まいごのまいごのおおかみさん   作:Aデュオ

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19話 Skoll

 

 

 

 ユウカさん宅に集った皆が皆、馬鹿げた体力なものだから結局夜通しのお喋りとなってしまいました。

 もうそろそろ朝日が顔を覗かせる事でしょう。

『昨夜はお楽しみでしたね!』って元気に叫んであげる計画がおじゃんです。

 それもこれもぜーんぶ幽香さんが素敵に私達のはーとを掴んじゃうのがいけないわけで!

 本当にもう!この人はもう!!

 

「怒られているのか喜ばれているのかわからない言われ様だわ」

「喜んでるから大丈夫。怒る……というか、拗ねてる時は何も言わずにそっぽ向いてゴロゴロしてるから」

「ちなみに怒ったら?」

「怒ったところを見たことがないから何とも……その前に拗ねちゃうんだもん」

「優しいのねと褒めてあげるべきなのか、情けないわねと嗜めるべきなのか。ねぇどっちがいい?」

 

 ……わ、私だって怒る時は怒りますよ?

 多分きっと恐らく!

 それはもうがぶりといきます!!

 というわけで前者にしてくれると大変嬉しゅう御座います。

 

「へぇ」

「ほぉ」

 

 ……何ですか、その生暖かい目は。

 

「見た目に反して、本当に貴女はもう」

「中身が凛々しかったら有象無象は畏敬の念とか抱いちゃうんだろうけどね、うん、中身が……」

「こういうのを人はぽんこつと言うのでしょうね」

「その形容がしっくり来ちゃうのがスコールらしいよね」

 

 お二人は顔を見合わせて『うふふふ』なんて笑いあってますけれど、言ってる内容が酷いとは思いませんか。

 

「事実でしょうに。ここで爪や牙の一つでも出して威嚇されれば考えを改めたけど、貴女は今何をしてるの?」

「頭でぐりぐりと幽香さんのお腹へ向けて抗議中」

「服越しでも伝わる毛並みの柔らかさと温かさ。中々やるわ」

「……で?」

 

 ……何ですか……何ですかその勝ち誇った目は。

 フランさんの馬鹿っ!

 夜になったら一人!!寂しく家路についてしまえばいいんです!

 

「見捨てたような振りをしながら、ちゃんと夜になったら何て言ってるあたりがねぇ」

「しかも一人っていう部分を強調したから、幽香さんと帰れって意味だろうし」

「あら、それはお誘いかしら?」

「それ以外の何かに聞こえた?」

「質問に質問で返さない、のっ!」

 

 ……姉妹のやりとり以外の何物でもない光景でございます事。

 後ろから捕まえられてきゃーきゃー笑ってるフランさんを見て毒気を抜かれてしまいました。

 というか今更ながら、やっぱりユウカさんも規格外ですよね。

 フランさんが割りと本気で暴れてるのに涼しい笑顔で押さえ込んでますし。

 見た目に反してというなら、ユウカさんやフランさんも大概だと思うわけですよ。

 

「これでもそれなりに長く生きてるし、この程度の力の扱い方くらい身につけてるわよ」

 

 うーうー唸りながら本気で力を込めたフランさんを未だに抑え込んでる姿を見る限り、『この程度』で済ませていい域を超えてるわけですが。

 フランさんが握ったままだったお夜食の胡桃が殻ごと粉々になってるじゃないですか。

 文字通り、粉ですよ粉。

 

「朝になったっていうのにこの力だもの……将来が楽しみだわ。間違いなく美人にもなるし、一粒で二つ美味しいわね」

 

 フランさんを抱え込んだまま私へ体を預けて、心底そう思っているのが伝わるような口調でその台詞。

 反則ですよ、もう!

 

「悔しかったら私をやり込めてみなさいな」

「うん、それ無理」

 

 そうですね、無理ですね。

 

「…………そんなあっさり真顔で切り返さないでもいいじゃない」

 

 あ、結果的に反撃できましたか。

 やりましたねフランさん!

 そしてちょっとしょんぼりしたユウカさんもまたいいですね。

 こう、グッと来るものがあります!

