けんぷファーt!   作:nick

21 / 103
なあ ここから出してくれよ
カミサマとやらの掌で踊るのはもうウンザリなんだ

なあ誰か、出してくれないか
この暗くて狭いトコロから抜け出したいんだ

そしてどうか

最期に残った、この想いと共に


第19話 Reach Out To The Truth

「…ったいなーもー」

 

常人なら確実に昏倒。下手したら病院送りの一撃を受けたのに、女はケロッとした様子で立ち上がる。

 

「なにすんのよ」

「黙れカス。テメエの一挙手一投足しゃべり口調すべてが不愉快だ」

 

凶器を持った奴を前にしてるのに、怯えた様子が全くない。

 

「そんな口きくんだ。せっかく手間を省いてあげたのに…わたしたち、いいお友達になれると思ったのにな」

哀しげな雰囲気を醸し出してはいるが、とても残念そうには見えない。

仮に仲間になっても、遅かれ早かれ敵対はしていただろう。

 

「めんどクセぇ…殺す」

 

瀬能はそう言って即座に、近くの教室のドアに手をかけ、

 

ベキっ

 

片手で掴み外し、投げつける。

一直線に飛んでいくソレは、奴の手が接していた部分を中心にひしゃげていたりヒビが入ったりしている。どんな握力だ。

 

 

ジャッ、バッ!

 

 

しかしドアの残骸はすぐに、ところどころ一部分を除いて文字通り粉々の砂粒のようになってしまう。

その先には変わった銃を向けてくる女が。

 

「ッ!?」

 

何かを感じ取ったのか、瀬能は横に転がるように回避行動を取った。

 

この間僅か数秒。どっちも人間じゃない。

 

 

「チッ…」忌々しげな舌打ちをする瀬能の右腕には、なぜか血が。

 

「短針銃ってやつか…めんどクセぇ」

「へぇ、知ってるんだ?」銃口を向けながら微笑む「いがーい。もしかして銃マニア?」

「…………」瀬能は答えない。

 

ただジッと、怒りと憎しみの眼差しで睨みつけ、両手を力一杯握りしめている。

 

これは…あまりよくないな。変身ができない、相手が飛び道具っていう不利な状況なのに、その上冷静まで欠いたら勝率はもっと低くーーー

 

 

そこまで考えてはっと気づく。なんで俺が瀬能(こいつ)の心配をしてるんだ?

虫の息なのも床に体温を奪われているのも、もとをたどれば全部こいつのせいなのに。なんで…

 

 

「ナツル!」

 

男子部に似つかわしくない声が響く。

 

眼だけを動かして見ると、赤毛で改造制服の少女が走ってきていた。

確かあれは美嶋紅音…それの変身後の姿だ。

 

敵である青のケンプファーが三体。完全に詰んだな。

 

 

「ジリジリジリジリうっせえから来てみりゃ、やっぱりてめえか。なにしてんだ」

「…………殺す」

「ナツル?」

 

 

問いかけに答えず、ただただ名も知らぬケンプファーを睨み続ける瀬能。

今度は真正面から、腕に筋が立つほど強く拳を握りしめて歩み寄る。

 

 

「聞けよバカ」

「(ガッ!)ゴベッ!?」

 

 

しかし一歩足を踏み出した瞬間に頭を(ゲヴェアー)のグリップで殴られた。

 

「ぐあぁぁぁぁっ!後頭部が…頭蓋骨がっ!?」

「眼は覚めたか」

「バリバリ起きとるわってかふざけんな!!今おもっきし振り下ろしやがっただろ!後遺症になったらどうしてくれんだ!?」

「知るか。あたしを無視するからだ」

「この新生かまってちゃんが!」

 

二人は敵前だというのに、構わず言い争いを始める。

瀬能にはさっきまでの暗い雰囲気はなく、普段通りのノリで仲間に接している。

 

 

…杞憂、だったな。

俺なんかが口を挟む必要なんてさらさらない。計算してか無意識かは分からないが、お互いを支え合える強い絆がそこにはあった。

 

その相方が自分でないことが、なぜか無性に悔しかった。

 

 

「も~っ、メイちゃんを忘れないで!!」

 

ジャッ!

