まいごのまいごのおおかみさん   作:Aデュオ

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26話 Aya

 

 

 

 ……あぁ、ノリと勢いだけで出てきたのはいいけど、やりすぎたのが良くわかるわ。

 遠くではどっかんどっかん空に向かって馬鹿げた弾幕……というより砲撃が飛んで行くわ、目の前にはコイツ馬鹿ジャネーノって言いたくなるような文字通りのバ火力を出す白髪はいるわ。

 挙句の果てにはさっき狙い済ましたかのように私の目の前を紅い槍が横切って行くわ。

 いや、反射的に魔法で強化した目で追いかけてようやく槍だってわかったんだけどね?

 私達の現在地付近が障害物の殆どない開けた場所だったって言っても、文字通り直線よ直線。

 重力とか空気抵抗とかに喧嘩を売るような投槍なんて見たくなかったわ。

 おまけについてきた風圧でスカートが盛大に舞い上がって、霊夢と妹紅は『お色気担当?』なんてからかってくるし。

 うん、ドロワともんぺに比べればそうだろうとは思うけど、納得がいかないわ。

 本当に、どうしてこうなったのやら。

 

「どうしたどうしたぁ!? 黒幕なんて啖呵を切ったんだ、まだまだ手札はあるんだろう? 出せよ、なぁ? さぁ出せすぐ出せハリーハリーハリー!」

「後がつかえてるのよ。落ちるなら落ちる、消えるなら消える、溶けるなら溶けるでさっさとしてくれない?」

 

 ……うん、短い現実逃避だったわ。

『黒幕ぅ~!』なんて叫んで姿を現したあの冬妖怪と氷妖精の行いが愚かだったのはまぁ間違いないけれど、それでもねぇ?

 冬が長引いてテンションが上がっていたのか、敵対戦力の把握がおざなりすぎたわね。

 ついでに、よりにもよって三組ある内のここと当たるなんて。

 これ傍から見てると、一体どっちが悪党なんだか分からなくなる事うけあいだわ。

 敵対すると見るや否や、妹紅が背中に炎の羽を生やしてカっ飛んで行くわ、霊夢は霊夢で袖口からばらばらと、文字通りばらばらと、どこから出したって量の札をばら撒いて結界を張るわ。

 その先にあったのは、妹紅の炎に巻かれて一瞬で蒸発した氷の妖精と、黒焦げになった冬妖怪。

 ……冬でよかったわね、生きてるわよまだ。

 さぁ治療治療。

 

「出来心……だったのよぅ……違うのよぅ……」

「わかってる、わかってるわ。もう終わりだから安心していいのよ」

「違うのぉ……!」

 

 近づいて魔法による治療を始める私を見て『こいつら私を治療してまた痛めつけるつもり……!?』なんて視線をよこして来るのはやめて。

 ……いや、気持ちはわかるけどね?

 まだか?まだか?なんて気配を隠そうともしない妹紅と、結界を維持したまま欠伸をしてる霊夢が後ろに控えてるんだものね。

 うん、心の底から可哀そうになってきた。

 

「妹紅もそんなに脅すのやめてあげなさいよ。どう見ても黒幕じゃないでしょ」

「あんなに堂々と喧嘩を売られたんだ。叩いて叩いて徹底的に叩き潰して、牙をへし折ってやるのが礼儀だろう?」

「なにそれこわい」

 

『おかしな事を言うなぁコイツ』みたいな反応はやめてよ。

 いや、本当にやめてよ。

 思わず素で返しちゃったじゃない。

 よりにもよってそんな殺伐としたスタンスをさも当然のように言う?

 スコール、こんな思考回路の相手に喧嘩を売り続けて今までよく無事だったわね。

 ……能力を使ってノリと勢いで済ませてたのかしら?

 うん、ある意味大物だわ。

 これっぽっちも見習いたくないけど。

 

「違う、違うんで……ひぃぁ!?」

「アリス、まだかい?」

「燃やさせるために治してるんじゃないんだから、いい加減火力を上げるのはやめて頂戴。ここら一帯、貴女のせいで蒸し暑くて仕方がないわ」

「えー……」

 

 聞き入れて素直に火力を落としてくれたのはありがたいけど、その『やっぱり、やっていいんじゃないか? なぁ?』って視線もどうにかするべきだわ。

 ……冬妖怪の……名前なんだったかしら?

