Fallout:SAR   作:ふくふくろう

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発見 ズズキマリーナ浜名湖

 

 

 

 鷲津漁村センター。

 エンジンの回転を落として港に入ると、すぐにそんな名前のロケーションを発見してまた経験値が入った。

 漁村という名の通り、大きな港ではない。

 それでも船は多いので、ゆっくりと見て回る。ゲームでの探索でも、特に何もなさそうな場所に少し貴重なアイテムが落ちているなんて事はよくあったものだ。

 

「どれもダメっぽいなあ」

「ぴぃ」

 

 いくらLuckガン振りでも、大当たりを1発ツモはないか。

 こんな世界に放り出され、最初に見つけた街が小舟の里。そこでたくさんの友人が出来て、俺とミサキの同類に間違いなさそうな賢者の消息まで知る事が出来た。

 それだけでも、さすがLUCK10だと感じてしまいそうなくらいだから気にするなと自分を励ます。

 港を出て北へと向かうと、今度は団地と学校らしき廃墟が見えてきた。

 

「あそこもフェラルだらけなのかもなあ」

 

 学校の向こうは湾のように湾曲した地形なのでスピードを落とし、ゆっくりと舐めるように湖岸を観察しながら進む。

 目指すのは観光パンフレットにあった大きそうなマリーナで、探しているのは修理可能な船だが、競艇場でも基地にしたマリーナでも水に浮いていた船は修理が出来ないほどに損傷が激しい。

 

「船の修理工場、もしくは製造工場を見つけるのが得策だよな。建物の中にあった船なら、残っている修理作業を終えたりすれば使えたりするかもしれない。くそっ。なんであの日の俺は、交番の壁から地図を引っぺがしてピップボーイに入れなかったんだか」

 

 工場のような建物も見えるが、あれが船の工場であるにしては少し湖から離れすぎか。

 

「ぴいっ!」

「ん? 敵じゃねえなら、少しだけ待ってくれ。場所はこの辺だよな。少し湖面よりに工場っと。印は、三角にしとくか。お待たせ。どした、EDーE?」

「ぴいっ!」

 

 ボートの少し先に浮いているEDーEが、俺に向けていたメインカメラを北へ振る。

 その視線を追って見えたのは、パンフレットに名前があった大きそうなマリーナだ。俺の予想が正しかった事を証明するように、そこには1つは折れているが船を吊り上げて動かすための大きなクレーンがいくつか見えた。

 

「あれが目的地、ズズキマリーナ浜名湖らしいな。あの規模なら、船の修理やメンテナンスをする工場が絶対にあるぞ。よしよし」

 

 3つある桟橋も、基地のそれよりずいぶんと大きくて立派だ。

 

「問題は、クリーチャーがいるかどうかだよなあ」

「ぴい」

「まあ、考えてもしゃあねえか。俺はボートを収納したら、まず桟橋の根元、マリーナの建物方向にタレットを出す。EDーEは周囲を警戒。ヤバそうなら三十六計だ、それでいいか?」

「ぴいっ!」

「頼りにしてるぜ、相棒」

 

 エンジンを停止。

 マリーナの桟橋はクルーザー用の高さなので、俺の身体能力では思い切りジャンプしたって届きそうにない。

 まずは半分水没しかかっているクルーザーに乗り込み、ボートを収納して桟橋に跳び移るつもりだ。

 エンジンを切っても慣性で進むボートの舳先が、水没しかけているクルーザーにキスをして鳴る。

 

「行くぞ」

 

 クルーザーに跳び移ると、傾いたデッキは酷くヌルついていて俺は床に転がった。

 だがAQUABOYのおかげで、そんなのは屁でもない。HPさえ減らなければ無傷だという事だ。

 こんな時クリーチャーに襲われるのが最も怖い。それでもEDーEを信じ、後ろは見ずにボートをピップボーイに入れた。

 

「OKだ。桟橋に跳び移って走るぞっ」

「ぴいっ」

 

