私の世界は硬く冷たい   作:へっくすん165e83

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ハロウィーン前日から第一の課題直前まで。
咲夜ちゃんの巧妙な情報戦が始まります。
ホント対抗試合は地獄だぜ! フゥハハハーハァー
誤字脱字等ありましたら報告して頂けると助かります。
実際助かってます。いつもご報告してくださる方誠にありがとうございます。


四人の選手とか、英雄とか、杖調べとか

 時は戻って10月30日の歓迎会が終わってすぐ。

 私はいち早く玄関ホールの一角を陣取ると簡易的な透明マントで身を隠した。

 暫くするとダンブルドア先生がゴブレットを玄関ホールに設置する。

 そして杖を取り出すとゴブレットの周りにぐるりと線を引いた。

 私は時間を止め、年齢線を越えようと試みる。

 だがそこには物理的な壁があるように年齢線を越えることは出来なかった。

 私は結界のようなものをコツコツと叩く。

 なるほど、年少者が入る時に結界を張るのではなく年長者が入った時だけ結界が解かれる仕様なのか。

 なんにしても、年齢線を越えて自分の名前を自分で入れるつもりはない。

 それでは選ばれる可能性が余りにも低すぎる。

 私はもう一度透明マントを被ると時間停止を解除した。

 暫く待っているとボーバトンとダームストラングの生徒が次々に羊皮紙を入れていく。

 ホグワーツの生徒は迷っている者が多いらしい。

 まだ誰も名前を入れていない。

 私は辛抱強く息を殺してじっとホグワーツ生が動くのを待った。

 すると決心を固めたのか1人のレイブンクロー生がゴブレットに近づいていく。

 私はそのレイブンクロー生が羊皮紙を握りしめ年齢線を越える瞬間、時間を止めてその生徒に近づいた。

 私は検証のために年齢線を越えてみる。

 どうやら上級生と共になら越えることは出来るらしい。

 私はレイブンクロー生が握りしめている羊皮紙を毟り取ると、私の名前が書かれたものにすり替える。

 そして先ほどの位置まで戻り透明マントを被った。

 時間停止を解除するとレイブンクロー生は私の名前に入れ替わっていることも知らずに羊皮紙をゴブレットの中に入れる。

 そしてドヤ顔で年齢線をもう一度越えて去っていった。

 その後も数人のホグワーツ生が名前を入れようと年齢線を越える。

 私はその羊皮紙を自分の名前に入れ替える。

 これをホグワーツから立候補する全員に繰り返すのだ。

 代表選手の選抜で重要な点は、『各校1人ずつ必ず選ばれる』ということである。

 つまりホグワーツからの立候補者全員の名前を私の名前に入れ替えてしまえば必然的に私の名前がゴブレットから出てくるのだ。

 これが私の考えた確実に私の名前がゴブレットから出てくる方法である。

 ホグワーツからの立候補者が私しかいないなら私以外が選ばれることはない。

 1時間も経つと殆どの生徒が談話室へと戻っていく。

 懐中時計を確認するとそろそろ就寝時間だ。

 だが私は寝るわけにはいかない。

 ここで24時間ずっとゴブレットを見張っていないといけないのだ。

 ゴブレットの周囲に人が全くいなくなると私は自分の中の時間を遅くした。

 ようは疑似的な早送りである。

 就寝時間が過ぎてから名前を入れにくる生徒がいるとは思えないが……。

 現実の時間で4時間ほど経っただろうか。

 人が入ってきたので時間の進みを元に戻す。

 生徒かと思ったら人影はムーディ先生だった。

 何をしに来たのだろうか。

 私は息をひそめ、その様子を観察する。

 ムーディ先生は年齢線を越えるとゴブレットに杖を向け何か呪文のようなものを唱えた。

 ゴブレットが苦しそうに赤い炎を上げる。

 ムーディ先生はゴブレットに羊皮紙を入れようとした。

 私は時間を止め、ムーディ先生が持っている羊皮紙を取り上げ確認する。

 先生も立候補できるのだろうか。

 ムーディ先生が持っている羊皮紙には『ハリー・ポッター』と名前が書かれている。

 それを見た瞬間、私は固まってしまった。

 ムーディ先生がハリーの名前を入れる?

 何故? 何のために?

 この羊皮紙を入れ替えてしまっていいものだろうか。

 私は止まった時間の中で散々悩む。

 結局私はハリーの名前はそのままにすることにした。

 何故見逃したか、それはハリーの羊皮紙に学校名が書かれていなかったためである。

 私はムーディ先生が何をしようとしているのか理解したのだ。

 ハリーの名前を第四の『架空の学校』の生徒に見立ててゴブレットに入れ、確実に名前が出てくるようにする。

 先ほどゴブレットに掛けた魔法は錯乱の呪文だろう。

 ムーディ先生がそこまでしてハリーを試合に出そうとする理由は分からないが、私は自分の名前がゴブレットから出てくればそれでいい。

 私はもとの場所に戻り透明マントを被り直す。

 そして時間停止を解除した。

 ムーディ先生は羊皮紙を入れると年齢線を越えて出てくる。

 そして、私のほうに振り返った。

 

「そこで何をしている。十六夜咲夜」

 

 ムーディ先生はこちらを睨み、唸るように言った。

 私はその言葉に混乱する。

 まさかムーディ先生の魔法の義眼は透明マントも透視するのか?

