私の世界は硬く冷たい   作:へっくすん165e83

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今回書くのに四苦八苦したのであんまり面白くないかもです。
誤字脱字等ございましたらご報告して頂けると幸いです。


金庫とか、妹様とか、科学とか

 私は1人、ダイアゴン横丁を歩いていた。

 時刻はちょうど昼を過ぎたあたりで、先ほど漏れ鍋で昼食をとったばかりである。

 私は人の流れに乗りながらダイアゴン横丁を進み、高級箒用具店へと入った。

 この店には一度訪れたことがある。

 お嬢様に箒を買っていただいた店だ。

 店の中には様々な箒が並んでいるが、その中に一際視線を集めるものがある。

 ショーウィンドーに飾られた『それ』の下には大きな説明書きがなされていた。

 炎の雷・ファイアボルト。

 最高級のレース用の箒らしい。

 針の先ほども狂わない精密さと僅か10秒で240kmまで加速できるんだとか。

 そしてお値段なんと500ガリオン。

 スターリング・ポンドで2560ポンドもする。

 ブラックは一番いい箒をハリーに、と言っていたのでこれでいいだろう。

 私は店を出ると再びダイアゴン横丁を歩き出した。

 

「ファイアボルトなんて最高級の箒を贈られたら心臓発作を起こすんじゃないかしら」

 

 私はグリンゴッツを目指して歩みを進める。

 そう言えばまだ連絡をしていなかったと思い至りリドルの日記を取り出した。

 

『今日は帰るのが少し遅くなるかも。多分紅魔館に着くのは夜になると思うわ』

 

『何か用事かい?』

 

『ハリーの愛用の箒が真っ二つでね』

 

『そうか、そろそろクリスマスか。紅魔館でもクリスマスパーティーの準備で大忙しさ』

 

『去年は毒ガス騒動のせいで出来なかったわけだし、今年は去年の分の予算も使って盛大にやるみたい』

 

『それは大変だ。せいぜい雑用を押し付けられないように気を付けるよ』

 

 私はリドルの日記を閉じ鞄に仕舞うと、目の前の白く大きな建物を見据えた。

 

「ここがグリンゴッツね」

 

 観音開きの扉を開け中へと入る。

 中は大理石のホールだった。

 カウンターの向こうでは多くのゴブリンが忙しそうに働いている。

 私は空いているカウンターの前まで行くと受付のゴブリンに話しかけた。

 

「知り合いの金庫からお金を引き出しにきたのだけど……711金庫よ」

 

「鍵はお持ちですかな?」

 

「ええ、本人から預かってきたわ」

 

 私は鞄の中から黄金の鍵を取り出すとゴブリンに手渡す。

 ゴブリンはその鍵を慎重に調べ始めた。

 

「間違いなくグリンゴッツの金庫の鍵です。711番金庫ですとブラックさんの金庫ですね。ご案内いたしましょう」

 

 私はゴブリンのあとに続き銀行の奥へと入っていく。

 そして細い通路を通りしばらく進むと小さなトロッコが置いてあった。

 

「グリンゴッツの金庫は地下にあるのね」

 

「ええ、ここよりも管理が厳重な銀行は他にないでしょう」

 

 私はゴブリンと共にトロッコに乗り込み線路を走る。

 線路はグネグネと曲がりくねり、急上昇と急降下を繰り返した。

 

「これってもう少し効率よく通路を作ることが出来たと思うんだけど、そこのところどう思う?」

 

「これは侵入者対策です。不用意に立ち入ったら最後、二度と出ては来れません。」

 

「まず入られない努力をしなさいよ」

 

 しばらく地下深くへ進むとトロッコが急停車した。

 目の前には小さな扉がある。

 ゴブリンは黄金の鍵を扉に差し込み捻ると、ゆっくりと扉を開けた。

 金庫の中はまさに宝の山だった。

 ガリオン金貨が山のように積まれており、そのほかにも高そうな調度品が積まれている。

 私はガリオン金貨を100枚ずつ袋に分けると500ガリオン全てを鞄の中に入れた。

 

「便利な鞄をお持ちのようだ。ご用は済みましたかな?」

 

「ええ、帰りも安全運転で頼むわ」

 

「速度は一定となっております」

 

「脱線しなければなんでもいいわ」

 

 私はトロッコに乗り込み銀行のホールへと戻った。

 カウンターで手続きを済ませゴブリンから鍵を受け取る。

 

「またのご利用お待ちしております」

 

 私は鍵を鞄に仕舞うとグリンゴッツを後にした。

 来た道をまっすぐと戻りもう一度高級箒用具店に入る。

 私は並んでいる箒には目もくれず店主のいるカウンターまで進んだ。

 

「ちょっといいかしら。クリスマスのプレゼントに箒を贈りたいのだけれど」

 

 店主は目をぱちくりとさせたが、慌ててこちらに向き直る。

 

「ああ、オークシャフト79を買ってったお嬢さんのメイドさんかい」

 

 どうやら店主は私のことを覚えているようだった。

 

「プレゼントだったね。どの箒かね?」

 

「あれよ」

 

 私はファイアボルトを指さした。

 

「クイーンスイープかい?」

 

「その横」

 