 

 

「「っ!!」」

 

女が引き金を引くと同時に、二人は言い争いをやめて左右に跳ぶ。

 

その少し後に、廊下の突き当たりの方からなにかが刺さる音がした。

 

 

「…なんだ今の、弾が見えなかったぞ。それにあのイカレアマのけったいな銃はなんだ?」

「短針銃って代物だ。気をつけろよ、あれは何万って数の極小針を圧縮ガスで打ち出せるからな。教室のドアなんか余裕で貫通するぞ」

「悪趣味だな。…つーかなんでてめえそんなの知ってんだ?」

 

それは俺も気になった。

 

 

「本で見たんだよチラッと…いいだろ今はそんなこと」

「まぁいいけどよ。てかあいつ青のケンプファーじゃねーか、なんで戦ってるんだ?」

「あ?そりゃあ―」

 

はっと思い出したように俺を見る。

そして視線を再び女に戻し、

 

「…紅音。3分、いや1分でいい、時間を稼いでくれ」

「ああ?なんでだよ」

「大地を逃がす」

「はぁ!?」

「…!?」

 

瀬能の台詞に、相手を警戒していた美嶋が勢いよく目線を変えた。

 

「大地って…そこに転がってるアマのことか!?赤のケンプファーじゃねえか!」

「頼む、お前以外いないんだ」

「ふざけんな!なんであたしがそんなことしなきゃなんねーんだ!」

「……頼む…!」自分でも無理を言っているのを承知しているらしく、だんだん頭が下がっていく。

「ほっとけよあんなくたばりぞこない!第一なんでてめえそこまですんだ!」

 

 

「親友だからだよ!それ以上の理由なんかいらねぇ!!」

今まで見たことがないほど真剣な顔をする瀬能。

 

「てめえ…」

 

自分を見つめてくる男を、美嶋はしばし無言で睨みつける。

 

やがて、

 

 

「……一分だけだ。帰ってこなかったら殺す」

「…!すまん、恩に着る!」

「貸しだかんな。忘れんなよ」

 

瀬能が倒れてる俺の脇に手をやり、片腕を肩に回すようにして抱きかかえ上げる。

 

そのままの階段の方を目指し移動する。

 

 

「いかせないよー」当然のように女が銃口を向ける。

 

パンパンッ!

 

「わっ!?」

その顔先を銃弾が掠めた。

 

「あたしがな」

 

階段を下る時、背中ごしに美嶋の声が聞こえた。

本来なら敵対する間柄のはずなのに、なんで俺は助けられてるのだろうか。

 

 

 

 

     ☆     ★     ☆

 

 

 

「大地、おろすぞ!」

「…ぐっ……!」

 

二階についてすぐ、階段わきに座らされる。

 

「縛るぞ、いいな?」

返事を待たずに、自分の腹部に巻いてあった布を俺の傷口に押しあてる。

 

「あああっ!!」

「じっとしてろ!」暴れたくてもうまく動けねえよ。

 

つーか、今までこれで自分の出血止めてたのに、外したらヤバイだろ。

そう思ったが、瀬能のわき腹からは血が流れている様子がない。

 

もう止まったのか?いや、そんな軽い傷じゃなかったはずだ。手応えもあったし。

よく見ると腕の血も止まっている。

 

 

まさか…自力で止めたのか?

ボクシングの選手なんかは極限状態でアドレナリンが分泌されて出血を止めるって聞いたことはあるけど、こいつもそうなのか?

 

俺には出来ん芸当だな。

 

 

「ちくしょう…、血…血が……血がとまんねぇ…!」

 

泣き出しそうな声で腹部を押さえつける瀬能を、ぼーっと見つめる。

その両手はすでに真っ赤に染まっていて、まるでゴム手袋でもしているようだ。

 

……なんで…

 

「なんで…そこまで……」

 

 

 

ドンッ、ドンドンッ!!

 

ジャッ、ジャッバッ!

