けんぷファーt!   作:nick

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※一部の登場人物の性格が原作より過激?になっております。ご注意ください。


五章 It's a small world
第29話 不自然なガール


文化祭最終日。今日も喫茶でメイド服に身を包んでいる。

これで終わりと思うと感慨深く…なるわけは当然無い

 

見たとこ紅音は休みのようだ。

多分昨日のことが原因だろう。変身後ならともかく、あんなに色々あって精神的に限界がきたんだと思う

 

あんな…

 

 

 

『対等な関係であるためにはきちんと返してもらわなきゃね?』

 

 

 

目をつむると雫とのキスシーンが蘇り顔が熱くなる。

 

 

ぐおああぁ……!

 

 

「ナツルたんどうしたのー?初キッスしたばっかの男子学生が思い出して悶えてるみたいに顔赤くしてー」

 

そう話しかけてきたのは女子部2-4の副委員長。

なんでそんな具体的なんだよ…

 

「いえ、持病です…」

「ふーん」

 

自分から訊いてきたにもかかわらず、興味なさげに接客に戻っていく。

 

ちょっと酷くない?

 

「瀬能さん」

名前を呼ばれたのでそちらを向いてみると、委員長がこちらを見ていた。

 

彼女は(見た目)邪気のない笑顔で手招きしている。腹黒メイドが…

 

 

正直全力で気づかなかったふりをしたい

 

 

でもそうすると後が怖すぎる。逃げ道絶ったあと他クラスに無断レンタルとか普通にするからな

 

 

仕方なく歩み寄っていく。

…今すぐメテオ発動しねえかな

 

「…なんですか」

「そろそろ勝負のときです。これが成功するか否かでクラスの命運が決まります」

 

委員長が眼鏡を光らせながら、指でクイクイッと動かし戯言を吐く。

これでクラス一頭がいいってんだから手に負えない

 

「大袈裟な…学院の理事でも来るんですか?」

「おしいけど違います。VIPには違いありませんが」

 

なんだそりゃ

 

「それと私がどう関係が?」

「相手がナツルさんを指名してきたからです。…来たようですね」

 

 

委員長に促され、仕方なくドアのほうへ行く。

 

そのVIPはよく知った人物だった。

 

 

つーか雫だった。

 

 

「……オカエリナサイマセゴシュジンサマ」

「ええ、ありがとう」

 

片言の棒読みテンプレを気にした様子もなく、さらっと流しやがった

 

チクショウ…!嫌がらせに来やがったな…!?

 

「…席に、案内します」

 

返事を聞かずに即座に反転。行き先はVIPルームだそうだ。

あとから聞いた話じゃ雫の来店に合わせて作ったらしい。

 

てことは最低でもミスコン後に作ったの?無駄にすごくね?

 

雫が座り、食券を渡される。

 

紅茶か。コーヒーはなにかわけの分からないものを入れてるからいい判断だ。(飲んだ客が病みつきになるとか言ってたけど大丈夫なのか?)

 

実際、食券を見せたら会計が舌打ちした。あの黒い粉にはいったいなにが…

 

 

「いい茶葉ね」

「そうですか」茶に詳しくないので適当に相槌を打つ。

 

紅茶の香りを嗅ぎ、一口飲んでから感想を零す。

普通の行動のはずなのにコイツがやると大富豪がテラスで茶を楽しんでるみたいだ。

 

「…相席してくれないの?」

「そういったサービスはしていませんので」

なにをされるか分かったもんじゃない

 

しかし突然後ろから押され、椅子に倒れこんだ。なんで?

