まいごのまいごのおおかみさん   作:Aデュオ

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今は夏まっさかり? いいえ、新年です。
宇宙の 法則が 乱れた!


47話 Skoll

 

 

 お神酒! 飲まずにはいられないッ!!

 新年一杯目のお酒と思うと、何かちょっと厳かな気分にりますねぇい!

 

「厳かな気分とか言うなら樽じゃなくてお猪口にしなさいよアンタ」

 

 流石にこの体でお猪口は無理がありますので。

 零さないように必死でぷるっぷるしてる未来しか見えませんわー! いやー残念ですわー!

 神社への年始のご挨拶に、あの鉄板もとい斧を持ちこむのはどうかと思いますし? となるとこの人狼っぽい半端な姿にしかなれませんし?

 いやー本当に残念ですわー!

 

「……まぁその樽酒は人里の杜氏から『狼様へ』って言われたヤツだからいいんだけど」

 

 あら、そうだったんです?

 お供え物系はレイムさんに怒られそうだから駄目ですよーって言っておいたのに、あのお爺ちゃんったら…………あっ。

 

「別に怒りゃしないわよ、そのくらい」

 

 それは大変宜しゅうございました。いやぁ、新年早々肝が冷えるなんて酷いお話ですよ全く!

 

「ウチに奉納された量も例年以上だったしね。アンタと一緒に地鎮やら何やらやってたから、その関係でしょうけど」

 

 それはそれで天罰とか下りそうで怖いんですが。

 博麗神社のカミサマ、私は乗っ取りとか企んでませんからね!?

 ただのんびりと過ごしたいだけのカミサマもどきの妖獣ですので、そこはお許し下さると!

 

「紫曰く『神社の境内に他所の神社の分社が建っている程度、珍しくもない』って話だし、気にしなくていいんじゃないの?」

 

 あれ、思ってたよりもその辺ゆるゆるな感じなんです?

 何かもっと、こう……『うちのシマ荒らすたぁいい度胸だ貴様ァ!』みたいな勢いで怒られると思ってたんですけど。

 

「それでウチの実入りがあからさまに減るならまだしも、増えてるからね」

 

 あらま現金な事ですわ。

 

「豊作だったっていうのもあるんだろうけど、食べ物には困らなかったからね、去年は」

 

 その豊作は人里の皆が頑張ったからですよ。何かお年寄りの方々が元気に働き始めましたからねぇ。

 若衆曰く『畑やら田んぼやらに回せる手が増えた』 奥様達曰く『家事の負担が減った』って。

 体の節々が痛いとか言ってたお爺ちゃんなんかが日に日に元気になっていくのは色々と危ないんじゃないか、って戦々恐々としていたんですがねぇ……

 

「小間物屋の爺様の事を言ってるのなら、あの人昨日も元気に雪かきしてたわよ」

 

 元気すぎるんですよねぇ、これが。

 まぁ元気に長生きしてくれるならそれが一番なんですけども。

 

「そういえば人里で『商売繁盛、恋愛成就、家内安全に加えて無病息災まで始めやがった』って噂されてたわよ」

 

 ご利益の種類が増えましたね、また。

 何をしたわけでも無いんですけどねぇ。

 人里でお喋りしてお散歩しておやつ貰って昼寝してるだけで、次から次へとご利益が増えるとはこれ如何に!

 

「……アンタはそれでいいんじゃないの? 別に神もどきになったからって気張って何かをする必要はないでしょ」

 

 そんなもんですかね?

 拝まれたりされると、何かした方が良いんじゃないかなー何て思ったりもするんですけど。

 

「そもそもあんた妖獣じゃない。そこらの獣が好きに生きて妖になって、また好きに生きて神様扱いされて神格を得たっていうなら、それはそういう事よ」

 

 ふむ、なるほど。全くわかりませんね!

 

「アンタはアンタのしたいようにしてればいい、って事」

 

 ふむん……ふむぅ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 まぁとりあえず、お次は人里へ新年のご挨拶と洒落込みましょうか。

 何か、狼の遠吠えには魔除けの効果があるとか聞いたような聞いてないような、そんな気がしますし?

 レイムさんにはああ言われましたけど、別に吠える程度なら労力的にもどうという事はありませんしねぇ。

 ご挨拶と魔除けが一回で済むのは楽で大変結構!