 稗田とかいう子が書いてる本に載ってるのまでは覚えてるんだけど、流し読みしただけだからなぁ。

 うん…………冬子さん(仮)としておきましょう。

 何にせよ顔色がまずい領域に達してるわ。

 黒く煤けて分かりづらいけど、焦げる前の真っ白な肌を思い返して……うんやっぱりまずいわ。

 血の気がまったく感じられないもの。

 まるで幽香に睨まれた木っ端妖怪みたいだわ。

 うん、だから後ろのもこたん、そわそわしないで。

 炎でジャグリングするな!

 しかも何で炎の温度を上げるのよ!?

 赤から白に近づいてるじゃない!

 

「なぁ、やっぱり……」

「だ・ま・り・な・さ・い。おーけぃ?」

「……へいへい、わかったよ、見逃せばいいんだろ?」

「よろしい」

 

 ようやくヤル気が削げたのか、手の平大の炎を握りつぶして不完全燃焼だーなんてぶつぶつ文句を呟く特攻狂。

 怖いわ。

 もうすぐ最低限の治療も終わるし、冬子さん(仮)には早い所逃げてもらいましょう。

 って何よ冬子さん(仮)、袖を引っ張らないで……よ?

 

「あ、あり、ありがとう……!」

「お気になさらず……?」

 

 何そのぐっとくる表情と声色。

 涙目で、縋り付くように言われたら、その……うん。

 私まで咲夜化しそうで怖いわ。

 でもやらかしたのはこっちだから、違う意味で気にしないでくれると助かるんだけどね。

 私まで戦闘狂みたいに思われるのは嫌だもの。

 

「あら、アリスったら私たちをダシにして冬妖怪を落としたわよ?」

「これが狙いか、人形使いめ……里の男衆に全くなびかなかったのはそういう趣味かね?」

「ちょ」

 

 袖を引く手を優しく撫でて、精一杯の微笑みを浮かべながら治療をしていた私に延焼。

 ここで矛先が私に向く!?

 ……あぁこれ駄目な雰囲気だわ。

 二人ともひたすらニヤニヤしながらこっちを見てるし……って冬子さん(仮)、貴女もまんざらじゃない顔をしないで下さる!?

 血の気が戻ってきたのはいいけど、頬を赤らめるのは戻りすぎじゃないかしらね!

 

「お熱いねぇ、おい」

「アリスも見た目だけなら女も羨む美貌だからね……見た目だけは」

「中身は?」

「微妙」

「そのスコールみたいな評価はやめてよ!?」

 

 言うに事欠いて、人の性格を『微妙』って。

 ぐーたら巫女にバ火力焼き鳥に言われたくないわ!!

 

「っと、回復魔法はこのくらいにしておきましょうか。あまり魔法で回復させすぎるのは体に悪いもの」

「……魔法って凄いのねぇ。あの大火傷からこの短時間でここまで回復させるんだもの」

「なりふり構わなければ更に早く強くかける事はできるけど……うん、やったら地獄よ?」

「ぐ、具体的には?」

「全身に激痛、魂は疲弊、場合によっては頭も逝っちゃうわね」

「マホウコワイ」

 

 冬子さん(仮)、何で片言風なのよ。

 しかもそんな事を言いながらも手は離さないって、この数分だけでどれだけ懐かれたのよ一体。

 って、懐くなんて言い方は失礼よね、犬や猫じゃないんだし。

 えーと……し、慕われる?

 だめ、これはまずいわ。

 

「ちょっと、アリスまで頬を染め始めたわよ?」

「……おいおいおい、まさか本当にそういう趣味だったのか?」

「何だかんだで一番仲がいいのは幽香のはずだし、アリスの周りで男を見た覚えはないわ」

「言い寄られてもすげなく断ってるのはよく見るぞ」

「あら大人気。よかったわねくーるびゅーてぃーさん?」

「素を知った後だと、物凄く勘違いされてる評価だよなぁそれ」

「さっさと諦めればいいのにね」

 

 こやつらいまにおぼえていろ。

 霊夢には差し入れを中断、妹紅には慧音に色々ふきこんで説教と頭突きをお見舞いして貰おう。

 

「っていう冗談よ?」

「……おい、どうしたいきなり」

「あら、妹紅は本気で言ってたの? このアリスに限ってそんな浮ついた事はないわよ」

「流れが読めん。え、何? 何かあるのか?」

「さて、ね?」

 

 こ・や・つ・め!