 

 

「要望に応えるのがメイドのつとめです」

 

 

委員長がしたり顔で言ってくる。どうやら突き飛ばしたのは彼女のようだ。

 

メイドじゃねーぞ俺は

 

「お客様はご主人様です」

 

反論しようとしたら先に言われた。利益は俺にもくるんだろうな

 

 

「まだ出てきてはないようね」

「マックロクロスケか」

「新たなケンプファーよ。昨日言ったでしょう」

 

そうだったっけかな

 

「新しいケンプファーが出てきたら具体的にどうすんだ」

「敵か味方かで対応が変わるけど、質問するだけよ」

 

「拷問じゃなくて?」

「あなた…私をなんだと思ってるのよ」

「ちょっと生意気な女の子」

「…この歳で女の子扱いされたのは楓以外で初めてよ」

「やったね」俺も男の子扱いされたの久しぶりだよ

 

「あんたもしかしてそれ言うためだけに来たのか?」

「実はそうなの。…って言いたいけど、そうじゃないのよね」

 

どういう意味だ?

 

「ナツルさん!」

 

ギクリ。この声は…!

 

「やっと来れました。寂しかったですよ〜」

 

やっぱり沙倉だった。

 

沙倉は入店するなり、迷わず躊躇わず俺のもとにやって来て両手を掴んで目を覗き込んでくる。昨日も会ったじゃん

 

「本当は初日…いえ準備期間から来たかったんですけど、クラスの出し物に手間取っちゃって…」

 

出し物?

 

「楓、とりあえず食券を買ってきたら?」

「あ、雫ちゃん。 …そうね。うん、行ってくる」

 

会長の提案に沙倉は頷き、一度外にある食券売り場に歩いていく。

 

その際指名もしたようだ。もちろん俺を

 

「…あんたが呼んだのか」

「楓が来たがったのよ」

 

コイツ一人でも嫌なのに佐倉まで…、なんの悪夢だ

紅音がいたらいっそうややこしかっただろう。いなくてよかった

 

 

「…ところで沙倉のクラスってなにやってんだ?」

「臓物アニマルの展覧会よ」

 

 

超絶嫌すぎる。誘われてもぜってー行かねえ

 

 

 

     ☆     ★     ☆

 

 

 

「ナツルさん、メイド服似合いますね」

 

戻ってきた沙倉を含め、三人でしばし雑談をすることになった。

 

「そうですか?」

「はいっ、ナツルさんならなんでも似合いますよ。臓物アニマルとか…臓物アニマルとかっ」

 

それはない

 

「…魔法使いでも?」それとなくかまをかけてみる

 

雫の方を横目で見ると特に変わった様子はなかった。

しかし沙倉の反応を伺ってはいるようだ。

 

「それって、イギリスの学校が舞台なのですか?」

キョトンとした顔で聞き返してくる。

 

特に怪しいとこはないみたいだが…

 

「格好よりも実際に魔法を使うところがいいかもね」

雫が話に参加してきた。

「手から火を出したり」

 

……かなりスレスレな気がすんだが

 

「あっ、ナツルさんなら格好いいからありかも」

 

しかし沙倉は無邪気にはしゃぐだけで他に変化はない。

ホントにモデレーターと関係あんのか?

 

 

その後もケンプファー等の単語を伏せていくつか話しを進めたが、どれも目立った反応はしなかった。

 

……ケーキを食べさせ合うといううれし恥ずかしなイベントもあったが、それはカットさしてもらう。

 

 

「これだけしてもらったら、なにかお礼がしたいんですけど…。ナツルさん、ぬいぐるみとかどうですか?」

 

沙倉が軽く拳を作り、口元にあてて考える風にして尋ねてくる。別にいらん

 

…仮にここでもらったらメッセンジャーが二体になるのかな

 

 

「キス、とかどうかしら?」

 

 

会長が突然、いつもと変わらぬ口調で提案してきた。

 

 

「し・雫ちゃん!キスって…!」

「あらダメなの?」

「ダメって…わっ、私はいいけど……」

 

いいんかい

 

「でも…その…ナツルさんが…それに場所も」

「あら、意外。そういうの気にするのね」

それは同意

 

「もうっ、雫ちゃん!」

「冗談よ。でもそうね、私は気にしないけど…初めてならもう少し静かな所がいいわね。誰もいない教室とか」

 

 

ゴ グンッ

 

 

突然出たキーワードに、勢いよく飲み物を飲み込んでしまった。大量の空気と共に。

 

傍観しながらジュースなんて飲むんじゃなかった。

 

 

「ゲホゲホゲホッ!!」

「ナツルさん!?大丈夫ですか!?」

「相手は女より男の方が面白いかもね。年下とか」

 

 

こっ…このヤロウ……!

