まいごのまいごのおおかみさん   作:Aデュオ

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36話 Skoll

 

 

 

 わっしゃわっしゃ。

 わしゃわしゃ……かしかし。

 しゃーしゃっしゃっしゃ! わしゃわしゃわしゃ!!

 …………ん!

 

 スコールの大きな体をそのまま泡玉にする勢いで、シャンプーをかけては泡立て、またまたかけては泡立て。

 平時のさらさらもふもふとした手触りとは違う、泡にまみれた独特な手応え。

 そう、これは一回り以上もシルエットが細くなったように見えるスコールを、ひたすらにわしゃわしゃとかき回すだけの簡単なお仕事。

 ………考えてみれば、この泡玉みたいなスコールは私しか体験してないのよね。

 そう思うといつもより面白くなってきた。

 洗っているのを見られた事なら何度もあるけれど、あのフラン様ですら体験はしていないのだから、不思議なもの。

 優越感とは少し違うけれど悪い気はしないわ。

 

「どう? かゆい所はない?」

 

 じゃあ耳の後ろを!!

 いやぁかゆいかゆい、かゆくてかゆくてかいて貰えたら思わず尻尾を振っちゃいますね!

 

「もう、それかゆい所じゃないでしょう?」

 

 まんじゅうこわい、じゃないんだから。

 即座に返してくる辺り、かいて欲しいというのは本当でしょうけどね……でもこれ、ただ気持ちのいい場所ってだけじゃない。

 耳の後ろをかりかりと少しばかり強めにかいてやれば、ぐるぐるごろごろと気持ちよさげに私の肩へ鼻先を預けてくる始末。

 ふすー、と満足げに鼻息を漏らすのはいいれけど、耳や首筋にそれが当たるとくすぐったいからやめなさい。

 ……あぁ、この目、気づいてやってるわね?

 たまにこうして小さすぎる悪戯を仕掛けてくるようになったのはいい事だけど、この私がただされるがままになると思ったら大間違いよ。

 目には目を、歯には歯を、悪戯には悪戯を。

 それに今回散々心配させてくれたお礼もあるわけだし、少しばかり多めに返すべきね?

 にやにやしているそのお顔を泡まみれにしてあげましょう。

 

「意地の悪い狼さんは綺麗な狼さんに上書きしなくちゃいけませんわー」

 

 わしゃわしゃわしゃと首筋辺りで両手から溢れる位に目いっぱい泡を作って一息。

 うん、これだけあればいいでしょう。

 おうおうおう、何て呑気に気持ちよさそうに意思を漏らす狼さん、お覚悟なさいな。

 両手からこぼれる泡で問答無用に顔中洗って……!?

 

 

 

 くっしゅん!!

 

 

 

「…………ちょっと?」

 

 やろうと思ったら、鼻に乗せた直後に盛大なくしゃみ。

 これでもかと泡を乗せた直後に、この大きな大きな、体だけ見れば雄々しいにも程がある狼が、思いっきりくしゃみをしたら?

 そう、眼前に立っていた私が泡まみれになるのは必然よね。

 おのれ、まさかこの時点で反撃を受けるとは思っていなかったわ。

 やるじゃないの、スコール。

 本当に、やってくれるじゃないの?

 

「……ねぇ?」

 

 い、今のはサクヤさんが悪いんじゃないですかぁ!?

 鼻先にあんな量の泡をぽんと乗せられたらこうなりますよ!

 ……あ、でも泡まみれのサクヤさんも新鮮でお可愛らしい。

 

「言いたい事はそれだけかしら?」

 

 再び首筋辺りから泡をすくって、今度は顔のど真ん中へストライク。

 誤魔化すみたいに可愛らしいなんて言われたってねぇ?

 そのまま力任せにがしがしと顔中を洗ってやると『やーめーてぇー!』なんて情けない意思が飛んで来たけど、そんなの知った事じゃないわ。

 あ、こら!?

 しがみついてくるんじゃないの!

 

「ええい、大人しく洗われてなさい!」

 

 可愛らしいって言われて赤くなったのを隠したいのかもしれませんけどね?

