まいごのまいごのおおかみさん   作:Aデュオ

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24話 skoll

 

 

 

 秋も深まって来た頃、ふと思い立ってお小遣いからの脱却を目指して色々と模索した結果いくつかが実を結び、冬が過ぎようかという辺りでようやくお小遣いゼロを達成できました。

 とはいえ、やってる事は基本的に人の手を借りる事になるんですけども。

 私自身が何かを作るというのは、私の手が肉球である以上無理な話ですからね。

 人に化けられればいいんですけど、試してみてもなれる気配が欠片もない有様なので断念。

 

 よって、鹿などを狩って家での食料とする傍ら、メイリンさん協力の下で一部を燻製にして人里へ卸してみたり。

 その人里でめぼしい物があった時に、パチュリーさん謹製の魔力を込める事で遠距離会話ができる魔法具を使って、人里離れた場所に住むユウカさんやアリスさんに買出しをしてお駄賃を貰ってみたり。

 大図書館で薬草図鑑と必死ににらめっこをして覚えた、人では採るのが難しい場所にある薬草を探し出して人里の薬師さんへ卸してみたり。

 それらの過程で出会った毛皮が売れる動物を狩って、これまた人里に卸してみたり。

 散歩がてらにふらりふらりと色々と手を出していたら、いつの間にか愛用のがま口財布がぱっつんぱつんになる程の成長を見せてくれました。

 小金持ちです!

 というわけで、日ごろの感謝を込めて、お世話になっている人たちに何か贈り物をと人里のお店を物色しているわけですが…………

 

「おう、狼さん!どうだい、今日は良いびわが入ってるぞ!」

「こっちにはできたてのお菓子があるわよぉ?」

「てやんでい!うちの肉が今日一番のお勧めだ!」

 

 食べ物関係のお店にばかり猛烈な客引きを受けてしまいます。

 いや、声を掛けてくれるのは嬉しいんですけど……今はこれじゃないんですよねぇ。

 

「狼さんが……食べ物に靡かないだって……!?」

「ど、どこか悪いんですか?できたてですよ?甘いですよ!?」

「こらぁ明日は博麗の巫女が降るぜ、おい…………」

 

 この反応。

 た、確かにいつも何かしら買ってますけど、そこまで言う事ないじゃないですか!

 私だってたまにはそれ以外にも…………えーと、うん、糸だとか布だとか種だとか買ってるじゃないですか!

 

「いや、そりゃあお使いだろ?あの風見の大妖だとか、人形使いのお嬢さんだとかの」

「狼さん自身はいっつも食べ物じゃない」

「いい肉はその場でもりもり食ってくれっから、その後の売り上げが段違いなんだよなぁ」

 

 うわぁ……反論できません!

 そして商魂の逞しさにちょっと涙が出そうです。

 もう店先で食べるのはやめにしましょう、うん。

 お家や誰かの所に転がり込んでひっそり食べましょう……少し前に、サクヤさんからお行儀が悪いなんて言われましたし。

 

「そりゃ勘弁だ。ほら、オマケすっから買ってけや」

 

 …………薄切り肉を鼻先で揺らすって、餌付けじゃないんですから。

 いや、確かにいいお肉ですけど。

 

「へぇ、今日のお肉屋さんは当たりみたいねぇ。買っていこうかしら」

 

 結果的に客引きに利用されてしまいました。

 酷い!私の身体だけが目当てだったんですね!?

 

「人聞きの悪ぃ事叫ぶんじゃねぇ!?」

 

 ふーんだ!

 お肉屋さんなんて経営苦しくなって相次ぐ値下げに苦しめばいいんです。

 そしたら買い占めて貪りつくしてやりますよっ!

 

「結局貢献してんだろ、それ」

「ほんと、そういう所は素敵に抜けてますよねぇ」

「馬鹿!てめぇら余計な事教えてんじゃねぇよ!!」

 

 …………うわぁん!!

 

 

 

 

 

 

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 思わず逃げ出してしまってから、さてどうしたものかと思案。

 今すぐにまたあの通りに戻って贈り物を物色しようものなら、また捕まる事うけあいです。

 こうなったらアレですね、困ったときのケイネさんちです!

 幸いにして、逃げてきた方向と同じ方向ですし、突撃してしまいましょう!

 お土産になるようなお酒も丁度鞄に入ってますし!

