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11月24日の昼。
第一の課題が始まろうとしていた。
私はハリーから得た情報をもとに様々なところから必要なものを仕入れ、鞄に詰めてある。
準備は完璧だ。
私は最終確認を取るべくリドルの日記を取り出した。
『リドル、昨日のお嬢様の言葉、嘘じゃないわよね?』
『ああ、第一の課題を優雅にクリアするために、能力がバレる危険性を犯すかもしれないという話だろ? 伝えた通りだ。どうせそのうちバレるから盛大にやれだとさ』
『その言葉、心に刻むわ』
私は日記を閉じ鞄に仕舞う。
そして選手の集合場所であるテントの中に入っていった。
中には既にクラムとデラクールがいる。
デラクールは落ち着かない様子で椅子に座り、冷や汗をかいている。
クラムはむっとした表情で壁に背を付け立っていた。
『ボーバトンのお姫様は随分と余裕がなさそうね』
『逆になんで貴方がそんなに余裕を持っていられるのかが不思議だわ。少しその精神力を分けて』
デラクールは力なく頭を上げた。
『大丈夫。貴方はボーバトンの代表選手でしょ? 自信をもって臨めばいいわ』
『年下に励まされている時点で自信もなにもないけどね』
デラクールはペチペチと両手で自らの両頬を叩いた。
『もう大丈夫よ。勝つのは私なんだから』
デラクールは笑顔を取り戻すと私に対して不敵な笑みを浮かべた。
次の瞬間おどおどとした足取りでハリーが入ってくる。
今から処刑されるかのような顔をしていた。
「ハリー! よーし、よし!」
バグマン氏がテントの外から歩いてきたハリーを手招く。
そして選手全員を近くへと集合させた。
「さて、もう全員が集合したな。話して聞かせるときが来た!」
バグマン氏が陽気に話し始める。
「観衆が集まったら、私から諸君1人ひとりにこの袋を渡し、その中から諸君はこれから直面するものの小さな模型を選び取る! 様々な……えー、違いがある。それから……そうだ。諸君の課題は金の卵を取ることだ!」
金の卵を取る。
その言葉を聞いてハリーとデラクールは胸を撫で下ろした。
少なくともドラゴンを殺すことが課題ではないと分かったからだろう。
暫く経つと何千もの足音がテントのそばを通り過ぎていくのが聞こえてくる。
そして足音が消えた頃にバグマン氏が袋の口を開いた。
「さて、レディー・ファーストだ。十六夜君、君から引きなさい」
私は無造作に袋の中に手を突っ込む。
そして中からドラゴンの模型を取り出した。
ウクライナ・アイアンベリー種だ。
首周りに4という数字を付けている。
小さなドラゴンの模型は私の手の平の上でもぞもぞと動いていた。
そしてデラクールはウェールズ・グリーン種、数字は1。
クラムは中国火の玉種、数字は2。
ハリーはハンガリー・ホーンテール、数字は3だった。
「あっと、一番の外れを引いてしまったね。それが今回のジョーカーだったのに!」
バグマン氏が叫び声を上げる。
それはそうだろう。
ドラゴンの勉強は一通り済ませたが、ウクライナ・アイアンベリー種はドラゴンの中でも最大級の大きさを誇るドラゴンだ。
そして非常に凶暴であることでも有名である。
「何はともあれ、諸君はそれぞれが出会うドラゴンを引き出した。番号はドラゴンと戦う順番だ。1番はミス・デラクールだね。私がホイッスルを鳴らしたら、まっすぐと競技場に出たまえ。私は司会なのでもう行かなければならんからね」
ハッハッハと笑いながらバグマン氏は出ていく。
私は自分の指を噛んでいるドラゴンを観察した。
「今更だけど聞いておきたい。咲夜はどうやってドラゴンを出し抜くつもりなんだい?」
ハリーがこちらに近づいてきた。
手にはしっかりとドラゴンの模型を持っている。
「そうね、適当に失神呪文でもかけようかしら」
ブザーが鳴った。
デラクールがびくびくしながら出ていく。
『頑張って。生きて帰って来たら一緒に食事でも食べましょう』
『貴方が出てくとき同じセリフを言ってあげるわ』
デラクールが競技場へと出ていく。
数秒後に大歓声が沸き起こった。
「失神の呪文だって? それは無理だ咲夜。僕は見た。半ダースもの魔法使いが一斉に失神呪文をかけてようやく気絶するような相手だ」
ハリーは私の持っている模型を見る。
「しかもウクライナ・アイアンベリー種だよね、それ。そんなんじゃ無理だと思うけど……」
「味気ないって言いたいの?」
「そういう意味じゃないよ」
競技場の方からはバグマン氏の実況の声が途切れ途切れに聞こえてくる。
10分ほど経つと耳を劈くような大歓声が聞こえてきた。
「本当によくやりました。さて、審査員の点数です!」
本当に点数制なのだと改めて認識する。
「1人終わってあと3人! ミスター・クラム!」
ブザーが鳴り、クラムがズカズカと出て行った。
「デラクールは無事出し抜いたみたいよ。案外掛かったわね」
ハリーは自分の番が近くなってきたからか、カタカタとその場で震え出した。
