けんぷファーt!   作:nick

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第30話 思い出したくないことほど忘れてしまえない

 

とりあえず家で一服した後、学校へ向かう。

今日は気分で一日男子部にいることにした。

 

もともと女で学校行く日はランダムだ。規則制持たせるとバレそうだから

 

それにここ最近は女子部に入り浸ってたし、しばらく男でいいだろう

 

この考え方は明らかにおかしいとは思うが、気にしてはいけない。ストレス溜まるから

 

 

午前中の授業をそこそこ真面目に受けて昼休み、図書館に来た。

 

無論本を読むためじゃなく、会長に用事だ。幸いと言うか何と言うか、今日紅音は当番じゃないらしい。

昨日の今日で会いづらいからちょうどよかった

 

「ナツルさん」

 

生徒会室に行こうとしたら声をかけられた。

 

この声は沙倉か

危うく沙倉さんと呼びそうになったが今の姿を思い返し、

 

「沙倉か」

なんとかそう返し、声のした方へ振り向く。

 

 

「なにか用か」

「ちょっとお願いがあるんですけど、いいですか?」

「俺にできることにしてくれよ」

「あの本を取って欲しいんですけど…」

 

そう言って沙倉が指差した棚の本は、彼女では少し届きそうにない高さにあった。

 

「いいぞ。…これか?」

 

手に取ったもののタイトルは『無口が直る本』。

 

 

なんでやねんな

 

 

「いえ、その隣の本です」

 

その言葉に持ってたのを棚に戻し隣のを引き出す。

よかった。ありがとうございますとか言われなくて

 

 

「料理の本か。見なくてもそこそこ作れんじゃねーのか?」

取ったブツを手渡しつつ、何気なしに訊いてみる。

 

「ありがとうございます。今度、お客さまに食べさせてあげたいんです。でも失敗したくないから」

「お客さまって…?」

 

おそらくは土曜日のことを言ってんだろうが、念のため訊いてみる。

 

「雫ちゃんと…女子のナツルさんです」

 

沙倉はニコニコとしてとても上機嫌そうに答えてくれた。

 

こいつの料理がマズいと言う噂は聞かないから、多分酷いことにはならんだろう。

―――ある一品が出なければ

 

 

「一ついいこと教えてやろう。カレーは出さん方がいいぞ」

「なんでですか?」

「カレーを食ったら発狂すると言ってたからな」

 

嘘のようだが事実である。といっても中二の時だが

 

治ったと思ってたのに…見えを張って林間学校で口にするんじゃなかった

 

あの結果がそこそこ慣れてきたクラスメイト達との溝を深め、ぼっち街道を爆進する一端を担ったのは間違いないだろう。

まさか三年三学期まで誰にも話しかけられないとは思わなかった

 

 

「…ずいぶんあの人に詳しいんですね」

 

その三年三学期、最初に話しかけてくれた人が、急に声のトーンを下げた。

さっきまで明るい雰囲気だったのに、心なしか目つきもキツくなっている。

 

 

「ご忠告ありがとうございます。でもわたし、負けませんから」

 

そう言い残すと、怒ったような―――実際怒ってんだろうが―――様子でカウンターの方へと足早に歩き去っていった。

 

 

…そういやライバル宣言されてたんだっけ。余計な一言だったかな

 

でも必要な助言だったしな…もしこれで当日カレーが出たら、俺は本当に発狂するかもしれない

 

 

 

     ☆     ★     ☆

 

 

 

生徒会室前

 

前回は確かミスコンに出場してもらうために来たんだっけ

今回は礼儀を無視して入ろうと思う。

まず深呼吸。次に

 

「たのもう!!」

 

勢いよく扉を開け放つ。

気分は道場破りだ

 

「生徒会室にそうやって入るのはあなただけよ」

 

会長は特に気にした様子もなく、机の上に手を組んで乗せて優雅に椅子に腰掛けていた。

もう少しリアクションってもんが欲しかったんだが

 

