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囚人とか、美鈴さんとか、吸魂鬼とか
私は大図書館でパチュリー様とリドルの手を借りて黙々と準備を進めていた。
真っ黒の服の上にローブを着こみ、怪しげな仮面をつける。
白い髪はかき上げカチューシャで止め、フードの中にすっぽりと隠した。
「このネックレスをしなさい。声を変えることができるわ」
パチュリー様が私の首にシンプルな銀のネックレスを掛ける。
試しに少し声を出してみたが、確かに男とも女とも取れないような中性的な声に変わっていた。
「これをつけるといい。かつての知識とここでの研究で作ったものだ。魔法を使った時の匂いを消すことができる」
リドルがブレスレットを渡してくる。
匂いとは、魔法を使ったときに残る痕跡のようなものだ。
成人未成年関係なく、残る魔法の残滓を消すことができるらしい。
「もっとも、時間を止めた状態で使った魔法に関しては匂いは残らないから、緊急用と考えるといい」
リドルはそう付け足した。
「いい? 咲夜。これから行くのは北海にある孤島よ。魔法使いよりも厄介なものが待ち構えているわ。時間を止めるまで一瞬たりとも油断しないように。あと、これ。簡易的な姿現し妨害呪文妨害指輪。こっちは訓練しなくても姿現しができる指輪」
パチュリー様が魔法陣を図書館の床に書きながら片手間に渡してくる。
私はブレスレットと指輪をつけると、パチュリー様が書き終わった魔法陣の上に立った。
「おお、これならどこからどう見ても死喰い人だ」
「それは褒めているのかしら、貶しているのかしら」
「この場合は褒め言葉よ」
全ての準備が整うと、パチュリー様は魔法陣に魔力を込め始める。
その様子を1秒たりとも見逃さないようにと、リドルは魔法陣とパチュリー様を見つめていた。
「では、行ってまいります」
私はパチュリー様の魔法で空間転移した。
私は地に足がつくと同時に時間を停止させる。
そして目の前に広がる大きな建物を見上げた。
北海の孤島にあるとされる刑務所『アズカバン』
私は現在その建物の前に立っている。
「さて、中にはどうやって入るのかしら」
私は建物の周りを飛び回りながら休暇中にお嬢様から言われたことを思い出す。
数日前、いつものティータイムの最中に不意にお嬢様が呟いたのだ。
「あ、そうだ。シリウス・ブラックを助けに行きなさい」と。
まるでその場で思い出したかのようにお嬢様は一言そう言うと、何事もなかったかのように紅茶を飲む。
あの時は二つ返事で了承してしまったが、パチュリー様にそのことを相談するとそう簡単な話でもないらしい。
シリウス・ブラックとは、ヴォルデモートの失踪直後に大量殺人をしたとされる魔法使いだ。
現在はこのアズカバンという監獄に収容されているらしい。
お嬢様はどうしてこのブラックという殺人鬼を助けようと思われたのか。
何か考えがあってのことなのか、ただ退屈しのぎにそう申されたのかは分からない。
だが命令されれば従うだけである。
私は出入り口のようなものを見つけると建物の中に入る。
外もそうだが、建物のあらゆるところに吸魂鬼が浮いており、それが非常に邪魔な障害物となって私の前に立ちはだかっていた。
お嬢様が守護霊の呪文を私に練習しろと言ったのは今日の為だったのだろうか。
私は浮遊呪文を用いて吸魂鬼の位置をずらし、狭い監獄内を移動していく。
奥へ奥へと進んでいくと、ようやく囚人たちがいる牢屋へとたどり着くことができた。
そこには今にも死にそうな顔をした魔法使いや魔女が各々の檻でぐったりとしており、中には屋敷しもべ妖精の姿もある。
屋敷しもべ妖精も投獄されているということは、一般的な姿現しの妨害呪文とは違った特殊な呪文が使われているのだろう。
そんなところに空間転移させることが出来たパチュリー様の技術は、リドルが言うように並大抵のものではない。
感心していると牢屋の中にシリウス・ブラックの顔を見つけた。
私は中に入ろうとするが、牢屋には鍵が掛かっており簡単に中に入ることができない。
仕方がないのでテストも兼ねてパチュリー様から渡された姿現し用の指輪を試すことにする。
「確か『どこに』を念じるだけで空間転移できるんだったわね」
私はシリウス・ブラックが座っている目の前あたりの空間に意識を集中させる。
次の瞬間、去年の夏にパチュリー様と共に姿現しした時のような感覚が全身を襲い、いつの間にか私はブラックの前に立っていた。
まったくもって便利な魔法具だ。
私はシリウス・ブラックがいる牢屋の時間だけを器用に動かすとそのままブラック本人の時間停止も解除させた。
そうしなければ、ブラックは壁や床から冷やされ凍死してしまう。
「………――ッ!?」
シリウス・ブラックは時間停止を解除してからも数秒はぼんやりと死にそうな顔をしていたが、いきなり目の前に現れた私を見て飛びのく。
私はいきなり襲われることも予想していたのでその反応に少々驚いた。
「き、君は誰だ? どうやってここに入った……」
ブラックは落ち着いた声で私に聞く。
私はネックレスによって中性的になった声で答えた。
「助けにきたぞ。シリウス・ブラックよ」
「死喰い人などの助けは借りん。帰るがいい!」
ん?
