私の世界は硬く冷たい   作:へっくすん165e83

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読みながら書いてたらなんかできたので一応上げときます。

今回から不死鳥の騎士団編です。
誤字脱字等ありましたらご報告して頂けると助かります。


十六夜咲夜と不死鳥の騎士団
退学とか、護衛とか、会議とか


 8月2日、もう日も暮れようとしている頃。

 私は不死鳥の騎士団の任務でハリーの護衛をしていた。

 護衛と言っても堂々とハリーの前に立ちサングラスを光らせているわけではない。

 マグルやハリーに見つからないように透明マントを羽織り、静かにハリーを監視する。

 この近くの通りに住むミセス・フィッグも監視の1人だが、彼女はスクイブなので護衛として何かを期待することはできないのだ。

 

「にしても、なにやっているんだろう」

 

 私はハリーへと目を向ける。

 ハリーは何故か庭で寝転がっている。

 本当に一体何をやっているのだろう。

 聞いてみたい気もしたが、極秘で護衛しているということもありそれはできなかった。

 私は点検するように今現在の自分の所持品を確認する。

 姿現し用の指輪に、匂い消しのブレスレット。

 ダンブルドア先生はハリーが何かの拍子で魔法を使ってしまわないかを警戒しているのだ。

 現在魔法省はハリーを目の敵にしている。

 少しでもハリーが法律を犯したらその弱みに付け込みこちらに都合の悪いアクションを起こすだろう。

 私はハリーが家の外に出たのでその後を追う。

 尾行は得意な方だ。

 万が一相手が違和感を感じて振り返っても、時間を止めて物陰に隠れてしまえば気のせいとしか相手は感じない。

 ハリーは何かに腹を立てているようで、ズンズンと大股で通りを歩きだした。

 何処に行こうというのだろうか。

 これは私の感覚でしかないが、ハリーはあてもなく歩いているようにしか見えない。

 とても目的地があるとは思えなかった。

 ハリーは角を曲がってマグノリア・クレセント通りの小道に入っていく。

 そのままマグノリア・クレセント通りを横切ってマグノリア通りへと曲がり、門に鍵のかかった公園へと入っていく。

 どうやら独りになりたかっただけらしい。

 ハリーは2つあるうちの壊れていないブランコに腰かけると何かを考えるように俯いた。

 私はハリーに気がつかれないように隅のほうに移動し様子を観察する。

 まったく暇な任務を任されたものだ。

 もっともずっとハリーの監視をしているわけではない。

 何人かの騎士団員と交代でだが、それでも暇なことには変わりなかった。

 ハリーは30分ほどブランコの上で何かを考えるように顔を伏せ、不意に顔を上げる。

 私がハリーの視線の先を追うとハリーが居候しているダーズリー一家の1人息子であるダドリーが仲間を率いて公園を横切っていた。

 ハリーはその集団を憎らしそうに見つめる。

 今にも襲い掛かりそうな雰囲気だったが、なんとか自分を抑え込んだようだ。

 ダドリーたちはマグノリア通りの方へと姿を消した。

 ハリーはその様子を見てブランコから立ち上がり急ぎ足でダドリーたちの後を追う。

 私もハリーに気がつかれないようにその後を追った。

 あまり長い時間を掛けずにハリーはダドリーたちに追いついた。

 ハリーはダドリーに見つからないようにリラの大木の陰に隠れる。

 闇討ちでもする気なのだろうか。

 私はハリーがそこまでの馬鹿ではないと信じつつその様子を見守った。

 

「いい右フックだったぜ、ビッグD」

 

 取り巻きの1人がダドリーに言う。

 

「また明日、同じ時間だな?」

 

 ダドリーが違う取り巻きに聞いた。

 

「俺のところでな。親父たちは出かけるし」

 

「じゃあまたな」

 

「バイバイ、ダッド!」

 

「じゃあな、ビッグD!」

 

 なんだ、仲のいい子供たちではないか。

 最近はチンピラの真似事をして遊んでいることが多いみたいだが、ヤンチャしたいお年頃なのだろう。

 ハリーはダドリーの取り巻きがすべていなくなるのを待ってから家の方へと歩き出したダドリーを追って歩き出す。

 今気がついたが、尾行が2重になっているな。

 ハリーはダドリーに気がつかれないように。

 私はハリーに気がつかれないように尾行を続ける。

 ハリーは角を曲がってマグノリア・クレセント通りに入ると、早足で歩きダドリーに追いつく。

 そして何を思ったのかダドリーに話しかけた。

 

「おい、ビッグD!」

 

 ダドリーは取り巻きの1人だと思ったのだろう。

 上機嫌でハリーの方に振り返る。

 

「なんだ、おまえか」

 

 だがその顔はすぐに歪んだ。

 

「ところでいつからビッグDになったんだい?」

 

「黙れ」

 

「かっこいい名前だ。だけど僕にとっちゃ君はいつまでもちっちゃなダドリー坊やだな」

 

 なんということだろう。

 ハリーはダドリーに喧嘩を売り始めた。

 なんというか、もう少し大人しくは出来ないのだろうか。

 監視、護衛する私の身にもなってもらいたい。

 

「黙れって言ってるんだ!」

 

 ダドリーはむっちりした両手の拳を握る。

 脂肪も多いがその下には確かな筋肉が備わっているようだ。

 

「あの連中はママが君をそう呼んでいるのを知らないのか?」

 

「黙れよ」

 

「ママにも黙れって言えるかい? かわい子ちゃんとかダディちゃんなんてのはどうだい? じゃあ僕もそう呼んでいいかい?」

 