 

 

一階上がより騒がしくなってきた。

 

…どちらも(ゲヴェアー)を武器とするケンプファー同時。身体能力がほぼ同レベルなら、使うものの性能の差はデカいだろう。

 

短針銃とかいうのはショットガンみたいに“面”を攻撃できる。

対する美嶋は直線、それも一点だけを撃つタイプの銃。普通に考えたら…勝てない。

 

 

「紅音…」

手はそのままで、天井を見つめる瀬能。

 

俺の台詞は聞こえなかったようだ。

 

「……っ………わりぃ大地、ちょっとだけ待っててくれ」

 

すぐ終わらせてくるから

 

そうつぶやき、上階を睨みつけながら立ち上がる。

両腕がさっきと同じくらい、いやそれ以上に筋ばっている。

 

 

「…んで……」「? あ?」

 

「なんで…そこ……ま、で……?」

「何度も言わせんな」

 

 

「ダチだからだよ。…戻ってくるまで、くたばんじゃねえぞ」

 

 

そう言い残し、瀬能は階段を駆け上がっていった。

 

なぜか。本当にどうしてか分からないが、その後ろ姿がみどりとダブってみえた。

 

 

 

「…………ッそ…」

 

荒い息に混じって短い悪態がこぼれた。

 

わけが分からない。

意味が分からない。

 

どうして…なんで手を差し伸べるんだよ。

 

 

騙してたのに。

傷つけたのに。

 

……みどりは、手にかけたのに。

 

どうして俺だけに……!

 

ほっとけよ……こんな…死にぞこない…!

 

 

 

カツ  カツ  カツ  カツ…

 

 

ふと、気づいた。

足音がする。

 

誰かが…廊下側から近づいてくる。

 

 

瀬能が非常ベルを押したんだから人が来てもおかしくはないんだが、この足音の主はずいぶんゆっくりだ。

 

 

 

「……失礼、取り込み中だったかしら」

「………はっ、…アンタか……」

誰かと思えば。

 

 

いや当然か。考えてみればこんなに大騒ぎしてるのに誰も様子を見に来ないのは変だ。

大方、今まで処理とかなんかしていてそれが一段落したからやってきたのだろう。

 

その人物は速度を変えないまま近づき、俺の目の前まできて止まる。

 

「…寝たきりですいませんね……生徒会長」

 

「構わないわ。…切り裂きマリーさん、でよかったかしら?」

 

け、白々しい…どうせ正体分かってんだろ?

 

「驚いたわ…。まさかあなたが葛原の協力者だったなんて」

「……とてもそうは見えませんけど…」

「最初から女子部に在席していなかったのね。いくら探しても見つからないはずだわ…、男女混合型のケンプファーは瀬能君だけだと思っていたのだけど」

「初めて見た時は唖然としましたよ…」

 

今まで熱心に勧誘してた奴が、ある日腕に契約のブレスレットはめてんだもん。そりゃ驚きもするさ。

さらにケンプファーである(その)ことを隠そうともしていない。空いた口が塞がらない。どころか、空きすぎて顎が外れるかと思った。

 

でも苦悩を分かり合えそうな奴は、自分の敵だった。皮肉なもんだ。

 

 

「…モデレーターの情報を引き出そうと思ってるなら、無駄ですよ」

「あら、どうして?」

「俺も知らないからです……何か指示があっても、みどりを通して伝えられてたんで」

「なによそれ…それじゃただの体のいい使いっ走りじゃない。どうしてそこまで…」「…………」

 

「忌塚君、あなたもしかして葛原のこと…」

「…好きでしたよ」

 

一度口にしたら、あとはもう止まらなかった。

 

「好きでしたよ、大好きでしたよ!いけませんか?俺が、彼女を恋愛対象として見て!」

会長は喋らない。ただじっと俺のことを見つめるだけだ。

 

「でも、仕方ないじゃないですか!アイツは沙倉さんのことを……!今日は何を喋ったとか、楽しげに話す彼女に『お前が好きだ』なんて言えませんよ!!」

 

興奮したせいか、激しく咳き込んだ。

時折赤い血の塊が、一緒に飛び出る。

 

「…怖かった…!嫌だった…!告白して、関係が壊れるくらいなら……!」このままでいい。

 

