鼻っ面になんて物を放り込んでくれるんでしょうねぇ?
危うく狼から豚に変身しちゃう所でしたよ!?
「はっはっは。あんだけ綺麗に受け流しておいて何言ってるんだか!」
あんだけいきり立ってても冷静な部分はしっかり残ってるな。
私に殴り飛ばされた時も、後ろに飛びながら、アリスの家になるべく傷を付けないように窓に突っ込んで出やがった。
このタイプの奴が馬鹿みたいな速さを持ってるなんて、やりにくいときたら無いね。
スコール自身の能力と、あいつのそもそもの体の頑丈さが相俟って沈めるのにどれだけかかるやら。
いやぁ、やりがいがあるってもんだ!
急げ急げ、今の幻想郷に、ここ以上の場所なんて無い。
萃まれ萃まれ萃まれ!
「なぁ、わざわざ広い所に移動するのも面倒だろう? さっくり場所も作ってやるよ!」
散った己を急速に萃めに萃めて、ようやく元の密度に戻ってきた。
元々こちら寄りに移動し始めていたのもいい方向に働いたね。
さて、挨拶代わりの一発はくれてやったから、次はその気になってくれた事に対する歓迎だなぁ?
恐れを込めて叫ばれた鬼の力、とくとご覧あれってなぁ!
「おぉぉぅらぁ!!」
スコールを追って外へ出た瞬間、全力であいつへ向けて地面を削る。
少しばかり密度を変えて、巨大になった体でスコールの方へ抉り込むように地面を弾いて、即席の岩弾も兼ねてたわけだけど……ま、期待通り。
鬼の全力で弾いた岩弾だ。
その一つ一つが辺りの木を薙ぎ倒していく。
そんな中……結構な密度の弾幕だったってのにまるで当たりゃしない、風のように流れる銀色。
あの体でするりと間を抜けやがったぞ、おい!
あぁ見事だ。
それでこそ、だよなぁ!!
「ちょ、人の家の庭に何て事すんのよぉ!?」
盛り上がりかけた気分が停滞。
……観客は気ぃ抜ける事言うなよぅ。
スコールも微妙な顔してんじゃないか。
こりゃあさっさとその気に戻さなきゃ、お流れになっちまうかね?
こうして対峙するに至った経緯なんぞ、もうどうだっていい。
折角あいつが、あのスコールが本気で向かってきてくれるんだ。
そう、あいつが逃げずに向かってくるんだ。
邪魔すんじゃねぇ!!
心が躍る、この久方ぶりの闘争を逃してなるものか!!
「逃げてばかりじゃ私をぅ!?」
おいおい、嬉しいねぇ!?
炊きつけようと口上を叫ぼうとした瞬間、目の前には大きく開かれたスコールの顎門。
反射的に後ろへ倒れこむように避けた所で、私の上で大きく響いたそれの閉じる音が、どれだけ力を込めたものかを雄弁に語ってくれた。
ここまで影響が出るようなものをあっさり見逃した紫は後で問い詰めるとして、まずは楽しまなきゃ損だよなぁ。
鬼を相手にここまでガチンコを挑んでくる奴なんて、とんと会わなくなった。
昔の地上は言わずもがな、飽き飽きして引っ込んだ地底でだって、顔色を伺うか、そうでもなきゃ遠巻きに見てるかのどっちかばかり。
よしんば友誼を結んだ所で、それは殴り合いのできる友じゃない。
鬼と殴りあうのはいつだって同じ鬼ばかりだ。
つまんねぇよなぁ、いつも同じやつらばっかりなんだから。
何百勝何百敗何百引分なんて、もうただの惰性だ。
つまらなかった。
でも、だからこそ今がこの上なく楽しいんだろうなぁ。
「しっかし、わかっちゃいたけど速いったらないね。事、地上に限れば天狗だって及びやしないなぁ!」
スイカさん程の鬼にお褒めに預かるなんて恐悦至極ですねぇ。
獲ったと思ったのに獲れなかったのはいつ以来でしょう?
あぁ、そうだ、獲れなかったならまた獲れるんですね!
