早朝の光が部屋を照らす。
朝日と鳥の音色が、結代雅季を眠りの世界から引っ張り上げた。
「んっと」
布団から上半身を起こして背伸びをする。
澄み切った空気が心地よい。『外の世界』ではなかなか味わえない空気だ。
雅季は布団から起き上がると、布団の傍に畳んであった神官袴に着替える。
着替えが終わり、布団を畳もうと手に掛けたとき、板張りの縁側の廊下を歩く音が聞こえてきた。
雅季が顔をそちらに向けるのと、相手が襖越しに声を掛けてくるのはほぼ同時だった。
「雅季さん、起きましたか?」
「ああ、起きているよ」
雅季の返事を聞いて、相手が襖を開く。
「おはようございます、雅季さん」
「ん、おはよう、紅華」
朱と白と青の三色を主体に、幻想郷に住まう巫女特有の脇がむき出しの巫女服を着込んだ、紅みの混ざった髪色が特徴的なショートヘアの少女。
『結びの巫女』
幻想郷の結代神社を祀る巫女である。
「朝食の前に玉姫様からお話があるそうです。本殿でお待ちですよ」
「話? わかった、すぐ行く」
紅華は笑顔を浮かべて、お辞儀をして下がった。
足音が去っていくのを聞きながら雅季は布団を畳み終えて、襖を開けて縁側へ出る。
目に飛び込んできたのは、空一面に広がる群青。
今日の幻想郷はいい天気になりそうだ。
結代神社には、先程雅季を起こしに来た巫女の紅華と、一柱の神様が定住している。
雅季が本殿へやって来ると、
「おはよー、雅季」
外の世界の十代女子を連想させる軽い口調で、その神様は挨拶を交わしてきた。
「おはよーございます、玉姫様」
白色を基調に紅紫色の深山撫子の花柄が付いているレースのブラウスに、腰に朱色の細い注連縄を巻くという奇妙な格好をした黒髪を肩まで伸ばした女性。
『縁結びの神威』
神代より結代神社に祀られている神様である。
「話って何ですか?」
「ちょうど雅季が『外』に行ったあとから、
「改稿? なんでまた」
「あんたが異変起こしたからでしょ」
「あ。成る程」
「縁起に残るんだから、ちゃんと応じてあげなさいよ」
「わかっていますって」
ちなみに結代家が祀る神様が相手だというのに、雅季は随分とフランクに接しているが、これは玉姫からそう接するようにと神託を下したからだ。
尤も、確かに神託といえば神託なのだが、実際はかなり軽い調子で言ってきただけである。
玉姫自身が現代風の格好で口調が軽いのも「今風の縁結びはこんな感じだから」と時代に合わせたから、らしい。
雅季は昔の玉姫を知らないので本当かどうか知らないが。
「まあ、幻想郷縁起は紡ぎの書物、うちも協力しないとな。それじゃ、朝食の後に稗田邸に行ってきます」
「お願いねー。……あ、それと」
背を向けて歩き出した雅季の背中を玉姫が呼び止める。
「今日から三回目の大安に人里で祝言があるから、ちゃんと
「三回目の大安……
軽く二つ返事で、雅季は学校を『家業』で休むことを決め、再び歩き出した。
「長い時間取って頂いてすいません」
「いいって、幻想郷縁起は紡ぎの書物。うちも協力するのは当たり前だから。それに昼食も頂いちゃったし」
稗田邸の門口まで見送りにきた『九代目の阿礼乙女』稗田阿求は再度雅季に礼を述べ、雅季は手を振って答える。
紅華と朝食をとった後にそのまま稗田邸へとやってきた雅季だが、阿求との話が長引き、終わってみれば昼をとっくに過ぎた時間となっていた。
とはいえ、それは雅季が首謀者として異変を起こしたのことが全ての要因なので自業自得だろう。
「また異変を起こしたら話を聞かせて下さいね」
「いや、起こさないって。多分」
「わかりませんよ? 歴代の『結び離れ分つ結代』も結構やらかしていますし」
「あ、そうなんだ……」
自信満々に答える阿求に、雅季は引き攣った笑みを浮かべた。
雅季も六代前の『結び離れ分つ結う代』がやった事については充分に知っていた。
それによって『月の都』との関係が一層ややこしくなったことも。
だが、それ以外の『結び離れ分つ結う代』については初耳だった。
しかも阿求の様子を見る限り、随分と色々やらかしているらしい。