 ダドリーは黙っている。

 全てをぶつけてしまいたいのは山々だが、ハリーが魔法使いだということを警戒しているらしい。

 なんというか、自制の利くいい子じゃないか。

 手の付けようがないうちの美鈴さんとは大違いである。

 ハリーの挑発は続く。

 

「それで、今夜は誰を殴ったんだい? また10歳の子か? 一昨日の晩、マーク・エバンズを殴ったのは知ってるぞ――」

 

「あいつがそうさせたんだ」

 

「へー、そうかい」

 

「生意気言ったんだ!」

 

「そうかな? 君は後ろ足で歩くことを覚えた豚みたいだ、とか言ったのかい? そりゃ、ダッド、生意気じゃない。だって本当のことだからな」

 

 ダドリーの顎の筋肉がひくひくと痙攣している。

 反面、ハリーはニヤニヤと意地悪く笑っていた。

 全ての鬱憤をダドリーで晴らしている。

 そんな表情だ。

 ……なんと醜い顔だろう。

 これがかの伝説のハリー・ポッターかと思うと、護衛する気が無くなってくる。

 2人は角を曲がり狭い路地へと入っていく。

 

「あれを持ってるから、自分は偉いと思ってるんだろ?」

 

 ダドリーは怒りをかみ殺すと静かに言った。

 

「あれって?」

 

 ハリーはとぼける。

 

「あれ――お前が隠しているあれだよ」

 

 多分杖のことだろう。

 ハリーはダドリーの言葉を聞いて笑みを強くした。

 

「ダド、見かけほど馬鹿じゃないんだな? 歩きながら同時に話すなんて芸当は、君みたいな馬鹿面には出来ないと思ったけど」

 

 ハリーがズボンから杖を取り出す。

 私は呆れたように片手で顔を覆った。

 馬鹿はお前だ。

 

「許されてないだろ? 知ってるぞ。お前の通っているあのへんちくりんな学校から追い出されるんだ」

 

 ダドリーが正論を言う。

 喧嘩と同じで、先に自分の不利な物を出した方が負けなのだ。

 反対に、先に自分の切り札を切った方も負ける。

 

「学校が校則を変えたかもしれないだろう? ビッグD」

 

「変えないさ。お前なんか、そいつがなけりゃ、俺に掛かってくる度胸もないんだ。そうだろう?」

 

 ダドリーは歯を剥く。

 ハリーも負けじと言い返した。

 

「君の方は4人の仲間に護衛してもらわなきゃ、10歳の子供を打ちのめすこともできないんだ。君が散々宣伝している、ほら、ボクシングのタイトルだっけ? 相手は何歳だ? 7つ? 6つ?」

 

「16だ。俺よりいっこ上。しかもお前よりも2倍は重たい。お前が杖を出したってパパに言いつけてやるから覚えてろ――」

 

「今度はパパに言いつけるのかい? パパの可愛いボクシングチャンピオンはハリーの凄い杖が怖いのかい?」

 

 私は時間を止めてハリーの杖を取り上げようかとも思った。

 だがハリー自身散々警告を貰っているので魔法を使ってはいけないことはよく知っているだろう。

 魔法を使うなら私のように匂いをどうにか消さなくてはならない。

 

「夜はそんな度胸はないくせに。そうだろ?」

 

「もう夜だよ。ダッド坊や。こんなふうにあたりが暗くなると、夜って呼ぶんだ」

 

「お前がベッドに入ったあとのことさ!」

 

 ダドリーがハリーに凄む。

 ハリーは身に覚えがないのか首を傾げた。

 

「僕がベッドの上で度胸がないってなんのことだ?」

 

「昨日の夜聞いたぞ。お前の寝言を。呻いてた」

 

「何を言ってるんだ?」

 

 ダドリーはその反応に吠えるような笑い声を上げ、それから甲高い声でハリーの口真似をした。

 

「『あいつが! あいつが帰ってくる! 僕を殺さないで! お父さん、僕を助けて! ヴォルデモートが咲夜を殺そうとしている!』咲夜って誰だ? お前のガールフレンドか?」

 

「き、君は嘘をついている」

 

 ハリーが否定するが、嘘のはずがない。

 嘘だとしたらダドリーは開心術の使い手だろう。

 

「『父さん! 助けて……父さん! あいつが僕を殺そうとしている。父さん! うぇーん! うぇーん!』」

 

「黙れ! 黙れ、ダドリー。さもないと……」

 

 さもないとどうするというのだろうか。

 杖で突くのか?

 ぽきりと折られて終わりだろう。

 

「『父さん、助けに来て! 母さん、助けに来て! あいつは僕を殺そうとしている。父さん、母さん! あいつが僕を――』そいつをぼくに向けるな!」

 

 ハリーが真っすぐダドリーに杖を突き付けた。

 ダドリーは路地の壁際まで後ずさる。

 そろそろ本当に止めた方がいいだろうか。

 だが、私が姿を現すとこれからの護衛がしにくくなる。

 

「そのことは二度と口にするな。わかったか?」

 

「そいつをどっか他のところに向けろ!」

 

「聞こえないのか? わかったかって言ってるんだ」

 

「そいつを他のところに向けろ!」

 

「わかったのか?」

 

「そいつを僕から――ひぃいい!!」

 

 ダドリーがまるで冷水を浴びせられたかのような悲鳴を上げて息をのんだ。

 次の瞬間辺り一面が真っ暗になる。

 私は一瞬ハリーが魔法を使ったものかと思ったが、ハリーにはこのような技能はないはずだ。

 私は杖を抜きあたりを警戒する。

 透明マントを脱いだ方がいいだろうか。

 この暗さなら見つかる可能性は低い。

 私は透明マントを脱ぎ、鞄へと押し込む。

 そしてこの暗さの原因を探った。

 

