三年が経った。
嘘だ。ジェフを仲魔にした日から二・三日程度だ。
装備品が変えられないというショッキングな事実が判明したが、めげずに依頼を受け続けた結果、晴れて全員がFからEにランクアップした。
そして今日、旅立ちの日を迎える。
「やっとここから離れられるな」
正門前。街の外へ出るための審査を待つ間、感慨深く呟く。
漸く次に進めるぜ…
「ひたすら面倒だった」
紅音ちゃん文句ばっかのわりには真面目にクエストに取り組んでたよね。
楽しげに見えたんだけど俺の気のせい?
「私と玲はこの街から出たことがないのだが、目的地はどのような所なのだ?」
「どうなんだ?」
善くんの質問をそのまま袋にパスする。
いや、この中で一番詳しいのアイツだけだし。
「俺も詳しくは知らないです。βテストの時は
「使えねえ」クズが。
「…一応ギルドで訊いてみましたけど、ゲームクリアのために行かなければならない『最果ての地』は北にあるらしいです。そしてその途中にある街はワイナを除いて5つ」
そういえばそんなクリア条件だったな。
ここまでの道のりが長かったから忘れてたよ。(←オイ)
「まずは次の街を目指しましょう。自由に出入りが出来るみたいで、拠点にしてるプレイヤーも多いそうですよ」
「本格的に生活基盤作ってんのかよ」
現実よりゲームの中の方がいいのかな。気持ちは分からんでもないが。
俺もこの呪いの装備がなかったらもうちょい楽しめたんだけどな。
『君達は最果ての地を目指しているのか?』
ヘリオスが突然会話に割り込んできた。
そういや言ってなかったか?
「そうだけど、なにか問題でも?」
『いや…私はこの街から出たことがないから、その場所がどのような所なのかは知らない。ただ…』
「ただ?」
『最果ての地へ向かい、帰ってきたものは誰もいないそうだ。…悪魔も含めてな』
「……………」
ヘリオスの真剣な物言いに、全員が黙り込む。
とてもシリアスな雰囲気だ。…どうでもいいけど、そこへ行って帰ってきたものはいないってよく聞く台詞だよな。
『とはいえ、ここからかなり離れた土地の話だ。単純に途中の街で永住を決めた可能性もある』
『ホー!でも、最果ての地は悪魔も行くのを躊躇うとこだホー!なにがあるか、知ってる奴は誰もいないらしいホー!』
悪魔二体が危険を訴えるとなんか…ワクワクするな!なにがあるのか超興味ある!
大秘宝とかあるかな?
「大丈夫だよ!」
ヘリオスとジェフの言葉で沈みかけてたその場の空気に、今までルナと戯れていた玲ちゃんが声を上げた。
「なにがあるのか分からなくっても、みんなで力を合わして諦めずに進んでいけば、きっと乗り越えられるよ!」
「玲…」
「玲ちゃん…」
「だから心配しないで大丈夫だよ!ねっ、ナツルくん!」
なんでそこで俺に振るかな。
心配とか微塵もせずに心躍らせてたんですけど。
「……そうだね」
両拳を握りしめ、やる気満々な表情で見つめられると浮かれていた事に罪悪感を覚える。
やめて!そんな目でわたしを見ないで!
無垢な存在に心が押し潰されそうになった瞬間、タイミングよく職員の声が響いた。
「パーティ:ノーネームの方々。審査が終わりましたのでこちらへどうぞ」
「あ、はーい」
全員で門の方へ歩いていく。
「お待たせしました。審査の結果は問題ありません。ギルドカードをお返しします」
台詞と共に鉄っぽい材質のカード(ランクアップに伴って材質も上がった)を渡される。
「ご苦労さまです」
「…皆様の旅に幸運を」
申請を請け負った職員の女性は、俺の台詞に一緒目を見開いて驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み言葉を返してきた。
なんだろう。労ってくれる人いないのかな?異世界ものだと獣人って下に見られたりするからな。
まあ多分、もうこの街に来ることはないだろうし、気にしないことにしておこう。面倒だし。
「ナツル、次の街までどのくらいかかるんだよ」
「地図を見ると結構距離があるな。道なりに行けば四・五日はかかるんじゃないか?」
「メンドくせえなぁ」
「そう言われてもな…」どうしようもないわ。
いや、単純に一直線で計算すれば一日くらいは減らせるかもしれないだろう。しかしまさかこいつも街道を無視して真っ直ぐ行こうとは言うまい。
『街の外って、なにがあるホー?オイラ生まれたばかりだから、楽しみだホー!』
『たまにやって来る人間の話を聞く限りでは、楽しいだけではないようだ。しかし興味をそそられるのは間違いない』
「がんばろうね、ルナ!」
クルルルルっ!!
「…………」
「……?善くん?どうかしたのか?」
みんなが意気揚々と開かれた門を潜る中、なぜか一人だけ立ち止まる。
それに気づいて振り返るとなぜか、眩しいものを見るように目を細めている彼がいた。
「いや…懐かしいと、思ってな」
「懐かしい?」
「ああ。あの時も未知の場所に挑むというのに、皆楽しそうだった」
「………」
「私も玲も、街の外に出る気はなかった。ここで残りの生を過ごそうと思っていたんだ。…君に会うまではな」
「瀬能。君にはきっと、人を変える不思議な魅力があるのだろう」
「はぁー?ねーよ!んなの」
「フッ…、君らしい返事だ」
薄く笑い飛ばし(首輪で口元見えないけど)、善くんは玲ちゃんたちの後を追うように歩き出す。
…………
出会った時から気になってたけど…
俺とあいつ、前に会ったことあるのか?
全面的に寄せられる無類の信頼といい、性格を分かってるみたいな言い方といい。
まるで十年来の友人みたいな付き合いをしていたみたいだ。
俺は全く知らないのに。
この疑問もいつかは解けるんだろうか?
なんとなくだが、ただ
「課題が一つ増えちまったな」
手がかりも当ても、二人の少年と少女のみ。
それに気を割きながら、一度も死ぬ事が許されないゲームをクリアする。
やれやれ。ちょっぴりしんどい、といったところか。
「ま、気長にやるかな」
深刻に考えると疲れるし。無責任に行こう。
「ちょっ、みんな置いてかないで!」
「すみません。審査が済んでない人の通過はご遠慮願います」
パーティに入ってない袋は(なぜか)審査が後回しにされ続けて、一人だけ街からなかなか出れなかった。
>合流にはまだ時間がかかりそうだ。
>見なかったことにしよう。