Fallout:SAR   作:ふくふくろう

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男子会

 

 

 

 このまま文句を言われ続けるのも面倒だ。

 

 そう思って適当に相槌を打っていると、ウルフギャングとタイチは次にそんな事があれば必ず誘えと、そうでなければ友人としての付き合いそのものを解消するとまで言う。

 その迫力に押されて頷くと2人はそれで満足したらしく、どうにか話を進められそうだ。

 

「ほんでなんだっけ。ああ、俺が天竜に行く時はジンさんが同行して、元カノとしっぽりぬぷぬぷって計画だったな」

「よーし、表に出よ。剣の稽古をつけてやるでの」

「タンマタンマ。死ぬから。俺のステ振りでジンさんと稽古なんてしたら死んじゃうから」

「そういやレベルも上がったんだろう? 何に振ったんだ?」

「まだ振ってねえよ。カナタはSTRを戦う人間の最低ライン、5にすべきって言うけど。やっぱLUCKの上位Perkが欲しくってなあ」

「残ポイントは?」

「6だあな」

「ならSTRに2は絶対だろう。ねえ、ジンさん」

「うむ」

「やっぱそれがベストなのかねえ」

 

 カナタもウルフギャングもジンさんも、ただ知識が多いというだけでなく、生まれてからずっとこの世界で戦い続けてきた強者だ。

 その3人がこうまで言うのなら、やはり最初はSTRに2ポイント振るべきなんだろう。

 

「お、今やっとくのか?」

「3人がそこまで言うならってさ。使える銃が増えんのは俺も大歓迎だし。……おし、STRを5にしたぞ。これで国産パワーアーマーを装備すりゃ、ノーマルに毛が生えた程度のだけどミニガンだってぶっ放せる」

「少しは安心だな」

「それとヒマを見て、剣の稽古も始めねばのう」

「お、俺は銃のが向いてるんで。それよりタイチ、特殊部隊が使うならバスとトラックのどっちがいいんだ?」

 

 タイチが目を閉じて考える。

 だがすぐに頷きながら目を開けたところを見ると、すでに考えは尽くしてあって、その確認をしただけらしい。

 

「バスっすね」

「その意図は?」

「戦争になったら、バスは一撃離脱の戦闘に強そうっすから。数を揃えた銃口は、ジンさんには劣ってもかなりの脅威になるはずっす」

 

 なるほど。

 ウルフギャングのトラックの荷台にも銃眼はあるが、あまり使い勝手はよろしくない。

 バスならば銃撃を窓から行えるし視界の確保も容易なので、より戦闘向きだろうという判断か。

 

「運転はどうすんだよ?」

「オイラとアネゴとカズ兄。その3人のみが運転を習って、それで回す感じっすね」

「隊長と副隊長2人だけで、か。それがいいのかもなあ」

「はいっす」

「ジンさん、トラックはどうします?」

「アキラは磐田の街に渡してやりたいんじゃろう? 好きにするがいい」

「いいのかな。ウルフギャングは?」

「俺もアキラに任せるに決まってるさ」

「うーん。ホントなら文書なりで同盟を約してから渡してえけど、あっちのトラック担当になるヤツが運転を覚えて、そっから習熟までって考えるとなるべく早くに。あと原付バイクも渡して伝令なんかも訓練しねえと」

「ちょ、ちょっと待てよアニキ! な、なんでトラックなんだ!? 車両を使わせるとか言ってたのは聞いてたけど、なんで一番役に立ちそうなトラックを磐田の街にっ!? しかも原付バイクまでって……」

 

 タイチ、ウルフギャング、ジンさんが同時に笑い出す。

 たしかにジローの慌てっぷりは面白おかしいほどのものだが、こうまで笑ってやる事はないんじゃないだろうか。

 

「ちなみにアキラ」

「ん?」

「俺達はジローを笑ってるんじゃないからな」

「じゃあ、なんでそんな笑ってんだよ?」

「そんなの、当たり前みたいな顔してトラックを渡そうとしてるお人好しを笑ってるに決まってるじゃないっすか」

「俺かよ!?」

「くくくっ。そうやって驚くところが、またなんとも」

「ですねえ。わかってねえなあ、アキラは」

「まったくっす」

 

 なんで俺が。

 

 そして、この流れなら助けてくれそうなジローまで笑い出すとは。

 ひとしきり続いた笑いが治まると、まるで頭の悪い小学生に授業をかみ砕いて説明する教師のような顔をしてウルフギャングが口を開く。

 

「いいか、アキラ」

「おう」

「この世界は、ウェイストランドは、滅びた文明の残滓に縋って生きる人々が暮らす場所だ」

「だから?」

「儲けるってのは奪う事で、生きるって事は死なない程度にしか奪われなかった幸運なんだよ。そんな荒野で自分達にしか直せない車両を見つけて、手伝ってくれたから『はいどうぞ、修理もしておきましたよ』なんて言えるのは聖人級のお人好しって事だ。よかったなあ。100年もしたら昔この地にはアキラという聖人がいたって、酒場で歌うたいが子や孫に教えてくれるぞ」

「いらねえっての」

 

 俺が聖人だなんて、バカらしい。

 ワゴン車とスポーツバイクはキッチリ確保させてもらうし、工具なんかもほとんどセイちゃんのために確保してある。

 パチンコ店の菓子やタバコなんかは居残り組も含めた特殊部隊で山分けしたが、それだけじゃ危険手当にすらならなそうで申し訳ないくらいだ。

 