「はは、はははは!! そうだ、その通りだ。それにしても鬼相手に『獲る』なんて言ったやつは何百年ぶりかねぇ!」
頭上に見えた毛並みを掴もうと伸ばした腕は、それ以上の速さで伸びてきた爪に払われた。
しかも立派な爪痕まで残していく始末だ。
鬼に、他の妖怪が呆れる程に頑健な肉体こそが本領の鬼の体に傷を付けるか。
相手にとって不足なし、十二分だ。
退いては攻め、攻めては避け。
縦に横に、取ったと思った一撃が悉く避けられて私の傷ばかりが増えていく。
致命傷には程遠いが、これはたまらないね。
蹴り出した足は、それを足場に加速へ変えられ、私の肩を抉る爪へ伝えられた。
振り上げた腕は、溜めを作った瞬間に逸らされて、体勢を崩された。
ならばと、私の首へ迫る顎門へ合わせて頭突きを放てば、その下の懐へ潜りこまれて鳩尾に頭突きを返される。
「はは、痛い、痛いねぇ。痛くて痛くて……そそられて仕方ない!」
楽しいですねぇ! 素敵ですねぇ! 闘争は!!
こんなに楽しいものから逃げ続けていたなんて、私は何と愚かだったんでしょう!
「おう、そうだろう!? 身命を賭して相手を叩き潰す、それこそが!!」
言わなくたって、もうわかっただろう?
そんなに嬉しそうに口端を持ち上げてるんだ、わかったんだろう?
楽しいよなぁ、嬉しいよなぁ!!
足を振り上げ、全力で踏みしめる。
鬼の力で為せば、その結果は地震、隆起、飛散だ。
踏み込んだ足を中心に、抉れ、飛ぶ小さな破片。
あいつの視線がそちらへ流れた瞬間、踏み込んだ足を基点に前へ、スコールへ。
生まれた小さな隙を突こうとした私の腕は避けられたが、あいつ、空中で体勢を崩しやがった。
そしてこちらの体勢は少しばかり崩れちゃあいるが、少しでも動きを止めることができさえすればそこから先に繋げられる……ってぇのによう。
動かせないと思っていた体の芯を狙ったのに、あいつめ、私の腕より先に地面についていた爪の一本だけで、体勢を変えやがった。
結果、毛先を指が掠めただけ。
嘘だろ、おい。
「お前さん、本当は猫の変化だったりしないか? 何だよその避け方……」
は、は!? 何て豪腕ですか!
あんなに無茶な打ち方をしたのに、周りの風が持っていかれるなんてっ!
あぁ、こんな怖い腕に捕まっちゃ駄目ですね、終わってしま……終わる?
「おぅ?」
するりと、数十メートルは後ろにあった大木の枝へと逃げられた。
仕切りなおしかと思ったら、何だ?
……っ、まただ、またあのお守りだ。
何だよありゃあ。
あれが前に出てきて主張をするたび、おかしくなっていく。
「おい、スコール!」
そうだ。
終わったら、駄目ですよ?
終わりは……終わるなんて……。
「おーいおい、本当になんだよあのお守り。いくらなんでもこりゃねぇだろうがよぅ」
まだ、まだまだまだ!!
まだ私はやれる!
足も動く、目も見える、鼻も利く、耳だって聞こえる。
まだ、何も終わっちゃいない!
あの日のように、終わってなんかいない!!
私の、あの日の終着点は、こんな所じゃない!!!
「ちょ、こっから更に速くなるのかよぅ!?」
終わってなんかやりません!
獲って、食らって、また獲って。
はは、やりました、終わりなんて来ないんですよ!!
「おいおいおい何か漏れてくる声がやばくなってるぞ。くそう馬鹿紫め、覚悟しとけよぅ」
あぁ、スイカさんったらそんなに美味しそうな血を流しちゃってぇ。
誘ってるんですか? はしたないですよぅ。
そんな香りをばら撒かれたら、私ったらいてもたってもいられなくってぺろりと食べちゃいそうです!
お綺麗ですねぇ、美味しそうですねぇ、可愛らしいですねぇ!!
……ちょっとその腕、一本貰えません?
