それでも俺はじゃが丸くんを売る   作:ドラ夫

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この話を書くときに何が一番大変かってサブタイトルを考える事です。
話の起伏が無いので大変です


お客様から学ぶ事

かつてこの街には2つのファミリアがあった。そのうちの一つを【ゼウス・ファミリア】と言った。

かつてこのファミリアはこの街で最も栄えたファミリアだった(・・・)

それも今は昔の話。今となってはその栄華は見る影もない。

ファミリアに所属していたものたちは主神共々この街を追われ、今は1人も残ってはいない

 

たった1人の例外を除いて

 

かつてその名を知らぬものは居らず、知性を持たぬ獣でさえもその名に畏怖したと言われる伝説の男。

【ゼウス・ファミリア】の元団長にして英雄の中の英雄。

かつての大戦の最中、戦友達が1人、また1人と倒れていき、ついに1人となりながらも戦い続けた鬼。

最初、神達は楽観視していた。いかに強かろうと所詮は1人の人間。全員で押し込めば、そのうちすぐに倒れるだろうと。

しかし、一週間が経ち、一ヶ月が経ち、一年が経った頃になってようやく神達は悟ったのだ、彼を倒すことは不可能だと。

たった1人の人間の為に自由気ままな神達は自分の意思を曲げ、条件付きの終戦を持ちかけた。

神達は彼が戦いを止め、自分達の監視下に入ることを条件に、彼の仲間の安全を保障した。

そうして彼は今、かつての憎っくき敵『狂神』の監視下の元、この街でひとかどの商人として暮らしているーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ていう話をしたらアイズたんすっかり信じてな『商人……それって!?』って言っとったで!」

 

体の一部、何処がとは言わないが、が少年の様に幼い彼女ーーロキはそう言ってゲラゲラ笑いながら地面を転がった

 

「はあ、神ロキ、何故その様な不毛な嘘をつくのですか。アイズ様の誤解を、こと剣術に関するものを解くのは大変でしたよ。それと、女性がその様に転げまわるのはあまり良くないと思いますよ」

 

「なんや、私の事女だと認識してたんか? まあ、それはそうとすまんかったな。ただ、子供達をからかうんは生き甲斐なんや」

 

「そんな事を生き甲斐にしないで下さい…… 『狂神』の名が泣きますよ?」

 

「そんな二つ名いくらでも泣かしとったらええねん!」

 

事の始まりは3日前。

いつもの様に彼が商売をしていると、いつもの様にアイズが店を訪れ、いつもの様にじゃが丸くんを注文した。

しかし、ここからはいつもと違った。

なんとアイズは彼に剣術の手ほどきをしてほしいと言ってきたのだ。

これには困った。

なんせ彼はただの商人。今まで包丁以外の刃物など数える程しか持った事はない。

当然、一流冒険者に教えられる事など一つもない。

彼はすぐに原因(ロキ)を思いつき、説得を試みるもアイズは剣術に関して、延いては強くなる事に関しては中々耳を貸してくれなかった。

やっとの思いで誤解を解いた時にはもう店仕舞いの時間。残ったのは大量の売れ残り。

普段温厚な彼といえど怒りを覚えるのは仕方のないことであった

 

「神ロキはこの店に立ち入る事を2週間禁止にします」

 

「すまんて!そ、そうや最近えらい繁盛してるなあこの店」

 

勿論、彼はそんな事をする気は毛頭無い。そしてロキもそれを理解してのっている。

普段の彼を知る人から見れば意外かもしれないが、彼はロキと話すときだけは結構ジョークを言うのだ

 

「ええ、光栄な事に繁盛させていただいています。光栄な事に……」

 

「寂しいんやろ?」

 

「・・・貴方に隠し事は出来ませんね。他のお客様が多く来られてしまうと、普段ご贔屓にして下さっているほとんどの方達は中々姿をお見せになってくれません」

 

普段ロキは夕暮れ時に来る。というのもじゃが丸くんが売れるのは大体お昼時であり、その時間帯になると客の姿はほとんど居らず、店長にちょっかいを出すのが目的のロキには都合が良かった。

しかし今日ロキが来たのは夜の帳が完全に降りてきた、店仕舞いの時間帯だ。

その理由はここ最近、店が非常に繁盛してまっているからだ。

誰もが注目する【ロキ・ファミリア】の遠征に使われた『じゃが丸くんーHot』は数日間の保温機能があり味も良いため、数日間ダンジョンに潜る二流以上の冒険者に非常に好評なのだ。

そしてそれ以外の人にとっても、憧れの冒険者達がこぞって買う物が自分達にも手が届く値段で売っているのだ。話題にならないはずがなかった

 

「ぎょうさん列ができたもんなあ」

 

「はい。『じゃが丸くんーHot』は作るのが中々大変でして、私の未熟な腕ですとすぐには作れないのです」

 

「粉の量が大変なんやったっけ?」

 

「ええ、多すぎると辛くなってしまいますし、少なすぎると保温効果が弱いのです」

 

「力になってやりたいんやけど、料理はしたこと無いしなあ」

 

「神ロキといえどお客様の手を煩わせるわけには……」

 

「遠慮せんでええのに。そや、ウチに少し作り方教えてくれや」

 

「他にお客様も居ませんし、構いませんよ。この粉を振りかけて作るのです。少し摘んで…指が汚れてしまいますね。では、こちらのスプー、ン…を……」

 

「どないしたんや?」

 