「シルバーアローか。あれはちと高いぞ?」

 

「違うわ。逆よ」

 

 私はもう一度ファイアボルトを指さした。

 

「まさか……」

 

「そのまさかね」

 

 店主は大きくガッツポーズをすると、小躍りし始めた。

 

「やった! 仕入れたはいいものの凄い値段だから全然売れなくて困ってたとこなんだよ。まだ4,5本倉庫に在庫がある。そう、凄い値段……お嬢さんお金は大丈夫かい? 500ガリオンですぞ」

 

 私は鞄を開けるとガリオン金貨の詰まった袋を1つ取り出しカウンターに置いた。

 

「100ガリオン」

 

 店主の目が輝いた。

 私はもう1つ袋を取り出す。

 

「200ガリオン」

 

 店主の口が横に広がった。

 

「300ガリオン」

 

 店主は袋の口を開け、眩い光を放つ金貨に見とれている。

 

「400、500ガリオン。勿論レプラコーンの偽物ではないわ。さっきグリンゴッツからおろしてきたところの本物よ」

 

「毎度あり! 誰に贈りやしょう」

 

 店主は手を叩いて喜んだ。

 

「ホグワーツにいるハリー・ポッターにクリスマスプレゼントとして。匿名でね」

 

「サプライズですね。かしこまりました。しかしハリー・ポッターとは……お嬢さんも友好関係が広くいらっしゃる」

 

「彼、腕のいいシーカーなのよ。でも前の試合で愛用の箒を折ってしまって」

 

「これを貰って喜ばない選手はいませんぜ。ささ、手続きを進めましょ」

 

 私は店主の指示に従って書類に書き込んでいく。

 

「そうだ、暖炉をお借りしてもよろしいかしら」

 

「煙突飛行ですかい? 勿論ですとも。是非ご来店の際にもご使用ください」

 

 私はプレゼントの手続きを済ませると、魔法で暖炉に火をつける。

 そして煙突飛行を使い大図書館へと移動した。

 

 

 

 

「あら、夜になると聞いていたけど早かったわね」

 

 図書館の暖炉から出ると、机で本を読んでいたパチュリー様が私を出迎えてくれた。

 

「ただいま戻りました」

 

「紅魔館はクリスマスの準備で大忙しよ。美鈴の手伝いをしてあげなさい」

 

「承知しております」

 

「おや、早かったじゃないか」

 

 本の影からパーティー用の三角帽子を被ったリドルが顔を出した。

 

「あら、愉快なものを被ってるわね」

 

「巻き込まれたんだ。美鈴にね」

 

 リドルは忌々し気に帽子を握りつぶす。

 

「僕は研究で忙しいと言っているのに食材の注文を押し付けられたり、賓客への招待状を書かされたり、会場への机運びを頼まれたり、仕舞いにはこれだ」

 

「抑えなさいリドル。パーティーの前日には私も手伝いに追われるんだから」

 

 今にも帽子に火をつけそうな勢いのリドルをパチュリー様がなだめる。

 

「それに当日は巻き込まれないわ。私もリドルも表へ出るわけにはいかないもの」

 

「先生……それはそうですが……」

 

 パチュリーが手を振るうと潰された三角帽子が元に戻る。

 リドルは渋々それを被り直した。

 ……いや別に被らなくてもいいだろうに。

 文句を言っているが案外準備を楽しんでいるのかも知れない。

 

「咲夜。レミィが部屋で待っているそうよ。荷物を置いて着替えたらレミィの部屋に行きなさい」

 

 パチュリー様はそういうと何かを本に書いていく。

 私は一礼して時間を止めた。

 そのまま図書館を出て自室に向かう。

 鞄を置いていつものメイド服に着替えると姿見の前で身だしなみを整えた。

 

「よし」

 

 やはりメイド服を着て紅魔館にいるのが一番落ち着く。

 私は自室を出るとお嬢様の部屋まで飛び、扉の前で時間停止を解除した。

 

「咲夜ね。入りなさい」

 

 私がノックをする前に声が掛けられる。

 私は静かに部屋へと入った。

 

「ただいま戻りました。お嬢様」

 

「お帰り。ついてきなさい。大事なことよ」

 

 お嬢様はいつになく真面目な表情をしていた。

 お嬢様は私の横を通り廊下へと出る。

 私はその後に続いた。

 廊下をお嬢様の後について歩きながら私は考える。

 大事なこと、とはなんだろうか。

 訪ねたい気もするが、いつも以上に真面目な雰囲気のお嬢様に私は声を掛けることができなかった。

 私たちはそのまま地下の方に降り、図書館を通り過ぎる。

 

「お嬢様、こちらの方向は……」

 

「……」

 

 そう、この方向はいつも妹様の笑い声が聞こえてくる方向だ。

 私は一層に気を引き締めてお嬢様の後に続いた。

 

「咲夜、貴方もここに来てから少し経つわ」

 

 お嬢様はそこで言葉を切る。

 そう、お嬢様にとっては私と過ごした時間は少しなのだ。

 

「フランに貴方を紹介しようと思う」

 

 お嬢様は私の目を見た。

 

「フランが手を握ろうとしたら、時間を止めて移動しなさい。少しでも遅れたら死ぬわよ」

 

