ようやく昼間が暖かくなってきて、縁側でだらりとお茶を飲むのにも具合が宜しくなってきた今日この頃。
今日も今日とてもそもそとお茶の準備をして、縁側にお座布団、お煎餅、お茶と完璧な布陣が出来上がった。
突き抜けるような青い空、吹き抜ける心地良い風、揺れる緑……もとい揺れすぎている緑。
感じる妖気から、妖怪が来ているのは分かる。
そして、ちらりと見えた色から、何が来ていたのかもわかった。
まぁ、あれなら良いだろう。
「いらっしゃい。お賽銭はあちら、供物はこちらよ」
目の前に躍り出てきた狼に向かって、とりあえずご挨拶。
わっふ! なんて呑気に返事を返してお賽銭箱に向かって行ったあいつはきっといい奴だわ。
うむ、じゃらじゃらと多額のお賽銭が入る音も聞こえてきた。
やっぱりいい奴だったわ。
「拝むならあっちで拝みなさい。私は現人神じゃないわよ」
でも戻って来るなり私の前で人狼に変化しながら手を合わせてむにゃむにゃ言うのはやめなさい。
そしてそっと貢物みたいにお土産を出すんじゃない。
ふむ? 太陽の畑産、紅魔館ブレンド緑茶?
緑茶にも合うクッキーセット?
試作品の羊羹バラエティーセット?
……付いてた紙、メッセージカードかと思ったらお品書きか。
「上がってく? お茶しか出さないけど」
妖怪をほいほい神社に上げるな、って言われればそれまでだけど、こいつは……まぁ、うん。
妖怪? ――うん、まぁ、妖怪?
前に見た時は半ば神になりかけてる感があったけど、今は……何だろう、こう、何か違う。
妖怪の体に神の衣を纏った的な何かだわ、これ。
本質は妖怪であり、しかしながら神としても在る。
んー……セーフ?
うん、面倒くさいからセーフって事にしておこう。
そんな事を悩みながらほぼ無意識に、そう、無意識に羊羹をぱくりと行ってしまっていた。
うん。
「上がってきなさい。足を拭く雑巾を持ってきてあげるわ」
何これ美味しい。
ちらりと見えた包み紙には林檎を混ぜたものだと書かれていた。
邪道だと思いつつも何これ美味しい。
水瓶から桶へ少しばかり水を汲んで、雑巾と共に縁側へ。
口の中に残る林檎羊羹の後味。
いいわね、これ。
うん、いい。
「ほら、右……左。次は後ろ足……って何で私を巻き込むのよ」
前脚を拭いてやって、次は後脚だと思ったらなんでそうなるの。
いつの間にか半獣からまるっと狼へ戻っていた体で、てしてしと縁側へ前脚だけあげて、そのままぐるりと私を抱き込んで、後脚を私の前でぶらり?
……まぁ拭いてやろう。
そのまま縁側に上がられても後から掃除をするのはどうせ私なんだから。
とは言え、こいつの足ってほとんど汚れてないのよね。
これなら乾いた布で軽くはたいてやれば、家に上げるのに抵抗はないかな、程度。
軽くしてる分汚れが付きにくいのかしらね。
「はいおしまい。どうしたのよ、今日はえらく静かじゃない」
そう、うぉっふうぉっふと狼らしい鳴き声こそあげはするものの、あの暢気な思考が飛んでこない。
ていうかそれとは別に、何か違和感があるような……?
ん? 首?
あぁ、首か。
そういえばあの前掛けが無いわね。
代わりに今までは無かった、馬鹿みたいに大きな鉄板……斧? が縁側に立てかけられてるけど。
「で?」
また人狼? 忙しないわね、今日は。
ふむ……鞄からペンと手帳、しかも無駄に高そうな装飾付き。
あれ里の小物屋に持って行ったら絶対高いヤツだわ。
ペンが小さすぎて爪楊枝みたいになってるけど。
「ふむふむ――斧にひっかけて破けた?」
きゅーん、なんて可愛らしい鳴き声を出して頷いているところで悪いけどね、見た目を考えなさいあんた。
馬鹿でかくて見た目だけは凛々しい人狼が出していい鳴き声じゃないわそれ。
ん? まだ何かあんの?