 

「? 前に来たときとインテリアが変わってんな」

「ええ。安くて質のいい机を見つけたから」

 

お前が買ったのかよ

 

「…まあいいや。沙倉の家に行く人数が増えたぞ」

 

時間が勿体ないから単刀直入に切り出した。長居する気もないし

 

「美嶋さんかしら」

「そうだ」

「脅されたの?」

「…………」

 

無口でいると軽蔑の眼差しで見られた。

 

「みっともないわね」

 

 

コイツのこうゆうとこがマゾの心をくすぐるんだろう。

俺はゾクゾクはするが屈辱の方が強い

 

 

「銃持った奴に迂闊に逆らえるか。至近距離で撃たれたら避けれる自信ねーよ」

「美嶋さんだって女の子なんだから、一皮剥けば大人しいでしょう。優しくしてあげたら」

「付け上がるだけだ」

葛原のとき助けに行ったが礼の一つも無かったしな

 

「…私が言ったのは変身前に戻ったらってことよ」

「自分、不器用ですから」

 

俺としては十分優しくしてるつもりなんだ

どうも異性との…異性だけじゃないけど、人付合いは苦手だ

 

 

「…ま、困るのは私じゃないからいいのだけれど」

 

俺自身は全然よくないんだが

 

「いいわよ、美嶋さんが来ても。楓には私から言っておくわ」

「たのむわ」

「一つ貸しよ」

 

最後のは聞こえなかったことにした。

 

 

 

     ☆     ★     ☆

 

 

 

生徒会室から図書館への帰り道。

 

なんの脈絡もなく腕輪が急に点滅し始めた。

 

俺は慌てず急いで人目につかないとこに移動する。

するとすぐにケンプファーに変身した。

 

しばらく男でいようと思ったのに…残念

 

 

しかし久々に腕輪が光ったな

自分の意思で変身できるようになってからは特に反応しなかったのに

 

…そういやこの学校、いったい何人のケンプファーがいるんだ?

 

俺、紅音、会長、…葛原に大地。それに突然襲って来た名も知らぬ女

 

それ以外いると聞いてないが、もしかしたら把握してないだけで在籍しているかもしれない。うまく隠れてるとか

 

 

考えながらも周りを警戒してたら視界を横切る人影が見えた。

 

慎重に追うと、本棚の陰から本棚の陰へと逃げていく。

 

進む。逃げる。

進む。逃げる。

 

どんどんひと気のないところへ誘導されていってる。明らかに罠だな

 

どうする?相手の正体は気になるが、このまま追うべきか、追わざるべきか…

 

 

「止めとこ」

「ちょっと!!」

 

踵を返したら頭上から怒鳴られた。

 

仕方なく振り返ると、本棚の上に腰に黒鞘の日本刀をぶら下げた金髪の見知らぬ美少女が立っていた。

 

…下着見えてるぞ

 

「見つけたわよ青のケンプファー!まさかこんな非常識だなんて…」

 

 

本棚の上からパンツ見せてる奴は常識的なんか?

 

 

少女は俺の顔を確認すると、驚愕といった顔をして

 

「あんたは女ナツル!なに、ケンプファーだったの!?」

 

 

ひと気がないとはいえまったく人がいないわけじゃないんだからそんな大声で正体バラすなよ

 

…というかコイツもしかして……

 

 

「近藤水琴?」

 

ためしに指差して言ってみると、あからさまに動揺し始める。

 

「なっ…み・水琴じゃないわよ!!」

「いやでも」

「違うったら違うの!!わたしは水琴みたくかわいくないもん!」

 

 

間違いない、コイツ水琴だ

 

すこし違和感を感じたがこんなウザい言い方は本人じゃなきゃできるわけねぇ

 

 

「もう…とにかく!」

 

そう言うと水琴は鞘から日本刀を抜き、上段に構えて本棚から飛び降りてきた。

 

「死ねぇ!」

「いきなり死ねかよ…!」紅音(猛犬)かお前は

 

その場から離れて反撃…しようとして躊躇う。

 

その間に相手は次の攻撃準備を整えて

 

「くらいなさい!」

 

今度は横薙に刀を振るってくる。

それが当たらなかったら次は逆方向からの胴切り。

 

間違っても受けるわけにはいかないので、それらの攻撃を全てかわしながら考える。

 

 

向こうは分かってないけど俺たちは幼なじみだ。それと戦えるのか…?

