私の世界は硬く冷たい   作:へっくすん165e83

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クィディッチ回
でも咲夜が今後クィディッチをするかと聞かれると……多分やらないと思うので今回だけということで。
誤字脱字等ありましたらご報告して頂けると助かります。


お見舞いとか、クラブとか、ビーターとか

 クリスマス当日。

 私は懐中時計で現在の時刻を確認した。

 午後の1時を少し過ぎた時間だ。

 私は今、お嬢様と小悪魔と共に聖マンゴ病院に来ている。

 お嬢様は初めて来た為か受付を見回していた。

 

「小悪魔は来たことがあるんだったかしら」

 

 私が声を掛けると隣にいる小悪魔が苦笑する。

 

「実はあまりないです。病院にくるよりも病院送りにした回数のほうが多いので」

 

 確かにそれは苦笑いをせざるを得ない。

 私はお嬢様を連れて案内係と書かれたデスクに寄っていく。

 そこにはブロンドのふっくらした魔女が座っていた。

 

「お見舞いにきたのですが」

 

 私は受付の魔女に話しかける。

 魔女は私を見た後に両隣にいるお嬢様と小悪魔を見た。

 

「……ああ、はい。お見舞いね。どなたのお見舞いかしら」

 

 魔女は一瞬固まったがすぐさま話し始める。

 

「ギルデロイ・ロックハートです」

 

「まあギルディのお見舞い? 5階の呪文性損傷の長期療養病棟よ」

 

 そう、私たちはロックハートのお見舞いにきたのだ。

 何故アーサーではなくロックハートなのか。

 理由をあげるとすれば、お嬢様がロックハートの著書に嵌ってしまったからである。

 お嬢様曰く、『バンパイアとバッチリ船旅』など最高にクールらしい。

 勿論、お嬢様自身ロックハートが本に書いてあることを実際にやったとは思っていない。

 ただ単に創作物として、気に入っているのだ。

 私たちは階段を上がり5階を目指す。

 

「なんというか、病院らしくないわね。患者が愉快すぎるわ」

 

 階段を上りながらお嬢様はぽつりと言った。

 

「愉快って、見た目がですか?」

 

「受付前にいた頭から手を生やしている少女なんて、傑作じゃない? 手も途中で分かれて全部で5本になってるし」

 

 小悪魔が聞き返すとお嬢様は手を頭の後ろに回し、真似をした。

 

「私は頭が鳥になってる女性の風体が結構好きですが。あの目が紫色の」

 

「キモイ」

 

 小悪魔の意見をお嬢様が冷ややかに否定した。

 にしてもキモイって……。

 

「あ、ここです。お嬢様。長期療養病棟は……。あちらだと思います」

 

 私は階段を5階まで上ると廊下を見回す。

 そしてそれっぽいドアを見つけ、近づいた。

 

「ヤヌス・シッキー病棟……ここでしょうか?」

 

 ヤヌス・シッキー、どこかで見た名前だ。

 私が少し首を捻っていると小悪魔が教えてくれた。

 

「ヤヌス・シッキーは1973年にレシフォールドに殺されたかのような走り書きを残し失踪した魔法使いです。それよりも、今はこの中にロックハートがいるかどうかが問題かと」

 

「いなかったら他を当たればいいだけでしょう?」

 

 お嬢様はドアノブに手を掛け、軽く捻る。

 だが、ガチャガチャと音がするだけで開かない。

 

「鍵がかかっていますね」

 

「そんなことないわ」

 

 ガコッと鈍い音がしてドアノブが回る。

 そして静かにドアが開いた。

 

「咲夜、後で直しておきなさい」

 

「かしこまりました」

 

 お嬢様は鍵の捩じ切れたドアを開け、中に入っていく。

 その様子を見て小悪魔が肩を竦めていた。

 

「言ってくれたら開けたのに……」

 

「ああいう方だって知ってるでしょ? ほら、直しておくから先に入ってて」

 

 私は杖を取り出しドアノブに修復魔法を掛ける。

 すると一瞬でドアノブは新品同様になった。

 

「咲夜、何をもたもたしているのよ。いたわよ!」

 

「ただいま参ります」

 

 私は改めてドアを開け病室へと入る。

 ロックハートのベッドはすぐに見つかった。

 壁の一角がロックハートの写真だらけになっている。

 そしてその下のベッドにロックハートが楽しそうに鼻歌を歌いながら腰かけていた。

 

「こんにちは、ロックハート」

 

「やあ、こんにちは! お嬢様方が3人も。私のサインが欲しいんでしょう?」

 

 お嬢様が話しかけるとロックハートはにこやかに笑いながら白い歯を見せる。

 少しは状態が良くなっているものかと思ったが、秘密の部屋で見たときと大差なかった。

 いや、案外普段の授業中とも大差ないかもしれないが。

 小悪魔は手早く丸椅子を3つ用意する。

 お嬢様は当たり前のようにそれに腰かけた。

 

「貴方の著書を読んだわ。なんというか、ファンタスティックね」

 

「そうでしょう、そうでしょう……私が本を書いたって? 何かの間違いでは?」

 

 ああ、そうだサイン、とロックハートは自分のベッドの横に置いてある机の上に山積みにされた自分の写真にサインを始める。

 その字は子供っぽいバラバラな字だったが、ちゃんと筆記体になっていた。

 