 だとしたらこの方法は浅はかだったかも知れない。

 私は透明マントを脱ぐと先生の前に躍り出た。

 

「ゴブレットが綺麗でしたので一晩中眺めていようかなと」

 

 私は表情を取り繕ってムーディ先生の問いに答える。

 ムーディ先生はこちらに近づいてくると物凄い速度で杖を抜いた。

 私もそれに負けない速度で杖を抜く。

 

「「オブリビエイト! 忘れよ!」」

 

 どうやら同じことを考えていたようだ。

 私の忘却呪文はムーディ先生に向かって直進したが、魔法でことごとく弾かれてしまう。

 逆にムーディ先生の忘却呪文は私に直撃した。

 私は当たる瞬間に精神の時間を止め、忘却呪文を無効化し、忘却呪文が当たったことで一瞬生まれた油断を利用し、時間を停止させた。

 私はムーディ先生の真後ろに回り込み、時間停止を解除する。

 そして改めて忘却呪文をかけた。

 今度こそムーディ先生に忘却呪文が直撃する。

 その瞬間再度時間を止め、ムーディ先生を持ち上げ今まさに年齢線を越えたような体勢で置き直した。

 これでムーディ先生は今まさにハリーの名前を入れて年齢線を越えたと錯覚するだろう。

 私は一度城の外まで出て時間停止を解除する。

 そして少し経ってからゴブレットの前まで戻った。

 そこには既にムーディ先生の姿はない。

 私は先ほどのマインドコントロールが上手く行ったことを願いつつ透明マントを被った。

 忘却術とは強い精神力があれば破れてしまう。

 だが周囲の状況ごと変え、忘却術を掛けられたことすら気が付かないようにすれば破るのが難しくなるのだ。

 私はもう一度自分の中の時間を遅くし、疑似的な早送りを作り出す。

 朝になると生徒も降りてきて昨日の夜よりも多くのホグワーツの生徒がゴブレットに名前を入れにくる。

 私はそれ1つひとつを自分の名前に差し替える。

 それをハロウィーンのパーティまで続けた。

 途中老け薬を飲み年齢線を越えようとしたフレッド、ジョージの双子が年齢線に弾き飛ばされるというアクシデントはあったが、私はホグワーツ生全ての名前を差し替えることに成功した。

 

 

 

 

 

 

「……な、なんということですか!? これは……」

 

 マクゴナガル先生が私の名前が書かれた羊皮紙の山を見て絶句する。

 いや、マクゴナガル先生だけではない。

 この部屋にいる人間の殆どが言葉が出ないといったような顔で口をパクパクさせていた。

 

「十六夜、貴様まさか!」

 

 スネイプ先生がいち早く混乱から復活し私を睨む。

 

「上級生に服従の魔法を掛けたんだな?」

 

「それは無理じゃセブルス。操られている生徒にはあの年齢線は越えられん」

 

 スネイプ先生の言葉をダンブルドア先生が否定する。

 そう、私はただゴブレットに入れる羊皮紙を私の名前にすり替えただけなのだ。

 

「こんなーのは、むこうでーす。投票をやりなーおすべきでーす」

 

 マダム・マクシームが私の名前が書かれた羊皮紙を掴みとり怒鳴る。

 

「ですが規則には従うべきです。どのような事情があったとしても、炎のゴブレットから名前が出てきた者は試合で競う義務がある」

 

 クラウチ氏が厳格な声で言った。

 

「いやぁ、バーティは規則集を隅から隅まで知り尽くしている。ミス・十六夜の件は余りにも異様だが、名前が出てきたということは試合で競わなくてはならない」

 

 バグマン氏が楽しそうに言った。

 バグマン氏はどうやらこの状況を素直に楽しんでいるようだ。

 他校の校長はこんな投票は無効だとダンブルドア先生に怒鳴りつけている。

 私はその喧噪から逃げるように暖炉の前に移動した。

 

『まさかあんな方法を取るなんて。しかもまだ14歳だったんだな』

 

 クラムがブルガリア語で話しかけてくる。

 

『ええ、あれなら必ず出場できるでしょう?』

 

『何故そこまでして試合に出ようとするんだ?』

 

『私が仕えるお嬢様から優勝してこいとご命令を受けたのよ』

 

 私はちらりと話し合っている校長たちを見る。

 話は私はまだしもハリーはどういうことだという内容に移っていた。

 ホグワーツの代表選手が2人いるというのが気に入らないらしい。

 他の2校ももう1人ずつ代表選手を出すと言っているが、生憎ゴブレットの炎はすでに消えている。

 

『貴方の校長、今すぐにでも帰りたいと言っているわね。置いて行かれないうちに荷物をまとめたほうがいいんじゃない? クラム』

 

『ご冗談を。例えカルカロフ校長が帰ったとしても俺はホグワーツに残り試合をする』

 

 次の瞬間ムーディ先生が部屋に入ってきて周囲を見回す。

 そして机の上に広げられた羊皮紙の山を見てやりやがったな小娘と言わんばかりの視線を送ってきた。

 私はその視線に籠められた感情を注意深く感じ取る。

 これは予想でしかないが、昨日の夜の忘却術は上手くいったようだ。

 ムーディ先生はお得意の陰謀論で他校の校長と憤慨しているデラクールを説得していく。

 いや、半分脅しているのに近かったが……。

 なんにしてもこの場にいる全員が名前が出てきてしまったからには仕方がないと納得した。

 

「さあ、それでは開始といきますかな」

 

 バグマン氏はニコニコしながら前に歩み出る。

 この人は多分悩みなどないのだろうなと内心思った。

 

「代表選手に指示を与えないといけませんな? バーティ、主催者としてこの役目を務めてくれるか?」

 

 バグマン氏の言葉にクラウチ氏が我に返ったかのような顔をした。

 

「フム、指示ですな。よろしい……最初の課題は……」

 

 クラウチ氏は私とクラムのいる暖炉の方へと歩いてきた。

 明るいところで話すということだろう。

 

「最初の課題は君たちの勇気を試すものだ。ここではどういった内容なのかは教えないことにする。どのような形であれ、先生方からの援助を頼むことも、受けることも許されない」

 

 まああんなズルをした私に援助してくれる先生などいるはずがないが。

 

