「最近さぁ、うちのイナバが殺気立ってるおかげで永琳が機嫌悪いのよねぇ」
「何だそりゃ?」
「いや、何でもイナバの所に月からメッセージが届いたらしくってね?『月へ帰ってこい、逃がさないから覚悟しておけ』みたいな内容らしいんだけどさぁ」
「月に帰ってこい、はまだいいとしてだ。逃がさねぇってどうやってだよ?」
「…………あんたついに脳まで焦げた? 言葉通り、力づくで連れ帰しに来るって事でしょうよ」
まだ焼き方が足りなかったか。
今日はこんがりウェルダンで止めたのが間違いだったみたいだなぁ……次はしっかり炭になるまでゆっくりじっくり焼いてやろう。
まずは外側をこんがり、それが再生する前に内側をさらにこんがりと。
……しっかし、何言ってんだコイツ。
「いや、だってこの幻想郷は何か面倒くさい結界で覆ってるだろ。わざわざお前んとこのそこまで戦力にもならなさそうなウサギ一匹のためにそれを突破すんのか?」
「…………は?」
「いや、そりゃ作れたんだから壊せもするだろうけど…………あれ壊したら文字通りのバケモノ連中が一斉にブチ切れるぞ、多分」
「バケモノ連中って言ったって月の戦力とやりあって勝てると思うの?」
「いや、知らんがな。私は月に行った事なんてないし」
月の戦力、ねぇ。
コイツんとこの永琳を見てると冗談抜きにとんでもない連中が居そうではあるけど。
不老不死の薬作ったりとか、何か話聞いてるだけでも馬鹿らしくなってくる道具作ったりとか。
確かにヤバさ具合ではかなりのものだろうけど、幻想郷側も大概だと思うんだよなぁ?
方向性は違うだろうけど。
「月のトップ陣ってさ、一柱で世界作ったりとかできんの?」
「はぁ?」
「そこまで行かなくっても、そうだなぁ……その気になれば視認された時点で色々とぶっ壊されるとか……純粋な妖力のぶっぱ程度でどこまで続いてんだこの痕、みたいな砲撃とか」
「ナニソレ」
「この幻想郷のトップ陣の一部……あぁいや、世界作ったのはこの幻想郷に住んでるヤツの母親だから厳密には違うけども」
「…………」
「ちなみに砲撃の方は最終的に結界にぶち当たって一部抜いちゃったみたいでなぁ。結界敷いた奴と言い争った挙句宴会になってダブルノックダウンしたらしいぞ」
「なにそのどうでもいい情報……」
「ま、そんなんばっかり最近見てるせいで、私からすればこっちはこっちでぶっ飛んでるからそれ以上となるとあんまり想像できないんだよなぁ」
実際に見たものもあれば、話を聞いただけのものもある。
でも、どっちにしろできるかできないかで言えば、できるんだろうし。
てか宴会で盛り上がってる時に『昔はやんちゃしてたわよねー!』みたいなノリではっちゃけるあの紫結界ババアどうにかしろ。
あれのせいで色々と知りたくなかった歴史の裏側とか、観光地のできた原因とかを知っちゃって、もう。
何だよ外で観光名所になってる滝が、その実むかーしむかし、そこに別荘を建ててたから生活用水確保と涼を得るためだけに一晩でやっちゃった、って。
アホか、引っ越せ。
「えーと、冗談?」
「そう見えるか?」
「見えないわね。え、マジでそんなのがゴロゴロ居るの?」
「居る居る、わりとその辺にうようよと。少なくとも死なない体じゃなきゃ敵に回すのなんて絶対に、それこそ死んでも御免だって連中が」
「もこたんでそれなら、いらない藪を突っつけば更に出て来そうね」
「そりゃ出て来るだろうよ。地底に引っ込んでる連中なんてほとんど会った事ないし。噂では鬼どもがゲラゲラ笑って酒かっくらって殴り合いしてたりとかするらしいぞ」
「鬼。鬼、ねぇ。そんなに強いイメージがないんだけど?」
「おとぎ話に出て来るのは大抵退治されるからな。でも実物見たら『あれどうやって退治すんだよ、人間が』って思うぞ」