何かがおかしいぞ。
私は頭の中でシリウス・ブラックに関する情報を整理していく。
シリウス・ブラックは殺人鬼だ。
だがシリウス・ブラックが死喰い人だったという情報はなかった。
つまりシリウス・ブラックは殺人鬼だがヴォルデモートの敵?
もしくはヴォルデモートの敵であり殺人鬼だというのも冤罪?
取り敢えずこのまま帰るわけにもいかないのでブラックの言葉を否定する。
「私は死喰い人ではない。この仮面は姿を隠す為の物だ」
「何故、私を助ける……お前は誰だ?」
何故……難しいことを尋ねるものだ。
「そのようなことはどうでもよい。シリウス・ブラックよ。ここから出たいか? それとも一生をこの牢獄で過ごすか?」
ブラックは何かを考えるように押し黙った。
お嬢様からは、シリウス・ブラックを助けるだけ助けてあとは泳がせておけとの命令を受けている。
その命令を聞いて私はますます混乱したのだが、理由を知る必要などない。
お嬢様の命令なのだから。
私はブラックにまっすぐ手を伸ばす。
ブラックは静かにその手を見つめていた。
「1つだけ聞かせてくれ。君はどちら側だ? 不死鳥の騎士団なのか、死喰い人なのか」
私はその問いの意味が分からなかった。
死喰い人というのはヴォルデモートの仲間のことだろう。
では不死鳥の騎士団とは?
先ほどブラックは死喰い人の手は借りないと言った。
ということはブラックは不死鳥の騎士団という組織の一員なのか?
私は少し悩み、答えを返した。
「どちらでもない。正義の為に」
ブラックは何かを覚悟したように私の手を取る。
次の瞬間、私は姿現しを発動させた。
場所はロンドンの路地裏だ。
かなりの長距離だが、そこはパチュリー様の魔法具だ。
体が欠損することなく私とブラックはロンドンの路地裏に現れることが出来た。
それと同時にアズカバンに着いた時から掛けていた時間停止を解除する。
「私はこれで失礼する。あとは君の自由にしたまえ」
私はそのまま路地裏の奥へと消えようと路地裏を歩く。
「君は一体……」
ブラックが何を言おうとしていたが、私はそのまま紅魔館へと姿現しした。
紅魔館では先ほどと全く変わらない光景が広がっている。
魔法陣の前でパチュリー様は手をかざしており、リドルはそれを見ていた。
「ただいま戻りました」
私が後ろからそういうと、リドルが驚いたように振り返った。
現実の時間では5秒も経ってないのだ。
ブラックと牢獄の中で話していた時も、時間は止まっていたのだから。
「早すぎないか?」
「成功したという証拠でしょう? 咲夜、お疲れさま。シリウス・ブラックの脱獄は上手くいった?」
パチュリー様が手を動かすと地面に書かれた魔法陣が消え去る。
「ええ、ロンドンに逃がしてきました。今からお嬢様に報告してきます」
私は協力してもらった2人に一礼すると時間を止め、いつものメイド服に着替える。
そしてそのままお嬢様の部屋まで飛んで行った。
時間停止を解除し、私は静かに扉をノックする。
「入っていいわよ」
お嬢様のお許しが出たところで私は静かに部屋に入る。
「シリウス・ブラックは無事脱獄しました。今頃はロンドンで1人困惑しているでしょう」
私は簡潔に仕事を完遂したことをお嬢様に報告した。
お嬢様はチェス盤の上でオセロの石を弄りながら私の報告を聞いている。
「彼は一体どちら側なのか、これではっきりすると思うわ。白なのか、黒なのか」
「と、おっしゃいますと?」
「興味があるのよ。チェス盤の上にオセロの石が立てた状態で置かれていたら困るじゃない? 彼の犯した罪は一見黒だわ。でもだからといって黒に交ぜてしまってもよいのかしら。黒に交ざらないのだとしたら白には交ざるのか。それとも、初めから白なのか。白であって黒と交ざり合うのかしら」
お嬢様はオセロの石を親指で上にはじく。
チェス盤に跳ねることなく落ちたその石は、白を表にしていた。
「楽しみじゃない? というわけで、今年も報告を期待しているわね。下がっていいわよ」
私にはやはりお嬢様の言いたいことがわからない。
そしてどんな報告を期待されているのかも、よくは分からなかった。
休暇中のある日、私が買い出しから帰ってくると美鈴さんが門の前でもも肉を焼いていた。
私は時間停止を解除して美鈴さんに声を掛ける。
「美鈴さん、また門の前で肉焼いているんですか? 頼んだら私が調理してあげるって言ってるじゃないですか……館の気品の為にも、そういう行為は慎んで頂きたいものです」
「こ~ゆ~ふんいきってのがいいのよ! それに焼きたてが一番美味しいしね。そういえば咲夜ちゃん、図書館に来たっていうクールなナイスガイ、彼って咲夜ちゃんのボーイフレンド? 咲夜ちゃんも年頃ね~」
「いえ、友達です。それと、ちゃんとあれ片付けておいてくださいよ?」
私は門の横に捨ててある人間を指さした。
右足をもぎ取られて呻いているそれは、手足の関節が外されているのか残された四肢は動いていなかった。
