魔法科高校の幻想紡義 -改-   作:空之風

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司一「僕が二次創作では原作より酷い目にあうことで定評のある司一だ! さあ、同情したまえ!!」


第9話 ブランシュ

第一高校から然程離れていない、廃棄されたバイオ燃料工場。

 

環境テロリストの隠れ蓑であることが発覚して以来、所有者のいないはずの廃工場。

 

その実態は反魔法国際政治団体ブランシュの日本拠点の一つである。

 

そこから僅か一キロメートルほど離れた地点に、巨大民間軍事企業ラグナレック・カンパニーの水無瀬呉智とアストー・ウィザートゥの二人はいた。

 

携帯端末でブランシュ日本支部のリーダー、司一からの連絡を受け取った水無瀬呉智は、連れであるアストーへと振り返った。

 

()()()()、ブランシュの第一高校への襲撃は失敗した」

 

事務的な連絡に、アストーはただ無言で頷きを返す。

 

アストー・ウィザートゥ。

 

ラグナレック本隊所属ながら、水無瀬呉智と同様に部隊には属さないバートン・ハウエル直属の部下。

 

だが呉智と違う点として、水無瀬家の古式魔法は敵勢力の攪乱、部隊の支援等で効力を最大限に発揮することから、呉智自身は他の部隊と行動を共にすることが多い。

 

だがアストーはそういったことはなく、常に単独で動く魔法師だ。

 

戦地でも敵地でも、常に単独行動。

 

こうやって呉智と組んでいるのは、呉智の古式魔法とアストーの魔法の相性が非常に良いから、それだけに過ぎない。

 

現にアストーは、呉智とは既に何回も組んだことがあるにも関わらず、味方であるはずの呉智への警戒も敵意も全く消えていない。

 

尤も、アストーにとってはこの世界に誰一人として『味方』はいないのだと、アストーの特殊な精神性について呉智は聞かされて知っている。

 

同じくラグナレック本隊に所属するある魔法師はアストーのことを「臆病者」と評しているが、あながち間違いでもないだろう。

 

その根幹にあるのは、理解出来ないモノに対する恐怖なのだから。

 

(にしても、総帥も強気なことだ。いや、狂気かな? よりによって、“あの家”の者たちの眼前で、アストーの魔法を使わせるとは)

 

アストーは拝火教(ゾロアスター)の死神の名に相応しい、正しく『死の魔法』を唯一扱う事が出来る。

 

そして、その魔法のルーツが“あの家”の魔法であることも呉智は知っていた。

 

その魔法を、由来となった一族の者達の目の前で使用する。

 

それもバートン・ハウエル曰く「御礼」という理由によって。

 

最早笑い話だ。他者からすれば到底笑えない類の、ではあるが。

 

喩えるならば、これは世界を焼き尽くす煉獄の炎を撒き散らす爆弾の導火線を火で炙るような命令だ。

 

そして呉智の知るバートン・ハウエルとは、普段と変わらぬ穏やかな笑みを浮かべながら、そんな指示を平然と下せる人物なのだ。

 

それを言えば、“これ”もそうであろう。

 

呉智は視線を手に持つ本に落とす。

 

深紅色で染められた、見る者に何処となく禍々しさを感じさせる本。

 

その正体は、ラグナレックの秘匿魔法技術『スピリット』。

 

決して中身を開いてはいけない、世にも恐ろしい“物語”である。

 

そして、このスピリットこそが、或いは呉智がラグナレックに協力する最大の理由かもしれない。

 

「ラグナレックを代表しての『御礼』だ。ならば精一杯に感謝の意を込めて、一礼を決め込むとしよう。――“前座(あれ)”も含めて、な」

 

呉智は小さく嗤った後、視線を携帯端末に移す。

 

画面を操作すると、画面にある映像が映し出される。

 

廃工場を思わせる寂れた屋内と天井は、実のところ廃工場そのものの光景だ。

 

これは彼らが提供した、“前座”を務める『兵器』に搭載された視覚センサーの映像だ。

 

ラグナレックが提供した『兵器』は三体。よって映像画面は三つ。

 

うち一つが遠目で廃工場の正門の映し出しており、丁度そこへ大型オフローダーが突っ込んできたところであった。

 

