けんぷファーt!   作:nick

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第70話 Running

 

フラウィスの宿で一夜を過ごし翌日。疲れも取れたので早速行動することにした。

俺らの目的はゲームクリアであって、観光することじゃないからな。さっさと次に行こう。

 

あと結局、袋はこれからも俺たちと行動を共にすることに決めたようだ。どうでもいいことだな。

 

「じゃ、組分けするか」

 

流石にこんだけの人数が一緒に行動するのは非効率すぎる。

二・三人でばらけた方がいいだろう。

 

「この街でやるべきことは、大きく分けて三つ。情報収集・金策・買い物だ。三グループでそれぞれ一つづつこなして行こうと思う」

 

三つ全部まとめてできりゃそれに越したことはないが、それやろうとすると超ダルいからな。どれも中途半端になりそうだし。

 

「てめえにしちゃあ悪くねえ提案だがよ、どう言う風に分けるんだ?」

「くじ引きで…」

『私達もやるのか?』

 

……悪魔二体で一組出来たら困るか。

それはそれで、初めてのおつかいみたいな感じで物陰からこっそり見てみたい気もするけど。

 

「あー…じゃあ俺と玲ちゃん・ルナ・ヘリオスで情報収集。紅音・善くん・ジェフで金策。袋が買い出しで問題ないか?」

「分かった」「ああ」

「ナツルくん、よろしくね!」

「って俺だけなんで一人班!?」

 

買い物なんて楽な仕事、一人で十分だろーが。

 

「善くんなんて問題児の面倒見なきゃいけないのに文句一つないんだぞ。ちったあ見習え」

「その問題児ってのは誰のことだオイ…?」

 

エジソンだよ。

 

「今が七時くらいだから、午後一時に宿の前に集合ってことで。散開!」

 

俺が号令をかけるとそれぞれが行動しようと動き出す。

 

さて、うちはまず…

 

「あいす〜」

「がっ、ちょっ、玲ちゃん!?さっき朝ごはん食べたでしょう!?」

 

もう腹減ったのかよ!?燃費悪すぎだろ!!

 

『ナツルとレイちゃんは仲よしだホー』

「そういや前も一緒に行動してたな。おめえガキに噛まれる趣味があったのか?」

「酷い誤解!!」ちょっと引くように後ずさりするのヤメろ!

 

ぐああっ、たっ体力が!体力が減る!せっかく休んで全回復したのに!

 

「まずは食料だ!屋台探すぞ!ヘリオス着いてこい!!」

『屋台のある場所に行くのが先か、ナツルが逝くのが先か。勝負だな』

 

シャレにならんわ!

 

 

 

     ☆     ★     ☆

 

 

 

「やは、ぼくみっふぃー!よろしくね☆」

『急にどうしたのだ』

 

街の中心部(と思われる場所)の通りで屋台を見つけ、玲ちゃんの胃袋に食材をチャージしていく。

 

「とろろ?あなた、とろろってゆうのね?」

『私はヘリオスだが』

「そんなこと言う人キライですっ」

『悪魔なのだが…』

 

君のような疎いガキは嫌いだよ。

 

「随分デカイ建物だな」

 

屋台をハシゴしていくと、巨大な施設を中心にぐるりと輪になって設置されてるのに気づいた。

あいにく中には入れないようなので、何をするところなのかは分からない。見た目はローマのコロッセオか?

 

『…ナツル。頭は大丈夫なのか?レイに噛み付かれて脳を吸われたりしてるんじゃないか?』

「何言ってんのお前?」

 

そんな恐ろしいことある訳ないだろ。SFかよ。

 

……………ない…よな……?

 

今の自分が本当に本物の自分なのかと、なんとも言えない不安が頭を掠める。

 

「にいちゃんたち、この街は初めてかい?」

 

すぐ側にある串焼きの屋台―――食ったこと無い味だけどなんの肉使ってんだ?―――の店主が話しかけてくる。

 

「そうだけど」

「じゃあ知らないだろうな。あれこそがこの街自慢の闘技場、『ローレルズルカス』だ!」

 

まんまコロッセオだったのかよ。

 

「見たところあんちゃんたち冒険者だろ?近々開かれる大会に出てみちゃどうだい?」

「いや、急に言われてもな」正直まったく興味ない。

 

「俺らも先を急ぐ身だからな。できればさっさと次の街に行きたいんだ」

「なら尚更大会に出た方がいいかもな」

 

ん?なんて?