「肉は血抜きして熟成させないと美味しくないって何度言ったらわかるんですかねこの美鈴さんは」
私は呆れるように美鈴さんの横に座り込む。
美鈴さんは太ももを火の上でグルグルと回しながら言葉を返した。
「妖怪の味覚からしたら血が滴るぐらいのほうが美味しいんですよって何度言ったらわかるんですかねこの咲夜ちゃんは」
美鈴さんは先ほどの私の言葉をそのまま返すように言う。
私はそんな返答に少し頭を抱えると、門の横に捨ててある人間をもう一度指差す。
「あれ、まだ食べます?」
「料理に使う? それなら持って行ってもいいけど。そうじゃなかったら適当に止血してその辺に吊るしておくからさ」
その言葉を聞いてか、呻いていた人間の顔が恐怖に歪んだ。
体をくの字に曲げ伸ばしし、少しでも遠くへと逃げようとする。
「美鈴さんはもう少し紅魔館の気品というものを保つ努力を……」
「そうは言うけど咲夜ちゃん、紅魔館ってそんなに気品溢れるところじゃないわよ。我儘で幼稚な吸血鬼にアホな妖精メイド、喘息持ちの紫もやしにうふふな妹様。おぜうさまは咲夜ちゃんの前でカッコつけたいだけじゃないかしら」
私はそれを否定しようと口を開きかけるが、言葉が出てこない。
私は私が来る前の紅魔館を知らないのだ。
リドルの日記を持って帰った時のあのはしゃぎようが、本当のお嬢様なのかも知れない。
そんな思い悩んだ表情を見て何を思ったのか、美鈴さんがぺちりと私の頭を叩く。
「あっはっはっはっは、咲夜ちゃんは咲夜ちゃんがしたいようにすればいいのよ。おぜうさまはそれを否定しない。貴方がおぜうさまに仕えようと思うのならそうすればいいし、付き合いきれないと思ったら何処かに行けばいい。多分おぜうさまもそう考えていると思うし」
美鈴さんは「上手に焼けた」と呟くと太ももに齧りつく。
そして「咲夜ちゃんもどう?」と勧めてきた。
「だから私は好きなようにさせてもらっているわ。パチュリーもね。おぜうさまが縛るのは妹様だけ、おぜうさまが縛られるのは妹様だけ」
私はナイフで肉を少し切り取ると、口の中に放り込む。
やはりそこまで美味しくはなかった。
「そういうものなのですかね……それでは私は自分の好きでお嬢様に縛られることにしますわ」
美鈴さんはニッコリ笑うと私の頭を撫でる。
「美鈴さん、食料が逃げていきますよ?」
「あ! こら待て非常食!」
「あれ何処で捕まえてきたんですか……」
「その辺歩いてた」
私は逃げようとしている人間に浮遊魔法を掛け浮かべると美鈴さんのもとまで移動させる。
紅魔館周辺にはパチュリー様の居場所がバレないように魔法の匂い消しが掛かっている。
なのでここでは魔法を自由に使うことが出来た。
「おお、便利ね。ついでに止血もしといてくれない?」
「エピスキー、癒えよ」
私が真紅の杖を振るうと途端に太ももの皮が伸び、欠損部に覆いかぶさる。
美鈴さんの外した関節はそのままだ。
美鈴さんは「勝手に逃げちゃ駄目だぞ?」と人間に忠告している。
私は少し気になっていることを美鈴さんに聞いてみた。
「そういえばパチュリー様から、美鈴さんが使う力は少し特殊だという話を聞いたのですが、どういう意味なのですか?」
「これのこと?」
美鈴さんは手をかざすが、私はそこに何も感じない。
やはり霊力や妖力、魔力とは違う。
「気というのはね、基本的には体の外に出ていくことはないわ。体内を廻らせ時に瞬発的な力を、時に驚異的な集中力を生み出す。多分咲夜ちゃんにも訓練したら使えるわよ?」
「簡単な力なのですか?」
「ん~修行に10年ぐらい? まずは武道の心を学ぶところからだから……」
「今は遠慮しておきます」
使えたら確かに便利そうだが、今それに打ち込めるほど暇ではない。
また時間が出来た時にでもゆっくり教えてもらおう。
私がふと横を見ると先ほど止血した人間が口から大量の血を流して窒息死していた。
美鈴さんもそれに気が付いたのか「あぁぁ……」と残念そうな声を漏らしている。
「というわけだ咲夜ちゃん! あれよろしく」
「何がというわけですか。まあ勿体ないので私が捌いておきますね」
私は杖を振るい人間に付いている血液を綺麗にすると、浮遊呪文をかけて持ち上げる。
そしてそのまま紅魔館の門をくぐった。
私は自室で新学期の準備を進めていた。
図書館からお借りした新しく必要になった教科書を鞄に詰めていく。
一冊とてつもなく凶暴な教科書『怪物的な怪物の本』があったが、パチュリー様がひと睨みすると大人しくなった。
それから私はホグズミード村に行くための許可証も鞄の中に仕舞い込む。
この許可証にはお嬢様と美鈴さんの名前が重なって書いてある。
どうしてこんなことになっているかというと、どうやらどちらが私の保護者か揉めた結果らしい。
少し前の話になるが、突然美鈴さんが私の部屋に走り込んできて、許可証にサインしたのだ。
美鈴さんはその後すぐにいなくなってしまったが、入れ替わるようにお嬢様が入ってきた。