 私の気配を察したのか。

 察するならもっと早くに察しなさいよ。

 もう遅いわ!

 

「霊夢さん、妹紅さん?」

「何?」

「お、おう?」

「丑三つ時に心臓がキリキリ痛むかもしれないけど、気にしないでね?」

 

 一時期東洋の呪術に手を出していたパチュリーの協力の下、少し前に試作型ができた呪いの魔法。

 ハイブリッドだからレジストしにくいんじゃないかなーなんて期待しながら作ったはいいものの、冷静に考えると試せる相手が居なかったからねぇ。

 その点、妹紅はうってつけね!

 死んでも死なないもの。

 霊夢は何故か効く気がしないからやっぱり差し入れ抜きでいこう。

 

「あはははは!」

「うわぁ……碌な事にならない予感しかしないわ」

「敵は身内にあり。いっそ今落として放置してく?」

「外道か」

「目的のためには手段を選ばない主義なの」

 

 ……冬子さん(仮)、二人で、一緒に、仕返し……しましょうねぇ?

 

「ひっ!?」

 

 何で怯えるの。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 さて、さてさてさて。

 

「行けども行けども雪雪雪。緑のポン刀少女は何処に有りやー?」

「早々に出てきて欲しいものですわー」

「もう見つけたら即座に砲撃して仕舞いにしてあげようかしら……!」

「これは酷い」

 

 探せど探せど尋ね人には至らず。

 何処何処と呟き彷徨い、導火線は既に無し。

 

「最後のはどういう意味か聞かせてもらえるかしら?」

「あやや、気のせいですよ気のせい」

「とぼける気ゼロでとぼけないで頂戴」

「善処しましょう!」

 

 ただし確約はしません。

 いやぁ、しっかし参りましたねぇ。

 こんな事なら三組ではなく二組で行動するべきだったのかもしれません。

 一方には鼻の利く快速狼、もう一方には未来が見えてるんじゃないかってくらいに勘の鋭い巫女がいるわけで。

 そういった何かしらの捜索基点がない私たちの組はひたすら足で稼ぐしかないのですけど……うん。

 私はまだしも、能力抜きだと速度はそれほどでもない咲夜さんと、本人が鈍足と公言する幽香さんです。

 まぁ幽香さんの『鈍足』は彼女から見た同格の妖怪達と比べてであって、そこらの妖怪を基準に考えれば馬鹿言ってるなーって所ですけど。

 美鈴さんと幽香さん曰く『暇つぶし』の組み手をやってる時、力任せに踏み込んでスコールさん並の瞬間最高速度を出してましたからねぇ。

 安定した速さは無いにせよ、そもそもの身体スペックが馬鹿げてますからね、幽香さん。

 何にせよ捜索範囲は狭く、手がかり一つ見つからない状況に加え、寒さにやられてきたのかお二人のやる気がレッドゾーンです。

 幽香さんは穏便に済ませる気がレッドゾーンな気がしますけど。

 

「何なのよアンタ!? いきなり春を寄越せとかわけわかんない!!」

「出すのか、出さないのか。どっち?」

「だから! わけわかんないって言ってるでしょ!?」

「なら、出させるまで!!」

 

 ぐったりと飛んでいた私達の耳に小さく響いてきたやり取り。

 

「……あら?」

「おや」

「あやややや」

 

 何とまぁ、運の悪い下手人でしょうか。

 私たちにしてみれば棚から牡丹餅……ちょっと違いますか。

 何にせよ、出来すぎなくらいの僥倖です。

 さてさて。

 

「私が先行します。咲夜さん、幽香さん、バックアップをお願いしますね」

 

 まぁ先ほどの叫び声から大方の事情は察しましたし、後は追い詰めて吐かせるだけですねぇ。

 時間稼ぎを主として立ち回るのであれば、幽香さんクラスでも早々後手を取るつもりはありませんよ?