 

 

 

 

 

 

「レオ、ご苦労さん」

 

「……何の。チョロイぜ」

 

「疲れてる疲れてる」

 

レオの硬化魔法によって車両全体を硬化して突入してきた達也たちは、レオを労いながら車両を降りた。

 

魔法科高校を襲撃してきた侵入者達については、目的のハッキングを未遂で防ぐことに成功し侵入者全員を拘束している。

 

そして壬生紗耶香から事情を、小野遥から情報を聞き出した達也たちは、元凶を叩き潰しにブランシュの拠点へと文字通り突入してきたのだ。

 

メンバーは一年生が五人、二年生が一人、三年生が一人と全員で七人。

 

三年生は十文字克人。

 

二年生は桐原武明。

 

一年生は司波達也、司波深雪、千葉エリカ、西城レオンハルト、そして森崎駿。

 

「司波、お前が考えた作戦だ。お前が指示を出せ」

 

この中で唯一の三年生、十師族が十文字家の統領、十文字克人から指示を委ねられた達也は顔色を変えることなく頷く。

 

「レオ、お前はここで退路の確保。エリカと森崎はレオのアシストと、逃げ出そうとするヤツの始末」

 

「捕まえなくていいの?」

 

「余計なリスクを負う必要はない。安全確実に、始末しろ」

 

「……わかった。こっちは任せろ」

 

達也の鋭利な眼差しと冷徹な指示に内心気圧されそうになりながらも、森崎は強く頷く。

 

壬生紗耶香の事情聴取に渡辺摩利から同伴を許された森崎は、そこで今回の件にブランシュが関わっていることを知った。

 

そして司波兄妹がブランシュの拠点を潰しに行くと宣言したとき、森崎も同行を立候補した。

 

「言っただろ、借りは返すって」

 

意外そうに森崎を見る達也に森崎がそう言い放つと、達也は納得した顔で頷き、そして森崎はここにいる。

 

達也は先輩たちの方へ振り向く。

 

「会頭は桐原先輩と左手を迂回して裏口へ回ってください。俺と深雪はこのまま踏み込みます」

 

「分かった」

 

「……まあいいさ。逃げ出すネズミは残らず斬り捨ててやるぜ」

 

桐原は一瞬だけ不満そうな顔をしたが、すぐに了承する。

 

(壬生先輩が利用されたのが、余程腹立たしいんだろうな)

 

桐原の様子を見た達也は内心で呟き、保健室での一幕を思い出しそうになり慌てて思考を切り替える。

 

ちなみに、達也が思い出しそうになった一幕とは、桐原も参戦を表明した時のこと。

 

紗耶香から「危ないから止めて」と請われ、それでも桐原は「壬生を利用しようとした連中を許せない」と返し、最後は「無茶だけは、しないでね……?」と上目遣いに懇願された一連の出来事。

 

あの出来事で、これから戦いに赴くというのに当事者二人以外の全員の緊張感が完全に削がれ、生暖かい目で二人を見る羽目になった。

 

ただ桐原だけは戦意を向上させていたが。

 

ちなみに、達也と深雪も普段から同じ雰囲気を醸し出しているのだが、知らぬは当人達ばかりである。

 

(むしろ桐原先輩は正面から突入させた方が効果的だったかもしれないな)

 

既に裏口へと駆け出している桐原の背中を見て、達也は配置を誤ったかと冗談半分(半分は本気)に思いながら、深雪と共に廃工場へと足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 

「さて、と」

 

結代東宮大社の敷地内にある結代家の自室で、雅季は一高の制服から神官袴に着替えた。

 

あの襲撃事件の後、避難場所の講堂前で会った雫やほのか等の一般生徒達と共に雅季も帰宅したが、森崎は風紀委員として何やら後処理があったらしく学校に残り、達也と生徒会の深雪も同様だ。

 

(今頃は被害報告の書類でも作っているのかなぁ)

 

暢気に雅季はそう思う。

 

鎮圧に協力したエリカやレオも学校に残ったらしいが、たぶんあの二人は書類作成を手伝う前に帰るのではなかろうか。

 