 

「美人は何をしても様になるね。微笑んで良し、落ち込んで良し。一粒でいくつ美味しいのかな」

「私が美人なら、貴女は掛け値なしの美少女なんだから。その台詞はそのまま返してあげるわ」

 

 ……最終兵器微笑み。

 かないませんね、全く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ココココン、ココン。

 

 

 

 ……何か妙なノックの音が。

 四回、二回?

 何かの合図でしょうか?

 

「ふむ。貴女達好みのお客様が来たわよ」

 

 さらりと足を組んで瀟洒に夜明けのコーヒーを嗜んでいたユウカさんが、悪戯を思いついた様な笑みを浮かべてカップを扉へ向けてくいっとな?

 うん、これはあれですね、ヤれと。

 

「勝負は一瞬よ。有無を言わせず押し倒して遊んでいいわ」

 

 いえす、まむ!!

 では気配を消してー……軽くなってー……扉の上の壁と天井の間へしっかりと体を固定。

 カシッと少しばかりの爪音を響かせてしまいましたけれど、このくらいならきっと大丈夫。

 入ってきた瞬間を狙ってやりましょう!

 

「どうぞ」

 

 フランさんもそっとユウカさんの後ろに隠れていますけれど、思いっきり羽が見えてますよ。

 まぁそちらに注意が逸れてくれるでしょうから、こちらはやりやすくなりますけれどね。

 キィ、と軽い音を立てて開かれる扉の上でそんな事を考えていると、フランさんよりも少しばかり色の濃い金色が眼下に。

 

「お邪魔する……わ?」

 

 勝った。

 ユウカさんの後ろから覗く羽に目を奪われましたね?

 それでは私の便利な能力さんサヨウナラ、一名様ごあんなーい!

 

「幽香、貴女ついに誘拐をフッ!?」

 

 ……何か妙な声が出ましたよ、今。

 をフッて何ですか一体。

 

『~~!?~!!!』

 

 私の下でもぞもぞ動くお客人ですが、その程度の力じゃあそれは無謀というものですよ。

 私本来の体重も然ることながら、そっと床板の継ぎ目に爪を掛けてますからね。

 毛並みに溺れてしまうが良いのです!

 まぁそうは言っても、いつまでも床に押さえつけるのはあれですし、次の体勢に移行するとしましょう。

 伏せていた上体を起こすと同時に、お客人の肩へ前足をひっかけて仰向けの状態で私のお腹へご案内。

 そのまま抱き込んでがっちりと。

 意外にもサクヤさんが絶賛してくれたこの技の味、とくと感じ取るがいいっ!

 そーれもーふもーふ!

 

「はいそこまで。抱え込みで一本よ」

 

 歓迎成功ですよ!

 というわけでお早う御座います、お客人さん。

 

「まずは離してあげなさい」

 

 ぱっと抱え込んでいた体を開くと、私のお腹の上で何故かぷるぷると震えてらっしゃるお客人のお姿が。

 抱え込んだ時にちょっと思いましたけど、何気に背がお高い。

 サクヤさんやユウカさんと同じくらいでしょうかね。

 あと何と言うか、若干薄い……あ、地雷踏んだかもしれません。

 ぎりっと握りこまれた拳が怖いのですけれど、どうしましょう?

 

「レディに向かって、薄いなんて失礼な事を言うものじゃないわ。……確かに薄いけど」

 

 舌の根も乾かぬ内に、っていうのは今の発言のような事を言うのでしょう。

 確信犯な笑みと共に投げかけられた言葉を受けて、ぴたりと震えを止めるお客人。

 被害の予感に毛並みが逆立つのですけれど、このまま動いたらお客人が床板に直撃です。

 どうすることもできずにおろおろとするしかない状況、いや本当にどうしたものか!

 というか、はたから見たらどういう光景に見えるんでしょうねコレ。

 

「幽香。ねぇ幽香。説明して頂けるかしら幽香サン?」

 

 そんな私の現実逃避な疑問をつゆ知らず、顔を俯かせたまま静かに起き上がって、服についたわずかな埃と私の毛を払うお客人様。

 平坦な声ってどうしてこうも怖いのでしょうか。

 女性と少女の中間、といった具合の綺麗な声ですが、それが逆に薄ら寒さを後押ししてますよ。

 

「毛並みづくしの釣瓶落としとウルフハッグ、愉悦を添えて」

「酷い調理だね……」

「悪魔の所業だわ」

「私何もしてないよ!?」

 

 ちらりとフランさんを振り返ってニヤニヤと笑うユウカさんに、フランさんも私もビックリですよ。

 というか、性格が変わってらっしゃいませんか。

 堂に入った姿から、こちらも紛れもなくユウカさんの一面なんでしょうけど。

 

「女はいくつもの自分を持っているものなのよ」

「……凄く納得した。主に咲夜的な意味で」

 

 ……あぁ、うん、確かに。

 それはそうと、お客人から更に冷たい気配が突き刺さってくるのですが、如何いたしましょう?