 

「何、持っているかどうかは……そう、斬ればわかる!!」

「っ!?」

「はいストーップ」

「!?」

 

 物凄い理論武装をして刀を振り回しますね、この子。

 とりあえず襲われていた子と刀の間に割って入って、葉団扇を一振りで仕込みはおしまい。

 周りの雪ごとまとめて緑の刀少女を吹き飛ばしてミッションコンプリート!

 幽香さん、咲夜さん、後は……ちょ、幽香さぁん!?

 

「落ちなさい」

「なぁ!?」

 

 計算して幽香さんの方へ飛ばしたわけですが、先ほど冗談めかして考えていた以上に幽香さんの導火線残量がまずかったようです。

 飛んで行く刀少女へ向けて腕を一振りしただけで放たれる極太の光線。

 幽香さんったら、刀少女が避けたのを確認した途端、ちょっと口の端が釣りあがりましたね。

 

「このまま避け続けるか、それとも白旗を上げて洗いざらい喋るか、それくらいは選ばせてあげる」

「んー……いまいち食指が動かないわ」

 

 畳んだ傘をビシっと刀少女へ向けてキメた幽香さんと、スコールさんが居ないのに飛ばしてる咲夜さん。

 ちょっと、それでなくても寒いのに、隙間風のような寒さが襲ってきましたよ?

 空気読みましょうよ咲夜さぁん……!

 

「ちょっと咲夜、妙な茶々を入れないでくれる?」

「でも入れなかったらどの道叩き落してたでしょう?」

「……洗いざらい喋ったら、しなかったわよ」

「喋ると思う?」

「思わないわね」

 

 刀少女そっちのけでいつもの雑談じみた会話に突入するお二方。

 ちょっと、刀少女が逃げようとしてますよーっとー。

 

「くっ……また天狗か……!」

「あら、あの子ったら中々いい度胸ね。ねぇ咲夜、いいでしょう?」

「まぁさっきの幽香のアレを見て、勧告も聞いた上でこれなんだから……仕方ないでしょうね」

 

 あぁ、話がまとまってしまいましたね。

 刀少女さん、ご愁傷様です。

 とはいえ、今回は咲夜さんがあまり興味を抱いていないようですから……その辺りがきっと不幸中の幸いですよ?

 

「……っ」

「下手を打ったって顔ね? でも、もう、だぁめ。……威嚇もした、忠告もした。おまけに選択までさせてあげたのに、逃げようとするんだもの……」

 

 おぅふ。

 さでぃすてぃっくゆうかさまがこうりんちゅうです。

 笑顔が怖い。

 超怖いです。

 持っていた傘を、いつの間にか隣で従者の如く佇んでいた咲夜さんへ投げ渡し、準備万端とばかりに妖気をばらまき始める幽香さん、超大人げないです。

 寒いので大分イライラが溜まっていたのは知っていましたけど、やりすぎじゃないですか?

 もしスコール毛製コートと耳当てが無かったらもっと早くにこうなっていたんですかね……スコールさん、貴女の毛は偉大でした。

 刀少女さん、南無南無。

 

「容赦は、いらないわよね?」

「!? ぁ、ぅ……あああああ!!」

 

 ……おう、刀少女さんったらやりますね。

 さでぃすてぃっく全開な幽香さんがまるで刀少女を弄ぶかのようにばら撒く極太光線を目にしながら、逃げ出すかと思いきや、形振り構わずの突撃ですか。

 いやはやいやはやいやはや!!

 しかし、なんとも愚かですね!

 

「そんなナマクラでどうにかできると思ったの?」

 

 ……いや、見たところ結構いい刀っぽいんですけど?

 振りぬいた刀を素手で……うん、白刃取りとかならまだしも、握り締めて止めるってどうなってらっしゃるんですか幽香さん。

 

「うそ……!?」

「じゃ、ないわよ? 夢でも無ければ幻でも無いわ。恐慌状態で雑な振り方をされた刀なんて、何の脅威も感じないわねぇ」

 

 にっこり。

 そう、にぃっこりと。

 怖いです。

 刀を握り締めた左手はそのままに、残る右手は固まってしまった刀少女の首を握り締め。

 うわぁ、もう逃げられませんよアレ。

 

「ぐが、ガ、ァ!?」

「みっともない声で鳴くのね、貴女は」

「……っ!!」

 