「何をするつもりだ? や、やめろ!」

 

「僕はなんもしていないぞ! 黙ってろ!」

 

「み、見えない! ぼく、め、目が見えなくなった!」

 

 まあそう錯覚するのも無理はない。

 私ですら周囲の様子が余り分からないほどの暗闇なのだ。

 

「黙ってろって言ったろう!」

 

 次の瞬間何か鈍い音とハリーのうめき声が聞こえる。

 一瞬敵にハリーが襲われたものかと思ったが、どうやら恐怖のあまりダドリーがハリーを殴りつけたものらしかった。

 

「ルーモス!」

 

 だが何かが起こっているのは事実だ。

 私は杖先に明かりを灯すと周囲を照らす。

 そこには側頭を押さえながら杖を探しているハリーと何故かこの通りにいる『吸魂鬼』に向かって走っているダドリーの姿があった。

 

「エクスペクト・パトローナム!」

 

 私は守護霊を作り出しダドリーのほうへと走らせる。

 それに集中していた為か、ハリーの行動をよく見ていなかった。

 私がダドリーにキスをしようとしている吸魂鬼を追い払っていると、後ろから銀色の靄のようなものが見える。

 私は慌ててそちらの方向を振り向いた。

 

「ハリー! 貴方何しているの!?」

 

 そう、ハリーは吸魂鬼に向けて守護霊の呪文を使っていた。

 周りが見えていないにもほどがある。

 ハリーの守護霊は牡鹿へと変身するともう1匹いた吸魂鬼を撥ね飛ばす。

 私はハリーがこれ以上魔法を行使しないように後ろ回し蹴りでハリーの杖を弾き飛ばす。

 そしてダドリーの吸魂鬼を追い払った自分の狼の守護霊を今度はハリーの方へと飛ばし残る吸魂鬼を追い払った。

 

「え? ……咲夜?」

 

 ハリーが蹴られた手を摩りながら私のほうを見る。

 いつの間にか路地には明かりが戻り、私は普通にハリーの顔を視認することができた。

 

「ハリー、貴方何をしたか分かってるの? こんな情勢で今のは非常に拙いわ。……今すぐ帰った方がいい」

 

 私は泣いているダドリーを肩に担ぎ上げる。

 ボクシングのヘビー級のチャンピオンと自慢しているのを聞いたことがあるが、確かに80から90キロぐらいはあるかもしれない。

 

「ほら、行くわよ」

 

「ど、どうして咲夜がここに? それに行くってどこへ?」

 

 ハリーが混乱したように杖を拾う。

 

「ダーズリーの家に決まっているでしょう? あそこなら安全よ」

 

「でも、僕今魔法を使って……ってそれは咲夜もだろう?」

 

「私は大丈夫なのよ。匂いを消しているから」

 

 私は泣いているダドリーを担ぎながら通りを駆ける。

 ハリーも独りになりたくないのか必死についてきた。

 急いでいるのには訳がある。

 一刻も早くこの事態をダンブルドア先生に知らせなければならないからだ。

 そう時間は掛からずに私たちはダーズリーの家へと到着する。

 私は杖で扉の施錠を解除するとダドリーを抱えたまま家の中に突入した。

 

「ひゃぁぁああああ! なに! 何事なの!?」

 

 ダーズリー夫人の叫び声が聞こえる。

 私はリビングのソファーの上へとダドリーを下ろし、ハリーに振り向いた。

 

「手遅れになる前に私はこのことをダンブルドア先生に伝えてくるわ。……あ、ダーズリーさんお邪魔してます。すみません勝手に家に押し入ってしまって……。いい? ハリー。絶対にここを離れては駄目よ。もう一度言うから頭の中によく叩き込みなさい。ここを絶対に離れるんじゃないわよ!」

 

 混乱しているハリーを置いて、私はバチンと姿をくらます。

 そしてそのままホグワーツの校長室へと姿現しした。

 

「ダンブルドア先生。大変です」

 

 私は校長室の椅子に座っていたダンブルドア先生に詰め寄る。

 ダンブルドア先生は片手を上げ、私を静止させた。

 

「何かあったのじゃな」

 

「ええ、ハリーが吸魂鬼に襲われました。私の注意不足の為にハリーに守護霊の呪文を――」

 

「魔法省へ出かけてくる。君は本部へと行き騎士団員にこのことを知らせてほしい」

 

 ダンブルドア先生はそういうと校長室から消えさった。

 姿くらましだろうか。

 術の詳細が気になるがそんな状況でもない。

 私は姿現しでブラック邸へと移動する。

 普段は玄関から中に入るが、急いでいるため今回は直接厨房へと移動した。

 バチンという姿現し特有の音がして私は厨房へと着地する。

 そこではモリーさんが今まさに夕食を作っているところだった。

 

「咲夜! どうしたの?」

 

 一緒に台所に立っていたハーマイオニーが心配そうに聞く。

 私はハーマイオニーに急いでこの家の中にいる騎士団員メンバーを厨房へ集めるように指示を出した。

 

「え? 何かあったのね? 教えて! 何があったの!?」

 

 ハーマイオニーはその場から動こうとしない。

 私は杖を取り出すと爆竹を打ち鳴らし大きく悲鳴を上げた。

 

「キャァァァァアアアアアアアアッ!!」

 

 なんだなんだと本部にいた騎士団員たちが杖を持って厨房の中へと駆け込んでくる。

 私はケロリと表情を戻すとハーマイオニーを厨房から追い出した。

 

「これでここにいる騎士団員は全員?」

 

