けんぷファーt!   作:nick

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死は不意に来る狩人に在らず。
もとより誰もが知る…

死は不意に来る狩人に在らず。
もとより誰もが知る…


第18話 The Way of Memories

ガギンッ!!

 

硬度の高い金属同士が、勢いよくぶつかり合うような音が放課後の校舎内に響いた。

 

「なっ…」「ぐぅっ‥!」

 

大地は驚きの、ナツルは苦悶の表情をそれぞれ浮かべる。

 

 

「咄嗟に腕輪で防ぐって…どんなデタラメな反射神経してんだ!?」

 

 

そのままなにもしなかったら確実に胴体を切り離されていたはず。

その不意を突く一撃をナツルはなんとか致命傷だけは避けた。

 

しかしその代償はけして小さくはなく、自身のわき腹から赤い液体が吹き出る。

バギー海賊団戦のゾロを彷彿とさせる血の量だった。

 

「…やっぱりお前は危険だな、変身後のと戦いをさけて正解だった…」呟きながら、剣を握る手に一層力が入る。

 

「今ここで消えろナツル!」

「断る!」

 

パコンッ!!

 

「!?」

 

横薙ぎに剣を動かそうとした瞬間、大地の目の前が軽い衝撃と共に黒に覆われた。

 

しかしそれは一瞬のことで、原因を排除する間もなく視界がもとに戻る。

 

 

視界が戻った時、そこには誰もいなかった。

 

「なっ…?」

 

驚く彼をよそに、遠くから少し歩調の乱れた足音が聞こえる。

そして床には先程まではなかった赤い液体が廊下の向こう、階段まで点々と続いている。

 

「逃げたか……意外だな」

 

勝ち目が薄くとも倒すまで食らいつく

それがナツルに対する大地のイメージだった。

 

ふと下を見ると、これまた今までなかったはずのものが転がっていた。星鐡学園指定の上履きだ。

 

靴の端には『瀬能』と書かれている。

 

 

「さっきのはこれか…腹を切られた直後だってのによくもまあ」

 

即座に脱いでぶつけられるものだ

 

軽い称賛と呆れが表情に現れたが、それをすぐに切り替える。

 

 

「だが逃がしはしない。…俺はもう、後には引けないからな」

 

大地は険しい表情を顔に貼り付けて、血の跡を追った。

 

 

 

     ☆     ★     ☆

 

 

ガララッ、ピシャッ

 

「ぷはぁッ!」

 

階段を上がってすぐの教室に入るとすぐに、大きく息を吐く。切られたわき腹超いてえ

 

このまま大の字になって休みたい衝動に駆られるが、身体に鞭打って行動を開始する。

 

 

まずは身近にあった机から薄い教科書を2・3札拝借し、それを患部に強く押しあてる。

次にこれまた近くにあったジャージをビリビリと引き裂き、押しあてた教科書がずれ落ちないようにきつく腹に巻きつける。

 

とりあえずはこんなもんかな…応急処置。軽く動く程度なら大丈夫だとは思うけど

 

 

問題があるとすればむしろ、ここがまったく関係ない他クラスだってことだろう。もしかしたら明日の朝教科書とジャージの持ち主は悲鳴を上げるかもしれない

 

その時は運が悪かったと諦めていただこう。リアルに人命の危機だし

 

 

「………………」

 

本気、だったんだよな

 

あいつ。本気で俺を殺しにかかってた。

 

俺もああなんのかな?水琴に同じことされたら、その相手を殺しにいくんだろうか

正直な話いまいちピンとこない

 

もしここで俺が大地にやられたらあいつはどうするかな。泣く?怒る?嘲笑一つって可能性もあるな。それはすげえヘコむわ

 

 

でも多分、最終的には同じ行動取るんだろうな

きっと―――

 

 

ガー―ッ!

 

「これで隠れたつもりか?目立つ目印残して――」

「タケミカヅチッ!(ガッ!!)」

「(ドゴッ!)ガフッ!?」

 

勢いよく扉を開けて入ってきた大地に、横から机をおみまいする。

左手に剣を装備してるためか、無防備だった右のわき腹にクリーンヒット。俺と逆側だな

 

「不意打ちかまそうってんなら足音ぐらい消してから忍び寄ってこい。バレバレだっつの」

「てっ…めぇっ…!」

 

苦悶する彼女(彼?)を横目にもう一つの出口を目指す。

くそっ、思ったより傷が深い。目の前がすげえふらつく

 

「逃が…すかっ!」机をかき分けて大地が追ってくる。

 

「待てっ瀬能!」

 

そう言われて待つ奴って普通いなくない?