 遠吠えをご挨拶扱いしていいのかは若干悩み処ではありますが、まぁこの人里ですし?

 問題になる事なんてまぁナイナイ。あったら逆にどうしてそうなったって笑い話になりそうですもの。

 という事でぇ、吸ってー、吐いてー、大きく吸ってー!

 そいやっ!!

 

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――――!!

 

 

 

 

 

「ひぁぁ!?」

 

 

 

 んむ、さっきのお酒で喉も良い感じに潤って、中々聞きごたえのある遠吠えになったんじゃないでしょうかっ。

 ややや、今の遠吠えで喉にだめぇじが。お酒で潤いを補充しなければいけませんねこれは!

 んー、一仕事終えた後のお酒の美味しい事! んまぁい!!

 

 …………で、気のせいじゃなければ、何か小さく悲鳴が聞こえたんような。

 今さらこの人里で私の遠吠え程度に悲鳴をあげるような方が居るんでしょうかね。

 ふむ、嗅ぎ覚えのない匂い……匂い……あっちですか。

 というかこの匂い、もしかしなくてもモミジさんと一緒に居らっしゃる?

 そういえば大晦日と元日は非番だって仰ってましたし、白狼天狗のどなたかと一緒に人里にいらしてたんですかねぇ、これは。

 

 とりあえずおさらばです、お茶屋さんちの屋根の上!

 目標、多分あの辺! スコール発射までさーんにーいーち!

 はいドーン!

 

 

 

 

 

「なによ今の馬鹿でかい遠吠え!?」

「あのこえはぁ、スコールさんですねぇ。よーくひびく、いいとおぼえですっ」

 

 

 

 

 

 着地!! そしてモミジさんだーいせーいかーい! もひとつオマケに、あけましておめでとうございます!

 

「ひゃい!?」

 

 そしてお連れさんは初めまして!

 私、この人里で何か神様もどきになったらしいスコールでございます。

 コンゴトモヨロシク……お願いしまぁす!

 うわっほい樽酒がんまぁい!

 

「あけましてぇ、おめでとうございまぁす」

「あ、あけましておめでとうございます……ええと、今泉影狼です」

 

 はい、どうぞよろしくお願いします。

『挨拶は大事、古事記にもそう書いてある』ってヤツですね、ええ。

 さっきの遠吠えも人里へまるっとご挨拶のつもりだったんですけど……いやはや、驚かせてしまったみたいで申し訳ない。

 

「いえいえ、ごりっぱなとおぼえでしたよぉ?」

「確かに凄い響き方だったわね」

 

 お褒めに預かり恐悦至極。

 そしてモミジさんったら見事に出来上がってらっしゃるぅ!

 今ならアレができますね……ほぅらおいでおいでーモフモフですよー気持ちいいですよー?

 

「新年初モフですねぇ、わほーい!」

 

 わほーい!

 モミジさんげっとです!

 

「げっとされちゃいましたっ! んー、あいかわらずおむねのあたりのけなみ、おみごとですっ」

 

 やぁんかーわーいーいー!

 毛並の中でふにゃふにゃ笑うモミジさん、ぷらいすれすで御座います。

 これぞ目の保養ってやつですね!

 

 ……しかしまぁ、人里でここまで酔ってるとはまた珍しい。

 

「あー……日暮れ前から、居酒屋で一緒に飲んでたから」

 

 おぅふ……モミジさんにしてはまたまた珍しい。

 よっぽど仲がよろしいんですねぇ、カゲロウさん。

 

「そうなの、かな?」

 

 モミジさんが人前でこれだけ酔うのって、傍に頼ってもいいと思ってる人が居る時だけらしいですよ?

『つまり、そういう事』ってやつですね。

 

「…………っ!」

 

 あらま照れ屋さんですねぇ、カゲロウさんったら!

 何か同族さんっぽい気配もしますし、新年早々良い出会いで御座いますこと。

 これはもうお誘いするしかありませんねぇ!

 

「お誘い?」

「もしかしてまたえんかいですかぁ!」

 

 もしかしなくても宴会でありまっす!