「未知のものに遭遇したときの勇気は、魔法使いにとって非常に重要な資質である……非常に重要だ。最初の競技は11月24日。全生徒、審査員の前で行われる。選手は杖だけを武器として最初の課題に立ち向かう。第一の課題が終了の後、第二の課題の情報を与えよう。試合は過酷で、また時間のかかるものであるため、選手たちは期末テストを免除される」

 

 クラウチ氏はダンブルドア先生を見た。

 

「アルバス。これで全部だと思うが?」

 

「わしもそう思うよ」

 

 話は終わったと言わんばかりにマダム・マクシームはデラクールの肩を抱いて部屋を去っていった。

 カルカロフもやはりクラムに合図をし、部屋を去っていく。

 部屋の中にはホグワーツの教員とハリーと私、そしてバグマン氏とクラウチ氏が残った。

 

「咲夜、もう一度問おうかの。どのようにして名前をゴブレットに入れたのじゃ?」

 

 ダンブルドア先生が改めて私に聞いてきた。

 

「だから言ってるじゃないですか。上級生に入れてもらったと」

 

「でも僕はアンジェリーナから立候補したと聞いたよ? でも羊皮紙にアンジェリーナの名前はない」

 

 ハリーが机に散らばった羊皮紙をガサゴソと弄りながら言う。

 

「ダンブルドア先生は私がどのようにしてこのようなことをしたのか予想がついているんじゃないですか?」

 

 私の言葉にダンブルドア先生は考え込む。

 

「まさか、上級生の羊皮紙をそっくりそのまま入れ替えたということかの?」

 

 私はその言葉にニッコリと頷くと、ポケットの中から立候補したホグワーツ生全員の羊皮紙を机の上にばら撒いた。

 

「正解です。ダンブルドア先生。簡単な入れ替え呪文ですよ」

 

 その言葉を聞いてマクゴナガル先生が頭を抱える。

 なんてことをしてくれたのだという表情だ。

 

「ですがこれはダンブルドア先生自身の失態です。演出を凝りすぎましたね。本当に私の参加を拒みたかったなら一度先生が羊皮紙を集めて、まとめてゴブレットに名前を入れるべきでした。それなら細工のしようがなかった」

 

「まあまあアルバス、ここは一杯食わされたと思えばいいじゃないか! 14歳の生徒がここまでやったのだ。年齢制限はあくまで安全対策であって、このお嬢さんならそんな心配もない。なにせ私たちとゴブレットを出し抜くほどだからな!」

 

 バグマン氏が笑いながらダンブルドア先生の背中をバシバシと叩く。

 そのバグマン氏の言葉にダンブルドア先生は諦めたように首を振ると、私に向き直った。

 

「スカーレット嬢の命令じゃな」

 

「ええ。そうですわ」

 

 この情報は別に隠せと言われているわけではないので私は頷く。

 そのほうがダンブルドア先生も納得すると考えたからだ。

 

「お嬢様が私に優勝してこいと。ですが優勝するにはまず代表選手に『必ず』選ばれなくてはなりません。ですのでこのような方法を」

 

「ダンブルドア校長、十六夜に罰則を与えるべきでは?」

 

「もうよいセブルス」

 

 スネイプ先生の言葉にダンブルドア先生は首を振った。

 

「ハリー、咲夜、2人とも寮に戻って寝るがよい。グリフィンドールの談話室では既にどんちゃん騒ぎをする用意が整っておるじゃろう」

 

 ハリーは私をチラリとみた。

 私はその視線に頷き、部屋を出ようとする。

 

「咲夜」

 

 部屋を出る瞬間、ダンブルドア先生が私の名前を呼ぶ。

 

「法律だけは犯すでないぞ」

 

「承知しています」

 

 随分と投げ槍で、半分諦めたような忠告だった。

 私は内心ガッツポーズを決めると、改めてハリーの後を追って部屋を出た。

 大広間には既に誰もいない。

 私とハリーは大広間を抜けて廊下に出る。

 そして談話室が近くなってきた時に、ハリーが意を決したかのように私に話しかけてきた。

 

「咲夜……僕は名前を入れていないし、なんで4人目の選手に選ばれたのかも分からない」

 

「へえ」

 

「嘘じゃないよ!?」

 

 ハリーは私がハリーの話を信じていないと思っているようだ。

 

「咲夜は何故あんなことをしたんだい?」

 

「あそこで言った通りよ。お嬢様が優勝杯を部屋に飾りたいらしくてね」

 

「そう……君も大変だな」

 

 私はハリーと共に肖像画を通り談話室に入った。

 次の瞬間爆発するような音が私の耳を直撃する。

 それはグリフィンドール生の大喝采だった。

 

「すげえぞ咲夜! お前ならやると思った!」

 

「ハリーも名前を入れたなら教えてくれればいいのに!」

 

「グリフィンドールから2人も。すっげえなぁ!」

 

 皆が口々に私たちを褒めたたえた。

 ジョージがバシバシと私の背中を叩きながら聞いてくる。

 

「髭も生やさずにどうやってやったんだ? すっげえ!」

 

「全員ちゅーもーく!!」

 

 フレッドが大声を張り上げ拍手喝采を止めさせる。

 グリフィンドールにいる生徒の全員が私とハリーに注目した。

 

「さてさて代表選手に選ばれた我らが英雄の2人ですが、ここでインタビューをしたいと思います!」

 

 フレッドは杖をマイク替わりに持ち、さながらテレビ番組の司会者のようだ。

 

「ハリー、今の気持ちはどうだ?」

 

「ぼ、僕どうしてこんなことになってるかわか――」

 

「どうしていいか分からないほどうれしいと! じゃあ次咲夜!」

 

 ジョージも杖を持ちハリーの言葉を曲解すると今度は私に杖を向けてきた。

 

「そうね。予定通りよ」

 