私はその滑稽な光景に思わず噴き出した。
「な、何が可笑しいんだよ……」
ハリーが震えながら抗議の視線を送ってくる。
「ご、ごめんなさい……まさかバジリスクを12歳の時に杖も無しに倒した少年が14にもなってドラゴンに震えているなんて可笑しくって」
その私の言葉にハリーは目をハッと見開いた。
私はハリーに微笑みかける。
「今回は出し抜くだけよ。何をそんなに怖がっているの? 自信を持ちなさい。ドラゴン程度で揺らぐ貴方じゃないでしょう?」
ブザーが鳴り、ハリーの番が来た。
震えは、止まっていた。
「咲夜……行ってくる」
ハリーが杖を持って立ちあがる。
「ええ、いってらっしゃいな」
私は適当に手を振って見送った。
ハリーが競技場の方向へ消えると私は鞄を開き中身の点検をする。
大きさにもよるが、そこまで大きいわけではない筈だ。
だが今回は点数制、ジョーカーとも言っていたので案外大型のものを連れてくるかもしれない。
競技場の方からはバグマン氏の威勢のいい実況が聞こえてくる。
どうやらハリーはファイアボルトを呼び寄せ、ドラゴンを陽動しているようだ。
そしてクラムよりも早い時間で金の卵をゲットしたらしい。
「やった! やりました! ハリー・ポッターが最短時間で卵を取りました! これでポッター君の優勝の確率があがるでしょう!」
そんな実況が聞こえてきた。
そしてしばらくするとブザーが鳴る。
私は鞄をテントの中に置くと、時間を止め制服からメイド服に着替える。
そして時間停止を解除し、競技場へと躍り出た。
「さあ最後の選手の登場です。おーっと! これはサービスか!? メイド服を着ています。みなさんよく心のカメラであの姿を……っと話がズレました」
競技場の中は簡単な岩場のようになっていた。
中央には本物の卵に交じって金の卵が置いてある。
そしてそれを守るようにウクライナ・アイアンベリー種がその上にいた。
私は杖を右手に持ち優雅にドラゴンにお辞儀をする。
「おっと、ドラゴンと決闘でもしようとしているのか? ドラゴンは奇妙な物を見るような目で十六夜選手を見つめます」
私は頭を上げると近くにある岩に向かって呪文を飛ばす。
「レダクト! 粉々。ウィンガーディアム・レビオーサ! 浮遊せよ」
岩は粉々になり宙を舞うが、地面に落ちることはない。
何百という小石が私の杖の動きに合わせてドラゴンを包囲した。
小石はドラゴンの周りを包むように列を作り規則正しく飛ぶ。
そして私が杖を振るとその全てがナイフへと変化した。
「It's Show Time. 踊り狂いなさい」
私はその場にある岩を手当たり次第に砕き、ナイフへと変える。
そしてドラゴンの周囲に回っているナイフにぶつけるように次々とナイフを投擲した。
私が投げた数十本のナイフは周囲を回っていたナイフに当たると跳ね返り、そのどれもがドラゴンの方へと突き進んでいく。
ドラゴンはナイフの結界によって包まれ、その中で跳ね返り踊り狂うナイフに八つ裂きにされていった。
「これは何ということでしょう! まるでナイフが意思を持っているかのようにドラゴンを包み込み傷つけていきます。ですがこれでは致命傷は与えられません」
そんなことは分かっている。
私はドラゴンを包み込むナイフが1341本になったところでナイフを追加するのを止め、ナイフの結界に向けて呪文を掛けた。
「秘儀『黒髭危機一発』」
ドラゴンの周りを舞っていたナイフ全てがドラゴンの方に先端を向ける。
そして初めに投げたナイフから順に物凄い速度でドラゴンの体へと突き刺さっていった。
「物凄い連撃です! 硬い鱗をものともせずにナイフがドラゴンに突き刺さっていきます。ドラゴンを針山にでもするつもりなのでしょうか!?」
千本以上のナイフが10秒足らずでドラゴンの体へと突き刺さっていく。
ドラゴンは苦しそうに唸り声をあげ、頭を高く上に上げた。
そして最後の1本が突き刺さった瞬間、私は時間を止める。
「ふう、あとは仕上げね」
私は額に浮いた汗を拭うと一度テントに鞄を取りに行った。
そしてその鞄の中から巨大なチェーンソーを取り出す。
リコイルスターターのロープを強く引き、100cc以上ある2ストロークのエンジンを始動させた。
魔法の世界には似つかわしくないエンジンの音が競技場内に木霊する。
私はそのチェーンソーで上を向いているドラゴンの首を横向きに切断した。
切断した頭部を一旦持ち上げ中にダイナマイトを計算して設置する。
そして火をつけ爆発する寸前で時間を停止させ、頭部を乗せた。
「そして時は動き出す」
私は時間停止を解除する。
次の瞬間爆発音と共にドラゴンの生首が宙へと打ちあがった。
「ど、ドラゴンの首が飛びました! 一体どういうことだ!? どのような魔法を使ったのか見当もつきません!」
ドラゴンの首は計算通り切断面を焼きつかせ、まっすぐと地面に落ちてくる。
私は生首の落下地点に変身術で銀の皿を用意した。
ドシャリという鈍い音を立ててドラゴンの首が銀の皿に載る。