お嬢様は美鈴さんのサインが書かれた許可証を見るなり悲鳴と怒声が混じったような叫び声をあげると、美鈴さんのサインの上にご自身の名前を万年筆が折れそうになるほどの勢いで書き殴り、美鈴さんを追って部屋を飛び出していった。
その日の夜、お嬢様権限で美鈴さんの夕食が抜きになったのは言うまでもない。
私は全ての荷物を鞄の中に仕舞い込むとベッドに横になる。
明日には紅魔館を出発しなければならない。
毎年のことだが、それが妙に寂しく、そして虚しく感じられた。
私は去年の反省を生かして30分前にはキングズ・クロス駅の9と4分の3番線に来ていた。
見送りにきた美鈴さんがオーバーアクションで手を振っているのが少々恥ずかしいが、私は軽く手を振り返す。
少々恥ずかしいのでそそくさとホグワーツ特急へ乗り込む。
流石にここまで早い時間だと殆どのコンパートメントが空いている。
私は適当なコンパートメント内に入り、扉を閉めると鞄からリドルの日記を取り出した。
このリドルの日記の取り扱いには、少々気を付けないといけない。
他の生徒や先生にバレたら拙いというのが1つ。
ヴォルデモートの日記を持って、更にはその日記と友達だなんて知られたら恥ずかしさのあまり悶死してしまうだろう。
それと時間を止めた状態で日記に触れられないのが1つ。
時間を止めたまま日記に触ってしまうと時間の止まった紅魔館でリドルの実体が自由に行動できてしまう。
リドル自身止まった時間の中で物を動かすことはできないので大したことはできないが、それでも危ないことには変わりない。
お嬢様やパチュリー様が危険に晒される可能性があるのなら、たとえ友達だとしても気を付けなくてはならない。
そしてさらに、この日記帳は今生きているヴォルデモートの魂の一部が宿っているというのだ。
パチュリー様曰く、ホークラックスという魔法らしい。
自分が死んだときの保険のようなものだとパチュリー様は言っていた。
リドル自身にも聞いてみたことがあったが、覚えていないらしい。
まあ流石に自分の弱点を弱点に記すことはしないということだろう。
日記のリドルと今いるヴォルデモートは意識では繋がっていないらしいので、自分の目の届かないところで自分の秘密が暴露されては困ると思い、あえて分霊箱のことに関しては日記から抹消したのだろうとパチュリー様は予想を立てていた。
パチュリー様からしたら、分霊箱を作るなど阿呆の所業の一言らしい。
パチュリー様の話を聞く限りでは魂を軸にして肉体が死を迎えても別の場所に新たな肉体を作るという術を作ることも理論上可能なようだ。
リドルはその理論に物凄く興味を持っていたが、難解な数学や物理学が関わってくるものだったので、今は諦めると言っていた。
私はリドルの日記を取り出すと文字を書き込んでいく。
『ホグワーツ特急に無事乗れたわ。美鈴さんがそろそろそっちに帰ってくると思う』
『いま煙突飛行で到着したよ。寂しさの余り先生に抱き着いて泣いている』
『迷惑だからやめなさいと伝えておいて』
『大丈夫だ。今美鈴が何処かに飛ばされたから。あの人だけ自由すぎないか?』
『私も何故お嬢様が美鈴さんを雇っているのか、謎なのよ。でも仕事はできるのよね……』
リドルはパチュリー様のことを先生と呼ぶことにしたようだった。
お嬢様のことは私と同じように敬意をもってお嬢様と呼んでいる。
美鈴さんは美鈴と呼び捨てだ。
私は一度リドルの日記を閉じ、表紙を見る。
リドルの日記の見た目は、秘密の部屋事件の時から大幅に変更が加えられていた。
小奇麗になり、装飾やデザインも変わっている。
リドルの名前や年号は消え、表紙には『FREE BOOK』と書かれていた。
段々とホグワーツ特急の中に人が増えていく。
私はリドルの日記を鞄にしまうと、今度は普通の推理小説を取り出した。
しばらく本を読んでいるとコンパートメントのドアが叩かれる。
ドアを叩いたのは生徒ではなく大人の男性だ。
ドアを開けた男性はまだ若そうな人なのだが、ライトブラウンの髪の毛には白髪が交じっている。
「ここいいかい?」
男性が少々フランクな態度で聞いてくる。
特に断る理由もないので私は軽く返事を返す。
男性は私とは向かい側の窓側の席に座ると、すぐさま眠ってしまった。
私はその男性を少々警戒しつつも本を読み進めていく。
しばらく本を読んでいると音を立てないように気を付けながらハリーとロン、そして猫の入った籠を持っているハーマイオニーが入ってきた。
「久しぶり、咲夜」
ハリーが声をひそめて言った。
ハリーたちは空いている席に座っていく。
「咲夜、この人誰?」
ロンが私に聞いてくるが、その問いに答えたのはハーマイオニーだった。
「ルーピン先生」
「どうして知っているんだ?」
「鞄に書いてあるわ」
ハーマイオニーは頭上にある荷物棚に置いてある古びた鞄を指さした。
その観察力に私は今読んでいた小説の探偵を重ねてしまう。
鞄には『R・J・ルーピン教授』と文字が入っている。
「いったい何を教えるんだろ?」
ロンの問いに対してまたしてもハーマイオニーが答えた。