 宴会には来られないかなーって方々へ新年の挨拶回りをしてたんですよ、私。

 モミジさんとアヤさんの所はこれからの予定だったんですが……モミジさんはいいとして、アヤさんどうしましょう。

 

「あやさまならぁ、ついさっき、そこのさかやさんにいましたよぉ」

「あっちはあっちで『紅魔館へご挨拶に』って言ってたわ」

 

 あややや、これは好都合。おうちに帰ればご挨拶完了ですねっ!

 で、お二人さんどうです?

 ちなみにモミジさんは常連さんですから知ってるでしょうけど、カゲロウさんは初めましてなのでご説明しますとですね?

 

「めずらしいおさけとぉ、おつまみ!」

 

 そしてどうやって集まったんですかこの方々、って混沌とした出席者!

 

「すごいですよねぇ。おつよいかたがたがずらぁり!」

「……椛はあっさり流してるけど、大丈夫なの?」

 

 えっと、紅魔館の外からの方々は……冬眠中のユカリさんを除いたヤクモさんご一家、鬼のスイカさん、冥界のお姫様と……なんか刀を振り回す庭師さん?

 

「いきなり飛ばしてきた!?」

 

 後は太陽の畑のユウカさん、人形遣いのアリスさん、来てくれるらしい烏天狗のアヤさん、焼鳥もこたん。

 

「うわぁ……」

 

 とりあえず思いつくのはこんな方々ですかね。

 後は皆さんが知り合いを連れてくるかにもよりますから、何とも言えない所が少々ありますけど。

 なんか前にちらっとアヤさんが『ウチのトップがその内お忍びで押しかけそうなんですよねぇ』とか言ってましたし、いつの間にか参加者が増えてるのは良くある事なんですが。

 

「いや、大丈夫なの、それ?」

「みなさんおやさしいかたがたですからぁ、だいじょうぶ、ですっ」

 

 大丈夫なんですよねぇ、これが。

 そりゃあ皆さん怒ったらとんでもなくおっかない方々なのは間違いありませんけど、余程の事が無ければそんな事態になりませんし。

 けらけらうふふと笑いながらお酒飲んでおつまみ食べてぐだぐだしてますよ、いっつも。

 そして割と頻繁に笑い話的なナニカが起きたりします。

 悪ノリした強制ファッションショーとか、大惨事飲み比べ大戦とか、仁義なきモフくらべとか。

 

「ほら、いきましょかげろーさん!」

「ひゃっ!?」

 

 うん、確信しました。

 モミジさんに抱き付かれてその反応になるのなら、うちの宴会に馴染めます。

 さ、行きましょ行きましょ。今なら私の背中が空いてますよ?

 人狼だと背負って走りづらいので、普通の狼の姿ですが。

 

「じゃあいちばんのりー!」

「その大きさは絶対に普通の狼じゃないわ……」

 

 のられましたー!

 あ、カゲロウさん、モミジさん落っこちちゃったら困るので、できれば後ろからそっと抱いておいてあげてくださいねー。

 ついでに落ち着く所の毛を掴んで貰って構いませんので!

 

「う、うん?」

 

 ほらほら、お早くお早く! あまり遅くなると先に始められちゃいますからね!

 

「…………本当に大丈夫なんでしょうね、コレ」

 

 よし、乗りましたね? 抱きましたね? 掴みましたね?

 二名様ごあんなーい! はーいよろこんでー!

 スコール、行っきまーす!!

 

「え……へみゅっ!?」

 

 

 

 

 

 

 …………あー、カゲロウさん、大丈夫ですか?

 

「ひ、ひた()かんだぁ……」

「すこーるさんしょしんしゃあるあるですねぇ……」

 

 あっちゃあ……おうちに着いたらうちのパチュリーさんに回復魔法かけて貰いましょうね……?

 というか私の初心者って何ですかモミジさんっ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ねぇアリス、この子に合わせる色、やっぱり黒にしない?」

「んー、確かに白だと印象が変わらなさすぎるわ。黒……いや、むしろ紅くしちゃう?」

「お正月だしそれもいいわね。なら前にフラン様の服に使った布で良い物があるから持ってくるわ」

「あ、私も行くわ。もう何着か作りたいし」

 

 頑張ってください!

 ……ところでカゲロウさん。なんかぐったりしてますけど、大丈夫ですか?

 サクヤさんとアリスさんの悪ノリはまだ始まったばかりですよ?