酒の席の遊び程度のノリで、本で見たらしい刀剣の丸のみってぇ馬鹿な大道芸を力技でやらかしたからな、あの酔っ払い。
丸のみってよりも踊り食いだったけど。
んで感想が『やっぱりカネは不味い!』ってどうなってんだ。
一応体の中でもかなり脆い部分だろ、体内って。
こんなんどうやって倒すんだと思って鬼ヶ島とかあたりの話を聞いたらまたアホだったけど。
実際の所、確かに豪傑ではあったらしいけど、倒したんじゃなくて鬼と意気投合してお互いに『なかった事』にしてたとは思わなかった。
おとぎ話の奪った宝ってのも、それを酒にして送ってくれってアホなノリだったらしいし。
結局その豪傑が死ぬまで送って贈られてまた送って、時々宴会ってぇ具合で関係は続いたって言うから、ある意味いい関係ではあったんだろうさ。
「…………んー、どうするかなぁ。その辺突っつくと後々面倒そうねぇ」
「面倒で済めばいいな。今言った連中の中でも、話を聞いてる限りだとさっき言った魔界神とか洒落にならん」
「どれよ……一柱で世界を作った、ってやつ?」
「そうそう。ちょっとした掘削作業で『ちょこっと力の込め方間違っちゃったーテヘペロー』みたいなとぼけ方して数百メートル級の断崖絶壁を作り出すらしいぞ」
「馬鹿じゃないの?」
「それはそいつの娘の人形の口癖だ」
バカジャネーノ。
まぁそれを語ったのは素直になれない感じな魔界神の娘ではあるけど、あれは誇張してる口調じゃなかったし。
つーよりも思い出したらまた頭痛くなってきたって顔してたからなぁ。
世界を造っちまうくらいの……それこそ幻想郷なんて目じゃないぐらいの広大な世界をたった一柱で造ったって言うんだ。
それくらいの事はできるだろうさ。
実際、あれもこれもと連鎖的に思い出して隅っこで膝抱えてたし……母親のはっちゃけっぷりが恥ずかしくなったのか、頬染めながら。
あれは同性から見ても中々にくるものがあった。
見た目だけは西洋風美人だしな、アレ。
「ん。わかった」
「あん?」
「面倒くさそうだし、 何か永琳が企んでたみたいだけど止めとくわ」
「おお、そうしろそうしろ。いらんドンパチとかこっちも面倒くさいわ。どうしても何か起こりそうならここの結界の管理者に相談しとけ」
「え、相談とかできるの?」
「できるだろ、多分。知り合いの知り合いーって具合につたってけば割とすぐに」
「あの引きこもこたんが立派になったのね。嬉しくないわ」
「そうだな、私もお前に嬉しがられなくって嬉しいよ」
「うふふふふふ」
「はっはっはっは」
よし、とりあえずもう一回と言わず何度かぶち殺しておこう。
こいつならいくら死んでも誰も悲しまないし。
とりあえず炭だな、炭。
炭火焼。
……かぐや姫の炭って売れたりしないかな?
竹炭の上位互換みたいなノリで。
………………流石に気持ち悪いか。
大体コイツの炭とか使ったら何かにつけて悪影響しか出ないだろうし。
まったくもって使えねぇ。
「……何よ、その生暖かい目」
「いや、お前ってやっぱり残念だなーって」
「なっ!?」
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「てな具合の話があってな。とりあえずあの後二回殺られたけどアイツの蘇生時にハメて十回殺し返してやった」
恐ろしい事をドヤ顔で言うのやめましょう?
全く、死なない方々は加減というものを知りませんね。
私の方が一発多く殴ってやったーとかなら可愛げもあるのに、殺してやったとか何ですかもう。
ああ恐ろしい恐ろしい!
「仕方ないだろ、ただ殴った程度で堪えるタマじゃないんだよ、私もアイツも」
……あぁ恐ろしい恐ろしい。
で、私はその話をユカリさんにお伝えすればいいんで?