「……はぁ?」
おい妖怪、それでいいのか妖怪。というよりむしろ人里。
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ずしん、ずしん、なんて。
傍から見ればそういう効果音が付きそうな程度に太い幹の、そんな杉の大木を枝打ちだけして肩へ担ぎ、二本も運搬している姿というのは人里の面々からしても奇異に映ったらしくて。
進む先々で声を掛けられるもので、新調して貰ったスカーフを巻いてきて正解だったと思う次第。
「うぉぉ……遠目に見えた時は何事かと思ったもんだが……近くに来たら更にすげぇなオイ」
「また立派な大木だなぁ……」
妖怪の山に生えていた大きな大きな杉の木。
アヤさんにお願いしてみたところ、山の端っこに生えていたのもあって伐採許可が下りたんですよね、これ。
お代は紅魔館で造られたサクヤさん特製きるしゅばっさー!
伐採許可を出すお偉いさんにいきなり話を持って行くのもあれなので、手付代わりに数本アヤさんに渡しておいたところ、これが大当たり。
話を持って行ってくれたアヤさんが拍子抜けする程にあっさりと、その場で許可が貰えたという。
サクヤさん、ひいては材料をくれたユカリさんには感謝ですねぇ。
美味しい物は皆を幸せにするんですよ!
「スコールさん、今度は何をしでかすおつもりで?」
「いや待て、聞くな!! 今度はどんな笑い話か当ててみようぜ!?」
ちょっと、笑い話っていうのが確定しているような言い方は酷いんじゃないですかね?
そんな毎回毎回皆さまに笑いを提供しているわけじゃ……あれ?
「まぁいいじゃねぇか、たまの娯楽さ。……って事で甘味屋の店の周りに出口の無い塀を作ってみるとかどうよ?」
「待て、ヤツならいい感じの場所でくり抜いて立派な門にしかねないぞ!?」
「じゃあ茶屋か? あれなら突拍子も無く『御殿が欲しい』何て言ってスコールを騙しかねん。そしてこいつは騙されかねん!」
「……積極的に否定はできん所がまた何とも」
「んー、他なんかねぇか? これだけじゃあ賭けにならん」
「じゃあ慧音先生の家を大改装」
「やりかねんな。次!」
「人里にもこ炭出張販売所の建設」
「それもやりかねん。もう一声!」
「スコールさんの、スコールさんによる、スコールさんのためのスコール小屋の建設」
「なげーわ。次ぃ!」
人里のど真ん中で、何故か周りにわいわい集まってきた方々のせいで行くも戻るもできなくなってしまいましたが、この状況は何でしょうねぇ。
いや、確かに大木を運ぶためにかるーく軽くしてましたけど、その影響ですかね?
そして堂々と賭け事が始まって、ノリにノル皆様方。
どっから出てきたんですかその賭け対象を書く大きな木の板?
そして何で貴方が音頭取ってるんですか八百屋さぁん……!?
「よっしゃぁ大穴じゃあ! 紅魔館人里支部の設置!」
ぎくり。
そう、思わずぎくりとして担いでいた大木二本がぶるりと揺れてしまいまして。
あっはー……ちょっと違いますけれど大方ばーれーたー!
「…………おいこら、賭けを台無しにする反応するなよ馬鹿野狼」
「てか人里に妖怪の家を建てるってオイ……おい……あれ?」
「んー…………? ん?」
や、流石に不味かったですかねこれ。
甘味屋さんのお店で寛いでたお年寄りさん達に『人里に私のお家建てても大丈夫ですかね?』って聞いてみたらあっさり『わしらはかまわんぞい?』ってお返事は貰ってたんですけど。
全員に決を採ったわけじゃないですからねぇ。
「妖怪の家って言っちまえばアレだけど、コイツんちだろ?」
「紅魔館の面々も一緒に散々人里で飲み食いやら買い物やらしてんの見るけど、むしろ上客中の上客だしなぁ」
「いちゃもんつけるでもなし、むしろ良い物だったら代金上乗せまでしてくれるくらいだぜ? 良い物にはそれだけの対価を、なんて」
お? お?
好感触?
いけちゃいます!?
「あー……おいお前ら、総評」
「別にいいんじゃね?」
「博麗の巫女さんから聞いた話じゃと、スコールさんは人里の信仰で神様に成りかけとるんじゃろ? じゃったらむしろ神社の造営じゃないか」
あらま言っちゃいますかソレ。
あー……言ったの煎餅屋のおじーちゃんですかアレ。
博麗神社の縁側御用達の。
そりゃあそういう受け取り方もしちゃいますかねぇ。
『………………』
あれ、何か皆さん静まり返っちゃいましたね。
それにしても何ですかこの空気?
