けんぷファーt!   作:nick

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二章 ダイヤモンドヴァージン
第8話 Troublemaker


「あたしと付きあってよ」

顔を真っ赤にして、彼女は言った。

 

夕暮れの校舎、遠くから聞こえてくる部活に精を出す声、下校を知らせるチャイムの音…。俺が中学の時に体験したことだ。

 

そう、俺がこの後彼女に告げた答えは確か…

 

 

「―――――――――……」

 

 

 

     ☆     ★     ☆

 

 

 

そこで現在に戻された。なんか懐かしい夢だったな

 

さて、朝か。今日も元気だごはんがうまい

 

 

「もうお昼ですよ」とハラキリトラ。どうりでだるい訳だ

 

とりあえず腹が減った。

 

 

「パンが食いたいな…」

 

よし、チャーハンにしよう。いや、昨日の夜作って残りがあるからね。食わないと

 

今日も俺は朝から絶好調だった。いや昼か

 

 

     ☆     ★     ☆

 

 

 

ドンドンドンドンッ

 

レンジで温めたチャーハンを胃詰めていると、突然玄関のドアを叩く音がした。

 

うちのチャイムは随分前から壊れてるので、外からくる来訪者は大概ドアを叩きながら要件を口にする。なんでチャイム壊れてんだっけ

 

居留守を使おうかと思ったけど「早く開けなさいよ!」や「居るのはわかってんだから!」といった声がここまで響いてくる。ほっといたら近所から苦情が来そうだ。今日の奴はエライ乱暴だな…

 

 

「はいはい、今出ますよー」俺が玄関のドアを開けるとそこには信じられない人物がっ

 

待て!次回!

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「て、終わらせるな!!」

「ぐはっ!」

 

グーで殴られた。乱暴な

 

「あんた全然変わってないわね…」

「どちらさんで?」

 

「あたしを忘れてたの?」

 

女は口を尖らせ、不満をあらわにする。

 

多分そうなんだろう。俺は身体能力が少々高い代わりに記憶力が低いからな

 

 

「幼なじみのことぐらい覚えておきなさいよ」やれやれ、といった感じで目の前の娘は呟いた。

 

 

はて…幼なじみ……?

 

 

「俺が欲しかったのは美人で世話好きなツンデレな幼なじみだが」

「死んでいいから」

 

心の底からそうですって目だった。

 

……この物言いは…もしかして

 

 

「水琴…か?」

「やっとあてた」

 

近堂水琴。一才年下だが、幼稚園からの付き合いのあるいわゆる幼なじみだ。

しかし昔から学者である両親と一緒に世界中を飛び回っているため、幼なじみといっても正直微妙な感じだ。

 

 

「ずいぶん久しぶりだな、いつ帰ってきたんだ?」

「昨日、…ナツル。久しぶりに会う幼なじみにほかに何か言うことはないの?」

 

言うこと?言うことねぇ……

 

「少し太ったか?」

「死んじゃえ」

 

外したようだ。冗談なのに

 

まあ昔よりかなり美人さんにはなってるよな。つけあがるから言わないけど

 

 

「はぁ…あんたに期待するだけ無駄か…もういいや。いつまでも寝ぼけてないで、学校行こっ」

よく見るとこいつの格好は星鐵学院の制服だ。復学したのか。でも…

 

 

「今日は創立記念日で休みだぞ」じゃなきゃ流石に昼まで寝てねーよ

 

「えっそうだっけ?」

 

長年いなかったから忘れてたか。無理もない。

 

「ま、いいや。あがるよ」

水琴は気にした様子もなく家の中に入った。せめて返事聞いてからにしろよ

 

 

 

     ☆     ★     ☆

 

 

 

水琴の土産話がそろそろウザくなってきたころ。また玄関のドアを叩く音がした。

 

なぜか昼飯(チャーハン)を食ってる水琴をほっといて、ドアを開ける。

 

「どうも……」

 

紅音が頬を赤らめながら立っていた。なんで?

 

「あの…その……と・図書委員の集まりがあって…」

 

帰りに寄った、といったところか。

紅音の手にはケーキ屋の袋らしき物があった。気を利かせなくていいのに…

 

「まあ、あがってくれ」水琴がいるけど。

 

「あ…はい…」

 

俺の台詞に紅音は顔を明るくした。

 

リビングに通したら、調度品をいじっていた水琴が開口一番に。

 

「あれ、紅音ちゃんじゃん」

「…近堂さん?」

 

 

なんと、二人は知り合いらしい。いやまあそれも気になるが

 

 

「おいなんで棚とか時計とかが不気味な感じになってんだ?」

「ちょっと淋しい気がしたから飾り付けてあげたの」

 

ふざけんな、ぶち殺すぞ。なんか夜中に動き出しそうじゃねーか

 

「お土産だよ。うれしいでしょ」

 

 

本気か?つーかどこに持ってたんだ?よく税関とか通ったなこんな精神破壊物質?