「あぁ、いらん騒動起こすくらいなら頭のいい奴らで話し合い持たせて屁理屈こねさせた方がいいだろ」
まぁこちらが巻き込まれないっていうのが前提ですけど、それは確かに。
お外と大戦とか御免ですから、そこは喜んで協力させて貰いましょう。
シンキ様とか出張って来たら、仮に負けは無くても被害が酷い事になりそうですからねぇ……うっかりとどじっこで。
知ってます?
アリスさんから聞いたんですけども、シンキさんが本気で神力振るったら神話とかで出て来るような光景があっさり再現できちゃうらしいですよ?
「うへぇ……ちなみにどんなん?」
海を作ったり?
「……」
はたまた、その作った海を割って海の中に道を通してみたり?
「あぁもういい、わかった。馬鹿じゃねーの」
とりあえず住民と話し合って『迷惑する人が居ないんだったらいいんじゃなーい?』ってノリで色々やらかしちゃうらしいですねぇ。
そしてやらかしすぎちゃうのがもう常態になっちゃって、魔界の人達も『あぁまたか』みたいなイベントの一部扱いしちゃってるとか。
ま、そんなシンキ様が出張る事の無いように、さっくり連絡を取って紫さんには竹林へ行って貰うとしましょうかね。
いつもの方法で。
「あん?」
うん……多分その辺に居るでしょう。
いいですかもこたん、ユカリさんやランさんにつなぎをつけたい時はこうするんです。
よーくその目に焼き付けるんですよ?
「お、おう?」
せーの……スーイーカーさーん!!
おいでませスイカさーん!!
今日はランさん経由、私秘蔵の竹鶴ですよーぃ!
「おい、鬼呼びつけんのにそのノリかい!?」
大抵こんなもんですよ?
ほら、鬼さんなんですから招くのは様式美ですもの!
別に手を鳴らすわけじゃないですけどねぇ。
とりあえず一回呼んだらお供え物にお酒一本ですけども。
でもお供えと言いつつ一緒に飲むんで、こちらとしては損失でも何でもないんですよねぇ、これが。
スイカさんも何だかんだで色々出してくれますし。
「んむ。コイツんとこの酒は珍しいのが多くて呼ばれるのが楽しみなんだよなぁ。まぁ呼ばれなくっても出てきたりするけど」
「うわ、本当に来たよオイ……」
「はっはっは、私はどこにでも居てどこにも居ないのさぁ!」
「どこの猫だ」
「んっふっふぅ……にゃーん?」
「手で耳まで表現してくれた所悪いんだけど、規格外な化け猫以外の何者にもならんだろお前さんじゃ」
「これは手厳しいねぇ。ま、地底に居る火車をイメージしてたから間違ってないけどね」
「化け猫は化け猫でもアレな方の化け猫かい……」
でもスイカさん、実際の所は何か面白い事の起きそうな所に重きをおいてますよね?
ウチの近辺とか人里とかアリスさんちの近くとか。
あと多分、私の周りとか?
「そりゃ楽しい所に居てこそだからなぁ。お前さんの周りとか笑い話しか転がってないじゃないか」
「むしろ大抵の事を笑い話に『する』んだろ、実際の所は」
「然り、然り。……んで、紫に竹林の隠れ家まで出張させるって事でいいのかね?」
みたいですよー?
何かあんまり必要のないっぽい妙な事を企んでるって話なんで、頭の良い方々で落としどころを探ってもらいましょう。
私らみたいに『細けぇこたぁいいんだよ!』って感じの面子はそういう話し合い向きじゃないですもの。
途中で面倒くさくなって『……お酒、飲みましょうか!』なんて事態しか起こりませんよ、きっと。
……お月様の方々の持ってるお酒とかどうなってるんでしょうね?
ものすごーく興味があるんですが。
「それは私も興味があるなぁ。ま……紫には穏便に済ませて酒奪ってこいって伝えておくよ。……もこたんも同席するかね?」
「もこたん言うな。まぁ同席するのは構わんけど、難しい事は知らんぞ。むしろ私としては酒を奪ってくる方がメインでも一向にかまわん!」
「私もそれで一向にかまわん! って言いたいところだけど。ま、アイツが望むなら付き合ってやってくれ」
「へいよー」
「うまく酒を引き出せなさそうだったらアイツも燃やしていいぞー」
「やだよ、何か紫色の有毒ガスが出そうじゃん」
「…………気持ちはわかるけど、言ってやるな。あいつあれで結構へこみやすいんだから」
さ、さて!