一部の人達も何が起こったとばかりに辺りを見回してますし。
これだけ人が集まったのに、騒がしさの欠片も無くなっちゃうとか珍しい。
『はぁ!?』
ほぁい!?
耳にがつんと来る叫び声はやめましょうよ皆さん!!
「おいこら待て、待て待て待て馬鹿野狼!? いつからそんな事になってんだ!?」
えーと、私の様子がちょっとおかしいって皆さんが心配してくれてた辺りですかね?
あれ、言ってませんでしたっけ? ……あれ?
「いや神様ってオイ……」
「いや待て、冷静に考えてみれば順当じゃないか?」
「むしろお前ら知らなかったのかよ。世間話のノリでスコール自身が口に出してたから知ってるもんだと思ってたわ」
「うちの婆様とかスコールさんが店に来たら手ぇ合わせてお供え物してんぞ。菓子とか野菜とか。大抵その場でぺろっと食べて一緒に和んでるわ」
「あ、うちの爺様もだわソレ」
「お前んトコもかよ……うちもだぞオイ」
「うちは爺ちゃん居なくなってから塞いでた婆ちゃんが、にこにこ笑いながらせっせとスコールさん用の特大座布団を作って縁側に設置したわ」
「そういえば婆ちゃんが『手ぇあわせんか!』って怒ってた事があったな……知ってたのなら教えろよぉ」
あー、あれの寝心地良いんですよねぇ。
ついついごろごろまるっとお婆ちゃん抱え込んで居眠りしちゃう位に。
出してくれるお菓子と冷ましたお茶も美味しいですし。
ていうか塞いでましたっけ? 私が行った時はいっつもにっこり笑って世話焼いてくれてるんですけど。
「そりゃお前さんがウチに来だしてからだよ」
「……あー、そういやぁうちのおばぁも今まで以上にトマト作りに精を出し始めたからなぁ。ふらつきだしてた足もいつの間にかしっかりしてっし」
「それでか、なんか異様に八百屋のトマトが美味くなったなーなんて思ってたのは!?」
それは確かに。
紅魔館でも大絶賛ですからねあのトマト。
持って帰ったらその日の内に食卓に並びますもの。
そして残らないどころか争奪戦が起こるといふ。
「おばぁのトマトなら仕方ない。てかアレ店に出ててもすぐに無くなって買えないんだけど、そこんとこどうよ八百屋ジ?」
「いついかなる時でも、スコール用の分は確保してんぞうちのおばぁ。だがバ鍛冶屋に売ってやるトマトはねぇな」
「ちくしょうこの馬鹿野狼!! 俺のトマトを返せ!!」
おばぁちゃんのトマトなら仕方ない。
いやはやいい言葉ですねぇ!
そしてトマトは譲りませんよ?
あれ持って帰ったら私のお皿に美味しい逸品が増えるんですもの!!
トマトの姿焼きとかトマトの……か、かぷれーぜ? とか。
「ちくしょう! ちくしょう!! あの美人メイドさんの手作りとか妬ましい!」
「おーい話逸れてんぞーバ鍛冶屋ー?」
「まぁ落ち着くんじゃ二人とも。スコールさんなら話題が迷子になるのは仕方ない。むしろ迷走しだすのは調子の良い証拠じゃろ」
「そうだな、スコールなら仕方ない。迷走具合でどんだけ調子に乗ってんのかわかるようになってきたんだがどうしよう……?」
「ご愁傷様って言ってやろうか?」
「ちくしょうスコールさんの馬鹿野狼!?」
ちょっと八百屋さんどんだけ馬鹿野狼を広めたんですか!?
人里の皆さんがさらりと自然に使ってくるんですが!
「字面を説明したら皆あっさりと『あぁ……うん。……うん』で納得されたぞ?」
「否定しきれんだろこんなん」
酷い! ひーどーいー!!
って皆なんで目を逸らすんですか!?
ちょっとそこのおじーちゃ……体ごとそっぽ向かないでくれません!?
しかもお腹まで抱えて笑い噛み殺すとか何ですか!!
『いやぁ、愛されてるなぁオイ。妖怪がこんな信用のされ方をするなんてそうそう無いぞ? こりゃあ気合入れなきゃなぁ』
信用のされ方がおかしいでしょう!?
もっとこう、えぇと……すたいりっしゅな!?
すたいりっしゅって言えば何かカッコイイって聞いたので、そう、すたいりっしゅな信仰をですね?