「私はもう続け字を書けるようになったんですよ! さあ何枚書きましょうか? 今でも私にはファンレターが沢山届きましてねぇ、なんでか分からないけど。多分私がハンサムだからですね!」

 

「いや、違うわ。それもあるけど、貴方の書いた本が面白いからよ」

 

「いやぁ写真が足りるといいけど……」

 

 お嬢様とロックハートは会話をしているようなのだが、噛み合ってはいない。

 その様子を面白そうに小悪魔が見ていた。

 

「運が悪ければ貴方もロックハートの武勇伝の一部になっていたわけだけど……そこのところどう思う?」

 

「ありえないです」

 

 小悪魔はにこやかに笑いながら冷酷なことを言う。

 いや、悪魔だからそれでいいのだろう。

 私は話に夢中になっているお嬢様から視線を外し、病室内をぐるりと見回した。

 ロックハートの反対側のベッドには土気色の肌をした顔の魔法使いが天井を見つめて横たわっている。

 その二つ向こうのベッドには頭全体に動物の毛のようなものが生えた魔女がいた。

 そして一番奥のベッドには痩せ細った男女が隣り合わせになって別々のベッドに横たわっている。

 

「フランク? ……アリス?」

 

 私はその魔法使いと魔女に見覚えがあった。

 以前ムーディに見せてもらった騎士団員の写真に写っていた、フランク・ロングボトムとアリス・ロングボトム。

 そう、ネビルの父親と母親だ。

 ベラトリックス・レストレンジに拷問され廃人になったとは聞いていたが、まさかまだ生きていたとは思ってもみなかった。

 

「咲夜、知り合い?」

 

 私の呟く声を聞いていたのか、お嬢様が一度ロックハートとの会話を切ってこちらに顔を向ける。

 

「はい、フランク・ロングボトムとアリス・ロングボトム。どちらも元騎士団員です」

 

「ああ、ロングボトム夫妻ですか。あれには苦渋を飲まされたようですね。ヴォルデモート卿は」

 

 小悪魔はまるで他人事のように言った。

 いや、実際に今では他人事なのだろう。

 

「騎士団員……ね。こんな状態になってまで生きている価値あるの?」

 

「ないでしょ」

 

 お嬢様の問いに小悪魔が答える。

 まあ、私としてもこんな状態になってしまったら殺してもらいたいが。

 

「アロホモーラ。……ん? 元から開いてる?」

 

 突然呪文を唱える声が聞こえたかと思うとドアを開け1人の癒者が入ってくる。

 私は一瞬ドキリとしたが、お嬢様と小悪魔は平静そのものだった。

 

「あら、ギルデロイのお見舞い? ああ、よかった。クリスマスだというのにこの子には1人もお見舞いにこないの。ゆっくりしていって。ささ、ミセス・ロングボトムとお孫さん。こちらへ」

 

 癒者は私たちがここにいることに対して別に怒ってはいないようだった。

 ……いや、私たちは受付でお見舞いに行くとちゃんと言ったはずである。

 普通ならば鍵を開けておくものだと思うのだが。

 私が病院の対応について考えていると、癒者に連れられてオーガスタ・ロングボトムとネビルが入ってきた。

 オーガスタ・ロングボトムは度々ネビルの話に出てくるネビルの祖母だ。

 少し前にムーディから聞いた話では、フランク・ロングボトムの母親らしい。

 ネビルはロックハートの見舞いが誰なのか気になったのかこちらに視線を向け、私と目を合わせた。

 そして石のように固まってしまう。

 その様子を見て、ネビルの祖母が話しかけてきた。

 

「ネビルのお友達かえ?」

 

「十六夜咲夜と申します」

 

「おお、良く知っとるとも。去年の対抗試合で優勝した方ですね。ネビルがよく貴方のことを食事の席で話すんですよ。ということはそちらのお嬢様方は——」

 

「レミリア・スカーレットよ」

 

「小悪魔です」

 

「コアクマさんはご存じないですが……そしたら貴方が咲夜さんの」

 

 ネビルの祖母の言葉にお嬢様は胸を張って答える。

 

「ええ。私がこの2人の主の吸血鬼よ! 貴方たちはロングボトム夫妻のお見舞いかしら」

 

 お嬢様の言葉にネビルは更に表情を固くした。

 知られたくないことだったのだろうか。

 

「はい。ネビルがホグワーツから帰ってきたときには毎回お見舞いに来ていますよ」

 

「お嬢様」

 

「言っていいわよ」

 

 私が確認を取るとお嬢様は快く了承してくれた。

 

「大丈夫、そう固くならないでネビル。貴方のご両親の事情は知っているわ。私も騎士団員だもの」

 

「ええ!? そうなの?」

 

 ネビルは目を丸くして驚く。

 その様子が面白かったのか小悪魔はクスクス笑っていた。

 

「立派な闇祓いだったと聞いているわ」

 

「ええ、それはもう。2人とも一族の誇りです」

 

 ネビルの祖母は誇らしげにそう答える。

 私はちらりとロックハートのベッドを見るが、いつの間にかいなくなっていた。

 

「それにしてもその歳で騎士団員なんて……立派な従者をお持ちですね」

 

「当たり前よ。私の従者だもの。ロングボトム夫妻のお見舞いに来たのでしょう? 私たちには構わず2人のもとへと行ってあげなさい」

 

