな早すぎる…」
「来ちまったもんは仕方ないだろ。速やかに集合…!」
バレていたとしか思えないが、バレたもんは仕方ない。迎え撃つ。扉の横で張り付き、敵が来るのを待つ。先に発見できたのは僥倖だった。見てなければ直ぐに全滅していただろう。
こちらが配備についたと同時に、敵もどうやら着いたようだ。扉が吹き飛ぶんじゃ無いかと思うほどの勢いで開き、連邦の1人が顔をだす。
「連邦軍だ!ジオンの残党諸君!大人しく…うっ」
「するかよ」
先頭で突入してきた、なかなかの体格の兵士の顔面を裏拳で強打。怯んだところに弾を撃ち込む。
まずは1人。
撃破した兵士を盾にしつつ、他の敵兵にも撃ち込んでいく。狭い通路だ。指揮官がやられて慌てて逃げようとしているもの。こちらに発砲しようとしているものもいるが、指揮の継承ができていない今動きは緩慢だ。
「頭はやった!残りも蹴散らせ!」
「了解!」
残りの3人が射撃を開始する。慌てて隠れようとするも遅い。狭い通路だ。逃げ場はない。ものの数分で制圧。第二波は来なさそうだが、それも時間の余裕は無さそうだ。考えるのは明日でいい。土クレは何も思いはしない。それよりも次だ。次の手を打たなければ…
「何だったんだ。こいつら、俺らがここにあるのがバレている様子だったが…まずいな。入口の2人を呼び戻せ!2人はここでデータの抜き出し及びMSの起動!クーディも残れ!余りの者はついて来い!弾補充しとけよ!」
「了解。作業している2名以外は速やかに中佐の元へ集合せよ!」
「集合しました!前進準備完了です」
「よし、階段を上がって、出入り口を確保する!相手に確保されたら我々は脱出出来ない」
残留組から一つ弾倉を残してあとは貰う。それでも弾数は心ともない。本格的な戦闘は一回できたらいい方だろう。隠密作戦だ。弾はあまり持ち込めてはいない。全力制圧する気ならMSを持ってきている。
残りの人数を確認。足を動かし、階段を二段飛ばしで上がっていく。おそらく今の敵兵は先遣隊。先遣隊からの連絡がなかったら速やかに本隊が突入してくるだろう。そうなる前に、速く出口を抑えなければ…!
「見えた出口だ」
階段を上がると、雑居ビルのような内装の建物に出た。その内の一室。一部屋改造して地下室に繋がる道を作っていたようだ。
入り口からはだいぶ離れたところに来たようだ。窓からの景色は随分と違う。横に少し嫌なものが映る。
慌てて、ビルの出口に繋がる扉の前に立ち、少しだか隙間を開けて、周りを観察する。そこには…
「嘘だろ。小隊規模じゃ効かないぞ…」
ビルの周りには、中隊規模の部隊がこちらを包囲していた。
??「あれは存在してはならない兵器なのだ」