私はもう一度お辞儀すると優雅に歩いて金の卵を持ち上げた。
「やりました! 十六夜選手最短時間で金の卵を手に入れました! しかもドラゴンを討伐してのクリアです。えー、非常に魅せてくれました。まさに優雅! まさに瀟洒! 傷どころか服さえも汚しておりません。これは高得点が期待できそうです」
バグマン氏の実況に、固まっていた観衆の時間が動き出す。
競技場内が揺れるほどの大歓声と拍手が沸き起こった。
私は金の卵を片手で天高く掲げる。
ここまでしたら文句をいう者などいないだろう。
「さあ! 審査が終わったようです」
マダム・マクシームが杖を振る。
すると長い銀色のリボンのようなものが杖から噴き出し数字を作り出した。
10点、マダム・マクシームは満点だ。
続くクラウチ氏、10点。
ダンブルドア先生、10点。
バグマン氏、大きく拍手をしながら10点。
カルカロフ、3点。
「マジかよ!」
周囲の歓声がぴたりと止み、誰かが叫んだ。
私は周囲が静かになったことを良いことにカルカロフに叫ぶ。
「あら、貴方の自慢のクラムは競技をクリアするのに何分掛かったのかしら? 自慢のクラムは私と同じことが出来ると?」
私の言葉に観衆の殆どが賛同しカルカロフにブーイングをぶつける。
カルカロフは悔しそうな顔をして10点と点数を変化させた。
これで50点満点、最高値だ。
その結果に観衆は割れんばかりの拍手を私に贈ってくれる。
「満点、満点が出ました! 今大会初の満点です! 学生とは思えないような……いや、闇祓いでも単身でドラゴンの討伐などやってのけないでしょう! 文句のつけようがない技術と力量です!」
私は観衆に手を振りながらテントへと戻った。
テントの中には既にクラム、デラクール、ハリーの3人がいる。
「おー、さくーやあなた最高でーす!」
デラクールが怪我をした体で抱き着いてくる。
『やるじゃない! 私素直に見とれちゃったわ! それに最後のあれは何?』
デラクールは私を抱きしめながらピョンピョン飛ぶ。
その度にデラクールの胸部についている凶悪な物が私の顔に当たった。
『何よ、ただの変身術と浮遊魔法じゃない。最後のは流石に秘密だけど』
私はうっとうしいと言わんばかりにデラクールを押し返す。
……やはり食べるものが違うのだろうか。
いや今はそんな話はどうでもいい。
デラクールが私から離れた次の瞬間、バグマン氏がテントの中に入ってきた。
「全員本当によくやった!」
バグマン氏は自分のことのように喜んでいる。
「さて、手短に話そう。第二の課題までは十分に長い休みがある。第二の課題は、2月の24日の午前9時に開始される。だが時間があるとはいえ、諸君にはちゃんとやることを用意した」
バグマン氏は金の卵を指さす。
「蝶番が見えるかな? そう、卵は開くようになっている。その中に第二の課題のヒントを入れておいた。みんな分かったな? では、解散!」
バグマン氏がパンパンと手を叩き笑いながら出ていく。
私は今一度金の卵を見た。
確かに底の部分に蝶番があり、殻が3つに割れるようになっているようだ。
「ヒント、ねえ。準備がないと難しい競技なのかしら」
私はハリーの方をチラリと見る。
ロンと楽しそうに話をしていた。
最近ロンとは疎遠になっていると感じていたが、いつの間に仲直りをしたのだろう。
私は金の卵を鞄に仕舞うとテントを出ようとした。
「ごめんあそばせ。少々お話を聞いてもよろしくて?」
私の目の前に赤紫色が広がる。
スキーターが私の進路を遮ったのだ。
「14歳の少女が満点なんて素敵ざんす! 2位の2人と10点差をつけての1位ざんすけど、今の気分は? やっぱり誇らしい?」
「スキーターさん、立ち話は何ですのでそこのテーブルでお茶にしましょう」
私はテント内に設置されているテーブルを指さした。
スキーターは「素敵ざんす!」と叫ぶと飛ぶように椅子に座る。
私もその向かい側に腰かけ、鞄から一通りのティーセットを取り出した。
ティーカップの数は3つ。
私と、スキーターと、そしてダンブルドア先生の分だ。
「ほっほう。これは美味しそうじゃのう」
いきなり隣に現れたダンブルドア先生にスキーターが飛び上がる。
私はダンブルドア先生が会いに来るのは分かっていたので平然と紅茶を用意した。
「わしもインタビューに同席してもよろしいかの。なに、わしのことはちょっと奇抜なケーキスタンドだと思えばよい」
ほっほっほ、とダンブルドア先生は私が淹れた紅茶を手に取りながら笑う。
スキーターは少々戸惑っていたが、気を取り直して羊皮紙と羽ペンを取り出した。
「ドラゴンとの対決、素敵でしたわ。縦横無尽に舞うナイフ、計算され尽された反射角度、そしてドラゴンの鱗をも貫く威力。そして驚きのクライマックス! 素敵ざんす! 一体どのような魔法を用いたのかしら……」
スキーターは興奮したように私のほうに身を乗り出す。
私は静かに一口紅茶を飲んだ。