 

『それは何故だ?』

「優勝すると賞金のほかに、副賞で船のチケットが貰えるんだ」

「船!?」

「うわびっくりした!」

 

玲ちゃん何急にいきなり、今まで串に夢中だったのに。

 

「船!船!乗ってみたい!です!」

「玲ちゃん船乗ったこと無いの?」

「うん!」

 

あらホント?そんな人間いるんだな。俺なんか七・八歳の時点で何十回は乗ってるぞ。(※場所は全て沖縄。漁業目的での乗船)

 

『私も無いな』

「まぁお前はな」猫だし。

 

というかワイナから出たことないんだろ?あそこ海どころか湖もないじゃん。

 

「でもそういうことなら乗ってみるのもアリか。できるなら楽して移動したいしな」

「ははっ、まあそうだろうな。歩いても行けないことはないだろうが、そんな命知らず年に数人もいないぜ」

 

ん?歩いて?

海面を歩く奴なんているのか?

 

「よかったら乗船場を見てきたらどうだ?北の方へ進めばあるぜ」

 

通りに沿って指差し、オヤジは一方的に会話を締める。

微妙に会話が噛み合ってなかった気が…その疑問も見に行ったら解決するのか?

 

街中のマッピング終わってないからどっちにしろ行くつもりだけど、気になるから先に行ってみよう。

 

 

 

     ☆     ★     ☆

 

 

 

午後一時。

 

一旦集合場所に戻り、全員と合流。

その後、紅音と善くんの案内のもと、冒険者ギルドに移動する。食事処も隣接してるらしく、丁度いいから昼を食いにきた。美味いといいな。

 

「で、めぼしい情報はあったか。ナツル」

 

丸いテーブルを挟んで向かい側の席に付く紅音が口を開く。

お前昼飯パンケーキかよ。普段とのギャップ酷いぞ。

 

「はむはむはむはむ…」

 

その紅音の隣で一心不乱に特盛カツ丼を頬張っているのは玲ちゃん。お前それ三杯目だろ。串焼きをたらふく食ったのにまだ胃に入れるのかよ。

 

普段とのギャップが酷い…

 

「おいてめえ聞いてんのか」

「なんだよせっかちだな。このチェリーガールが」

「はあ!?」

 

紅音の顔がサクランボのように赤く染まる。

 

「ちょっ、ナツルさんっ?なに言ってるんですか急に、」

「黙れ小僧!貴様にサンが救えるかーーー!」

「あじゃぱっ!?」

 

両腕を振り上げると、プリズム状のエネルギーが地面から噴出して袋を巻き上げる。

へっ、汚ねえ花火だ。

 

ドサッ!「ぐはっ!」ガンっ!「べぴっ!?」

 

床に落ちた袋の頭に、一緒に飛ばされた椅子がジャストミート。やったねパパ、2HITだ!

 

 

「…おいクロ猫、あいつどうしたんだ。いつにも増しておかしいぞ」

『原因は不明だ。レイが離れた辺りから発言が摩訶不思議になる時が出来た』

「玲はなにもしていない筈だ」

「噛まれてSAN値でも下がったか?まあ目障りになったら殴りゃいい。それで戻るだろ」

 

 

この味がいいねってキミが言ったから、6/24はサラダ記念碑。

 

「街を出るだけなら特に問題はないみたいだ。ワイナの時のように冒険者ランクを上げる必要もないのはありがたいな」

 

自分で頼んだピザををつまみながら、得た情報を口にする。

 

「唐突に話題が戻ったな…」

『先程もそうだったぞ』

 

なんか言ってるみたいだけど無視。

 

「準備が整えば、すぐにでも出発はできる…が、問題がある」

「問題?」復活した袋が椅子に腰掛ける。

 

「どうもこの街、最北端は崖になってるみたいでな。次の街に行くには峡谷越えをしなきゃならんようだ」

「はあっ!?マジかよ!」

分かるよ紅音ちゃんその気持ち。俺も確認したときおんなじ事思ったから。

 

「峡谷はどのような形なのだ?」

『深さは約1000m。向こう側までは歩いて20日はかかるだろうとの事だ』

「その記録も何十年以上も前のって話だし、今行ったらもっと時間かかるだろーな。オマケに年中霧みたいなのがかかってて全貌が掴めないときたもんだ」

 

崖下はいったいどうなっているのやら。濁流の川になってるのかもしれないし、菌類の王国が出来てるかもしれない。興味はあるけど知りたくはないね。

 

例えなにもない普通の地面だったとしてもだ、怪鳥やワイバーンみたいな翼のあるモンスターがあちこち飛び回ってる。ロッククライミングでもしようもんならすぐに餌になるだろうな。

 

 

「じゃどうすんだよ?」

「心配せずとも通行手段はちゃんとしたのがある。安全かつスピーディに行ける乗り物がな」

 

この世界の奴は『船』って言うようだ。が、俺が見た感想は超巨大なロープウェイだな。

いやまあ、乗り物自体は豪華客船みたいな形してたけどさ。…正直あんなものを綱(実際は違うのかもしれないけど)一本で吊り上げてる光景を見たときは、我が目を疑った。

なんで落ちないんだ?