 

ふと思い出が蘇る。

 

 

 

 

幼稚園のころ。川に浮かんだ発泡スチロールの船に乗せられ、太平洋横断をさせられそうになった。

 

小二のころ。黒をベースにした緑の斑点のあるキノコを食わされ、40度以上の高熱がでて苦しんだ。

 

小四のころ。バレンタインにチョコと見せかけた激辛カレールーを食わされる。あまりの辛さに地面をのたうちまわった。

 

小五のとき。カレー中毒になり入院、約半年間闘病生活を強いられる。

 

中一のとき。未知を求め富士の樹海に(無理矢理)足を踏み入れた。

三ヶ月後必死の思いで生還したとき(なぜか俺の部屋でくつろいでた)、奴の一言………

 

 

 

 

なんだナツル、まだ迷ってたんだ。だらしないわね

 

 

 

 

「なっ!?あんた、なによそれ!?」

「え?」

 

思い出(悪夢。ちなみにこれだけではない)に浸っていると、急に水琴が攻撃の手を止めた。

 

そして顔を引きつらせて俺の後方斜め上を凝視している。

気になって振り返ってみれば、そこには…

 

 

 

 

『…………』

「…………」

 

なんか変なのいた。

 

身体は全体的に赤く、格好はミニスカート。

両手には背中を通して羽飾りみたいなのがついている。

 

 

なんかどっかで見たことある

 

 

『…我は汝…汝は…我』

 

頭の中で声が聞こえた。

 

 

>過去のトラウマと向き合う強い心が力へと変わる…

 

>瀬能ナツルは困難に立ち向かうための外殻の鎧、コノハナサクヤを手に入れた!

 

 

 

いろいろおかしい

 

 

まあ手に入るってんなら深く気にしなくてもいいか。遠慮せず貰っとこう

 

 

「ふっ…ふんだ!なによ!そんなの見せたからって、あたしが怖がるとでも思ったの!?」

水琴が叫ぶ

 

「お生憎様!世界中飛び回ってるとね、そんなわけわかんないものなんてザラなんだから!」

「そのわりには膝が笑ってるみたいですが」

「うっ、うるさいわね、武者震いよ!」

 

ほう…そうか。産まれたての子鹿のごとく頼りないな

 

ていうか今水琴だって認めたようなもんだぞ。この学校に世界中飛び回ってるって経歴持つ奴なんか他にいねーよ

 

 

「もうあったまきた!我が名刀、ハットリ・ハンゾウの錆となれー!!」

 

そりゃキルビルだろーが。そもそもケンプファーの武器に名前なんかあるかよ

 

 

勢いよく突っ込んで来る水琴に、とりあえず後方で浮いてるサクヤを向かわせる。

 

どうして動かせるかって?情熱(ハート)だよ

 

 

「このっ!」

 

飛び掛かってきた異形の存在を、水琴は刀を振るって迎撃する。

 

ギャギンッ!サクヤを横回転させ羽飾りで受けたら、そんな音がした。

 

 

材質がむっちゃ気になる

 

 

「やっ、はっ!」

 

水琴は二撃、三撃と連続して斬りつけてくるが、その全てが羽根でガードされるか避けられる。

 

いい加減諦めてくんないかな

 

 

「てやぁっ!!」

 

どガッ!

 

何度目かの攻防の末、ついに水琴がクリーンヒットを奪った。

 

てかコイツ、鞘で殴打しやがった!