「決まってるじゃない。空いているのは1つしかないでしょう? 闇の魔術に対する防衛術よ」
ということは、ロックハート先生の後釜ということか。
「強力な呪いをかけられたら1発でノックアウトしちまうように見えないか? ところでハリー、話したいことって?」
ロンがハリーに対して言った。
ハリーは私が居ることを少々気にしているようだったが、次第に話し出す。
シリウス・ブラックに狙われているということ。
シリウス・ブラックを探すなと言われたこと。
やはり私が逃がしたシリウス・ブラックという男は凶悪な人物らしく、3人とも深刻そうな顔をして話をしていた。
「シリウス・ブラックが脱獄したのは貴方を狙うためですって? あぁ、ハリー……本当に気をつけなきゃ。自分からわざわざトラブルに飛び込んでいったりしないでね?」
ハーマイオニーが心配そうに声を上げたが、ハリーとしてはじれったそうだ。
「いつもトラブルの方が飛び込んでくるんだ」
「ハリーを殺そうとしている狂人だぜ? 自分からのこのこ会いにいく馬鹿がいるかい?」
自分からのこのこ会いに行って脱獄の手助けをした私は馬鹿ということだろうか。
ロンが落ち着かない様子で続ける。
「ブラックがどうやってアズカバンから逃げたのか、誰にも分からないらしい。これまでアズカバンを脱獄した者は誰もいないんだぜ……しかもブラックは一番厳しい監視を受けていたらしいし」
脱獄を手伝った私からしたら、そこまで厳しい監視だったとは思えない。
パチュリー様の魔法具が凄すぎるだけかも知れないが。
「だけど、すぐにまた捕まるわ。そうでしょう? だってマグルまで総動員してブラックを追跡してるじゃない」
ハーマイオニーが言うには、マグルの警察にも顔写真を流し、極悪非道の殺人鬼として捜索させているらしい。
そこまで魔法省は切羽詰まっているということなのだろうか。
お嬢様はそんな殺人鬼を逃がして何をしたいのだろうか。
私は色々と考えていたが、ハリーのトランクの中から微かに口笛を吹くような音が聞こえてくることに気が付いた。
ロンもそれに気が付いたらしく、ハリーのトランクからスニーコスコープを取り出した。
コマのようなそれは激しく光を放ち、ロンの手の平の上で激しく回転していた。
ルーピン先生が起きてしまう可能性があるのでロンは急いでスニーコスコープをハリーのトランクに詰めなおすと、今度はホグズミード村の話題に移る。
ロンとハーマイオニー、2人の話を聞く限りでは、ホグズミード村は少々愉快な場所らしい。
ホグワーツの近くにあるためか、子供が喜びそうな店が多いらしかった。
ダイアゴン横丁のようなものだろうか。
2人は目を輝かせながら語っていたが、ハリーは何故か悲しそうな表情をしている。
「ちょっと学校を離れて、ホグズミードを探検するのも素敵じゃない?」
ハーマイオニーがハリーに向かって言うが、ハリーの表情は硬かった。
「だろうね、見てきたら、僕に教えてくれ」
「どういうこと?」
ロンがハリーに聞いた。
「僕、行けないんだ。ダーズリーおじさんが許可証にサインしなかったし、ファッジ大臣もサインしてくれないんだ。保護者のサインじゃないとダメだって……」
私は保護者のサインという言葉を聞いて美鈴さんとお嬢様のやり取りを思い出す。
私の許可証はハリーに見られないようにしなくては。
取り合うように保護者欄に名前が書きこまれている許可証を見て、ハリーがどんな顔をするか容易に想像がつくからだ。
1時を過ぎると、丸っこい魔女が食べ物を積んだカートを押してコンパートメントのドアの前にやってきた。
私はカエルチョコとかぼちゃパイを購入する。
ハリーは大きな魔女鍋スポンジケーキを1山購入している。
ホグズミードで使えない分、ここで散財するつもりなのだろう。
ロンとハーマイオニーはルーピン先生を起こそうか迷っていた。
だが結局声を掛けても起きる気配はなかった。
コンパートメントに入ってきてからルーピン先生はずっと寝ている。
顔色もあまり良くはなかったし、昨日の夜は徹夜だったのだろうか。
しばらく購入したお菓子を食べながら談笑をしていると、いきなりコンパートメントのドアが開け放たれる。
ドアの前に立っていたのはドラコだ。
横にはクラッブとゴイルを付き従えている。
ハリーたちはそんなドラコたちにガンを飛ばす。
その様子を見てか、ドラコの横にいるクラッブ、ゴイルも負けじとガンを飛ばした。
なんというか、ハリーたちとドラコたちは時間が経つごとに仲が悪くなっているような気がする。
「へえ、誰かと思えば……ポッター、ポッティーのいかれポンチと、ウィーズリー、ウィーゼルのコソコソ君じゃあないか! そして、咲夜。久しぶりだね」
ドラコが私にだけ少し優しい口調で言った。
ハーマイオニーの存在は無視したらしい。
大方、ハーマイオニーと口論しても負けることが分かっているからだろう。
「ウィーズリー、君の父親がこの夏やっと小銭を手に入れたと聞いたよ。母親がショックで死ななかったかい?」