 ネビルと祖母は私たちに軽く頭を下げるとロングボトム夫妻のベッドへと歩いていきベッドを囲うようにカーテンを引いた。

 お嬢様はロックハートのベッドへと視線を戻すが、既にロックハートの姿はない。

 

「あらら。そのうち戻ってくるかしら」

 

「あの癒者、ドアのカギを閉め忘れたんですかね?」

 

 2人ともさして驚いてはいないようだ。

 私は机の上に置かれたロックハートの写真とファンレターを手に取る。

 数年前まで熱狂的なファンが多数いたロックハートだが、ファンレターもそういった人たちからだろう。

 

「そう言えば、お嬢様はロックハートの著書のどのようなところが気に入ったのですか?」

 

 私は少し気になってお嬢様に質問をする。

 お嬢様は考え込むように顎に手を当てるとポンと手を打った。

 

「今考えたらあんまり面白くもないわね」

 

 ……うん、なんというか、流石お嬢様ですとしか言いようがない。

 お嬢様は机の上のロックハートの写真を1枚手に取ると、そこに何かを書き込み始めた。

 

「そう言えばホグワーツでロックハートはどのようなことを教えていたの?」

 

「闇の魔術に対する防衛術ですが、その殆どが自分の自慢と座学でした」

 

「ふうん、噂通りの無能だったわけね。……これでよし」

 

 お嬢様はペンを置き、一度そこに書いた文章を読み返す。

 次の瞬間ロックハートが癒者に連れられて病室へと戻ってきた。

 その後ろにはハリー、ロン、ハーマイオニーのいつもの3人のほか、ジニーが続く。

 ハリーは病室を見回し、私の顔を見た途端に固まった。

 

「もう、貴方もなの? ハリー」

 

 だがハリーはネビルより早くショックから立ち直ったらしく、驚いたような声を上げてこちらに声を掛けた。

 

「咲夜! と、スカーレットさん。なんでここにいるの?」

 

 その声にハリーの後ろに続いていた面々も私に気がつく。

 

「ロックハートのお見舞いにきたのだけれど……それは貴方たちもでしょ?」

 

 私は癒者の様子とハリーたちの少し困惑したような様子からそう判断した。

 これは私の予想だが、アーサーのお見舞いでここに来て、廊下を歩いているロックハートを発見し声を掛けたらその様子を癒者に見つかり見舞いだと勘違いされてここに連れてこられたのだろう。

 私の問いに対しハリー含めて全員が癒者の顔色を窺いながら曖昧に頷いた。

 ロックハートは癒者が用意した肘掛け椅子に座り新しく写真を取り出しサインを書き始める。

 そしてサインし終わった写真を次々とジニーに渡していた。

 

「封筒に入れるといい。私はまだまだ忘れられていないんですよ? いまでもファンレターがどっさり来る。私にはどうしてなのかわからないけど……多分私がハンサムだからでしょうね!」

 

 ジニーは次々と溜まっていくサイン入りロックハートの写真に困った顔をする。

 ハリーたちは病室にいる人たちが珍しいのか病室内を見回していた。

 ……いや、ロンだけは小悪魔に視線が釘付けになっている。

 小悪魔が軽く手を振るとロンは鼻の下を伸ばした。

 途端にハーマイオニーに足を踏まれ、その表情を歪ませる。

 

「なにすんだよハーマイオニー。……咲夜、そちらの女性は?」

 

 ついに好奇心が恐れ多さに勝ったのか、ロンは私に小悪魔について聞いていた。

 

「ああ、彼女は私の使い魔よ」

 

 私の代わりにお嬢様がそう答える。

 使い魔と聞いてロンの表情が笑顔のまま固まった。

 小悪魔は微笑みながら手を差し出し、4人と握手をする。

 その時にハリーに触れていたが、ハリーが苦しむ様子はない。

 どうやら完全に魂が変化しているらしい。

 

「初めまして。レミリア・スカーレットに仕えている悪魔です」

 

 小悪魔はそう自己紹介したが、4人は小悪魔の背中についている翼のほうが気になるようだった。

 ロックハートとハリーたち4人を連れてきた癒者は病室にいる患者にクリスマスのプレゼントや手紙などを配っている。

 ロックハートの向かいにいた魔法使いには鉢植えが届いたようだった。

 そうしているうちに、ロングボトム夫妻のベッドを覆っていたカーテンが開きネビルと祖母が出てくる。

 

「あら、ミセス・ロングボトム。もうお帰りですか?」

 

 癒者の言葉に4人は思わず振り返った。

 ネビルとハリーの目が合う。

 その瞬間咄嗟にハリーは3人の注意を逸らそうと努力したようだったが、その前にロンがネビルの名前を叫んでいた。

 

「ネビル! ネビル、僕たちだよ。ねえ、見た? ロックハート先生がいるよ! 君は誰のお見舞いなんだい?」

 

 ロンは立ち上がって明るく言う。

 ネビルは先ほど私と目が合ったとき以上に縮こまっていた。

 ネビルの祖母は順番にハリーたちに挨拶をしていく。

 そしてその段階でロンが気がついたのか、大きな墓穴を掘った。

 

「えー!?」

 

 ロンが分かりやすく仰天する。

 

「ネビル、奥にいるのは君の両親なの?」

 