 私がブラックに尋ねるとブラックはコクリと頷く。

 

「ああ、全員だ……あんな方法で人を呼ぶものじゃない。誤解を招くから……」

 

「そんな場合じゃないわ。聞いて。ハリーが吸魂鬼に襲われたわ」

 

 ざわざわと厨房内が騒がしくなる。

 私は机をバンッと一度叩く。

 全員がこちらに向き直った。

 

「話は最後まで聞きなさい。吸魂鬼は全て撃退したのだけれどハリーが焦って守護霊の呪文を使ってしまってね。今ごろ魔法省から無茶苦茶な令状が届いている筈」

 

「このことはダンブルドアには?」

 

 ルーピンが私に聞いた。

 

「勿論一番に伝えたわ。既に魔法省に向かっている。ダンブルドア先生ならなんとかしちゃいそうだけど、懲戒尋問は避けられないでしょうね」

 

「ああ、ハリー。きっと独りで震えているわ。家を飛び出さないといいけど……」

 

 モリーさんが机に頭を伏せる。

 ブラックはその言葉を聞いて羊皮紙に何かを書くとふくろうに付けて飛ばした。

 

「家から離れるなと忠告を出しておいた。この言葉が何処までハリーを引き留めてくれるかわからないが……」

 

「まるで構ってほしい犬みたいなことを言うのね」

 

「こんな状況で茶化すな咲夜。……このことはロンやハーマイオニーにも教えてやってくれ。モリー、いいよな?」

 

 ブラックの言葉にモリーさんは少し悩んでいるようだったが、やがて小さく頷いた。

 

「私からの報告は以上よ。やることがある人はさっさと動く! ルーピン、ムーディに連絡を付けておきなさい。きっと彼の助けが必要になるわ。マンダンガスはスネイプ先生にこのことを知らせて可能なら吸魂鬼の出処を押さえること。ビルはあちこちに伝書ふくろうを飛ばしまくって。情報の伝達は早い方がいいわ。モリーさん、夕食が焦げるわよ? トンクスは魔法省に行ってキングズリーとアーサーと合流して頂戴。多分その2人とともにダンブルドア先生もいるわ! ほらボケっとしてないでさっさとしなさい。対処が遅くなればなるほど状況は酷くなるわよ?」

 

 厨房にいる殆どの騎士団員が慌ただしく行動を開始する。

 その様子をブラックが呆れた顔で見ていた。

 

「なんというか、全員君の尻に敷かれているみたいだな」

 

「みんな不甲斐ないのよ。……いや、今回一番不甲斐ないのは私ね。もう少し注意していればこんなことには……」

 

「そう自分を責めるな。マンダンガスの奴だったら現場に居合わせることすらないかも知れない。なんにしても被害自体はないのだろう?」

 

「……そうね。被害はないわ。ダーズリーの息子が少し精神的にダメージを受けた。かも知れないけど」

 

 私はひらひらと右手を振ると厨房から出ようと扉に手を掛ける。

 だが扉を開けた瞬間ドミノ倒しになるようにロンとハーマイオニー、フレッド、ジョージ、ジニーが厨房に倒れ込んできた。

 

「何があったんだ!? ハリーがどうしたって!?」

 

 ロンが一番下で混乱するように叫ぶ。

 

「ちょっと、フレッド! 重たい!!」

 

「ジョージに言ってくれよハーマイオニー! おい、ジョージ重たいぞ!」

 

「ジニーに言ってくれ! おい、ジニー重たいぞ!」

 

「ハリーに何かあったの?」

 

 一番上に乗っかっているジニーが顔を上げて私に聞いた。

 順番にジニーから起き上がり全員が立ち上がっていく。

 私がブラックに目配せすると、ブラックは小さく頷いた。

 

「ハリーが吸魂鬼に襲われたわ。守護霊の呪文を使って撃退したのだけれど……ハリーは魔法の匂いを消すことが出来ないから十中八九魔法省からなにか令状が届くでしょうね。……モリーさん夕食焦げてるわよ?」

 

 私は焦げ臭い匂いがしたので鍋のある方を見る。

 モリーさんは今にも鍋をひっくり返しそうになりながら中身をかき混ぜ始めた。

 

「それマジかよ咲夜! 咲夜が護衛についてたんじゃ?」

 

「なんでそれを貴方が知っているのかしら? ロン」

 

 私の言葉にロンが拙いと言わんばかりに視線を逸らす。

 私はため息をつくと事情を話して聞かせた。

 

「勿論吸魂鬼は私が追い払ったわ。でもハリー自身焦っていたみたいでね。私が止めようと振り向いた時にはもう守護霊の呪文を使っていたのよ」

 

「でも未成年でも命の危険があれば魔法を使ってもいいんでしょう!? 私本で読んだわ。ちょっと調べてくる」

 

 ハーマイオニーは勢いよく厨房から飛び出していった。

 次の瞬間厨房にアーサーとキングズリー、トンクス、ダンブルドア先生が姿現ししてくる。

 

「シリウス、咲夜から事情は聞いているな。咲夜、一体何があった?」

 

 アーサーが私に質問を飛ばした。

 

「大方そっちが掴んでいる通りよ。ダンブルドア先生もここにいるということはある程度状況はよくなったのでしょう?」

 

 私はちらりとロンを見て言う。

 その視線でアーサーは察したのか軽く頷いた。

 

「ああ、そうだな。状況はだいぶ良くなった。魔法省は真っ先にハリーに退学処分と杖の破壊を言い渡した。だがこれは余りにも不当だ。ダンブルドアが直々に抗議をし懲戒尋問をすることになった。全てはそれまで保留だ」

 

