とある中佐の悪あがき 作:銀峰
『67・・・45・・21・・・・9・・・今です!』
カウントダウンをしていたオペ子の声がゼロになったとたん、頃合いを見計らって部下に指示を出す。
「切り離せ!」
『了解!くらえやオラァ!』
俺は叫び、部下たちの機体と共に、盾にしていたサラミス級とチベ級を繋いでいたワイヤーをサーベルで切り離す。
巨大な弾頭に見立てたサラミス級の残骸がまっすぐ敵大将のワイアット将軍乗艦マゼラン級に突っ込んでいく。
最後まで最大活用!である。
マゼラン級は慌てて横に回避運動をするが、突っ込んでいくサラミス級の残骸に比べたらはるかにその動きは鈍い。
『全員対ショックぼうぎょぉ!!』
回線が混雑しているのか、見知らぬ男の声が聞こえた数瞬後、敵マゼラン級の艦橋が轟音と共にミシリという嫌な音を立てた。
マゼラン級が途中で斜めに回避運動をした所為で、一番いいまっすぐブリッチに突っ込んで、破壊するとはならなかったが十分大打撃だ。
後は逃げるのみ。
「急いでこの宙域を離脱する!この敵第一艦隊を抜けたら俺たちの勝ちだ!」
『了解!』
敵両翼の艦隊は射線に味方第一艦隊が居るので撃てない。
今船はサラミス級をぶつけ、そのまま横をすり抜けている。
ちょうどこの敵が密集しているところを通っていて、今撃ったら味方に当たるからなうかつには撃てないだろう。俗に言う混戦状態というヤツだろうか。
撃ったらよほど腕に自信があるヤツか、味方を切り捨てる冷酷な鬼軍曹だな。・・・軍曹じゃ艦長やれないけど。
敵艦隊は横から見ると棒状だ。
縦に広く船を配置し、艦砲を効率よく撃てる形になっていて、横は短い。
その後ろに数隻控えてるが、こいつらは多分攻撃はしてこない。
報告通りに数が三十ならこいつらは多分ダミー、こけおどしだ。
こっちの艦隊は約三十隻、あちらの駐屯兵力は三十から五十隻。
此方は補給艦も含めてだが数的には連邦の兵力に迫る勢いだ。
それに場所を転々としていた所為でこっちの正確な戦力などわかるはずも無い。
下手したら三十隻全部がムサイ級またはチベ級などと思っているかもしれない。
この作戦に参加しているのは敵三十隻。
流石にこっちがこのア・バオア・クー宙域最大の勢力だからって全軍で来る訳にはいかない。
俺たちのほかにも、流石にモビルスーツは持ってないかもしれないが、海賊などもいるのだ。
でかい賊退治しに行ったら他の海賊に拠点が占拠されてました!では笑えない。
いや占拠までとは行かないでも、物資が奪われてました!はあるかもしれない。
留守番の部隊が最低十隻・・・は心伴いから十五隻から二十隻くらいはいるだろう。
となると出せるのは三十隻から三十五隻これ以上は出せない。
本当はこちらの全戦力が来ると思って、何らかの手段で囲んだのはいいが、少なすぎると突破されるし今の数だと不安が残る。
そのためのダミーだ。
数が多いと人間というものは、数の多さに恐怖を覚えて降参してしまいたくなってしまうものだ。
まさに戦いは数だよ!である。
大体一艦隊にダミーは二つから三つくらいだろう。
少し遠い距離に見える敵サラミス級三隻を良く見てみると三隻中一隻の砲台が無い。
準備不足か時間が無かったか、どちらにせよその砲台は虚空を見つめてはいても砲弾が出る気配は無い。
「その三隻はダミーだ!無視していい!こっちからの攻撃はなるべくするなよ。後ろからの船体に向かってくる敵弾だけを優先して落とせ!機銃などの細かいのは無視しろ!狙いは敵主砲の弾だけだ!」
『了解!二番から六番機後方に向かいます』
「ああ頼む」
ふう。これで大体安心だ。
敵射程に入ってはいるが、敵大将艦の沈黙によりそれぞれの行動はばらばらだ。
慌てて何もしない、こちらを追おうとする、味方の混乱を纏めようとするもの、千差万別だ。
追ってこようとするやつは、滅多なことが無い限りこのチベ級には追いつけないだろう。
スペック差がある上にこちらが一歩リードしている。
まず追いつけない。
「はぁぁぁぁぁ・・・・」
これでほぼ逃げ切った・・・何も無ければ無事に逃げ切れますな。
ため息をつき、モビルスーツのシートに腰を深く落とす。
まだ部下は戦っているが、さっきもいったが撃ち落とすだけだし、輸送船の煙幕も継続して張っている。
そんなに危険も無い。
五秒だけだ。少しの間、許してほしい。
「そういや彼女の名前聞きそびれたな・・・」
まあ。いい、逃げ切れたのだ。
時間はあるし、後で聞けばいいだろう。
この後はあの子のところに行って、輸送船の中身拝見して・・・あっ三艦長にも心配かけたし後で連絡しないとなぁ・・・
連戦や三十隻の衝撃で自分でも気づかないうちに疲労が溜まっていたらしい、段々視界がぼやけてくる。
目を擦り、意識を呼び戻す。
船後方にいる部下たちの機体を援護しようと、モノアイを動かし様子を見る。
視界に移るドムもかすかに動きが鈍くなっている。
一つ間違えば、この船が沈むかもしれないぎりぎりの神経を使う戦闘をしていたんだ。
疲れもあるのだろう。
そろそろ格納庫に移して交互に休息を取らせたほうがいいだろか。
機体を近づけ、近いところにいたドムの肩を叩き、通信を入れる。
「三番機。四番機格納庫に戻り交互に休息をとれ」
『自分は、まだ、やれます!』
