Fallout:SAR   作:ふくふくろう

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基地

 

 

 

「よしよし、反対はしねえみてえだな。まずある程度は小舟の里の守りを固め、俺とミサキと特殊部隊のレベル上げ。それをしてりゃゆっくりと里には新制帝国軍と大正義団に肩を並べるほどの戦力があると知れ渡り、特殊部隊の集めた戦前の品が仕入れられるとなりゃ目端の利く商人が里を訪れるようになる。3年後にその商人の中で信用できそうな人間に新制帝国軍と大正義団との取引を任せられりゃ、この島は楽園とまで呼ばれる結構な街に生まれ変わるぞ」

 

 まるでRPGでもFPSやTPSでもなく街づくりシミュレーションゲームでも始めた気分だが、俺は昔からそれが嫌いではなかった。

 それどころか、大好物だと言っていい。

 人の命がかかってるからゲーム気分じゃダメだぞと心の中で自分に言い聞かせたが、それでも俺は笑顔を浮かべてしまっているようだ。

 

「そんな上手く事が運ぶの、アキラ?」

「ダメなら適時、計画を変更するだけさ」

「こうしてはいられないな。あたしは今の話を、長と爺様に話して来る。タイチ、悪いが放送で隊員達を集めて特殊部隊への入隊希望者を募ってくれ」

「聞くまでもないと思うっすけどねえ」

「待て待て。話はまだ終わってねえぞ?」

「むう。なら、早くしろ」

 

 血が滾っているんだとか言い出しそうなシズクに苦笑を見せ、タバコに火を点ける。

 

「特殊部隊には銃や防具を貸し出すが、それを持ったまま競艇場に出入りするのは禁止だ。この事務所を詰め所にして、外の駐車場に俺が宿舎を建てる。そこ以外で銃や防具を手放すのは原則禁止。破ればそれがシズクでもタイチでも、特殊部隊から除名。出来るか?」

「舐めるな。うちの隊員は、大正義団が盗んでいった装備さえあれば浜松の山師共なんて相手にもならないほどの精鋭だぞ。普段から心構えなんて、とっくに出来てるんだ」

「そうかい。なら行っていいぞ」

「ああ。行くぞ、タイチ」

「はいっす!」

 

 そんなに慌てるなと言う間もなく駆け去った2人の背中を見送り、なんとなく目の前の机の引き出しを開けてみた。

 

「熱い隊長と副隊長だねえ。おっ、観光案内だってよ。浜名湖の」

「へー。どれどれ?」

「セイも見たい」

 

 キャスター付きの椅子をガラガラと鳴らし、2人が俺の両脇に来る。

 そう大きくはないが柔らかいふくらみが腕に押し当てられたのでミサキを見ると、顔を真っ赤にしながら横っ腹を軽く殴られた。

 

「ぐほっ!?」

「アキラ、見えない」

「わ、悪い、これでいいかな。それよりどしたの、セイちゃん。そんな肋骨を俺に押し当てて。痒いの?」

「……シネ」

「ごはっ!?」

「今のはアキラが悪い。ねえ、セイって武器を使えるの? 今のパンチはなかなかだったけど。特殊部隊にも入るつもりだよね」

「ん。これで戦う。銃は、部屋にある」

 

 言いながらセイちゃんがオーバーオールのポケットから出したのは、あちらの日本でもゲームでも見覚えのある特徴的な物だった。

 

「ダーツ? こんなので戦うって……」

「おお。もしかしてそれを撃つ武器を、師匠に?」

「ん」

「知ってるの、アキラ?」

「ダーツガン。フォールアウト3の、設計図を集めないと作れねえ貴重な武器だ。足を重傷にした上で、毒ダメージまで与えるんだったかな。そうしてしまえばどんな敵からも逃げ切れるし、倒すのも容易い。セイちゃんは、本当に賢者にかわいがられていたんだな。そして、賢者は101のアイツだってこれで確定だ」

「やっぱりそうなんだあ。早く会いたいね」

「だなあ」

 

 観光案内のパンフレットには、動物園や植物園、遊園地などの写真が掲載されていた。

 どれもそんなに規模の大きそうな施設ではないが、浜名湖の観光施設は俺が思っていたよりずっと充実していたらしい。

 中でも目を引くのは、地図にいくつもあるマリーナという文字だ。俺達がいるこの場所も、ヨットハーバーではなくマリーナという名前になっていた。

 

