ぬぅん……ぬぅぅぅん……?
神化? 進化じゃなくて、神化ですか。
だれが字面だけ変えろと言いましたかこんちきしょう。
とりあえず『よしきた! さささ、早く早く!』みたいな気配を出してる原因不明だった力を軽くして、押さえつけて。
押さえつけた私が言うのも何ですが……本当に、これ神様の力なんですかね?
何というか、押さえつけてそっと見なかった事にしたら『ひどぉぃ~!』みたいな凄く微妙な気持ちが伝わってくるんですが。
まぁそれは置いておいて。
神様なんて言われても、生憎と神様の知り合いは居ないんですよねぇ。
ここ幻想郷には結構な数がいらっしゃる様ですけど、未だに何故か邂逅は無し。
お話を聞いてから色々と決めてしまいたいんですけど……神様……神様。
気軽に立ち入れる所、そう、人里なんかに関わりのある方々を探してみるのが一番早いんでしょうか?
豊穣の神様がいらっしゃるというのは聞いた覚えがありますし、その気性も至って温厚かつ人当りも良しとの事ですから第一候補ですね。
とはいえ、選択肢は多い方が良いでしょう。
他に神様へお目通り何てできそうな伝手は無いもの…………あれ、神様?
お? お? お? 何か出てきそうな! 何でしたっけ!?
何処かで、何処かで神様絡みの重要な何かを聞いたような見たような感じたような?
こう、知った瞬間に凄く微妙な気分になったのは覚えてるんですよね。
これで? みたいな。
ん……んん……微妙?
あ。
神様。
の、お子様。
あ、ああああああああありすさぁぁぁん!!
居ましたね! すっごい近場に居ましたね、神様のご関係者!
神様仏様かみさまーがとろいど様!
うぬぅ、他の選択肢なんてもう有って無いようなもの!!
アリスさんが居るなら他の方へお目通りなんて考えずに突貫あるのみ!
うんうん、神様自身に会えなくても、そのお子さんだって知識は持ってるはずですよね?
やった、やりましたね、アリスさんなら何一つ気兼ねなく聞けますもの!!
やっぱりアリスさんったら素敵ぃ!
存分にモフらせて口を割らせるとしましょうね!
あ……でもまだ辺りは真っ暗ですし、ちょっと時間を潰して明るくなってから行きましょうか。
レイムさんみたいに怒らせてもアレですし、人里の飲み屋さんで一杯ぐっとやってからに。
いやぁ、糸口が見えただけでこんなに気分が上向くとは、我ながら単純ですが…………前祝いってやつです!
よーく冷やした大吟醸さん待ってて下さいねぇ!!
今ならまだ呑兵衛な方々が盛り上がってる時間帯でしょうからそっと混ざってやりましょう。
いやはや、部屋から飛び出す直前に鞄を咥えて出て来れたのは我ながら良い仕事でした……ツケで飲もうとすると怖いですからね、あの居酒屋さん。
前にもこたんが一回やらかして涙目になってましたし。
やぁ、とりあえずグッと行きましょうグッと!!
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あ~り~す~さぁん!
あっそび~ましょ~ぅ!
「はぁ~い?」
あら、あらあらあら?
アリスちゃんが外に出て、暇になっちゃったと思った途端にお客様?
でも『遊びましょう』なんてあんなに呑気で楽しそうな思念を送ってくるくらいだし、お友達かな?
うん? …………アリスちゃんの、お友達?
アリスちゃんの!! あの『一人が好きなのよフフン』みたいな所があるアリスちゃんの、お友達!!
わ、わ、何か嬉しい!
これはお持て成しをしなきゃいけないわ!
ええと、服装は良し、髪もぱぱっと手櫛で整えて。
鏡~鏡~決めポーズ! ……よし、人前に出てもおかしくないわよね?
「ちょっと待ってね!」
お、おん?
あれ、アリスさんじゃない? もとい、この気配ってもしかして?