『スタイリッシュ信仰って何だよオイ……』
「……あん?」
「おい、ちょっと待て、今の声誰だ?」
「てかどっから……」
……おん?
あれ、そういえば?
スイカさーんスイカさーん、おいでませぃスイカさん!
「招かれたなら仕方ないわなぁ」
あ、やっぱりすぐ近くに居ましたか。
人里に居るなんて珍しいですね?
「正確にはお前の近くに居る、が正しい。大体面白い」
「あ、何か親近感。鬼さんお団子食べる?」
「どっちかって言えば酒じゃね?」
お酒は出したら出されただけ飲んじゃいますから気を付けて下さいね?
気持ちの良い酔い方はしてくれますけど……酔いはしても底なしですもの。
「じゃあやっぱり団子か。おーい甘味屋ぁ!」
「心得てますとも! はいお団子です!!」
「……お前今どっから団子出した?」
「乙女のひ・み・つ、ですよぉ?」
『乙女がどこにいんだよ』
「ようし皆さま方そこにお並びなさい。慧音先生を倒した伝家の宝刀、どろ濃野菜汁をご馳走して差し上げましょう」
人里を大混乱に陥れようとするのはやめましょうよ甘味屋さん!?
「……ほぅら面白い。大体人里のど真ん中にいきなり鬼が出たなんて、いくら掟があるとは言えこんな程度で済むものかよ」
んん? んんんんん?
この人里、ユウカさんやフランさん、レミリアさんが来ても平然としてますよ?
フランさんなんて『ほらこれをお食べ、こっちもどうだい?』なんて勢いですぐに貢物の山ですもの。
「だって可愛いんですもの。こんなに食べきれないって、こっちに断りを入れてから大事そうに包んで持って帰るのよ?」
「あんな笑顔見せられちゃあなぁ。それに何よりこいつと一緒に来てるんだ、悪いヤツじゃあねぇさ」
「然り、然り。妖と人の感性の違いはあろうが、それを加味してもあれは人にとって悪しき心根ではあるまいよ。……いらぬ手を出したらその限りではなかろうが」
ほら。
ちなみに持って帰ったお菓子やら食べ物は館で即座に食べられます。
妖精メイド達がわらわら集まってきて大人気ですよ?
「ばぁか、今言われてただろう? そりゃあお前と一緒だからだよ。そうじゃなきゃ今まで散々妖怪の驚異にさらされた人里がこんな穏やかなもんか」
「…………それを承知で出てきたという事は、お前さんもそうなんだろ? だったら良いさ」
「ほぉ、言うねぇ人間が」
「違ったなら、そりゃあ俺たちの目が節穴だったって事だ」
…………お? おん?
あれ、何で真面目な空気?
軽さ足しておきます?
「やめろよ……アイツが頑張って真面目な顔作ってんのにそれはやめろよぉ!」
「そうよ、後ろ手で脇腹必死につねって笑わないように頑張ってるのよ!?」
「おいこら馬鹿ども、ばらすなぁ!?」
なんだ、いつも通りの人里でしたか。
そしてスイカさんったらいい所に出てきて下さいました事!
お酒をお供えするんで、おうち建てるの手伝ってくれません?
とりあえずユウカさんちみたいなのを目指してるんですが。
「かまわないけどさぁ、いや、いいんだけどさぁ」
わほーい!
じゃあ見た目はユウカさんちで、中身はでっかいお風呂と広めの板張りの床でお願いしまっす!
「台所とか色々どこに行ったんだよ」
サッパリして、それから毛を乾かせる場所さえあればいいんですよ!
食べ物なんてそこらにお店がありますし、気持ちよくごろ寝するだけならこれまたそこらのおうちにお邪魔すればいいわけで。
さっき話に挙がりましたけど、特製お座布団作ってくれてるおうちもあるくらいですもの!
あぁ、折角ならだらりとお話ししながらお茶飲める休憩所みたいなのも作っちゃいます?
「お前は一体何を目指してんだよオイ」
人里を存分に堪能するための紅魔館スコール支部ですよ!
なんか長い名前ですけど、メイリンさんがこんな感じで言っておけば間違いないからって言うので。
「あー……おい人の子らよ、コレいいのかね?」
「いいんじゃね?」
「さっき結論出たしなぁ……別に悪さはしないだろ、コイツなら」
「むしろそういう所ができたらウチの婆ちゃんが足繁く通う気がするわ」
「ウチもだな。いや楽しく過ごしてくれるならそれが一番だし、かまわんさ」
うひひひ……休憩所のお代は食べ物とかお酒とかお茶をお願いしましょうか!