……まさか、その日の内に襲撃者達(ブランシュ)の拠点に真正面から強襲を掛けて乗り込んでいるとは流石に思ってもみない。

 

そんな真似をするのは幻想郷にいる楽園の素敵な巫女とか普通の魔法使いとかその辺だろう。

 

ちなみに雅季も“その辺”に入る部類である。

 

尤も、幻想郷ならば兎も角、外の世界に於いて雅季が森崎達のブランシュ拠点襲撃を知ったところで、彼等に付いていくという選択肢は取らないだろう。

 

元々、結代家は常に中庸であることを是としている。

 

争いがあれば中立の立場を取り、場合によっては両者の仲裁を取り持ったりもする。

 

それは古来より人同士の争いであっても、人と妖の争いであっても変わらない。

 

幻想郷では人と妖の関係が形骸(あそび)化しているところもあるので雅季自身も比較的自由にしているが、“本当の妖怪退治”を行うとなれば雅季は中立を取るつもりだ。

 

それが外の世界ならば尚更だ。

 

結代家として縁を結ぶことはあるだろう。

 

或いは『結び離れ分つ結う代』として縁を切って離すこともあるかもしれない。

 

だが結代家、特に『結び離れ分つ結う代』である雅季自身がその能力を行使して直接動くのは危険だ。

 

先程の襲撃時のように飛んで来る火の粉を振り払う程度には行使するが、積極的に使うべきではない。

 

天御社玉姫が結び、『結び離れ分つ結う代』が離した月の都との縁は、それだけ複雑であるが故に。

 

「霊夢と違って、俺の勘は半々ってところがあるけど――」

 

雅季は目を瞑ると、自らの内で分けていた境界に干渉する。

 

外の世界の常識と、幻想郷の常識。

 

この二つを分けて離すことで、雅季は外の世界と幻想郷を自由に行き来している。

 

分離していた幻想郷の常識を解除し、新たに外の世界の常識を分けて離す。

 

そうすることで、幻想郷に張られている『幻と実体の境界』が雅季を幻想郷へと誘う。

 

「何だろう、嫌な予感がするんだよね」

 

そうして、雅季の姿は自室から、いや外の世界から消え去り。

 

その身は、幻想郷へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

「はあ……はあ……!!」

 

ブランシュ日本支部のリーダー、司一(つかさはじめ)は息を切らせながら廃工場の奥へと走って、いや逃走していた。

 

(何なんだあのガキは!?)

 

司波達也。アンティナイトを必要としないキャスト・ジャミング技術を持つ少年。

 

そして、魔法科高校に二科生(ウィード)として入学してきた劣等生。

 

――そのはず、であった。

 

(“あれ”が二科生(ウィード)だと? 劣等生だと? あんな化け物が!?)

 

 

 

最初は司一の魔法である『邪眼(イビル・アイ)』で洗脳を仕掛けた。

 

右手で眼鏡を外すことで注意を引き付けた際に左手でCADを操作。

 

そして司一の『眼』が、魔法が司波達也を捉えたとき、司一は狂喜した。

 

キャスト・ジャミング技術をモノにできれば、今回出した損失などまるで問題にならない。むしろ見返りの莫大さを考えればタダ同然の出費だ。

 

技術そのものも黄金の価値がある。アンティナイトを使用しないキャスト・ジャミングとなれば、どんな金額を出してでも欲しがる勢力はごまんといる。

 

そして、あのラグナレックとパイプを持つことができるのだ。

 

南米、アフリカ、中東の三方面では、この国でいう四葉の名に匹敵するほど恐怖と畏怖されている勢力と。

 

だが、司一の狂喜乱舞も束の間、

 

「猿芝居はいい加減に止せ。見ている方が恥ずかしくなる」

 

それは他ならぬ達也の侮言によってすぐに凍りつき、そして恐怖に変わった。

 

意識干渉型系統外魔法『邪眼(イビル・アイ)』。

 

だが実際には催眠効果を持った光信号の発行パターンを相手の網膜に焼き付ける光波振動系魔法。

 

“あれ”は魔法の正体を知っていたどころか、それがベラルーシで開発されたことすら知っていた。

 

そして『邪眼(イビル・アイ)』を、“起動式を部分的に消し去る”ことで魔法を無効化したとも。

 

そんな真似、一線級の魔法師でも出来るかどうか。

 

ましてや魔法師とはいえつい先日まで中学生だった子供に出来るはずがない、だというのに。

 

 

 

“あれ”は、己を人として見てなかった。

 

魔法を見破った後は、障害物とすら認識されていなかった。

 

こっちを見ていた“あれ”の目は、まるで道端に転がる小石を見る目と同じ――。

 

 

 

(――まだだ!! まだ手は残っている!)