 

「ぜんっぜん大丈夫じゃない! うそつきぃ!!」

 

 いやはや、まだまだお元気ですね! ヨシッ!!

 というか、タダでよくお似合いになるお洋服が増えるだけですよ?

 最近じゃあウチにあるお洋服の大半がアリスさん製になってる程に品質ばっちり!

 ほらほら、あそこでほにゃっとしてるレミリアさんのお着物も、にっこにっこしてるフランさんのもこもこわんぴーすも。

 も一つ言うなら、さっきのサクヤさんの……何て言いましたっけ……くらしかるすたいる? のメイド服も。

 

「…………」

 

 おぅおぅ、ちょっと『いいかも』って思いましたね?

 お洋服の種類についてご希望があれば伝えるが吉ですよ!

 

「!?」

 

 ちなみにその辺の遠慮は一切無用!

 アリスさん、何だかんだ言ったりしますけど『自分の作った服を着て貰えるのが嬉しい!!』ってタイプの人ですからね。

 作った服がお気に入りの一着になったって言われたら、それだけでもう大喜びですもの。

 大喜びのついでにその場で小物やら服が追加されたりしますけど。

 

 いやぁ、完成まで速いですよ?

 ご自慢のお人形さんたちと裁って縫って調整して、はい一丁あがりっ!

 コレを全部目測でやっちゃいますからねぇ。

 

『フリルつける? はい、できたわよ』

『装飾ボタン? じゃあついでに襟にもフリル付けといた方がバランス良いわね、はいできた』

 なんて具合にさっくさくと出来上がりすぎて、ユウカさんからは『紅魔館の仕立て屋に就職したの?』なんてからかわれたりしてますが。

 

「お褒めに預かり光栄ですわ、と言えばいいのかしら。否定できなくなってきてるのは自覚してるわ」

「いいじゃないの。貴女は製作欲が満たせる。私達はクローゼットの中のお気に入りが満たせる。win-winじゃない」

「更に否定できないわ」

 

 お帰りなさいまっせー!

 というかまたしこたま布やら何やらを抱えてきましたね?

 

「ついでに椛にも色味の違うお揃いの服を仕立てて、紅白狼シスターズを目指してみようかなって」

「滾りますわぁ」

 

 あっ…………はい。

 カゲロウさん、強く生きてくださいね?

 

「さっきと言ってる事が変わってるじゃない!? 助けてよ!!」

「助けて、なんて人聞きの悪い。ねぇ咲夜?」

「全くですわー。そんな言葉が出て来なくなるようにして差し上げなければ、紅魔館メイド長の名折れですわー」

 

 わぁいアリスさんとサクヤさんが白々しーい!

 これは……キますよ。キてますよ!

 

「何がよ!?」

 

 ごっすごっすのごすろり服ですかね?

 今お二方が考えてるの、多分『徹底的に着飾らせてあげるわ!!!』とかですよ。

 もうヒラヒラマシマシキラキラマシマシオマケニカワイサテンコモリ!みたいなのになると私は予想してます。

 

「やるじゃないの、スコール。ならそれで」

「はい、まずは採寸からね」

 

 サクヤさん、採寸って言いながら時間を止めてまで服を脱がすのは流石にどうかと……!

 

「へ……? え、え?」

「ふむ、出るとこは出て、引っ込む所はきっちり引っ込む。スタイルいいわねぇ、貴女」

「はい、採寸終わり。ほんと、アリスったらいい目を持ってるわ」

 

 今度は着せるんですか……。

 というかアリスさん、見ただけで分かる所まで逝っちゃったんですね……!

 

「!!!??」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「悔しいけど可愛い……!」

「ふぁー……」

「そして椛が可愛い……!!!」

「おそろいですよっ!」

「――――――!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「文?」

「抜かりなく。咲夜さんも(ワル)ですねぇ?」

「人聞きの悪い。可愛らしい方々の可愛らしい写真が欲しい、それはとてもとても当然の事ですわ」

「あ、ちょっと紫さん風味で胡散臭さが増しましたよ」

「それはそれは――――とてもとても残念な事ですわ」

 

 

――――――

 

 

「咲夜さん、私まで脱がすのはやめましょう!?」

「アリスー? もう一人注文が入ったわよー?」

「やめましょう!?」

 


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