「マリーナって、たしかヨットハーバーの別の言い方だよな?」

「だね。葉山に置いてあったうちのクルーザーも、なんとかマリーナって場所にあったよ」

「自家用クルーザーって……」

「え、変?」

「変じゃねえが、ムカつく」

「なにそれ酷いっ!」

「アキラ、これ」

「ん? ああ、そりゃ戦闘機の写真だ。帝国軍でも自衛隊でもなくて、防衛軍って名前なんだな。日本防衛軍空軍基地。って、空軍があったんかよ!」

「でももしそこに核が落ちてたら、ここだって無事じゃないよねえ?」

「そりゃそうだろ。だからこそ基地は無事な可能性が高いんだ。セイちゃん、101のアイツは、師匠はここの事を何か言ってなかったか?」

 

 セイちゃんがフルフルと首を横に振る。

 ならばこの空軍基地は、少なくとも101のアイツに荒らされてはいない。

 空を飛べる戦闘機なんて残ってはいなくても、警察署なんかに残されているのよりずっと強力な銃が使い切れないほどありそうだ。

 

「まさか、飛行機を探しに行くつもり?」

「さすがにそりゃねえって。でも空軍でも敵の陸上戦力から基地を守る役割の部隊はあったはずだし、浜松の山師達が手を付けてねえなら宝の山だぞ」

「いつになったらそんな場所に行けるのかなあ」

「レベル50くれえかな」

「そんなに? 気が遠くなるって」

 

 観光案内には他にも大型のショッピングモールや、バイクで競艇のようにレースをするオートレース場などの写真が掲載されている。

 

「信じられるか。ゲームが現実になると東京名古屋の中間にある県庁所在地でもなんでもない、ありふれた地方都市ですら探索に何年もかかりそうなんだぜ?」

「まあ、退屈はしなさそうね。あ、そういえばアキラが悪党を倒したらレベル6になったから、Bloody MessってPerksを取ったよ」

「げえっ!」

「な、なによ……」

「ははっ。取っちまったもんは仕方ねえさ。晴れたみたいだから、俺は宿舎を用意する。道具は出しとくから、ここの片づけと掃除を頼んでいいか?」

「うん。特殊部隊の待機所にするんだよね、任せて」

「悪いな。せっかくの休日だってのに」

 

 俺はあまり駐車場から離れないし、ドッグミートとEDーEもいる。それに敵がいないのがわかり切っている狭い建物の中なので、2人だけにしても大丈夫だろう。

 雨上がりの外に出てどこにどんな宿舎を建てるか決めるため、駐車場にある車の残骸をジャンクに分解しながら駐車場を歩き回った。

 ゲームと同じように、大きな車の残骸が一瞬で消えてピップボーイのインベントリに収納されるので楽なものだ。

 

「駐車場の左右の水面にもボロ船が山ほどある。しばらく鉄には困んねえな、こりゃ」

 

 食料調達部隊には、タイチの思い人をはじめとして女も5人ほどいた。

 俺が顔を合わせたのは10人ほどだが、ちゃんと揃えば18人いるらしい。全員が特殊部隊に志願する保証はないが、人員が増えるのを見越して女性宿舎を10部屋、男性宿舎を20部屋も準備すれば充分だろう。

 待機所を挟んで駅のある方向に男性宿舎、その逆に女性用の宿舎でいいか。

 

「えーっと、まず玄関があって談話室。んで左右に個室を6ずつ、2階は中央が階段で左右に44の個室っと。屋上も作って、飲み会したり出来るようにしとくか。女性宿舎も基本は同じでいいよな。あ、便所もそれぞれに必要か」

 

 個室には電球とベッドと絵画だけでなく、金庫も設置した。武器は各自がそこに保管して、横流しなんかしていないかたまにシズクが抜き打ち検査でもすればいい。

 先に男性宿舎を仕上げ、女性宿舎を建てている途中でレベルアップ。フォールアウト4はこのように建築でも、それどころか料理をしただけでも経験値は入るので、微々たるものではあるが低レベルのうちはそれがありがたい。なのでゲームの中で作った物がピップボーイのインベントリにいくらでも入っているが、資材が足りなくなりそうになるまではいちいち製作していこうと思う。

 だが俺がミサキと出会ってからその存在に気付き、101のアイツが先にこちらに来ていたのを確信して深めた、とあるわだかまりのようなものはまだどうしても捨てられそうにない。