あれあれ、もしかして大当たり引いちゃいました?
「はい、お待たせ!」
ほぁ?
初めまして……神様?
「うん、初めまして。神様です」
急いで玄関まで走って、扉を開いた先に居たのは行儀よくお座りして首を傾げている大きな大きな……大きすぎる狼さん。
……いや、比喩とかそういうの抜きで本当に、大きいわね。
頭の位置が私の身長よりも上だし。
そんな見上げた先にある顔もまた良い。
ふわりと風に揺れる銀色の毛並は辺りを照らす朝日を映し込んだみたいに煌めいて、瞳は極上のトパーズを流し込んだような輝く金色。
首には魔法……翻訳とか加速とか便利そうな魔方陣を色々綺麗に仕込んでるっぽい真っ赤な業物スカーフ。
スカーフに業物っていうのも何だけど、いい仕事してるわね。
魔方陣を綺麗に配置して効率化や相乗効果を引き出すのはそうそうできる事じゃないもの。
ただ馬鹿魔力に物を言わせるだけならできる子も多いけど、こういった分野は才能と研鑽が物を言うからね。
でもそんな容姿やスカーフも良いけど、何よりもこの感じられる呑気な気配!
高得点よ、アリスちゃん! 良いお友達っぽいわ!
あ、いけないいけない。
「ごめんなさいね。アリスちゃんったらお人形さんの材料が足りないからって、ついさっき出ちゃった所なのよ」
あら残念、空振りしちゃいましたか。
こちらもお時間の確認もしませんでしたし、仕方ないですね。
出直しましょう!
「いえいえ! 折角だし上がって上がって!!」
おや……ではお招き頂いた事ですし、お言葉に甘えましてお邪魔しましょう。
ちなみに私、アリスさんの……何て言えば良いのか微妙な所ですけど、遊び友達的な何かのスコールです。
遊んでるのか遊ばれてるのか分らない部分がありますけど。
「これはご丁寧に。アリスちゃんの母、神綺です」
お互いに玄関先でぺこりと一礼。
あら? …………スコール、ちゃん?
あぁぁぁ!! あの、アリスちゃんのお手紙にあったスコールちゃん!?
あの気まぐれな幽香ちゃんが大層可愛がってるっていうもふもふぽんこつ系狼のスコールちゃん!!!
わ、わ、わ、やった!
こっちに来てる間に会いたいと思ってたのが実現したわ!
密かに会ってみたいモフってみたいって呟いてた夢子ちゃんに自慢しちゃおう。
あれ、でも今日は可愛さたっぷり快活系吸血鬼のフランちゃん、一緒じゃないのね?
ペアだと幽香ちゃんの猫可愛がりっぷりが凄いって話だし、フランちゃんにも会ってみたいのよね。
でもでも、フランちゃんに会ったら次は絶対に紅魔館の皆に会ってみたいって思っちゃう!!
残念カリスマレミリアちゃんに、瀟洒で妙なメイドのサクヤちゃんに、病弱の皮を被ったもやしパチュリーちゃん、色々不詳なメイリンちゃん!
もう! それもこれもアリスちゃんが楽しそうに手紙を書いてくるからよ!?
おっとと、玄関先で考え込むなんて失礼よね、ご案内しないと!
「ささ、入って入って。えーと、お飲み物出さなきゃ!」
いえいえ、お構いなく!
神様にそんな事をさせるなんて畏れ多いですから!
「いやいやいや、折角アリスちゃんのお友達が遊びに来てくれたんだもの! ここは母親としてお茶くらい……お茶、くらい……?」
うん、神綺ちゃん気づいちゃった。
紅茶の葉、どこ?
そういえばアリスちゃん、私に淹れてくれた時は人形をお台所へやって準備してたから実際に淹れる所を見てないのよね。
香りからして『最上級ですのよわたくし、フフン』みたいな感じがしたあの紅茶!
ええと、お台所に行けばわかるかしら?