「まず岩を砕いたのが粉砕呪文。それを浮遊呪文で浮かべ、変身術でナイフへと変化させました。その後は操作系の呪文を用いてナイフを舞わせ、襲撃呪文を用いてドラゴンを針山に。最後は爆破呪文です」
「思った以上に普通の魔法ざんすね……でも技量は凄まじいですわ!」
「それでは特殊な術は今回使っておらんということかの?」
ダンブルドア先生が紅茶を一口飲んで言った。
「あら、ケーキスタンドが何か言ってるざんす」
「気にしなくていいですよ」
「ケーキスタンドだって喋るじゃろ」
一瞬の沈黙のあと、私は仕方なしに口を開いた。
「ダンブルドア先生、この質問に関してはお答えできませんわ。ですが殆どの魔法が学校で習う呪文であると答えておきます」
もっとも、能力をごり押しして更に華やかにすることは出来た。
だがあまりやり過ぎると観衆と審査員が引いてしまう。
何をどうしたらそういうことが出来るのか、適度に考察できるほうがいいのだ。
「今回ので他の選手の実力は分かったざんしょ? ライバルになりそうな選手はいる?」
「そうですね。意外と高得点だったハリーが気になります。クラムと同じ点数でしたっけ? 同じ年齢だけに意識してしまうのかも知れません」
そのような感じで無難にスキーターのインタビューに答えていく。
どうせスキーターの好きなように改変されるのだ。
ある程度私の伝えたいことを伝えればそれでいいだろう。
10分ほどの質疑の後、スキーターと分かれダンブルドア先生と共に城へと戻る。
禁じられた森に沿って校庭を歩いていく。
もうすぐ城につくというところでダンブルドア先生が口を開いた。
「少々意外じゃった。もっとわしにも想像がつかん方法を取るものと思っていたのでの」
「買い被り過ぎですよ」
「わしはそうとは思えんが……聞いてもよいかね。君の能力のことを」
「駄目です。せいぜい想像力を働かせてください」
では、と私は一度頭を下げる。
そしてその場で時間を停止させた。
私は止まったダンブルドア先生を置いて城へと帰る。
そして人目のない場所で時間停止を解除した。
そのままホグワーツの廊下を歩き大広間へと向かう。
取り敢えず夕食を取ろう。
談話室に一度帰ってもいいが、今帰るとやかましいぐらいの歓迎を受けることになるだろう。
私は意気揚々と大広間に入り、グリフィンドールの机に座り夕食を取り始めた。
第一の課題から少し経ち、暦の上でも12月になった。
私は午後の占い学の授業を終わらせると夕食も取らずに地下廊下に向かう。
そして果物皿の絵画の梨をくすぐり、絵画を開けて中に入った。
そう、この絵画の奥はホグワーツの厨房になっている。
ここに来たのは他でもない。
第二の課題に関して、屋敷しもべ妖精の意見が聞きたかったのだ。
第二の課題のヒントは金の卵にあるとバグマン氏は言った。
第一の課題の後ハリーは談話室内で金の卵をグリフィンドール生の前で開け放ったのだが、そこから聞こえてきたのは人の悲鳴を何重にも重ねたようなノイズミュージックだった。
私もあの後何度か時間を止めてその音楽を聞いてみたが、意味は分からない。
故に人間ではない生物の意見が聞きたくてここに来たのだ。
決して屋敷しもべ妖精のキーキー声がこの悲鳴の声に聞こえるからといった安直な理由でないことは言っておこう。
私が中に入ると何人もの屋敷しもべ妖精が主人の帰宅だと言わんばかりに出迎えてくれる。
ここに来るのは2度目どころではない。
私は厨房に毎週のように通っていた。
というのは、手持ちの紅茶の葉や水、そしてお菓子などは鞄から無尽蔵に出るわけではない。
今まではホグズミードに買いに出ていたが、ホグワーツ内で調達できるのならそれに越したことはないのだ。
「はぁい、ゴリー。元気? スニッキンもね。ああ、ビリー。そんな顔しないでよ」
私は屋敷しもべ妖精1人ひとりに挨拶をしていく。
もう大体の屋敷しもべ妖精の顔と名前は覚えた。
そう言えば、最近変わり者のドビーと泣き虫のウィンキーがホグワーツに移ってきた。
ドビーは屋敷しもべ妖精なのに金銭と休みを欲したらしい。
と言っても私利私欲のためではなく、あくまで自分の人生に味付けをするための些細な物のようだ。
そしてドビーは自分は誰の者でもないと言わんばかりに様々な服で身を固めている。
帽子代わりにティーポットカバーを被り、上半身にはネクタイ、下半身には短パンを履いている。
その恰好は屋敷しもべ妖精からしても異様なもののようで、しかも金銭を欲したことにより皆から疎まれていた。
「みんな、聞いてくれるかしら」
私が一声かけると伝言ゲームのようにそれが伝わっていき厨房にいた屋敷しもべ妖精が集まってくる。
私は全員が私の話を聞いていることを確かめるとゆっくりと説明を始めた。
「私が代表選手であることは周知の事実だとは思うけど、実は少し行き詰っていてね。少し力を貸して欲しいのよ。今からこの卵を開けるけど、大きな音で悲鳴のようなものが聞こえると思うわ。この悲鳴を聞いて何か思いついた者が居たら、報告して頂戴。準備はいいかしら?」
屋敷しもべ妖精は静かにコクコクと頷く。