 

「まずは落ち着きなさい。喧嘩を売りにきたわけじゃないのでしょう?」

「貴女がそれを言うなっ!」

「まさに、正論」

「今度は私が一本取られちゃったわ」

 

 うふふ、なんて笑ってますけど、どう見ても確信犯ですね。

 でもこっちのユウカさんも中々!

 

「ありがとう。さ、お座りなさいなアリス。いつも通り紅茶にする?それともコーヒーがいい?」

「……紅茶」

「ん。とっておきの葉なんだから、出てくるまでに機嫌をなおしておきなさいね」

 

 そう言い残して、すたすたとお台所へ姿を消すユウカさん。

 いや、残された私達はどうすればいいのでしょうか。

 せめて一言でも仲を取り持ってくれてから行ってもいいのにっ!

 沈黙が過ぎ去る室内ですが、一つ疲れた溜息をついてから気配を落ち着けるお客人。

 ありがたやありがたや。

 

「器用な狼ね。前足で拝まれたのは初めてだわ」

「人里でお婆さんに教わってから、よくやってるよ」

「主にどういう用途で?」

「謝る用途で」

「把握したわ。ヘタレね」

「that's right」

 

 なっ!?

 初対面でなんて事を仰いますか!

 

「なら初対面の相手に何をされたのかしらね、私は」

 

 ……ごめんなさい。

 

「……こんなにあっさり謝られると、逆にどうしたらいいかわからなくなるわね」

「見た目と真逆の中身に、結構そう言う人が多いんだよ」

「物凄く納得できるわ、それ」

 

 ここまで言われるのは初めてですよちょっと。

 確かに初対面以外で怖がられた事はないですけど、そこまで言わなくてもいいじゃないですか!

 

「能力で威厳まで軽くしちゃったんじゃないかってくらいに、威厳がないんだから仕方ないと思うな」

「能力?」

「あらゆるものを軽くする程度。物理的な重さに始まって、空気的な重さや色んな意味での力まで軽くしちゃうの」

「……凄く軽くばらしてるけど、馬鹿げた能力じゃない……それ」

「スコール自身はそう思ってないみたいだけどね。周りがアレな能力持ちだらけだからって」

「…………具体的には、と聞いてもいいかしら?」

「私がありとあらゆるものを破壊する程度の能力。私のお姉さまが運命を操る程度の能力」

「…………は?」

「他には……うん、とびっきりの部類で、隙間妖怪さんの境界を操る程度の能力とかもだね。まだあるけど、聞く?」

「………………」

 

 その辺りと比べたら、軽くしたからなんだっていうお話ですよ。

 フランさんの能力は干渉しきれませんでしたし、レミリアさんなんてどう干渉していいのかすらわかりませんもの。

 そもそもいつ使われたのかすらわかりませんし。

 さらに言うなら、スキマさんなんてもう抵抗するだけ無駄ですよ、あれは。

 

「干渉しきれなかったって言うけど、私が意識した破壊よりもかなり規模が小さくなってたんだから十分だと思うなぁ」

 

 結局壊れちゃったんですから、一緒じゃないですか。

 

「減衰させるだけでも十分じゃない。大体私が壊せるものの範囲を考えてよ」

 

 ……そうは言いますけど、納得がいかないというか、何と言うか。

 

「ストップ、待ちなさい貴女達」

「うん?」

 

 頭に手をやって、ふるふると自分を落ち着かせようとしているのがよく判るお客人。

 でも今の会話の中にどこか妙な部分がありましたっけ?

 

「なかったよねぇ。スコールの自覚が足りないって部分以外は」

 

 むぅ、まだ言いますかっ!

