いつも通りの宴会へなだれ込んで、そこへ何故か黒幕さんを引き連れたヤクモさん一家が合流。
相変わらずの混沌っぷりが凄いですねぇ。
……そんな中の一角に、宴会とは思えないくらいにガチガチになったアヤさんを囲む会があるのがまた……。
スイカさんがあぁ言ったというのに、やっぱり緊張は抜けませんか。
諦めて開き直ればいいのに。
まぁ、それよりも何よりも、今はもっと大事な事があるんですよ。
そう、今回は今までひっそりと狙っていた野望を達成できたわけで!
…………ランさんにお願いして、頭だけランさんのご立派な尻尾に乗せさせて貰ってるわけですが……うむ、良きかな良きかな。
さらさらもふもふとした中に、しなやかな芯があるかのような張りのある尻尾。
そしてほのかに鼻をくすぐる油揚げとお稲荷さんの香り。
ランさんらしさが詰まった良い尻尾です。
いやぁ、一度やってみたかったんですよねぇ、これ。
んふふぅ~もふぅ~ぅ!
「スコールよぅ、飲んでるかぁ!」
極楽である! 何て考えながら樽酒をあおった瞬間に天頂方向から私の頭へ垂直に着弾したスイカさん。
結構な勢いで突っ込まれたせいで、私の鼻先がまるっとお酒の中に入ってしまう始末。
思わず噴出してしまいました。
おのれ、スイカさんめ……大事なお酒に何という事を!
私のお腹がびしょぬれになっちゃったじゃないですかっ!?
「ふへへ……油断してる方が悪いのさぁ!」
……何です? 嫌に上機嫌じゃないですか。
何を企んでるんです?
「お、わかるかい? わかっちゃうのかい?」
顔はきらきら瞳はにやにや。
うわぁ……これ絶対妙な事考えてる顔です。
こっちに被害が出るような事はやめてくださいよ?
スイカさんだと、ちょっと力加減間違えただけで惨事になりかねないんですから。
「なぁに、少しばかり脅かしてやるだけさぁ。……うん。折角の宴会だってのに妙な緊張感を出しやがって……あの烏天狗め……」
ちらりとスイカさんが視線を投げた先には、まるで直線を繋げたかのような見事な正座を見せるアヤさんの姿。
スイカさんの視線に気づいたようで、それでなくとも青かった顔色が更にまずい事に。
……アヤさんご愁傷様です。
もし生き残れたら強く生きてください。
「おい、そんな取って食うみたいな言い方はやめろよぅ……ちょっと、そう、お話してくるだけだって!」
お話に使う言葉は肉体言語だ~とか言うんでしょう?
駄目ですよ、アヤさんそこまで頑丈な方じゃないんですから。
「だが断る! おぅ、付き合えよぅ」
ぎっこんばったんと、私の頬の毛を掴んで頭を揺らし始めるスイカさん。
でもですね、今はそれよりも、あれです。
……私、もう少しばかりランさんの尻尾を堪能していたいんですけど。
「や、そろそろ動いてもらえると助かるんだけど……橙が潰れたみたいだし」
おぅ、それなら仕方ありませんねぇ。
他ならぬこの御尻尾の持ち主様から言われてしまっては断る事なんてできません。
でも潰れるって……あぁ……チェンさんのお相手、フランさんでしたか。
……なら尚更仕方がありませんね!
「いつもはあんな潰れ方をするような飲み方はしないんだけどなぁ……あ、ちょっとまずいかも……」
お口を押さえてぷるぷる。
……もしお手洗いに連れて行くなら部屋を出てから左へ二回曲がった所のやつがいいですよ?
広いし、いざとなればすぐ近くに浴場もありますし。
「……色々と察してくれたようで助かる。すまんな」
お気になさらず!
そもそもフランさんがお相手していたわけですからねぇ……。
甘いわりに度数の馬鹿高いお酒が大好物ですもの、フランさんったら。
相手がお酒に強い方でもない限りはああもなりますよ。
……ちなみに浴場には乾燥用の魔法陣もありますから、洗い物もおっけーですよ?