そして全員が耳を澄ませた。
「行くわよ」
私は金の卵を開く。
すると相も変わらず悲鳴のようなノイズミュージックが流れ始めた。
何人かの屋敷しもべ妖精は耐え切れないと言わんばかりに耳を塞ぐ。
そして何人かの屋敷しもべ妖精は余りの大音量に気絶した。
私はその様子を見て急いで卵を閉じその屋敷しもべ妖精に駆け寄る。
そして気絶した屋敷しもべ妖精たちを抱きかかえた。
「冷水とタオルを! 簡単な毛布を持ってきなさい。それと暖かいココアもね。あと何か気が付いたことがある者は私に報告するように」
私が指示を飛ばすと慌てたように屋敷しもべ妖精たちが動き出す。
そして私の指示通りの物を持って集合した。
「倒れた時に何処かぶつけてないかしら……大丈夫そうね。毛布をそこに敷いて。そう、貴方は濡れタオルを作って」
私は毛布の上に気絶した屋敷しもべ妖精たちを寝かせていく。
そして濡れタオルを額の上に置いた。
「起きたらココアを飲ませてあげて。しっかりチョコを混ぜて甘くするのよ。あら、どうしたのウィンキー」
私が屋敷しもべ妖精の看病を始めると新入りのウィンキーが私の制服の端をチョンチョンと引っ張った。
何か気が付いたことがあるのだろうか。
ウィンキーは私に近づくと、他の屋敷しもべ妖精には聞こえない声で小さく耳元で囁いた。
「あれはマーミッシュ語でございます。十六夜咲夜様。水中人の扱う言語です」
「水中人ね。ありがとう」
私はウィンキーに小さくウインクを返した。
ウィンキーは赤くなると暖炉のほうに行き恥ずかしそうに背を向け座り込む。
泣き虫なだけかと思ったが、案外博識のようだ。
その後も何人かの屋敷しもべ妖精たちが私に先ほどの悲鳴の意見を伝えてくれたが、ウィンキーほどの信憑性のある話は出てこなかった。
気絶した屋敷しもべ妖精たちは数十分もしないうちに意識を取り戻し、すっかり元気になった。
「看病して頂きありがとうございます! 十六夜咲夜様! すっかり元気です」
数人の屋敷しもべ妖精がキーキー声でお礼を言ってくる。
だが今回非があるのは私のほうだ。
今度埋め合わせに何かご馳走することにしよう。
私は有益な情報も得られたし帰ろうかと荷物を纏める。
だが次の瞬間厨房の扉が開いた。
ハリーとハーマイオニー、そしてロンの姿もある。
ドビーはハリーと知り合いなのか、ハリーの姿を見るや否や入り口の方へと走っていった。
「ハリー・ポッターさま! ハリー・ポッター!」
ドビーは勢いよくハリーの胸にぶつかる。
その衝撃でハリーは少し苦しそうに呻いた。
「ど、ドビー?」
「はい、ドビーめでございます!」
やはり2人は知り合いのようだった。
再会を喜ぶようにはしゃいでいる。
ハリーはドビーに視線が向いているので気が付いていないが、ロンとハーマイオニーは私がいることに気が付いたようだ。
「咲夜、なんで君がここにいるんだ?」
ロンがそんな声を上げる。
その声を聞いてハリーもようやく私が居ることに気が付いた。
「咲夜さまはよく厨房にお越しになられるのでございます。今では厨房の名誉管理人のような存在です」
ドビーは入って日が浅いはずなのだが、ここのことを良く知っているようだ。
「そ、そうなんだ」
ハリーの返事は少し歯切れが悪い。
私がここにいることが気に入らないといった表情だ。
「あら、貴方のおじさんの去年のご飯はここから捻出されたものなのだけれど。甲斐甲斐しく運んだのよ? 私」
「いや別に何か文句があるとかそういうわけじゃないんだ。ただ少し意外だっただけで」
「あら、じゃあそういうことにしておきましょう。ディーンとピースはお客様に紅茶をお出ししなさい。マーシュはクッキーの用意。ドビーは積もる話もあるでしょう? あとのみんなは夕食の後片付けに戻ること! いい? 洗い物は分担し、汚れ物は水につけるのよ。洗った後の食器や調理器具には熱湯をかけて消毒し、フキンで拭くようなことはしないこと」
私は屋敷しもべ妖精に指示を出し、ハリーたちの横に座る。
「ホント、優秀よ。ここの使用人は。なんで紅魔館には屋敷しもべ妖精が居ないのかしら」
「なんというか、まさにお山の大将だな」
「あら、意味分かって言ってる?」
私はロンのほうをちらりと見る。
ロンは分かりやすく顔を背けた。
「ドビーはどうしてここにいるの?」
ハリーはドビーに思い出したかのように聞く。
ドビーはここにいる理由を楽しそうに話し始めた。
簡単に説明すると、2年間ほど職を探しあちこちを放浪したが結局は見つからず、途中でウィンキーを拾って2人で働けるところはないかと考えた結果ホグワーツに来たのだという。
ドビーは週に1ガリオンと、月に1回休みを貰っているそうだ。
「それは少ないわ!」
ハーマイオニーが不満そうな声を出す。
「いえ、お嬢様。ダンブルドア校長はドビーめに週に10ガリオンと週末を休みにすると仰いました。でもドビーはそんなにお金も休みもいりません。ドビーは自由も好きですが、働く方が好きなのです」