 

「言うよ。家族が自分の事を卑下するみたいに過小評価するなんて、我慢できない」

 

 でも事実じゃないですか。

 フランさん達みたいに大きな効果があるわけでもなし、スキマさんみたいに何でもありみたいな汎用性もなし!

 

「だから、何でそこを……ってどうしたの?」

「…………」

 

 私との言い争いの途中で、ふと気づいたお客人の様子を伺い始めるフランさん。

 何やら物凄く疲れたご様子。

 どうしたんでしょうね?

 

「はいお待たせ……って何、この空気」

「……あぁ、そうか。幽香の知り合いなんだから当然かぁ」

「いきなり妙な納得をしないでくれる?わけがわからないわ」

「だってこの子たち、さらりと馬鹿げた能力を暴露するのよ?こう納得するしかないじゃない!」

「……狼のスコールは推定1000歳を軽くオーバー、そっちのフランは約500歳の吸血鬼。あなたの言いたい事はわかるけど、これを加味したらそこまで馬鹿げてるって程でもないと思うけど……」

「わかっててズレた事を言わないでよ……」

「でもちょっと肩の力が抜けたでしょ?」

 

 かちゃりと机に良い香りの立ち上る紅茶を置いて、やれやれと言わんばかりに椅子へ腰掛けるユウカさん。

 まったくもう、と溜息を一つついてコーヒーをお口直しとばかりにくいっと煽り、そのままもう一つ溜息。

 

「フランも、スコールも。そんなに簡単に能力をばらすんじゃないの。能力がわかったからって貴女達をどうにかできる輩は限られてるけど、それでもあまり広める物じゃないわ」

 

 う……ユウカさんのお客様だからって、少しばかり口が滑りすぎましたね、確かに。

 

「私を信頼してくれるのは嬉しいけど、世界はどこに耳があって目があるのかわからないものでしょう?」

「うん……ごめんなさい」

「私に謝るんじゃなくて、次から気をつければいい事よ、これは」

 

 落ち込んで俯いたフランさんの顎をついと綺麗な指先一つで持ち上げて、微笑むユウカさん。

 それに対して少しばかりきょとんとしていたフランさんですが、すぐに意図を悟って花が咲いたような笑顔で応えて、元気にお返事を一つ。

 うんうん、やっぱり笑顔が一番。

 反省はしても後悔はしないのって、大切ですよね、うん。

 

「でもスコールが自分を過小評価しすぎだっていう部分だけは絶対に譲らない!」

 

 ……そこを笑顔で蒸し返さなくてもいいじゃないですか、この状況で。

 

「この状況だから言うんだよ。さぁ幽香さん、判定を!」

「そんなに過小評価してるの?」

「自分なんて大したことはできない、逃げるだけだーって」

「ん、なるほど」

 

 事実じゃないですか。

 私のはしっかりとした自己評価ですよ!

 

「さて、判定は?」

「過小評価ね」

「ほら!」

 

 ぬぐっ……何ですかその勝ち誇った顔は!

 可愛いじゃないですかもう!!

 

「そこ!?」

「おお、いいツッコミだ……!」

「中々やるでしょう、この子」

「うん、タイミングといい鋭さといい、思わず拍手したくなっちゃった」

 

 ようやく再稼動をはじめたお客人からのつっこみですが、敢えて言いましょう。

 そこってどこですか?

 何一つおかしな部分はなかったでしょうに。

 

「天然、っていうんだよね、こういうの」

「よく知ってるわね」

「図書館の本で勉強したもの!魔道書ばっかりじゃなくて、そういう本も一杯あったし」

「えらいえらい」

 

 ……フランさんを猫かわいがりするユウカさんという光景は大変良いものですが、どうにも釈然としない私でございます。

 そして置いていかれている事甚だしい様子のお客人がまた何とも良い味をだしていますね。

 

「ずっと気になってたんだけど、その『お客人』っていつまで言ってるの?」

「あ、自己紹介してないや」

「そういう事なのね。まぁ初めがあれだったし、仕方ないと言えば仕方ないか」

 

 実行した身としては、若干心苦しゅう御座います。

 

「そう言う割にはあまり気にしてなさそうね、貴女」

 

 だって楽しかったですもの。

 抱え込んだ時なんて、何がなんだかわからないとばかりに妙な声を出しながらじたばたしてましたし。

 

「普段は落ち着いた子なんだけど、突発的な事態に弱くてねぇ」

「チャームポイントだね!」

「そう。ふと見せる慌てた顔が可愛いったらないのよ」

 

 うふふと笑う二人の横で、微妙な顔をしているお客人様。

 言い返したくても、間違ったことを言われていないからどうにも、といったところでしょう。

 まぁそれはそれとして、そろそろお名前をお伺いしたい所です。

 ちなみに私は先ほどユウカさんからご紹介のあったとおり、スコールというどこにでも居る妖狼でございまする。

 

「貴女クラスはどこにでも居ないわよ」

 

 ……じゃあちょっとだけ長生きしてる妖狼でございまする!