それじゃお話もついた所でもこたん、火力追加でお願いします!
ちょっと火が弱くなってきたっぽいです。
大丈夫、こっちは有毒ガスとか出ませんから!!
「いや、ふいごがあるんだからそっち使えよ」
だってもこたんの方が早いんですもの。
いいじゃないですか、炉の中の火を煽りたてるだけの簡単なお仕事なんですから。
「しゃーねぇなぁ……」
「そういえば鍛冶を始めたんだったなぁ。そのうち金棒でも作って貰おうかねぇ」
「鬼に金棒とかもう笑い話の中でしか出てこないだろ」
「だからこそ面白いんじゃないか」
腕が上がって頑丈さ第一!って感じの物が作れるようになってきたらやってみますよ。
私もスイカさんも、とりあえずそこが一番大事でしょうし。
とりあえず方向性としてはあれでしょ、絵本に出て来るみたいなトゲ付きの金棒!
握りの部分の端っこに丸い輪がついてるアレ!
「んむ、やっぱりそこら辺の様式美は大事だよなぁ。私らみたいに馬鹿力をふるってなんぼな輩に小奇麗な刀なんぞ渡されても扱いに困る」
ですよねぇ。
やっぱり全力でぶん回しても『フフン、平気ですよー!』みたいな物でないと。
「お前さんらが全力でぶん回すって何を想定してんだよ一体。その気になりゃあ素手で鉄板とかぶち破れるだろ」
「んー……呆れる程頑丈な鬼共をどつき回すため? ちょいちょい暇を持て余してノリで徒党を組んで出入りがあるからなぁ。一晩飲んで忘れる程度のノリだけど」
「修羅の国すぎんだろ、地底」
それでも殺伐とした雰囲気がない辺りどうなってるんでしょうね、地底。
そこがまた恐ろしすぎるんですけど。
ちなみに私の方はそんな血なまぐさい用途じゃなくて、大木の根っこが抱き込んじゃった邪魔な岩とかまるっと無視して、その大木を切り倒すためとかですかね。
「お前さんならその気になれば岩を砂にできるだろうに」
やですよあんな疲れる能力の使い方。
あんな事をするくらいなら全力で岩を割り砕いた方が遥かに楽ですもん。
何で十の力でできる所に百の力で挑まないといけないんですか!
「……能力?」
「物の結合を軽くして脆くできるんだよ、コイツ。前に酔っ払って『これが私の全力全壊!』とか笑いながら辺り一面砂の海にしちまったし」
「相変わらず妙な方向に馬鹿げてるよなぁ」
「全く。結合を軽く軽く軽ーくした所にあの腹の底から震えるような咆哮をドカン。辺り一面一斉にざぁざぁと砂だらけ。岩も地面もあったもんじゃない」
「ある意味流石と言えば流石、かね?」
「んむ、千年生きた大妖狼ってのは伊達じゃない。前に私と対峙した時にも使われたけど、アレ私だったから分裂の方向に行っただけで、普通に使われたら多分……」
「………………動いただけで色々ぽろり、かな?」
「そうなる気はするなぁ」
い、いやぁ、そんなこたぁないですよ?
しかしあの砂の海は疲れましたねぇ!
あの後の樽酒一気飲み対決で千鳥足になっちゃうくらいに!!
「誤魔化しやがったぞ、コイツ。てかこの感じだと一回何かやらかしてんな」
「んむ。でもこの感じだと、割とろくでもない失敗談っぽいから……また酒の席で追及するとしようじゃないか」
「酒と言えば、さっきさらっと流したけど普通樽酒一気飲みなんぞできないだろ、っていうツッコミは野暮かね萃香君」
「そうだな妹紅君。私は余裕だよ」
「これだから妖怪どもは!? 水分どこに行ってんだよ!」
はっはっは、まぁまぁ。
それはそうと、今ふと思ったんですけどね?