 お嬢様は私に向けて手を伸ばすとそれを握った。

 

「フランは手を握るだけで貴方を殺すことが出来る。そしてそれをあの子は躊躇しないわ」

 

「承知致しました」

 

 お嬢様は目の前にある扉を3回ノックした。

 扉には鍵も封印もされていないことに私は少々驚く。

 

「フラン、入るわよ」

 

 そしてお嬢様はゆっくりと扉を開いた。

 

 

 中にいたのは肖像画通りの少女だった。

 床にペタンと座り、手には熊の縫いぐるみを握っている。

 金色の髪に赤い瞳、ちらりと見える牙。

 そして背中から生える羽は枯れ枝のように細く、宝石のようなものがぶら下がっている。

 この少女が、彼女がフランドール・スカーレットお嬢様なのだろう。

 突然妹様がふらりと右手をこちらに向けた。

 そしてその指がゆっくりと握られていく。

 私は握られる瞬間に時間を止め、お嬢様の右隣から左隣へと移動した。

 時間停止を解除する。

 

「ん? あれ?」

 

「やめなさいフラン。咲夜」

 

 お嬢様から声を掛けられたので私は一歩前に出て妹様に頭を下げた。

 

「お初にお目に掛かります。フランドールお嬢様。十六夜咲夜と申します」

 

「貴方は壊れないのね。お姉さまや美鈴、パチュリーと同じだわ」

 

 妹様はにっこりと私に微笑む。

 

「最近紅魔館に入ったメイドよ。咲夜、これからはフランの世話も貴方の仕事の1つになるわ」

 

「かしこまりました。これからよろしくお願い致します。フランドールお嬢様」

 

 妹様がふらりと立ち上がる。

 

「そう、咲夜ね」

 

 次の瞬間既に妹様は半分以上手を握りこんでいた。

 私は内心焦ったように時間を止める。

 そして妹様の後ろに回り込むように立つと再度時間を動かした。

 

「あら」

 

「お止めください」

 

 妹様は驚いたように後ろを振り返る。

 その瞬間に時間を止め、今度はレミリアお嬢様の横へと移動した。

 

「あれ? ……やっぱり、貴方も普通じゃないのね。お姉さまもこんな隠し玉を持っているなら早く見せてくれたらよかったのに」

 

「貴方の気に慣らしていたのよ。フラン、仲良くしなさいね。咲夜、行くわよ」

 

「はい」

 

 お嬢様が部屋の外に出たので私も後に続き部屋の扉を閉める。

 次の瞬間、全身から冷や汗が湧き出た。

 

「はぁ、はぁ……はぁ……」

 

 まるで先ほどまで導火線に火をつけたダイナマイトを握りしめていたかのように。

 足がガクつき、倒れそうになる。

 お嬢様の前でなければその場で膝をついていただろう。

 

「あの子がフランドール・スカーレット。私の実の妹よ。見てわかったでしょう。あの子の部屋には鍵もなければ封印もしていない。あの子は自らの意思であそこにいるのよ。あの部屋から外に出ようとしないの」

 

 お嬢様はゆっくりと廊下を歩いていく。

 

「あんな子だけど、可愛い妹なのよ。私のたった1人の家族なの」

 

 お嬢様は立ち止まり顔を伏せた。

 

「お嬢様……」

 

「休暇中だけでも仲良くしてあげて頂戴。フランのことをよろしく頼むわ」

 

 お嬢様は私のほうを見て微笑むが、その顔は儚く、とても弱々しく。

 私は悟った。

 妹様はお嬢様の弱みなのだと。

 そして何よりも守るべきものなのだと。

 

「勿論ですとも、お嬢様。お嬢様にとっての大切な方は、私にとっても大切な方です。何が有ろうとも命を賭してお守り致します」

 

 お嬢様は私の言葉を聞くと満足そうに頷く。

 そして両手を上げて歩き出した。

 

「さて咲夜! クリスマスよ! 悪魔がクリスマスを祝うのはおかしいかもしれないけどその矛盾がいいじゃない! 去年はパチュリーの毒ガス騒ぎで中止になっちゃったし盛大に行うわ。人も妖怪もわんさか呼ぶわよ」

 

「盛大にやりましょう、お嬢様」

 

 私はお嬢様がことあるごとにパーティーを行う理由を理解したような気がした。

 

 

 

 

 

 大忙しのクリスマスパーティーも終わり、私はリドルと共に図書館でぐったりとしていた。

 今年のパーティーは本当に疲れた。

 お嬢様にとっては一晩の出来事かもしれないが、時間を止めながら仕事をしている私の体感時間は1週間ほどにもなるのだ。

 リドルが疲れている理由は私とは違う。

 リドルには妖精メイドに服従の呪文を掛ける作業をして貰っていた。

 服従の呪文と言っても妖精を無理やり服従させて仕事をさせているわけではない。

 妖精たちは自ら進んで服従の呪文に掛かりにくるのだ。

 妖精たちに理由を聞くと、考えなくても仕事が出来、なにより間違えることがないからだという。

 リドルは一晩で30人もの妖精メイドを陰から操っていた。

 疲労が残るのは致し方ないことだろう。

 