 

俺が激しくむせても御構い無しに続けやがる。明らかに楽しんでる!喧嘩売ってんのか!

 

 

「知ってる?年下って、キスが下手なのよ。噂だけど」

よしその喧嘩買った

 

「…年上はもっと酷いらしいですよ。とくに会長みたいにいかにも『できる』って感じの(ひと)は」

 

「恋人ができないのを周りのせいにしたり仕事のせいにしたり…、そうやって最終的にいきおく…独り寂しく生きてくって分かっているからチャンスだと思ったら必死になるとかなんとか。歳は取りたくないですねぇ」

 

わざとらしく頬に手を当て、ため息をつく。

 

「言ってくれるじゃない瀬能君…」

「噂ですよう・わ・さ、会長心当たりでもあるんですか?」

 

頬をひくつかせながら君付けしてくる雫に、満面の笑みを返す。

 

「噂…そう、噂なの」

「ええ、噂です」

「なら仕方ないわね」

 

ウフフ…と雫が微笑み、わらい出す。

 

「ええ、仕方ないことです」

 

あはは、と俺も釣られるように笑い出す。

 

 

ただしお互い目は笑ってない。

 

 

「ふふふふふふふふふふ」

「はははははははははは」

 

 

 

―――向かい合って口だけの笑い声を上げる二人に、他の人間は若干背筋を震わせながら傍観することしかできなかった。

 

 

余談だがこの日、新たに大量に三郷雫の信者が増えたという

 

 

 

     ☆     ★     ☆

 

 

 

あれからしばらく笑い合った後、とくに何事もなく流れを戻した。

 

今はまた沙倉がお礼うんぬんで悩んでる最中だ。うやむやのまま終わらせとけばいいものを…

 

そんな沙倉に会長が案を出す。

 

 

「楓、思いつくものがないのならあなたの家に招待するのはどうかしら」

「わたしの家に?」

「瀬能さんに美味しい料理を振る舞うの。得意でしょう?」

 

沙倉はしばし思考して

 

「…それ、いいかも」

「でしょう」

「雫ちゃんも来る?」

「ええ。久しぶりに行きたいわ」

 

トントン拍子に話が進んでいく。

 

なんか変だな…もしかして会話だけじゃなにも出なかったから、自宅を調べる気か?

 

 

「じゃあナツルさん、今度の土曜日にうちに遊びに来てくださいね」

 

ニコニコ顔で言われたのでとりあえず頷く。

 

 

沙倉の家か…何となく嫌な感じがしそうなのはなぜだろう

てか俺場所知らねーんだけど

 

 

「約束は守ってね」ルンルン気分で沙倉が去っていくと雫が口を開いた。

 

「分かってるよ」

「楓も楽しみにしてるようだから、がっかりさせたくないの」

 

んなことあの後ろ姿見りゃ分かるわ

 

「あんたはどう考えてんだ」

「なにがかしら」

「沙倉とモデレーターとの関係だ」

「全くの無関係ではないでしょうね」

 

表情一つ変えずに言いやがった。親友じゃないの?

 

もっと葛藤とかがあってもいいと思うんだが…これが普通なのかな

あいにく俺の時はスピード解決だったからよく分からん

 

 

「話はそれだけかしら」

「………ああ」

「なら、失礼させてもらうわ」

 

それだけ言うと会長は本当に去っていった。

 

次の土曜か…何事もなきゃいいんだがな

 

 

 

     ☆     ★     ☆

 

 

 

午後六時。

 

特に何事もなく、無事に文化祭も終わり後夜祭恒例のキャンプファイヤーが始まった。

 

男女でペアを組み火の周りでフォークダンスする集団を遠くに、木の幹に腰掛け眺めながらなんとなく最近のことについて思い返してみる。

 

 

女体化 戦闘 修羅場 襲撃 決別 コスプレ ミスコン etc……

 

 

 

ろくな目にあってねーな俺

 

退屈はしてないが

 

 

 

「ナーツル!!」

 

声と同時にわき腹に衝撃。少し、いやかなり痛い

 

振り向くと水琴が笑って立っていた。見下すんじゃねえよ…

 

 

「どうしたの?リストラされたサラリーマンみたいな背中させちゃって」

 

ほっとけや。なんだその感想

コイツ俺を嫌ってんのかな。行動といい言動といい…

 

てか座ってる俺の腹に衝撃与えたってことは蹴ったよね今?確実に

ぶち殺すよ?