今私が打ってるこの大斧、どうも失敗してるっぽくないですか?
何か冷やした時に見えるカネの色が若干想定外なんですが。
あと何か心なしか金槌の柄がひん曲がってません?
「馬鹿力で打ち過ぎだろ。基礎が刀鍛冶なら、いらん所が薄くなってんだよ」
「なんだ、もこたんは鍛冶とかわかるのかね?」
「昔見様見真似で包丁とか色々作ってみたからな。結局、鍛冶場に女はーとか色々言われてやめたけど」
あー……やっぱりですか。
でもこの程度の金槌加減で潰れるような強度じゃあいけませんよねぇ。
これじゃあすぐに壊れちゃいそうですもの。
「まぁ、素で私らがぶん回すならもうちょっと強度は欲しい所だけど、ただの鉄でそれは無理ってもんだろうよ」
「じゃあ昔話だので出て来るみたいに爪や髪でも混ぜ込んでみるとか? 何か中国辺りの……なんだっけか、剣造りの……」
「……ふむ。なら、それに倣って混ぜてみるかい、鬼の髪?」
それなら前に抜けた私の牙やら、刈り取りされた毛の余りとかも入れちゃいましょうか。
どうせ元手はタダですし、こっちは。
「私の方だってタダさ。咲夜にでも頼んで整えるついでに切ってもらうかね」
「…………何かおっそろしい物ができそうで怖いな、お前らのだと」
「私の髪はさておき、スコールのは別の意味で予想外の効果が出そうではあるなぁ」
酷いっ!?
「ま、やってみろやってみろ、別に何の痛手でもないんだったらやるだけ得だよ。むしろ私の髪程度で強度が変わるっていうなら逆に面白くていいじゃないか」
「じゃあ私は咲夜呼んでくるついでに何か食いもんたかってくるか。肉がいいなぁ、肉が」
前みたいに炉の火で炙り焼きとかやめてくださいよ?
無駄に良い匂いしてお腹すくんですもの。
「はっはっは、じゃあ期待に応えてやってやろう。なぁに、火は私の自前なんだ。かまわんだろ」
やーめーてー!!
どうせやるなら私の分も!
「ならついでに私の分も。鍛冶場で一杯ってのは初めてだなぁ」
「……どうせなら色々貰ってくるか。駄目とは言われないだろ、一応手伝ってるわけだし」
私が頑張ってる横で酒盛りとかやめましょう?
泣きますよ!?
「なぁに、さっさと納得のいく物を打ちあげればいいだけの話だ。んじゃ、ちょっと行ってくらぁ」
「おー、ツマミは多めでなー!」
「任せろ!」
ひーどーいー!!
ひーーどーーいーー!!!
「そら次の準備をしろ、次の準備を! さっさと打たないと酒は無いぞー?」
ええい、こうなったら私の妖気とか使い道がわからない神力とか色々混ぜ込んで打ってやりましょう!
どうせ混ぜるんだったらとことんまで色々混ぜ込んじゃいましょう。
って事でもこたんも髪とかちょっとくれません?
後は……そうですね、フランさん、レミリアさん、メイリンさんには後から分けて貰うとして。
……もこたんもこたん、ユウカさんにもお願いしたらくれると思います?
それからアヤさんとか八雲一家の方々。
「……普通ならそんな大妖どもにこんな事頼むとか命が惜しくないのか、って言う所だけどなぁ」
「こいつの頼みならあっさり『いいわよ、それくらい』とか言いそうだな、あいつらの様子を鑑みると。唯一渋りそうなのは紫くらいかね?」
「いや、どうせ悪用されないってわかりきってるからなぁ? 仮にされるとしても、むしろどうやって悪用するのかすら楽しみそうな気がするわ」
「あぁ、それもそうか。良かったねお前さん、多分貰えると思うぞぉ?」
ふむん。
ふむむん。
何か微妙に納得できない部分もありましたけど、まぁ良しとして。
ならば今日の鍛冶はここまでにしましょう!
