Fallout:SAR   作:ふくふくろう

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申し訳ありませんが、1話分ズレて投稿してしまっている事にたった今気づきました。
特になくてもいい話だと言われればそれまでなのですが、飛ばしてしまった分を挿入しておきます。


帰還

 

 

 

 ポカポカとリアシートのクニオに頭を叩かれながらタバコを咥え、隣に並んだタイチに箱を渡す。

 その箱が自分にも回ってきてようやく、クニオは俺の頭を叩くのをやめた。

 

「ほんっと信じらんない! なんなの? アキラっちって人にお漏らしさせてそれを悦ぶド変態なのっ!?」

「正解っす」

「ざっけんな。俺は変態だが、そこまで高度な性癖は持ってねえ」

「へ、変態なのは否定しないんですか……」

「しないんじゃなくって、できないんっすよ。それでアキラ、次からの獲物はヤマトに譲ってくれるんっすよね?」

 

 失礼な。

 

「もちろんだ。なんならヤマトは、俺のバイクのケツに乗ればいい」

「ぼ、ぼくにはあんな戦闘できっこないですよ?」

「あれは、くーちゃんを試すついでにバイクの動きを見せただけだっての。ヤマトが後ろなら銃に合わせた距離でバイクを停めて、敵に距離を詰められるようならタイチ達の方向に撤退してから全員で迎撃って感じだな」

「あ。それならぜひお願いしたいです」

「OK。そんじゃこっち乗りな」

「はいっ」

 

 目的地は特にない。

 

 ただ浜松の街から離れるルートであればいいとバイクを走らせ、フェラル・グールやモングレルドッグを探してそれをヤマトに撃ち殺させる。

 戦前の広い農地なんかに向かえばラッドスコルピオンがいくらでも顔を出してくれるのだろうが、あれは毒腺が金にならない割にHPが高くて弾薬代がかさむのでそれはしない。

 

 そんな狩りを続けていると、あと1時間もすれば夕暮れという時間になったので、バイクを停めてロードマップを出した。

 

「まず現在位置は、っと……」

 

 農地を避けていたせいで、俺達は西でも東でもなく北に、遠州鉄道の路線に沿うようにして発展していったと思われる民家の多い地域を進んでいたらしい。

 

「これ、さっき見た看板っすよ。店までは見てないっすけど」

「DEO浜北店、か。何屋なんだろうな」

「とりあえず行ってみればいいじゃん」

「だな。そんじゃ少し戻る形になるが、この店の中にいるフェラル・グールを殲滅してミサキの迎えを待とうか」

「了解っす」

「はい」

「あいあい~♪」

 

 バイクを走らせる。

 まず見えてきたドラッグストアの奥、チェーン店と思われるコーヒーショップの向かいにその店はあった。

 

「っひゃー。マジかよっ!」

「ええっと。レコード、ホロテープ、ゲーム買います、って書いてありますね」

「中古のゲームショップだよ。まさかこんな店があるとはなあ」

「アキラさん的には当たりなんですか?」

「大当たりだ。バイクを収納して、さっさと中を制圧すっぞ。商品は、誰がなんと言おうと根こそぎ持って帰ってやる!」

「は、はあ」

 

 正直、こちらに来てからやるべき事や考えるべき事が多すぎて、ゲームなんてしている時間はまったくと言っていいほどない。

 フォールアウト4のアイテムである、ピップボーイでプレイできるレトロゲームにもほとんど手をつけていないくらいだ。

 

「それでも目の前にゲームがあるんなら、いただかねえって選択肢なんかあるもんかよ。おらタイチ、くーちゃん。とっとと行くぞ。俺に続け」

 

 タイチにテンションがおかしいだろうとツッコミを入れられるが、そんなのはどうでもいい。

 バイク2台をピップボーイに入れ、左右の手にデリバラーをぶら下げてDEOの玄関へと向かう。

 

「なんでこうアキラって、やる気の出しどころを間違えるんっすかねえ」

「うっせ。そういう事を言うんなら、タイチの取り分は一般ホロテープだけな」

「へ? 一般、っすか?」

「そう、一般向け。必ずあるはずのエロ系は俺とヤマトで山分けにすっから」

「ちょっ!?」

「えーっ。くーちゃんも、えっちいの欲しいんですけどー」

「なら3人で山分けだ。マジメなタイチ様はクラッシックのレコードでも聴いてりゃいい」

「何を言ってるんっすか、オイラ達は仲間でしょう!?」

 

 両開きのガラス製のドアには300年分の汚れが付着して、かすかにしか店内を覗けない。

 そのドアをそっと開けて踏み込んだ店内には、まずレコードの商品棚がズラリと並んでいた。

 

「日本の民家じゃターミナルすら見かけねえし、やっぱホロテープじゃなくレコードが主力商品か」

「ウルフギャングさんが喜ぶっすね」

「だな。トラックがあっても見つけたレコードをすべて持ち帰れやしねえから、泣く泣く置いてきたジャズのレコードも多いらしいし」

 

 パキッ

 

 そんな音がしたのでデリバラーを持ち上げながら振り返ると、なんとも申し訳なさそうな表情をしたヤマトがペコリと頭を下げた。

 核爆弾が降り注いだ運命の日に店員が逃げ出そうとして落としたのか、床にあったレコードを踏んでそれが割れたらしい。

 

