ナツルがタメ口なのはクエストが終わって依頼主じゃなくなったからです。
「話は済んだかい?」
武器屋のオヤジが話しかけてくる。そういえばずっと放置だったな。
「職人としては妖精を手放すのはちと惜しいが、開けてくれたら中身はやるって言っちまったからな。それをどうしようとあんたらの勝手だ」
なんかムッとくる言い方だな。
しかしこれがこの世界の常識なんだろう。俺たちだって服を作るのに蚕を使う。
見た目が違うだけだ。一概に否定は出来ない。
「それより、ついでといっちゃなんだがなんか買っていかんか?見たところあまりいい装備をしてないだろう」
「そうだなぁ」
そういえば初期装備だった。袋意外。
どうせだから整えていくか。
「どんなのがあるんだ?」
「おおっ、買ってくれるのか。色々あるぜ、ちょっと待ってな」
店主が店の奥に走っていく。
数分後、色々な武器を持って戻ってきた。
なぜか革鎧のような物まである。
「うちは武器屋だが、簡単な防具も扱ってるんだ。ま、初心者用だな」
その分安いぜ、とウインクが飛んでくる。やめろキモい。
剣や斧、弓とかは使う奴がいないからいいとして…紅音に拳銃でも買ってやるか。
あ、善くんにもお土産でボウガン買ってあげなきゃ。
「そういやあんたら、召喚器はどうした?」
「召喚器?」
「そっちの坊主は付けてるみたいだけど、他の奴は持ってないのか?」
そう言って店主が指を差す。
その先にいるのは袋だった。
「ああ、ヤツは……なんだろうな。とりあえず俺たちとは別パーティだから装備が違うんだよ」
『>他プレイヤーかr「No」パーティ申請が却下されました』
しつこいなもう、いい加減諦めりゃいいのに。
「しつこいのはあんただろ!もうそろそろパーティに入れてくださいよ!!」
「そんな日は来ない」
永久に。
「それより召喚器ってのは…確か悪魔を仲間に出来る物だっけ?」
「厳密に言うと仲魔(配下にした悪魔)を収納しておける…ま、仮初めの家みたいなもんだな」
ざっくりと雑な説明をしながら、俺が開けた金庫に近づいていく。
しばらくがさがさと手を動かした後、中身を持って再びカウンターに戻ってきた。
「こいつが召喚器だ」
台の上に無造作に置かれるオラクルベr…じゃなくて携帯端末のような機械。
「これって一個いくらぐらいするんだ?」
「それなりに値は張る…と言いたいが、タダでいいぜ。こいつも金庫に入ってたものだからな」
ヤダおじさん太っ腹…!どう考えても ん十万はしそうなオーバーテクノロジーの塊なのにっ。
まぁ無料でくれるってんなら文句はない。遠慮せず貰ってこう。
きっとこの店は副業やなんやで色々と儲けてるから金に頓着してないんだろう。
「どこに装着すりゃいいんだ?」
「利き手と逆の腕だな。仲魔の呼び出しや…
店のオヤジに訊きながら、紅音と玲ちゃんが腕に召喚器を付けていく。
「あれ、袋は?」
「ふっくんは、善に召喚器届けに行きました!」
そりゃまたご苦労…ってふっくん?玲ちゃんアイツのことふっくんって呼んでんの?
なんかひと昔前のアイドルみたいな呼び方だな。袋のくせに。
「(バチッ!)っ、なんだ?」
他の二人に倣って俺も召喚器を…と思って手を伸ばしたら、静電気が発生したみたいな感触とともに弾かれた。
「…?」
眉をひそめながらも、再び手を伸ばす。今度は触れた。
じゃあ装備しようとすると――
「(バチッ!)、あ"あ"っ?」
また弾かれた。なんなんだよもう!!
「どうしたのナツルくん?」
「いやなんか…装備ができねえんだ」
「はあ?どういうことだよ」
いや、俺にもさっぱり…
その後も何度も何度も試してみるが、その度に紫電とともに弾かれる。
本当になんなんだ一体。
「おいおいニイちゃん。道具を装備するなら一度外さないとダメだぜ」
どうしたもんかと悩んでいたら、店主が口を挟んでくる。
一度外すって…ああ、鉄甲のことを言ってるのか?
確かにこんなゴツゴツとしたもの(しかも肩まで覆っている)付けてちゃあ、他の物を装着するのなんて無理だよな。
じゃ、ちょっとの間だけ装備を外して……
…………………外れない。
なんだこれ。どんなに力を込めてもビクともしねえし。
あ、いやアレか。外れないのはゲーム開始初日に試したわ、そういや。
……じゃどうすりゃいいんだ。
「オヤジ、この鉄甲を付けたまま召喚器を装備する方法はないか?」
「おいおいニイちゃん。道具を装備するなら一度外さないとダメだぜ」
「外せねーんだよ。防具…いや武器?まあどっちでもいい、外れない装備を外す方法を教えてくれ」
「おいおいニイちゃん。道具を装備するなら一度外さないとダメだぜ」
「いやだから!その装備が外れねえんだよ!だから鉄甲を外すか、その上から装着する方法を――」
「おいおいニイちゃん。道具を装着するなら一度外さないとダメだぜ」
「ループやめろNPC!」
会話ループが発生するほど外しようがないのか!?初期装備だぞこれ呪われてんの!?
