それでも俺はじゃが丸くんを売る   作:ドラ夫

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何も始まらない話があってもいいじゃないかというノリ


様々なオラリオの人々

【常連1】

俺はここ、【迷宮都市オラリオ】でじゃが丸くんを売る1人の商人だ。

俺の朝1日はジャガイモも茹でて、こすところから始まる。最早習慣になってること作業の速さは実は結構自慢だったりする。その後の調理方法は…企業上の秘密ってやつだ。

長年この店をやってきた俺だが、最近困ってることがある。それは、新しく来たバイトが『神』であることだ。神がバイトって…。

「おはよう店長!」

「おはようございます。神ヘスティア」

「むう、いつも言ってるけど、いいんだよ?敬語じゃなくて」

「いつも言ってますが、それは出来ません。さ、売り子をしてくださいね」

害はないってわかっちゃいるんだが、神はやっぱり少し怖い。神を身近に感じる冒険者達はそうでもないようだが、やっぱり俺たち一般人なんかからすると神ってのは畏怖の対象だ。

 

神ヘスティアは愛嬌があって優秀な売り子なんだが、問題がひとつだけある。それは…

「また出たな、ヴァレン何某!」

ウチの常連さんの1人と仲が悪いことだ

「…じゃが丸くん下さい」

「毎度ありがとうございます、常連さん。これ、サービスね」

「ありがとうございます」

「冒険、頑張ってくださいね」

 

 

 

「うー!」

「神ヘスティア、そう警戒しないで下さいよ。あの子はウチの常連ですよ?」

「わかってる!わかってるんだけど、僕のベルくんをたぶらかすんだよ、あいつは」

「まあまあ、今日も売れ残り持って帰っていいですから、そのベルくんと一緒に食べて下さいよ」

「いいのかい、店長!恩にきるよ」

「もう今日は上がっていいですから」

「そうかい、それじゃあまた明日!」

「はい、さようなら」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【勧誘】

ウチのじゃが丸くんは軽食なため、夜はほとんど売れないから俺でも1人でこなせる。

「よう、繁盛してるか?」

「神ロキ、こんばんは。おかげさまで繁盛させていただいてます」

「またそんなかたい挨拶しよってからに。ガキの頃から長年の付き合いやろ、うちら?いい加減喋り方昔みたいにしいや」

「一介の商人の私には畏れ多いことです。今日はなんのごようで?」

「・・・まあ今回はええわ。今日は勧誘に来たんや、うちのファミリア専属にならへんか?」

「良いお話ですが、お断りさせていただきます」

「なんでや?」

「オラリア最大の【ロキ・ファミリア】が1つの店を贔屓にしたら多くの人が良い印象をもたれないでしょう」

「・・・そんな細かいこと言う奴はウチが潰したる」

「それこそ、悪い噂が出ますよ。私なんかのために【ロキ・ファミリア】の優秀な冒険者達に迷惑をかけてはなりません」

「相変わらず細かいことまでよう考えるなぁ。まあええわ、そんなら今日のところは帰るわ。気が変わったらいつでも来てや」

「お待ちください」

「なんや?」

「ウチは飲食店です。こんなに長々話しといて何も買わずに帰る気ですか?」

「・・・やっぱりお前は根っからの商人やなぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【常連2】

「ひとついただけるだろうか?」

「塩味でよろしいですか?」

「かまわない」

このフードをすっぽり被ってるお客さんは、常連さんの1人の【ロキ・ファミリア】所属リヴェリア・リヨス・アールヴさん。なんでも『王族エルフ』である彼女はじゃが丸くんを愛食してることが恥ずかしいらしく、いつもこっそり買いに来る。【九魔姫(ナイン・ヘル)】とかいう2つ名が付いていて、オラリオではかなり恐れられているらしい。でも、こっそりじゃが丸くんを買いに来る、俺よりはるかに年上のはずのこの人はなんだが可愛らしい。

「いつもお越しいただいて、ありがとうございます」

「む、なんだその、ここの料理は美味しいから、な?」

「ありがとうございます」

「それでは」

「またのお越しをお待ちしています」

いつかフードを被ってない姿で買いに来て欲しいもんだ。その為にも『王族エルフ』が買いに来ても恥ずかしくないくらいの店にしなきゃな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【常連3】

この人は他の常連さんと比べると来る頻度はひくいのだが、その知名度と購入量が印象的すぎて物凄く記憶に残る。

「いつものを3ダース貰えるか?」

「かしこまりました。少々お待ちを」

このいつもダース単位で購入していかれるお客様は【猛者】オッタルさん。比較的小さいじゃが丸くんは彼の胃袋を満たすのには小さいらしく、いつも途方もない量を買っていく。いつもと比べると今日はまだ少ない方だ。

「全部で1080ヴァリスになります。…ちょうどのおあずかりですね。またのお越しをお待ちしております」

「・・・フレイヤ様もここの料理は美味しいと気に入っておられた」

「感謝の極みです」

口数の少ない彼だが、なんだか俺は彼を嫌いになれない。大きい手で小さいじゃが丸くんを持つその姿はなんだか、【猛者】なんて2つ名を忘れさせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【バイト】

「店長すまない、今月でバイトを辞めなきゃならない」

「おや、給金が少なかったですか?」

「そんなことはない!ただ、ベルくんの為に借金をしてしまって、その為に別のところで働くなきゃ行けなくなったんだ」

「なるほど、本当にベルくんを大切にしてらっしゃるのですね。…そういうことなら分かりました、今日はもう店仕舞いにしましょう」

「…店長?」

「ベルくんを呼んできて、何かご馳走しましょう。今日は私のおごりです」

「本当かい、店長!?ありがとう」

「今まで神ヘスティアにはお世話になりましたので、当然の事です」

「店長、君ってやつは…。何か困ったことがあればなんでも言ってくれ!いつでも力になるよ」

「ありがとうございます。神ヘスティア」

「じゃあ、早速ベルくんを呼んでくるよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【常連4】

「おや、今日はあの売り子はいないのかい?」

「彼女なら辞めてしまいましたよ」

「おやまあ、そいつは寂しくなるねえ」

「いえ、案外そうでありませんよ。だって…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「店長!今日も買いに来たよ!」

「待って下さいよ!神様ぁ〜」

「リリのことも置いてかないで下さいよ」

「へえ、ここが噂の店か」

「いらっしゃいませ、【ヘスティア・ファミリア】の皆様」

「いつも言ってるけど、敬語を使わなくていいんだよ?」

「いつも言ってますが、そんなことは畏れ多いです」

新たな常連さんが増えたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

ここ、【迷宮都市オラリオ】では様々な人がいて、色んなことが毎日目まぐるしく変わっていく。それでも俺は変わらずにじゃが丸くんを今日も売る。

 

 




こんな何もない話を読んでいただきありがとうございます。


たまにはこんな話もあっていいですかね?よくないか。
それではまた何処かで

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