「紅魔館ではいつもこうなのかい?」

 

 リドルが机の上に頭を乗せぐったりとしながら私に問う。

 

「ええ、基本的に毎年ね。肌荒れとかしてないかしら」

 

 私は手鏡を出して顔を確認するが、いつも通りの私だった。

 

「というか、日記帳でも疲れるのね」

 

「君だって休む時間は無尽蔵にあるだろう?」

 

 私とリドルは顔を見合わせると同時にため息をつき机に突っ伏す。

 その頭をパチュリー様が本で叩いた。

 

「いつまでぐうたらしている気かしら。パーティーが終わったら年越しの準備をするわよ。リドルは私を手伝いなさい。咲夜は美鈴と一緒に館の掃除と妹様の世話」

 

「かしこまりました」

 

 私は時間を止めると椅子から立ち上がり美鈴さんのもとへと向かう。

 美鈴さんはいつも通り館の外に立っていた。

 外の気温は氷点下を下回っているが、美鈴さんはいつも通りのチャイナ服だ。

 

「お、咲夜ちゃんどうしたの? そういえば聞いたわよ! 妹様のお世話が解禁になったんだってね。お嬢様も咲夜ちゃんのことを一人前って認めたってことかしら」

 

「そんな格好じゃ風邪ひきますよ? 寒くないんですか?」

 

 私は美鈴さんの服装を見て言う。

 それを聞いて美鈴さんはカラカラと楽しそうに笑った。

 

「私は妖怪だからあまり気温っていう概念に左右されないのよ」

 

「そういうものなのかしら。年末に向けて館中大掃除をするから、手伝ってくださいな」

 

「じゃあメイドを連れて先に掃除を始めるわね。咲夜は妹様に食事を届けて頂戴」

 

 美鈴さんはそう言うと紅魔館の中に入っていった。

 私は近くで庭仕事をしている妖精に来客があれば教えるようにと指示を出すと厨房へと向かう。

 妹様の夜食は夕方の時点で既に完成している。

 私はそれを持ち地下へと進んでいった。

 妹様の世話を初めて1週間。

 そろそろ妹様の独特の雰囲気にも慣れたところだ。

 初めの頃は私を壊そうとしてきた妹様も、私を壊すのは無理だと悟ったのか今ではそのようなことはなさらない。

 私は妹様の部屋の前まで行き、ドアをノックした。

 

「失礼致します。お食事を届けに参りました」

 

 私が室内に入ると妹様は顔をこちらに向けた。

 

「あら、咲夜じゃない。いつもありがとう。クリスマスは今年も盛大にやったみたいね。お姉さまの恥ずかしい演説がここまで聞こえてくるようだったわ」

 

 私はテーブルの上に妹様の夜食を置くと、その食事の時間停止を解除した。

 

「そういえば咲夜は人間みたいだけど、なんでここにいるの?」

 

「私自身も覚えていないほど小さい頃に、お嬢様に拾われたのです」

 

「そう、お姉さまの戯れでここに飼われているのね。お姉さまもお姉さまだわ。いくら能力が特殊だからって人間の少女をそばに置くなんて。可哀想だとは思わないのかしらね」

 

「私は紅魔館で働けて幸せです」

 

「それしか知らないだけだと思うわよ」

 

 妹様は椅子に座ると夜食を取り始める。

 

「そうなのでしょうか。だとしたら、それしか知らない私は幸せ者のメイドですわ」

 

 妹様は私の想像とは裏腹に非常に冷静で賢い方だった。

 それはここ1週間お世話をしてみて気が付いたことでもある。

 話す内容は論理的で、あまり感情には流されない。

 私の話などに含まれている情報を頭の中で整理し、言葉以上のことを理解する。

 変わったところと言えば、会って少しの間殺されそうになったことと部屋から出ないことぐらいだ。

 

「まあ貴方がそう思っているならそれでいいのかもね。このハンバーグ美味しいわね。肉が特別なのかしら」

 

「はい。今日の肉は特上のものです。最高級の食用の人肉を仕入れました。男と女、つがいの肉を合い挽きにし、焼き上げたものでございます」

 

「ふうん、いかにもお姉さまが好みそうなものね。2人の愛が繋ぎになっているとかそういう話でしょう? まあ美味しいからいいけどね」

 

 妹様は一口血を飲むと、私のほうに振り向く。

 

「いいこと教えてあげるわ。お姉さまは貴方を不死鳥の騎士団に入れたいらしいの。死喰い人にもよ。ようは3重スパイになれってことね。美鈴の話ではシリウス・ブラックの脱獄を手伝ったりしていたみたいだけど、それは下ごしらえってところかしら。なんにしても、来年度あたりから忙しくなるかも」

 

 私はその言葉に混乱した。

 そんな情報一体どこで仕入れたのだろうか。

 

「貴方もお姉さまも不用心すぎるのよ。心が。そして私から目を放すまいとこちらを覗き込みすぎている」

 

 妹様はご自身の目を指さした。

 

「パチュリーから閉心術を習いなさい。貴方は紅魔館の秘密を抱えすぎている。その情報は容易に敵に渡ってはいけないものよ。そして備えなさい。来年度から本格的に動き出すことになるわ」

 