「尋問の日程は?」

 

「10日後じゃよ。咲夜」

 

 アーサーに代わってダンブルドア先生が答える。

 結構時間があるものだと私は感じた。

 

「フレッド! ジョージ! ロン! ジニー! 2階に上がりなさい! ここから先は騎士団員以外は聞いてはいけません!」

 

「そりゃないぜママ!」

 

「そうさ! こんな生殺しで寝れるわけないよ!」

 

 双子が叫ぶ。

 

「ハリーが危ないんだろう!?」

 

 ロンも叫んだ。

 

「貴方たちは若すぎます!」

 

「だからどうした!? 咲夜だって未成年だ。ようは実力さえあれば――」

 

 私はノーモーションでこの場にいる全員に同時にナイフを投げる。

 アーサー、モリーさんは呪文でそのナイフを砕き、トンクスは払いのけ、キングズリーは片手でそれをキャッチする。

 ブラックやダンブルドアに至っては指2本でそれを掴み取っていた。

 一方ウィーズリーの兄弟たちは全員反応できず、全員の目の前でナイフが止まっている。

 勿論初めから当てる気はない。

 私が手を振るうと投げたナイフが全て手元に戻ってきた。

 

「騎士団員は止められて、貴方たちは止められない。これが実力の差よ。反応速度が桁違いだわ。言っておくけどさっきのはかなり低速よ。分かったらさっさと2階に上がりなさい。今、すぐに」

 

 私は厨房のドアを指さす。

 フレッド、ジョージ、ロン、ジニーは顔を真っ青にして厨房から出ていった。

 

「焦ってるのはわかるがそうトチ狂うな咲夜。普通に危ない」

 

 ブラックが静かに言う。

 私は何が? という態度を取った。

 アーサーとモリーさんは顔を真っ青にしている。

 トンクスも冷や汗を掻いていた。

 

「……なによ。だらしないわね。それでダンブルドア先生、ハリーはどうするのですか?」

 

 私は何事もなかったかのようにダンブルドア先生に聞いた。

 

「ふむ、頃合いを見計らってここへ連れてくるかの。トンクスの話じゃ既に指示は出しておるのじゃろう?」

 

「このことを伝達しただけです。もし迎えに行くのだとしたらその計画も立てなければなりません」

 

「トンクス」

 

 ダンブルドアはトンクスに声を掛けた。

 

「ダーズリー一家を一時的に家から遠ざけてほしい。そうじゃな、あの一家だったら何かの式典があると手紙を出せば喜んですっ飛んでくじゃろ」

 

「わかったわ」

 

 トンクスは椅子に座り羊皮紙を取り出す。

 私はその羊皮紙の上に郵便はがきを置いた。

 

「こっちで頼むわ。多分ふくろうが飛んで来たら撃ち落としちゃうから」

 

「撃ち落とす?」

 

 トンクスは首を捻ったが、郵便はがきに全英郊外芝生手入れコンテストで最終候補に残ったと書いた。

 私はその手紙にダーズリー家の住所を書き込むと切手を貼る。

 

「郵便ポストってわかる?」

 

「それは大丈夫。場所も完璧。お父さんはマグルだしね」

 

 トンクスはバチンと姿くらましした。

 

「さて、郵便が届くまで暫し時間があるじゃろ。リーマスがアラスターを連れてきたら作戦を考えんとならんの」

 

 ダンブルドア先生はどっしりと椅子に座る。

 私は取り敢えずこの騒動が一段落したのでモリーさんの横に立ち夕食の準備を手伝おうとする。

 だが鍋の中身は既に食べられるような代物ではなかった。

 

「……モリーさん。これは砂糖じゃなくて粉石鹸よ。スコージファイ」

 

 私が杖を振るうと焦げ付いた鍋は新品同様に輝く。

 

「つらいなら無理しなくていいと思うわ。夕食は私が作っておくから少し休みなさい」

 

 アーサーにモリーさんを任せ夕食の準備を始める。

 することがないからか、ブラックが私の横に立ち手伝い始めた。

 

「まったく、君にはいつも驚かされるね。ダンブルドアが2人いるみたいだ」

 

「そう? それは困ったわね。じゃあこれの皮を剥いてくれるかの? わしゃもう歳じゃから細かいことをすると手先が震えてのう……」

 

 私はダンブルドア先生の声真似をする。

 

「まだそこまで老けてはおらんよ」

 

「100歳越えてるでしょう? よく言うわ」

 

 ブラックは苦笑しながらジャガイモを受け取る。

 私はコンソメと少しの調味料でスープの味を調えた。

 これから忙しくなるだろう。

 私は鍋を混ぜながらそのようなことを考えていた。

 

 

 

 

 

 

 その4日後、ようやくハリーの護送が行われることとなった。

 闇祓いであるキングズリーがあちこちに秘密裏に手を回し、安全を確保したとのことだ。

 ハリーの護送任務には多くの騎士団員が名乗りを上げた。

 私たちは前衛、後衛、支援の3組に分かれ、作戦を開始する。

 作戦自体は簡単だ。

 前衛が姿現しでハリーの家の近くまで移動し、ハリーを家から連れ出す。

 そして箒に乗って本部まで戻ってくる。

 途中前衛が何者かに襲われたら後衛がハリーと合流しやはり本部へとハリーを護送する。

 支援の組は安全を確認し、前衛へと合図を送ることになっていた。

 後衛、支援の組は既に本部を離れて配置についている頃だろう。

 私は前衛に選ばれた人物をぐるりと見回した。

 ムーディ、ルーピン、キングズリー、トンクス、ドージ、ディグル、バンス、ボドモア、ジョーンズ。

 そして私だ。

 ムーディが広いホールにいる面々をぐるりと見ると、手で軽く合図をした。

 次々に魔法使いが姿くらまししていく。

 私もそれに合わせて姿くらましをした。

 私が地に足をつけるころには殆どのメンバーがダーズリーの家の前に集合していた。

 