使い方は陣に触れて魔力か妖力を流し込むだけの簡単操作ですから、必要とあらばどうぞ。
元々は私の毛並みを乾かすためのものですから、大きさや強さも結構な容量ですし。
「………重ね重ね、すまん。では、失礼させて貰うよ」
そそくさとぐったりとしたチェンさんを回収して部屋を後にするランさん。
そしてそれは同時に、私が極上の枕を無くしてしまって、先のスイカさんからのお誘いを断る理由が無くなってしまった事に繋がるわけですよ。
「いひひ……これで断る理由はないだろう?」
その通りでございます。
能力を使ったのか、いつの間にかさらっさらに乾いていたお腹の上でごろごろと毛並みを楽しみながら勝ち誇るスイカさん。
うぬぅ……可愛らしい。
というか、何でそんな私を連れて行きたがるんです?
まさか心細いなんて事は無いでしょうし……
「……や、ほら、アレだ……」
……視線の先……?
アヤさん……じゃないですね、その傍に居るモミジさんとその同僚さん?
「モフりたい。あの烏天狗ぶっとばしてから狼っこ全員まとめてモフりたい」
納得しました。
行きましょう。
「そう言ってくれると思ってたさ、友よ!」
えぇ、当然じゃないですか、友よ!!
そうと決まれば話は早いですね。
私がすらいでぃんぐ『伏せ』でアヤさんだけ弾いて、残った二人をまとめて包んでしまいますので……。
「なら……私はタイミングを見計らって、その中へ滑り込む。……銀狼屋、お主も悪よのぅ……」
いえいえイブキ様程では……!
「じゃあ……行くかね」
ええ、しっかりとつかまっていて下さいね……。
「おぅ……!」
いざ!
「いざ!!」
おさらばです、アヤさん!!!
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……何が、起こったのでしょう。
もそもそとスコールさんのお腹へ抱きついた伊吹様が、おもむろに物凄いとしか言い表しようのない眼光で文様を睨んだ瞬間……文様、伊吹様、スコールさんのお三方が視界から消えました。
文字通り、消えて、後ろからは凄まじい破砕音。
そしてその後に来たのは、思いもよらない浮遊感とさらさらした毛並みの感触…………スコールさんですよね、これ。
…………何が……一体、何が?
「おう、お前さん達も中々いい毛並みをしてるじゃないかぁ」
どうしたものかと悩んだ途端、毛並みの中から伸びてきて、私の頭をぐりぐりと荒々しく撫でてくる小さな手。
……というか、この声。
先の状況から考えても……考えられるのはお一人しか居ませんよね。
「な、何!? 何ぞぉ!?」
すぐ横からは同僚の混乱にまみれた声が。
……私の方はスコールさん耐性が少しばかりあったのが、幸いしましたね。
そうでなかったらあの子と同じく、ひたすらに慌てるばかりだったに違いありませんもの。
まぁ、私より混乱してるあの子のおかげで落ち着けたというのも多分にありますけど。
自分より混乱してる人を見ると、不思議と落ち着いてきますよねぇ。
ふむ、と妙な納得をして一つ頷くと同時に、頭から腰へと周された手がぐいっと私を引き寄せた先にいらっしゃったのは、予想通りの伊吹様。
「よぅ、白狼。お前さんら、名前は何てぇんだい?」
「申し遅れました。犬走の椛と申します。……本来であればこちらからご挨拶に伺うところ、ご足労頂き……」
「あぁ、そういうのはいいよ。それより……随分とあっさり順応したねぇ、お前さんは。お仲間は未だに混乱したままだってのに」
「いえ、伊吹様のお話は伺っておりましたが……まだ何かをされたわけでも無く、何かをされそうなわけでもありませんので……」
ええ、ええ。
流石、モミジさんったらわかっていらっしゃる。
ユウカさんやユカリさん、ランさんを見てもわかるでしょう。
私もここに来てから学んだ事ですからあまり威張れたことじゃありませんけど、お強い方々ほど紳士的……もとい淑女的なんですよねぇ。
スイカさんも淑女と言うにはちょっとアレですけど、十分にお優しくて筋の通った方ですよ?