 

「レベル3か。戦闘に出る前にでも、しっかり考えてPerksを取らなきゃなあ」

 

 小舟の里は島なのでその左下に位置するこの特殊部隊の基地と駅の間には川があるのだが、船がそこへ出て浜名湖や海へと向かうための水門は競艇場側にあった。

 なので駅を背にして左側にある2つの桟橋を、そのまま射撃練習場にしてしまう。

 

「敷地はフェンスで囲って、タレットを置くか。いいねえ、精鋭部隊の基地らしくなりそうだ。……こうなりゃ、トコトンやっちまおう。自重なんてシラネ」

 

 ゲームでは不便で仕方なかったクラフト作業も、現実世界になったからかストレスを感じずに進められる。

 設置してみるとフェンスでは駅から基地が丸見えになってしまったので、金属製の壁を3段重ねてそれに身を隠しながら銃を撃てる足場まで設置した。タレットも、これでは多すぎるだろうというくらいに配置する。

 

「よしよし、基地らしくなったじゃんか」

 

 別に期限などないのに走り回って作業をしていたので額に浮かんだ汗を袖で拭うと、そこだけ鉄格子にした門の方からガヤガヤと人の声が聞こえた。

 俺は見張りと迎撃のための足場の上にいたので覗いてみると、タイチと食料調達部隊の連中が基地を指差しながらああだこうだと大声で喚いている。

 

「よう、おかえり。そんな騒ぐんじゃねえっての」

「騒ぐに決まってるっすよ。なんなんっすかこれっ!?」

「基地だよ、基地。コンクリートで囲って絶対に侵入できねえ要塞にしようかとも思ったんだが、そこまですっと今度は謀反を疑われるかと思ってな。こんくれえでカンベンしてやった。今、門を開ける」

「基地って……」

 

 足場には門のすぐ横にも階段を設置して上がり下り出来るので、そこから下りてタイチ達を迎え入れた。

 

「ようこそ、特殊部隊の基地へ。休みだってのに、こんな大人数でどした?」

「全員が特殊部隊ってのに志願したんでその報告がてら、市場で酒やツマミを仕入れて来たんっすよ。もうお昼を過ぎてるっすから。お昼ごはん、まだっすよね?」

「そりゃありがてえ。さ、入ってくれ」

「後で隊長達も来ると思うっすけど、ここで大声を出しても建物の中にいたら聞こえないんじゃないっすか?」

「……考えてなかった。門の外に、ベルでも置いとくわ」

 

 ゲームで街の住民を集合させるために使うベルなら、建物の中にいても聞こえるだろう。それでダメなら、少しうるさいだろうがサイレンでも設置すればいい。

 タイチ達と待機所に入ると、そこはミサキとセイちゃんの手によってずいぶんと清潔になっていた。ホコリっぽさなど、もう微塵もない。

 

「おかえりーって、ずいぶん大人数ね。何事?」

「全員が特殊部隊に志願したんで、今から親睦会を兼ねた飲み会だってよ」

「ふうん。楽しそうだけど、どうしよ。これじゃ椅子が足りないわ」

「事務机なんかはとりあえずピップボーイに入れて、長テーブルと椅子を出すさ」

「わかった。ならついでに床をモップで拭くから、部屋に何もない状態にしちゃって。タイチくん、急いでやるから少しだけ待ってね」

「はいはい。どうかお気になさらずっす」

「お掃除なら手伝いますよ」

「アタイ達も手伝うか。男共は外に出てなっ!」

 

 カヨちゃんの一言に見るからに姉御肌っぽい女が賛同し、カゴや酒ビンをぶら下げたタイチ達が待機所の外に追い出される。

 駅の仮眠所の様子じゃこちらの女の子達は掃除の戦力にはならないだろうと思ったのだが、どうやらそれは見込み違いだったらしい。

 ミサキとセイちゃんを入れて8人にまで増えた女手によって、物がジャマで掃除が行き届いていなかった床や壁が瞬く間に磨き上げられた。

 

「この分なら、この基地での共同生活でも清潔に暮らしてくれそうだな。安心したよ」

「男共がバカみたいに汚さなきゃね」

「そしたら、アネゴがぶん殴ってやれ。俺が許す」

「あれ、なんであたしのあだ名を知ってんのさ? でもまあ、ぶん殴るのは任しときな」

 

 


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