Fallout:SAR   作:ふくふくろう

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遠州屋・浜松支店

 

 

 ジンさんとウルフギャングの作戦。

 可能なら浜松の街への到着前に山師と接触して、ある程度の情報収集を。

 そしてその山師達と顔見知りになって浜松の街での活動を少しでも円滑にする、というのは、これで概ね成功じゃないだろうか。

 

 3人の少年山師は別として、サブマシンガンを肩から下げているクニオは浜松の街でも、それなりに実力のある山師として認知されていて当然のような気がする。

 もしそうであるのならば、作戦は成功どころか大成功だ。

 

「ヤマト、でいいんだよな。そのリュックの中身は、スワコさんって人の店に売るんか?」

「そうなります」

「クニ、じゃなくって、くーちゃんはこれから探索に?」

「タイチっち次第かなぁ。今日は休みだけどヒマだから、ヤマトっち達の山師デビューを見物してただけだし」

「3人は今日がデビュー戦かよ。なら全員で浜松の街に行って、俺のオゴリで朝っぱらから飲み始めっか」

「やあった。アキラっち、太っ腹ぁ♪」

「いいよな、タイチ?」

「そうっすね。オイラ達も初日くらいはゆっくりしたいし、浜松の街の様子を見ながらくーちゃん達に話を聞けるのはありがたいっす」

「よし。んじゃ行こうぜ」

「あ、あの。ぼくらはそんな」

「いーからいーから。どこから流れてきたのかわかんないけど、こんな腕利きの山師が奢ってくれるって言うなら素直に奢られておこっ」

「で、でも……」

 

 やはり、特技やVATSを隠した俺程度でも腕利きなのか。

 ならば浜松の街の山師達は、そこらの悪党とそれほど変わらない強さであるのかもしれない。

 新制帝国軍だけでなく、それに雇われた山師達までが敵に回る事を想定している俺達にとっては朗報だ。

 

 なおも渋るヤマト達をくーちゃんが急かすようにしながら連れ立って歩き出し、直進して突き当たった広い道路を右折。

 するとすぐに、大きなビルが目に入った。

 

 鉄筋コンクリート。

 しかも、なんと6階建て。

 階数だけでなく、奥行きと幅もかなりの建物だ。

 これが浜松の旧市役所で、現在の商人ギルドの本部か。

 

「でっかいっすねえ」

「商人ギルドが治める区画の役所みたいなもんだし、上には職員の宿舎なんかもあるからね」

「くーちゃん、商人ギルドはトラックなんかを運用してねえのか?」

「ないねえ。もしあれば新制帝国軍が黙ってないでしょ。今でさえ仲が悪いのに」

「へえ。新制帝国軍と商人ギルドはそんな感じなのか」

「そりゃそうだよ。向こうのトラックを使えば近隣の街や集落といくらでも商売ができるのに、肝心の新制帝国軍はその街や集落から略奪する事しか考えてないんだもん。そのくせ一番美味しい磐田の街と小舟の里にはヤバイのがいるから、口ばっかでなーんもしないし」

 

 なら付け入る隙は充分にある、か。

 

「アキラ。市役所の入り口にタムロってる連中、ライフルを担いでるっすよ」

「国産の、ホクブ社製の小銃っぽいな。CNDはそこそこ」

「あれは商人ギルドに雇われてる山師だね。なんもなければ喋ってるだけで終わっちゃって、それでも日当が貰える見張りの仕事は、遠距離攻撃可能な武器とそれなりの腕を持ってないと回してもらえないんだー」

「なるほどねえ」

 

 クニオもヤマト達も見張りとは顔見知りのようで、挨拶を交わして市役所の横から浜松の街へ入ってゆく。

 俺とタイチはなにか言われるかと思ったし、そうされて当然なのだが、なぜかそのまま浜松の街へ入る事ができた。

 

「止められる素振りもなかったっすね」

「だなあ。意外と緩い警備なんかな」

「山師は無条件で街に入れて当然でしょ」

「武装してんのにか?」

「だからこそ、じゃない。街で発砲するようなバカはすぐ他の山師達が片づけるし、ヘタに声をかけて揉め事になったらせっかく浜松の街へ来た山師が他に流れちゃう」

「……ガバガバすぎんだろ、この街」

 