 

「……貴女はもう。……まぁいいわ、さ、フラン?」

「さっき幽香さんから紹介のあった通りだけど、フランドール・スカーレット、どこにでも居ない吸血鬼です」

 

 何ですかその真似っこな自己紹介はっ!

 もっと自分を出していきましょうよ。

 

「ならスコールも出そうよ」

 

 ……えっ。

 えー……あ、足が速いです?

 

「……こういう所も残念だよね、スコール」

 

 なんでそんな哀れんだ目を向けるんですかぁ!?

 

「はいはい、漫才はそこまでにしなさい。はい次」

「この流れだと凄く言いにくいわね」

「我侭言わないの。最初にさっくり名乗らなかったあなたが悪い」

「う……あー……うん、アリス・マーガトロイドです。さっき色々と聞いちゃったし、私は少しばかり掘り下げるわね」

 

 そう言いながら傍らに置かれたままだった鞄の留め金を外して開いた途端、フランさんから歓声が。

 かく言う私も興味から思わず耳がピンと立ってしまいましたけど。

 白く透き通るような指がくるりと踊るのに合わせて、開かれた鞄から躍り出たのは沢山のかわいらしい人形達。

 

「見ての通り、魔法使いの人形師。そちらから見て、右から上海、蓬莱……」

 

 フランさんと私の前に空中で綺麗に整列して、名前が呼ばれる毎に各々可愛らしい仕草で挨拶をしていく人形たちの姿に、フランさんの目が輝いています。

 人形達はまるで生きているかのように生き生きと挨拶を済ませてから、フランさんとユウカさんのついている机へ降り立ったり、フランさんの膝へ落ち着いてにこにこと笑っていたりと様々な行動を始めます。

 かく言う私の鼻先にも赤いリボンが似合っている金髪の人形さんが……シャンハイさんと言いましたか。

 じーっと私の目を見つめていたかと思いきや、ひょいと飛び上がって私の耳と耳の間に寝そべるように陣取って、ぱたぱたとはしゃいでいるような気配。

 和みますねぇ、これ……

 

「ちなみに机の真ん中に居る大江戸は中身が爆薬だから、あまり乱暴に扱わないでね」

「……爆薬?」

「そう、爆薬」

 

 ……なんて物を仕込んでいるんですか。

 

「前に幽香相手に使った時は傷一つ付けられなかった上で手痛いダメージを頬に負ったけどね」

 

 ねじ切れるかと思ったわ、なんて宙を見つめるアリスさん。

 無意識なのでしょうけど、そっと頬をさする様子からして、よっぽど痛かったんでしょう……。

 

「アリスったら照れ隠しに私の顔にその子を投げつけてきて起爆したのよ?少しばかりお仕置きするのは当然じゃない」

 

 あぁ、それは自業自得ってやつですね。

 ていうか顔ですか。

 

「真っ赤な顔で『幽香のばかぁ!』って、自分の膝に置いていた大江戸を私の顔に向かって全力投擲」

 

 あ、ちょっと見たいですねそれ。

 

「そのあと自分も爆発に巻き込まれて椅子ごとひっくり返った後、慌ててじたばた。面白かったわよ」

「ちょ、そこまでばらさなくてもいいじゃない!」

「ばらした方が面白いじゃない」

 

 くすくすと片目を悪戯っぽく閉じてコーヒーを口に運ぶユウカさんがまた、何と言うか非常にきますね。

 きゅんとしちゃいました。

 

「……ずっと思ってたんだけど、私とフランドール達の扱いが違いすぎないかしら」

「可愛い子は可愛がって、面白い子はもっと面白い子に仕立てるのが好きなの」

「面白い子扱い……!?」

 