方々にお願いをしてから再開って事で。
サクヤさんには散髪のお願いもしなきゃいけませんねぇ。
やっほいやる事山積み待った無し!
よっし、そうと決まればまずはサクヤさんにお肉をお願いしましょう!
「…………なぁ、一体何ができるんだ、これで」
「斧と金棒に決まってるじゃないか、もこたん」
「さらっと自分の獲物まで混ぜ込む当たり、やっぱり鬼だよお前さん」
「はっはっは!!!」
「てかはえーなオイ、速攻鍛冶場から飛び出して肉探しとか」
「ま、スコールだからなぁ」
サークヤさーん!
ヘーイ、サっちゃーん!
お肉! お肉をぷりぃず、です!
「へぇ、どこから剃ればいいの?」
はい? 剃る?
あ、えーと……こないだ私が獲ってきた鹿の……
「違うでしょう?」
え? だめですか? じゃあ牛……
「いいえ? 違うわね」
んんんん?
んー……なら一体何を捌くおつもりで?
「もう、妙な所で察しが悪いんだから。捌く、じゃなくて剃る、って言ったじゃない。ほら、私の目の前にいるでしょう、毛玉」
…………おーぅ、おぅおぅおぅ。
待ちましょう、待ちましょうサクヤさん?
何でそんなににこやかに怒ってるんですか!?
「サっちゃん、とか、この館中に聞こえるような念話で叫んでくれちゃって。あぁもうこの衝動、たっぷりとお伝えしなくてはなりませんわ」
…………サクヤさん、おめめがまっかになってますよ?
「それはね、貴女がとても愛おしいからよ?」
サ、サクヤさん、その手に握られてる短刀、初めて見ますけど新品ですか?
「そうね、藍さんから譲って頂いた逸品よ? これならたとえ貴女の毛であっても、とてもとても綺麗に剃れると思うの」
それはそれは…………い、逸品ですね?
ではそういう事で、三十六計。
「逃げられると思う? 時間、止めて差し上げましょうか?」
懐柔するに如かず。
「は?」
ほうら隙あり! もーふもーふ!
もひとつもふもふもふ!
「ちょ、馬鹿、あぶなっ!?」
ふふん、剃るんじゃなかったんですか?
思わず鞘に仕舞っちゃったみたいですけど?
いやはや、やっぱりサクヤさんはお優しい!
「あのままじゃ刺さってたかもしれないじゃない!?」
ふふん、そんな簡単に刺さるとお思いで?
甘い、甘いですねぇ、そうれも一つもっふー!
「あっ……ああぁっ……!?」
--------------------------------
「で、そんな乱痴気騒ぎの末にできあがったのがコレ?」
「……鉄板だね」
「文字通りの意味でね」
いやぁ、驚きでしたよコレ作った時の有様は。
とりあえず手あたり次第に放り込んで作った途端にまぁ丈夫な事。
パチュリーさんもご存じの通り、何本代わりの金槌を作って貰ったか!
砥ぐ前に試し切りした段階で岩とかあっさりカチ割れてヒビどころか傷一つないんですもの。
「何かやっちゃいけない製法でやっちゃった感が凄いよねぇ」
「ちなみに貴女のやった製法、干将莫邪の伝説を斜めにひねり過ぎて原型どこいったってレベルの模倣ね。アレは炉の温度が上がらないからって話だったけど」
炉はもこたんの炎でごんごん燃え盛ってましたねぇ、元から。
まぁそこに放り込んだブツが妙な反応をしちゃったって事でしょう。
どういう事になってるかはわからないですけども。
「極上クラスの妖怪たちと、妖獣としては破格の狼が文字通り身を削って打ちあげた……って言えば聞こえはいいけど……」
「話聞いてると、実際の所は『ん? やってみる? ほれ、髪』『どうせ余り物ですし全部突っ込んじゃいましょう!』なんてノリ」
「あぁ、これはあれね、妹様」
「そうだねパチュリー」
『やっぱりスコールはスコールだった』
てへぺろー!
ほんとどうやってできてるんでしょうねコレ?