 照れ隠しにしちゃあ乱暴すぎますよ!

 ちょっと目に入っちゃったじゃないですか!!

 

「へぇ、乱暴? 乱暴っていうのはね、こういうのを言うのよ!」

 

 頬を引っ張るのはやめましょう!?

 ああああ泡が口の中にぃ!

 って、ちょっとぉ!? 更に泡を流し込まないでください!

 物凄く苦いんですよこれ!?

 

「お仕置き。しばらく泡の味で反省しなさいな」

 

 まったく。

 いつもいつも、何かにつけて可愛い可愛い連呼するのはやめて欲しいものだわ。

 毎回素直にちょっと嬉しいと思ってしまう自分が恥ずかしい。

 もう!

 

「…………口、ゆすぐならすぐ後ろにさっき出しておいた水球があるわよ」

 

 そう、ここはあのパチュリー様が珍しく遊び心を動員して作成した浴場。

 壁や床の装飾に混ぜ込まれた魔方陣の群れは、触れて魔力を流すだけで作動。

 少しばかり時間はかかるものの温度は自在の水球に、それにシャンプーを混ぜたものまで出せる優れものだから、使い勝手の良い事。

 スコールでもぽんと肉球を乗せて力を流し込むだけで使える簡単な所もまた良し。

 まぁ何にせよ……口をゆすぐためだけに、今の私へ背中を見せるとは未熟者め。

 ピンと伸びた尻尾をロックオン、突貫!

 ッ!?

 

「な!? ちょっと、暴れないの!!」

 

 そんないきなり、尻尾を思いっきり握りしめるのが悪いんじゃないですかぁ!?

 前に誰かにも言った気がしますけど、妖獣の尻尾をそんな扱いするなんて反射的に噛みつかれても文句は言えませんよ!

 

「初めて知ったけど噛むのはやめて頂戴ね。……貴女に本気で噛みつかれたら、あっさりと噛み千切られる以外の未来が見えないわ」

 

 お散歩のついでに、本狼曰く『ぶらんち』を食べるのを目の当たりにした事もあるから、嫌にリアルな想像が飛来してきた。

 まるで風の様にするりと駆け出したかと思ったら、森の中に居た小さめの熊へ襲い掛かって首から上を一気にぱっくん。

 食べられる部分……肉や骨だけをまるでジャムを乗せたクッキーのように、もっしゃもっしゃがりごりと……あぁ、思い出しちゃった。

 妙な所で野性味あふれてるんだから困ったものだわ。

 

「はぁ……きゃぁあ!?」

 

 いひ、反撃成功。

 きゃあ、なんて珍しく可愛らしい声を上げましたねぇ?

 私がやられてばっかりなんて思っちゃあいけません、油断大敵でございまする。

 いやはやいやはや、しかしサクヤさんったら真っ赤になっちゃって!

 普段が真っ白なお肌ですから分りやすいったらないですね。

 うん、そのびっくりした顔もぐー、ですよ!!

 

「な、な、な!?」

 

 何です、そんなに混乱して?

 ちょーっとばかりその真っ白な背中をぺろっとしただけじゃないですかぁ。

 たったそれだけでそんな取り乱しちゃってもう!

 もーフランさんやレミリアさんとは違う方向に可愛くって仕方ないですねぇ。

 まさに眼福!

 

「普通、舐めるなんて思わないでしょう……!」

 

 お、おうふ……何ですか、そのグっとくる恥じらい。

 って今更たおるで体を隠したって何になるって言うんです?

 ほらほら、裸のお付き合いは大事だって小悪魔さんも言ってたじゃあないですか!

 ささ、泡を流してお風呂に入りましょう!!

 

「わかった、わかったからタオルをひっぱるのはやめなさい!」

 

 んむ、これはあれですか?

 古き日本の文化『あーれーおだいかんさまー』なあれ!!

 んふふふふふよいではないかよいではないかー!!

 もう逃げられぬのじゃ、観念して手を放すがよいぞ!

 

「あ、あーれーお代官様ぁー……」

 

 ……乗ってくれるのは嬉しいんですけど、真っ赤になってたおるを握りしめたままってどういう事なんですか?

