もう日も落ちかけた夕暮れ時、またお礼を持ってきますーなんて呑気にアリスさんのお家から出発して。
出発、という行動からふと思い出したのは紅魔館を出発した時のやりとり。
問題が解決した安心感にまかせて能天気に寝てる場合じゃ無かったんですよ、そういえば。
レミリアさんやフランさんが起きるまでに帰らないといけないんだった、と思い出してからはもう冷や汗が止まりませんでしたね。
サクヤさんも本気ではなかったと思いますけれど、たまに照れ隠しで実行しちゃいますから。
止まっていた足を、これはいかんと全力で動かして草原も森も湖も踏破した先にようやく見えてきた館のべらんだには、ちょっと困った光景が。
いやはや、お二人とも起きて優雅にお茶していらっしゃる。
しかもサクヤさんまで傍に佇んでいる始末。
やっちゃいましたねぇ、これは。
「おかえり、スコール。あの速さを見る限り怪我は無さそうね」
「無事なのはお姉様のおかげで分かってたけど、元気に帰ってきて良かった!」
お? おお?
あ、何か大丈夫っぽいですね?
サクヤさんも片目を閉じて微笑んでくれていますし、持ち上げて落とす時みたいな妙な気配もしません。
うん、これはとりあえず乗っておいた方がいい流れと見ました!
「で、結局何だったの?」
いやいやレミリアさん、それがですね?
現実は小説よりも奇なりとは言いますけれど、まさにその通りでしたよ。
原因だけなら、それこそ昨夜に私が飛び出して行った後、レイムさんのおかげですぐに分ったんですよ。
もうばっさり『神になりかけてる』って。
「へ、へぇ?」
「お姉様の運命予報から妙な事になってる気はしてたけど、始まりからして飛ばしてるねぇスコール……」
いやはやお恥ずかしい。
でもですね、このお話はあくまでも始まりでして。
不調の原因は分りましたし、神様になりかけているのなら、先達の神様に聞けばいいと思い立ちまして。
知り合いに神様なんて居たかなーってむむっと考えた末に脳裏によぎったのはアリスさん。
「…………んん?」
「なんでアリスさん……?」
「……………………………あぁ! 魔界神の娘って話だったわね」
「あ。あぁ…………そういえば、そうだったね」
ですよねぇ、やっぱりそういう風に思っちゃいますよねぇ。
まぁ私も似たようなものでして。
アリスさんなら気兼ねしないしいいやーって、まだその時は深夜だったので朝まで時間を潰そうと、人里の飲み屋で酒豪達と過ごしまして。
空も白んできて、飲み屋の大将にまとめて蹴り出された後にアリスさんのお家へ突撃したらですね?
居たんですよ、そこに…………!!
「そのものズバリ、魔界神ってオチじゃないでしょうね?」
…………あ、はい。
いらっしゃいました、アリスさんのお母さん、シンキ様。
それはもう、凄く、親しみやすい神様でしたよ……?
「お姉様、スコールが折角わかりやすく引っ張ったんだから最後まで言わせてあげればいいのに……」
「あんなにわざとらしく引っ張るから、言えって事かと思ったのよ!」
ま、まぁそこで紆余曲折ありまして。
今まで私が感じていた違和感が神様になりかけてるっていう事以外に判明しました。
何か私の中に妙な意思を感じるなーって感じていたのも、そのものずばり、私の中に神様が入り込んでたというオチでして。
シンキ様が作ってくれたくりーなーで私の中に居た神様が吸い取られて、そこから色々と事情が聞けたんですけど……。
「ほぉう?」
「お姉様、凄んでも怖くないからやめときなよ?」
「フラン様、それを指摘してはいけませんわ」
「煩いわよ二人ともォ!?」
そこを含めてのレミリアさんじゃないですか!