 美味しかったわ、と妹様がナプキンで口を拭いた。

 

「貴方がお姉さまの忠実な従者であり続けるのだとしたら、退屈はしないわよ。朝食も楽しみにしてるわ」

 

 私は妹様の食べた料理の皿を片付ける。

 そして一礼して部屋を後にした。

 妹様の部屋から遠く離れ、私はようやく心の余裕を取り戻すと妹様の言葉に関して思考を巡らせる。

 あれは妹様の開心術ということだろうか。

 妹様はお嬢様が私を両陣営に入れたいと思っていると言っていた。

 あの言葉は果たして本当なのだろうか。

 後ろを振り返ると妹様の部屋の扉が遠くに見える。

 そこからはここからでもわかるほどの狂気が漏れていた。

 取り敢えず助言には従っておこう。

 私は意識を切り替えると美鈴さんが居そうな方向へ歩き出した。

 

 

 

 

 

「いいかい? 閉心術というのは外部からの侵入に対して心を防衛する魔法だ。君は心を閉じ、僕の侵入を拒めばいい」

 

 リドルが黒板に文字を書き込んでいく。

 そこには開心術の仕組みが事細かに書かれていた。

 

「敵の侵入を防ぐには術のこの時点で閉心術を掛けなければならない。そして最終的には君の精神力が大切だ」

 

 今私はリドルから閉心術に関する講義を受けていた。

 妹様からの助言通りパチュリー様から閉心術を習おうと思ったのだが、リドルが名乗りを上げたのだ。

 パチュリー様の話では、リドルは開心術の達人らしい。

 リドルの開心術を防ぎきることが出来れば大体の魔法使いの開心術を防ぐことができるということだ。

 

「さて、では実習だ。初めにこれは見られたくないという記憶を取り出しておくといい」

 

 リドルがそういうとパチュリー様が杖先で私の頭から何かを引っこ抜いた。

 いや、そのような感覚があっただけだ。

 パチュリー様は杖先についた白くモヤモヤとしたものを瓶へと収める。

 

「これでいいわ」

 

 一通りの作業が終わるとパチュリー様がリドルに向けそういった。

 これは予想だが、多分先ほどパチュリー様が取り出したのはリドルにバレては拙い紅魔館に関する記憶だろう。

 

「じゃあ掛けるよ。真の技術者が掛ける開心術とは全く気が付かないほど自然だ。知らず知らずのうちに心が覗かれ、大事な物を持っていかれる。君はダンブルドアに開心術を掛けられたとき違和感を感じたと言った。ダンブルドアも開心術に関してはかなりの使い手だ。開心術に気が付くということに関しては君は天性の才能を持っている」

 

 ゾワリと、私の中に何かが入ってくる感覚がある。

 私はすぐさま目線を外す。

 

「驚いた。今のに気が付くか。これなら基礎は大丈夫だ。今度は目線を逸らさず、心に壁を作る感覚で僕の侵入を拒むんだ」

 

 私はリドルの言葉を聞いて自らの精神に集中する。

 スルリと私の中にリドルが侵入してくる。

 壁を作るとはどういうことだろう。

 私は心の中で大きな壁を想像した。

 

「それでは駄目だ。来るな、来てはいけないという心の持ちようが大切だ。その心を壁とし、相手の侵入を防ぐ。そして防ぐだけでも駄目だ。相手の侵入を防いだら次は押し返さないといけない」

 

 私は心の中でリドルを拒むように強く念じた。

 

「そうだ、それでいい」

 

 だが押し返すとはどういう感覚だろうか。

 私は心に入ってきたリドルの時間を止めるような想像をした。

 次の瞬間目の前にいるリドルも止まる。

 

「え?」

 

 私はそのまま心の中にいるリドルを『巻き戻した』。

 これはあくまでそういう感覚というだけだ。

 実際に術を科学的に行使しているわけではない。

 だがリドルは時間が戻っているように先ほどとは逆向きに動き出す。

 時間が逆に進んでいるわけではない。

 ただリドルが逆向きに動いているだけだ。

 私はリドルが私に侵入しようとしているところまで戻すと一旦その行為をやめた。

 

「驚いた。今のに気が付くか。これなら基礎は大丈夫だ。今度は目線を逸らさず、心に壁を作る感覚で僕の侵入を拒むんだ」

 

 またリドルが私の中に侵入してくる。

 私は先ほどと同じように侵入してきたリドルの時間を文字通り巻き戻す。

 

「驚いた。今のに気が付くか。これなら基礎は大丈夫だ。今度は目線を逸らさず、心に壁を作る感覚で僕の侵入を拒むんだ」

 

「フフ、気が付いてないのかしら」

 

 パチュリー様が耐えきれないと言わんばかりに吹きだす。

 

「なんですか先生」

 

 リドルが何か様子が変だと言わんばかりにパチュリー様に聞き返した。

 

「貴方巻き戻ってるわよ。ほら」

 

 パチュリー様が魔法石のようなもので黒板に映像を投影する。

 そこには同じことを何度も何度も繰り返すリドルの姿があった。

 

「これは一体……閉心術を使ってもこうはならない」

 

「さっき私は試しに侵入してきたリドルの時間を巻き戻すような想像をしたわ。そしたらこのありさまよ」

 