見ろよ、紅音が顔青くして震えてんじゃねーか

 

 

「今すぐ元に戻せ」

「え〜なんで?」

 

本気なのかコイツ?むしろ正気か?

 

「なんでもだ」

 

水琴は渋々と調度品を元に戻し、紅音の持ってきたシュークリームでお茶にすることにした。

 

ちなみに紅音と水琴は中学からの知り合いらしい。

 

 

「ナツルは紅音ちゃんとどうして知り合いなの?」

 

どう答えたらいいか悩む質問だな

 

ケンプファー同士だからと言う訳にもいかないし、嘘でもついておこう

 

 

「図書館で本を選んでるうちに知り合ったんだ」

「ふーん、本のタイトルは?」

「『人をおちょくる二十の方法』」

 

聞いた瞬間二人は食っていたシュークリームを落とした。

 

……どうでもいいけど俺の分は無いんだな

 

 

 

     ☆     ★     ☆

 

 

 

次の日。

 

 

「ォォォオラァアッ!!」

 

ドヒュッ――――――ガッゴォン!!

 

「うおおっ、またやられた!!」

「ウソだろおい四人ついてたんだぞ!?」

 

体育館内で悲痛な声が響き渡る。

そしてそれ以上に驚愕の声も。

 

「オイオイ、今超弾道スリー決めやがったぞ!?」

「しかもフォームレス片手投げだよ…化けもんか瀬能(あいつ)は」

 

超弾道つうけど所詮ハーフコートのゴール下程度の距離だし。ヨユーヨユー

 

 

「ナイっシュー」

「お前と同じチームだと楽なのはいいけど、たまにはこっちにも回してくれよ」

 

同じチームの面子が賞賛の声をかけてくる。

普通ここまで実力あると孤立しそうなもんだが、高校に入ってからそういったことをされたことはない。

 

なんて言うか…あまりにも実力差がかけ離れてるとそんな気も起きねえのかな

部活動やってる連中なんて、なんとか技術を盗めないかと逆に近づいてくるし。たくましいね

 

そのおかげかどうか知らんが、星鐵学院(うち)は最近県内有数の強豪校にのし上がった。多分根性ある奴が多いからだろう。

女にモテるためと、全員動機は清々しいほど不純だが

 

 

「とかなんとか言ってるうちにドカーンっ!」

「ぎゃーーーすっ!?」

「トールハンマー!?キセキの世代かお前は!!」

 

「さらにフンフンフンフンー!!」

「フンフンディフェンスーーーー!!?」

「桜木か!てかもうデタラメか!!」

「キモイしこえぇぇーー!!」

 

体育は俺の独壇場だ。とくに競技系は。

 

 

「…平和だなぁ……」←体育教師

 

 

体育の授業中は大体いつもこんな感じです。

 

 

 

     ☆     ★     ☆

 

 

 

キーンコーンカーンコーン

 

 

「お。終わりか。よしじゃあ負けたチームは全員後片付け。勝ったチームは先に教室戻ってもかまわん。汗を流したい奴はシャワー室を使ってもいいぞー」

 

教師の言葉に、皆それぞれ適当な返事を返してから動きだす。

ある者はグチを零しながら、またある者は放課後どこに行くか相談しながら、ボールを片付けたり体育館から出ていったりする。

 

俺?俺はもちろん体育館から出ていく側。つーか後片付けしたことがない

 

 

「相変わらず豪快な試合だったな瀬能」

「大地」

 

ボールを片手に、いかにもバスケットマン!といった出で立ちの男が近づいてきた。

……どうしてこいつは学校の授業中なのにユニフォーム来てんだ?バスケ部アピール?

 

おっと、紹介が遅れたな。こいつは忌塚(いみづか)大地。星鐵学院二年三組、男子バスケ部のエースだ。

人当たりが良く、後輩からも慕われていて次期主将はこいつで決まりだろうと三年生から黙認されている。

 

 

入学した時は特に接点はなかったが、球技大会が終わった頃あたりからほぼ一方的に声をかけてくるようになった。

 

そのときの第一声は…だいたい予想つくだろ?

 

 

「まるで嵐みたいだったぞ。 その実力をぜひ!スポーツに活かしてみないか!?もちろバスケットで!!」

「お前授業終わると必ずそれ言いにくるよな…」

 

部活動に青春をささげる若者の典型的な姿だ。

 

お前ぐらいのもんだぞ、モテるためじゃなくスポーツのために部活やってるの

 

 

「当たり前だろ。俺はお前がバスケ部に入るまで言い続けるつもりだ。しつこさでは誰にも負けん」

「知ってるよ。怒鳴っても脅してもやめねーんだもん。もういい加減諦めたわ」

 

「ならばぜひバスケ部に!!」「それは断る」このやり取りにも慣れたもんだ

 

「なぜそこまで頑なに拒むんだ。楽しいぞぅ、バスケは」

「それは分かるが、バスケに限らず球技ってのはチームでやるもんだろ。俺と負けず劣らずの実力持った奴がいないかぎり入部(はい)るつもりはねーよ」

 