「原付、でしたっけ。小さいバイク、小舟の里はどうするんっすか、アキラ?」

「特殊部隊に配備だろうなあ。斥候や伝令にちょうどいいだろ」

「冷凍庫付きのはどうするんじゃ?」

「高級品になるマイアラークなんかを運ぶ用ですから、とりあえず小舟の里で管理ですかね。物が腐らない世界って言っても、新鮮なうちに冷凍されてる方が美味いらしいし」

「表面が乾かぬように水に浮かべただけよりも、冷凍の方が高級感も出るじゃろうしのう。特に夏は、氷そのものまでが少し高級な嗜好品として持て囃されるじゃろう」

「おそらく。こっちの庶民の娯楽は美食と酒とセックスって聞いたし、うちの嫁さん達も茹でて冷凍したマイアラークと氷の塊は小舟の里のいい名物になるはずだって言ってます」

 

 車両の件は、おおよそではあるがこれで方針は固まったか。

 

「それでアキラ、次はどうするんだ?」

「次って?」

「天竜へ行って小競り合いの様子を見るのか。それとも、しばらくレベル上げだけをするのかだよ」

「それ悩んでんだよ。ジロー、小競り合いってのは新制帝国軍と天竜の猟師が常に睨み合ってるんじゃねえんだよな?」

「当たり前だろうって」

「だよなあ」

 

 天竜と新制帝国軍がモメているのはいい。

 そこで不意を衝いて、新制帝国軍の戦力を削るのも。

 

「アキラ、特殊部隊を1人か2人天竜に潜り込ませるってのはどうっすか?」

「やめとこうぜ、それは」

 

 特殊部隊なんて呼ばれる連中には向いた仕事のように思えるが、こちらに軍事のプロなんていない。

 見知らぬ集落へ潜入しての情報収集や、そこで得た情報を基地に持ち帰る訓練なんてしているはずがないのだ。

 

「まあ話を聞いた感じじゃ、天竜もそこそこやりそうだからな。戦闘になっても一気に蹂躙されるより、膠着が訪れる可能性の方が高いだろう」

「ホントなら天竜川の対岸辺りに小屋でも建てて、そっから見張りてえんだがよ」

「廃墟に潜んでもいいが、そうなると派手なレベル上げはできないもんな」

「あ……」

「どうした、アキラ?」

「何か思いついたようじゃのう」

 

 また2人で新制帝国軍の部隊に奇襲をかけるような事なんてそうそうないのに、ジンさんはニヤリと笑いながら葉巻を咥える。

 

「天竜川の河口付近に、悪党が根城にしてた橋がありましてね」

「ふむ」

「海岸線を通って、途中から北上する形で磐田の街を目指すルートか」

「そうなるな。んでそこ、タレットこそ置いて来なかったけどコンクリートの土台で封鎖しといたんだよ。えーっと、地図地図……」

 

 地図を出し、封鎖した橋に印を付けてテーブルの真ん中に押す。

 

「さすがにこれはないっすよ」

「じゃのう」

「うむ。距離がありすぎるし、河口のここから天竜に向かうとなれば対岸から発見されやすい道を使わねばならぬ」

「ダメかぁ」

 

 まあ、ただの思いつきだし仕方ない。

 ならばと地図を引き寄せてレベル上げをしつつ、天竜の様子をすぐ見に行ける場所がないか探そうとしたが、3人は地図を離してくれなかった。

 

「ここはどうです、ジンさん?」

「ちと山に近すぎるのう。この辺は探索中、獣面鬼と鉢合わせする可能性が高いのじゃ」

「ならもっと磐田の街に近くて、線路沿いの道路が天竜に向かって伸びるこの辺はどうっすか?」

「悪くはないが、ここまで離れるなら磐田の街に滞在しながら山師をやるのと変わらんのう」

「なるほどっす」

 

 ああだこうだという話し合いを、ジローが不思議なものでも見るような顔で聞いている。

 

「なあ、アニキ」

「ん?」

「こんな面倒な事を考えるより、天竜にいっぺん顔を出してさ。んで次からは朝とかに顔を出した後、猟師と狩り場がかぶらねえ天竜川の、こっちから見て手前側で狩りをした方がいいんじゃねえの? その獲物を相場で売ってやりゃ、あっちも喜ぶだろうし」

「そうなるなあ」

「あれっ? ……あれれっ!?」

「どうしたんじゃ、タイチ?」

「こ、これを見てくださいっす!」

 

 タイチは地図を指で差しているのだが、その指が震えているようだ。

 何かヤバイ施設でも見つけたのか。

 

 全員が身を乗り出すようにして地図を覗き込むと、そのタイチの指は小舟の里である競艇場の上にあった。

 

「小舟の里じゃの」

「こっから、こうっす」

 

 指が地図を撫でるように動く。

 

「浜名湖の北端?」

「はいっす。そんでこの浜名湖に流れ込む川を遡って、山にまで入らず東に向かうと……」

「うっは。天竜の集落、近っ!?」

 

 これなら、このルートなら小舟の里から磐田の街へ向かう時の距離とほとんど変わらない。

 それどころか浜名湖には道なんてないのでボートで直線的に突っ切れる分、磐田の街より近くなってしまうんじゃないだろうか。

 タイチの指がなぞった川をボートで通れるのかは怪しいが、その川沿いには道路と線路が伸びている。

 

 そしてなんと、天竜浜名湖鉄道というらしいその鉄道は、今の天竜の集落がある天竜二俣駅に繋がっていた。

 

「盲点じゃったのう」

「これは凄いな」

「ジンさん。この天竜浜名湖鉄道の線路とか、この通り道の市街地に新制帝国軍や浜松の街の山師は?」

「まず行かぬのう。新制帝国軍はよほどの事がなければ東名高速を越えぬ。山師はこんな遠出をするくらいなら、旧市街を漁った方が良い」

「こりゃ明日っからは、検問所でめっけた軍用ボートの練習だな」

 

 


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