 目の前を通るついでにチラリと見たが、市役所のエントランスには10人ほどの人間がいて、その中の半分以上が銃や剣で武装していた。

 だがその武装は驚くほど貧弱で、見ているこちらが心配になってしまうほどCNDも低い。

 これでは先日俺達が皆殺しにしたような、熟練の悪党を頭目とする30人以上の集団に襲われたらひとたまりもないだろう。

 

「ここだよ」

「……武器防具よろず売り〼買い〼、遠州屋・浜松支店。やっぱこれがスワコさんの店、ってやつか」

「有名だもんねえ。浜松の街が初めてでも、磐田の街に行った事があれば知ってるかー」

「まあな」

 

 遠州屋というのは、市長さん一族が経営する店の屋号だ。

 ミキが小舟の里で開いた店も、遠州屋・小舟の里支店となっている。

 

 両開きの大きなドア。

 それを潜って木造ではあるがしっかりとした2階建ての店舗に足を踏み入れると、すぐに元気のいい『いらっしゃいませ』という声がかけられる。

 

「やっほ、コウメっち。お母さんは上?」

「うんっ。すぐにチンベル鳴らすねっ」

「よろしくー」

 

 コウメと呼ばれた店番の女の子が、カウンターにある押すと鳴るタイプのベルを何度も鳴らす。

 なんとも子供らしい、笑みを誘うような無邪気さだが、あれで呼ばれる方はたまったもんじゃないだろう。

 さすがにうるさ過ぎる。

 どこかの名人も驚くような連打っぷりだ。

 

 店は広く、陳列棚とそこに並ぶ商品もかなり多い。

 入り口は俺達が入ったドアの反対側にも同じ型のものがもう1つあって、2階への階段はカウンターのすぐ隣。

 

 他人事ではあるが、防犯的に少しばかり不安を覚える。

 まあだからこそコウメという女の子は、12、3歳にしか見えないのに腰に拳銃を下げているのだろう。

 

 ドスドスと音がしたので目をやった木製の階段から、1人の中年女が下りてくるのが見える。

 

「でっか……」

 

 タイチがそう呟くのもムリはない。

 俺達を見つけて目を細めた女は、規格外にデカかった。

 

 胸も、尻も。

 そしてなによりその身長がハンパじゃなくデカい。

 180、いや、185センチはあるんじゃないだろうか。

 

 胸と尻なんて、間違いなくメータークラス。

 顔立ちも悪くないので、大柄な女や筋肉質な女が好きなマニアにはたまらないだろう。

 

 美人は美人なのだが、その美貌と肢体を構成するパーツが何から何まで大きすぎて、腰に装備したソードオフショットガンがやけに小さく感じてしまうほどだ。

 

「ヤマト、ノゾ、ミライ。無事で帰ったんだね」

「はい。くーちゃんさんと、この山師さん達のおかげです」

「そうかいそうかい。こんな腕っこきの山師が、駆け出しを助けてくれたってのか。ありがたいねえ」

「はじめまして、店主さん。俺はアキラ、こっちが弟のタイチ。よろしく頼んます」

「弟なのにタイチなのかい?」

「たぶんだが、血は繋がってねえんでしょう。な、タイチ?」

「そうっすねえ。オイラ達を育ててくれた爺ちゃん婆ちゃんも、もちろん両親だってとっくの昔に死んでるからわかんないっすけど」

「そうかい。それは悪い事を聞いたねえ」

「いえいえ。それよりかなりの品揃えですが、『2062年モノの浦霞』は置いてませんかね?」

 

 束の間の沈黙。

 そして店主の女、スワコさんの俺を見る目が同じくらいの間だけ鋭さを増した。

 

 ジローが預かってきた、市長さんからの手紙。

 それに書いてあった符丁『2062年モノの浦霞』。

 アキラという名前がそれほど珍しくないので確認用に口にしろと書かれていたが、その効果はあったらしい。

 

「悪いねえ。2階の倉庫にあるかもしれないが、探すには少しばかり時間が必要なんだ。また来た時でいいかい?」

「もちろん」

「ありがとね。それじゃ、ヤマト達はカウンターにおいで。戦利品があるんだろ」

「はい。お願いしますっ」

 

 少年山師達の査定と買い取りが始まったので、陳列棚の商品を見て回る。

 