本気でそう思っていたんだ。

 

でもそんなささやかな願いすら、かなえるのは無理だと思い知らされた。

 

 

「そこまで後悔しているのなら、手紙なんか出さなければよかったじゃない」

「…その通りですよね」出さなければよかったんだ。

 

日付のところだけを細工して下駄箱に入れるんじゃなく、処分してしまえばよかったんだ。

あるいはあの日、あいつに声をかけられた時に逃げ出さず、事情を説明していれば

もしくはみどりを説得して思いとどまらせていれば、こんな結果にはならなかっただろう。

 

でも俺はそれをしなかった。勇気がなかったんだ…

 

 

あるいは期待したのかもしれない。瀬能には不思議と、人を変える魅力を感じるから。

 

それで…みどりも変えてくれるんじゃないかって。

 

分かってるんだ。瀬能が悪い訳じゃないってこと。

勝手に期待して、失敗したから失望して。

 

本当は分かってるんだ。俺がしてるのはただの八つ当たり。本来憎むべき相手は他にいるって。

 

 

でも…それでも……仕方ないじゃないか

 

 

つい先日まで家にあがりこめるまでの仲だった隣の家のおばさんが、今はただ挨拶をかわす程度。

一番多くかけていた電話番号も、これから先二度とつながらない。

二人で歩いた帰り道を一人で歩くたびに、

 

誰かを恨まずにはいられなかった。

 

すぐ側の加害者に当たらずにはいられなかったんだ!

 

それなのに…それなのにあいつは…

 

 

 

『ダチだからだよ。それ以上の理由なんていらねえ』

 

 

 

「…奴が憎かった…俺は!親友なのに…、俺は……!」

 

そういえば一度だけ、一人じゃない帰り道があった。

あの時だけは、孤独感(一人であること)を忘れさせてくれたっけ。

 

 

 

「……っ……!」痛む身体に力を込めて、壁を支えに立ち上がる。

 

「どうするつもりなの」

「…お願いです、止めないでください……」喋りながらも壁伝いに階段を目指す。

気を抜いたら倒れそうだ…。

 

「……あなた、分かってるの?そんな身体で動いたりしたら」

「分かってますよ。…自分の、身体ですから…」

 

そう、分かってる。

 

もう助からないってことは十分理解している。

 

とめどなく血が流れるわき腹に手をやりながらも、階段に足をかけた。

 

何もせずじっとしていれば、十数分くらいは生きながらえるだろう。

でも、たとえ残り寿命が一秒になるとしても、俺は今行動したい。

 

 

「…このまま…終わったら…かっこ…悪くて……あの世に…行けない…です…から…っ」

階段が地味にキツい。

頼むから間に合ってくれよ…!

 

 

「…最後に一ついいかしら」

「?」

「あなたは本気で瀬能君を憎んでいた。それならなぜ近堂さんや美嶋さんを利用しなかったの?そうすればもっと早く楽に復讐を完遂できたでしょう」

「……そうですね」思わず足を止める。

 

無論考えなかった訳じゃない。何度も頭をよぎったことだ。

 

でも。

 

「それをしてしまったら…何かを失ってしまう気がしたんです」

 

その『何か』がなんなのかは分からない。が、きっと凄く大切なものなんだろう。

 

「笑ってください。…非情にも、非道にもなれないくせに、復讐をしようとした愚か者を…」

「…………」

「会長、…俺からも最後にひとつ。言わせてください」

「何かしら」

「……―――」

「………分かったわ」

 

その言葉に一礼で返し、再び歩みを進める。

視界はさっきまで以上にぼやけ、肉体は鉛のように重い。

 

まだだ…まだ……まだ死ねない。

 

想いのみを糧として、階段を登った。

 

 

 

     ☆     ★     ☆

 

 

 

 

 

ジャッ、ジャッ!

 

今日何度目か分からない奇妙な銃声が、また放たれた。

 

そのたびに周りの壁やら窓やらが破壊され、塵となり散らばる。

 

「ちぃっ!!」

 

銃口の直線上にいないよう常に動き回って、かろうじて回避はしているが、同時に手を出せないでいる。

 

クソが…急いでんだよこっちは!