 敵の接近を告げるブザーは聞こえなかったし、射撃音もなかった。

 もしかして、ここは安全なロケーションなのか。

 思いながらクルーザーの床を蹴り、少し離れた桟橋に着地した。

 そのままデリバラーを装備して、マリーナの建物がある方向へ走る。桟橋の根元にタレットを設置できれば、いくらかは安心できるはずだ。

 俺が走る桟橋の左右には2、30ほど湖面に浮かんでいるのだがどれも錆が目立ち、浸水してしまっている物も多い。特殊部隊の基地で俺がジャンクにしてピップボーイに入れた船と同じだ。

 

「よし、ワークショップ・メニュー」

 

 桟橋を駆け抜け、ヘビーマシンガンタレットを3つ出す。

 威力を考えればミサイルタレットだが、今はジェネレータを出して繋ぐ時間すら惜しい。

 ヘビーマシンガンタレットを盾にするようにして身を屈め、事務所やクラブハウスやメンテナンス工場だと思われる建物の方向をしばらく窺った。

 

「……大丈夫そう、だよな?」

「ぴいっ」

 

 ここまですれば、敵地に上陸して橋頭保を築いたようなものだ。

 それでも気を抜かずミサイルタレットを2つ設置してから、俺はようやくタバコを吸いながらきれいな水で唇を湿らせた。

 緊張からか、喉の渇きが酷い。

 かなり汗も掻いている。

 

「バカ高いクルーザーを所有して、しかも定期的に金を払ってこれだけの施設に預けてるような連中が使うクラブハウス。それにたんまり円の紙幣がありそうな事務所も漁りてえが、まずは工場だよな。どでかいシャッターは下り切ってるから、これ吸ったらあの通用口から中を窺おうぜ」

「ぴい」

 

 見えているだけでもかなりの広さの敷地だし、クラブハウスなどはやけに豪華そうな3階建ての立派な建物だ。

 特殊部隊の連中やジンさんに応援を頼んだ方がいいかもという考えがチラリと頭をよぎる。だがあちらはあちらで、朝から警察署の探索。

 武器の試しと肩慣らしであるそれが終われば、悪党のコンテナ小屋を襲撃だ。

 ここは船を見つける所までであっても、俺とEDーEだけで終わらせておきたい。

 

「まあ状態の良さげな船を見つけても、どこで修理してどうやって里まで運ぶんだって話だけどな」

 

 その2点については、実際に船を見つけてみなければ考えてもどうしようもない。

 

「……行こうか」

「ぴいっ」

 

 タバコを踏み消し、デリバラーをぶら下げて工場らしき建物へと歩を進める。

 

「ビイッ!」

「マーカーか?」

「ぴっ」

「色は赤?」

「ぴぴっ」

「まだ黄なら、このまま進もう。声もブザーも、小さくな。でも、マーカーが赤になったらすぐ逃げるぞ」

「ぴっ」

 

 この先に、どんな存在がいるのかはまだわからない。

 俺なんか数瞬で喰らい尽すほどのフェラル・グールの群れがいるかもしれないし、小舟の里ほどの数でなくとも平和に暮らす人間が「客人とは珍しいな」なんて言いながら椅子を勧めてくれるかもしれないのだ。

 どちらにしても、殺し殺される覚悟をするのにはまだ慣れない。

 辿り着いた通用口のドアは用心深く開けたつもりだが、思っていた以上に錆びた蝶番が軋んで俺は唇を噛み締めた。

 

「300ビャクネンぶりの、おキャクサマを、タンチ。おデムカえ、します」

「なん、だと……」

 

 フォールアウトシリーズで聞き慣れたこの声。

 間違いない、プロテクトロンだ。

 小舟の里で起動するのを諦めたプロテクトロンに、こんな場所で出会うとは……

 