「分かったでしょう、ハーマイオニー。変わり者のドビーでさえこの意見よ」
ハーマイオニーは何か言いたげに口をもごもごさせるが、結局私に言い返してくることはなかった。
「それで、ウィンキー。ダンブルドア校長先生はあなたにはいくら払っているの?」
ハーマイオニーは話題を切り替えたかったのか、期待を込めたような表情でウィンキーに聞いた。
だが、その言葉を聞いてウィンキーは泣き出してしまう。
そして八つ当たりでもするようにハーマイオニーに対して怒った。
「ウィンキーは不名誉なしもべ妖精でございます。でもウィンキーはまだ、お給料をいただくようなことはしておりません! ウィンキーはそこまで落ちぶれてはいないのでございます! ウィンキーは自由になったことをきちんと恥じております」
ウィンキーは厨房全体に響くほどの大声で泣き出してしまう。
私はゆっくりウィンキーの頭を撫でた。
「分かるわ。愛すべきご主人にお暇を出されるというのは本当に悲しいことよね。ああ、よしよし泣くのはお止めなさいな」
ハーマイオニーは泣きじゃくるウィンキーを見てわかりやすく狼狽したが、励ますように言葉を重ねる。
だがそれは完全に火に油を注ぐ行為だった。
「でも……ウィンキーしっかりしなさいよ! 恥じるのはクラウチさんのほうでしょ? 貴方じゃないわ! 貴方はなにも悪いことはしていないし、あの人は貴方に対して酷いことを――」
「あたしのご主人様を侮辱なさらないでいただきたい! お嬢様! クラウチさまは良い魔法使いでございます。クラウチさまは悪いウィンキーをクビにするのが正しいのでございます」
私はハーマイオニーとウィンキーの口論を聞き流しつつ頭の隅で思考する。
ウィンキーはクラウチ氏に仕えていたのか。
だとしたらあの悲鳴がマーミッシュ語であると知っていても不思議ではない。
クラウチ氏は200か国語を話すことが出来るエリートだ。
多分仕事の関係上、聞いたことがあったのだろう。
私はハーマイオニーとウィンキーの口論に意識を戻す。
どうやらハーマイオニーがウィンキーに押し負けたようだった。
私は皆が飲んだ紅茶のティーカップを片付け、それを屋敷しもべ妖精に渡すと3人と共に立ち上がる。
そして絵画の扉を通り地下廊下へと出た。
「凄い大歓迎だったね。僕、これまでずーっと、フレッドとジョージのことを凄いと思ってたんだ。厨房から食べ物をくすねてくるなんてさ。でも、そんなに難しいことじゃなかったんだ。そうだろ?」
ロンがポケットいっぱいに詰め込んだお菓子を見て言う。
ハリーもそれに同意しているようだった。
「ドビーも楽しそうでなによりだ。ウィンキーは……早く立ち直れればいいけど。咲夜はどう思う?」
「それはお嬢様に捨てられたらどう思うかって意味かしら」
「あ、いや。そんなつもりじゃ……」
ハリーは困ったような顔をした。
私は冗談めかしく笑い、ハリーに言う。
「そうね。もし私がお嬢様からお暇をいただくようなことになったら……自殺するわね。自分の不甲斐なさに」
私のその言葉に3人はその場で固まってしまう。
「冗談よ」
全く冗談ではなかったが、私は作り笑いをすると3人を談話室へと急かした。
明日の自由な時間にでも、水中人に関して調べないといけないだろう。
簡単な知識は頭の中に入っていたが、完璧ではない。
私は談話室に入ると女子寮に上がり、一足先にベッドに入った。
「ポッター! ウィーズリー! こちらに注目しなさい!」
木曜の変身術の授業も終わりに差し掛かったその時、マクゴナガル先生の怒声が教室中に響いた。
今度は何をやったんだとクラス中がハリーたちの方を見る。
そこではハリーとロンがフレッドとジョージが作っただまし杖を使ってチャンバラを始めていたところだった。
いや、本当に一体何をやっているんだ……あの2人は。
「……ポッターもウィーズリーも年相応な振る舞いをしていただきたいものです」
マクゴナガル先生は恐い目で2人を睨む。
ハリーとロンはだまし杖を慌てて投げ捨て、マクゴナガル先生の方を向いた。
「さて、皆さんにお話があります」
先生は何も見なかったと言わんばかりにいつもの表情で話し始める。
どうやら授業とは関係のない話のようだ。
「クリスマス・ダンスパーティーが近づきました。三大魔法学校対抗試合の伝統でもあり、外国からのお客様と知り合ういい機会でもあります。ダンスパーティーは大広間で、クリスマスの夜8時から始まり、夜の12時に終わります。クリスマス・ダンスパーティーは我々全員にとって羽目を外すチャンスではありますが、決してホグワーツの名を穢すことのないよう、心してください」
クリスマス、もうそんな時期なのか。
そういえばロンのドレスローブが酷いという話だったか。
そろそろホグズミード村に行って材料を仕入れ、縫製しないといけないだろう。
私は教材を鞄の中に詰め、席を立とうとする。
だが私はその段階でマクゴナガル先生がこちらを見ていることに気が付いた。
「ポッターと十六夜は残りなさい。ちょっと話があります」
