Fallout:SAR   作:ふくふくろう

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影に怯える

 

 

 

「さあ、今日はアタシの番だ。昨日特殊部隊と漁った戦利品を取りに来た時、なぜかミサキは赤みの抜けてない蕩けた表情で助手席に乗ってたからな。当然アタシにもサービスしてくれるんだろ?」

「……イチャコラしてえなら家でいいじゃねえか」

「バカ者。アタシだって青姦とかカーセックスってのをしてみたいんだぞ?」

「こ、声がデケエっての」

 

 俺とシズクがいるのはメガトン基地の内側、門の目の前にある仮駐車場だ。

 そこには見習いの見張りショウだけでなく、指導でもしに来たのか特殊部隊の居残り組の姿もある。

 元隊長が朝っぱらから妙な事を大声で言っているので、どちらも苦笑しながらではあるが、気を使って聞こえてないフリをしてくれているらしい。

 

「今日はこれを使うんだったな。さ、早く乗れ」

「軽トラを駐車場に並べるから先に乗ってろ」

「わかった。服も脱いでおくか?」

「いらねえよタコ!」

 

 まったく。

 こんなんじゃ、昨日の薬局で手に入れた栄養ドリンクなんて夏までも保たなそうだ。

 

 軽トラを一番端に並べて出し、昨日セイちゃんが修理してくれたハイエースっぽいワゴン車の前に立つ。

 

 色々と手を入れたらしいが目立つのは車体の前後、ルーフに据え付けられたタレット2機。

 削り出しの金属部品で射角を制限してあるが、前後左右をほぼカバーしてくれるそうなので心強い。

 

 バンパーもフェラルやモングレルドッグなら簡単に轢き殺せる物に交換されているが、どうしてもフレームにダメージが入るので、あまり使ってくれるなと言われている。

 

「広くていいなあ、これ。いろんな使い道がありそうだ。後ろも広いし、アタシとカナタが運転を覚えたらナニが乾くヒマすらないんじゃないか?」

「どこのAVだ。しねえっての。いいから出すぞ」

「おう、好きなだけ出していいぞ。ふふっ」

「エロオヤジかっての」

 

 いつもの道を門まで。

 するとそれがガラガラと音を立てて開く前に、ニヤニヤ顔のジンさんがワゴン車に歩み寄ってきた。

 

 渡したい物があるので好都合なのだが、この顔じゃまずはソッチ系のネタでからかわれる。それにしばらくは耐えないとダメそうだ。

 

「おはよう、爺さま」

「おはようございます、ジンさん」

「うむ、おはよう。しかし朝から雌の顔をした女を連れて探索に出るとは。アキラは、アッチも腕利きのようじゃな」

「そりゃあ凄いものだぞ、爺さま。酒の席で聞いてた猥談とかなり違う。セイなんか、アキラは絶対にエロ系のPerkを隠し持ってるって信じて疑わない」

「ほっほ。愉しんでるようで何よりじゃ。その調子じゃぞ、アキラ」

「はぁ。ジンさん、これこないだ貰ったアレです」

「もう用意しおったか。……しかも5つも」

「山分けですからね。防衛部隊の若い衆に分けるなりして、なくなったら教えてください。また取ってきます。それより、どうせなら一緒に探索に出ませんか?」

「やめておこう。覚えたてのサルのような状態の姪っ子に嫌われてはたまらぬでの」

「さすがは爺さま。話がわかる」

 

 大声で笑い合う叔父と姪に肩を竦めて見せると、ジンさんは手を振りながら定位置である休憩場のテーブルに向かった。

 

 開いた門を抜けながら防衛部隊に会釈をして、東海道のどちらにも向かえる位置でブレーキを踏む。

 

「さて、今日のお姫様はどこへお連れしますかね」

「悪党のコンテナ小屋へ、だな」

 

 うっわ。

 

「え、えーっと。それは、だな。あーっと……」

「やっぱりか」

 

 これは、完全にバレてる。

 

 ジト目の美人な嫁さんにどう説明するべきか迷っていると、どうせ爺さまと2人で片付けたんだろうと苦笑いの表情で言われた。

 