 せめて、せめて回りましょう?

 

「…………」

 

 …………あ、はい、回ってくれてありがとうございます……。

 

「……ばかっ」

 

 ご、ごめんなさい?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 その『ばかっ』って言った瞬間の真っ赤になって恥じらったお顔のサクヤさんがもう、可愛くって可愛くって!

 しかも前脚で頭を撫でてあげても逃げずに受け入れてくれたんですよ!?

 いやぁんもう! もう!!

 思い出しただけで悶えちゃうあの可愛さ、ぷらいすれす!

 

「……ねぇスコール、もう一回お風呂入らない? 入るわよね? 私も一緒に入るわ」

 

 是非! と言いたい所ですが、今日は駄目ですよ?

 サクヤさん、その後すぐにお部屋に帰ってお布団を頭からかぶっちゃいましたもの。

 揺すっても反応返してくれませんでしたし。

 いやはや、ちょっと冒険してみたものの実際やってみたら思いの外恥ずかしくって合わせる顔がないって所ですかね?

 

「それは残念。ところでスコール、そんなお話をしに来てくれるくらいだし、暇よね?」

 

 ええ、それなりに。

 館用のお肉もこないだ森で獲ってきたばかりですから、特にする事もありませんし。

 そんな事を言うくらいですし、何かお手伝いが必要で?

 

「ええ、ちょっと人里まで行こうと思うのだけれど……私一人で行くと怖がられるでしょうから」

 

 ふむ……ふむ?

 はい? 怖がる? あの人里の面々が?

 

「え?」

 

 あそこにいるのは『また買い食いか! いいぜ、どんと来いヨォ!』なんて、私の首に腕を回して店先に連行するような人たちですよ?

 はたまた『妖怪が出そうな所に行くから足にならんか? ん?』って鼻先にお肉をぶら下げてくるような人たちですよ?

 さらには『狼さんが買ってくれないと、今日の売り上げが……』なんて、売り切れて空になったお皿にお菓子を大増量するような人たちですよぉ!?

 そんな面々が、不届きな扱いをされなければお淑やかなユウカさんを怖がる?

 ないですわぁ……ええ、本当にないですわぁ……。

 一体何をどうしたらそんな勘違いが沸いて出てきたんですか?

 

「前に人里のド真ん中で、馬鹿の全身の骨を砕いて放置してやったんだけれど、それでも?」

 

 ……おぉう。

 それはまたでんじゃらすでばいおれんすですね!

 ユウカさんがそんな事をするなんて、どんな馬鹿具合だったんですか?

 よっぽどの事が無ければユウカさんが手を出すなんてしないでしょうに。

 

「目立たないように、髪の色を黒に変えて和装で行ったのもいけなかったんでしょうけど……要はナンパね」

 

 おうおうおう、流石ユウカさん!

 溢れ出る淑女力と美貌に人里の野郎どももイチコロでしたか。

 

「茶化さないの。で、あんまりにもしつこいから正体をバラして脅かしてやったら、ね?」

 

 お、おう、何です、その虫けらを見るような目とため息は……?

 それでもしつこく言い寄ってきたんですか?

 

「言うに事欠いて『言う通りにしないなら貴様の大事なひまわり畑に除草剤でも撒いてやろうか?』よ?」

 

 えーと、自殺志願者か何かだったんですか?

 そのお馬鹿さん、いくらなんでもありえないでしょう、色々と。

 もしかして人里の中だからって手を出されないとタカをくくってたんでしょうか?

 ……って、あれ? んん?

 

「ん、どうしたの?」

 

 いや、その話、何か聞き覚えがあるような……誰から聞いたんでしたっけ……?

 何か妙なノリで聞いたような気がします。

 

「人里で聞いたんじゃないの? 貴女の話だと、貴女相手にはこの上ないくらいに気安いみたいだし」

 

 んー……?

 人里……アキュウさん……じゃない、ケイネさんでもない……もこたん……違いますねぇ。

 むむむむ?

 むーむーむー……いや、人里で聞いたんじゃあ無い気がするんですよ。

 

「人里以外……文辺りかしら?」

 

 ……いや、それも違いますね。

 そう、酒の席……そうだそうだ宴会の時だったはずです!