先ほどの視線はそういうことだったのかと、私は半ば諦めて鞄を机の上に降ろす。
そして先生の言葉を待った。
「代表選手とそのパートナーはダンスパーティーの最初に踊ります。これは古くからの伝統です。学校の代表として踊るのですから、それ相応の相手を見つけるようにしてくださいね」
「え? パートナー? 踊る?」
ハリーが疑問の声を上げる。
「ハリー、ダンスパーティーなのだからパートナーがいるじゃない。貴方1人でタップでも踏むの?」
「僕、ダンスはしません」
ハリーはきっぱり断った。
「駄目です」
マクゴナガル先生もやはりきっぱりとハリーの言葉を否定した。
「ポッター、これは伝統なのです。貴方はホグワーツの代表選手なのですから、学校の代表としてなすべきことをするのですよ。必ずパートナーを連れてきなさい」
「でも、僕なんかと――」
「わかりましたね? ポッター」
マクゴナガル先生は問答無用といった顔でハリーを睨むと教室を出ていった。
ハリーは呆然と教室の中で立ち尽くしている。
「あ、あの、咲夜? もしよかったらだけ――」
「お断りするわ。もう相手がいるし、それに代表選手同士がペアを作ったらいけないと思うもの」
「そ、そうだよね……。え? もう相手がいるのかい?」
ハリーは我に返ったように顔を上げると私に聞いてきた。
まさにいつの間にそんなことをといった顔だ。
「誘いを断るときの決まり文句よ。軽く流しなさいな」
私は鞄を持ち上げ教室を出る。
ハリーは慌てて私の後を追ってきた。
「僕ダンスとかやったことなくて……咲夜はこういうのに詳しいの?」
まさに藁にも縋るとはこのことだろうか。
少しでもダンスやパートナーに関しての情報を集めようと必死になって質問を飛ばしてくる。
「まあお嬢様は社交界にはよく行かれるし……というか主催する側になるのかしらね。私はよくパーティーを仕切ったりはしているわ」
私はここで少し意地の悪いことを思いついた。
「パートナーは基本的に男性から女性に頼むのよ。そしてそれは自分が好意を持っている女性にしかしてはいけないわ。ようは自分が愛する人をダンスに誘えってことね」
ハリーが持っていた鞄を落とす。
あんぐりと口を開け、固まっていた。
「愛する2人なら、例えダンスを全くやったことがなくても楽しく踊れるでしょう? じゃあ人生のパートナー探し頑張ってね」
私は立ち止まってしまったハリーを廊下に置いて歩き出す。
さて、いつ私の冗談に気が付くか見物だ。
私は廊下を歩き太った婦人の肖像画を通る。
そして談話室に入ると暖炉の前のソファーに腰かけリドルの日記を開いた。
私は今現在の時点でパートナーがいるわけではない。
だが、候補はいる。
『はぁい、トム。今大丈夫?』
私は日記帳に万年筆を滑らせる。
『大丈夫も何も、会話をしていたら他が疎かになるほど僕は無能ではないし、それは君も分かっていることだろう?』
『そうね。そんな有能なリドル様に提案があるわ。クリスマスにホグワーツに来ない? ダンスパーティーがあるのだけれど代表選手は強制参加みたいで』
『僕にタップダンスでも踊れってのかい?』
『それも魅力的ではあるのだけれど、違うわ。ようは社交ダンスのパートナーになって欲しいってことよ』
『それまたなんで僕なんだ? 美鈴にでもやらせればいいじゃないか』
『貴方の中で美鈴さんはどういう位置づけなのよ……。美鈴さんと踊ったらダンスじゃなくて演武になっちゃうでしょ?』
『君も美鈴のことをどういった人物だと思ってるんだよ。なんで僕なのさ。ホグワーツには若い人間が腐って匂い立つほどいるじゃないか』
『足を踏まれたくないの。それに釣り合わないわ』
『僕なら釣り合うと? 随分と自信過剰だね。仮に僕が行くとしよう。そしたらダンブルドアが「やあ咲夜、君のパートナーは若き日のヴォルデモートかね」とでも言うのかい? 生憎死に行く趣味はないんだ』
『貴方ジョークの才能もあったのね。それだけ口が回れば大丈夫よ。クリスマスの晩、秘密の部屋の入り口で待ってるわ』
『だから勝手に――』
私は文字が浮かび上がってくる前にリドルの日記を閉じた。
これで第二の課題に集中することが出来るだろう。
私は鞄からティーセットを取り出し紅茶を淹れる。
ウィンキーが教えてくれたヒントを基にあの後水中人に関して調べたのだが、マーミッシュ語というのは地上で聞くと悲鳴のようにしか聞こえないらしい。
ようは水中で卵を開けば通常の言語で聞こえるということだろう。
そして水中人ということは、第二の課題は水中で行われる何かに違いない。
私はもう一度リドルの日記を開いた。
『リドル、この学校ってお風呂ってあったっけ? 私はシャワーぐらいしか見たことがないのだけれど』
『……ダンスのことだが僕は――』
私はパタンと日記帳を閉じた。
そしてもう一度開く。
『リドル、この学校ってお風呂ってあったかしら。私は寮の中についているシャワーぐらいしか見たことがないのだけれど』