アリスちゃん、お母さん信じてるわ!
そしてスコールちゃんにとびっきりの紅茶をご馳走してあげるんだから!
「……ど、どこ~?」
整理整頓はきっちりと。
流石ね、我が娘よ……でももうちょっとだけでいいから、適当だったらお母さん嬉しかったなぁ……?
お台所へ入ってすぐ見えるのは、調理台の上に置かれている色とりどりの綺麗な瓶に詰められた調味料ばかり。
そしてぱっと辺りを見回して、その見える範囲には綺麗なガラス戸棚に始まり、金庫のような鍵付き戸棚や床下収納の数々。
見渡す限り戸棚、戸棚、戸棚!
充実しすぎた収納ね、アリスちゃん!
…………でね、アリスちゃん……紅茶の葉、どこ…………?
あ! ああ!! か、カップは発見! ティーポットも!
ってスコールちゃんは普通のカップよりもボウルとかの方がいいのかしら!?
違う、今はそれよりも葉は? 葉はどこ!?
「こ、こっち? ……香辛料。じゃあこっち!? ……お酒! どこぉ!?」
だ、大丈夫ですか?
先ほども言いましたけれど、気にしなくっても結構ですよ?
こちらにお邪魔する前に、恥ずかしながら一杯引っかけてきたので喉はそれほど乾いていませんし。
それにあまり収納を引っ掻き回すとアリスさんに怒られちゃいませんか?
結構その辺りを気にしそうな気がするんですけど。
こういった物は自分の使いやすい様に配置するものでしょうし。
「いいえ、こうなったら意地でも何とかして見せるわ……スコールちゃん、魔界神の勘をその目に焼き付けなさい!! ここよ!!! ……うわぁんまたお酒ぇ!?」
手当たり次第に近場の戸棚から開けてみるものの、空振り続き。
最初は畏まった雰囲気を出してたスコールちゃんが段々と可哀想な子を見守ってる雰囲気へシフトしてきてるし、急がなきゃ……!?
とはいえ開けども開けども紅茶のこの字すら出てこない有様。
葉は見つからず、出てくるわ出てくるわお酒の山……アリスちゃん、どれだけお酒を貯め込んでるのよ?
ワイン、ウイスキー、ブランデー、日本酒……あ、ちゃんとそれぞれ分けた上で保冷の魔法を仕込んでるのね。
いい仕事をしてるじゃない……あ、スピリタスみっけ。
いやそうじゃない! そうじゃないの、今はそれよりも葉っぱよ!
あら、スコールちゃん? 待って、もう少し、もう少しできっと見つかるから……んん? そんなに鼻を鳴らしてどうしたの……え、壁?
そんな棚と棚の間の壁に何が……嘘ぉ!?
「そんな所に収納が!?」
おうおう、大正解でした。
瓶詰してるって言っても、紅茶の葉ってかなり香りが出ますからね。
しかし、探し当てた我ながら……この隠し場所は無いですよねぇ。
何ですかこの精巧な仕込み棚。
「…………」
壁と見事に同化するような精密さを持った戸棚は素直に凄いと思うけどね?
押したら飛び出てくる仕込み棚の中に隠すような物じゃないでしょう、紅茶の葉って!?
一体何と戦ってるのよアリスちゃん!!
「アリスちゃん、相変わらずどこかズレてるわ……何で紅茶を隠し戸棚になんて入れてるのよぅ……」
まぁアリスさんですからね……。
こないだ諸事情で改装したので、その時に付けて貰った棚だと思いますよ?
前に来た時は普通に机の上に瓶詰を置いてましたから。
……でも、何か仕込めそうなら仕込まないと気が済まないのがアリスさん。
今回の機会が無くたって、間違いなくいつかはやらかしてましたね。
そこは断言しましょう!
だって! アリスさんだから!!
「アリスちゃああああん!?」
アリスちゃん、普段からそんな認識されてるの!?