 いざ行かん!

 

 

 

 

 

 

 

 ケイネさぁん!

 八百屋さんと甘味屋さんとお肉屋さんがぁ!!

 

「…………いきなりどうしたんですか?」

「大方からかわれでもしたんだろ」

「いくら人里と言っても、スコールさん程の力を持った妖怪をからかうなんて自殺行為をするはずが……はず…………えーと、自殺行為?」

「こいつ相手に?」

 

 突撃して、座っていたケイネさんのお膝へ滑り込んだのはいいものの、何故かいるもこたん。

 しかも酷い。

 黙ってれば長い白髪が映える美人さんなのに、口を開くと本当にもう、酷い。

 残念な美人さんめ!!

 でも、そんな事よりも。

 

 ちょっとケイネさん、何で目を逸らすんですか?

 こっち向いてくださいよ、ねぇ!

 ほら、私これでもれっきとした千歳超えてる妖狼ですよ!?

 

「ごめんなさい……否定、できませんでした」

「ほら見ろ、ヘタレ」

 

 酷いです、ケイネさん…………そしてもこたんはさっきからずっと、更に酷いです。

 

「もこたん言うな。てかお前がもこたんもこたん言うせいで、私が売ってる竹炭が『もこ炭』呼ばわりされるようになったんだからな?」

 

 初耳でした。

 つまりこれからは『もこたん下さい』と言えば伝わるわけですね!

 ちょっとぷろぽぉずみたいでキュンされちゃうんですね!!

 おめでとうございまぁすぅ!

 …………えーと、ぷーくすくす?

 

「てめぇ表に出ろ。今日こそ毛皮毟り取って外套にしてやる」

「ふ、二人とも落ち着いて……」

「毛皮が確保できたら慧音にも一着作ってあげるよ?」

「…………えーと、そういうのは流石にちょっと」

 

 今一瞬悩みましたね?ねぇ?

 ケイネさんも私の毛皮を狙う悪辣なもこたん一味だったなんて……見損ないましたよ!!

 

 一足飛びにケイネさんの膝上から離脱して、警戒態勢。

 まさかあのケイネさんにまで毛並みを狙われるとは思っていませんでした!

 やっぱり人里は怖い所だったんですよ!!

 

「いや、純粋に暖かそうだなぁと……本気で作ろうとしてるわけじゃないですよ!?」

「私は作る!」

 

 だから外道の所業ですよそれは!

 大体私の毛並みはサクヤさんが丹精込めて手入れしてくれてる一品物なんですから、サクヤさんにならまだしも……もこたんになんてくれてやる道理はありません!

 

 ぱたぱたと慌てて手を振って否定を始めるケイネさんに対して、握り拳を作って、本気の目をしたもこたん。

 ケイネさんは言葉の通りで嘘はついてなさそうですけど……もこたんはやっぱり外道です。

 

「ほぉ?じゃあ咲夜に言えばいいんだな?」

 

 …………前言撤回。

 サクヤさんも場合によっては刈る側に回りそうで怖いです。

 寒くなってから、自前の外套についてる若干くたびれたもふもふ……ふぁー、とか言うアレと私の毛並みを交互に見たりするんですよね……。

 

「そら見ろ。……まぁ、なんだ。とりあえず刈らせろよ?な?」

 

 ……そっと剪定鋏に手を伸ばすのはやめましょう?

 そもそもそれは毛を刈るための鋏じゃありません!

 

「いや、毛だけじゃなくてその下もって考えたら……これくらいは」

 

 怖っ!?

 ちょっとケイネさん、私達妖怪よりも怖いですよこのお嬢さん!

 

「大して歳変わらないだろうがお前」

「妹紅、突っ込む所はそこじゃありませんよ」

 

 ケイネさんもそこじゃないです。

 ぬぅ、人里のツワモノたちから逃げてきたつもりが、結局この有様!

 人里はどこも怖い人ばかりです……!!