 

 

 

 

 

「はい待ちます」「へ?」

 

 

 

 

 

だがあえて止まってみる。

俺は普通の奴とはつくりが違うからな

 

 

まさか本当に止まるとは思ってなかったらしくぽかんとした表情をする大地。

当然追いかける気まんまんだったからそれなりのスピードはでてる。

急に止まれないのは人も車もおんなじだ。

 

それに合わせるようにしてしゃがみ込み、迷わず水平蹴り。

 

「ぅあ!?」ビタァン!

 

奴は俺を飛び越え、綺麗に一回転してすっ転び背中から床に着地した。

 

 

「うわー大地さんパンツまる見えでやんのー。ハッズカシー」

「…っ!!」

 

俺の言葉にすぐさま身体を起こしてスカートを直す。

 

オイやめろ。顔を真っ赤にして恥じらうのはやめろ。元が男とかどうでもよくなってくるだろうが、頼むからやめてくれ。

俺はノーマルでいたいんだよ

 

 

「こ…の…!ふざけやがってぇ…!!」

「ふざける?オイオイ、俺はいつでも大真面目だぜ」冗談を言う時もバカをやる時もな

 

「ならもっと正々堂々とやったらどうだ!こんな姑息な手ばかり使いやがって…」

「お前んとこではケンプファーに変身(ドーピング)武器(どうぐ)使ってる奴が無手の一般人いたぶるのを正々堂々って言うのか」「、っ!?」

 

「正々堂々とかふざけんなとか、はなっから言う資格ねーんだよ。スポーツマン」

 

ま、人のことどうこう言えないのはお互いさまなんだけどね

 

 

す……と、指を一本出した状態で壁際に伸ばし止める。

 

「……?なにを」言い切る前に気づいたのか、瞳孔がわずかに開いた(気がする)

 

大地の視線の先、そして俺の指の先にあるものはーーー

 

 

『火災報知器』

『押す』

 

 

いっぺん押してみたかったんだよね、これ

 

「待っ―――」

 

 

 

ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリリッーーー!!

 

 

 

 

指示通り人差し指で強く押した瞬間、けたたましい音が辺りに響いた。

 

 

「やってくれたな瀬能…!」

 

遠くから微かに人の声が聞こえてくる。

まだ残ってる奴はいたみたいだな

 

 

「俺はか弱いんだ、これくらいハンデがあってもいいだろう?」

「互角に立ち回ってる奴がか弱いわけないだろうが!!」

 

その場から動かずに剣先をこちらに向けて構えをとる。

次の瞬間、その刃が勢いよく向かってきた。

 

 

出来れば、不利だと思って引いてほしかった

そうすれば戦わないですむから

 

出来れば、矛を収めてほしかった

この先ずっと憎しみを向けてもいいから

 

でもそれじゃ駄目だよな

結局誰も、救われない

 

 

踵を上げず地面につけたまま、両腕はぶらりと下げつつどっしりと相手を見据える。

 

 

「……雨ニモマケズ、風ニモマケズ」

(諦めた?いや、コイツに限ってその可能性は低いだろう)

 

「雪ニモ、夏ノ暑サニモマケズ」

(なにかされる前に一撃で仕留める!!)

 

「イツモシヅカニワラッテイル……」

 

 

 

 

―――ねーじーちゃーん、じーちゃんはどうしてずっと沖縄(ここ)にいるの?

―――んん?どういう意味じゃ?

―――だってみんな言ってるよ?実力はあるんだからこんな田舎にいないで世界に出ればいいのにって

―――…ワシには力しかないからのぅ

―――えー?

―――腕力だけでは誰も救えんのじゃ。 同じ釜の飯を食った仲間も、鎬を削りあった友も。…自らが愛した者もな……

―――…じーちゃん……

―――ナツルよ、力だけの男になってはいかんぞ。こんなジジイのようにはな…

 

 

 

じいさん。

あんたがどんな人生を歩んで、なにを体験したか俺は知らない。知ろうとも思わない

 

でも――

 

 

「(何かする気配はないな…)終わりだ瀬能!」

 

 

 

今はただ、大切なものを守るための強さを俺にくれ

 

 

「サウイフモノニ  ワタシハナリタイ」

 

 

あともう少しで触れる、というくらい目前にまで迫ったソレに向かって右の手刀を叩きつける。

衝撃で顔を狙っていた剣先がずれて肩を掠めたが、構わずに残った拳を間髪入れず振り上げた。

 

ガァンッッ!!