 

心の奥底から湧き上がる不安と恐怖に対して、司一は己に言い聞かせる。

 

(そうだ、私にはまだアンティナイトもある! それに、アレも待機させてある! そうだ、負けたわけではない。むしろ優位性は全く損なわれていないじゃないか)

 

幾分かの偽りの余裕を取り戻して、司一は廃工場の奥に辿り着く。

 

「全員、アンティナイトを装備しろ! この後に入ってくるガキを始末するんだ!」

 

次々と部下たちに命令を下す司一。

 

彼の中には「キャスト・ジャミング技術を手に入れる」という最初の目的は既にない。

 

ただ「生き残る」という生物として原始的な目的のみしか見えていない。

 

『最優先でキャスト・ジャミング技術を手に入れてほしい。引き換えに戦力を提供する』

 

水無瀬呉智と、ラグナレックと交わした契約内容すら、恐怖に怯えた司一の脳裏から消え去っていた。

 

そんな司一の滑稽な姿を、水無瀬呉智が嘲笑しながら『兵器』の視覚センサー越しに見物していることも知らずに。

 

 

 

達也は奥の部屋の手前で立ち止まる。

 

精霊の眼(エレメンタル・サイト)』で存在を知覚できる達也にとって、待ち伏せは無意味だ。

 

同時に、達也の魔法に物理的な障害物は意味を成さない。

 

部屋の中央付近にいるのは十一人。うちサブマシンガンで武装しているのが十人。

 

それと部屋の両側の角隅に一人ずつ。

 

部屋の中にいるのは合計で十三人。

 

達也は壁に向かって特化型CADを構えて、トリガーを引く。

 

達也の魔法が、壁の向こうにいる男たちが武装しているサブマシンガンのエイドスを書き換える。

 

司波達也が本来持つ魔法は二つ。

 

その内の一つが、『分解』魔法。

 

構造体ならば、それを構成する部品単位まで分解し。

 

情報体ならば、分子レベルまで分解し尽くす。

 

サブマシンガンが構成品(アッセンブリ)から部品(パーツ)へと分解される。

 

突然武器を不可解な方法で失い、幾つもの狼狽する声が達也の耳に届く。

 

もはや相手を『敵』とも思っていない達也は、悠然とした足取りで部屋に足を踏み入れる。

 

「ハハハッ!」

 

達也が入ってきた途端に聞こえてくるのは、司一の耳障りで虚勢に満ちた狂笑と、魔法師にのみ感じ取れるサイオン波のノイズ。

 

「どうだい、魔法師? 本物のキャスト・ジャミングは?」

 

司一の右手首に巻かれているのは真鍮色のブレスレット、アンティナイト。

 

そして武器を破壊された男たちの指にも同様の色をした指輪。

 

雇い主(パトロン)はウクライナ・ベラルーシ再分離独立派。そのパトロンのスポンサーは大亜連合か」

 

心底つまらなげに呟いた達也に、司一の空虚な笑い声が止まり、動揺を顕わにする。

 

あまりにも世界の事情を、軍事事情や裏事情を知り過ぎている。

 

いったい、自分たちは何に手を出したのだというのだろうか――。

 

「やれ! 魔法を使えない魔法師などただのガキだ!!」

 

声を荒げて命令を下す司一。

 

対して達也は、億劫そうに右手を上げて、CADの引き金を引いた。

 

射線上にいた男の太腿から、血が噴き出す。

 

激痛に顔を歪めて倒れ込む男。

 

その光景を、信じられないものを見る目で見つめる司一。

 

「何故だ!?」

 

叫んだ司一に構わず、次々と引き金を引く達也。

 