 その言葉を聞いてパチュリー様とリドルは何か考えを纏めるように議論を重ねた。

 そしてリドルが口を開く。

 

「想像をしたというのはどういうことだい? 能力を使ったわけじゃないんだろう?」

 

「ええ、ただそう想像しただけよ。いつもの感覚を頭の中で起こしたような?」

 

「それは能力を使うのとは違うの?」

 

 今度はパチュリー様が聞いていた。

 

「能力は現実世界での現象です。精神的なものとは違うと思います」

 

「え? どういう理屈よそれ」

 

 パチュリー様は眉をひそめた。

 私はその顔を見てさらに説明を加える。

 

「時間を止めるというのは現実世界の時間を止め、そこで動かすものの選択を――」

 

「だからそれが良く分からないのよ」

 

 パチュリー様は一旦黒板の上を綺麗にする。

 そして新たに文字を書き加えていった。

 

「貴方はどうも自分の能力を理論的に解釈しようとしすぎているわね。それも既存の科学を使って。時間を止めなさい。そして私だけその時間の中で動かしてみて」

 

 私はパチュリー様に言われた通りに時間を止め、パチュリー様の時間だけを動かした。

 

「ふむ、まず1つ目の誤解だけど、貴方は以前時間の止まった物体に触れることが出来ないと言っていたわね。凍傷を起こしてしまうからだと。でもそれは科学的な考え方よ。貴方の能力は何?」

 

「時間を操る能力です」

 

「そうね。時間を操る能力。その能力自体は霊的なものだわ。これだけは言っておくわ。貴方が頼りにしている科学では『時間が止まった世界の中で動くのは不可能』よ。あらゆる物理的な相互作用が消え失せ全てが無に帰るわ」

 

 無に帰る? それは一体どういうことだろうか。

 

「貴方は自分の鞄の重さが無くなると言っていたわね。もしそれが重力子の伝達が時間が止まった影響で行われていない為と考えると、それは時間を停止された空間にも適用されるはずよ。地球の時間は止まっているんだから伝達される重力子の数が圧倒的に少なくなる。つまりほぼ無重力だということよ」

 

 次の瞬間パチュリー様が浮き上がった。

 いやそれは私も同じだ。

 私の世界から重力が消え失せた。

 

「そして貴方は時間の止まった物質に触れると凍傷を起こすと言ったわね。基本的にエネルギーというものは無くならないわ。熱が奪われるというのはつまりこちらは冷やされるけど相手の方は温められるということ。原子的に言えば電磁気力によるぶつかり合いね。でも時間が止まっているということは電磁気力による力の伝達もないということ。温度は変化しないわ」

 

 パチュリー様は時間の止まっている机に触れる。

 凍傷を起こしているような感じはしない。

 私も触れるが、確かに冷たくない。

 

「そして電磁気力が無くなるということは物に触れることは出来ない」

 

 私が触っていた机の感触が無くなる。

 机に触れなくなる。

 

「光はどうなるのよ」

 

 光が消える。

 

「つまりよ。貴方の能力の解釈は穴だらけ。貴方は自分の都合のいいように能力を解釈し、自分の力に枷を作ってしまっている。想像しなさい。物の動きだけが止まった世界を。机を叩けば音がして、光はそのまま乱反射し、物は暖かく、触れれば動き出し。貴方にとって都合がいい世界を構築するのよ」

 

 ドスン。

 私は床に尻もちをついた。

 急に重力を取り戻したためだ。

 そして地面に当たったということは物質に触れるということだ。

 パチュリー様が私の前にふわりと降り立つ。

 姿が見えるということは光があるということだ。

 

「それでいいわ。貴方の世界なのだから貴方の好きなようにすればいいのよ」

 

 時間停止を解除した。

 私は立ち上がりスカートについた埃を払う。

 

「パチュリー様、今のは一体……」

 

「マインド・コントロールっていうのかしら? 洗脳の1つよ。魔法と幻想の世界で科学を中心とした考え方では限界があるわ」

 

「なんで尻餅をついているんだい?」

 

 リドルが不思議そうな顔をした。

 パチュリー様は黒板に文字を書き込んでいく。

 

「前までの時間が止まった世界での解釈では行動に不自由が生じていたわね」

 

 パチュリー様は黒板に『物体の凍結、物質への干渉の不自由』と書き加えた。

 

「閉心術よりもまず先に『自分の世界』を構築しなさい。科学的な解釈は使わず、『時間』という概念だけに重きを置いて考えなさい」

 

 パチュリー様はそういうと黒板の文字を消した。

 私1人で考えろということだろう。

 リドルは何があったか分からないという顔をしていた。

 

「えっと、閉心術の講義は一旦中止と考えていいのかい?」

 

「その必要はないわ、トム」

 

 私はリドルにそう言葉を掛けた。

 そして時間を停止させた。

 

 

 

 

 私は時間の止まった世界であらゆることを試していく。

 空を飛んだり物に触れたり、能力を使ったり解除したりと。

 慎重に物事を観測し、都合が悪いと感じたら能力自体の解釈を変更していく。

 そして私の体感時間で1年ほどが過ぎた時、ようやく私は自分の世界を作り上げた。

 止まった時間の中で過ごした1年。

 私はお腹も空かなければ爪が伸びたりなどもしなかった。

 おかしいとは感じたが、つまりは『そういうこと』なのだろう。

 私は時間停止を解除した。

 