稗田阿求の出自は特殊で、輪廻転生前の全ての記憶を持ち合わせている。
ちなみに阿求は今代で九代目である。
その阿求が言うのだから、きっと間違いないのだろう。
実際に雅季も『幽縁異変』を引き起こしたわけであるし。
「ま、まあ、幻想郷縁起の編纂、がんばってねー」
「はい。お話、ありがとうございました」
阿求に別れを告げ、雅季は結代神社への帰路に着いた。
結代神社は人里の外れにあるとはいえ、普通の人間でも歩いていけるところにある。
夜はともかく、昼間なら神社までの往復路に妖怪が現れる心配もない。
「――じゃあ、最近珍味って評判のお団子屋さんの話は? 店主が代替わりして珍しい味に変わったんだって。まだ食べたこと無いけど」
「うーん、美味じゃなくて珍味っていうのは興味が惹かれるけど、味を記事にするのは難しいわね。他に人里で変わった話は?」
「後は……あ、ちょっと前に職猟師の雲松翁が今度は人魚を釣ったって噂になっていたよ」
「何と! これは本人に直接取材に行かないと!」
「雲松翁に?」
「いえ、人魚の方よ」
そう、神社までの道には現れない。
現れるのは境内だからだ。
「ただいまー」
「あ、おかえりなさい。雅季さん」
「あやや、雅季さんではありませんか」
「や、文さん」
雅季が神社に戻ってくると、境内には箒を片手に持った紅華。
その傍らには『伝統の幻想ブン屋』こと烏天狗の
様子を見る限り、どうやらお得意の取材ではなく二人で談笑(?)しているようだった。
紅華は人里ではかなりの人気を誇る。
礼儀正しく人当たりも良く、よく寺子屋で琴や裁縫など習い事を教えており、ついでに結代神社の巫女なので縁起も良い。
そして紅華は人里だけでなく排他的と評される妖怪の山の天狗達とも仲が良い。
特に射命丸文とは、こうして結代神社の境内でお喋りしているのを頻繁に見かけるぐらいだ。
荒倉紅華と射命丸文。
両者と、ついでに言えば妖怪の山の天狗達との関係の最初の発端は、天狗の長である天魔である。
何の接点も無いはずの天魔が何故か紅華の事を気に掛けており、それを知った天狗達の間に「荒倉紅華は天魔様の隠し子か!?」といった噂が広がりちょっとした騒ぎになったのが切っ掛けだった。
そんな噂が広まれば黙っていられないのが天狗の
文が初めて紅華の下へ赴いたのも、噂の真偽を確かめる取材のためだった。
尤も、取材相手が
初めて紅華と出会った文は、そこで紅華が同類であることを知った。
紅華は先祖返りの天狗の半妖であり、ある意味で『知識と歴史の半獣』
ちなみに、紅華が先祖返りの天狗の半妖だと知れ渡ると、今度は『その先祖が天魔様の隠し子だったんだよ!』説を生み出したとか。
文も最初は「どの天狗よりも早く真実を突き止めて記事にするため」に、度々紅華の前に現れていたのだが。
今となっては文がどのような想いで紅華の下へ訪れているのか、雅季は知らない。
少なくとも最近は紅華のことを取材するよりも紅華と雑談している時間の方が遥かに多いのは事実である。
それに結代だからこそ感じ取れる、紅華と文を結ぶ“良縁”が二人の間柄を雄弁に物語っている。
いつの間にか、あの文が取材用の口調すらも取り払って、お互いの口調が砕けたものに変わっていることが何よりの証拠だろう。
「雅季さんが幻想郷にいるなんて珍しいですね」
「そうかな? 月の三分の一ぐらいはこっちにいるけど?」
土日の休みだけでなく平日の放課後でも、暇があれば雅季は幻想郷にやって来ている。
「あやや、そうなんですか? それにしては
「雅季さんは幻想郷にいても、結代神社にいることは少ないですから。神主なのに」
紅華の言う通り、ただ結代神社にいないだけである。神主であるのに。
どことなく咎めるような目で雅季を見る紅華に、雅季は慌てて弁明する。
「や、そこはほら、色々と縁を結ぶための出張サービスだよ」
「博麗神社でお茶したり、紅魔館でアフタヌーンティーしたり、永遠亭で囲碁打ったりするのも出張サービスですか?」
「何故知っているし?」
「知りませんでした? 玉姫様の縁からは逃れられませんよ」