やっぱり一人暮らしじゃなくって、誰かつけてあげるべきだった?
うぅ……でもアリスちゃん、それ言ったら怒るし。
ううううう何やってるのよぅ、アリスちゃん……!
そうだ!
「スコールちゃん、お願い、アリスちゃんが普段どんな事してるかもっと教えてくれない!?」
や、それは構いませんけど……その言い方だとシンキ様が持ってるアリスさんのイメージ、若干崩れるかもしれませんね。
それでもお聞きになる覚悟はできておりますかっ!?
「…………ええ、たった今できたわ! でもその前にお茶淹れちゃうから、ちょっと待っててね。うん、ちょっとでいいから……」
それできてませんよね!?
半分冗談……言いすぎました、四分の一くらい冗談ですから、そんなに身構えなくってもきっと大丈夫ですよ?
うん、うん。
きっと……大丈夫です。
「スコールちゃん、それ殆ど冗談じゃないわ!」
……だって、だってアリスさんですよ!?
お友達の事で嘘なんてつきたくありません!!
もう一度言いましょう。
だって、アリスさんですよ?
「そんなに悲痛な叫びをあげられる程なの!?」
アリスちゃん、一体こっちで何をしでかしてるの?
紫ちゃんに迷惑かけてない?
もしかして藍ちゃんの尻尾の毛とかを狙ったりしちゃった?
二人ともアリスちゃんがこっちに来る時に色々お願いしちゃったから、何かしでかしてたら申し訳ないわ。
あぁぁぁぁもう心配すぎて逆に早く聞かなくちゃ安心できなくなってきた!
「お湯、OK! ポットもカップもボウルも色々OK! スコールちゃん、あっちの机でいいかな!?」
え、えぇ。
でもここまで覚悟を決められると何か話しづらくなってきた気がしますねぇ。
「そんな事無いわ! 母親として……私は聞かなくちゃいけないの」
おぉぉ……神々しさが溢れていらっしゃる……!
わかりました、私だってアリスさんのお友達です。
お友達のためになるなら、元より軽いこのお口、更に軽くしてみせましょう!
「やぁんスコールちゃん話がわかるぅ!」
いひ。
じゃあまるっとぺろっとお話しようじゃありませんか!
悲壮な覚悟なんて吹き飛ばして笑いしか出ないようにして差し上げましょう!!
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「あ~り~す~ちゃぁん?」
「ちょっと母さん、何よこの酒瓶の山……スコール、貴女なんでここに居るの?」
「お黙り。スコールちゃんとは大事な情報提供者兼お友達になったの! 失礼な事言うんじゃありません!!」
「はい?」
「正座なさい! 座布団くらいは許してあげるから!!」
「わけがわからないんだけど。あと母さん、母さんが正座を強要してるの、私じゃなくて上海だからね?」
「じゃあ上海アリスちゃん、正座!!」
「それいけないやつだわ。あぁもう、わかったわよ、座ればいいんでしょう座れば」
視界はぐるぐると左回転右回転、たまーに上へ下へ……おっと、床ちゃんこんにちは、今日も元気そうねぇ。
でもお酒を飲み過ぎたって言ったって、私がアリスちゃんを見間違えるはずがないじゃない!
アリスちゃん、少し見ない間に小さくなっちゃったけど、アリスちゃんもお年頃だしお母さん気にしません。
今はそれよりもあれよ、そう……ええと、そう、何だっけ?
「で?」
「えと、えっと……正座!」
「してるじゃない。丁寧に上海まで膝の上で正座させてるのよ? これ以上何を望むっていうの」
「じゃあ星座!!」
「死ねと!?」
むぅ、アリスちゃんったら反抗期に突入しちゃったのかしら。
輝かんばかりのアリスちゃん愛故に、魔界の空に新しくアリス座を作って一緒に眺めようっていう母心がわからないの!?
お母さん、アリスちゃんをそんな子に育てた覚えはないわよ?