「大変余裕なお言葉を頂きましたー! 流石我らがグリフィンドールのデンジャラスクイーン」

 

 私はジョージの頭をぺちんと叩く。

 談話室中が爆笑の渦に飲み込まれた。

 

「さてさて次の質問だ! ぶっちゃけ皆が気になっていることだとは思うが……どうやってやったんだ? 年齢線はどうした? 俺たちなんか真っ白な髭生やして医務室にすっとんでいったのによ!」

 

 本当にこの2人はジョークのセンスがある。

 リー・ジョーダンと合わせて3人でクィディッチの司会をやればいいのにと思ったが、生憎フレッドとジョージは選手だ。

 

「まずは咲夜から聞いてみよう。どうしたんだ?」

 

「名前を入れようとしている上級生の羊皮紙を、私の名前が書かれたものに入れ替えたのよ」

 

 談話室内からおぉー! という感心の声が上がる。

 アンジェリーナ含むゴブレットに名前を入れた生徒は「そんな!?」と声を上げた。

 

「ごめんなさいね、アンジェリーナ。でも安心して、ホグワーツの立候補者全員の名前を入れ替えたから。つまりグリフィンドールから代表選手が選ばれることは既に決定されていたわけよ!」

 

 私は両手を上げてそう高らかに言い放つ。

 談話室は拍手喝采に包まれた。

 

「やりやがったなこんちくしょう!」

 

「でも私よりも咲夜のほうが適任ね! 絶対優勝するのよ!」

 

「スリザリンのワリントンが代表になるぐらいなら咲夜のほうが全然マシだ!」

 

 多少の呆れと怒りはあるみたいだったが、殆どの立候補者は納得してくれたようだった。

 私を知っているグリフィンドール生はああ、いつもの咲夜だという顔をしており、新入生からは凄い4年生がいるといった視線が飛んでくる。

 

「すっげえ! すっげえ! やっぱムーディにナイフ投げつけるだけはあるぜ! 俺たちとは発想が違いすぎる!」

 

 リー・ジョーダンが興奮したように叫ぶ。

 

「そんなことしたのか!? 咲夜!」

 

「闇の魔術に対する防衛術の授業では服従の呪文すら効かないようだったぜ!」

 

「ターミネーターかよ!」

 

「みなさんドウドウドウ! 静粛に。今度はウルトラミラクル当選のハリーに聞いてみようと思う。ハリー、どうやって名前を入れたんだ? しかも4人目って!」

 

 フレッドが観衆をなだめハリーに質問した。

 

「僕、入れてない」

 

 ハリーの戸惑い混じりのその答えに、ざわざわと疑問の声が出る。

 

「え? なんだって? 興奮のあまり俺の頭がおかしくなったか? ハリー、僕には「入れてない」って聞こえたんだが」

 

 ジョージが目をぱちくりさせて言った。

 

「僕、ゴブレットに名前を入れてないんだ」

 

「おいおいだったらなんでゴブレットからハリーの名前が出てくる?」

 

「分からない。でも本当に入れてないんだ」

 

 ハリーが頭を抱えた。

 

「伝説のポッター様の答え聞いたか? 入れてないだってよ!」

 

 誰かが馬鹿にするようにハリーに言った。

 

「嘘をつくな!」

 

「咲夜は清々しいほど正直だぞ!」

 

「どうせダンブルドアにでも頼んで無理やり参加させてもらったに違いない!」

 

 ハリーの答えにグリフィンドール生の殆どが怒ったように怒声を上げた。

 

「でも本当にやってないんだ! 僕は年齢線を越えられないし、越え方もわからない!」

 

 ハリーも負けじと叫ぶ。

 私はそんなハリーの態度をみて呆れたように肩を竦めた。

 そこは普通嘘でも自分で入れたという場面だろう。

 そんな言い方したら多くの生徒の反感を買うことは目に見えている。

 司会のフレッドとジョージはこんな展開になるとは思っても見なかったのか困ったように顔を見合わせていた。

 

「僕、疲れた! 駄目だ、ほんとに。ごめん、もう寝る」

 

 ハリーはキレたように怒鳴り散らすと男子寮の方へと歩いて行った。

 殆どのグリフィンドール生が犯罪者でも見るかのような視線をハリーに向けている。

 ハリーの姿が見えなくなると、また拍手喝采が沸き起こる。

 

「嘘つきなんてほっとけほっとけ! 咲夜が真のホグワーツ代表だ!」

 

「どうせハリーなんて咲夜の足元にも及ばないさ! 咲夜が優勝で決まりだな!」

 

「頑張ってー! 咲夜ー!」

 

 どうやら多くのグリフィンドール生がハリーを敵、私を味方と認識したようだ。

 これはハリーが少し可哀想なことになるな、と私は内心ため息をつく。

 フレッドとジョージは気を取り直したように杖を構え直した。

 

「うん、まあハリーは一時置いておこう。さてさてさて! 代表選手に質問を続けましょう! 代表選手になろうとした理由はなんですか? そんなおったまげーな方法を使ってまで代表になりたかった訳をどうぞ!」

 

「皆さま、ご静粛に!」

 

 私は声を張り上げる。

 歓声が一時的にピタリと止んだ。

 

「私が何故ここまでして代表選手になったか疑問に思う人も多いと思うわ。でもね、理由は簡単よ。私が仕える吸血鬼にしてスカーレット家の当主! レミリア・スカーレットお嬢様が私の優勝を望んだからよ!」

 

 私はクリスマスパーティーの時のお嬢様のテンションを真似して談話室内で叫ぶ。

 

「故に、何が何でも優勝するわ。クラムが何? デラクールが何? クラムなんてただのクィディッチのシーカーじゃない。シーカーとしては優秀かも知れないけど魔法はどうかしらね。デラクールなんてただ可愛いだけだわ。大方ゴブレットに色目でも使ったんでしょう? 私が負ける道理はないわね!」