結局のところ、俺が帰宅部の理由ってそれだけなんだよね。めんどいからってのもあるけど

 

黄瀬君が羨ましいぜ

 

 

「そうか…残念だな…。お前がいれば全国制覇も夢じゃないのに」

「俺のことよりお前はどうなんだよ。左手、まだ治らないのか?」

 

そう言って包帯でグルグル巻きにされている腕を指差す。

 

なんでも二年になってすぐの時に怪我をしたらしい。大方練習のしすぎだろう。

 

それでも相談役やトレーナー(的ななにか)としてチームの力になってんだ。正直凄いと思うし、尊敬している。

 

 

「あ、ああ…よくはなってるんだが、中々な…」

 

なんか歯切れ悪いな…まさか!

 

「お前、もしかしてその腕で練習とかしてんじゃねえだろうな」

「………………(ふいっ)」

「目を背けんな!」

まったくもう…

 

「気持ちは分からんでもないが治療に専念しろよ…ここぞって時に困るだろ」

「わ、分かってるよ…」

「俺もお前のプレーを見てみたいしな」

 

いつも俺ばっかりが見せてるから。つーか大地がバスケしてるとこ見たことねえ

 

IH(インハイ)に間に合うのか?ブランク考えるとギリギリだろ」

「そこはなんとしても間に合わせてみせるよ。…先輩たちは今年で最後だからな」

 

 

先輩か、帰宅部にはまるで関係ない単語だ。なんか申し訳ないな

 

「それより、お前は行かなくていいのか?もう放課後だからきっと混むぞ」

「おっとそうだった」もう片付け終わってんじゃねーか

 

我先にと出口に向かう奴らの群に俺も続く。目指すはシャワー室だ。汗臭いままで帰りたくはないし

 

「またな、大地」

「ああ、またな」

 

 

 

     ☆     ★     ☆

 

 

 

「おいナツル」

 

汗を流してさっぱりし、さて帰るかと自分の席に戻った途端、東田(へんたい)に声かけられた。

 

「水琴ちゃん、帰って来たってそうだな」近づいてきて、馴れ馴れしく俺の首に腕をまきつけてきた。

 

「なんで知ってんだ」

「日頃から教職員に金掴ませてるからな」

 

コイツみたいなのが今の世の中を上手く渡っていけるんだろう。でももっと他のことに使おうよその努力

 

「な。こんど、水琴ちゃんの写真撮らせてくれよ」

 

自分が頼んでも無理だって分かってんだろうな

 

 

「撮った写真売るのか?」

「まあな。そうだ、一年の可愛い子を隠し撮りしたヒット商品があるんだ。一枚どうだ?」

 

いらんわい。聞いた話じゃコイツはしょっちゅうこういうことをしているらしい。

写真の技術は高いんだが、その八割は隠し撮りだ。いつか捕まるぞ

 

 

「やだよ。自分で勝手に商売されてるなんて知ったら怒るだろ。第一俺が言っても無駄だ」

「そこを何とか。大丈夫だ、お前の頼みなら聞いてくれる」

「やだっつってんだろ。あいつ怒ると(こわ)いんだぞ。もうミコトスペシャルは食らいたくない」

「なんだその必殺技っぽいの」

 

俺も知らん。食らったと思った瞬間、病院で寝てたからな。なんでも三日三晩生死の境をさ迷ったらしい。

頑丈に産んでくれた両親に感謝しなさいと医師に言われたが、その目は―――つーか顔は―――笑ってなかった。

 

「悪いことは言わん、諦めろ」

「そうか…残念だな……」

 

俺の真意が伝わったようで東田は本当に残念そうに引き下がった。葬式に行く準備をしなくてすんだな

 

これ以上教室にいても特にいいことはなさそうだ。そう思い鞄を掴み、帰り支度を始める。

 

 

(ガララッ)「失礼します。瀬能ナツルさんはいますか」

 

とっさに窓から飛び出しそうになった。何でだろ?

 

「おいナツル、あの子生徒会の役員だぞ」

 

東田の言う通り、女子生徒は役員を示す腕章を付けていた。

 

「生徒会長がお呼びです。至急生徒会室までお越し下さい」なんか真面目そうな生徒だなあ。

 

「…拒否権は?」

「ないです。ついて来てください」

 

彼女は言うことだけ言って、すぐさま背中を向ける。その態度にとりつく島もない。

 

雫からの呼びだしか、なんか嫌な予感がするなぁ。

さっさと帰ってりゃよかった

 




けんぷファーt!だけのオリジナル新キャラクター。忌塚君登場です。
キャラモデルは黒●のバスケの宮地清志さん。でも刺すぞとかは言わないヨ

あそこまで高い身体能力持ってたら部活加入者はほっとかないっしょということで登場させてみました。友達のいない……じゃなくて少ないナツルに友達を作ってあげれてまさに一石二鳥。

次回はあの三人が登場します。

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