「お前も乗るんじゃないわよスコール!」
「とりあえずお姉様、話を脱線させるのはやめよう?」
「……フラン、わかったから私へ向けてその手を握る動作を見せつけるのはやめない?」
「ん。ほらスコール、続けて」
あ、はい。
え、えーとですね、私がおかしいなと思い始めた辺りから脳裏を掠め続けてた、幻想郷に流れ着いた時の場所があったんですけど、そこにもう朽ちかけた祠があったんですって。
信仰する人も居なくなって消えかけてた所に死にかけた私がどこからか迷い込んできて、おあつらえ向きに目の前でぱたり。
私の中に居た神様曰くですけどね、この時の心情がまた何とも。
『やーべぇ消えちゃう消えちゃう……おぅ依代キター! げっとぅ……あ、アレ、拾われた? 回復された? え、この子が回復しきったせいで私の出るスキマないよ?』
一言で表すならそんな状態だったらしいです。
そんな中で私が人里で妙な信仰らしきナニカを集めたせいで神様がそこそこ回復しちゃって『我が世の春よ再びィ!』ってな具合に奮起して私を乗っ取ろうとしてた、と。
こうして私の不調の原因、結局は神様がやんちゃしようとしたって事で、シンキ様とアリスさんを交えた四者協議の末に結論が出ました。
いやぁ、危ない所でした……。
「……へぇ? で、その神様とやらは何処へ?」
シンキ様にくりーなーごと魔界へお持ち帰りされましたよ?
その神様自身も元は狼だったらしくって、シンキ様が『この子に体を作って魔界のマスコットにするぅ!!』って。
くりーなーに吸い取られた神様自身もノっちゃって、そのままアリスさんちから魔界へ直行でした。
うにょんうにょん動きながら能天気な声ではしゃぐくりーなーと、それを掲げてやる気を出してるシンキ様の姿がもう面白くって!
「…………チッ」
「何で逃がしちゃうかなぁ?」
ひぃっ!?
「でも、スコールが元に戻ったなら何よりだよ。心配したんだからね?」
いや、あの……心配してくれたのはとても嬉しいんですけど、さっきのレミリアさんの舌打ちと、フランさんの右手の中でねじ切れたお匙は……うへぁ!?
フランさん、落ち着いて、落ち着いてぇ!
辺りの空気が軋んでますって!?
びーくーる、びーくーるです!!
「気にしないでくれると嬉しいなぁ。ちょっと、悔しかっただけだから。その場に居れば有無を言わさず握り潰せたのに、って」
「まぁその場に居たなら私も止めなかったのは間違いないわね。むしろグングニるわね」
レミリアさんも妙な動詞を作るのはやめましょう?
いいじゃないですか、結局は丸く収まったんですから!
私の中の『神様』が居なくなった事もあって、今後は神気が溜まっても悪影響なんて出ないらしいですし。
むしろ『神気と妖気の両方が使えるようになるんだからお得よ!』ってシンキ様も言ってましたからね。
この二つ、別に反発とかしないらしいですし。
「あれ、そうなの?」
「魔界神とかならまだしも、ただ『神』なんて言われると、ちょっと微妙な気分になるんだけど」
いやほら、ここ日本ですし。
レミリアさんの言う『神様』と日本での『神様』は言葉こそ同じでも意味する所が違いますもの。
それこそ八百万なんて言われるくらいに、そこら中に神様が居るっていうのが日本の考え方であって、神様の在り方でもあります。
そもそも、妖怪でも神様として信仰集めてる方は歴史上にいらっしゃいますからねぇ。
元は人をぼりぼり食べちゃうような鬼でも、改心して今は鬼神様な母神様だとか。
まぁ何にせよ、神気の使い方もちょっとだけ教えて貰えましたし、これからはこれの使い方も練習していかないといけません。
いやはや、これがまた中々に大変なんですよねぇ。
「妖気と同じように扱えるものじゃないの? 結局の所自分の力でしょう?」
そこ、そこですよレミリアさん。
妖気は私から生まれるもので、言わば自分の手足。
でも神気、もとい信仰は他人から受け取るもので、表すとすれば道具みたいなものなわけですよ。
私へ集まってくるとは言え、そもそもが私の色じゃないんですよね。
だからそのまま受け流すみたいにまとめて振るうか、私の色へ置き換えながら蓄えていくかのどちらかになるわけです。
「……面倒ねぇ」
ただ蓄える分には特に何かする必要はないんですけどね。
私へ集まってきた分は時間と共に私の色に変わるらしいですし。
それからこれに関しては、意識を向けて私の中へ積極的に取り込めば溜まるのは早くなるようですけど……シンキ様がまた困った事も教えてくれましてね?
『矛盾するような言い方だけど、それを意識すら向けずにできるようになって、ようやく一人前の神様よ! スコールちゃん頑張って!!』
って……そんな器用な事、私には無理っぽい気がしません?