「あ、やっぱりですか。嫌な気配がしませんでしたから、そう心配はしていなかったんですけど……スコールさんのお墨付きなら尚更ですね」
「…………」
おや、どうしましたスイカさんったら。
そんな鬼が炒った豆鉄砲を食らったような顔して……。
「……いや、まぁ、その……何だ。あっさりと受け入れるにも程があるだろう?」
「ぅ……こ、怖がった方が良かったですか!?」
「いや、その質問からしておかしいって気づけよぅ、娘っこ……椛だったか」
何でこう、妙な所で慌て出すんでしょうねぇ、椛さんったら。
どれだけ私を和ませれば気が済むんですかっ!?
「お前さんも妙な所で和ませるくせに、何他人事みたいに言ってるんだか……」
……そんな馬鹿な。
私は私のやりたようにやってるだけですぅ。
椛さん程、狙ったみたいなたいみんぐで和ませたりしませぇん。
「あ、あざとい子みたいな言い方しないで下さい!」
……あざとい子っていうのは、あそこでニヤニヤしながらユウカさんと一緒になってアリスさんをいじってる小悪魔さんみたいな方を言うんです。
凄いですよ……?
中の人が何人居るんですかっていうくらいにコロコロと人が変わりますから。
その中でも誰かに甘える時の小悪魔さんは……その、凄いですもの。
「それ程……ですか?」
ええ、女子力あっぷのための十か条とか、そういった外の本に書いてあるような『女の子の仕草』をぐつぐつ煮込んで濃縮したような……!
「……うわぁ」
「お前さん、やけに真に迫ったような言い方をしてるけど……その言い方だと、してやられた事があるって言ってるようなもんだよ?」
て、てへっ。
だってそうだってわかってても可愛らしいんですもの!!
仕方ないじゃないですか!?
あの見た目で無邪気な笑みを向けられてごらんなさい!
「……あー……確かに整ってはいるなぁ」
さきゅばす……とかいう、悪魔の中でもとりわけ美人さんの多い種族らしいですからねぇ。
男を惑わして精を吸うのがお仕事らしいので、そういった方が多いのは納得ですけど。
「お前さん、そのうち妙な輩に引っかかって騙されそうで怖いねぇ」
「や、そこは心配ないと思いますけれど……」
「ほう、その心は?」
「…………仮にスコールさんを騙したとして、その後が……その、ここにいらっしゃる方々の怒りを買うわけじゃないですか」
「納得した」
も、持つべきものは頼りになる素敵な友人ですねっ!
「騙されるのが前提かい」
「だってスコールさんですし」
椛さんまで酷い!?
「えっ……な、何か間違ってましたか?」
…………スイカさん、人生って無情なものですね。
「お前さんの場合は狼生になるんじゃないかい? ……おら、さっさと諦めて認めろよぅ」
毛並みを引っ張るのはやめましょう?
スイカさんの力で引っ張られたら抜けちゃいますよ!?
もう部分ハゲはいぃーやぁー!!!
「……あれ?」
「ぉん?」
……椛さんったら、突然どうしました?
「いえ……伊吹様、少し失礼しますね?」
「お、おぅ?」
……も、もそもそと毛並みの中を泳がれるとくすぐったいんですけど!
「……………あぁ、やっぱり」
「……あぁ」
な、何ですかお二方?
「嫌に静かだと思ったら、やっぱり気絶してしまってますねぇ……」
「肝っ玉が小さいねぇ、こっちは」
椛さんが確認して、スイカさんが引っこ抜いたそれは、椛さんの同僚さん。
でろーん、なんて表現が一番似合いますかね、これだと……。
泣き笑いみたいな顔で固まって気絶するなんて、器用な事しますねぇ。
「……とりあえず捨てとくか」
「えっ」
えっ!?
「なぁに、元々酔い潰したらそこらに転がしておくつもりだったんだ。気絶したやつも同じでかまわないだろう?」
「……た、確かに?」
椛さん、騙されちゃあいけません!
スイカさんったらにやけてるんですよ!?
絶対何か企んでます!
「ぽいっとなぁ!」
「あ、あぁ!?」
ほぁぁ!?
げふぉぅ!?
「的中。流石私、いい腕してるだろぅ?」
「文様ぁぁぁぁ!?」
うわぁ……鳩尾にもろでしたよ今の……って白目向いていらっしゃる!?
アヤさぁん!! アヤサァァン!?
「……まぁ大丈夫だろ、天狗だし」
「伊吹様の基準がわかりませんよぅ……」
「死ぬわけでも腕や足を落っことすわけでもないんだ。なら何も問題はないじゃないか」
「…………確かに?」
椛さん、そっちの世界はだめです!!