 

「別に、相手がいる奴はいいなと思って」

 

いつか必ず復讐してやることを心に誓い視線を戻して立ち上がる。

遠くで誘いを断られてる男子生徒の姿が見えた。

 

あれもしかして東田じゃね?

 

「沙倉さんはどうなのよ。それに紅音ちゃんも」

「なんで沙倉が出てくんだよ…別にそこまで好きじゃねーぞ」これはホント

 

いい女とは思ってるがそれだけだ

 

「紅音ちゃんも…それ以前にあの子今日休みだよ」

「じゃ・じゃあさ…」

 

水琴は急に顔をそらし、もじもじとし始めた。

 

「あたしが誘ったら…一緒に踊ってくれる?」

「それはちょっと」

「死んでいいから」即答された。

 

日ごろの行いを振り返れば当然だと思うんだが

 

…いかん、水琴が殺意の篭った眼をしている。このままいくと確実に殺されかねん。話題を変えよう

 

 

「…その紙袋なんだ」

 

水琴が手に提げてる物を指差す。

 

 

「ああ、これ?」俺の隣のスペースに腰を下ろし、中に手を突っ込む。

 

…座るのかよ

 

仕方なく俺も元の場所に座り込んだ。

 

 

「ミスコンで沙倉さんがブーケ投げやってたじゃない」

「そうなのか?」

「そうなのよ。そのブーケの中にこんなの入ってたの」

 

ガサガサと袋から出して見せたのは

 

「…………」

 

内臓飛び出した犬のぬいぐるみだった。

 

「臓物アニマルって言うんだっけ。なんか可愛いよね」

「冗談だろ?」

「えー、なんで?インカ帝国の出土品と比べても遜色ないじゃない」

 

埴輪や土偶のほうがなんぼかマシだ

愛嬌ある眼のはずなのにずっと見続けると精神揺らぐんだよ。電子ドラッグか

 

「実はさ、この子なんか変なんだよね」

「お前よりか」

「どうゆう意味よ」

 

睨んでくるが、あえて無言を返した。真実はいつも無情なものだ

 

「で、何が変なんだよ」

「んっとね。喋ったのよ」

「は?」

 

はあああああぁ?

 

「だから喋ったのよ。もごもごって言うだけで何て口きいてるかは分かんないんだけど」

 

喋る臓物アニマル。うちにも一体いるからこいつの頭がおかしいとは思わん。思わんが…

 

水琴が新しいケンプファー…なのか……?

 

「お前他になんか思わんのか?ぬいぐるみが喋ったんだぞ」

恐る恐る聞いてみたが水琴はあっけらかんとしたもので

 

「なんで?あたし喋る剣とか見たことあるよ」

「どこのインテリジェンスソードだよ」

 

そういえばこーゆー奴だった。前にセネガル南部てジーナ・フォイロとかゆー空飛ぶ発光体を見たとか言って笑ってたっけ

こいつにとってはこのぬいぐるみも似たようなもんなんだろう

 

ちなみにセネガルとは西アフリカの共和国のことだ

 

 

「……それ預かってもいいか」

「やーよ。家に持って帰って観察するんだから」

 

観察て…んな楽しげなことにはならんぞ絶対

 

しかしこいつ意地っ張りなとこあるからな…こうなると何言っても無駄だろう。かといって無理矢理奪うのもアレだし

 

とりあえず帰ったらハラキリトラに訊いてみるか。実物なくても問題はないだろう

 

「分かったよ…。なんか進展があったら教えてくれ」

「およ?ナツルも興味あんだ」

「まあな」

もしかしたら超関係あるかもしれないし

 