 

 

 

「お待たせリドル。閉心術の練習を始めましょう」

 

 私は固まったままそこで待っていたリドルに声を掛けた。

 リドルはもういいのかい? と言った表情をしていたが、私の顔を見て何かを納得したかのように頷く。

 

「いったい何日時間を止めていたんだい? 今までと顔つきが全然違うじゃないか」

 

「1年ぐらいかしら? この1年、目が覚める気分だったわ」

 

 私はリドルの目を見つめる。

 リドルは軽く合図をすると私の心に侵入しようとした。

 

「なに? そんなはずはない……」

 

 リドルは何度も何度も私に開心術を掛けようとする。

 だが、心に入ることが全く出来ていなかった。

 

「まるで無機物のようだ。干渉が出来なくなっている。その辺にある本棚と区別がつかないレベルだよ」

 

「心の時間を概念上止めているのよ。今思えば吸魂鬼の影響を受けなかったりと前兆はあったわ。多分影響を受けなかったのは無意識のうちに心を凍結させていたからでしょうね」

 

 私は先ほど瓶に取り出した記憶を杖を使って頭の中に戻す。

 そして軽く微笑むと図書館を後にした。

 

 

 

 

 

 私は美鈴さんと一緒にロンドンの街を飛んでいた。

 ホグワーツへ登校する日がやってきたのだ。

 煙突飛行を使ってもいいのだが、たまにはこうして街を『飛ぶのも』いいだろう。

 そう、私は今時間を止めている。

 美鈴さんは時間の止まった空を自由に飛んでいた。

 

「へえ、前までは咲夜ちゃんから少しでも離れると冬とは比べ物にならないほど冷えたけど、今はそんなことないわね。能力が進化したってのはそういうこと?」

 

「同じようなものですよ。少し便利になっただけです。例えば……」

 

 私は街を歩いている人間の首筋にナイフを投げる。

 そのナイフは肌に弾かれることなく突き刺さった。

 

「とまあこんな感じ?」

 

「お見事。今までは時間が止まった世界では人を殺せなかったんだっけ?」

 

「ええ、今までは弾かれていたわね」

 

 私はナイフを魔法で引き抜く。

 傷口から血が漏れ出すことはない。

 そう、人間の時間自体は止まっているのだ。

 

「便利ね」

 

「まあね」

 

 私はロンドンの空を悠々と飛ぶ。

 今までは私の周囲の空気の時間停止を解除することによって息をしていた。

 だが今ではその必要もない。

 私は美鈴さんの方を見る。

 こんな真昼間に空を飛ぶのは久しぶりなのか、あちこち見回しながらフワフワと周囲を飛んでいた。

 

「さて、時間はあることですし、ゆっくり行きましょう。美鈴さんももう少し飛びたいでしょう?」

 

「咲夜ちゃんは学校が恋しくない?」

 

 美鈴さんは冗談めかしていう。

 私はその言葉をバカバカしいと一蹴した。

 

「もう既に紅魔館が恋しいわ」

 

 美鈴さんはその言葉を聞いてケタケタと笑う。

 

「今さっきお嬢様と妹様に挨拶して出てきたところじゃん。だったら早く帰れるように駅に急ぎましょうか」

 

 美鈴さんはキングズ・クロス駅に向けて一直線に飛び始めた。

 私もその後を追う。

 

「そう言えばシリウス・ブラックとはどうなの? おぜうさまから聞いたけどお世話していたんでしょう?」

 

「ブラックに死なれたら困るわ。お嬢様の命令に逆らうことになるもの」

 

「情が移った?」

 

「少し違うわね。ほっとけないだけですよ。頭はいいのに自制が利かない。ほんとそっくりよ。どこかの誰かさんに」

 

 私は肩を竦めてため息をつく。

 

「それはおぜうさまも同じだと思うけどねー。見た目は子供、頭脳は大人、でも精神年齢は子供っていうね」

 

「それはどうなのかしら」

 

 私はお嬢様が真面目なことを言っているときのことを思い出す。

 お嬢様は確かに騒ぐときは騒ぐお人だが、私はお嬢様以上に聡明な人を知らない。

 

「そういえば、美鈴さん。美鈴さんは妹様のことをどう思います?」

 

「妹様? そうですねぇ……私はお嬢様よりまともな性格してると思ってますけど。なんにしても計り知れないわね」

 

「美鈴さんもそう思う? 私も同意見です。何故部屋にこもりっきりなのか分からないけど、もし外に出てきたらと思うと……」

 

「あー、それは少し拙いわね」

 

 美鈴さんは苦笑いをした。

 

「紅魔館は余りにも多くの秘密を抱えすぎている。パチュリー様、妹様。その2つだけでも余りにも大きいわ。だから咲夜ちゃんは学校に通っているのではなくて?」

 

 そして美鈴さんは私を見る。

 私はその顔をまっすぐと見返した。

 

「そうかもしれません。行ってきますね。美鈴さん」

 