 

「……いや、まぁ……大概な私が言うのもアレだけど、この人里のヤツらは……うん」

「たまに『人里?』って思ってしまいますね、確かに」

「でっけぇしゃもじみたいな棍棒だけで妖怪と殴り合ってるヤツも居るしなぁ……霊力もないのに」

 

 ……え、何それ怖い。

 しかも棍棒っていうのがまた本当っぽくて嫌です。

 更に言うなら、何でしゃもじ型……。

 

「本人曰く『気合があればいける!あと米食え!!』らしいぞ」

「……あぁ。あの暑苦しい……」

「夏の間は『冬になったら出て来い』と言われ、冬に出てきたら『お前に似合う季節は春だ、頭の中的に』なんて言われるアイツだよ」

「でも仕事はきっちりとこなして、それを誇らずにいつだって全力ですから……悪い人じゃあないんですけどね」

「まぁ、妖怪の撃退やら何やらで結構な貢献をしてるのは確かだろうけど……」

 

 聞けば聞くほど、その方、本当に人間ですか?

 

「血統的には人間……しかも家柄的には良い所の出だけど、私はアレを人間に分類したくない」

 

 ……人間やめてるような人間からそう評されるのって、凄いのか酷いのか。

 そしてもこたん、話は終わったとばかりに剪定鋏の手入れするのやめませんか?

 シャキンシャキン音をさせて舌なめずりとか、なんか本気っぽくて嫌です!

 

 でも顔だけ見てると、ちょっと色っぽいあたりが流石もこたん。

 それ以外で果てしなく残念ですけど。

 何しろおぷしょんに剪定鋏とさすぺんだーもんぺですからね。

 あ、もんぺと剪定鋏は別に妙な組み合わせでもないですね、そういえば。

 でももこたんっていうだけで凄く微妙な気がしてきます。

 不思議不思議。

 

 そしてどんどん危ない感じの本気な顔になっていくの、やめません?

 じ、冗談でしょう?

 

「いや、本気なんだからそう見えるのは当然だろ?」

 

 …………どこに行っても敵ばっかりじゃないですか、人里。

 やっぱり人里は怖い所でしたよ、フランさん!

 ええい、こんな所に居られるか!

 私は帰らせてもらう!!

 

「何で逃げる時にわざわざ死亡フラグ立てていくんだよお前は」

「いや、ほら……スコールさんですから」

「振りってやつか。ようし逃げ惑え、刈ってやる」

 

 何か違う字に聞こえましたけど……どっちにしろ御免被ります!

 というわけでさらばですよっ!

 

「待てや毛皮ぁぁぁぁぁ!」

 

 追いつけるものなら追いついてみなさい!

 鈍足もこたんなんかに捕まる程落ちぶれてなーいでーす!

 

「うわぁぁぁ腹立つ!刈る!絶対に刈ってやるあの駄狼!!」

 

 も~こた~んこ~ちら~て~のな~るほ~うへ~♪

 へいへいどうしました?

 あれだけ大見得切って追いつけないんですか?

 

 いくらリセットの効く体で無茶ができると言っても、結局は人間!

 身体強化をしたり、空を飛んだ所でたかが知れています。

 最速なんて言ってた射命丸さんとそこそこ張り合える速さ、見るがいいのです!!

 

「無駄な身体能力発揮すんな!てかお前、何でそんな速さで走って誰ともぶつからないんだよ!?」

 

 この程度の速さでそんなヘマをする程落ちぶれてませんよ!

 こちとら千年間逃げ延びた狼です!

 

「…………うわぁ情けねぇ」

 

 …………………うわぁぁぁぁん!?

 

「あ、こらてめぇ加速すんな!?」

 

 決めました!このままもこたんのお家襲撃して逃げてやります!

 それでなくても傾いてるあのお家をさらに危うくしてあげましょう!

 日ごろの恨みを込めて!!

 

「やめい!?」

 

 突貫!!

 

 

 

 

 

 

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 そして、ここは一体どこでしょう。

 行けども行けども竹竹竹。

 おかしいですねぇ……もこたんの匂いを辿って走ってたはずなのに。

 …………もしかしてアレですか、普段から竹切ったりとか筍探したりだとかで各所に匂いが残ってるとかですか。

 迷いの竹林とか言われてる所で、私迷子になりましたか?

 いや、いやいやいや。

 所詮は限りのある場所!

 真っ直ぐに突っ切ればそのうち脱出できるはずです!!

 そろそろお天道様も傾き始めそうですし、さっくりもこたんのおうちを傾けた後に脱出して贈り物探しをしないといけません。

 

「きゃっ!?」

 

 ……今なんか居たような。

 落ちたような音もしましたし、んむぅ?