 面白いですね、確かに。

 見た目は綺麗と可愛いの中間あたりな美少女さんなものだから、それに反する言動がちょくちょく面白い。

 

「うん、自分に対する評価の時のリアクションも面白かったし」

 

 なるほど、ユウカさんが言っていた通り、中々やる御仁ですよ、このお嬢さんは。

 

「……幽香のせいで妙な評価が定着しちゃったじゃない」

「事実を人のせいにしないの。仮に私が今取り繕っても、貴女はすぐにボロを出すわよ」

「否定できないのが悔しいわね。大江戸を投げてもいい?」

「別にいいけど、覚悟はしておきなさいよ?」

「…………」

 

 にっこり笑いながらミシリと音を立てる拳を見せ付けるユウカさんに、ぷるぷると悔しげに震えるアリスさん。

 ちょっと……この子本当に面白いですよ。

 新鮮な可愛らしさというか何というか!

 

「ただし、いじりすぎるといきなりプツンと逝っちゃうから気をつけなさいね。この感じだとそろそろ来るわよ」

「判ってるならやめてよ!」

「仕様だわ」

 

 ずばっと切り捨てられて、がくりと床に手を着いて落ち込むアリスさん。

 面白いなぁ、可愛いなぁ!

 思わず再びユウカさん曰く『うるふはっぐ』とやらの体勢へ移行。

 抱き込んだままごーろごーろと揺らしながらじたばたと暴れるアリスさんを堪能。

 

「気に入ったのかしらね、アレ」

「アリスさんの反応が面白いから、多分味を占めたんじゃないかな」

 

 サクヤさんにも好評だったんですよこれ。

 ちょっと頬を染めながら『妙に安心するわね、これ』って。

 

「それ色んなところで吹聴されてるって知ったら、きっと落ち込んじゃうよ?」

 

 ……落ち込んじゃうなんて言いながら、その首をかっ切る動作はなんでしょう?

 

「ご飯抜き?」

 

 皆様、私は今何も言いませんでした。

 

「相変わらずの逃げっぷりだね」

「貴女だったらそこらで食料調達なんて簡単でしょうに」

「スコール曰く『簡単だけど負け犬の気分』らしいよ」

「一応実行はしたのね」

「やけ食いみたいに鹿を丸ごと食べちゃった後に、咲夜の所に駆け込んでスライディング土下座しながらきゅんきゅん泣き続けるの」

「……いや、いくらなんでも弱すぎるでしょう貴女」

「スコールらしいって言っちゃえばそこまでなんだけどね」

 

 ………むぅー。

 

「……アリスさんが爆発するより先にスコールが拗ねちゃった」

「でもアリスは抱きこんだままなのね」

「それはそれ、ってやつだね」

 

『いいから助けてよ!』なんて毛並みの中から声を上げるアリスさんですが、どこ吹く風とばかりに優雅にコーヒーを楽しむお二方。

 アリスさん、いつか一緒に立ち向かいましょうね……!

 

『その前にまず離しなさ……ちょ、捲れる!スカートなのよ私は!?ってまた揺らすなぁ!!』

 

 頑張りましょうねー…………

 

「…………何て言えばいいんだろう」

「頑張りなさいねー、でいいんじゃない?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さくやぁ!」

「はいはい、何ですかお嬢様ー」

「ふらんがぁ……ふらんがぁぁぁぁ!」

「はい、今朝のケーキはシュヴァルツヴェルダー・キルシュトルテですよー」

「……は?」

「切り分けますので少々お待ち下さいねー」

「え……いや、え……?」

 

 隙間の紫さんが『今回の件のお礼のひとつ』と、出来の良いキルシュを差し入れてくれたんですよねぇ。

 お礼に現実時間3秒クッキングでこのケーキと同じ物をお返ししたら、サムズアップと共に『良い仕事だわ』なんて呟きながらケーキを抱えてスキマへ消えていかれましたけど。

 あの様子だったらまた何か差し入れてくれるかもしれません。

 良い知り合いを得ることができました。

 

 

 

 

「あの、パチュリー様……」

「レミィがずっとあの調子だからね。咲夜だって少しくらい現実逃避もしたくなるわよ」

「は、はぁ……」

「私も貴女の暴走に現実逃避したくなるけどね」

「ちょ!?」

 

 


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