 その瞬間ハリーは頭を抱えた。

 あの様子だと、どうもハリーは事情を知っているようだ。

 

「何たることです? ネビル、お前はお友達に両親のことを話していなかったのですか?」

 

 ネビルの祖母が厳しい声でネビルに聞いた。

 ネビルは苦しげに天井を見上げ、首を振る。

 

「いいですか、何も恥じることはありません。貴方は自分の両親を誇りに思うべきです。あのように正常な体と心を失ったのは一人息子が親を恥に思うためではありませんよ。お分かりか!」

 

「僕、思ってないよ……」

 

 ネビルは確かにそう言ったが、その声は余りにも小さかった。

 ハリーはここまで不憫なものは見たことがないと言わんばかりにネビルから目線を逸らしている。

 ネビルもハリーたちから目線を逸らしていた。

 

「それにしてはおかしな態度ですね」

 

 ネビルの祖母は誇らしげにハリーたちの方へと向き直る。

 

「私の息子と嫁は例のあの人の配下に正気を失うまで拷問されたのです」

 

 私はちらりと小悪魔を見るが、小悪魔は知らんぷりだった。

 自分は関係ないと言わんばかりである。

 

「2人とも非常に優秀な闇祓いだったのですよ。夫婦揃って才能豊かでした。私は――おや、アリス。どうしたのかえ?」

 

 ネビルの母親のアリスが寝間着のままフラフラとこちらに寄ってくる。

 そしてネビルの方に何かを持った手を差し伸ばした。

 

「またかえ? よしよしアリスや……ネビル、何でもいいから受け取っておあげ」

 

 祖母がそう言う前にネビルは既に母親へと手を差し出していた。

 ネビルの母親はネビルの手の平に風船ガムの包み紙をポトリと落とす。

 

「ありがとママ」

 

 ネビルは今にも泣きそうな顔をしてそれを受け取る。

 その瞬間、お嬢様が私の服の裾を引っ張った。

 私は反射的に時間を止め、お嬢様の時間停止だけを解除する。

 お嬢様は無言でネビルに近づいていくと、包み紙を広げ小さな字で何かを書き込み始めた。

 そして一通り書き終わると元通りに折り丸め、ネビルの手の平へと戻す。

 そして元の位置へと戻った。

 一体何を書いたのだろうか。

 少し気になったが盗み見るわけにもいかないので私はそのまま時間停止を解除した。

 ネビルの母親は鼻歌を歌いながら自分のベッドへと戻っていく。

 

「さて、もう失礼しましょう。皆さんにお会いできて本当によかった。ネビル、その包み紙はゴミ箱にお捨て。あの子がこれまでにくれた分で壁が1枚貼れるほどでしょう」

 

 ネビルの祖母はそういうと、私たちに丁寧にお辞儀をして病室を出ていく。

 ネビルはそれに包み紙をこっそりポケットに滑り込ませるとその後を追って病室を出ていった。

 

「……知らなかったわ」

 

 ハーマイオニーが目に涙を浮かべて言った。

 ロンとジニーがそれに同意する。

 

「僕、知ってた」

 

 ハリーだけが暗い声でそう答えた。

 

「ダンブルドアが話してくれた。でも、誰にも言わないって約束したんだ」

 

 そのあとは長い沈黙が続く。

 だがショックを受けているのは4人だけで、私たち3人はただ黙っているだけだった。

 いや、お嬢様と小悪魔は4人の表情を見て楽しんでいるようだったが。

 沈黙を破ったのはお嬢様だった。

 

「咲夜、小悪魔、帰るわよ。ロックハート、機会があったらまた会いましょう」

 

 お嬢様は先ほど何かを書いていた写真をロックハートに手渡す。

 そして真っすぐドアの方へと歩き出した。

 私は4人に軽く手を振りお嬢様の後を追う。

 小悪魔は丸椅子を消失させ、病室から出るとドアを閉めた。

 

「まあ、来た価値はあったかしら。ついでにウィーズリーのお見舞いもしていく?」

 

 お嬢様は楽しげに私に言う。

 私は静かに首を横に振った。

 

「そう、じゃあ帰りましょうか。でもロックハートの向かいに寝ていた魔法使い。なんでベッドの脇に悪魔の罠なんて飾ってたのかしら」

 

 お嬢様はさらりとそんなことを言った。

 癒者が持ってきた鉢植えは悪魔の罠だったのか。

 まあ、私には関係のないことである。

 私はお嬢様と小悪魔の手を掴んで紅魔館の大図書館へと姿現しする。

 お嬢様は眠そうに目を擦りながら図書館を出ていった。

 私も小悪魔と分かれ厨房へと向かう。

 そして今日の夕食の準備を開始した。

 

 

 

 

 

 