他にもなんか訊いてみるかな…二人きりで話すの久々だし

 

「…やだ、もうこんな時間?もう行かなきゃ」

 

なんの話題を振ろうか考えてると、水琴は腕時計を確認するなり急に立ち上がった。

 

…立つのかよっ

 

「なんだ、なんか用事か?」俺も立ち上がる。

 

「うん、ちょっと待ち合わせしてて……気になる?」

「多少は」

 

これもホント

 

ぶっちゃけこいつについていける奴はふなっしー並のハイテンション野郎か流木並に流されやすいかのどっちかだろう

例を上げるなら前者がますみで後者が紅音ちゃんだ

 

 

「なっ…なに言ってんのよっもう…」

 

水琴は顔を赤くして居心地悪そうに視線をあさっての方に向けた。

 

「別にそんな気にしなくても大丈夫よ。相手はいとこだから」

「…お前いとこなんていたのか?」

「大概はいるでしょう」

 

まあ…そりゃそうか

よほどのことがない限り普通はいるよな。俺はいないけど

 

少なくとも記憶にはない

 

 

「そんなわけだから、心配しなくても大丈夫よっ」

 

そう言いながら水琴はバシバシと二・三度俺の肩付近を強めに叩いた後、「じゃあねっ!」と去っていった。

 

 

…もしかしてあいつ俺が『男と待ち合わせしてるんじゃ』的に考えて嫉妬してる、とか思ってんじゃねえだろな

 

だとしたらあのハイテンション振りも納得できるが微塵もないから。嫉妬心

 

つーか叩かれたところが地味にいてえ…

 

 

 

     ☆     ★     ☆

 

 

 

後夜祭も終わり、帰路につく。

 

結局水琴と別れてからずっとボーッとしてた。何がしたかったんだ俺

 

 

そうやって歩き続けて、家の近くまで来てふと気が付いた。

 

二階の自室に明かりがついてる。

 

もしや泥棒か?と疑いながら家に入る。

鍵も開いて…いやそもそも今朝掛けたっけ?

 

 

足音を殺して二階にあがり、勢いよくドアを開け放つ。

 

するとそこには

 

 

「おやナツルさん。お帰りなさい」

挨拶するハラキリに

 

「あ、ナツルさん。おじゃましてます」

紅音が床に敷いた座布団の上に座っていた。

 

「……何してんの」

 

思わず頭を抱えそうになりながらも尋ねる。

 

するとどうも玄関の鍵が開いていたのであがったらしい。

 

お前開いてるからって勝手に…いやまあいいや

 

 

「紅音ちゃん今日休んだろ」

 

途端に彼女は居心地悪そうな顔つきになって視線をそらした。

 

「すっ、すみません…。あのっ、ナツルさんにあわせる顔がなくて……」

 

今ここにいるのは気持ちの整理ができたからだろうか、それとも人前での顔合わせが嫌なんだろうか

 

女心はよー分からん

 

「文化祭の方はどうでしたか?」

「とくには…、あー店に会長と沙倉がきたな」

 

瞬間的に紅音が固まる。

 

「か…会長と沙倉さんが…、一体何を……?」

 

言っていいのかな

 

紅音ちゃんなんか顔が真っ青…いや陶器みたいな色になってるけど

 

 

不安になりながらも喫茶でやったことを話す。

 

『ケーキを食べさせ合う』のくだりで急に後ろ向きに倒れ、ブツブツ呟き始めた。

 

「……ひどい…酷すぎます…あたしにはしてくれなかったのに…そんなに沙倉さんがいいんですか…?……こうなったらあの人の皮を剥いで着こんでナツルさんに同じことを」

 

 

ヤバイ、マジで怖い。夢に出そう

 

 

「おい…あれ大丈夫なのか……?」

思わず机の上のハラキリトラに尋ねる。

 

「紅音さんはああ見えて強いから大丈夫ですよ」

 

俺の疑問をはっはっはっと一蹴する。

 

 

確かに強いかもしれんけど。別な意味で

あれは確実に人を駄目にする類の強さだと思うな

 