ただ何にせよそうやって溜まった分はもう私の色なわけですから妖気と似たような扱いでいいんですけど、またまたそこから先がありまして。
神気には妖気と違って、向いている使用法が割と明確にあって、それに沿う形で扱うのが一番効率がいいんですって。
「へぇ。ちなみにスコールはどんな使い方が向いてるの?」
んー、シンキ様と言えども一から十まで何でもわかるわけじゃないようで、そこはおぼろげなんですよねぇ。
自分が人からどう思われてるか、それをよく見て、感じられればそれが答え、としか教えてくれませんでしたもの。
とりあえず私を客観的に見たら……何て考えはしましたけど、ねぇ?
人里の方々からどう思われてるか、なんて…………色んな意味で怖いですよ。
「臆病者の愉快犯」
「お姉様、妙なっていう形容詞が抜けてるよ」
酷いですねお二人とも!?
臆病者なのは認めますけど、妙な愉快犯って何ですか?
私そんなに悪い事をした覚えなんて……あ、あんまりありませんよ!!
「だってスコールだもん」
「それで表せる辺りが凄いよね、うん」
うわぁん二人ともひーどーいー!!
でも私自身、自分の特徴を挙げていくとそれを否定しきれなくなる辺り、情けなくなるんですけども。
…………何でしょうねぇ、やっぱり逃げる方向に使うしかないんでしょうか?
「逃げるための神気って何よ。閃光弾にでもするの?」
「いやお姉様、スコールの事だからロマンだとか言って変わり身の術とか? きっと残される変わり身が毛玉だったりするんだよ」
「あぁ、ありそうだわ……」
……うわ、自分でもそれちょっとやってみたいとか思っちゃいました。
人里の皆さんの中に忍者の方はいらっしゃいませんかー!?
今なら無料で神様(仮)の師匠になれますぞー!!
「居そうで怖いわあの人里」
ええ、私も言っててちょっと思いました。
たったひとつしかない人里で忍者やっても仕方ないと思いますけど、あの人里ですからねぇ。
前に話した熱血しゃもじ男もさることながら、妖怪より妖怪やってるんじゃないかって方がちらほら居ますし。
口にくわえたみたらし団子の串を息だけで飛ばして、結構離れた壁に突き立てられるお姉さんとか。
白壁に結構な深さでスカーン! って。
突き立てた後に甘味処のお姉さんに物凄い怒られてしょんぼりしてましたけど。
「私でもできないよそんなの。本当にどうなってるのあの人里」
ですよねー。
ま、冗談じゃない方々は置いといて気長に使い方を模索するとしますよ。
信仰してくれてるらしい人里で『私の印象と言えば?』とでも聞き取り調査をすれば形くらいは見えてくるでしょうし。
…………見えてくるといいなぁ。
なんか更に混迷を極めそうな気もします。
「だから完全に妙な愉快犯よ」
「お姉様、今度は臆病者が抜けてるし、咲夜の渾名みたいに韻も踏めてないよ?」
「もういいわ、考えるの面倒だし」
また酷い!?
むぅ、お二人ともご心配をお掛けしたのは申し訳なく思いますけど、そんなに意地悪言わなくたっていいじゃないですか!
今回の件、言わば私は被害者の側ですよ?
ほらほら、労わりたくなってきたでしょう?
「言いながら仰向けで誘うってどういう事なの?」
ほら、前に一回だけやってくれた子狼姿で飛び込んで来てくれると私は大変癒されます。
もう心の傷とか癒えまくりです、サクヤさん以上の完全で瀟洒なもふらーになれちゃいます。
ですから、さぁいらっしゃいませ!
さぁさぁさぁ!
「……あははっ! だってさ、お姉様? たまにはいいんじゃないかな?」
「フランはスコールを甘やかし過ぎよ! 大体あの姿じゃ恰好が付かないじゃない!」
「スコールを拾ってきたのは自分なのに、最近すっかり妹に取られちゃったからって拗ねるのはやめようよ」
「す、拗ねてないわ! 大体どこからそういう話が出てきたのよ!?」
「なら何で目を逸らすの? 素直になった方が色々と楽しいのに」
おう、フランさんが好感触。
いやはや期待に胸躍る展開がやってきましたね!
しかし、レミリアさんがそんな風に思っていらっしゃったなんて……これはもう、今にも増してモフらせなければいけません。
いやぁ心躍りますねぇ!
「というわけでお先にー」
「あっ」
わっほい、子狼フランさんいらっしゃい!!
んふーふふふぅ、可愛らしいですねぇ相変わらず……。
フランさんの色をそのまま落とし込んだような金色の毛並も、真っ赤な目も、小さな体も!