 

 くるーりと周りを見回して、とりあえず音がした方へ目を向けて。

 んー……見た目は何もないみたいなんですけどねぇ。

 

「…………」

 

 うん、息の音とか匂いはするのに、何も見えない、と。

 あれですかね、あの三人組の妖精さんでしょうか?

 ってあの三人組だったら音や気配も消えるから違いますよね。

 …………って、よく見たら何かあの竹の根元が歪んでます。

 音や匂いもあの辺りからですし、あそこですか。

 

「!?」

 

 お、当たりみたいですね。

 そして今の反応で、今更ながらに気がつきました。

 もこたんと追いかけっこをした時からずっとスカーフの魔法入りっぱなしですか。

 独り言を垂れ流し状態だったなんてちょっと恥ずかしいっ!

 でも今更オフにしても仕方ないですよねコレ。

 もう聞こえちゃってるわけですし。

 ええい、このまま通してしまいましょう。

 どの道お話をしなければ色々困ってしまいますし!

 

「…………」

 

 気を取り直して。

 そこに居る誰かさーん?

 別にとって食べやしませんから、ちょっと道を教えてくれませんかっ!

 

 

 

 …………。

 

 

 

 反応、ナシ!

 というかさっきの口上だとアレですね、とって食うから出てきなさいって言ってるのと同じようなものですか。

 そんなつもりは無かったんですけどねぇ……うん、言葉って難しいですよね、本当に。

 …………しかし、こう言った手前アレですけど、何かこう…………美味しそうな匂いというか。

 普段鼻にしない匂いですけど、一体何でしょうね。

 兎っぽい気はしますけど。

 

 って、何かこう、凄く怯えたような気配が。

 

「…………た、食べない?」

 

 おお、ここに来てようやく反応がっ!

 

「だ、だってもうばれてるみたいだし、ここまで来て隠れ続けたって意味はないでしょう?」

 

 いや、まぁそれは確かに。

 居場所がわかって、匂いも覚えたわけですから……追いかけるのはわけないですよね。

 というわけでおいでなすって!

 

「使い方が違うんじゃないの、ソレ……」

 

 怯えたような呆れたような不思議な呟きと同時に、歪んでいた竹の根元にぽっかりと穴が。

 あれ、周りの地面のめくれ方からして落とし穴ですよね。

 さっきのは姿を消していたのに落とし穴にはまってばれちゃったってやつですか。

 その抜けっぷりにちょっと親近感……!

 

「うわぁ嬉しくないなぁそれ」

 

 がさがさと音がして、落とし穴から抜け出し……た、みたいですけど、あれぇ?

 落とし穴から出ても姿は消したままですか?

 いや、何となく景色が歪んでるから居るのはわかるんですけど。

 さっき言ってましたけど、ここまで来て隠れるても意味がないんじゃないでしょうか。

 

「……この強度にしてもばれるのかぁ。どういう目をしてるのよ本当に」

 

 ゆらりゆらりと景色がゆらいで、声の主らしき……くたびれた兎耳のお嬢さんがこんにちは。

 頭痛いとばかりに額に手をやってますけど、あれだけ歪んでたら誰にでもわかると思いますよ?

 

「普通はゆらぎすら見えないはずなのよ。可視光線……って言ってもわからないか。まぁとりあえず普通は、見えない」

 

 ふむぅ?

 む?

 あ、あぁ……そういうのにまで及ぶんですね、私の能力。

 うん、そういう事ならある意味特殊な事例だったんですよ今回は!

 

「自分の能力を正確に把握してないの? って今の言い方だとむしろ相当に応用の利く能力って事かな」

 

 そ、そこそこには!

 

「今更そこをぼかしても。…………で、狼さん、結論は?」

 

 …………え、な、何のですか?

 

「…………食べるの?食べないの? 食べるって言うなら、こっちも死ぬ気で抵抗するけど」

 

 ……そうでしたね、そういうお話でしたね。

 私にはお喋りができる相手を食べる趣味なんてありませんので、ご安心を。

 食べるものに困ってないのに、何でわざわざそんな心情的に物凄く食べづらい相手を食べなきゃいけないんですか。

 というか、人を食べる趣味もないのに人型の妖怪を食べようって気にはなりませんもの。

 

「…………なら、いいわ。道って言ってたけど、人里方面でいいの?」

 

 あ、それなんですけどね、この竹林に住んでるふじわらのもこたんのお家ってわかります?