ロンがドラコの挑発に乗り立ち上がろうとしたその時、ルーピン先生がいびきをかく。
その音でドラコはルーピン先生の存在に気が付いたようだ。
「そいつは誰だ?」
ハリーはしめたとばかりに言い返した。
「新しい先生だ」
ドラコはそれを聞いた途端苦々しげに顔を歪め、コンパートメントを出て行った。
「ああ。そうだ、咲夜」
ドラコが振り返る。
「僕のコンパートメントにこないか? こんなところよりも環境がいいよ」
その言葉にロンが怒ったように立ち上がった。
それに続いてハリーも立ち上がったが、その視線の方向を見る限りではロンを止める為に立ち上がったものだと思う。
「今日は遠慮しておくわ」
私がそう答えるとマルフォイは今度こそ逃げるように去っていった。
その様子を見てロンが座席に座って拳をさする。
「今年はマルフォイにゴチャゴチャ言わせないぞ。僕は本気だ。僕の家族の悪口を一言でも言ってみろ。首根っこひっつかんで、こうやって――」
ロンが空を切るような乱暴な動作をするが、それをハーマイオニーがたしなめた。
窓の外では雨が強くなっていた。
空の色はどんよりと黒く、通路に灯りが点るほどだ。
少し嫌な予感がする。
その予感は的中したようで、汽車は次第に速度を落としていった。
ハリーが心配そうにコンパートメントの中から通路を覗いている。
私は反対に窓の外に目を向けた。
目を細めて遠くを見通すと、休暇中に散々目にした存在を見つける。
吸魂鬼だ。
汽車はガタンと音を立てて停車し、なんの前触れもなく明かりが一斉に消えた。
私は窓を開けると、慎重に杖を構え唱える。
「エクスペクト・パトローナム、守護霊よ来たれ」
私の杖の先から白い狼が飛び出すと、空を駆けていく。
私がコンパートメント内に振り返るとネビルとジニーが入ってきていた。
ルーピン先生は冷たい風が入ってきたことによってようやく目を覚ましたらしい。
コンパートメント内に入ってきた時とは比べ物にならないほど鋭い目つきで周囲を警戒している。
「先生」
「わかっている。動かないで」
ルーピン先生はしわがれた声で私の言葉を遮り答える。
先生はゆっくり立ち上がるとドアの方に近づいていく。
先生がドアに手を掛ける前に、ドアはゆっくりと開いた。
ドアの向こうには吸魂鬼が立っていた。
まるでハロウィーンの仮装のようだが、マントから突き出された手は人間のそれではない。
吸魂鬼はゆっくりとした動作で息を吸い込んだ。
途端に周囲にいるハリーやロンたちの様子がおかしくなる。
急に冷凍庫の中に放り込まれたかのように震え出したのだ。
ネビルは頭を抱えて泣き出し、ハリーなんかは気絶してしまっている。
私にはみんなの体に起こっている異常の正体が分からなかった。
吸魂鬼は人の幸せな記憶を吸うというが、そういうことなのだろうか。
だが、私の体にはそのような異常は起こっていない。
私はゆっくりと吸魂鬼の顔に手を伸ばす。
「貴方。ねぇ、そこの貴方……貴方って」
吸魂鬼を抱きかかえるように私は吸魂鬼の頭を引き寄せる。
自分でも何故このようなことをしているのか分からなかった。
吸魂鬼に感情のようなものは感じられず、肌は氷のように冷たい。
次の瞬間私はルーピン先生の手に引っ張られコンパートメントの端の席に半ば叩きつけられるように座った。
予想してなかった衝撃に私は「ぐへ」とカエルのような声を上げてしまう。
「シリウス・ブラックをマントの下に匿っている者は誰もいない。去れ」
シリウス・ブラックの脱獄を手伝った者ならいます。
私です。
吸魂鬼はルーピン先生の答えに納得いかなかったのか、コンパートメント内に入ってきた。
「エクスペクト・パトローナム」
ルーピン先生はブツブツといった発音で守護霊の呪文を唱えた。
ルーピン先生の守護霊が吸魂鬼を追い払う。
私は床に転がって気絶しているハリーの頭を蹴り、意識を回復させる。
ハリーが席に座り直すとルーピン先生は鞄から巨大な板チョコを取り出し、みんなにひとかけらずつ配っていった。
「食べるといい。気分が良くなるから」
私はチョコレートを受け取り、それを齧りながら窓の外を見る。
窓の外では私の守護霊が吸魂鬼を追い払っているのが見えた。
ルーピン先生も気が付いたのか、窓の外を見ている。
「あれはなんだったのですか?」
ハリーが頭をさすりながら聞いた。
「ディメンター、吸魂鬼だ。あれはアズカバンの看守のものだろう」
私の守護霊に追いかけられて、吸魂鬼は逃げていく。
取り敢えずこれで大丈夫だろう。
守護霊はそのまま私のもとへと帰ってきたので、窓を開けて出迎えた。
まるでペットのようだが、守護霊の扱いはこういう感じでいいのだろうか。
「驚いた。それは君が出した守護霊だったのかい?」
ルーピン先生が驚いたように私を見ている。
「先生も見事なパトローナスでした」
私は社交辞令のように答えた。
……言ってしまえば先生のパトローナスは形を成していなかったからだ。