「アロホモラ」

 

 トンクスがドアのカギを開錠するとわらわらと家の中へと入る。

 マグルの家に入ったのは初めてなのか半数ぐらいが電化製品をあちこち触り楽しそうに話し合っていた。

 

「呑気なものね」

 

「全員警戒を怠るな」

 

 ムーディは油断なく杖を構えている。

 次の瞬間上の階で扉が開く音が聞こえた。

 全員が咄嗟に音のした方を見る。

 すると非常に警戒した様子のハリーが杖を持って現れた。

 

「おい坊主、杖を下ろせ。誰かの目玉をくり貫くつもりか?」

 

 ムーディが低く唸る。

 

「ムーディ先生?」

 

 ハリーは半信半疑といった表情だった。

 それはそうだろう。

 去年ハリーがムーディだと思って接してきた人は、実は死喰い人だったのだから。

 

「先生かどうかはよくわからん。何せ教える機会がなかっただろうが? ここに降りてくるんだ。ちゃんと顔を見せろ」

 

 ハリーは次の行動を決めかねているようだった。

 杖を降ろさず迷ったように私たちを見つめている。

 どうやらこの暗さで私たちの顔が良く見えていないらしい。

 

「大丈夫だよ、ハリー。私たちは君を迎えに来た」

 

「ルーピン先生? 本当に?」

 

「そっか、わたしたちどうしてこんな暗いところに立ってるんだろ。ルーモス」

 

 トンクスが杖先に明かりを灯す。

 ハリーは驚いたように私たちを見回した。

 

「わぁぁあ、私の思った通りの顔してる。よっ! ハリー!」

 

 トンクスが楽しそうに杖を振る。

 なんというかトンクスは美鈴さんに通じるところがある気がする。

 

「うむ、リーマス、君の言っていた通りだ。ジェームズの生き写しだ」

 

「目だけ違うな。リリーの目だ」

 

 キングズリーの言葉にドージが半分同意する。

 ムーディは左右2つの目でハリーを怪しむように見ていた。

 

「ルーピン、咲夜、確かにポッターだと思うか? ポッターに化けた死喰い人を連れ帰ったら笑いごとじゃ済まないぞ。誰か真実薬を持ってないか?」

 

「あるわよ」

 

 私は鞄の中をゴソゴソと漁る。

 その様子にルーピンは慌ててハリーに質問を飛ばした。

 

「ハリー、君の守護霊はどんな形をしている?」

 

「牡鹿」

 

 ハリーは短く答える。

 確かにハリーの守護霊は牡鹿だ。

 ルーピンは安堵したようにため息をつく。

 

「マッドアイ、間違いなくハリーだ」

 

 ルーピンはそう断言した。

 ハリーはその言葉を聞いて恐る恐る階段を下りてくる。

 そして下りながら杖をズボンの尻ポケットに仕舞おうとした。

 

「おい、そんなところに杖を仕舞うな!」

 

 その瞬間ムーディが怒鳴った。

 

「火が点いたらどうする? おまえよりもしっかりした魔法使いがそれでケツを失くしたんだぞ!」

 

「それマジ? 一体誰?」

 

 トンクスが興味津々に聞いた。

 

「誰でもよかろう。とにかく尻ポケットに杖を入れるな」

 

 ムーディはそう唸ると調子が悪そうに義眼を動かす。

 ルーピンが順番にここにいるハリーと初対面の魔法使いを紹介していった。

 

「くそっ……動きが悪くなった。あの馬鹿がこの目を使ってからずっとだ。ハリー、コップに水を入れてくれんか?」

 

 ムーディは義眼を指で引っこ抜く。

 その様子を見てトンクスが顔を顰めた。

 

「マッドアイ、それかなり気持ち悪いわよ? わかってるの?」

 

「これ以上に便利な義眼を他に知らんのでな。や、どうも」

 

 ムーディはハリーの持ってきた水入りのコップに義眼を入れ、指で突いて浮き沈みさせる。

 

「帰路には360度全方位の視野が必要になる」

 

「どうやって行くんですか? ……どこへ行くかも知らないけど」

 

 ハリーがムーディの言葉を聞いて尋ねた。

 

「箒だ。それしかない」

 

 ハリーの問いにルーピンが答える。

 

「君は姿現しには若すぎるし、煙突飛行ネットワークは見張られている。未承認のポートキーを作れば我々の命がいくつあっても足りないことになる」

 

「リーマスが、君は良い飛び手だと言うのでね」

 

「ああ、素晴らしいよ。とにかくハリー、荷造りをした方がいい。合図がきたときに出発できるように」

 

 キングズリーの言葉にルーピンは笑顔で頷き、ハリーに荷造りをするようにと指示を出す。

 

「私手伝うわ」

 

 トンクスがハリーの肩を持って2階へと上がっていった。

 ルーピンはその様子を少し心配そうに見送ると机に便箋を広げこの家へ残していく手紙を書き始める。

 キングズリーとポドモアは楽しそうに電子レンジを調べていた。

 私は目の調子を確かめているムーディに声を掛ける。

 

「どうしても拙いことになったら声を掛けて。なんとかするから」

 

「小娘が何を言う。……と言いたいところだがダンブルドアがお前の力を認めていることは確かだ。じゃないと騎士団の主要メンバーには置かないからな。期待はしておくぞ」

 