 馬鹿にされて反骨する程度の気概はありましたか、うん、立派立派。

 でも、やはり愚かです。

 未だに刀を手放そうとしないんですから。

 幽香さんみたいなタイプを相手に継戦意思を見せ続けるのは愚策ですよ。

 ……もっとも、いくつかの選択肢の中から立ち向かう事を選んだというのが、一番の愚策ですけど。

 相手の事を知らないなら知らないなりのやりかたがあるでしょうに……。

 戦力分析ができなければ早々に、文字通り潰されるのが幻想郷……いや、時代は変わりつつありますから、一概には言えませんか。

 

「いいのよ、別に? 喋らないなら喋らせてあげるだけだもの。いろぉんな植物があるわ……痛い子も居れば、頭の中をからっぽにしてしまう子まで、いぃっぱい!」

 

 うふふあはは! なんてテンションうなぎ上りな幽香さんですが、うん。

 ちょっとばかりやりすぎですかねぇ、今の幻想郷の流れだと。

 いや、気持ちは結構分かるんですけどねぇ。

 んー……あ、いいガス抜き役が居るじゃないですか。

 咲夜さん、流石です。

 

「幽香さん幽香さん」

「何よ?」

「襲われてた子が、別の意味で襲われちゃいそうですよ?」

「……は?」

「咲夜さんはブレませんねぇ、幽香さんが大はしゃぎしてても……」

 

 咲夜さんに寄り添われ、更には頬をゆるりゆるりと撫でられながら、トドメとばかりに特徴的な獣耳に息を吹きかけられて悶える……見た感じ、イタチの妖獣ですかね。

 頑張って手入れをしているのが感じられる中々見事な毛並みを逆立てては悶え、落ち着く間も与えられずにひたすら弄ばれる様は……うん、とりあえずいい写真が撮れました。

 

「…………はぁ」

 

 そんな咲夜さんのご乱行をしばらく呆然と眺め、やがてがっくりと肩を落として興味が失せたとばかりに、直下の地面へ刀少女を叩きつけて溜息を零す幽香さん。

 幽香さんだけを見ていると、背景を知らなければとてもいい写真になりそうなんですけどねぇ。

 文字通りの意味で地面に沈んでる刀少女が居なければ。

 ……加減、してますよね?

 

「馬鹿らしくなったわ、本当に。咲夜の一人勝ち状態じゃないの」

「パーフェクトメイドは伊達じゃないんですよ、きっと」

「爛れ方が?」

「はい、爛れ方が」

「酷い言われ様ですわ!」

 

 ぎゅっとイタチの少女を抱きしめながら言っても、何一つ説得力がありませんよ。

 ……ちょっと抱き心地が良さそうだなぁなんて思ったのは秘密です。

 私も後でスコールさんを存分にもふって、もふ分を補給しておかねば。

 

「まぁいい具合に頭が冷えたわ。久しぶりに気概だけはありそうな子だったからちょっとはしゃいじゃった」

 

 気概だけ、ですか。

 いやまぁ実際そういう結果になってるわけですけどね。

 しかし幽香さん、はしゃぎ方がバイオレンスです。

『はしゃいじゃった』なんて照れたように言っても、やってる事が事ですからね?

 そのはにかみ笑顔は眼福ですが!

 

「とりあえず首謀者の……さっきの聞こえてきた話からすれば関係者かしら。そこを確保したって皆に連絡入れておくわね」

「あぁ、お願いします。色んな意味で、話が聞けるかどうかは別として……まぁ、第一歩ですよね」

「アリス辺りなら何とかするわよ」

 

 随分と高評価ですね、アリスさん。

 実力の底を見たわけではないので断じる事はできませんが、幽香さんがこれ程きっぱりと断言するなら、できるんでしょうね。

 うん、いじられて涙目になってるイメージがやたらと強いですけど……。

 

「不思議そうな顔ね?」

「ええ、まぁ……はい。確かに器用ではあるのでしょうけど、それがどこまでのレベルなのかがいまいち掴めないんですよね」

「文字通りの『神の子』を舐めてると痛い目を見るから、気をつける事をお勧めしておくわ」

「……はい?」

「アリスはね、魔界神……魔界の創造神、世界をたった一柱で作り上げた神の愛娘よ? 本人はその立場が気に入らないようだけど」

 

 何でこんな雑談の中で馬鹿みたいなレベルの特ダネを放り込んでくるんですか。

 幻想郷では神と言ってもそう珍しい存在ではありませんけど……よその世界の創世神ともなれば話は別です。

 まぁ、言及するなら日本の神は一部を除いて少しばかり特殊な有り様ですから、スケールが違うのも仕方がないと言えば仕方がないのですけれど。

 しかし……うーん……………ぇー?