帰っておいでなさい!
「いひひっ! スコールよ、この娘子を返して欲しくば我を打倒するのだっ」
……か、かけっこでなら!?
「ゴール地点に私を配置しておこうか? ……そうじゃないだろう? なぁ、おい」
…………はっ!?
飲み比べでどうですか!
「わかってるじゃないかぁ……おぅ、樽持ってこようじゃないか。飲むぞぉ!」
いぇーい!
「い、いぇーい!」
「……いや、強引に流れを変えた私が言うのもなんだけどさぁ……お前さん、また妙な所で和ませんなよぅ」
「ぅえっ!?」
何ですか今の物凄い可愛らしいがっつぽーず。
わたわたしながらきゅっと拳を握り締めるとか、狙ってらっしゃいますかっ!?
もうっ!もうっ!!
「お前さんも妙な所で漲ってんじゃないよ!? ってこんな所で無駄に馬鹿力発揮するな!」
「ぅゎぷっ!?」
かーわいいなぁー!
サクヤさぁぁぁぁん!! アヤさんが落っことしたカメラを! お写真を!!!
「任せなさい!」
「お前もか、メイドォ!」
「これが人の業というものですわ」
「そんなのが業でいいのか、おい。うっすい胸張ってまぁ……」
「スコール、やっておしまいなさい」
い、いぇすまぁむ!?
ナイフ、ナイフはしまいましょう!
構えるのはカメラ、カメラですよぉ!?
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満足の行くまで写真が撮れたからか、機嫌を上方修正した咲夜さんからお許しの出た、樽酒一気飲み対決の補助みたいな居場所になってしまってから、しばらく。
見かねてお手伝いを買って出てくれたフランさんと一緒に樽酒を運んでは渡し、運んでは渡しを繰り返していたらいつの間にか伊吹様に捕まって……えーと?
……あぁ、流し込まれたんでしたね、お酒。
思い出してきました。
咲夜さんから『お着替えはありますよ? ……ご心配、無く』なんて心配しかできない後押しもあって、伊吹様が乗ってしまったんですよねぇ。
そこまでお酒に強くない私ですから、そこであっさりと意識を手放してしまって……うん。
色んな意味で頑張るべきでした。
あそこで踏みとどまっていれば……そう、踏みとどまれてさえいれば……!
「良くお似合いですわ、椛さんったらっ……! アリス、相変わらずいい仕事をするわね!」
「そぉんなに褒めないでよ咲夜ぁ……うふふふふぅ……アリスちゃん3分裁縫の自信作よ!」
やーはー! 何て不思議な掛け声と共に抱き合うお二人。
お二人ともお顔が真っ赤ですし、相当に酔っ払ってらっしゃいますね?
外が白んで来ているような時間……夜通し飲んでらっしゃる方が多すぎてアレですが、その中のお二人と。
どんな飲み方をしたんですか一体。
「白! 真っ白い子と合わせるべき鉄板は黒!! でもね、今回はあえて白に白を合わせて清楚さをアッピィール!!」
「いっえーい!」
「アクセントはスコールから毟った毛皮で作ったファーアクセサリーよ! もっふもふよもっふもふぅ! ジャスティスよ!?」
怖い。
何ここ怖い。
二人とも普段の姿とはかけ離れた異様な勢いのまま、腕を組んだ状態ですたーんすたーんと華麗なステップで私の周りをぐーるぐる。
怖い。
というか、毟ったって。
スコールさん、まさか部分ハゲに……?
「………ねぇ咲夜ぁ、椛ったら起きたみたいよぉ?」
「あら本当だわ。おはよう御座います、椛様。昨夜は少々飲みすぎたご様子でしたが……お加減は如何ですか?」
真っ赤な顔でゆらゆら揺れながらも、言葉だけはしっかりとした様子の昨夜さん。
怖い。
………怖い!!
「昨夜は咲夜も飲みすぎてたのに、人の事言えないでしょぉ?」
「さくやは少しばかり羽目を外しすぎてしまいましたわぁ!」
咲夜さんが言ったのは昨夜なのか咲夜なのか。
どっちにしろ駄目です、ここにいちゃ駄目です!!
に、逃げ……逃げなきゃ……ぁっ!?