 休暇が終わり学校に戻るとすぐに授業が始まった。

 とはいっても少し宿題が多いだけであまり変わったことは起こっていない。

 強いて挙げるとすれば、アンブリッジ先生が何かと理由を付けて私のいる授業に居座ることだろうか。

 休暇中も、新学期が始まってからもアンブリッジエクササイズは続けていた。

 流石に紅魔館から10分置きにアンブリッジ先生を蹴りに行くのは面倒くさかったが、これも仕事のうちだ。

 無論時間の都合上蹴れない時もあったが。

 そしてこれはハリー自身から聞いたことなのだが、最近ハリーはスネイプ先生に閉心術を習っているらしい。

 ダンブルドア先生からの指示らしく、スネイプ先生もハリーも嫌々行っている状態である。

 でも確かに閉心術を使えばハリーが変な夢を見ることも、ハリーの中にヴォルデモートが侵入してくることもないだろう。

 だが、ハリーの話を聞く限りでは上手くいっていないようである。

 むしろヴォルデモートと繋がることが増えたという話を聞いたときには流石に呆れた。

 だが私はそんなハリーに付き合っている暇などない。

 不死鳥の騎士団の動きが活発化してきたためだ。

 新学期始まって早々にアズカバンから死喰い人が10人も集団脱獄した。

 もっともクィレルから事前に連絡は入っていたのでそこまで驚きはしなかったが、そのせいで仕事が増えたのは確かだ。

 ホグワーツの外に出て何かをやるということは少ないが、ダンブルドア先生からもマクゴナガル先生からもハリーのそばを離れるなと厳命される。

 普段生活していてハリーから離れることは少なかったが、少し過保護すぎる気もした。

 アンブリッジ先生のスパイかハリーの護衛かどちらかにして欲しい。

 集団脱獄が影響を与えたのは騎士団だけではない。

 DAも一層にやる気を増し、以前よりも活動が活発になってきている。

 そしてDAのメンバーで誰よりも進歩を遂げたのはネビルだ。

 まるで乾ききったスポンジが水を吸収するように私が教えた呪文を習得していく。

 さらに言えば、何よりも私の時間を奪ったのはクィディッチの練習だろう。

 私はアンジェリーナに頼まれたときにグリフィンドールのビーターをやると安請け合いしてしまったが、何せ練習量が半端じゃないのだ。

 もっとも、物を飛ばすのは得意中の得意なので技術的な面では全く問題はない。

 ピッチの端からブラッジャーを撃ち込んで飛んでいる選手に当てれるほどだ。

 だが、大雨の中でも構わず練習を始めるアンジェリーナの執念には脱帽した。

 私は大丈夫だと練習を断ろうとしても「ビーターがいないと練習にならないでしょ!」とヒステリックに叫ばれてしまう。

 どうにかならないかとハリーに相談してみたが、ハリーも横で話を聞いていたフレッド、ジョージも肩を竦めるだけだった。

 今思い返せばウッドの時代からこうだったと思い返す。

 私は新学期が始まって1か月、アンブリッジ先生を蹴り、ハリーを守り、DAの会合を開き、アンブリッジ先生と食事し、クィディッチの練習をし、授業を受け、アンブリッジ先生を蹴っ飛ばし、DAの会合を開いて、宿題を終わらせ、クィディッチの練習をした。

 

 

 

 

 

 そんなこんなで2月の14日。

 今日はホグズミード村へ行くことが許可されている日である。

 いつもホグズミード村行があるのは土曜日だが、今日は聖バレンタインデーということで祝日なのだ。

 多分ダンブルドア先生あたりがカップルに気を利かせて許可を出したのだろう。

 私は朝起きて朝食を取りに大広間へと行くと、丁度ハリーとハーマイオニーが今日のホグズミード村行に関して話し合っていた。

 ハーマイオニーは分かるがハリーがこんなに早起きなのは珍しい。

 またヴォルデモートの夢でも見たのだろうか。

 だとしたらあまりいい傾向とは言えないだろう。

 私はトーストにバターを塗り、軽くバジルをちらし炙る。

 それに齧りつきながらハリーとハーマイオニーの会話に耳を傾けた。

 

「ねえ。ハリー」

 

 ハーマイオニーは手に持っている小さな羊皮紙を見ながらハリーに声を掛けた。

 

「とっても大事な用事があるんだけど、お昼頃に三本の箒で会えないかしら」

 

 お、まさか告白か? と思ったが表情を見る限りではそうではないらしい。

 ハリーはその誘いに少し困ったような顔をした。

 

「どうかな……今日はチョウと約束しているんだけど。僕と一日中一緒だって期待しているかもしれない。何かするという約束はしてないけど」

 

「じゃあどうしてもって場合はチョウも連れてきて。とにかく、貴方は来てくれる?」

 

 ハリーは曖昧に返事をするが、ハーマイオニーはお構いなしに話を進めていく。

 

「うーん……いいよ」

 

 いいんかい。

 

「でもどうして?」

 

「いまは説明している暇はないわ。急いで返事を書かなきゃいけないのよ」

 

 ハーマイオニーは右手にトースト、左手に手紙を掴み、急ぎ足で大広間を出ていった。

 ハリーはぽかんとしながらハーマイオニーの後ろ姿を見ている。

 そして首を捻りながら食事を再開した。

 

「OKしちゃってよかったの? 今日はチョウとデートなのでしょう?」

 

 私はトーストを持って席を立つと先ほどまでハーマイオニーが座っていた場所に座り直した。

 

「ハーマイオニーがどうしてもって言うんだ。断れないだろう?」

 

 ……もしかしてハリーって相当鈍いのだろうか。

 なんにしても今日はハリーたちについて行くことはできない。

 アンジェリーナが今日は一日中練習すると言い出したのだ。

 

「まあ、若いうちに1回痛い目を見ておくというのはいいことよ」

 

「どうして失敗するって分かるんだよ」

 

 ハリーはむっとした表情で聞き返してきた。

 