 そして顔を見合わせたままニッコリと微笑んだ。

 11時に汽車が出る。

 今の時刻は10時59分59秒。

 懐中時計の針はそこで静止していた。

 

 

 

 

 

 私はキングズ・クロス駅で美鈴さんと別れると汽車に乗り、空いているコンパートメントを探す。

 そして誰もいないコンパートメントに座ると、時間停止を解除した。

 次の瞬間汽車が発車する。

 懐中時計を見るとぴったり11時を指していた。

 ゆっくりと過ぎていく風景を眺めながら紅魔館が遠くなっていくことを悟る。

 そして目を瞑るとゆっくりと夢と現実の間を漂った。

 他の生徒の声がふわふわと私の頭の中に入ってくる。

 急にコンパートメントのドアが叩かれたので私は意識を覚醒させた。

 

「誰かしら」

 

 私がドアについている窓を見るとそこにはドラコが立っていた。

 

「やあ咲夜。奇遇だね。隣いいかい?」

 

 ドアを開け、ドラコを中に入れる。

 ドラコの手はすっかり治っているようだった。

 

「腕はもう大丈夫なの? 随分と長引いたようだけど」

 

「もうすっかりさ。そうだ、父上にその話をしたら、理事に訴えてくれたみたいでね。近いうちにヒッポグリフは裁判に掛けられるだろう。多分死刑だ。僕の腕を八つ裂きにしたんだから!」

 

「そんなに裂かれてないでしょう? 1回よ、1回」

 

「怪我をしたのは事実だよ」

 

 ドラコは傷があったであろう場所をなぞる。

 私はドラコの傷を調べるようにドラコの手に触れた。

 

「そうね。もう綺麗に治っているわ。長くかかっていたから痕ぐらい残るかと思ったのだけれど、その辺は流石マダム・ポンフリーだわ」

 

「そ、そうだね」

 

 ドラコは顔を真っ赤にして手を引っ込める。

 私はクスクスと笑うと鞄の中から紅茶とスコーンを取り出した。

 

「1杯いかが?」

 

「頂こう」

 

 ドラコは私から紅茶の入ったティーカップを受け取った。

 

「本当はハグリッドをクビに出来たらよかったんだけど、父上曰くそれは少し難しいらしい」

 

「そうなの? それは多分貴方が怪我したからよ」

 

 何故だい? と言った顔でドラコは首を傾げる。

 

「もっと大きなへまをするまで泳がせるべきだったわ。生徒の1人でも死んでいればハグリッドの事だから自責の念に押しつぶされて自主的に教師を辞めていたわ」

 

「思いつめるタイプじゃないだろう。あいつは。ただのウドの大木さ」

 

 ドラコは私の紅茶を1口飲むと目を丸くする。

 

「美味しい、やっぱり母上の淹れる紅茶は不味いんだな。それとも咲夜の淹れる紅茶が美味しいのかな?」

 

「お世辞が上手ねドラコ。……そういえば、ドラコはブラックについて何か知っていることはないかしら」

 

 そういえばと思い私はドラコにブラックに関する話を振った。

 ハリーとブラックの関係について知っているようなことを言っていたのを休暇前の大広間で聞いたからだ。

 

「父上から聞いた話なんだが、ブラックはハリーの両親をあの人に差し出したらしい。貢物のかわりにしてね」

 

「ということはそれ以前までブラックは例のあの人の仲間ではなかったということなのかしら」

 

「多分そういうことだ。でもそのあとすぐに例のあの人は消えてしまった。ブラックもすぐに捕まった。まあブラックは脱獄したけどね。真相は誰にも分からない」

 

 ドラコはやれやれと言った表情で肩を竦めた。

 多分本当にこれ以上のことは知らないのだろう。

 妹様から3重スパイの件を聞いた時に死喰い人と不死鳥の騎士団のことについて調べたのだ。

 その過程でルシウス・マルフォイ氏が死喰い人じゃないかという情報が手に入った。

 もっとも、ヴォルデモート卿が消えてからはシラを切り通しすっかり権力を取り戻したようだが。

 

「ブラックは死喰い人だったのかしら。何か知らない?」

 

「そういう話は聞いたことがないな」

 

 これ以上有益な話は聞けないだろう。

 私は1つため息をつくと目を閉じた。

 

「ドラコ、私少し寝るわ。へんな虫が寄り付かないように見張っててくれないかしら」

 

「そうかい? 館での仕事は大変みたいだね」

 

 ドラコの了承が取れると私は体の時間を器用に止め、私の体に他人が干渉出来ないようにする。

 一通りの処理が終わると私は眠りに落ちていった。




用語解説


グリンゴッツ
初グリンゴッツ。シリウスの金庫は711番金庫です。

ファイアーボルト
日本のチームは負けると毎回こいつを燃やしているわけですが、勿体ないことこの上ないです。

パーティー
事あるごとに紅魔館ではパーティーしてます。

フランドール・スカーレット
初妹様。狂っているが故に正常。開心術の使い手。

能力解禁
現実世界で可能なことならある程度までは出来るようになりました。お前は4回だけ「出来るわけがない」と言っていい


追記
文章を修正しました。

2018-09-08 加筆修正

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