お金貰っても基本的に買い食いするかお土産買うかくらいしか使い道ありませんし。
そのくらいだったら普段のお小遣い稼ぎで十二分に賄えますからねぇ。
「お代がそれだと普段と変わらねぇよなぁ」
「あ、ついでに家の入口にアレつけとけ、文書箱! 捕まらねぇ時にそこに用件書いた紙入れとくわ」
「あぁいいなソレ。つけとけつけとけ」
「じゃあも一つついでに賽銭箱でもつけとくか?」
「あんまり神社っぽくすると博麗の巫女がカチコミに来るんじゃねぇか?」
やめましょう!!
レイムさんの神社業を邪魔したらお空から針とお札が降ってきかねませんからね!?
嫌ですよ私、ある日いきなり鬼巫女レイムさんのカチコミを受けてお家が穴だらけとか!
「しゃーねぇ、じゃあ文書箱とお供え物箱だな」
「但し書きに『お金は入れないで下さい』ってか?」
「とりあえず日持ちする食い物は溢れるだろうな、うん」
だからお供え物系はまずいんですってば。
文書箱だけにしておきましょうよ。
「ふむ。まぁそこまで言うなら仕方ねぇか」
「じゃああれだ鬼さんよ、わしら大工も手伝うからさっさと家建てちまおうや。今丁度仕事が無くて暇なんだよ」
「こないだの井戸小屋みたいに『一晩で作ってみた』とかやめろよ? あれ夜通しでやってたからうるさくて寝れやしなかったんだからな」
「それはこの鬼さん次第だな、うん」
スイカさんの場合、文字通りの意味で百人力とかやっちゃいますからねぇ。
人里の皆さんの迷惑にならない範囲でお願いしますよ?
「まぁその気になれば一晩どころか昼間の数刻でも十分にやれるさ」
「はぁ?」
「数を揃えるのはお手の物でね。それこそ手が足りないって事だけはあり得ないのさぁ」
分裂して作業できますからねぇ。
しかも鬼の力で大きな柱だろうと一抱えで据えてしまえるという。
大工さんたちはあれですね、設計図作成が主になるんじゃないでしょうか。
「ああ、折角人里に建てるんだからそこは任せる。いい家にしてやってくれよ?」
「言われるまでもねぇ。こいつが不自由しねぇように色々と盛り込んでやらぁ!」
「それにしても凄かったわね。あんな大木を、まるで枝打ちくらいの気安さで切り倒すとは思わなかったわ」
「私はそこよりもお酒片手に見物に来ていた天魔様に驚かされましたねぇ」
「そこは、そもそも今回の伐採許可を出されたご本人だからねー」
「はぁ」
あの時の呼び出しは正直何事かと思ったわ。
さて誰に話を持って行くかと考えていた矢先に天魔様から伝書烏が来たんだもの。
「お山の入口前あたりでシートを広げてお花見しながら話をしていたの、見られてたらしくってね」
「あっちゃあ……」
「呼び出されて、渡されたお酒全部持って行かれて、変わりに数本の伐採許可」
「お咎めは無かったんですよねぇ?」
「そりゃあ悪い事なんて何もしていないもの」
「それは何よりです。でぇ、話の流れからして天魔様もお気に召したとぉ」
「その通り。また手に入ったら持ってこいとまで言われたわ」
ただ気になるのが、天魔様の口ぶりなんですよねぇ。
まるで巣立った子を見守るようなあの言動、何だったんでしょう?
もしかしてスコールさん、天魔様とお知りあいだったり?
「いやいやいや、ないない……無いわよね?」
いやでもスコールさんの放浪期間千年っていうのを考えればあり得なくも無い?
何てったって千年ですからねぇ。
あー、今後の事を考えればその辺押さえておいた方がいいかもしれないわね。
扱いに困るお歴々からいらぬ横槍を入れられるのは御免ですし?
そして何より興味がそそられて仕方がありませんし?
「よし、後でその辺確かめてみるとしますか」
とりあえず別口で貰っていたこの酒たちを飲んでから。
いやはや、お山の桃がこんな良い酒に化けるとは驚きですねぇ。
咲夜さん、いい仕事をしてくれました。
おかげでほにゃほにゃと幸せそうに酔った椛なんて、素晴らしいものを堪能できています。
あぁんもうかーわいーい!