雅季の弁明は、ハリウッドデビューを果たして世界中に御利益の宣伝を広めた縁結びの神様の御神徳の前には無力であった。
「やや、『今代の結代、縁結びを放ったらかして放蕩!』。これは記事になりそうですね!」
文は妖しく目を輝かせて、文花帖に素早くペンを走らせる。
「待った、ちゃんと縁結びしているから。今度も祝言挙げるから――って、待てやぁーー!!」
そして雅季の話の途中で、記事にするために飛び立った。
飛び立った文を慌てて追い掛ける雅季。
尤も、烏天狗に相応しい速さで飛んでいく文に、残念ながら雅季では追いつけないだろうが。
こうして結代神社の境内には紅華だけが残された。
「ふふ」
既に空の彼方の小さい点になりつつある二人の後ろ姿を、紅華は目を細めて楽しそうに見つめる。
幻想郷は今日も変わらない日常が流れていく。
住人が住人なので、平穏とは程遠い日常ではあったが。
稗田邸、書斎。
「これで良しっと」
阿求は編纂した幻想郷縁起を満足そうに眺めて、もう一度内容を読み直した。
【結び離れ分つ今代の結う代】
結代 雅季(ゆうしろまさき)
【危険度】
低
【人間友好度】
中(※1)
【職業】
神主
【能力】
『縁を結ぶ程度の能力』
『離れと分ちを操る程度の能力』
【主な活動場所】
結代神社、無縁塚分社など(※2)
※1:結代は中立中道が基本である。
※2:とはいえ普段から彼方此方に出かけているため、いるのは稀である。
結代神社は稗田阿礼の頃には既に存在しており、その家系は今なお続いている。
彼はその代々続く結代神社の『今代の結代』の一人で、結代神社の神紋である『弐ツ紐結』の紋が入った浅葱色の神官袴を身に纏った少年だ。
結代家らしく『縁』を大切にし、広い交友関係を持ち、よく幻想郷中を飛び回っては知人友人に顔を見せに行っている。
その為、結代神社に行っても彼に会えない可能性の方が高い。本末転倒ではないだろうか。
【性格】
一概には言えないほど様々な顔を持っている。
子供のように遊び回ることもあれば、時たま歳不相応な森厳さを醸し出す時もある。
但し縁が絡んだ場合は、『今代の結代』として真面目に縁結びの導き手となる。
一つ言えることとして、神事や祭事は兎も角、普段の結代神社の掃除や雑務は全て巫女の荒倉紅華が行っているということだ(※3)。
※3:本人は何処かへ遊びに行っている。
【能力】
結代家は特有の能力を受け継いでおり、その一つが『縁を結ぶ程度の能力』だ。
その名の通り、己と他者の縁、或いは他者と他者の縁を結ぶ能力だ。彼の紹介や仲介で出会った人々は何れも良好な関係を築けている(※4)。
そして稀にもう一つの能力、『離れと分ちを操る程度の能力』を持つ者も現れる。
この能力は縁だけでなく物も離したり切ったりできる非常に強力な能力で、彼が空を飛べるのも「地面から自分を離している」からだ。
この二つの能力を持つ者は結代家の中では『結び離れ分つ結う代』を呼ばれており、つまり彼はそれに当たる珍しい今代の結代だ。(※5)
※4:友達を増やしたい方や恋人が欲しい方はぜひ彼を頼るといい。守矢神社の風祝もよく彼を頼って信者を集めている。
※5:本人曰く「こっちはついでというか、おまけみたいなもん」とのこと。それにしてはよく使っているように見えるのは気のせいだろうか。
【外の世界との関係】
結代神社の総本宮と結代宗家は外の世界にある。
元々、幻想郷に結代家の系譜は住んでおらず、幻想郷の結代神社の神主は
博麗大結界によって外の世界との隔離が決まった時も、妖怪の賢者達と結代家の間で話し合いが成され、結代家は特例として外の世界と幻想郷の行き来が許可されている。
よって、結代家は今なお外の世界と幻想郷という結界で隔たれた二つの世界を結んでいる。
以前の結代家は外の世界の結代神社の神主も兼ねていたため、神事の時以外に幻想郷を訪れることはあまり無かった(※7)。
現在は博麗大結界が張られた後の初めての『結び離れ分つ結う代』となる結代雅季が着任している。
彼も外の世界と幻想郷を行き来しているが、『離れと分ちを操る程度の能力』によって他の結代家よりも自由に行き来出来る。