 

「って、笑ってる場合じゃねーぞ。今日お前の仲間に会った」

「はい?」

「なんか首に縄巻いた犬」

 

とりあえず水琴とした会話などを二人(一人と一体?)に説明する。

 

「ふむ…それは臓物アニマルのチッソクノライヌですね」

「よく知ってんな」

「臓物アニマルの名前なら全部知ってますよ」

 

そういやヒキニゲカバの名前も知ってたな。いらん知識だ

 

「水琴さん、ケンプファーになるんでしょうか……?」

 

紅音が少々暗い表情でポツリとつぶやく。

さっきまで呪怨を撒き散らす呪波汚染みたいだった彼女も、もしかしたら友達が敵になるかもしれないとなると流石に正気に戻ったようだ。

 

「さあな…おそらくは会長の監視だろうけど、どうなるかはわからん。まだケンプファーにはなってないみたいだし」

「水琴さんに訊いてみては?」

「なんて」

 

正直に全部話して「お前ケンプファーになったのか?」とでも聞くのだろうか。

よくて変人あつかいだろう

 

「悪く見積もっても病院送りだぞ。精神治療用の病室はもうやだ」

「入ったことあるんですか?」

「小五のときに半年ほど」

 

ハラキリのからかいのような言葉に短く、しかしマジで返した。

 

むろん入院の理由はカレー中毒でだ

 

 

拘束ベッドは寝心地最悪だったなぁ……廃人にならなかったのは奇跡です、って当時担当の医師に言われたっけ…

 

 

「…………」

 

遠い目をして過去を振り返っていると、誰も口を開かなくなった。

なんて言えばいいか分からんのだろう

 

 

「そういえばケンプファーになるのって拒否できんのか?」

 

ふと素朴な疑問が沸いたのでハラキリに尋ねる。

 

「基本的には無理ですよ」

「今の水琴みたいにメッセンジャーとして、覚醒?してないなら捨てるとか…」

 

俺の言葉に悩んだような顔(実際変わってないんだが何となく)をするハラキリトラ。

 

「分かりませんね。あまり詳しくはないので」

使えねぇメッセンジャーだな…

 

「仕方ない、会長に聞くしかないかな…。あ、そういや次の土曜会長と沙倉んちに行くことになったから」

 

何となしに言ってみると、急に室内で光りが発生し、今まで紅音がいた場所に猛犬女が出現した。

 

「あ?今なんつった?」

 

猛犬は瞬時に拳銃を持ち出し、俺の頭に突き付けてぐりぐり捻じりながら話しかけてくる。

 

目がマジ…ってか狂気を孕んどる…!

下手なことを言おうものなら、ヤツは迷わず引き金引くだろう。

 

「いや、会長と一緒に沙倉の家に…」

「てめえはあたしに黙ってクソアマと一緒にクソアマの家に行くつもりだったのか」

 

せめて苗字か名前で呼ぼうよ…それか名称とか。

 

「いいかナツル」俺の心中も知らず。紅音は目尻を吊り上げ、怒りをあらわにして、

 

「人間誰だってやっちゃなんねぇことがあるんだ。たとえば黙って会長と出かけるとか、沙倉のクソアマの家に行くとか」

「水琴の件で忘れてただけで黙ってたわけじゃ」

 

そこで口を噤んだ。人差し指に力がこもるのが分かったからだ。

 

やめてー!それ以上指引いたら弾が出ちゃう!脳みそぱーんってなっちゃう!!

 

「本当なら撃ち殺してやりてえとこだが、あたしはやさしいから特別に生かしといてやる」

「…その心遣いに涙が出そうだよ……」

 

「ただし」

なんだ?代わりに腕を撃ち抜くのか?

 

「沙倉の家にはあたしも連れてけ。それが最低条件だ」

 

えー……

 

「分かったか!!」

「サーイエスサー!」

 

再び引き金に力がこめられたのが見えたので慌てて肯定の意思を示した。

プライド?なにそれ美味しいの?