「ばぁか。そういうのはちゃんと獲って仕留めてから味わえばいいんだ。恵んで貰う程度のもんが美味いわけないだろうがよぅ?」
道理です。
まさにその通り。
そんな事も忘れているなんて、私ったら!
皆からぽんこつ呼ばわりされるわけですよ。
うふふふははっ、はっ!
いっただきまぁす!
「っとぉ! おいおい、腕狙ってんじゃないのかよ。今のは首だぞぅ!?」
ちゃぁんと言いつけを守ったんだから褒めて下さいよぉ!
仕留めてやります。獲ってやります。
ほら、ほらほらほら背中がお留守ですよ!!
……あれ、こっちは前でしたっけぇ?
あはは、スイカさんってば前も後ろもわからないんですもの!
洗濯板ですね! いやいやまな板ですか!?
何でもいいや、とりあえず味見ですよねぇ。
腕、貰いましたー!
「何百年って殴り合いしてきた鬼をなめんなよ! ここが狙いだって事くらいわかってらぁ!! ……そうら、お喋りなんかしてるから、掠ったぞぅ!?」
何て言いはしたものの、このままじゃ当たる気がしないねぇ!
当てる気は溢れんばかりなんだけどなぁ、おい。
もう半ば以上、勘で動いてるようなもんだし……どうしたものかなぁ……。
能力を使おうにも、私の能力とあいつの能力の相性が悪いったらないし。
あいつの能力が物の重さを軽くするだけならまだやりようはあるのに、あいつときたら『あらゆるものを』何てぇ大層なおまけ付きだ。
言葉遊びみたいな使い方ですら実現してきやがる。
私の能力、疎密に……というより、あいつが前に言った言葉のままなら『結合を軽く』してるわけか。
表現の正誤何て知ったこっちゃ無い。
あいつがそうと思えれば、あいつの能力は、千年という長きに裏打ちされた力で捻じ曲げてきやがる。
はは、こんだけの事ができるやつが逃げるしかできないなんて、何の冗談だっての。
全く! やりがいがある闘争だこって!
「ほれ、鬼さんこちら、手の鳴る方へっとぉ」
気を抜いたら体がばらけちまいそうになるなんて始めての経験だね。
私の能力が知られるってのはこういう時に不便なんだよなぁ。
勇儀みたいなただひたすらガチンコ向けの能力なら話は別だったんだろうがね。
これじゃあ自身をばら撒いて物量攻めもできやしない。
分体をばらされた所で、別に無くなるわけじゃあないけど、散らされて元に戻すのに骨を折るのがオチだろうなぁ。
ま、そんな勝負なんぞ願い下げだ。
全力で殴り合ってこそだろう、勝負ってのは!
「受けに回るだけなんて性分じゃないからね。避けるっていうなら意地でも捕まえて締め上げてやるさ!」
言うは易しとはこの事だけどな。
速くて硬くて、尚且つ殴った衝撃はきっちり能力と体捌きで殺してダメージはほぼ無し。
体を掴まれるという事があいつに取って何を意味するかも良くわかってるようで、それだけは指先すらも掠りやしない。
ったく、本当に規格外の狼にも程がある。
鬼相手にここまで苦戦を強いる妖獣なんてどれだけ居るんだか。
あの藍ですらこんな真正面からは挑んでこなかったってのによぅ。
「っ! とぉったぁ!!」
っ……まだまだ、まだ遅い?
私が、遅い!?
ならもっと速く、もっともっともっと速く、速く!!
もう終われないんですよ、私は。
私は帰るんです! やっと、帰れるんですよ!?
「おぉぉぅい!? どんだけ天井知らずなんだよお前さん!」
は、は。
おい、お前本当に馬鹿じゃねぇのかよぅ。
さっきまでの速さだって目で追うのがやっと、勘で捌いてたってぇのに、偶然『開いた指先』が掠った途端にまた上がりやがった。
しかも感じるのは、さっきまでの妖力を使った身体強化だけじゃなく、そこに新たに加わった魔法の気配。
……あいつの家のやつらが教え込んだのかね、魔法。
前にあいつの付けてるスカーフが妖力を魔力に変換して動作するってのは聞いた事があるし、そっから魔力を捻りだしてんのか?