「息切れてんじゃないか、さっさといけ。・・・・お前がいかないと他のやつらが休めないだろうが」
『しかし・・・そう、ですね。分りました。戻ります』
三番機のパイロットは素直に戻ったが、四番機のパイロットが少しぐずったので、遠まわしに邪魔だと告げて休憩させる。
四番機のパイロットが一番若い、前の四番のヤツは戦死して今のは補充できた学徒兵だ。
疲労も一番あるだろう。今倒れてもらったら困るのだ。
艦のハッチから格納庫に戻るところまで一応見る。
収納を確認。ん素直でよろしい。
向かってくるビームを適当に打ち消しながら、そういや前にいたダミーのサラミス級はどうなったかと思い出し前方を確認。
んっサラミス級三隻だいぶ近づいてきた。
あれを超えればこの艦隊から逃げられる。
現在後方にいる敵第一艦隊はやっと混乱から回復し、こちらに船の先頭を向けて来ているところだ。
真ん中にいる奴が、ばらばらだった艦隊をまとめた艦なのだろう。・・・・邪魔だな。
「おい。二番機。リオル隊長」
『何でしょうか司令』
「少しの間迎撃を任せる」
『?・・・・ああ了解です』
「頼むぞ」
背中に背負っているビームバズーカを背中にあるレールに伝わせて、肩に装着。
がちりと接続音がして、ロックがかかる。
「接続完了。エネルギーライン構築」
腰にあるエネルギーライン接続用のケーブルを取り出し、ビームバズーカの取り付け部分に接続。
かちりと音がしてビームバズーカに充填を開始。・・・完了。
つまみを回し出力を最大に設定。
スコープを取り出し狙いを定める。
狙いは真ん中の指揮官らしきサラミス級。
これだけ離れていても、十分バズーカの射程内だ。
船の主砲だったら当てにくい事この上ないだろうが、こっちはモビルスーツだ。狙いもつけやすい。
少しゆれているが、問題はない。
ちょうど艦橋にあたり、敵サラミス級を沈黙させられるだろう。
「・・・くらいやがれ・・・!」
引き金を引く。
背負っているビームバズーカから視界がまぶしくなるほどの熱があふれ、光の槍になった閃光が、艦橋・・・の近くの主砲のすれすれを通り抜け、その熱量でサラミス級の主砲が曲がる。
通り過ぎて、行き場を失った光は少しの間そのまま直進して、消えていった。
『うっわぁ』
部下の哀れむような視線が痛い。
いや別に、はずしたんじゃない。
わざと近くに掠らせてこっちを砲撃できないようにしたんだよ。本当だよ?
だからその、あんだけかっこつけといて外すとか無いわ~見たいな視線を向けるのをやめなさい。
「も、もう一回!」
バズーカに接続しなおして、もう一回砲撃体制に入る。
今度は外さない。かちりと引き金が引かれ、それと同時にビーとなにかを知らせるブザーがなる。
ゆっくりと残量ゲージに目を向ける。
さっきまで七割はあったエネルギーが四割切っていた。
散々迎撃でエネルギー使ったし、元々満タンでも二発しか撃てないやつ撃ったんだから、当たり前か・・・
「・・・・・・」
『・・・・あーその・・・ドンマイです』
「・・・・・ありがと」
外しては、心にしみる、部下の声。作ユー
しょうも無い俳句を作って今の心情を表現してみました。
・・・むなしい。
そんなことをしている内に、ダミーサラミス級を通過し、チベ級は最大船速でこの戦域を離脱していくのだった。
「ううぅ・・・」
口からうめき声が漏れ、その自分が出した声で意識が覚醒した。
目が覚め、痛む頭をさすりつつ顔を上げた。
どうやら自分は倒れていたらしい、手を地面につき体を起こす。
「いつっっ」
体を動かすことで、ふせているときにはわからなかった痛みが体に走り抜けた。
その痛みで一瞬顔が歪むが、耐え周りを見渡す。
自分がいるマゼラン級のブリッチはずたずたに破壊され、直ぐ横にサラミス級の下半分だろうか?赤い線が外に見える。
思わずその大きさに驚愕する。
あれが当たっていて、よく無事だったなと逆に感心してしまいそうだ。
・・・無事じゃないが、命があっただけいいことなのだろう。
乗務員も大抵が無事のようだ。
「ふぅ・・・・むぅ」
安堵のため息をついて、そういえばあの敵船のチベ級はどうなったかと思い、ひび割れが比較的少ない箇所から確認する。
敵船は見えないがそばにいる僚艦が発砲してないところからすると、もう逃げられたのだろう。
目で追うのはあきらめてクルーの救出に向かう。
ため息を一つ漏らし、彼は気絶しているクルーの意識を戻すところから始めるのだった。
こうしてこの戦いは終わり、生き残ったワイアット中将はこの作戦に参加した将兵に緘口令を実施。
この戦いで海賊と化していた敵ジオン軍残党を殲滅したと連邦軍上層部には報告。
実際に、このア・バオア・クー宙域での、ユーセル中佐率いる最大の勢力は確認されなくなり、その報告は信じられた。
被害はマゼラン級中破とサラミス級二隻轟沈という、敵船三十隻に対して軽微な損傷と取られ、智将とワイアット中将は称えられた。
この功績によりワイアット中将は大将に昇格。
さらにワイアット大将は軍内部で勢力を拡大する結果に終わることとなったのだった____
その後兵たちの間で、超弩級大型艦が建造されているとの噂が流れたが、そんなものいまさら作る必要ないだろと笑い飛ばされて直ぐにその噂は消えていった・・・