 

 談話室の窓ガラスが割れんばかりの大喝采が起こる。

 流石はお嬢様。

 お嬢様のテンションに肖っただけでこの大喝采だ。

 

「いやー、何とも気持ちのいい啖呵を切っていただきました! さてみんな今日はマクゴナガルがブチ切れるまで騒ぐぞー!」

 

「「「「おぉおおおおおっ!!!」」」」

 

 その後はもうお祭り騒ぎだ。

 リー・ジョーダンは何処からかグリフィンドールの寮旗を持ち出してきて私にマントのように着せた。

 テーブルの上にはバタービールやお菓子が並び、ジョージは厨房から取ってきたのか手に多くのパーティー料理を持って談話室に帰ってくる。

 私はゴブレットの話やお嬢様の話を振られるたびにそれを明かしていい部分だけ丁寧に話していった。

 これでグリフィンドール生の心を掴むことは出来ただろう。

 あとは他の寮の生徒だ。

 もっとも、優勝することが目的なので他の生徒がどう思おうが関係はない。

 だが応援された方が優勝しやすくなるのは確かだろう。

 やるからには徹底的に、そして確実に。

 結局談話室でのパーティーはマクゴナガル先生が怒鳴りこみに来るまで続いた。

 私は談話室をマクゴナガル先生と片付け、女子寮に行きベッドに入る。

 

「ねえ、咲夜。ハリーのことなんだけど……」

 

 隣のベッドからハーマイオニーの声が聞こえてくる。

 

「大丈夫かしら。ハリーが自分で名前を入れるとは思えないし。4人目の代表選手っておかしいわ。なにか大変なことに巻き込まれないといいけど」

 

「……大丈夫、とは言えないわ。私のはやろうと思えば誰でも出来るだろうけど、ハリーのは普通じゃないもの」

 

 私はムーディ先生のことは隠すことにした。

 何の目的でムーディ先生がハリーの名前を入れたのか分からない。

 目的が分からない以上、こちらから何かしらのアクションを起こすべきではないだろう。

 

「おやすみ、ハーマイオニー。ハリーの味方をしてあげてね」

 

「……おやすみ、咲夜」

 

 私は目を瞑ると夢の世界へ落ちていった。

 

 

 

 

 

 ハロウィーンの夜から数日も経つと、学校内での私とハリーの扱いがはっきりとしてきた。

 私はホグワーツのダークヒーロー、ハリーは嘘つき。

 どうやら年齢線を越えた方法を素直に明かしたのが功を奏したらしい。

 私は他の寮の生徒からもある程度の支持を手に入れることが出来た。

 もっとも立候補した上級生からの評判はあまりよくはなかったが、そういった生徒は周りからの「14歳に出し抜かれるようじゃ……」という言葉で私を応援するようになった。

 言い訳がましく私に文句を垂れるよりも、天晴見事! と私を認めた方が大物に見えると気が付いたのだ。

 そして驚くことにスリザリンの生徒も私を応援してくれている。

 どうやらドラコが上手いことやってくれたようなのだ。

 多くのスリザリン生の胸にピンバッジが付いている。

 そのピンバッジには『応援しよう! ホグワーツの正直者 十六夜咲夜』と書かれている。

 そしてピンバッジを1回押すと文字が変わるのだ。

 

『ポッターは嘘つきで嫌なやつ』

 

 どうやらドラコは私をダシに使ってハリーを貶めるのが目的らしい。

 私としてもスリザリン生から嫌がらせが来ないのは都合がいいのでハリーには悪いが放っておくことにした。

 だがこのバッジのせいで魔法薬学の授業前にハリーとドラコが呪文を掛け合うという事件が発生したのには少々心が痛んだ。

 なんとこの喧嘩のせいでグリフィンドールから50点も減点されてしまったのだ。

 優勝するためとはいえ、少々心苦しい。

 

「はっはっは、ポッター、ざまあない!」

 

 ドラコが私の近くへと戻ってきた。

 魔法薬学の授業では私はいつもドラコと一緒に魔法薬の調合を行っている。

 

「あら、でもグリフィンドールから50点も減点されてしまったわ」

 

 私の言葉を聞いてドラコが申し訳なさそうにシュンとする。

 

「冗談よ。ドラコには感謝しているもの。貴方がこの素敵なバッジを作っていなかったらスリザリンの生徒は私を応援しなかったと思うし」

 

「そ、そうだよな」

 

 ドラコは得意げに胸のバッジを押し『ポッターは嘘つきで嫌なやつ』と点滅させた。

 すると次の瞬間地下牢教室のドアをノックする音が聞こえてきた。

 

「なんだ?」

 

 解毒薬の授業を今まさに始めようとしていたスネイプ先生がドアの方を振り向く。

 ドアを開けて入ってきたのはコリン・クリービーだった。

 私が2年生の頃バジリスクに石にされた生徒の1人である。

 

「先生。僕、代表選手を上に連れてくるように言われました」

 

 その顔は使命感に燃えていたが、スネイプ先生がひと睨みするとその表情は吹き飛んだ。

 

「ポッターと十六夜には1時間魔法薬の授業がある。2人は授業が終わってから上に行くと伝えろ」

 

「先生……でも、バグマンさんが呼んでます」

 

 スネイプ先生の冷たい言葉にクリービーがおずおずと言った。

 

「代表選手は全員行かないといけないんです。写真を撮るんだと思います」

 

「ほう、写真か」

 

 その言葉にスリザリン生が一斉にバッジを押し込み『ポッターは嘘つきで嫌なやつ』と点滅させた。

 

「それはそれは、では少しでもまともに写るよう、精々努力することだな。よかろう、2人とも行くがいい」

 