 何か『そういえば知ってるゥ~?』みたいな……あああああれ誰でしたっけ!?

 

「貴女が居る宴会となると、紅魔館とその他集まれる面子よね? アリス、萃香、八雲家、冥界ペア」

 

 ほあっ!

 それですそれです、ユカリさんですよ!

 あぁ、ユカリさんだっていうのを思い出した途端に、色々思い出してきましたよ?

 結果だけ見れば人里のルールを破ったとも言える行動だけれど、それ以前に大馬鹿がこの上ない馬鹿をやった結果だから云々!

 これまたお優しい事に命も奪っていないし、人里の面々も『これであの馬鹿も大人しくなるだろう』って納得する行動だったからなーんにも問題ないのに、ユウカさんだけが気にしてるってお話です。

 

「……へ?」

 

 あ、そういえば人里の小物屋さんとか、ユウカさんのお話をしたら『ウチの商品を売り込みなさい。美人なら割引対象内』ってニヤリと悪どい笑みを浮かべてましたよ?

 ちなみに女性ですが、ムサ苦しい野郎よりも見目麗しい女性の方が好きっていう困った方なので注意しないといけませんが。

 

「初耳なんだけど、それ」

 

 ええ、そりゃあ私もたった今思い出しましたもの。

 小物屋さん、いつも手を変え品を変え、私に女性用小物を買わせようとしてきますからね。

 アリスさんにーサクヤさんにー小悪魔さんにーって、私の周りの女性に似合いそうな物を選んでくれるせいで、何度か術中に嵌っちゃいまして。

 で、そんな事を毎回やってたらいつの間にか忘れちゃってました。

 そういえばユウカさんにーって薦められた品物は前にサクヤさんが贈ってた品と被ってたのでするーしたんですよねぇ。

 

「ええと、つまり……私が行っても、怖がられないの?」

 

 絶対に怖がられないとは言い切れませんけど……まぁ、多分大丈夫じゃないですかね?

 私が度々ユウカさんのお使いをしてるっていうのも周知の事実ですし、更にはユウカさんの素敵っぷりも広めてますし?

 むしろ、さっきの話を気にして今まで中に入って来なかったって事実を広めたら確実に歓迎されますね。

 何しろあの人里ですもの……。

 

「何をしてくれてるのよ、貴女は……」

 

 いひひぃ!

 ま、そういうわけですし、気にせず人里に行きましょう?

 スコールちゃんとでーとですよ、でーと。

 仲良くもふもふしながら人里を練り歩きましょう!

 何でしたら最近ちょっとずつ変化できるようになってきた人型でもいいですよ?

 私の中に居たカミサマが居なくなった途端に、一気に進展したんですよねぇ。

 

「変化できるようになったの!?」

 

 人っぽい形には、程度です。

 ランさん曰く、中に居たのがまんま狼な神様だった事もあって、そちらからの制限が掛かっていたんじゃないかって事でしたけど。

 でもその制限らしきものが外れても、変化できるのはそれこそ絵本に描かれるような狼人間みたいな姿ですよ?

 これ以上は何となく無理かなーって感じてますし、今後も完全な人の形にはなれないでしょうねぇ。

 ちなみにこの感覚をランさんに話したら、ランさんの見解も似たようなものでしたし……多分ここらで頭打ちです。

 

「それでも大きな前進じゃない。それにしても水臭いわね、教えてくれないなんて」

 

 つい最近、ようやくでしたので!

 まだ練習中ですけど、折角なのでそっちの姿で一緒に行っちゃいます?

 ただ……一つ困った事がありますが。

 

「一部分がハゲるとか?」

 

 何ですかその恐ろしい変化は!?

 単に大きさそのままってだけですよ、失礼なっ!

 

「そのままって……え? スコール、自分がどれだけ大きいかわかってる?」

 

 ええ、よーくわかってますとも。

 でも仕方ないじゃないですか、ちっちゃくなれないんですもの!

 私だってできる事なら小さくなって弾幕ごっこをやりたいですよ……やったーすぺるかーど攻略ーとかやりたいですよ!!