 

 

「オラァ!!」

「!?  ナツル、待て!」

 

紅音の静止を振り切り、拳を構えて突っ走る。

 

「アハ、いらっしゃ~い」

 

そんな俺に、待ってましたと言わんばかりの満面の笑みと、真っ黒の銃口が向けられた。

 

 

横に跳ん――いや駄目だ、間に合わない

 

 

瞬時に勝負を急ぎすぎた自分の愚かさを呪い、せめて少しでもダメージを減らそうと顔を両腕で覆う。

 

 

ジャッ!

 

あの独特な銃声が響いた。思わず瞼をかたく閉じる。

 

ほぼ同時にバッ、となにかに当たる音がする。

しかし、痛みはない。

 

……?痛みはない?どうして?

 

 

「…なんだ、まだ…変身できてなかったのか……」

 

 

前方から声がした。

非常に聞き慣れたこえだ。しかし今ここで聞こえるのはおかしい。

 

それに前からって……、俺は恐る恐る目を開けた。

 

 

 

「間一髪…間に合ったな…」

「…あ……あ…あぁっ…!」

「大丈夫だよ、俺ができたんだ…。ナツルならすぐやれるさ」

「ウソだ…そんな…こんなこと……!」

 

「お前を信じる、俺を、信じろ」「大地ぃぃぃっ!」

 

 

 

大地はぐらりと身体を傾け、後ろに倒れてくる。

抱きかかえるように支えるとその胸は真紅に染まっており、無数の針が突き刺さっていた。

 

「あ~あ、外れちゃった。あれ?でももともと狙ってたのそっちだから大当たり?  やたっ、メイちゃんナイス!」

 

無邪気な声がどこか遠くの出来事のように聞こえる。

右腕から徐々に力が湧いてきて、それが全身にめぐる。

 

「じゃ、そういうことで、今度こそバイバ~イ」

 

再び銃口が向けられた。

 

しかし、恐怖心はない。

先ほどまでの焦りもない。

 

ただ身体が燃えそうなほど熱かった。

 

 

ジャッ!

 

 

引き金が引かれた瞬間、俺の全身が青い光に包まれた。

同時に右手を突き出すと、掌から炎の塊が飛び出し針の群れと激突。

 

 

ボウッ

お互いに相殺し合って消滅した。

 

 

 

「ぅえ?なに、なんで?」

女が信じられないものをみたような顔をして呆然とする。

 

その隙に大地を床に横たわらせ、左手で拳を作り突進。

狙いはただひとつ

 

 

「オラ!!」

「え?」

 

掛け声とともに銃身に拳を叩きつける。

 

 

念心流・()(がね)崩し!

 

 

ドガンッ!!

 

 

「キャァ!?」

 

女の持っていた短針銃が、破裂するように爆発した。

ガスが詰まってる分被害が大きかったみたいだな

 

「痛い…痛いよ……!」

バラバラになった銃の残骸を握りしめながら、尻もちをつくように崩れ落ちる。

 

さめざめと涙を流すが、構わず右手を上げる。

 

「そんなに串刺しが好きか?」「ヒッ!」

 

炎を収束し、巨大な針のような形を作ると、女が怯えた様子で小さく悲鳴を上げた。

 

 

「ならでっかいのをくれてやるよ…!」

 

 

―神火――

 

 

「ま…まって…、お願いやめてッ、そんなの食らったら死んじゃう!」

「知るか。死ねよ」

 

 

――不知火

 

 

槍投げのように腕を振り下ろすと、ゴウッと音を立てて炎の塊が飛んでいき、女の胸に突き刺さった。

 

それだけで、今まで苦戦していた名前も知らない青のケンプファーは声も出せずに燃え上がり、あっけない最期を遂げた。

 

 

 

「…勝った……勝ったぞ大地!!」

 

炎に包まれたのを見届けると、すぐさま倒れてる親友を振り返る。

 

「見てたかオイ見てたよなオイ!強いだろ俺は!?」

思わず肩を掴んで抱き上げ、ゆさゆさと身体を揺する。

 

「ハハハ、なんだよ。寝てんのか?こんぐらいの傷、どうってことないだろ?」

返事はない。

 

それでも構わずに揺すり続ける。

連動して大地の頭がガクンガクンと前後した。

 

「ナツル…」

「起きろよオイ…起きて病院いこうぜ」

「ナツル、そいつはもう」

「目ぇ醒ませよコラ!幼なじみの仇とんだろ!?」

 

数分前まで生きてたんだ

今だってまだ…ただ寝てるだけのはずなんだ!