「すまん」

「いいさ。それでアキラは素直になってくれたんだろうし」

「そこまで見抜くかよ? スゲエな」

「アタシだって戦う人間で、人を斬った経験もある。あんな目をして組み伏せられて腰を振られれば、嫌でも気がつくさ」

「……それはシズクが煽るからだろうがよ」

「なんとでも言え。それで、オススメの戦前の施設は?」

「欲しい物とか、戦いたいクリーチャー。そんなのを言ってくれりゃ、すぐに地図で調べて向かうさ」

「ふむ」

 

 シズクが腕組みをして目を閉じ、考えを巡らせる。

 

 さすがは爆乳という言葉の体現者。

 圧倒的な存在感だ。

 

 いやあ、これがあんな風になあ……

 

「よし」

 

 そう呟きながら瞼が開かれた瞬間、ガン見していたおっぱいから顔ごと視線を逸らす。

 こいつらとなし崩し的に同居生活を始めてすぐに身に着けた、クラフトやVATSにも劣らない俺の特技だ。

 

「決まったか」

「ああ。とにかく食える妖異か獣を仕留めたい。1匹でも多くな」

「交易に備えてか。磐田の街に流すなら、やっぱマイアラークかな。あっちじゃご馳走って話だ」

「冷凍庫の付いた車に軽トラのエンジンを移植する計画は本決まりなのか?」

「ああ。近いうちセイちゃんがエンジンを載せ替えるはずだ。そんでマイアラークの肉は、小舟の里で加工する。そうすりゃ雇用も増えて、一石二鳥なんでな」

「まったく。呆れるほどに頭の回る旦那様だ」

「誰でも思いつくっての。でもそれだってこっちの食いもんをあんま食わねえ俺に、『戦後になってから食い物は腐らんが、時間が経って表面が乾いたメシは味と値段が落ちる』ってシズクが教えてくれたおかげだ」

「たまにはアタシも役に立つだろ?」

「いつも大助かりだっての。んじゃ、まずはバイパスまで出て砂浜を見るぞ」

「任せた。それより、手か口でするのは今じゃなくていいのか?」

「防衛部隊に見られるっての、アホ」

 

 ウルフギャングのトラックの助手席からVATS索敵をして道は覚えていたので、国道一号線の橋の手前へはなんなく辿り着く。

 しかし、タレットの試射をしたい時に限ってフェラルもモングレルドッグも出てくれないとは。

 

「どうした?」

 

 国道一号線に乗り入れず、ブレーキを踏んで左右を見ている俺にそんな声がかかる。

 

「いや、左にあるロケーション。日本防衛軍陸軍検問所のある橋は、遠目からでも見張れるんでな。できれば行きたくねえ」

「ふむ。なら、進むべきは右か」

「いいや。このイッコク、国道一号線の向こうは砂浜らしいんだ。だから、そこにマイアラークが見えるなら狩り場にしてえんだが。いい感じに防波堤で視線も切れてるし」

「この辺りで狩るにしても、橋に近づかなければいいんだろう。どうして悩む?」

「フォールアウト4にゃ、マイアラーク・クイーンってクリーチャーがいた。それも、砂浜なんかにな」

「名前からしてマイアラークの上位種なんだろうが、手強いのか?」

「かなり。見上げるほどにデカくって、遠距離から酸液をかなりの精度で飛ばしてくる。またその酸が付着した地面にも、ダメージ判定がありやがってよ。わらわら湧いてくるマイアラーク幼生も厄介だ」

「丸ごと塩茹でしてしまえばいいツマミだが、厄介なのはたしかだな」

 

 シズク達にしてみれば当たり前の事でも、あれを丸ごと茹でたのをツマミにするとか。

 お願いだから口に出すんじゃねえという気分でタバコを咥える。

 

「シズクも吸っとけ」

「ほう。なら、踏み込むんだな?」

「そうなる。こっから見えてる堤防のてっぺんか、その少し下にタレットを設置。俺が狙撃で引っ張る」

「マイアラーク・クイーンとやらが出たら?」

「ミサイルタレットを出して防波堤の階段に身を隠す。それとミサイルランチャーのVATSでHPを削り切れれば良し、ムリそうならここまで走ってワゴン車で三十六計だ」

「了解。楽しくなりそうだな」

 

 こちらの世界でも車は左側通行で、ウルフギャングのトラックは装甲板がこれでもかと貼り付けてあるから、助手席から右側にあるはずの砂浜なんてチラリとも見られない。

 なのでどの程度の砂浜が堤防の向こうに広がっているのかは知らないが、そこそこの規模であるならば獲物には困らないだろう。

 

「よし、おっぱじめっか」

「タレット設置の護衛は任せろ」

「頼りにしてるよ」

 

 ワゴン車を降りる。

 

 逃げ帰る事を考えたら、足であるコイツは出したままがいいか?