「じゃあ予行練習しましょう。私をチョウだと思って、ハーマイオニーの所に行くということを伝えてみなさい」

 

「え?……ゴホン。あー、チョウ。お昼に僕と一緒に三本の箒に行かないか? そこでハーマイオニーと待ち合わせしてるんだ」

 

「3点」

 

 私が冷ややかにハリーのセリフを切り捨てるとハリーは少しむくれた。

 

「じゃあどうしろって言うんだよ」

 

「まずハーマイオニーは駄目よ。グレンジャーって言いなさい。待ち合わせって言葉も禁止。だからここは『ごめん、チョウ。本当に申し訳ないんだけど昼にグレンジャーから呼び出されてさ、大した用事じゃなさそうなんだけど顔を出さないのも悪いじゃん? だから少し三本の箒まで付き合ってくれないか? いいことを思いついた。できれば君も一緒に来てほしい。多分そしたらグレンジャーも僕を早く解放してくれるはずだ』と、こんなものね」

 

「新しい呪文学の呪文か何かか?」

 

 横からひょっこりロンが顔をだす。

 ハリーはまるで暗号でも聞いたかのように頭を振るうと、話を逸らすようにロンに話しかけた。

 

「ロンは今日どうする?」

 

「一日中クィディッチの練習だろ。それで何とかあるわけじゃないと思うんだけど……」

 

「そう言えば新しく入ったメンバーは?」

 

 ハリーがロンに聞いた。

 自分たちが抜けた穴を誰が埋めているのか興味があるようだ。

 

「シーカーにはジニー。ジニーはまあ、そこそこ上手い。ビーターには咲夜とカークだ。……言っちゃ悪いけど、ビーターは咲夜1人でクラブを2本持ったほうがマシなレベルだ」

 

 ハリーはロンの言葉に苦笑いを浮かべる。

 確かにカークはいないほうがよいレベルで下手くそだった。

 

「……と言っても僕も人のことを言えるほど上手くないけど。アンジェリーナはどうして僕を退部させてくれないんだろう」

 

「そりゃあ、調子のいいときの君は上手いからだよ」

 

 ハリーは少しイライラした口調でいった。

 ハリーからしたら自分から辞めたいなんていうのが許せないんだろう。

 

「ロン、安心しなさい」

 

 私は思いつめた表情をしているロンに声を掛ける。

 ロンは何かを期待するような目でこちらを見たが、すぐにガックリと視線を落とした。

 

「10分もしないうちに相手のシーカーとチェイサーは全滅するわ。それまでゴールの前で飛んでいればこっちの勝ちよ。次はハッフルパフ戦だったかしら。相手はセドリックね」

 

「頼むからセドリックを殺さないでくれよ。あれは大事なふくろう同好会のメンバーなんだから」

 

 ハリーが顔を真っ青にしていった。

 私ってそこまで信用されてないのだろうか。

 私は玄関ホールでハリーと別れると、ロンと共に競技場へと向かう。

 そしてアンジェリーナの指示に従いオークシャフト79に跨り練習を始めた。

 

 

 

 

 ついに来たハッフルパフ対グリフィンドールのクィディッチの試合。

 私は皆より早く朝食をとると一直線にクィディッチ競技場へと向かっていた。

 そこでは既にアンジェリーナがユニフォームに着替え、準備運動をしている。

 私も軽く体操をし、ユニフォームに身を包んだ。

 

「さあ、ついに試合だ。咲夜は試合に出るのは初めてだよね?」

 

「ええ、そうね」

 

「じゃあ1つだけ言っておくわ」

 

 アンジェリーナは私の前でビシッと人差し指を立てる。

 

「本気でやりなさい。手加減は不要よ。思いっきり相手のチームにブラッジャーを叩き込みなさい」

 

 アンジェリーナは意気揚々とそう叫んだ。

 

「勿論そうさせていただくつもりよ。……そうだ、ジニーに言っておいて」

 

「……? なにを?」

 

 アンジェリーナはぽかんとした表情で私に聞き返す。

 私はニヤリと笑って言った。

 

「早くスニッチを取らないと悲惨なことになるわよって」

 

 私はクラブを掴むと霊力を流し込みその場にあった木製の机に思いっきり叩きつける。

 その瞬間木製の机は粉々になった。

 

「レパロ。ね?」

 

 私は机に修復呪文を掛け、待機所にあるベンチに静かに腰かけた。

 10分もしないうちにチームは集まり、作戦会議が始まる。

 そして最後に皆で掛け声をあげるとピッチへと出た。

 

「キャプテン、握手を」

 

 フーチ先生がそう言うと、アンジェリーナとディゴリーはがっしりと握手をする。

 そしてフーチ先生が吹いた笛の音が合図となり、私は放たれたブラッジャーを追うように空へと舞い上がった。

 

「さあ始まりましたグリフィンドール対ハッフルパフ! 実況は毎度おなじみの僕、リー・ジョーダンが務めさせていただきます。さあ最初にクアッフルを取ったのはグリフィンドールのアンジェリーナだ!」

 

 私は自分の中の時間を加速させ、疑似的な高速移動を手にする。

 そのままブラッジャーに追いつき、クラブにありったけの霊力を籠めてブラッジャーをディゴリーへと撃ち込んだ。

 ブラッジャーは物凄い速度で撃ちだされ空中で軌道を変える。

 そしてディゴリーの後頭部にぶち当たった。

 