 

 

「目を開けろバカヤロー!ぶち殺すぞ!!」

 

 

流血はすでに止まっている。

呼吸はない。

体温も徐々に下がってきてる。

 

それでも…それでも!

 

 

「……。…?てめえは…!?」

「…やめましょう。お互い知らない仲ではないし、そんな気分でもないのだから」

 

突如紅音と、聞き覚えのある声が耳に入った。

 

顔を上げると、生徒会長でもある三郷雫がいつの間にか目前に立っていた。

 

 

「…会長…」

「瀬能君」

「すぐに…すぐに目を覚ますよな?…な?」

 

無表情のまま見つめてくる彼女にすがりつくように尋ねる。

 

 

「…彼が自分で選んだ結末よ」

 

現実を受け入れろ、と遠回しに言われた気分だった。

実際そうだったんだろう。きっと。

 

 

「……なんでだよ……!なんで…なんで…!」

失望でまた顔を下ろす。

 

そこには、俺の腕の中で横たわる大地がいた。

どこをどう見ても、ただ眠っているだけにしか見えない。

 

 

「……始めてだったんだぜ…?名前で呼べる、男友達…」

 

聞き間違いじゃなかったら、こいつもさっき、俺のこと『ナツル』って名前で呼んでくれた

 

 

「始めてだったんだよ…1対1(ワンオンワン)で、抜かれたの」

 

直後に後ろからボールをカットしたが、あれは完全に俺の負けだった

 

 

「始めてだったんだ…部活入ろうって、思ったの…」

 

小・中とそれっぽいのに所属したことはない。どの部にも魅力を感じなかったから

こいつとなら、やっていける気がしたんだ

 

 

 

「これからだったんじゃねえか…なにもかも、始めるのは……!」

 

 

ポタリと一雫、大地の頬を水滴が流れていった。

 




 血…血が……血がとまんねぇ…!
  ムヒョとロージーの魔法律相談所、対イサビ戦にてヨイチの台詞。今回台詞ネタばっか。
 親友だからだよ!それ以上の理由なんかいらねぇ!!
  ワンピース、ボンクレーの台詞。男の身でありながら女になれるナツルにぜひとも使ってほしいと思ってました。うちの彼は特に任侠じみてるから似合いますね
 奴が憎かった…俺は!親友なのに…、俺は……!
  相棒シーズン10より神戸尊の台詞。スペシャル回での大河内監察官との会話。奴が憎かった…俺は…警察官なのに…俺は…!
 お前を信じる、俺を、信じろ
  グレンラガン。お前の信じるお前を信じろ、が本家だったかな?
 神火 不知火
  ワンピース、エースの技。本家は2本出してたけどこっちは1本のみです。


・念心流・充て金崩し
 銃身を通して弾丸に衝撃を与え、拳銃を暴発させる技。大変危険なので初心者は側面から打つように


切り裂きマリーさん編、終了。本来ならあとがき書かないでサッと終わりたかったんですけどネタ込みでやってると解説せにゃならんのでそうもいきませんよね。
今回書き上げて文字数確認したら一万超えてましたよ。なまらビックリ。途中で飽きずにここまで読んでくれたそんなあなたに感謝。どうしても途中で切りたくなかったんです

今回登場したオリジナルキャラ・忌塚大地は、作者にとって龍が如くの錦山のような存在でした。限りなくメインに近い、しかし物語を引き立てるために散っていくサブ。切ないながらも絶対に必要な存在。

読者の皆様に少しでも『生きていてほしかったな』と感じていただけたら、幸いです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。