 

「わんもあ」

 

 …………わ、わんもあ?

 なんでしたっけ、それ。

 え、英語だっていうのはなんとなくわかります!

 

「もう一度」

 

 あぁ、そうだそうだ、それです。

 サクヤさんがたまに使ってた気がします!

 で、どこの事でしょうね……んー、ふじわらのもこたんのお家?

 

「そう、そこ。貴方、あいつの知り合い?」

 

 ええ、今から元々傾いてるお家をさらに傾かせに行く程度の知り合いです。

 日ごろ溜まりに溜まった鬱憤を込めて頭突きをしてやります!

 

「どんな知り合いよそれ」

 

 どんな知り合いか。

 今更ながら、考えてみると奇妙な仲なんですよねぇ。

 ケイネさん経由で知り合って、いっつも今日みたいなやり取りばっかり。

 んー、これを表すとしたら…………喧嘩友達?

 とりあえず全力でじゃれあう程度には知り合いです!

 

「姫様の同類かぁ。うん、まぁそれなら間接的にうちのためにもなるから案内するけど……」

 

 どういう意味ですかそれ。

 まさか、もこたんのお家を傾けて得するような奇特な人が居るなんて。

 

「うちにも居るのよ、喧嘩友達みたいな方が」

 

 うわぁそちらにもですか。

 もこたん血気盛んすぎですよ。

 いい年して元気な事ですね全く。

 

「本当にねぇ。大人しくしていれば見目麗しいお嬢様で通るのに、あの言動だから」

 

 あぁ確かに。

 口を開いた途端に残念な感じになりますよねぇ。

 仕草だけはちょいちょい優雅というか、いいトコのお嬢様っぽい部分があるんですけど。

 ……まぁそれはそうと、もしかして兎さんは薬草集めの最中だったり?

 そうだったなら、案内して貰うお礼に薬草探しもお手伝いしますけど。

 

「何でわか……ってもしかして匂い?」

 

 大正解!

 その背負ってる鞄から匂いがしましたからね。

 あ、ちなみに私、人里でのお小遣い稼ぎのために匂いとか形とか覚えたんですっ!

 薬師さんからもお墨付きを貰う程度には探せますよ!

 

「へぇ、ならお願いしようかな」

 

 意外、といった風な兎さん。

 普通は私みたいな狼が薬草探しなんてするわけもないですから仕方がないですよね。

 狩りをするって言うならさらりと流したんでしょうけども。

 何にせよ。

 

 その鞄の中に入ってるのと同じやつでいいんですよね?

 

「うん、とりあえずはこれだけで。他に良さそうなのがあればついでに採っておきたいけど」

 

 了解でーす。

 じゃあ案内の方はよろしくお願いしますよっ!

 

「了解デース」

 

 …………。

 

「な、何か言いなさいよ」

 

 敬礼付きでまねっこされるとは思いませんでした。

 お可愛らしい!

 

「……い、行こうか」

 

 赤くなった顔もまた可愛らしくてイイデスネ!

 何で私、あんな事しちゃったんだろうって所ですね、これは。

 いや、妙に堂に入った風ではありましたけど、本当に可愛らしかったんですもの。

 

「ええい、黙れっ!!」

 

 ざ、座薬を飛ばしてくるのはやめて下さいよ!

 何か色んな意味で危機を感じるじゃないですか!?

 

「座薬じゃない!銃弾!!」

 

 銃弾っていうのはもっととがってるでしょう?

 細長くって、先が尖ってて、硬いやつ!

 あれ当たったらちょっと痛いんですからね!?

 

「…………ちょっと待って、それもしかして弾の大きさがこのくらい?」

 

 このくらい、と指で示した大きさは、記憶の中にある大きさと大体一致。

 多分。

 私の記憶能力がどこまで信用できるかは微妙な所ですけど!

 

 うん、あの時は猟師の人が数人がかりで撃ち込んできて、一発だけ当たっちゃったんですよねぇ。

 

「ライフルの弾が当たってちょっと痛いで済ますってどういう事よ……いくら頑丈って言っても限度があるでしょう?」

 

 いやほら、そこは能力でもにょもにょっと!

 

「さっきからさらりと能力について漏らしてるわよね」

 

 ……き、聞かなかった事に!