※6:今は省略して淡路島と呼ばれている。
※7:結代家曰く「交通の便が悪くて中々行けない」。確かに結界の出入り口となる博麗神社は人里離れた立地条件だ。
【幽縁異変】
結代神社の神主であるが、首謀者として異変を起こしたこともある。
『幽縁異変』と呼ばれる異変で、無縁塚の幽霊が大量に人里へ流れ込んできて人々にまとわりついたという異変だ。
幸い人々の健康には問題無かったものの、自分の周囲を飛び回る幽霊を気味悪がる人々は多かった。(※8)
この異変は無縁塚の幽霊に縁を結ばせようと彼が起こした異変で、博麗の巫女が無縁塚に殴り込むことで解決したらしい。(※9)
尚、結代神社の無縁塚分社はこの異変の後に建てられたものである。
※8:「夏なら涼しくて良かったのに」という声もちらほら。
※9:珍しく巫女が仕事をした。
【対策】
彼自身や結代家に関しての対策は不要である。
だが忘れてはいけないのは、彼等は結う代であるということだ。
結代家は中立中道であり、幻想郷の今代の結代である彼は特にそれを意識している。
人間寄りではあるが、問答無用で人間に味方してくれるというわけではない。場合によっては幽縁異変のように敵対することもある。
また妖怪を退治することもあまり無い。(※10)
それでも、流石に妖怪に襲われているところを見かけたら妖怪を追っ払って助けてくれるので、彼と縁を結んでおいて何ら損は無いだろう。
※10:最近は例外があるらしい。
【結びの半妖巫女】
荒倉 紅華(あらくらくれか)
【危険度】
低
【人間友好度】
極高
【職業】
巫女
【能力】
幻覚を操る程度の能力
【主な活動場所】
結代神社、人間の里など
結代神社の神主を『今代の結代』と呼ぶように、巫女のことを『結びの巫女』と呼ぶ。
彼女は幻想郷の結代神社の結びの巫女である。
実は外来人であり、先祖が妖の血を引いており先祖返りで妖の血を強く引き継いでしまったため、外の世界にはいられず幻想入りした珍しい半妖だ。
今代の結代である結代雅季に誘われて結びの巫女になった。
【性格】
非常に温厚で礼儀正しい。また人当たりもよく、人里の皆からも好かれている。(※1)
彼女自身も人里をよく訪れるので、見かけたら挨拶してみるといい。きちんと挨拶を返してくれるはずだ。
たまに寺子屋のお手伝いもしており、子供達に授業を教えることもある。(※2)
女の子には授業の他にも琴や裁縫を教えている。
また天狗達の間でも遇されており、実際に何人かの天狗とも仲が良い。(※3)
これは彼女が先祖返りの天狗の半妖である為だ。
人間と天狗、人里と妖怪の山の双方に顔が効く人物の一人である。
ただし満月の夜は妖怪化しており性格が好戦的になっているので結代神社を訪れるのは控えよう。(※4)
妖怪化した彼女の髪は紅葉のように真紅に染まり、結代神社を訪れた者に強い幻覚を見せる。
幻覚を見せられた者は夢と現実の区別が付かなくなり、その晩自分が何をしたのかハッキリとわからなくなる。
※1:そこで付いた二つ名が『人里の
※2:現役の先生より教え方が上手なので親は無論、当の子供達からも人気は高い。
※3:結代神社で射命丸文とお喋りしているのをよく見かける。
※4:「満月の夜は悪縁」と天御社玉姫も公認。
【能力】
幻覚を操る能力を持つ。
幻視、幻聴、幻嗅、幻味などを自在に操り、無いものを在るように見せることが出来る。
五感全てで感じ取れる幻のため、見抜くのは難しい。
彼女の幻覚は非常に強力で、現実にも効果を及ぼす。
雨の中にいる幻覚を見せれば冷たいと感じるだけでなく、地面や服は何とも無いのに全身が実際に雨に打たれたかのようにずぶ濡れとなる。
幻覚とわかっているはずのナイフでも、指を切れば痛いと感じて実際に血も流れる。
彼女の話によると「思い込ませること」がこの能力の本質であるらしい。(※5)
また命蓮寺の住職(※6)の話を信じれば、彼女の能力は今では失われたはずの秘術の一つ、『幻実の秘術』である。
催眠術のようなものなのだろうか。
※5:フラシーボ効果。永遠亭の医者がよく使う。