「申し訳ありません、神ロキ。今日の所はお引き取りを。新商品のアイディアを閃きました」

 

「ホンマか!ウチのお陰か?なら名前はウチに決めさせてや!」

 

「わかりました。出来たらすぐにお知らせしますので、ファミリアの皆さんで来てください」

 

「わかった、ほんなら今日は帰るわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後日、店長の店には新商品が出来た。

店の隣に備え付けのワゴンがあり、中には粉とスプーンが入っている。

このスプーンはひと匙でちょうど良い塩梅となるように設計されており、自分で粉を取ってじゃが丸くんが入った袋に粉を入れてシェイクして味をつけるのだ。

また、10ヴァリスにつき一回粉をもう一度掬う事ができ、冒険者の間で何処まで辛くしたものをたべれるか、という下らない争いが起きた。

新商品の名前は『しゃかしゃか♪じゃが丸くん』

この日から店長の店の周りでは紙袋を持った人達がしゃかしゃか♪するという珍事起き、話題となった

 

余談だが、そのネーミングから頼むのが恥ずかしく、店の前をウロウロするハイエルフと狼とボアズの姿があったとか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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【常連6】

 

俺は彼女、リュー・リオン様の事をほとんど知らない。

そして彼女もまた、俺の事をほとんど知らないだろう

 

「店長、じゃが丸くんの塩味を6つ貰えますか?」

 

「かしこまりました。180ヴァリスになります」

 

「はい」

 

「ちょうどのお預かりですね……これは?」

 

「アップルパイです。いつもご贔屓にさせて貰っているので、偶にはお返しを、と思いまして。ご迷惑でしたか?」

 

「迷惑だなんてとんでもございません。ただ、非常に美味しそうなので私なんかには勿体無いと、恐縮してしまいました」

 

「店長、これは私が貴方の為に焼いたものです。その謙虚さは美徳ですが、欠点でもあります。今回は私の感謝の気持ちを受け取ってください」

 

「・・・そうですね。失礼いたしました。有難く頂戴させて頂きます」

 

次は俺の方から何か贈ろう。

感謝の気持ちを感じているのは何も彼女だけじゃ無い

 

「今、お返しの品の事を考えていますね?」

 

「そんな事はございません」

 

「はあ、貴方はいつもそうやってサービスばかりして…… 偶には私にサービスさせて下さい。是非、今度『豊饒の女主人』にいらしてください」

 

「ええ、楽しみにしています」

 

「ところで、その、新商品がでたそうですね?」

 

「『しゃかしゃか♪じゃが丸くん』の事ですね。お1つどうです?味は保障しますよ」

 

「で、では頂きます。それでは、行きます!」

 

彼女は物凄い気合を入れて、おっかなびっくりしゃかしゃか♪しだした。

最初はぎこちなかったものの段々と慣れ、笑顔が溢れ始めた。

今では満面の笑みを浮かべて両手でしっかり紙袋を握ってしゃかしゃか♪している

 

ーー誰か、誰か俺にリュー様に『もうしゃかしゃか♪する必要はございませんよ』と言う勇気をくれ!

 

 

 

 

 

この商売は色々な事を教えてくれる。

例えばーー人を大切にするのに、誰かと心を通わせるのに、お互いの事を深く知る必要なんかないって事とか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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【常連2ー2】

頭が痛え。

関節節々も痛えな…

……何だか、さっきから昔の事ばっかり思い出すな。

 

おっと、お客さんか。

接客しなきゃな

 

「店長殿、しゃ、しゃかしゃ…新商品を一つ頼む」

 

「わかった、いくつ?」

 

「3つだ」

 

「ん、150ヴァリスもらおうか」

 

「ああ、わかっ…店長殿?」

 

「なんだ?」

 

「その、口調というか、雰囲気というか…今日はどうしたのだ」

 

「変か?」

 

「あ、ああ、少し。……顔が赤いぞ、まさか熱か?」

 

「わからん。ウチには鏡も体温計もないもんでな」

 

「よく見ると汗も大量に出てるではないか!」

 

「汗ぐれーかくっての。ジャガイモ常に蒸してるからな」

 

「そういう事ではない! というか口調が明らかに可笑しいではないか!」

 

「落ち着けよリヴェリア」

 

「な、名前呼び…だと…? いつも『フードのお客様』と呼んでいたのに…… 悪いが店長殿、私についてきて貰おう」

 

「それはちょっと、店があるーー」

 

そこまで言って店長はリヴェリアの手刀で気絶させられた。

いかに魔法特化といえど彼女は一流冒険者、何の力もない一般人を気絶させる事など造作もない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、もう一度言ってくれる、ベート」

 

リヴェリアが買いものに出掛けたまま帰ってこなかった。

これを心配したフィンはファミリアの面々に聞いたところ、ベートが店長の店に(しゃかしゃか♪じゃが丸くんを買うために)こっそり行ったところ、店長とリヴェリアがいたのを見たというのだ

 

「だから、店長がリヴェリアの事呼び捨てにして、その上砕けた口調で喋ってたんだよ!そしたらリヴェリアが慌てて店長を連れ去ってったんだよ」

 

「はあ、リヴェリア。君は一体何をしてるんだい?」

 

この日、【ロキ・ファミリア】でリヴェリアが店長と駆け落ちしたという噂が広まった





通常のじゃが丸くん=1つ30ヴァリス
しゃかしゃか♪じゃが丸くん=1つ50ヴァリスです

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