 ムーディは通常の目で私を見る。

 私は小さく頷いた。

 しばらくするとトンクスがハリーのトランクを浮かせ下りてくる。

 ハリーもその後に続いていた。

 

「よし、あと1分ほどで安全確認が終わるはずだ。庭に出て待っていた方がいいかもしれないな。ハリー、叔父さんと叔母さんが心配しないように手紙を残したから――」

 

「心配なんてしないよ」

 

 ルーピンの言葉をハリーは遮った。

 

「――君は安全だと――」

 

「がっかりするだけさ」

 

「――そして君がまた来年の夏休みに戻ってくるって――」

 

「そうしなきゃいけない?」

 

 ルーピンはそんなハリーの様子を見て軽く微笑む。

 大方、「ああ、ジェームズの子だなぁ」などと思っているのだろう。

 

「おい、こっちへ来るんだ。お前に目くらましをかけないといかん」

 

 ムーディが乱暴にハリーを引き寄せる。

 

「えっと……何をしなきゃって?」

 

 ハリーが心配そうに尋ねた。

 

「目くらまし術だ。お前さんは透明マントを持っているようだが飛んでいたら脱げてしまう。こっちのほうが上手く隠してくれるだろう。それ――」

 

 ムーディはハリーに目くらまし術を掛ける。

 するとハリーはまるで背後を透過しているように色を変えた。

 

「これでいい。行こう」

 

 ムーディが杖を振るうと裏庭に続く扉の鍵が開く。

 私たちは見事に手入れされた芝生の上に出た。

 鞄を開き、オークシャフト79を取り出す。

 ハリーは既にファイアボルトに跨っていた。

 

「ハリー、お前は真ん中だ。トンクスの後に続け。ルーピンはハリーの下だ。わしは背後にいる。十六夜は先頭を飛べ。他の者は周囲を旋回しながら警戒する。いいか? 何事があっても隊列を乱すな。例え誰かが殺されても――」

 

「そんなことがあるの?」

 

「――ほかのものは飛び続ける。止まるな。列を崩すな。もし死喰い人どもがわしらを全滅させたとしてもハリー、お前はまっすぐ飛び続けろ。後衛が合流しお前の護送をする」

 

 ハリーの言葉は軽く無視されてしまったようだ。

 私は赤い閃光を確認し、箒へと跨る。

 

「そろそろ出るわよ。準備をしなさい」

 

 私の言葉にハリーは急いでファイアボルトの柄を掴みなおした。

 次の瞬間緑色の光が私の目に映る。

 私は地面を強く蹴り大空へと飛び立った。

 そのまま上空へと昇り、ムーディの指示に従って進路を変える。

 ムーディは非常に用心深い性格だ。

 彼の指示通りに飛んでいれば大体の危険は回避できるだろう。

 私はハリーの方を見る。

 ハリーは寒そうに凍えていた。

 この季節とはいえ、上空は冷える。

 少し急いだほうがいいかもしれない。

 私はオークシャフトで出せる限界の速度でブラック邸へと一直線に飛ぶ。

 そして一気に降下して小さな広場の上に着地した。

 その横にハリーも着地し、辺りを見回している。

 

「ここは何処?」

 

「あとで教えるわ」

 

 私は上空を見上げる。

 次々と魔法使いたちが広場へと着地していった。

 ムーディはマントの中をゴソゴソと漁ると小さなライターを取り出す。

 そして火をつけるように一度カチッと鳴らすと近くの街灯の明かりがポンと消えた。

 ムーディはそれを繰り返し広場の明かりを全て消した。

 

「ダンブルドアから借りた。これでマグルが窓からこちらを覗いても大丈夫だろうが? さあ、行くぞ、急げ」

 

 ムーディは暗闇の中をハリーの腕を掴んで歩き出す。

 私は杖を構えその後に続いた。

 そして数分も歩かないうちにムーディは立ち止まる。

 私は首を回し建物を見た。

 そう、ブラック邸だ。

 

「急いで読め。そして覚えてしまえ」

 

 ムーディが杖明かりと共にハリーに羊皮紙を押し付ける。

 大方ブラック邸の住所だろう。

 

「なんですか? この騎士団って……」

 

 どうやら羊皮紙には不死鳥の騎士団のことも書いてあったらしい。

 ハリーがムーディに聞くが、ムーディは口を噤んだ。

 

「中に入るまで待て」

 

 ムーディはハリーから羊皮紙をひったくると杖でそれに火をつける。

 ルーピンはブラック邸の玄関へと進み、古びた扉に杖で1回叩いた。

 途端に中で鍵の開く音がしてゆっくりと扉が開く。

 

「早く入るんだハリー。ただし、あまり奥には入らないようにね」

 

 ルーピンがハリーを急かす。

 ハリーがブラック邸へと入ったのを見て騎士団員が次々と中へと入っていった。

 私も中へと入るとムーディは街灯の明かりを戻し扉を閉める。

 任務は無事終了というわけだ。

 

「みんな、じっとしていろ……わしがここに少し明かりを点けるまでな」

 

 ムーディが壁についている蝋燭に火をつける。

 玄関ホールが蝋燭の弱い光で照らされた。

 厨房の方からドタバタと誰かが走ってくる音が聞こえてくる。

 ブラックだろうか。

 いや、ブラックにしては足音が重たい。

 

「まあハリー、また会えて嬉しいわ!」

 

 足音の主はモリーさんだった。

 モリーさんはハリーの肋骨を折らんばかりに強く抱きしめる。

 

「痩せたわね。ちゃんと食べさせなくちゃ。でも残念ながら夕食までちょっと時間があるわ」

 

 モリーさんはようやくハリーを解放すると、私たちに声を掛けた。

 