「いらっ、しゃい、ませ。トウマリーナへ、ようこそ。ザンネンながら、ゲンザイ、おウりデキ、るのは、1テイ、のみに、なっております。それでもヨロしければ、コウジョウナイへ、どうぞ」

「あ、ああ。見せてもらおう」

「どうぞ、どうぞ」

 

 プロテクトロンの背を追って事務所のような部屋を抜けようとしたのだが、その床に数人分の骸骨が転がっているのを見て背筋が寒くなった。

 導かれた広い工場の一番前には、かなりの大きさのクルーザーが、納入前に傷など付けぬためにかビニールを張られた状態で鎮座していた。

 

「おお……」

 

 修理可能とか不可能とかいう話ではなく、これならこのまま浜名湖に浮かべても問題なく動きそうだ。

 

「チュウコ、ではありますが、ワンオーナーのタイヘンフツクしいプレジャーボート、でございます」

「いいな。20人やそこらは乗せて、浜名湖をのんびり巡れそうだ」

「ごジョウダン、を。ジュクレンのクルーであれば、セカイジュウ、のドコへでも。そうでなくとも、ニホンキンカイ、ならば、ミズとショクリョウの、モつカギ、りコウコウカノウ、でございます」

「それは凄い。……値段は?」

「サイダイゲン、に、おベンキョウさせて、いた、だき、500、マンエン、で、ございます」

「うはぁ」

 

 10円が約1万円の世界で500万て……

 

「ヤク1ネン、の、コウコウに、ヒツヨウ、なバッテリーが、5つ。イマ、でしたら、50を、サービス、で、おツけ、します。ハズかし、ながら、この、300ネン、トウマリーナを、オトズれてくださった、のは、おキャク、サマ、だけです、ので」

「へえ」

 

 核分裂バッテリーの相場は知らないが、それを50もサービスで貰えるならそう高い買い物ではないのかもしれない。

 まあなんにせよ、5円札を1枚しか持っていない俺が金を払える訳もないのだが。

 待てよ? ここは、フォールアウトシリーズの世界だ。

 スピーチチャレンジで、どうにかこれを。最悪は、工場の隅でスニーキング状態になって扇動ガウス……

 

「あ、Charisma3しかねえんだった。Strengthも、Agilityも」

「おキャク、サマ?」

「ああ。な、なんでもない。いい船だな、これなら」

 

 ドーン!

 

 そんな音が外から聞こえて、俺はEDーEと顔を見合わせた。

 

「やれやれ。コウツウジコ、でしょうか。イマのは、アキらかに、カクブンレツバッテリーシャのバクハツオン、ですね。セマ、い二ホンを、そんなにイソいでどこに、イく、です」

「悪い、プロテクトロン。今日は冷やかしだけにしとく。でも絶対に札束を持って買いに来るから、出来れば売らずに取っといてくれ。じゃ、またな」

「おキャクサマ!」

「ん?」

 

 小舟の里で暮らし始めて1か月にもならないが、核分裂バッテリー車の爆発音どころか、銃声さえ滅多に聞いた記憶がない。ならばさっきの爆発音は、警察署の探索をしている特殊部隊の連中と関係があるのだろう。

 1秒でも早く駆けつけたいってのに。

 

「ワタクシ、は、ズズキセイの、バンノウジリツキカイ、でござ、います。ナを、ボースン。タダイマ、メイシ、を」

「いらんいらん。どうせまた来るからな。そんじゃ失礼するよ、ボースン」

「おマちして、おりま、す」

「走れ、EDーE!」

「ぴーっ」

 

 タレットを回収する時間さえ惜しい。

 俺は桟橋に駆け込んで、AQUABOYを取得したのをいい事にそのまま海へとダイブした。

 ボートを出し、里の方向を睨みながらそれに這い上がる。

 キノコ雲なんかは視認できないが、爆発があったのは間違いがない。

 お願いだから全員、無事でいてくれ。

 唇を噛んでそう祈りながら、エンジンの上部に始動用のロープを巻いて思いっきり引いた。

 

 


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