あぁんたまりませんよぅ!!
「くるるるるる……くぅん」
「うっ!?」
あふん!?
その舌足らずな鳴き声とかもうきゅんきゅんしちゃって大変な事になりますね……!!
フランさん、恐ろしい子っ。
可愛すぎて可愛すぎてもう、あのサクヤさんですらにっこり笑って拳を突き上げる程!
やぁんもうっ!
「きゅふー、ふっ!」
首筋でもこもこ動かれるとくすぐったいですって!
でもやっぱりかーわーいーいー!!!!
サクヤさんサクヤさん、かめら、かめらをお願いします!
あ、撮影済みですか?
やった、後で焼き増しお願いします!
これで私のお部屋がまた一つ賑やかになってくれますね!
そうだ、折角ですからユウカさんにもおすそ分けしましょうよ!?
「……うー」
「くるる……くるっふふん」
「!?」
「くるるーるるー」
「な、何が言いたいのよフラン!」
流し目で見ながら笑うって……フランさん、いつの間にそんな悪女の仕草を?
いえ、大変な可愛らしさですけどね!
大変すぎてサクヤさんがお鼻を押さえてぷるぷるしてます。
「くるるるきゅーふー!」
ほうほう、甘味処のお姉さんから?
駄目ですよ、あの人の真似をするなんて!?
「きゅぅ、くぅ?」
そんな上目遣いしたって駄目ですってばぁ!
目指すのならユウカさんみたいな素敵な淑女を目指すべきです!!
お花畑の中で日傘を持って柔らかく微笑むユウカさんを、きらきらした目で『やっぱり綺麗だなぁ……柔らかなお日様みたい』って言ってたじゃないですか!?
「あら、素敵な褒め言葉をありがとう」
「きゅふ!?」
おうおう、いつの間にユウカさん!?
あれ? さっきまでこの館の中に香りなんて無かったのに。
一体いつからそちらの椅子に?
「たった今ね、咲夜が時間を止めて連れて来てくれたのよ。『今なら可愛すぎて頭がどうにかなりそうなフラン様が!』って」
「その通りだったでしょう?」
「ええ、本当にいい仕事をしてくれたわ。今度、お礼をさせて頂戴ね?」
全く否定ができないやりとりですね。
子狼フランさんが可愛らしいのは間違いありませんもの!
「ふーっ! しゃー!!」
「フラン、今の貴女は猫じゃなくて狼でしょうに。何でそんな猫っぽい威嚇をしてるのよ……可愛いじゃない」
「くぅっ!?」
「そこは驚く所じゃないわよ? ……それで? れみりわんはまだかしら?」
「れみりわん……!?」
「レミリアのわんこ姿、略してれみりわん。ほら、音も中々いいじゃない」
れ、れみりわん!
レミリアさんがこの上ない衝撃を受けた顔をしていますけど、いいですね、れみりわん。
可愛いですねぇれみりわん!!
愛らしいですねぇれみりわぁん!!!
「うるっさいわよスコール!? 大体問題はそこじゃないわ!」
「そうよね、レミリアは早くれみりわんになって私のお膝の上に来るべきだと思うわ」
あ、ずるいですよユウカさん!?
れみりわんは私が先に誘ってたって言うのに横から割り込むだなんて!
「スコールも自然に乗っかるんじゃない!」
「だって貴女はふわんと遊んでご満悦みたいじゃない。私だって可愛がりたいもの!」
「ふわん!?」
何をそんなに堂々と……!!
こ、この……泥棒猫っ!
「流れに乗った私が言うのも何だけれど、貴女それ言いたかっただけでしょう?」
いひ、ばれました?
まぁまぁ、それは置いといて。
レミリアさんも意地を張らずにれみりわんになりましょう?
あんなに可愛らしい姿を出し惜しみするなんて酷いじゃないですか!
さささ、どうぞどうぞ?
「…………ぅ」
「ん?」
「………………わふん」
「あら、やっぱり可愛いわね。綺麗な青銀の毛並も素敵よ?」
「くふぅー……」
「ああもう、そんなに拗ねないの」
「くるるる!」
「膝の上で暴れられたってその程度の力じゃあくすぐったいだけよ? ほら、落ち着きなさい」
「くるるるるる! ……くふぅ」
「ふむふむ、れみりわんは耳の後ろとお腹が弱いのねぇ?」
あ、あぁぁぁぁぁユウカさんずーるーいー! ずーーーるーーーーいーーーー!