 スネイプ先生はハリーのボサっとした髪を見ながら皮肉っぽく言った。

 同時に私のほうもチラリとみたが、私の身嗜みに不備があるはずもなく、少し悔しそうに目を逸した。

 

「少し行ってくるわね」

 

 私がクラスの皆に手を振ると歓声が上がる。

 ハリーが立ち上がるとスリザリン生は次々にバッジを押し込んだ。

 私とハリーはクリービーについて廊下を歩いていく。

 そして1つの教室にたどり着いた。

 

「がんばって!」

 

 クリービーは私とハリーに握手を求める。

 私はにこやかに笑いながらそれに応えた。

 

「まるでスターじゃないか、咲夜」

 

 ハリーが皮肉を込めて言った。

 

「ズルをした咲夜は学校のヒーローで、正直に答えた僕が嘘つきってのはどういう冗談なんだ?」

 

「あら、この結果も対抗試合の一部よ? 今誰を味方につけるべきか。そんなの分かりきっていることじゃない。少しは頭を使いなさい。これ以上孤立する前にね」

 

 私はドアを開けて部屋の中に入った。

 そこはかなり狭い教室で、机は部屋の隅に押しやられており、真ん中に大きな空間が出来ている。

 黒板の前には机が3卓、横に繋げて置いてあり、ビロードのカバーが掛けられていた。

 その机の向こうには5脚の椅子が並んでおり、その1つにバグマン氏が座って魔女と話をしている。

 

『はぁい、デラクール。幸せそうね』

 

 私はフランス語でデラクールに話しかける。

 デラクールはフランス語を聞いて楽しそうにクルリと振り向いたが、私の顔を見てがっかりするように表情を暗くした。

 

『なんだ、貴方か。皮肉たっぷりの挨拶をありがとう』

 

『見たままを言っただけじゃない』

 

「ああ、来たな! 代表選手の3人目と4人目! さあさあ、何も心配することはない。ほんの杖調べの儀式だ」

 

 バグマン氏が私たちの存在に気が付いたのか椅子から立ち上がる。

 

「杖調べ?」

 

 ハリーが心配そうに聞き返した。

 

「君たちの杖が万全の機能を備えているかどうか、調べないといかんのでね。専門家が今、ダンブルドアと話をしている。それから、ちょっと写真を撮る。ああ、こちらはリータ・スキーターさんだ」

 

 バグマン氏が先ほどまで話してた魔女を紹介した。

 リータ・スキーターは赤紫のローブを着ている。

 

「日刊予言者新聞の記者で、この試合について短い記事を――」

 

「ルード、そんなに短くはないかもね」

 

 リータ・スキーターはハリーをじっと見ていた。

 

「儀式が始まる前にハリーにちょっとお話ししていいかしら? だって最年少の代表選手ざんしょ……ちょっと味付けにね」

 

「いいとも! あー、いや、ハリーさえ良ければだが」

 

 スキーターの言葉にバグマン氏が返した。

 

「あのー最年少は――」

 

「素敵ざんすわ!」

 

 ハリーが私も最年少だと説明しようとする前にハリーはスキーターに引きずられていった。

 私はデラクールと一緒に肩を竦める。

 そんな私の方にクラムが近づいてきた。

 

『皆が君のことを噂しているよ。凄いホグワーツ生がいるって』

 

『あら、多くのダームストラングの生徒の中から選ばれたクラムには負けるわ。まあ試合には負けないけど』

 

『もう、ブルガリア語で話してたら私が分からないじゃない』

 

「だったら英語で話せばいいって何度言ったら……」

 

「それーは、うつくーしくないと、あなたはいいまーした」

 

「ヴぉくは英語でも大丈夫です。国際的な選手ですので」

 

「自慢なんてききたくなーいでーす」

 

「はっはっは、選手同士仲が良いみたいで何よりだ!」

 

 段々と部屋の中の会話がカオスになってくる。

 しばらく話していると、今にも死にそうな顔をしたハリーがスキーターに引きずられて戻ってきた。

 

「貴方も最年少の代表選手だなんて、素敵ざんす! 少しお話しましょう」

 

 スキーターはどうやらハリーから私の話を聞いたようだ。

 ずんずんとこっちに向かって歩いてくる。

 

「ええ、インタビューなんて初めてなので、緊張してしまいますが」

 

「嘘おっしゃい」

 

 ハリーが椅子に座って俯きながらボソリと言った。

 私はデラクールとクラムに手を振ると、スキーターと共に部屋の外に出る。

 そして何故か小さな箒置き場に入った。

 

「さて、ここなら落ち着けるざんす」

 

 スキーターは狭い箒置き場に転がっているバケツを逆さにして座る。

 

「スキーターさん。よかったらこれを」

 

 私は鞄の中から小さな丸椅子を2つ、そして宙に浮かぶ机を1つ、更にはティーセットを取り出した。

 

「あら~、素敵ざんすわ!」

 

 私はテキパキと準備を進め、スキーターに紅茶を出した。

 

「さて、それじゃ……」

 

 スキーターはワニ革のハンドバッグの中から羊皮紙と羽ペンを取り出した。

 私はオイルランプを取り出すと、火をつけ光量を調整する。

 

「あら、ありがと。咲夜、自動速記羽ペンQQQを使っていいざんしょ? そのほうが自然におしゃべりできるし……」

 

「ええ、羽ペンを持ってたら紅茶が飲めませんしね」

 

 私は鞄の中からクッキーを取り出した。

 

「さて、咲夜。貴方はどうして三校対抗試合に参加しようと思ったのかしら」

 

 すぐにでもインタビューを始めるようだ。

 私は基本的には素直に返事をしていく。

 

「私はレミリア・スカーレットお嬢様にお仕えしているメイドです。現在は休暇を頂き学業に励んでおりますが……今回そのお嬢様から試合に出ろとのご命令を受けたんです」

 

「でも貴方はまだ14歳ざんしょ? どうやって代表選手に?」

 