 でも仕方ないじゃないですか、どうしてもおっきいんですもの!

 

「……百聞は一見に如かず。とりあえず変化してみてくれる?」

 

 あい、まむ。

 えーと、尻尾をピンと上げて、伸びをする感じで……こう、もにょっと。

 のーびろーのーびろー!

 ふんぬっ!ふーんぬー!!

 

「どんな変化の仕方よ……」

 

 むむむむ……ほぁいっ!

 

「……あぁ、確かに見たまま、ワーウルフね」

 

 いひ。

 でも中途半端とは言え、この姿のいい所は手が使える所ですよねぇ。

 今までできなかった事ができるようになって、まぁ便利な事。

 文字通り色々と手を広げられちゃいます。

 

「良い事じゃない。それにしても……本当に大きいままなのね」

 

 おうおうおう、顎の下は弱いままですよ?

 そんなもふもふかりかりされたら困っちゃいます。

 

「ふふ、屈んでくれなきゃ手が届かないのに、わざわざ手の届く所に頭を差し出しているのはどこのどの狼さんかしら?」

 

 ええ、ここのこの狼さんであります。

 でもユウカさん、そんな無防備に私を可愛がってくれているとですね、今までとは違ってこういうお返しもできるんですよ!

 

「っきゃ!?」

 

 おおぅ、サクヤさんに続きユウカさんも可愛らしいお声を上げてくれましたね!

 

「もう、抱き抱えるなら一言かけて頂戴。レディのお尻に無断で触れるなんて減点対象よ?」

 

 いやはや、丁度手に収まるくらいだったもので?

 それにしても、こうして片手で抱えてもやっぱり軽いですねぇ、ユウカさん。

 おうふ、顔が更に近づいたからって耳の後ろは駄目ですって、気持ちよくって変化が解けちゃいそうです!

 

「あら残念。でも中々どうして、腕の中というのも心地いいものね……」

 

 き、きゅんっ!

 

「なぁに、それ?」

 

 今のユウカさんのお顔とお声によって受けた、私の心の衝撃ですかね?

 もうっ! さらっとそういう事を言って私を悶えさせにかかるなんて、ユウカさんは本当にもうっ!!

 

「はいはい、落ち着きなさいな」

 

 ……今度は頭をなでなで、と。

 それで落ち着いちゃう辺り、見事なまでに手玉に取られてますね、我ながら。

 で、話を戻しますけど、どうします?

 この姿のまま行っちゃいますか? それともいつも通りの姿の方で?

 

「んー……そうね、折角だしこのまま行っちゃいましょうか。慧音辺りが慌てて飛び出してくるかもしれないけど」

 

 このまま…………いひ、いいですね、それ。

 

「ん?」

 

 よし、そうと決まればごーごー!

 善は急げ思い立ったが吉日拙速は巧緻に勝る!

 いざ行かん、人里へ!!

 

「んん? …………ちょっと待ちなさいスコール…………降ろして! このままってそういう意味じゃないわよ、せめて肩とかに……!?」

 

 二足歩行でも速度の変わらない、たった一匹の狼、スコール。

 いっきまーす!!

 

「待って、降ろして、ねぇ! 降ろしてってば! 流石に抱っこされたままは……!」

 

 いやっほーい!

 ユウカさんが可愛いやったー!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ざわ…………! ざわ………………!!

 

「狼さん、このバレッタなんてどうです? そちらの彼女の後ろ髪を上げれば、きっと素敵な首筋が見えますよ?」

「ばぁか、そんなもんでスコールが釣れるかってんだ! 外見は変わっても中身は変わらんだろ。おぅ、肉食うだろ? んで、買うだろ?」

「スコールさん、腕の中の彼女さんに和菓子はどうです? まぁるく収まるようにお饅頭とか」

 

 ざわ……!

 

「慧音、私今すごいもん見てるよ」

「そうですね、妹紅……私もです」

 

 ざわわ…………!!

 

『まさか、恥ずかしがって真っ赤になった風見幽香を見ようとは』

 

 しかも、毛並に顔を埋めながら。

 

 

 


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