達也がCADを向けて引き金を引く度に、相手は何かに貫かれたように人体に細い穴を空けて血を噴出させる。

 

達也の分解魔法が、人体の一部を貫通するように分解しているのだ。

 

「なぜキャスト・ジャミングの中で魔法が使える!?」

 

司一の疑問に、達也は答えてやるつもりも義理もない。

 

達也にとっては、キャスト・ジャミングが放つサイオン波のノイズを分解し、効力を無効化しているだけに過ぎない。

 

ただそれだけのこと、と認識している。

 

司一と司波達也とでは、魔法師としての格が違い過ぎた。

 

部屋の中央付近にいたブランシュのメンバーは、司一を残して全員が倒れ伏している。

 

残りは司一、そして――。

 

達也が視線を移す前に、司一が背にしている壁が切り裂かれた。

 

「ヒッ!」

 

短い悲鳴をあげて、転がりながらその場から逃げ出す司一。

 

文字通り壁を切り裂いて現れたのは、裏口から回ってきた桐原武明だ。

 

「よう。コイツらをやったのは、お前か?」

 

部屋中に転がるブランシュのメンバーを一瞥して、桐原が問う。

 

達也は無言で肯定しつつ、部屋の両隅に視線をやった。

 

部屋の両側の隅に佇んでいるのは、どちらもH(ヘッド)M(マウント)D(ディスプレイ)を被った無表情な男性。

 

これだけの騒ぎを眼前にしながら身体一つ動かさず佇んでいる。

 

人間らしさというのが完全に抜け落ちているそれは、まるで人ではなく無機質な機械であるかのような印象を達也に与える。

 

それが、達也には不快だった。

 

「やるじゃねぇか、司波兄。それで、こいつは?」

 

「それが、ブランシュのリーダー、司一です」

 

達也は両隅の“それ”を警戒しつつ、一旦視線を桐原と司一に戻した。

 

桐原は達也の答えを聞いた瞬間、

 

「テメエが……よくも壬生を誑かしやがったな、この野郎……!!」

 

顔を引き攣らせている司一を、憤怒の感情を乗せた視線で睨みつける。

 

その背後から十文字克人も姿を現す、

 

前方に司波達也、後方に桐原武明と十文字克人。

 

魔法は通じず、武器と部下を失い、切り札のキャスト・ジャミングは無効化され、そして三人に囲まれて退路を無くした司一は、

 

「ヒ、ヒヒヒ――」

 

いつの間にかその手に通信端末を握り、恐怖と狂気と憎悪が混ざった目で、三人を見遣った。

 

 

 

「ブランシュ如きでは相手にもならなかっただろう。ソレは我々(ラグナレック)からのささやかな贈呈品だ。次の本命に向けて、前座(ソレ)で準備運動でもしてくれ」

 

人知れず水無瀬呉智が呟くと同時に、

 

 

 

「命令だ、殺せ――」

 

端末に向かって司一が殺戮の号令を下す。

 

瞬間、両角に佇んでいた二人の男性が、突如人の知覚速度を超えた速度で飛び出すなり桐原へ腕を振り下ろし。

 

十文字克人の不可視の障壁が桐原を護った。

 

左右からそれぞれ振り下ろされた凶器の腕が、桐原の一メートル手前で目に見えない壁によって遮られる。

 

「なッ!?」

 

その時点で“ようやく”攻撃されたことに気付いた桐原は咄嗟に後ろへ飛び引く。

 

後退した桐原武明も、条件反射で魔法を使って桐原を護った十文字克人も、そして司波達也も、警戒心を剥き出しにして、司一の両脇にHMDを被ったまま無表情で佇む“二体”を見る。

 

「ヒヒ、殺せ――」

 

狂った声で呟く司一。

 

その命令(オーダー)を、この場にいる二体と、通信端末越しに別のところにいる一体が忠実に実行する。

 

そして――。

 

「このガキ共を皆殺しにしろ! ジェネレーター!!」

 

工場内にいる二体のジェネレーターが。

 

工場の屋上から正門を監視していた一体のジェネレーターが。

 

一斉に魔法科高校の生徒達に襲いかかった。

 

 

 


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