 

左右の腕に挟まれ、剣が止まる。

 

 

「馬鹿が、それじゃ無意味――」「衝撃ってのは端から端に伝わるんだぜ」「?…!?」

 

 

突如、大地が驚いたような顔をして(シュヴェアト)を取り落とした。

軽い…まるで鉄パイプでも転がるような金属音が辺りに響く。見た感じ重そうだけどそうでもないんだなあれ

 

 

「てめえ……俺になにをした…!?」

左腕を押さえながら睨んでくる。

 

「俺の実家は古い武術の道場でね…時代遅れもいいとこだ」まあそのおかげで助かったんだけど

 

「武器持ちの敵に対して有効そうな技があったのを思い出してな。それを使ったんだ」

 

人生って分からないな。存在知ったときは使う機会一生ねえと思ったのに

 

「武器を通して衝撃を送りこみ、対象の腕を痺れさせ封じる。これが念心流・共振だ」

「ふざけやがって…でたらめがっ!」

 

叫びながら右手で剣を拾い上げる。

 

「勝ったと思うな!!」

またしても刃が伸びて襲ってくる。

 

しかしそのスピードは先程と違い格段に遅い。弾丸とボール投げくらい。

 

それになんか単調で…見てて痛々しい。あきらかに捨て鉢の特攻だ

 

 

「…共振っ!」近づいてきたところで、今度は両手を拳にした完全版の『共振』を放つ。

 

「ぐぅっ!?」

 

右手で掴んだ武器を、再び取り落とす大地。

今度は自分も一緒に床に倒れた。

 

 

やっと…終わった。短かったような長かったような、こんな戦闘は始めてだ

 

 

「…俺の…負けか……」

 

うつ伏せの大地が憎らしげな声をしぼり出す。

 

「とどめを刺せ。それぐらいの覚悟はできてる」

「…できるわけねーだろ」

「やれ!」突き刺さりそうなほど鋭い視線で睨みつける

 

「俺は諦めないぞ。お前を殺すまで何度でも」「くればいい」「!?」

 

「今日負けたからって、やめる必要はないさ」

「…瀬能、お前気は確かか?」

「至って正常だ。当然俺も死にたくねえから全力で抵抗させてもらう」

「なんでそんな面倒なこと…今ここで終わらせた方が楽だろうに」

「俺はな大地」倒れたままの大地に近づく。傷口いてー

 

「お前に生きててほしいんだよ…一生恨まれても、憎まれてもいい。だから、生きてくれ」

「…………」考え込んでいるのか、顔を伏せる。

「それに死んじまったら、復讐することもできなくなるぞ」

「わけわかんねえよ…」

奴の頭ごしに、泣きそうな声が耳に届いた。

 

「なんなんだよ…お前……意味わかんねえよ…」

「実のところ自分でもよく分からん。とりあえず甘いんじゃね?」もしくは甘じょっぱい?

 

「そこんとこよく観察して報告してもらえるとありがたいんだけど」言いながら右手を差し出す。

 

大地は無言のまま顔を上げて、今にも泣きだしそうな顔で俺の手を見つめる。

 

しばらくそのまま動かずに待っていると、おずおずと左腕が伸びてきてーーー

 

 

バシュッ

 

 

大地のわき腹が瞬時に紅く染まった。

 

 

 

 

     ☆     ★     ☆

 

 

 

 

それは突然やってきた。

 

突然真横から衝撃がきて、突然目の前の景色が流れ、突然腹部から感覚が消えた。

 

「大地ぃっーーー!!」

 

突然消えた憎むべき男が、悲鳴に近い大声を上げて駆け寄ってくるのも突然だ。

 

そして―――

 

 

「いっや~んっ。流石メイちゃん、大当たりぃ!!」

 

 

ゆっくりと、上の階から死神が姿を現した。

 

死神は右腕に青い腕輪を付け、変わった形をした女。

 

 

他にもまだケンプファーがいたとはな…。

瀬能に集中するあまり、気がつかなかった。

 

女は足音を立てながら近づいてくる。

 

 

「……にしてんだ…」瀬能がうつむいたまま、唐突につぶやく。

 

「ん~?なあに、あなたもケンプファー?へー男なのに珍しいね」

「なにしてんだ…」

「横取りしたみたいでゴメンねー?でも見てたらトドメ刺しそうになかったからさー。ダメだよ最後までさくっとやらなきゃ、わたしたちと違ってソレは敵なんだか(メキっ)」

 

バゴォッ!

 

 

それまで得意げにしゃべっていた女の顔面に、瞬間移動したかのようなスピードで拳がめり込み、そのまま女を廊下の向こうへと吹っ飛ばした。

 

拳の持ち主は…瀬能。

 

こいつ……さっきまでの戦闘で疲れきってるはずじゃなかったのか!?

 

 

「なにしてんだテメぇはぁあぁァっ!!」

 

 

角度の関係で顔は見えないが、おそらくその表情は鬼のような形相をしているのだろう。

 

 

勝てない訳だ。

 


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