私もれみりわんに頭でお腹をぐりぐりとかされたい!!
ちっちゃな前脚でぱんちとかされたい!!!
「くぅ……あむっ」
お? おやおやおやおや!!
ふわんさん、嫉妬ですか!?
あふ、耳を甘噛みとかもうっ!
もーう!!
可愛いですけど、オイタをしちゃあいけませんねぇ!
「きゅーふぅ!?」
ふふん、腕の長さが違うんですよ!
私がされてばかりだと思ったら大間違いです。
ほらほらほら、ここでしょう、ここが気持ちいいんでしょう?
「くふっ!? くるるるるふぅ!?」
んふふふ、そんなに暴れたって体は正直ですねぇ。
そんなに気持ちよさそうに吐息を漏らしちゃあバレバレですよぉ?
ふわんさんは耳の後ろよりも顎の下派ですか。
ぐーりぐーりひゃっほぅ!
「きゅふー!? くぅるる……くるふぅ……」
「抱え上げて鼻先でくすぐり返すのはいいけど、思考だけ聞いてると危ない狼になってるわよスコール」
危ない狼だとうと何だろうと結構。
今この可愛らしいふわんさんと戯れられるなら、危ない狼にだってなってやりますとも。
んふふー? どうしましたふわんさん、段々体から力が抜けてますよ?
そんなに気持ちよさげに体をよじる姿なんて、お外じゃ見せられませんねぇ。
あぁんもう可愛すぎぃ!!
どうしてくれましょう、全身で悶えたくなるこの気持ち!
「きゅふっ……もうっ! やりすぎ!!」
あ痛ぁ!?
あ、ああああぁぁぁぁフランさん、何で元に戻っちゃうんですかぁ!?
ほ、ほら、ほら、まだふわんさんでいましょう? ね?
まだまだ夜は長いんですよ!?
「本日のふわんは終了しました! またの機会をお待ち下さい!!」
そんな真っ赤にならなくたっていいじゃないですか!
可愛らしいは正義ってサクヤさんも言ってましたよ?
何も気にせずに可愛らしいふわんさんで居たって、誰も損はしないんです。
ほら、だから、ね?
ねぇ……ふわんさぁん!!
「へぇ……咲夜、そんな事言ったの?」
「さて、とんと記憶に御座いませんね」
な、裏切りましたねサクヤさん!?
いくらにっこり笑って拳を握りしめるフランさんが怖いからって!
こうなったらサクヤさんが作ってた秘密のアルバムの場所をばらしますよ?
あのレミリアさんの寝顔とかフランさんのお着換えだとかを撮った危ないやつ!!
それでもいいって言うんですか!?
「ちょ、咲夜!?」
「…………何の事でしょうか?」
…………んむ? 何か今サクヤさんがブレたよう……な?
あぁぁぁぁ!? さては隠し場所を変えてきましたね!?
「咲夜、後で寝顔とかの写真だけ焼き増しお願いね」
「ええ、いいわ…………いえ、何の、事かしらね?」
「さてさて、何の事かは今度のお茶会の時にでも分るんじゃないかしら?」
「そうかもしれませんわねぇ」
「うふふふふふ」
「ふふっ」
れみりわんさん、フランさん、怪しげな取引が行われてますよ!?
ほら、サクヤさんを止めないと!
「……いや、もう咲夜は病気だから仕方ないよね。それに幽香さんなら妙な写真を選んだりしないだろうから」
「くるっふ」
あぁ、そんな遠い目で諦めちゃうなんて……おいたわしや。
やっぱり、サクヤさんはもう手遅れなんですね……。
「今日の夕飯と今の軽口。好きな方を選びなさい」
あ、はいごめんなさい。
夕飯はお肉がいいです。
「ん。わかったから、わかったわね?」
いえすまむ!
さ、話は終わりましたしふわんさん、もう一回どうです?
お互いの心の傷を癒しましょう?
「…………くふぅ」
ほら、こちらへいらっしゃい。
ふわんさんはもう休んでいいんです。
だから、そんな悲しい鳴き声を零すのはやめましょう?
「あら? ……いつの間にか私が悪者な流れになってる?」
「知ってます? 咲夜さんのアルバムの中にはパチュリー様がスコールを全身でモフってとろけ顔になってる写真とかあるんですよ?」
「なっ!?」
「前にすこーるぬいぐるみをプレゼントした時に見せて貰ったんですよぉ。……可愛かったなぁ」
「…………咲夜ぁ!!」