どちらにせよ、鬼に金棒、スコールに加速魔法。
馬鹿じゃねぇの、本当に。
てか、そんな狂ったような頭でも……逃げる事に直結するものだけは異様に器用だね、お前さん。
「とは言え……速けりゃいいってもんじゃないさ!」
速ければ速い程、避けるのは難しい。
そして、速ければ速い程、何かにぶつかった時のダメージは言わずもがな。
なら、前にくれてやった岩弾、今は避けられるかねぇ?
砂埃だって立つんだ。
そうさな、まずはその厄介な速さを支える目からとってやろうじゃないか。
一つ一つ削いでいって、地べたに叩き伏せてやらぁ!!
「っ!?」
遅い、遅いですよぉ?
止まって見えますよ、そんな動き!
岩弾なんて怖い物、もう放たせてなんてやるもんですか!
「はは、はははははは!! お前どれだけ私を喜ばせれば気が済むんだよ!!」
再び地面を叩き割ろうと振り上げた足が、落ちる前。
ただそれだけの間に、私は無様に地面へ叩き伏せられた。
しかも、その叩き伏せた勢いのまま首を狙いにくるおまけ付き。
かろうじて潜りこませる事ができた両腕に掛かる大顎門の圧力を跳ね除けようとした瞬間、するりとそれは消えて無くなった。
まさしく化かされたような気分で反射的に辺りを目で伺えば、遥か先には一足で飛びのいたらしく、しなやかに地に降り立とうとしているスコールの姿。
そんな姿を視界に収めながら、刹那の間に取り残された私の手が虚しく空を掻いて伸びきる。
この無様な私の姿をひたすらに凝視する、獲物へ向ける殺意に血走った金色の目が酷く綺麗に輝いて見えて……文字通り、目を奪われた。
まるで話に聞く走馬灯のように、ゆっくりと私の中へ染み渡っていくその瞳は、その色は、その姿は……あいつの速さの源となる地へと、吸い込まれるように消えていく。
地を噛もうとしていた爪の先から、その速さを生み出す足、驚きに取って代わられた瞳、その全てが地へと消えていった。
おい。
「おいこら紫ぃ!! てめぇ何してくれてるんだよ!? あいつを返せ!!! 返せよぉ!!!!」
「ちょっと、何でそんな本気で怒るのよぉ!?」
何で? 何でだと?
てめぇ何しらばっくれてんだよぅ?
折角いい所だったってぇのに、水をさすどころか大穴を空けてくれやがって!!
狙っただろう? なぁおい、狙っただろうがてめぇ!?
大親友だろうが絶対に許さねぇ、鬼から奪うって事が何を意味するか、その身に刻み込んでやる!!!
「やぁ……そりゃあんだけ盛り上がってる所にあの終わり方はないですよ、紫様……。せめて何かしらの感動路線ならまだ救いがあったのに」
「えっ……あ!! …………やめて! 私の(ちょっとしたお茶目の)ために争わないで!!」
あぁん?
あぁぁん?
私のぉ、ためにぃ?
ふざけんな。
もうスコールは居ない。
私が愛した好敵手(スコール)は、もう居ない。
何故だ。
こいつだ! こいつが!! こいつが奪ったんだ!!!
ふざけんなふざけんなふざけんなてめぇふざけてんじゃねぇぞこの紫ババァが!!!
「だぁぁぁまぁぁぁぁれぇぇぇぇぇ!!!」
「何でぇ!?」
「避けてんじゃねぇ! とっとと当たって汚ねぇ花火になれ!!」
「嫌に決まってるじゃないそんなのぉ!!」
知ったことか。
涙目になんぞなってんじゃねぇ!
気色悪いんだよ!!
あぁくそ腹立つ!!!