「あの方がいましがたお着きになって、会議が始まってますよ」

 

 あの方とはダンブルドア先生のことだろう。

 モリーさんの言葉を聞いて騎士団員たちが次々に厨房へと入っていく。

 ハリーはルーピンについて厨房に入ろうとしたが、モリーさんに引き留められた。

 

「だめよ、ハリー。騎士団のメンバーだけの会議ですからね。ロンもハーマイオニーも上の階にいるわ。会議が終わったら夕食よ。案内するわ」

 

 モリーさんはハリーを引き連れて2階へと上がっていった。

 私は騎士団員に続き厨房へと入る。

 上座にはダンブルドア先生が座っており、殆どの騎士団員が席についていた。

 

「護送は無事終了だ。支援の班から聞いた話だが、死喰い人の姿は確認できなかったらしい」

 

 ムーディが自分の酒瓶から酒を飲みつつダンブルドア先生に報告する。

 

「皆のもの、よう頑張ってくれた。ハリーの身柄はこの本部で預かる。警備の者はいつも以上に警戒するように。ムーディは近場におってくれ。ハリーを動かすときの護衛をして欲しいのでの。他の者は自分の任務に戻ってよろしい。今まで交代でハリーの監視、護衛をおこなっておったものは死喰い人の捜索と関係者の安全確保に努めてくれ。さて、ムーディよ。護送の時の話を詳しく教えてくれるかの?」

 

 ダンブルドア先生の言葉にムーディが答えようとしたその時、上の階からハリーの大声が聞こえてくる。

 それと同時にモリーさんが厨房に入ってきた。

 

「え? 何? ハリーに何か……」

 

 モリーさんはいきなりのことに肩をビクつかせる。

 私はモリーさんを座らせ厨房の扉の方へと向かった。

 

「ちょっと見てきます。盗聴対策に呪文を掛けておいてください」

 

「ほどほどにな、小娘」

 

「本当にほどほどで頼むよ?」

 

 ムーディの言葉にルーピンが同意した。

 

「なに、殺す気で行け」

 

「スネイプ、今皆で命がけでハリーの命を守っていたところなんだが?」

 

 低く冷たいスネイプ先生の冗談を、ブラックが問い返した。

 

「会議を続けておいてください。すぐに戻ってきますので」

 

 私は厨房を出ると2階へと上がる。

 2階の子供部屋に近づくにつれてハリーの声が大きくなってきた。

 どうやらかなり興奮しているようだ。

 

「4年生のとき、いったい誰が、ドラゴンやスフィンクスや、他の汚いやつらを出し抜いた? 誰がアイツの復活を目撃した!? 誰があいつから逃げ遂せた!? 僕だ!!」

 

 何か言っている。

 正直うるさい。

 

「だけど何が起こっているかなんて、どうせ僕には知らせる必要はないよな!? 誰もわざわざ僕に教える必要なんてないものな? 4週間もだぞ! 僕はプリベット通りに缶詰で、何がどうなっているのか知りたくて、ごみ箱から新聞を漁ってた!!」

 

 ああ、あの奇行の正体は気が狂った末の行動ではなかったわけだ。

 あの光景を見たときにはもうハリーは駄目かも知れないと本気で考えたものだ。

 

「君たち散々僕を笑いものにしてたんだ!! そうだろう!? みんな一緒にここに隠れて――」

 

「五月蠅いッ!! 口を縫い合わすわよ!!」

 

 私はドアを蹴り開けてハリーに怒鳴る。

 少々スマートではないが、大声で叫ぶ相手にはそれ以上の大声で圧倒するしかない。

 ハリーはいきなりの大きな音と大声で弾かれるようにこちらを見る。

 一緒の部屋にいたハーマイオニーとロンは腰を抜かしていた。

 

「今下で会議をしているの。静かにしてくださるかしら」

 

「咲夜、君だって――」

 

「ハリー、やめとけよ。咲夜には――」

 

「僕はこの4週間何も知らなかったんだ!! けど咲夜はあの場にも今日この場にもいた!! 一体どうい――」

 

 私は鞄から裁縫道具を取り出す。

 そして湾曲している縫い針を取り出した。

 

「ロン、ハーマイオニー。ハリーを押さえておきなさい」

 

「冗談きついぜ咲夜!? ハリー、もう黙った方がいい。あの目は本気だ」

 

 ロンがハリーの口を手でふさぐ。

 私はその様子を見て裁縫道具を仕舞い直した。

 

「ハリー、事情はその2人から聞きなさい。私は会議に戻るわね」

 

 私は手をひらひらと振って厨房へと姿現しする。

 そして何食わぬ顔で会議へと戻った。




用語解説


奇行が目立つハリー。
自分を殺そうとしている殺人鬼がいるのに誰も守ってくれない。しかも軟禁に近い状態。そりゃ気が狂います。

ビッグD
ハリーだったらビッグH? 少しやらしいです。

煽るハリー
主人公としてどうなのってほど原作でもダドリーを煽っているハリー。過去苛められているところを見ていない咲夜からしたらただの感じの悪いガキにしか見えない。

ドジっこさくっちゃん
みんな大好きアンブリッジを登場させるための致し方ないドジっこ要素。

咲夜の尻に敷かれる騎士団員
これでも歴戦の魔法戦士ばかりです。

味方にも構わずナイフを投げる咲夜
もっとも、ヴォルデモートに投げつけたような本気の速度ではないです。キャッチボール感覚。

ハリー「僕だって!」
咲夜「今度余計なことを言うと口を縫い合わすぞ」


追記
文章を修正しました。

2018-11-08 加筆修正

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