 

「いや、まぁこちらに敵対でもしない限りは吹聴する気もないけど」

 

 ありがたやありがたや。

 先日『軽々しく話すんじゃないの!』って怒られたばかりでして。

 

「そりゃそうでしょ。最近は平和だと言っても、いつ騒動が起こるかわからないんだもの」

 

 仰る通り。

 さ、この話はおしまいにしてもこたんのおうちまで案内をお願いします!

 薬草もちゃんと探していきましょう!

 

「了解。とりあえずこっちね」

 

 あ、えーと…………早々にアレですけど、まずは足元にお探しの薬草、ありますよ?

 

「………………」

 

 そんなに赤くなりながら摘まなくてもいいと思いますけど。

 ちょっと草に隠れてましたからねぇ。

 

「便利な鼻ね、全く」

 

 そそくさと薬草を摘んで、鞄に仕舞いこむ兎さん。

 折角ですから伝えてしまいましたけど、今のは見逃すべきだったんですかね、やっぱり。

 でも量が確保できるに越した事はないでしょうし、まぁ良い事にしましょう、うん。

 

「さ、気を取り直して行くわよ」

 

 ちなみにこの方向でしたらまた10間程行ったところに薬草がありますよ。

 ここだと結構生えてますよねぇ、それ。

 

「いや、これ結構見つけづらい薬草なんだけど……」

 

 …………なんか人里の薬師さんも同じような事言ってましたけど、分かりやすいですよ?

 匂いも独特だし。

 

「いや、匂いとか普通はわからないから。しっかし本当に便利な鼻だわ。いつもこうなら楽なのに……」

 

 お手伝い料を貰えるなら、こちらの手が空いてる時に手伝いますよ?

 

「そもそもどうやって連絡つけるのよ。ここには電話なんて……ってこれもわからないか。遠距離の会話手段とかないでしょ?」

 

 あー……うん、そうですねぇ。

 なら、また会った時にでも。

 

「ええ、その時はお願いするかも。これだけ効率がいいなら、少しくらいお手伝い料を出してもお釣りが出るわ」

 

 その時はよしなに!

 さ、行きましょう行きましょう!

 もこたんめ、今に見ていなさいっ!!

 

「……程々にね。あの家、あんたが本気で突っ込んだら冗談抜きに潰れるわよ」

 

 …………流石に潰したら本気で追いかけられそうなので、自重しますよ。

 

「そうしときなさい。執念深いから面倒くさいわよ、絶対」

 

 あい、まむ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、あんな宣言して駆け抜けていった割りに来るのが遅かったなぁ、オイ」

 

 ……ですよねー。

 そりゃあこれだけ時間かければ戻ってますよねー。

 

「さて、スコール君はどうするのかな?うん?」

 

 そりゃ、あれですよ、ほら。

 

「ほうほう?」

 

 初志貫徹で突貫!!

 

「あ、こらテメェ!?」

 

 ほいズドーン!

 

 

 

 

 

 

 

 

 ずずん。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………おいコラ」

 

 あ、あれ?

 何でこんなに脆いんですか?

 ちょっと押しただけですよ!?

 

「やっぱり外套にする。あーもー許さん!!」

 

 もこたんちが脆すぎるのがわるいんじゃないですかぁ!?

 一体どれだけ限界が近づいてたらこうなるんですか!!

 

「ギリギリまで粘るつもりだったんだよ!!」

 

 …………それ、今回潰れたのって結構な割合で自業自得じゃありませんか?

 

「…………」

 

 ……………………。

 

「家、どうしよう……」

 

 ひとまずケイネさんちに避難とか……?

 

「だめだ、生活態度でぐちぐち言われるのが目に見えてる」

 

 それも自業自得じゃないですか。

 

「………」

 

 ご愁傷様です?

 

「…………家、建て直すの手伝えよ?」

 

 り、了解です。

 幸いお友達にそういうのが得意って言ってた方がいるので、お願いしてみます。

 お酒、用意しないといけませんねぇ……。

 

「何で酒なんだよ?」

 

 お酒をこよなく愛してるらしいですから。

 代金としてはそれかなぁって。

 もこたんも何か持ってたら用意して下さいよ?

 

「あー……見繕っておく」

 

 じゃ、そういう事で。

 数日中にはまた連絡しますので、それまでは頑張って下さいね。

 

「ケイネんちかぁ……」

 

 ……が、頑張って下さい。

 

 

 

 


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