それはもう可愛がって可愛がって可愛がって、魔法の手引書とか材料だとか色々バックアップをしてやりたい事をさせてきたもの!
なのに……なのにぃ…………アリスちゃんのわからず屋ぁ!!!
「もう、話ならまた聞いてあげるから今回は素直に寝たほうがいいんじゃない?」
「……やだ」
「母さん、子供じゃないんだから頬を膨らませないでよ……」
「じゃあ膝枕」
「駄目だ、夢子さんじゃないと扱いきれないわこれ。夢子さんヘルプ。本気でヘルプミー」
「ひーざーまーくーらー!」
「あぁもうわかったわよ、暴れないで!」
「わっほい!」
んふー!
魔界じゃやってくれなかった膝枕!
香りといい太ももの柔らかさといい、アリスちゃんを感じるわ!
ツンツンしても頬っぺたがちょっと赤くなってるのがまたかーいーわー!
んふぅ…………。
「した瞬間に寝るのかぁ……どれだけ飲んだのよ、一体? まぁ静かになった事だし、スコール、説明」
私、アリスさんを訪ねてきました。
シンキ様、出迎えてくれました。
意気投合して二人で酒盛りしてました。
「で、それがどうして正座になるの?」
意気投合の中で、アリスさんの痴態奇行爆発っぷりを懇切丁寧に有る事有る事ぺろっと教えちゃいました。
もう凄かったですよ、シンキ様ったら。
ありすちゃーんありすちゃーんってぼろぼろ泣きながらお酒を片っ端から煽りだして、止めても聞かないんですもの。
だから仕方なく、もう本当に仕方なく、根掘り葉掘り聞かれた通りに全て喋っちゃいました。
「仕方なくなんて言いながら目を背けるんじゃない! 笑いを堪えるのに必死になってるのがバレバレなのよ!!」
お母さんに……娘さんの事を心配してるお母さんに本当の事を話すのはいけない事ですか?
涙を流しながら『良かった、アリスちゃんが大怪我しなくて良かった』って笑うんですよ?
喋らないわけにはいかないでしょう!
「スコール、意だけを受け取れば凄くいい話っぽいけど、思の方を受け取ると愉快犯の気配がするのよね。そこら辺はどうなの?」
いひ。
もうシンキ様ったら百面相って感じで楽しかったです!
泣いて私に抱き付いてきたかと思ったら毛並を堪能し始めてほにゃっとなってたり、耳と尻尾を生やして『お揃い!』何て胸を張ったり。
かと思いきや突然キリっとして『続きを』何て言いだしたので何かして酔いを冷ましたのかと思ったら、キリっとした顔のまま寝てたりだとか……。
あと何故か贈り物を貰っちゃいました。
「…………怒るつもりだったけど、何かごめん……母さんが、迷惑かけて本当にごめんなさい」
や、や、楽しかったんですって。
でもですね、一つだけ困ってる事がありまして。
「うん?」
贈り物、思わず貰っちゃったんですけど、これ本当に受け取って良かったのかと。
話の中で私がアリスさんを訪ねてきた理由を話した途端に『娘と私のお友達を助けるのに、理由なんていらないわ……』って凄く凛々しいお顔で……その。
「何、やらかしたの……?」
シンキくりーなー、もとい神気くりーなー、だそうです。
これ、このシンキ様の髪飾りから上をまるっと切り取ったみたいな。
最近の私の不調の原因だったらしいのが、神化しかけてるって事みたいでーって軽く話してみたら、あっさりと作ってくれたんですよね。
どうくりーなーするのか教えてくれなかった事もあって、若干怖いんですけどコレ。
「膝枕の価値無しね。床に転がしておくとするわこの母親」
ちょ、頭から落としちゃ駄目ですよ!?
って起きないんですかシンキ様!!
物凄く痛そうな音がしましたけど……?