 

それでも怒りが収まらないのか、紅音は近くに置いてあったゴミ箱を窓まで蹴っ飛ばし、荒々しく部屋を出ていった。

 

しばらくして玄関のドアが勢いよく開けられ、バダンッ!と思いっきり閉められる音がした。

どうやらそのまま帰るみたいだな

 

 

「………ビビッたぜ…」本気で生命の危機を感じた

 

「自業自得ですよ」

 

 

今まで黙って見てたハラキリがアイパッチを掻きながら言ってくる

 

俺はその行為を睨みつけて

 

「なんでだよ」

「紅音さんにしてみたら、相棒なのに黙っていたのが腹立たしいんですよ。信用してないのかって風に」

「紅音のことは信用してるぞ。信頼も」

「なら尚更でしょう」

 

むう…そういうもんかな……

 

「謝った方がいいかな…やっぱ」

「それはご自由に」

 

投げやりだなオイ

 

言うつもりはあったんだが、どうもタイミングが悪かったようだ。

 

でも他にどのタイミングで言やあよかったんだ?早くは無理だし遅いと事後になってたぞ

 

俺は散らばったゴミとゴミ箱を片付けながら思った。人付き合いって難しい、と

 

そしてどのタイミングで会長に同行者が増えたことを伝えるのがベストなのか、と

 

 




~後日談(どうでもいいひとコマ)~


文化祭後初の登校日。

この日は朝から全校集会で、校内のほぼ全ての人間が体育館に集まっていた。

「なんで文化祭の後始末したすぐ後に集まらにゃならんのだ…」
「出し物の人気順位の発表があるからだ。去年もやっただろ」
「去年はサボった」
「今年はなんで出たんだ」
「実行委員は必ず出席しろって言われたからな。こんなことで赤点食らいたくねーし」

『ただいまより、今年度の文化祭優秀クラスを発表します』

「始まるみたいだな」

『第一位。女子部、二年四組。メイドのようなもの喫茶』

ワっ!と一部で歓声が上がる。
それに少し遅れて、体育館のあちこちから無数の拍手が巻き起こる。

「あの集客力なら当然だろうな」
「来場者のほぼ全員が一度は必ず行ったらしいぞ。ああ…女のナツルちゃん可愛かったなぁ…」
「(……近いうちコロス…)」

『第二位。女子部、三年一組。学舎資料館』

またしてもワっ!という歓声と拍手が上がる。

「三年か…マイナーっぽい出し物なのにニ位ってすげえな」
「雫様…生徒会長のクラスだからな」
「なんで知ってんだ?」

『第三位。男子部、二年四組。休憩所』

………………………………………

今度は拍手も歓声も起こらなかった。


「今気のせいか自分のクラスを呼ばれた気がするんだが」
「奇遇だな、俺もだ」
「あるんだな…二人揃っての聞き間違いって」

『呼ばれたクラスの文化祭実行委員は壇上へお上がりください。……男子部二年四組の実行委員、早く上がってください』

「聞き間違いじゃなかった!」

『聞こえませんでしたか?男子部二年四組の瀬能ナツル君。早く壇上まで来てください』
「名指しすんなボケッ!!」

ナツルが怒号を発すると、全生徒の視線が一斉に声がした方向へ向けられる。

中には殺気篭った目で睨んでくるが、ナツルはそれらを無視して壇上の雫を見つめ続ける。
ちなみに隣りに座っていた東田は早々に他人の振りを決め込んでいた。

「そもそもなんでうちが三位にランクインすんだよ!おかしいだろどう考えても!!」

『理由としては"居心地がいい" "なんか落ち着く" "なにもないがある" 等の意見が多数寄せられており、それが上位に食い込んだ要因だと思います』

「ご丁寧に説明してくれてありがとよ!」

いつもと違い丁寧すぎる言葉遣いがなんかムカつく―――ナツルはそんな憤りを覚えながらも、壇上に向かい歩きだした。



~~~~

とくにオチはなし

1000文字以下なので一話として投稿できず、かといってお蔵入りするにはあまりにも惜しかったのであとがきに載せてみました。

次回、あのケンプファー登場

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