狼の守護霊はふわんとその場で消えてしまう。
「では、私は少し運転手と話してくる。配ったチョコは全部食べなさい。元気になる。それじゃあ」
そう言い残すとルーピン先生はコンパートメントを出て行った。
チョコ甘い。
あの後列車はホグズミード駅に到着した。
いつものようにハグリッドの案内でセストラルの引く馬車に乗り込んでく。
セストラルとは黒い毛を持つ骨ばった馬のような生き物で、目は白くドラゴンのような羽が生えている。
希少種のはずなのだが、100頭以上が馬車馬に使われていた。
なんというか、それでいいのかホグワーツ。
ホグワーツに到着するとマクゴナガル先生が足早にこちらに近づいてきてハリーとハーマイオニーを連れて行ってしまった。
ロンは心配そうに2人を見つめていたが、私からしたらそんなことよりも夕食のほうが大事だ。
守護霊の呪文は意外とお腹が空くのだ。
今日のように本格的に使ったことはなかったが、持続時間が長い分魔力の消費も激しいらしい。
私は急ぎ足で大広間に入っていった。
全員が着席すると、いつものように組み分けが行われる。
組み分け帽子の歌は去年とも一昨年とも少しずつ違っていたが、おおむね最初に私が聞いたような内容であった。
組み分けが終わるとダンブルドア先生が前に出る。
「新学期おめでとう! 皆にいくつかお知らせがある。1つはとても深刻な問題じゃから、皆がご馳走でぼぅっとなる前に片付けてしまうほうがよかろう……」
ダンブルドア先生は大きく咳ばらいをした。
「ホグワーツ特急での捜査があったから、皆も知っての通りだとはおもうが……わが校は今アズカバンの吸魂鬼を受け入れておる。魔法省のご用でここに来ておるのじゃ」
ということはホグワーツの周りを吸魂鬼が徘徊するということだろうか。
それは何とも……物騒な話だ。
「吸魂鬼たちは学校への入り口という入り口を固めておる。あの者たちがここにいる限り、はっきり言っておくが誰も許可なしに学校を離れてはならんぞ。吸魂鬼は悪戯や変装に引っかかるような代物ではない。透明マントでさえ無駄じゃ。姿現しでもしたら外に出ることは可能じゃろう。だが、ホグワーツでは姿現しは出来んようわしが呪文をかけておる」
ダンブルドア先生は一瞬ハリーの方を見た後、私の方を見た気がした。
私は指を見る。
パチュリー様から以前借りた指輪は既に返している。
故に私は今姿現しは使えない。
「言い訳やお願いを聞いてもらおうとしても、吸魂鬼は聞く耳を持たん。それじゃからひとりひとりに注意しておく。あの者たちが皆に危害を加える口実を与えるでないぞ。絶対に自分から近づいて行ってはいかん」
ダンブルドア先生は今度は確実に私の方を見た。
ルーピン先生からコンパートメント内での話を聞いたのかも知れない。
私はルーピン先生が座っている席を見る。
ルーピン先生もこちらを見ていた。
私が何をしたというんだ。
「楽しい話に移ろうかの」
ダンブルドア先生が言葉を続けた。
まだ夕食は出てこないらしい。
「今学期から新任の先生を2人もお迎えすることとなった。まず、ルーピン先生。有り難いことに空席になっている闇の魔術に対する防衛術の担当を引き受けてくださった」
パラパラとまばらな拍手が起こった。
ここ最近1年以上闇の魔術に対する防衛術の担当を務めた先生はいない。
今回はちゃんとした先生だろうか。
というかあの時逃げたクィレル先生は今何処にいるのだろう。
私が掴ませた偽物の石で、必死になってヴォルデモート卿を蘇らせようとしているのだろうか。
それとも偽物だとバレ、その責任でヴォルデモート卿に殺されてしまっているだろうか。
いや、それはない。
今のヴォルデモートには人1人を殺すほどの力も無い筈だ。
私はルーピン先生のほうを見る。
他の教師陣と比べると随分とみすぼらしい服装をしている。
私は見比べる段階でスネイプ先生のほうを見たのだが、怒りを通り越して今にも視線でルーピン先生を殺そうとしているかのように睨みつけていた。
過去に何かあったのだろうか。
もう1人の新任は驚くことにハグリッドだった。
魔法生物飼育学の担当であったケトルバーン先生が引退した後を継いだ形だ。
ハグリッドの授業と聞いて私は少々不安になる。
指定教科書に怪物の本を選ぶぐらいだ。
だが私の予想とは裏腹に比較的大きな拍手がハグリッドを包んだ。
主にグリフィンドールの机から大きな拍手が上がっている。
特にハリーたちは誰よりも大きな拍手を最後まで送っていた。
これで話は終わりだろう。
私はナイフとフォークを優雅に、そして誰よりも素早く構えた。
「さて、これで大切な話はみな終わった。宴じゃ!」
目の前の皿に料理が現れる。
私はその料理を頬張りニッコリと微笑んだ。
次の日の朝、私はハリーたち3人と朝食を取りに大広間に来ていた。
グリフィンドールの机に座るとパンを1つ取り、ジャムを塗って齧る。
好き嫌いはあまりないが、私はパンが好きだ。
もっとも、米もパスタも好物だが。