「ダメだこのおっさん、てんで使えねぇ!袋ー!!」
店外に出た男を大声で呼び出す。
つーかボウガン渡すだけなのにちょっと時間かけすぎだろ!ちゃっちゃと戻れよ!
「なんですかいきなり大声で…」
「召喚器が装備できん!なんとかしろ!」
「あんたもですか」
あんた "も"?
え?なに?善くんも弾かれるの?やった、ちょっと嬉しい。
「装備品はステータス操作して装着するんですよ」
ステータス操作?
「ステータスってただ自分の情報確認するだけじゃないのか?」
「え?」
え? "え?" ってなんだ "え?" って。
すぐに袋に促されて、自分のステータスウインドを開く。
そして言われるままに操作してみるが…ページ移動とアイテム選択くらいしかできなかった。
「そういえばナツルさんのステータス画面、俺たちのと違うんですよね」
「ディスガイア仕様だ」
『ディスガイア?』
ゲームだよ猫さん。
「そのせいでバグが起きてるのかも…ステータス上で出来ないなら直接装備してみるしかないですね」
そうすると弾かれるんだよバカ。
「………えっと…装備出来ない理由…多分ですけど、ナツルさんの武器ってその鉄甲ですよね」
「そーだよ」
今さらどうした。
「基本的にこの世界、"装備を外す"って概念ないんですよ」
…意味が分からん。
「身体のどこか一部には必ず接してなきゃいけないみたいなんですよね。鞘に入れて帯刀してたりとか…ほら、この前絡んできたプレイヤーからも盗れなかったでしょ?」
「そんなこともあったな」
「新しい武器を装備する時も、前の武器を押し出すような形になる訳です。銅の剣 → 鉄の剣 ていう風に」
うーむ…つまり、鉄の剣を手に持った(装備した)状態じゃないと銅の剣を外せない訳か?ややこしいな。
………ってちょっと待て。
「つまり鉄甲を外せないのは」
「装備なしを防ぐため、ですね」
シット!なんだその矛盾した理由!?
鍵を無くしたくないから金庫に入れるみたいだぞ!
「召喚器が装備出来ないのは重複が出来ないからじゃないですかね。分類的には小手みたいなもんですから」
「装飾品の癖に!」なんて融通のきかない世界だ。
まあ悪魔のスカウトが出来ない…あと仲魔にした奴のスキルが使えない程度ならいっか。他の面子にやってもらおう。
…魔法が撃てないのはちょっと残念だけど。(自力で使えないかな)
「ナツルさん余裕ですね」
「あ?いや悪魔召喚が出来ないのは残念だけど…」
「…分かってないんですね」
なんだその不憫な奴を見るような顔。
「付け替えが出来ないってのは、武器だけじゃなくて防具にも言えるんじゃないですか?そもそもその鉄甲って防具でしょ?」
…ちょっと、なにをいっているかワカラナイナ。
防具…この場合はあれか。サムライ制服か。
新しく別のを着る場合、一旦脱ぐ必要がある。
しかし装備は外せない。
…………
いやいや、言っても服だろ。脱ぐなんて簡単…
「て簡単に脱げるじゃねーか」
試しに上着のジャケットみたいなのから袖を抜いてみると、あっさり身体から剥がせた。
机の上に置いてみてもなんの変化もない。無駄にビビらせやがって。
「ブーツとかも試してみてくれませんか?」
「おお、いいぞ」
こんなもん楽しょ――
「外れねぇぇぇぇ!!」
両手で力一杯、ブーツから足を引っこ抜こうとしてみたがビクともしなかった。
シャツやベルトも試したが同様に外せない。
ナニコレ接着剤でも使ってんの!?
「確定ですね」
「なんだナツル、お前服脱げねーのか?これから近寄んなよばっちいから」
「なんで上着は脱げるんだよ!」
あと紅音失礼!
なん…て…こった………これから俺はずっとこのサムライ制服と初期装備の鉄甲を身につけていかなければならないのか?ゲーム終了までずっと?
周りの人間は火や雷なんかの属性が付いた剣や伝説の名前が付いた厨二刀を装備するだろう。
自分はちがう。
派手な鎧や防御力の高そうな服を着た人間にもこれから先何人も出会うかもしれない。
自分はちがう。
俺だけこれから先。終始、サムライ隊士姿。
「どんな縛りプレイだよ!格好くらい好きにさせろ!」命かかってんだぞ!
「着ぐるみとかは服の上から装備出来ますよ。防御力ゼロですけど」
「うわーいやったー てアホか!!」
なんの慰めにもなんねーし!
トロフィー獲得!
(銅):聖衣なしでも戦うのさ!
・妖しげな鉄甲
ナツル初期装備。付け替え不可。
長所しかない、てのは無いと思うんですよ。人も物も。
長所があるから短所がある。その逆もまた然り、みたいな。
ナツルくん短所ってか欠点だらけだけどね。戦闘一点特化。