「どこへいこうというのだねぇ? うふふふふへぇ」
「アリスったら悪代官プレイでもする気なの? そんなにぐるぐる巻きにしちゃってぇ」
い、糸!?
いつの間にこんな巻かれて……て……糸の端が、アリスさんの指に?
……人形繰りに使う糸ですかこれ!?
前の宴会の時に、これ一本で素の体重のスコールさんを釣り上げておつりがくるって言ってましたよね、確か。
それをこんなに巻かれたって事は……逃げられませんね……これ……ぅ?
どうしたものかと見上げた先に居たアリスさんが唐突に止まったかと思いきや、倒れこんで動けない私の前にぺたりと座り込んで、じっと私の姿を観察。
無表情でじーっと、その整ったお顔で見つめられるとひたすらに怖いのですがっ!
……い、嫌な予感!
「も~みぃ~ちゃぁん……遊びましょぉ?」
這ってでも逃げようと決意した瞬間、観察されていた時の背筋が凍るような無表情から、一転。
ぱかっと三日月のように釣り上がった口角から漏れ出すのは途切れる事の無いうふふあははという妙な低い笑い声。
怖い! 怖いですよぅ!?
「はいストップ」
声を出す事すら忘れて、ひたすらに怯えていた私を救ったのは、そんなあっさりとした一言でした。
こきゃ、という妙に軽い音と共に、私の顔のすぐ横に沈んだアリスさん。
って、笑い顔のまま気絶していらっしゃる!?
く、首も妙な方向に曲がってますし、不気味にも程がありますよぉ!!!
「大丈夫、大丈夫だからね」
!?
「……また面倒な糸を使ったわね、この子ったら。切るのが大変じゃないの」
「…………ゆ、幽香さん?」
「大変だったわね、椛。すぐに助けてあげるから、少しだけ我慢してね?」
め、女神様です。
女神様がいらっしゃいます!
……女神様が糸を引きちぎるために力を込めたらしい手が、めきりと恐ろしい音を立てたのは気のせいですね、きっと。
ぶちぶちと凄い音が背中の辺りから響いてくるのもきっと気のせいです!
「……よし、切れた。どこか打ったりとかはしてない?」
「え……と……はい、大丈夫ですっ」
「ん。よしよし、怖かったわねぇ」
脇に手を添えて、そっと立たせてくれた上で、頭を撫で撫で。
こ、子供扱いです!?
って幽香さんもよく見たら頬が赤いままじゃないですか!
さめてるのかと思いきや、絶賛酔っ払い中です!
ぁ、ぁあああ耳、耳は駄目です、尻尾も駄目ぇ!?
「怖いの怖いの、飛んでいけー」
怖いのは飛んでいきましたけど、代わりに恥ずかしいのが飛来してきたわけですが!
何でこんなに撫でるのが上手いんですか幽香さん!?
ってうわ、お、お姫様だっこ?
すたすたと軽やかに進んで行く先にあるのは……頭にスイカさんを抱きつかせたままぐでーっと伸びているスコールさん……?
また凄い体勢で寝ていらっしゃる。
もふもふの海ができてますよ!?
「……んー……いい……枕……」
…………あれ?
え、私抱き枕ですか?
スコールさんのお腹で一眠りですか、幽香さん?
………………どんな力で腕を固定していらっしゃるのか、外そうとしても微動だにしないわけですが。
ん……ん~……?
まぁいいですかね。
幽香さんと一緒なら、またさっきみたいな被害も出ないでしょうし。
もう一眠りといきましょう。
…………あぁ、スコールさんの毛並み、結構なお酒の匂いが染み付いちゃってますよぅ。
どれだけ飲んだんでしょうねぇ。
こわや、こわや。
「…………何て惨状だ」
「ら、らんさまぁ……?」
「………………」
「えっと……」
「橙、もう一度寝なおそうか! ほら、あのふかふかベッド、気持ちよかっただろう?」
「え、え?」
「やぁ、楽しみだなぁ! 二度寝なんて贅沢だよなぁ!」
戦略的撤退。
橙の介抱ついでに貸してもらった部屋から戻ってみれば、まさかの大惨状。
教育に悪い。
そう、スッパで倒れ込んでいる我らが主とか、特に教育に悪いからな!