幸せな気分でパンを齧っている私とは裏腹にハリーは何故か不機嫌だった。
スリザリンの席が沸いているのが原因だろうか。
どうやら昨日コンパートメント内で気絶したハリーのモノマネをしているらしい。
その中心にいるのはドラコだ。
バカバカしい仕草で気絶をする真似をしている。
なんというか、ドラコは芸人でも目指しているのだろうか。
だとするとクラッブ、ゴイルのうちどちらがツッコミだろう。
いや、ボケまくるクラッブ、ゴイルにマルフォイがキレるというギャグが一番笑えるに決まっている。
ロンとその兄がハリーを慰めているが、私はハーマイオニーが持っている新しい時間割のほうが気になった。
ロンもそのことに気が付いたらしく、ハーマイオニーに指摘する。
「君の時間割、滅茶苦茶じゃないか。ほら、1日に10科目もあるんだぜ? そんなに時間があるわけないのに」
「何とかなるわ。マクゴナガル先生と一緒に決めたんだから」
ハーマイオニーがつっけんどんに返す。
このことに触れてほしくないといった表情だった。
「でもほら、この日の午前中、わかるか? 9時、占い学。そしてその下だ。9時、マグル学。それから……おいおいその下に数占い、これも9時ときたもんだ。そりゃ、君が優秀なのは知ってるよ、ハーマイオニー。だけど、そこまで優秀な人がいるわけないだろ。3つの授業にいっぺんにどうやって出席するんだ?」
私はそれを聞いてハーマイオニーの時間割をよく見る。
確かにいくつかの科目の時間がかぶっていた。
「ハーマイオニー。貴方、確かにマクゴナガル先生と一緒に決めたの?」
私が冷静にハーマイオニーを問いただす。
ハーマイオニーは慌てて取り繕うように口早に答えた。
「勿論よ、咲夜。それとロン。私の時間割がちょっと詰まっているからって、貴方には関係ないことでしょう?」
関係ない……か。
だがもしこの時間割が正しく、そしてハーマイオニーの言葉も正しいのだとしたらおかしなことになる。
ロンの指摘した通り、一度に2つの授業を受けることは出来ない。
分身でもできれば話は別だが、私でも疑似的な分身を作ることしか出来ない。
その分身で授業を受けるなんてことは出来ないだろう。
だとしたらビデオカメラのようなもので授業を撮り、映像を1か所に集めるのだろうか。
そのような魔法をマクゴナガル先生に教えてもらったのだとしたら、この時間割にも納得ができる。
私は適当なところで思考を切ると、トーストにもう1口齧りついた。
用語解説
パチュリー様から借りた魔法具
ネックレス
声を中性的に変える効果がある。コナン君の蝶ネクタイの劣化版みたいなもの
ブレスレット
魔法を使ったときに残る匂いを消す。
指輪
姿現し防止魔法の効果を受けないようにする指輪と魔力さえ持っていれば誰でも姿現しが出来るようになる指輪。
これらのアイテムはホグワーツには持って行ってないです。
死喰い人の恰好
シリウスのことを殺人鬼だと思っているので、それなら死喰い人っぽい恰好で行けばホイホイついてくるのではないかという咲夜の甘い考え。
アズカバン
魔法界にある監獄の1つ。獄死する可能性が高いらしいです。
シリウス・ブラック
この時点でシリウスのことを無罪だと知っている人はほぼいない。
肉焼きセット
美鈴お手製肉焼きセット。骨にハンドルをつけてグルグル回すアレ。
美鈴さん
紅魔館一のちゃらんぽらん。でも一応仕事はしている模様。咲夜が帰ってきているときはメイド長の仕事を咲夜に譲り、門番に戻っている。
ホグズミード村へ行くための許可証
ご両親もしくは『保護者』のサインが必要。その話をリドルから聞き美鈴とおぜうさまの間で血を血で洗う闘争が起こった。
リドルの日記
表面上数々の偽装が施されているが、魔術的な要素は全く変わってないので並々ならぬ魔力を持っている。そのためダンブルドア先生みたいな凄い魔法使いが見たらただの日記帳ではないことは分かってしまう。
free book
自由帳
ルーピン先生
まだ若いのに白髪とはいうが、スネイプと同年代。映画版のスネイプ先生の老け顔をみていると、この年代の人たちには何があったのだろうと考えてしまう。ちなみにまだどちらも30代
吸魂鬼
相手の幸せな感情を吸い取る。咲夜は影響を受けなかったが……。
守護霊
咲夜の守護霊は狼。ちなみにルーピンと同じだが、ルーピンは自分の守護霊の形態を嫌っているので人前では形のはっきりしない守護霊しか出さない模様。
クィレル先生
咲夜の予想通りまだ殺されてはいない。そのうち出てくるかもしれません。
パン
おまえは今まで食ったパンの枚数をおぼえているのか?
魔理沙「13枚。私は和食ですわ。」
487「昨日までの時点では9万9822枚。レディ本日の枚数は?」
市丸「13㎏や。」
フリーザ「私の食べたパンは53万枚です。」
〉〉487
アッ!こんな所にいやがったのか!
さあ、さっさとパンを食べる作業に戻るんだ!!
追記
文章を修正しました。
h.30.8.11 加筆修正