 

「あ、それなら安心ですね。なにが問題なんですか?」

「乗船料お一人さま百万円」

「高っ!!」

 

従魔は召喚器に入れられるから料金は発生しないとして、全員で五百万かかる。大金だねぇ。

 

「高えよ!なんでそんなすんだよ!?」

「飛行系モンスター避けのマジックアイテム。船の維持費等。あと設備も一流ホテル並らしくて宿泊費も込みで算出すると最低でも百万は貰わないと割に合わないんだろ」

「現実的!」

 

世の中そんなもんだよ。

 

貨物の輸送だけならもうちょっと抑えられるけど、俺らは向こう岸に渡りたいんであって郵送が目的じゃないからな。

 

「どうするのだ?そんな大金は持ってないだろう」

「うん、無い。そこで!」懐から一枚のチラシを取り出し、テーブルに叩きつける。

 

「なんだこりゃ。モンスタータッグトーナメント?」

「この街で月一に開かれる、従魔とコンビを組んで強さを競う闘技大会だ。優勝者には乗船券がプレゼントされる」

 

パーティ組んでりゃ他の面子も合わせて使えるプレミアチケットだ。これで勝つる!

 

袋?知らんな。

 

「開催日は一週間後か」

ノーネーム(うち)にいる従魔は三体。三組で出場すりゃ優勝狙えんだろ」

「ナツルさんとヘリオスのタッグなら勝てる奴いないと思いますけど…」

 

言いすぎだろそれは。俺以上なんてごまんといるさっ。

 

「おいナツル。これ出場するのに店舗の推薦が必要みたいなこと書いてあるけど、その辺当てはあるのか?」

「え?」

 

 

テンポスイセン?

 

あらためて卓の上のチラシを覗いてみると、隅の方に『※出場にはフラウィスの街商店の紹介状必須』と書かれていた。

 

 

………………………

 

 

「さて、じゃあ残りの問題を解決しようか」

「てめー見てなかったな」

 

違うんです違うんですわざとじゃないんです本当にうっかりなんですだから笑顔で額に青筋立てるのやめてくださいお願いします。

ここが非戦闘地帯じゃなかったら銃で撃たれてたぞ。

 

「今からどこかの店で貰ってくるのは無理なのか?」

「紹介状ってそんな簡単に書いてくれるものなんですかね…」

 

難しいだろうな。

 

推薦ってのは、ある程度相手を知っていて、尚且つ『こいつは勧めるに値する』と信用してないと出来ない行為だ。

たかだか数日そこらでそんな関係を築けるわけがない。

 

かと言って今回を逃すと次は一ヶ月後だ。どうすっかな。

 

 

「あんたら、大会に出たいのかい?」

 

 

「ん?」

頭を悩ませていると、別のテーブルからいかにも冒険者風な出で立ちの男が声をかけてきた。

 

「話は勝手に聞かせて貰ったよ。確かに今から信頼して貰える店を見つけるのは無理だろう」

「やっぱりそう?」

じゃあ大会出れないな…冒険者ランクでも上げるか?

 

「ただ一件だけ、すぐにでも紹介状を書いてくれそうな店がある」

「え?」

「ホントですか?」

「ああ、そこはプレイヤーがやってる店でな。いい奴だから事情を話せば力になってくれるだろう」

 

プレイヤーの…大多数がここで生活してるってのは聞いたが、店開いてる奴もいるのかよ。

 

ちょっと興味も出てきたので地図(自作したやつ)を広げて場所を聞くと、ここからそう離れていないようだ。これから行ってみるか。

 

「けどいいのか?あんただってプレイヤーだろ。大会に出ないのか?」

非戦闘地帯(こんなとこ)で魔法攻撃使える奴がいるのに出場出来るかよ」

 

どうやったんだ?って眼で尋ねられたが、黙って首を振る。俺が知るか。

 

「現チャンピオンが君臨してからはずっと優勝者が固定されてて、大会はマンネリ化してるんだよ。あんたが出たら面白くなりそうだ」

「さよけ」

「それに店主に頼まれてるんだよ、有望そうなのに勧めてくれって。……逆らうと怖いからな…」

 

今最後なんつった?声小さくて聞こえなかったんだけど。

 

 

「とにかく楽しませてくれよ。期待してるぜ」

 

一方的に話を切り上げて、男は店を出ていった。

 

推薦してくれるかどうか分からない筈なのに、俺が出場するのが当然みたいな口ぶりだったな…ま、いっか。

 




・うろたえるな小僧ども!!
 目の前にプリズム状のエネルギーを噴出させて攻撃をする必殺技。セイント星矢でシオンとかが使う技。

〜〜オマケ〜〜

「あの、玲さんずっと話に参加せずに食べ続けてるんですけど…」
「そっとしといてやれ。海が見れると思ってウキウキしてたのに、崖しかなかったんだ。やけ食いしたくもなるだろ」
「おかわり!」

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