「おーと! 開始早々にハッフルパフのキャプテンを務めるセドリック・ディゴリー選手の後頭部にブラッジャーが直撃! 先ほどのは咲夜選手が撃ったものでしょうか。えー、咲夜選手は今試合が初試合ということで、非常に好奇心をそそられる選手であります。あの太ももの奥とか……」

 

「ジョーダン!」

 

「何でもないですマクゴナガル先生」

 

 私はまっすぐと落下していくディゴリーを見ながらまたブラッジャーを追う。

 そしてすぐさま追いつくとハッフルパフのチェイサーに向けて本気でブラッジャーを打った。

 この時に相手の飛ぶルートも計算に入れて撃ち出しているので、また吸い込まれるようにブラッジャーはハッフルパフの選手に当たる。

 もっと当てにくいものかと思ったが、ブラッジャーには魔法が掛けてあるので若干ホーミングするのだ。

 これなら案外早くハッフルパフの選手を全滅させることができるかもしれない。

 私はグリフィンドールの選手へと飛んできたブラッジャーを跳ね返し、ハッフルパフのチェイサーの鼻をへし折る。

 あと1人。

 私は渾身の力を籠めてブラッジャーを殴り飛ばした。

 そのブラッジャーは軌道を何度も変えながらザカリアス・スミスに突っ込んでいく。

 そして見事スミスを箒から叩き落とした。

 

「これは大惨事になってしまいました。開始5分と経たずにハッフルパフの選手は残り3人! キーパーとビーターだけです! もう既にハッフルパフは点数を増やすことができない! セドリック早く帰ってこないと負けが確定しちまうぞ!!」

 

「ジョーダン! 嬉しそうに言うんじゃありません!!」

 

「冗談ですよ、先生」

 

 私はグリフィンドールの選手を守りながら残る選手にもブラッジャーを叩き込んでいく。

 キーパーには一番当てやすかったかもしれない。

 だが一番の鬼門は相手チームのビーターだ。

 奴らは自分の身を守る武器を持っている。

 私は正面からブラッジャーを撃ちこんですぐに時間を止め、その選手とは反対の方向に向かって飛んでいたブラッジャーを叩き込んだ。

 ハッフルパフのビーターは正面から飛んできたブラッジャーには何の問題も無しに対処したが、後ろから急に軌道を変えて飛んできたブラッジャーは避けられない。

 ブラッジャーが後頭部に直撃し、ビーターの1人目が墜落していった。

 残るハッフルパフ選手は1人。

 クラブを持つ手にも力が入るというものだ。

 私はブラッジャーを追いかけビーターから1メートルほど右を狙って撃ち込む。

 そして更に速い速度で2つ目を放ち、空中で弾かせて1つ目のブラッジャーを残るビーターの腹部に直撃させた。

 これでピッチ上にハッフルパフの選手はいなくなったわけだ。

 

「これでよし」

 

 私は満足そうに呟くとグリフィンドールの選手を守るためにブラッジャー2つを交互に打ち1人キャッチボールを始める。

 

「えー、ジニー選手涙目になって必死にスニッチを探しております。あ、アンジェリーナ? 執着心は分かるけどキーパーのいないゴールにそんなにゴールしても……あ、いえ何でもないです。ジニー! アンジェリーナが止まらないから早くスニッチを掴んでくれー! グリフィンドールまた得点、200対0!」

 

 私の予想通りスコアはおかしなことになっていた。

 いや、試合自体もおかしなことになっていると言ってしまってもいいだろう。

 アンジェリーナは発狂したようにハッフルパフのゴールにクアッフルを押し込みそれをアリシアとケイティが必死に止めようとしている。

 ロンは手持ち無沙汰にゴールの前をクルクルと回り、カークは私が1つ逃がしたブラッジャーに追い掛け回されていた。

 そしてジニーは既に半分泣きながらスニッチを探し回っている。

 私はそれを見て、世界大会レベルのサッカー選手が子供相手に本気になったらこんな感じになるんだろうなーと、ぼんやり想像していた。

 

「とった! やっと取ってくれました! ジニー・ウィーズリーがスニッチをキャッチ! 450対0でグリフィンドールの勝利です! ハッフルパフとその選手のご冥福をお祈りします。アンジェリーナ! 試合はもう終わったぞ!? いい加減戻ってこーい!」

 

「ふう」

 

 私は一息ついてピッチへと降り立つ。

 そこで呆然とした顔でスニッチを見つめているジニーに声を掛けた。

 

「おつかれ。ナイスキャッチだったわよ」

 

「え、ええ。そうね」

 

 ジニーは曖昧に返事をするとパタパタと控室の方へと逃げていく。

 観客も嫌なものでも見たかのように眉をひそめながらこちらを見ていた。

 私は首を傾げながらジニーの後を追うように控室へと向かう。

 そこではマクゴナガル先生が顔を真っ赤にして待っていた。

 

「ミス・十六夜! あれは一体何事ですか!?」

 

 マクゴナガル先生は私を怒鳴りつける。

 私は怒鳴られた意味が分からず首を傾げた。

 

「え? 一体何事です?」

 

 私はマクゴナガル先生に言われたことをそのまま聞き返してしまう。

 

「あの試合です! 相手の選手が全滅するなんて前代未聞ですよ。少なくともホグワーツでは一度も……」

 