 車泥棒やクリーチャーが出ても、タレットが撃ち抜いてくれる。

 

 いや、これは磐田の街の市長さん達が命懸けで案内をしてくれたおかげで発見し、セイちゃんが一生懸命に修理をしてくれた車両だ。

 少しでも不安があるならピップボーイに入れておくべきだろう。

 

「ふふっ。なんにせよまず堤防にタレットを設置して、狩りが長引きそうなら取りに来ればいいだけだろうに」

「あ、それもそうか。でも、やっぱ収納しとく。車の残骸もそれなりにあるしな」

「なるほど」

 

 ワゴン車をピップボーイに入れて、国道一号線バイパスを歩いて横断する。

 堤防を上がり切ると、やはり俺達のいた日本と変わらない、見渡す限りの大海原が見えた。

 

「ははっ。こりゃスゲエなあ」

「海の雄大さと美しさにも驚かされるが、右を見ろ。アキラ」

「ん? ってすげー。こっから右、ずうっと砂浜が続いてるじゃんか!」

「うむ。しかも波打ち際に、いくつもの不自然な盛り上がりがある。あれは普通の砂じゃないだろう」

「とびきりデケエのは、……見当たらねえな」

「マイアラーク・クイーンはいないのか」

「見える範囲には、だけどな。用心だけはしとこうぜ」

「わかった」

 

 念のためVATSを起動させ、砂が不自然な盛り上がり方をしている場所を見回す。

 間違いない。

 あれらはすべて、ただのマイアラークだ。

 

「ヘビーマシンガンタレットを出す。砂浜に卵がないかも見といてくれ」

「了解だ」

 

 マイアラークは縄張りでもあるのか、1匹か2匹が砂に身を隠す場所があると、そこから20メートルほど距離を置いてまた砂に身を潜めているらしい。

 ポツポツと並んでいる盛り上がりの1つを狙撃しても、砂浜全体のマイアラークが反応する危険は少なそうだ。

 

「ま、やってみにゃわからんけどな。ヤバそうなら逃げっから、とりあえずヘビーマシンガンタレットを3つだ」

「卵は橋の方向に多いみたいだぞ。あの距離じゃ、こっちまでは来ない」

「ラッキー。河口に近い場所に卵を産み付ける習性でもあんのかねえ」

「わからん。だがこれほどの砂浜がマイアラークの住処なら、いつ来ても獲物には困らず済みそうだぞ」

「ジンさんは、浜松の街の人間は兵士でも海に近づかねえって言ってた。逃げるならタレットなんか気にすんなよ?」

「わかってる。しかし、アキラの狙撃でカイティングか。懐かしいな」

「つい最近の話だろって」

 

 シズクの小さな笑う声と波の音を聞きながら、あの時はこれを使ったっけなとスコープ付きのレーザーライフルをピップボーイから出す。

 

「そう、それだそれだ」

「いくぞ」

「応っ」

 

 ビャウンッ

 

 独特の発射音。

 ダメージが低いとはいえ砂の中で休んでいるところを銃で狙撃され、マイアラークの1匹が怒りに任せて身を起こした。

 

「まだタレットは反応しねえか」

「階段にこうして設置すれば無駄な損傷を防げるな。さすがだ」

「銃身の向きには注意しとけよ? だからここから見下ろせる階段に、間を置いて、3機だけにしといたんだ」

「うちの旦那様はお優しいな。惚れ直してしまうじゃないか」

「よく言うぜ」

「しかも階段は何かと都合がいい。海を見ながら、潮騒の音を聞きながらなんてのもいいな」

「……しねえよ?」

 

 


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