「代表選手を決める方法はご存じですか?」

 

「ええ、炎のゴブレットですわよね。ダンブルドアが直々に年齢線を引いて対策をしたと聞いてるざんす」

 

 私は一口紅茶を飲む。

 

「ホグワーツ生全員の羊皮紙を私の名前が書かれた羊皮紙に入れ替えたんです。魔法で」

 

「素敵ざんす!」

 

 スキーターは手を叩いて喜んだ。

 

「ということは必然的に、ゴブレットからは必ず貴方の名前が出てくるわけざんすね」

 

「そういうことです」

 

 スキーターも紅茶を飲む。

 

「あら、非常に美味しいざんす。流石メイドさんですわ。1面の見出しは決まったわね。『異質の14歳十六夜咲夜対伝説の少年ハリー・ポッター 果たして試合の行方は』素敵ざんす!」

 

「あら、ハリーなんて相手にならないわ」

 

「ダークヒーローは読者に人気が出るざんす。そういった方向で書かせてもらってもよくって?」

 

「ええ、よろしくお願いします。スキーターさんの書いた記事は何度か拝見しました。凄く面白かったです」

 

 私とスキーターは箒置き場で笑い合った。

 言葉を介さなくともスキーターが何を言いたいか理解出来た。

 ようはドラコと同じで私を引き合いに出してハリーを貶す記事を書きたいということだろう。

 批判だけじゃ記事は成り立たない。

 比較して、初めて批判に説得力が生まれてくる。

 

「わたくしにお任せなさい。悪いようにはしないざんす」

 

 次の瞬間箒置き場のドアが外側から開いた。

 そこにはダンブルドア先生が立っている。

 

「ダンブルドア!」

 

 スキーターは嬉しそうに叫んだ。

 そしてダンブルドアが羊皮紙の内容を見る前に物凄い速度でそれらをバッグに仕舞った。

 

「先生もどうです?」

 

 私はダンブルドア先生の方にスキーターが座らなかったバケツを転がした。

 

「素敵なお茶会中に悪いんじゃが、そろそろ杖調べの儀式が始まるのでの」

 

「それは残念ざんすね」

 

 スキーターは紅茶を飲み干すと杖でティーカップを綺麗にして返してくれる。

 私は鞄から取り出した色々を仕舞い直すと箒置き場から出た。

 そしてダンブルドア先生について先ほどの部屋に戻った。

 ハリー、デラクール、クラムは既に椅子に座っている。

 私はハリーの隣に腰かけた。

 正面には5人の審査員が座っている。

 ダンブルドア先生、マダム・マクシーム、カルカロフ、バグマン氏、クラウチ氏だ。

 

「オリバンダーさんをご紹介しましょうかの? 試合に先立ち、皆の杖が良い状態かどうかを調べ、確認してくださるのじゃ」

 

 紹介を受けて部屋の隅で窓の外を眺めていた老人、オリバンダーが部屋の中心へと歩いてきた。

 ダイアゴン横丁で杖の専門店をやっている人間だ。

 

「マドモアゼル・デラクール。まずあなたから、こちらに来てくださらんか?」

 

 デラクールは軽やかにオリバンダーのそばに行き、杖を渡した。

 オリバンダーは杖を受け取るとバトンのようにクルクル回す。

 すると杖はピンクとゴールドの火花をいくつか散らせた。

 

「そうじゃな……24センチ、しなりにくい、紫檀……芯には、おおなんと……」

 

「ヴィーラの髪の毛でーす。わたーしのおばーさまのものでーす」

 

 デラクールは自信満々に言った。

 なるほど、デラクールの美貌の理由はそれか。

 そのあともオリバンダーはクラム、そしてハリーの杖を調べていく。

 そして最後に私の番が来た。

 私はお嬢様から預かっている真紅の杖をオリバンダーに手渡す。

 オリバンダーは手に取った瞬間、この杖が私ではなくお嬢様に忠誠を誓っていると気が付いたようだ。

 

「よう覚えとるが……十六夜さん、君……この杖は……」

 

 オリバンダーは杖をしげしげと眺める。

 

「不思議じゃ、まことに不思議じゃ。この杖は十六夜さんの所有物ではない。この杖は十六夜さんのことを仲間だと、そしてよき友であると思っておるようじゃ」

 

 オリバンダーは杖を振るう。

 杖からは嘲り笑うかのように小さなコウモリが部屋中に溢れ出た。

 

「アカミノキ……25センチ、やや硬い。芯には吸血馬のたてがみが使われておる」

 

 オリバンダーは私に杖を返した。

 

「みんな、ごくろうじゃった。授業に戻ってよろしい。いや、まっすぐ夕食の席に下りてゆくほうがよいかの」

 

 ダンブルドアが審査員のテーブルから立ち上がって言った。

 だがそこに慌てて黒いカメラを持った男が飛び出して1つ咳払いをする。

 

「写真! ダンブルドア、写真ですよ」

 

 バグマン氏が興奮するように叫んだ。

 それから集合写真を何枚か、個人写真を何枚か撮るとようやく解散となった。

 

 

 

 

 

 それからそう日が経たないうちに、日刊予言者新聞にスキーターの書いた記事が載った。

 そこには1面の見出しに大きくこう書かれている。

 

『ホグワーツの英雄はどちらか。伝説の少年ハリー・ポッター対天才少女十六夜咲夜』

 

 1面には大きく私とハリーがにらみ合っているような写真がデカデカと載っている。

 そしてそれぞれからふきだしが出ており、私のところには「どんな手を使っても勝つのは私よ」の文字。

 ハリーのふきだしには「それでも僕はやってない」という文字が書かれていた。

 記事の内容の大半はホグワーツ生のインタビュー記事になっている。

 私やハリーの身の上話、私が代表選手に選ばれた理由、ハリーがゴブレットに名前を入れたことを否定し続けているという事実。

 そして記事の半分以上が他のホグワーツ生から聞いた私たちの印象になっているのだが、私のほうにはいい印象しかなく、逆にハリーの方には「嘘つき」「意地汚い」「臭い」などの絶対にスリザリン生から聞いたと思われる単語が並んでいる。