「その媚びた感じの語尾やめません? 歳考えてください」
「藍、貴女ねっ……ねぇちょっと萃香さん?」
「……何かな紫君?」
おいおい紫君、後ろがお留守ですよ。
つーかまーえたー。
そう、もうスコールは居ないんだ。
あの厄介な、私の能力すらも縛った軽さは、あの愛おしい軽さはもう無い。
つまりだよ、紫君。
数体、分体を出した所で痛くも痒くも無い。
後ろから羽交い絞め、前からベアハッグならぬオーガハッグ。
そうだ、背骨を狙おう。
そろそろ曲がってきそうだから矯正してやるんだ。
あぁ、そのうち回らなくなりそうな首もついでに治してやろうかな?
私ってば何て大親友思いなんだろう。
そう、思い知れ、紫!
「ねぇ、首を鷲掴みにするの、やめない? 締まってる締まってる色々締まってるのぉ!?」
「ちーん。最期に緩んでた部分を締め上げてくれる大親友がいらっしゃるなんて幸せですね? ……いい主でした!!」
「貴女は貴女でいつまで油揚げの事を根に持ってるのよ!?」
「黙れ。なぁ紫、素直に渡すか、それとも奪われるか、選べ」
「な、何を、と聞いてもいいかしら?」
「スコールと、首」
何を今更。
私から奪ったんだ。
ならお前がするべき事はわかってるだろう?
でもなぁ、素直に返されただけじゃあもう駄目だ。
……そう、駄目だよなぁ。
だからな?
なぁ、置いてけ。
置いてけよぅ?
てめぇの首と、スコール、どちらも。
「私、喧嘩友達以下なの!?」
「少なくとも今はな。よくもやってくれやがったよ、お前。首の一つや二つで許してやろうってんだ、優しいと思うだろう?」
「私の首は藍の尻尾みたいにぽんぽん増えないわよ!」
「増えなくても生えそうじゃないか、お前さん。いいよもう、お前が相手になれよぅ。……正面切っての殴り合い以外は認めないけどな」
「死ねって言ってるようなものじゃない!?」
ぬるりと締め上げていた部分が消えて、そこから覗くのはいつもの気色悪い隙間の瞳。
ちくしょう、さっさとへし折るべきだった!!
ほっとした表情なんぞ浮かべんな!
くそう、くそう!!
「てめぇ逃げんじゃねぇ!!!」
「偉い人は言いました。三十六計逃げるに如かず!」
揺れていた隙間が広がってするりと全身が消え、残されたのは『うふふふふふ』なんて腸が煮えくりかえる笑い声。
……これだけの事をしてくれたんだ。今度、心を込めてお礼をしてやろう。
潰してやる。
大事なお家を平屋から平面に大変身だ。
喜べ。
それが喜べないって言うなら、あいつの体型を変えてやろう。
物理的に、縦方向へ伸ばしてやる。
平面でな。
「……おい、藍」
不完全燃焼を持て余して、とりあえず隣に寄ってきて肩を叩いて慰めてくれる藍を誘ってみる。
やらないか。
やろうぜ、おい。
やりたいだろう、なぁ!
お前だってそうだろう、なぁ!?
「やりませんよ、私は。そもそも私は術寄りの万能型ですから、今貴女が望んでいる『鬼と真正面から殴り合い』なんてできるわけないでしょう」
ふられた。
しかも、言っている事はもっとも。
ちくしょう。
「…………」
「……心中、お察しします」
「ふっざけんなあああああああああ!!!!!」
「ちょっと、私の庭が、家がぁ!?」
「全力の地団駄で深々と地割れって……流石は鬼、と言うべきやら……それともまた鬼か、と言うべきやら……」
「やめてよぉ!? とめてよぅ!? ねぇ、らぁん!!」
「はっはっはーアリスー幼児退行してるぞー」
「うがあああああああ!!!」
「……何、この有様?」
「斜め上の結果に激怒した鬼と、完膚なきまでに被害者な人形使い」
「何よ、それ」
「つまり、私の主が全部悪い。幽香さん、今度会ったらちょっとお灸を据えて貰えませんか」
「……紫の尻拭いなんて馬鹿らしい真似は御免ね。大事には至ってないようだし、帰って寝るわ」
「ちくしょぉう……紫めぇ……」
「わたしのおうち、おうちがぁ……」
魔理沙?
闘争勃発直後に逃げたよ。