※6:聖白連。真偽は不明。どうして彼女がそれを知っているのかも不明。
【対策】
普段は極めて友好的であるので、対策は不要である。
寧ろ警戒すると悲しそうな顔をされて、警戒する方がダメージを受ける。(※7)
ごく普通に接していれば何ら問題は無いと思われる。
但し、満月の夜だけは例外であり、妖怪化している彼女に近付くのはやめよう。
この時ばかりは普段の彼女とは異なり、妖怪らしく人間に幻覚を見せる危害を加えてくる。
双方にとって良くない縁である。
※7:精神的に。
【縁結びの神威】
天御社 玉姫(あまのみやたまひめ)
【能力】
縁を司る程度の能力
【危険度】
低
【人間友好度】
高
【主な活動場所】
結代神社など
結代神社に祀られる縁結びの神様。祝言でお世話になった人も多いはずだ。
古くからいる神様の一人で、朱糸伝説(※1)でよく知られる神様である。
この地に幻想郷が出来た当時に縁を祀る結代神社も建てられたが、彼女は神社を通じてよく幻想郷にも顔を出していた。
その為、神様の中では珍しく幻想郷と馴染みが深く、稗田阿一が著した幻想郷縁起(※2)にも彼女が登場している。また古参の妖怪達とも大体は顔見知りである。
今は幻想郷の結代神社を拠点としているが、外の世界でも大きな信仰を得ており、頻繁に外の世界と幻想郷を行き来している。(※3)
性格は軽く、容姿も現代風に合わせており、威厳よりも親しみを重視している。
また実際に、時折ではあるが人間関係や恋愛など縁結びに関わる相談事を打ち明ければ親身になって聞いてくれる(※4)など、人間と友好的な神様である。
種族としては神霊であり、元となった女性がいるという。
※1:本人曰く「馴れ初めの惚気話」。
※2:千三百年以上前に初代が纏めたもの。
※3:喩えるなら自宅が幻想郷で、勤め先が外の世界のようなもの。
※4:縁結び以外の相談はお断りされるが、別の相談相手を紹介してくれる。
【信仰】
朱糸信仰もしく縁結び信仰と呼ばれる信仰が彼女の力である。
多くの神様が様々な御神徳に手を出す中(※5)、彼女は昔から今まで縁結びの御神徳のみに専念してきた(※6)。
その結果、朱糸信仰は未だ外の世界でも信仰され続け、更にハリウッド(※7)にも進出して遠い異国にまでその信仰力を広げている。
正に縁結びの神様の代表格であり、知名度と御利益においても同じ御神徳を持つ大国主を上回るとされる。
※5:多角的御神徳。たとえば八坂神奈子とか。
※6:単一的御神徳。
※7:漢字で書くと聖林。聖なる林。異国の聖地であると思われる。
【能力】
良縁、悪縁、奇縁、因縁等あらゆる縁を司っている彼女には、その者の全ての縁がわかるという。
良い友人になれる者、逆に気が合わない者、更には当人達も知らない因縁を持つ者等、その者にとっての良縁や悪縁、奇縁となる者が誰で何処にいるのか。
また自分と関わりを持つ者、自分に何かしらの用事がある者がいま何処にいるのか。
そういった人間関係を全て把握しており、参拝に来た客に助言することで御利益を与えている。
彼女の手に掛かれば、将来の伴侶に成り得る良縁の異性も直ぐに見つかる。
【対策】
人間への敵意は無い為、恐れる心配は無いだろう。
失礼の無いように敬って参拝すればきっと良縁を結んでくれるはずだ。
だが逆に無礼な態度は避けるようにしよう。彼女を怒らせると祟りとして良縁ではなく悪縁が結ばれて災いが訪れるからだ。
特に浮気や不倫等、縁を蔑ろにすることは御法度なので注意しよう。
阿求は読み終えた原稿を文机の上に置くと、徐ろに座布団から立ち上がった。
「さてと、一息付きましょう」
襖を開けて阿求が書斎から出て行けば、後の書斎には誰もいなくなる。
故に、この時の阿求は気付かなかった。
自らがつい先程まで編纂していた幻想郷縁起。
その原稿の最後、読み直した時には確かに無かった箇所に、いつの間にかある一文が付け加えられていたことに。
――八雲紫、監修済み、と。
幻想郷縁起はあくまで稗田阿求がまとめたものであり、本当のことが書かれているとは限りません。