 

「隙あり!」

 

そう言うやいなや、右手に持ってい刀でサクヤを斬りつける。

 

無防備で刃を受けたサクヤは、虚空に溶けるようにして消滅した。

ちょっと切ない。斬られただけに

 

 

「どうよ!(ボムッ!)ふきゃん!?」

 

左に鞘、右手に刀を持って得意げに笑う水琴の顔面が、突然爆発する。

 

 

まあ俺がやったんだけどね

 

あのドヤ顔についイラっときて…

 

 

「ちょっ…なによ今の!?炎の錬金術!?」

 

自分を襲った謎の爆発からすぐに立ち直った水琴は、若干涙目になりながらも睨みつけてきた。

 

「ていうかなんであんた無事なのよ?ちゃんと斬ったじゃない!」

「いや、あれ感覚リンクしてるわけじゃないし」

「なにそれ!?スタンド方式採用しなさいよ!」

 

無茶言うな。元は魔法(ツァウバー)の炎だぞ

 

「それに!さっきから喋り方とか雰囲気とか、聞いてたのと違うんだけど!ネコ被ってたの!?」

「あたりめーだろ」隠す理由も見当たらないので、堂々と言い返す。

 

 

「御託はいいからさっさとこい黒パンツ。大人っぽいとでも思ってんだろうけど、外側も中身もガキじゃアンバランスなんだよ」

 

 

 

ブチッ

 

 

 

次の瞬間、水琴がものすごいスピードで迫ってきた。

そのままの勢いで刀を振り回すので、慌てて本棚の上へと逃げる。

 

「待ちなさいっ!たたっ切ってやるんだから!!」俺が乗ってる本棚を切り崩しながら、水琴は暴れ回った。

急いで他の棚に飛び移ると、その棚もバラバラに斬られる。

 

 

かなりマズいことになった

少しでも挑発になればと言った言葉が、こうまで効くとは思わなんだ…

 

 

次々に足場を切り崩されては、別の本棚に飛び移るをくり返しながら、次の手を考える。

 

 

とりあえず逃げよう

 

んで何処か、今以上に人目につかないとこで変身を解こう

 

今はまだケンプファー状態だから向かってくるが、まさか男子部までは追ってくまい。そもそも俺が女ナツルと同一人物だって知らないだろうし

 

 

 

「待ちなさいこのヘタレ!あんたなんか切って刻んでみじん切りにして、何種類かのスパイスや野菜と一緒にじっくりことこと煮込んでやるんだからー!!」

 

 

 

……バレテナインダヨネ?

 

なんでそんなピンポイントな処刑方を…、そんな死に方したら来世でもカ…に苦しめられるか浮かばれないまま霊としてさまようことになる。絶対に逃げねえと

 

 

ボヒュッ

 

今度はさっきと違い、普通の火球を水琴に投げ付ける。

 

「こんなのっ!」横薙の一撃で火球は塵となった。ちょっとショック

 

でも泣かない。(おとこ)の子だもんっ

 

 

――地烈斬!

 

 

震脚の要領で地面を強く踏みつけると、振動で本の残骸が勢いよく空中へと飛び上がる。

 

そしてそれらは辺り一面に紙吹雪のように散らばり、視界がほぼ零になった。

 

その間に出口目掛けて走る。方角は本棚の上に乗ったときに確認済みよ

 

 

「あーっ、こら待ちなさい!」

 

しばらくして紙がほとんど地面に落ちたのだろう。後ろから水琴の怒鳴り声が聞こえた。

 

大地の時とは違い、今度は待たなかった。コックの刑だけは御免だ

 




 無口が直る本
  マザー2。ゲームです。いったいなにが書かれているのでしょうか
 地烈斬
  FFT。大地の怒りがこの腕を伝う!防御あたわず!



トロフィー(銀):もう一人の自分? を手に入れました。
トロフィー(銀):火炎の錬金術士 を手に入れました。


この主人公、もう止められる気がしない。


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