「大丈夫大丈夫、魔界神は丈夫です。『神力の制御間違えちゃった♪』なんて半径ウン百メートルもある馬鹿でかいクレーターの真ん中で舌出して笑ってるような神様だから」
じゃあ気にしないでいいですね。
それで話は戻りますけど、どうしたらいいと思います、コレ?
「そっと部屋の隅っこにでも転がしておいて。起きたら聞き出すから」
ありがたやありがたや。
折角作ってくれた物を無碍にするのは気が引けまして。
「……その気持ちは娘として嬉しくもあるけど、気を付けないと痛い目を見るわよ」
真面目な話っぽいですね……その心は?
「与えすぎるのよ、母さんは。善意100%でやり過ぎて、いつも傍付きで仕事をやってる姉さんが雷を落とすのが常」
いまいち想像できないんですけど、具体的には?
「魔界にある大きな川の水が汚れて飲めないって話を聞けば、浄化しすぎて誰一人近寄れない神域にしかけたり」
うわ……。
「とある大規模菜園が不作続きだって話を聞けば、土地に力を捻じ込んで作物を進化させて……進化しすぎたマッスルな野菜が人を撃退するような魔の森を作ったり」
…………。
「生活範囲を広げたいけど人も時間も無いって話を聞けば、すぐ傍に聳えてた岩だけの大きな山を即座に消し飛ばしたり」
部屋の隅と言わず、博麗神社の賽銭箱にでも放り込んできましょうか、このくりーなー。
大丈夫です、あそこは神様の気配がしませんでしたから!!
「うん、言いながら私も部屋の隅じゃ足りないかなって思ったけどね。でもそれを適当な所に捨ててどこぞの神様に対して使われてみなさい……何が起こっても不思議じゃないわよ」
うわぁ……うわぁ!!
ちょ、ちょっとアリスさん、これあげます!!
「やめて、こっち寄って来ないで!!」
じゃあ部屋の隅へしゅーと! しゅーとです!!
ぽいっとな!
「あ、馬鹿、下手に衝撃を与えたら……!?」
…………あ、何かやらかした気配がします。
ぎゅいんぎゅいん荒ぶりだしましたよあの房付き髪飾り!
おおおおおおうおうおう体から何か抜けていく気配がぁ!?
おうおうお……ぅ。
「スコール!?」
…………。
「ちょっと、スコール!! スコール!!! 聞こえる!? あぁもう母さんどんなやらかし方をしたのよ!?」
おう?
「へ?」
あれ、終わり?
何と言うか、違和感が抜けてスッキリサッパリ?
抜けていく瞬間に『そんなー!?』って凄く気の抜ける叫びが聞こえてきた気がしますけど、それ以外は特に何も……。
「……とりあえず、無事、みたいね?」
ですね?
どうしましょう、この状況。
シンキ様が起きてくるの待ちますか?
多分、今起こしたって酔っ払いのままな気がします。
「私もそんな気がするわ。……何か疲れたし、私達も一寝入りする?」
そう、ですね。
うんうん、そうしましょうか……では失礼して。
「待ちなさい…………何で私を抱き込むのかしら?」
抱き心地が良いから?
ほら、何時もみたいにもみくちゃにしませんから、一緒に寝ましょう?
たまにはいいじゃないですか……。
これでも不安なんですよ?
ほらほら、だから一緒に寝て下さいよ、ねぇ……?
「貴女も母さんと一緒で、言いながら即座に寝ないでよ……ま、いいかしらね、たまには」
「あ、やらかした?」
「いきなり何、お姉様?」
「あ、いや……スコールだけどね」
「…………うん」
「こう、斜め上にムーンサルトしながらカっ飛んで行くというか……予想外の所からにょろりと運命が生えてきたというか」
「悪い事じゃないんだよね?」
「ええ、それだけは確信を持って言えるわ。でも何だかすごく微妙な気分になってくるのよね」
「悪い事じゃなきゃいいよ。だってスコールだもん」
「それもそうね、スコールだし」
「うんうん」
『早く帰って来ないかなぁ』