 カウンターから遠い場所、それも入り口に近いこの辺りにはガラクタにしか見えない戦前の品が並んでいるが、カウンターの中の壁にかけられている銃ですらそこらの悪党から剥ぎ取った程度の品なので、俺としてはこちらを眺めている方がヒマ潰しになる。

 

「アキラっち。宴会は梁山泊でいいのかな?」

「ああ。くーちゃんの定宿なら、俺達もそこに泊まるのがいいだろうしな」

「あの子達は家があるんっすか?」

「んーにゃ。梁山泊でコップ1杯ずつの水を注文してテーブルに突っ伏して寝るか、そのお金もない時は公園地区の小さな橋の下で身を寄せ合って眠るねえ」

「やっぱキツイんっすねえ。浜松の街での生活って」

「ヤマト達は孤児だから。まあ、くーちゃんもそうだけど」

 

 こんな世界で、福祉制度なんかが充実しているはずもない。

 小舟の里ではそう数が多くないので、孤児は学校に通いながらマアサさんの部下に付いて下働きを少しすれば普通に生きていけるらしいが。

 

 タイチもくーちゃんも、カウンターの前でコウメちゃんと話しながら査定が終わるのを待っている3人の少年山師達に、なんとも言えないような視線を送っている。

 

 どうにかしてやりたいが、何がしてやれるはずもない。

 そんな感じなんだろう。

 

 買い取りを終えた3人が戻ってきたのは、待ち始めて5分ほど経った頃だ。

 それじゃあ行くかと入って来た時とは反対側の入り口に向かうと、笑顔で礼を言いながら歩み寄ってきたスワコさんが俺の肩をポンポンと叩く。

 そして、耳朶を擽る吐息。

 

 どうでもいいが男と内緒話をするのなら、そうあからさまに身を屈めたりしないでくれと言いたい。

 俺の身長は標準的な173cmほどなので、間違いなく標準よりは上であるので、別に悔しくはないが。

 

 なるべく早いうちに話し合っておきたいんだがね。

 

 了解。なら、今夜にでも。

 

 夜の9時に梁山泊に顔を出すから、それまでに個室を取ってておくれ。泊まりもあの店にするんなら、スワコに一等室を紹介してもらうように言われたって、カウンターのオヤジに言えばいい。

 

 数歩先を歩く連中にさえ聞こえないほど小声の、囁きのようなやり取り。

 俺が頷くと、バチンッと音を立てて尻が叩かれる。

 

「いってえ……」

「若いんだから屁でもないだろ。またおいで」

「ええ。必ず」

 

 ヤマト達に今日の稼ぎを報告され、笑顔で頷いているくーちゃんの後を追うと、俺の隣にタイチが並ぶ。

 

「にしし。お互い夜が楽しみっすねえ」

「はあ?」

「あのスワコさん、未亡人らしいっすよ」

「へえ」

「だから部屋は2部屋っすね。オイラはくーちゃんの部屋に行くから、ヤマト達は片方に泊めてゆっくり寝かせてやって。お互い頑張りましょうっす。へへっ」

 

 これは。

 さすがにヤバイか……

 

「タイチ」

「ほいほい」

「くーちゃんの本名、クニオだからな」

「…………へっ?」

「ありゃ男だよ。まあ、そういう趣味もあるんなら止めねえが」

「マジでっ!?」

「大マジ」

 

 タイチの大声のせいで前を歩く4人が、それだけでなく擦れ違った通行人までが俺達に視線を注ぐ。

 

「なーにを話してるのかにゃあ?」

「うっわ。あざとい語尾でキャラ付けしてきやがったよ」

「あざとくなんてないにゃあ。ね、タイチっち?」

 

 言いながらくーちゃん、クニオがタイチに腕を絡ませる。

 そうされたタイチはどうしたらいいか判断が付かないようで、今のところされるがままだ。

 

 ……こんなにかわいくて、いい匂いもするのに。

 

 そんな呟きを聞いたクニオが、タイチの耳元で囁く。

 あまりといえばあまりに酷い、生々しすぎる内容で男を誘う言葉。

 

 口のテクニック云々はまだいいが、半脱がしで尻をどうこうすれば女と同じは完全にアウトだろう。

 

「言う方も言う方だがよ、悩む方も悩む方だ。ほんっと、どっちもアホな……」

 

 


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