『日記を閉じたって再起動されるわけじゃないぞ。……ある。監督生用の風呂場が6階に。だがあそこは頻繁に合言葉が変わるはずだ。その合言葉をどこかで入手しないと入れないだろう。あと必要の部屋っていう手もあるが……これは正直おすすめ出来ないな』
『そう、合言葉が必要なのね。……必要の部屋ってなによ?』
『その様子じゃ知らないのかい? あそこは便利だ。特に隠れて何かをする時には便利だと言える。8階にあるトロールが描かれた壁掛けの向かい側だ。石壁前を自分の目的を念じながら3回往復すると扉が現れるようになっている』
『目的を念じながら3往復すれば扉が出てくるということは、その目的に合わせた部屋が出てくると考えていいの?』
『ああ、その通りだ』
『そう、少し試してみようかしら』
私はリドルの日記を閉じると時間を止め城の8階へと移動する。
そして時間停止を解除し、リドルに言われたように壁掛けの向かい側の壁の前で目的を念じながら3回往復した。
紅魔館、紅魔館、紅魔館……。
するといつの間にか壁に紅魔館の玄関と同じ扉が出来上がっている。
「おお、予想はしていたけど流石にこれには驚くわ」
本当に紅魔館と繋がっているのだろうか。
私は少し期待を込めて扉を開いた。
中に入ると紅魔館の玄関ホールが広がる。
だが、そこには騒がしい妖精メイドも妹様の狂気もなかった。
どうやら建物だけのようだ。
「まあそう便利な物ではないわよね」
取り敢えず紅魔館にはバスタブも、大きな浴場もある。
私は玄関を閉めると浴場に向けて紅魔館内を歩いた。
確かリドルは必要の部屋と呼んでいたか。
確かに細部は違うが、紛れもなく紅魔館の内装をしている。
だが、机の中に入っている小物やタンスの中身などは再現されていなかった。
ここは私の記憶にある紅魔館なのだろう。
私は脱衣所でホグワーツの制服を脱ぐと浴場へと進んだ。
浴場には既にお湯が張ってあり、すぐにでも入れるような状態だ。
私は卵を持って湯へと浸かる。
「ふう……なんだか懐かしいわね。クリスマスに紅魔館に帰れないのが少し惜しいわ」
やはり温かい湯というのは良いものだ。
ただ体を清潔に保つこと以上の効果をもたらしてくれる。
私は大きく息を吸い込み湯の中へ潜ると、水中で卵を開けた。
すると悲鳴にしか聞こえなかった音が美しい歌へと変わる。
探しにおいで 声を頼りに
地上じゃ歌は 歌えない
探しながらも 考えよう
われらが捕らえし 大切なもの
探す時間は 1時間
取り返すべし 大切なもの
1時間のその後は――もはや望みはありえない
遅すぎたなら そのものは もはや 二度とは戻らない
「ぷはっ!」
私は歌を聞き終わったので一度顔を上げた。
「はぁ、はぁ、ふう。つまり大事なものを1時間以内に取り戻せばいいということね。つまり私が死なない限り時間無制限ということかしら」
私は少し名残惜しいが浴槽から上がり都合よく用意されていたタオルで体を拭く。
捕らえしということは、物じゃなくて者ということか。
私にとって大切な者、それは勿論お嬢様だが、お嬢様を探す課題などありえないだろう。
いやもしお嬢様が捕らえられたとしたら大会の本部ごと潰すが。
私は適度に髪を乾かすと、ホグワーツの制服を着直し紅魔館の廊下を歩く。
つまり1時間水の中で動けるだけの何かを用意する。
そういった課題なのだ。
私は体の火照りや髪の湿り気がないことを確認すると玄関ホールから出る。
私が振り返るころには、扉はなくなりただの石壁に戻っていた。
「さて、水の中か。ぼちぼち準備を始めないといけないわね」
私は周囲に誰もいないことを確認する。
そして時間を停止させ、談話室へと戻った。
用語解説
ウクライナ・アイアンベリー種
映画でグリンゴッツを守っていたドラゴン。大型で凶暴。
選手の戦う順番
かなり弄ってあります。
メイド服に着替える
演出の為。
秘儀『黒髭危機一発』
そんなスペカはありません。ナイフが刺さっていき最後の一本が突き刺さった瞬間首が飛ぶというもの。
銀の皿に生首
聖書にも書いてある。
デラクールの胸についている凶悪な(ry
まだ14なのでこれからです。
厨房の名誉管理人
厨房には腕の立つ使用人はいるが指揮する者はいない。なので咲夜が指揮をとるだけで仕事の効率が何倍にも上がります。
屋敷しもべ妖精に優しい咲夜
ペットのように可愛がってます。
役に立つウィンキー
伊達にクラウチ氏の屋敷しもべ妖精をしていません。
タップダンサートムリドル
いや、リドルは別にタップが踏めるわけではありません。……踏めそうな気はしますが。
パートナートムリドル
何故かリドルをパートナーに選びたがる咲夜ちゃん。理由は簡単。
どうせ踊るなら友達と踊りたい。でも男友達リドルしかいない。
いやぁ、純情です。
必要の部屋
咲夜自身この時まだ必要の部屋の便利さに気が付いていません。
お風呂
CGはないです。
ぷはっ! はぁ、はぁ、ふう
変なこと考えた男子はこの作品のUA数だけ腹筋。
追記
文章を修正しました。
2018-10-06 加筆修正