 これで情報操作に躍起になる必要はなくなるだろう。

 私は第一の課題がどんなものか想像をめぐらせつつ、のほほんと学校生活を過ごした。

 

 

 

 

 

 

 第一の課題の1日前。

 私が早めに昼食を食べ終わり廊下を歩いていると、ハリーとハーマイオニー、そして何故かハッフルパフの上級生、セドリック・ディゴリーが空き教室で呪文の練習をしていた。

 明日の為に覚えた呪文の復習をしているのだろうか。

 私はなんの躊躇いもなくその教室に入っていく。

 ハリーは夢中で教室中のあらゆるものを引き寄せていた。

 もう目に付くもの全てに片っ端から呼び寄せ呪文を掛けている。

 

「はぁい。奇妙なこと――」

 

「アクシオ! ……咲夜!」

 

 ハリーは呪文を唱えた後に私に気が付いたのか私の名前を呼ぶ。

 

「え? ちょっ――」

 

 私は琥珀浄瓶に吸い込まれるようにハリーの方に引き寄せられる。

 そのまま私はハリーともみくちゃになりながら教室の床の上を転がった。

 

「だ、大丈夫かい?」

 

 ディゴリーが心配そうにこちらに駆け寄ってくる。

 そして手を伸ばしてきた。

 私はその手を取って立ち上がる。

 

「ハリー、スケベもいいとこよ」

 

「不可抗力だよ……あいたた」

 

 私の軽口も慣れたものだと言わんばかりにハリーは腰をさすりながら答える。

 

「でもハリー、さっきの呼び寄せ呪文は完璧だったわ。もっと集中すれば成功率が上がると思うの」

 

 ハーマイオニーが言った。

 呼び寄せ呪文は4年生の呪文学で習う呪文だが、確かハリーは殆ど成功していなかったはずだ。

 そして少し前に終わった範囲である。

 

「ハリー、貴方今頃になって呪文学の補習? 明日第一の課題なのよ? こんなに腕の立つ家庭教師が2人もいるならそっちの心配をした方がいいんじゃなくて?」

 

 私はディゴリーとハーマイオニーを見ながら言う。

 2人は何か迷っているかのようにハリーの方へと視線を泳がせていた。

 

「そういう咲夜は大丈夫なのか? 課題の内容を知らないんだろう?」

 

「あら、貴方は知っているかのような言い方じゃない。大丈夫よ。貴方が使える程度の魔法なら全て完璧に使えるわ。アクシオ」

 

 私が呼び寄せ呪文を唱えると教室の入り口に置き去りにしてしまった私の鞄が飛んでくる。

 私はその鞄を左手でキャッチした。

 

「まあ、こんなものね」

 

 私が手に持った鞄を地面に落とすとズンッという音がする。

 ディゴリーはその音を不思議に思ったのか私の鞄を手に取った。

 

「なんだこれ! 持ち上がらない……」

 

 まあ私の鞄は重たいので当たり前だ。

 ハーマイオニーは心配そうにハリーの顔を見ている。

 ハリーも何かを考えているようだった。

 

「咲夜、僕は第一の課題の内容を一部知ってる。それを君に教えることだって出来る」

 

「そう、やはりね。私は知らないわ」

 

 私は特に驚くこともなく言った。

 大方ダンブルドア先生あたりがこっそり教えたのだろうと推測を立てる。

 これぐらいのハンデがなければハリーが私に敵わないと思ったのだろう。

 

「知りたいとは思わないのか?」

 

 ディゴリーが私の方を見て言った。

 その様子を見るにやはりハリーは第一の課題を突破するために2人に教えを乞いていたのだろう。

 

「知りたくないわけではないわ。でも第一の課題は明日よ?」

 

 ハリーは現実逃避をするように視線が泳ぐ。

 

「今更って感じもするわね。それじゃあ、午後の授業で」

 

 私は鞄を持ち上げて教室の出入り口の方に歩く。

 

「咲夜、ドラゴンだ」

 

 後ろからそんな声が聞こえた。

 私は後ろ手に人差し指を立てる。

 

「借り1つね」

 

 そして3人を残したまま私は教室を後にした。

 




用語解説


簡易透明マント
ハリーの程高性能じゃないです。動かなかったら分からない程度のカモフラージュ率。

ムーディ先生に掛けた忘却術
咲夜は双子の呪いと忘却術が大の得意です。パチュリー様に「この2つ覚えていたら偽装が楽よ」と言われたから。
ちゃんと掛かっているかは最後の方にわかるかと。

「法律だけは犯すでないぞ」
諦め。

司会のフレッド、ジョージ
実況のリー・ジョーダンと合わせれば最強。

ヘイトの集まるハリー
原作のハリーにグリフィンドールからの批判が無かったのは自分の寮から代表選手が出るという喜びから。初めから代表選手がグリフィンドールから出ており、さらにその代表選手がハリーより高性能な咲夜ちゃんなので別にハリーが選手に選ばれなくてもよかったという印象が出てしまう。そしてハリーの態度。グリフィンドール生、14歳、皆から特別な目で見られているなど共通点が多いのでどうしても比べられてしまうとハリーの態度が目立ってしまいどうしてもヘイトが溜まってしまう。
ですが全国のハリーファンの皆さまご安心ください。第一の課題が終わった頃から段々と批判が減っていきます。

家庭教師セドリック・ディゴリー
ハーマイオニーと合わせハリーの助っ人キャラです。


追記
文章を修正しました。

2018-09-30 加筆修正

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