 

「あれで?」

「あれで」

 

 盛大に自爆しては幽香さんに笑顔でいじられて、涙目になってはスコールに弄ばれてるイメージが……強すぎて、頭から離れてくれません。

 あと咲夜さんにぴったり寄り添われて赤くなってるイメージも。

 

「ま、とりあえず連絡するわよ」

 

 言うなり、小指に着けていた指輪へ魔力を込め始めた幽香さん。

 …………使えるんですね、魔力も。

 スコールさんみたいに変換して使うものだと思っていたら、いやはや。

 幽香さんの引き出しって何が出てくるかわからないから恐ろしいですよね。

 

[皆、聞こえる?]

[キコエテマスヨー]

[同じくー]

[……助かったわ、幽香]

 

 指輪に向けて話しかけると、涼やかな音が三つ響いた後に聞こえてくる各々の声。

 繋がった合図の音……? と、フランさんとアリスさんはいいとして……スコールさんの声……?

 あれ、声?

 

[何、アリスったらまた何かやらかしたの?]

[またって何よ!?]

[じゃあやらかしてないのね?」

[…………まぁそれは置いといて]

 

 ……やらかしているんですか。

 後で妹紅さんあたりから詳しく聞いておきましょう。

 やぁ、アリスさんの記事って人里で食いつきがいいんですよ、本当に。

 本人のイメージをぶち壊さず、尚且つ意外性で攻める路線は中々にやりがいがあるんですよねぇ!

 あぁ楽しみです。

 

[とりあえず関係者らしき子を確保したから、集まってもらえる? アリスにはその上で一仕事をしてもらうけど]

[無理難題はやめてよ?]

[トハイイツツ、タヨラレテチョットウレシソウナアリスサンナノデシター]

[流石アリスさん……!]

[ここでもいじられるの!?]

[やったわねアリス、大人気よ]

[…………]

 

 流石のいじられっぷり。

 アリスさんはやっぱりこういうキャラクターですよねぇ。

 神の子の威厳とか一体どこにあるって言うんですか。

 や、威張り散らされるよりも遥かに好ましいキャラクターではありますけど。

 

[あ、切れたわね]

[トリアエズユウカサン、ソラニムケテイッパツオネガイシマス。ニオイヲタドルヨリモテットリバヤイノデ]

[了解。それじゃ、打ち上げるわよ]

[ハーイ!]

 

 言うや否や、いつぞやの宴会でフランさんが見せた、本人曰く花火魔法を手の平に作り出して、打ち上げる幽香さん。

 フランさんの物ほど複雑な物ではなく、信号弾のように単色の物ですが……合図や目印としては十二分ですね。

 

「ところで幽香さん、スコールさんのお返事の声って……」

「パチュリーとアリスが作った人工音声。『もっと能天気な声じゃないと!』とか『拗ねっぷりが足りない』なんて議論の上で、アレらしいわよ?」

「あー、納得しました。何故か物凄く納得しましたよ」

 

 イメージ通りでしたもの。

 とはいえ思考をそのまま声に置き換えているだけなのか、物凄く棒読みでしたけど。

 最近、魔法って何でもアリな気がしてきました。

 

 って何ですかあの煙……じゃないですね、巻き上げられた雪?

 ……あ、あーあーあー。

 流石、お速いですねぇ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さ、ささささむさむ、さむ……!?」

「さむいよぅ……すこーるのばかぁ……!」

 

 あれ……お二人とも何で急に、そんなに寒がってらっしゃるんですか?

 ……え、ユウカさんもアヤさんも、何でそんなに呆れて……?

 えー?

 

「この気温の中、あの速さで走ればそれは寒いでしょうよ」

「降ってくる雪にも当たりますからねぇ」

 

 おう、何たる落とし穴!

 失敗しっぱ……フランさん!レミリアさん! 毛を引っ張るのはやめましょう!

 痛い痛いハゲるぅ!?

 

 

 

 


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