「あの、先生」

 

 正気に戻ったアンジェリーナが恐る恐る口を開いた。

 

「咲夜は別に何もルールを犯していません。ただブラッジャーを打って、相手に当てただけです」

 

 アンジェリーナの言葉にマクゴナガル先生は口をパクパクさせる。

 言葉が出てこないといった表情だった。

 

「クィディッチのルールは私も知っています。学生時代は選手でしたので。ですがあのプレーはあまりにも……グリフィンドールの選手らしくない。もっと騎士道に則って試合をすべきです。勝つことだけがクィディッチではありません」

 

 マクゴナガル先生はそう言い残すと控室を出ていく。

 なんというか、理不尽極まりない。

 敵を倒さずして何がビーターだ。

 フレッドとジョージに教えてもらったのだが、ビーターたるもの箒から選手を叩き落としてなんぼらしい。

 私が更に首を捻っていると、フレッドとジョージが控室に飛び込んできた。

 

「ひゃっほーい! 最高だったな相棒! 咲夜、最後のアレはなんだ? 今度教えてくれよ!」

 

「ビーターにブラッジャーを叩き込むなんてプロの選手でもそうそうできたものじゃないぞ! ピクシー殺しの名は伊達じゃないな!」

 

 2人してバッシンバッシンと私の背中を叩き私を称える。

 なんだ、先ほどので合っているのではないか。

 私は安心して一息つくと、時間を止めてユニフォームを着替え、制服姿へと戻った。

 そしてフレッドジョージと共に控室を出る。

 

「2人もブラッジャーの進路を予測するぐらいはできるでしょう?」

 

「ああ、ブラッジャーの進み方は決して真っすぐじゃない。他の選手に引き寄せられるように多少カーブを描いたり途中で目標を変えたりするんだ。……最初にセドリックの坊ちゃんがやられたのがそれだな」

 

「あいつの父親は泣いて悲しむぞ! 逆にハリーは喜ぶかもな。これでセドリックも箒から落ちたわけだし」

 

「……? セドリックの話は分からないけど、ようは進路が予想できるなら後はそれに当てるようにもう1つのブラッジャーを打つだけよ。ブラッジャーなんてそう速いものじゃないでしょう?」

 

「ああ、そうだな。あれ以上速いと本当に死人が出るぜ」

 

 そう、ブラッジャーは決して追いつけない速度ではない。

 ハリーが前乗っていたニンバス2000レベルの箒でも十分追いつくことが可能だろう。

 私の乗っているオークシャフト79は元々クィディッチ用の箒ではないので少々こちらから手を加えないといけないが。

 

「そういえば、ずる休みスナックボックスはどうなったの? 談話室でたまに実演販売しているけど」

 

 私は去年2人にあげた金貨のことをふと思い出し聞いた。

 2人は顔を見合わせると、ニッコリと笑う。

 

「例の箱はいつでも売り出せる状態さ。ここだけの話、実はもう店を出す場所も決めている。ダイアゴン横丁だ」

 

 ジョージが羊皮紙に何かを書いて私に渡してきた。

 私はその羊皮紙をそっと開く。

 

『ダイアゴン横丁903番地 ウィーズリー・ウィザード・ウィーズ店』

 

「俺たち2人の新しい住所だ。そのうち引っ越す予定だぜ?」

 

「おっと咲夜、先生方には知らせてくれるなよ? それと、ママにも」

 

 2人同時に苦虫でも噛み潰したような顔をしてコクコクと頷き私に同意を求めてくる。

 

「何言っているのよ。お嬢様がスポンサーなのよ? 言うわけないじゃない」

 

「流石咲夜だ。頭の固い連中とは違うね」

 

「夏休みにでも是非来てくれ。もしよかったら、君のお嬢様も連れてさ」

 

 私はやれやれと肩を竦めた。

 

「お嬢様には店が出来たとだけ報告しておくわ。お嬢様が行きたいと仰ったら、2人で行くかも」

 

「「そうこなくっちゃ!!」」

 

 2人は私に手を振ると楽しそうに廊下を掛けていく。

 その様子を見てフィルチさんが「廊下を走るなー!」と追っていった。

 私は2人を見送ると談話室に向かって歩き出す。

 そして談話室に入る前に一度時間を止めアンブリッジ先生を蹴飛ばした。

 




用語解説


お嬢様と小悪魔と咲夜でお出かけ
小悪魔の調子を確かめるという意味合いもあります。

ロックハート先生
再登場の予定はありませんが。ありませんが……作者の気分次第で再登場するかもです。

お嬢様と小悪魔
どちらも人間ではないので言うことが容赦ないです。

ネビルのおばあちゃん
この作品で初登場。

小悪魔にメロメロなロン
ロンはなんというか、子供っぽい意味での女好きですよね。

笑顔のまま固まるロン
ロン(また人間じゃないのか……)

空気の読めないロン
原作の、
ロン「えーッ? 奥にいるのは、ネビル、君のお父さんなの?」
には純粋に笑いました。そう思っても言うなよ……。

鈍感ハリー
恋には不器用です。

ハッフルパフ全滅
でも実際起こり得ることだと思うの。3カ月試合が続くことすら起こり得るスポーツだし。

WWW
謎のプリンス編で登場するかもです。



追記
文章を修正しました。

2018/12/04 加筆修正

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