「すみません……」

「いいさ。敵の姿は見えねえし、レコードはいくらでもありそうだ。1枚くれえ割ったからって謝んなくていい」

 

 結局、店内にはフェラル・グールの1匹すらいなかった。

 だが目的のブツはたんまりと、予想を良い方向に裏切る形でしっかりと存在している。

 

「うっはー。戦前の人達って、なーに考えてるんっすかねえ」

「ホントだよなあ。まさかエロホロテープに、声を吹き込んだ女のエロ本が付いてくるとは。さすがエロにもこだわる日本人だぜ」

「でもこれ絶対、声と写真の女の子は違うよね。声もただの演技だったりしてー」

「そこは考えたら負けだぞ、くーちゃん。とりあえずエロ系は棚やワゴンごとピップボーイに入れちまうから、レジカウンターの辺りで休憩でもしとけ」

「あいあい~」

 

 エロ系だけでなく日本人が作ったと思われるゲームを含めたホロテープのすべてと、レコードの中からジャズを中心に各ジャンルをダブリがないように選んでピップボーイに収納。

 それからレジカウンターの前で床に車座になって水を飲んだりタバコを吸ったりしている3人に合流して、まずは俺もタバコを咥えて火を点けた。

 

「まず軽くメシだな。ほれ、浜松のパンに小舟の里の野菜とボストンで狩った動物のステーキを挟んだメガトンバーガーだ。パンを浜松、肉を天竜で買い付けて商品化しても儲けが出そうならマイアラーク版も売り出す計画だから、食って感想を聞かせてくれ」

「まーた妙な事を考えてるっすねえ。今度は商人の真似事っすか」

「よく衣食住なんて言うがよ。小舟の里の衣は、マアサさんの太っ腹な判断でだいぶ改善できた。なら次はメシをどうにかして、最後に立体駐車場マンションの改装だろ」

「いっつも言ってるっすけど、アキラがそこまでする事はないんっすよ? 今だってちょっと変わった山師が里に居ついたって思われてるくらいで、住民には特に感謝もされてないんっすから。そこまでしてやる義理はないっす」

「いいんだよ。こんなのは、マアサさんへの恩返しだ」

「……感謝するにしてもやりすぎっす」

 

 返事はしない。

 ただ俺も日本人で、男だ。

 一宿一飯の恩義には意地でも報いたい。

 

「それより、明日は休日だろ。明後日の予定を決めときてえんだが」

「ほうはへえ」

「食いながら喋んな、くーちゃん」

「うーん。浜松の街の偵察、ハッキリ言ってほとんどできてないっすからねえ」

「そこなんだよ。たしかに山師や商人ギルドと多少の縁は結べた。だが、肝心の新制帝国軍がなあ」

「ウルフギャングさんは市役所前で商人ギルドの見張りに新制帝国軍はどこだって聞いて、そのまま西側の新制帝国軍の詰め所に向かったんっすよね。オイラ達もそうするっすか?」

「何の用事もねえのにか?」

「あー。たしかにそれをしていいんなら、普通に市場辺りから公園地区に入ればいいだけっすよねえ」

「だからよ、まずは四ツ池って集落に顔を出して、そこに来てる新制帝国軍を見物するしかねえかなって」

「でもエイデン少佐の部隊は、山師や住民と気軽に話したりはしませんよ?」

「……マジか」

 

 遠目から部隊の装備や隊列の組み方なんかを見るだけでもそれなりに参考にはなるが、可能なら立ち話でもして顔繫ぎくらいはしておきたいのが本音。

 それに新制帝国軍の中でも穏健派だという少佐がそのエイデンという人物であるのなら、是非とも知り合いにはなっておきたい。

 

 なんなら金や物資をその少佐に流し、せいぜい勢力を伸ばしてもらおうというのが偵察に出る前から描いていた青写真だ。

 

「新制帝国軍に関しては、本当に手詰まりっすね」

「なんとかしてえがなあ」

「えっと、それならまず商人ギルドにもっと深く関わるべきじゃないでしょうか」

「なんでだ?」

「エイデン少佐は、商人ギルドの後ろ盾を利用して佐官にまでなった人らしいんです。ですからそこには、きっと商人ギルドの思惑もあったはずで。それに、いきなり四ツ池で話しかけたりしても邪険にされるだけかと」

「……結局は山師として浜松の街で名を上げるしかねえって事か」

 

 そうなるとリュックサック4つ分の物資を毎日チマチマ売るしかない状況では、やはりこの夏の終わりくらいまで時間がかかるという事か。

 

「まあ、のんびりやるしかないっすよ。その覚悟もして小舟の里を出たんっすから」

「だなあ」

「ってゆーかー、ウルフギャングさんと奥さんにトラックごとパーティーに入ってもらえばそれで済む話じゃない?」

「それをすっと、ウルフギャングのトラックを奪おうとする新制帝国軍とすぐにでも戦闘になっちまうってのが俺達の予想なんだよ」

「……あー、ありそー。ってか絶対にそうなるね、うん」

「だろ? それをするくれえなら俺が闇に紛れて公園地区に潜入して、新制帝国軍を狩り尽くす方が安全だしよ」

「あんなパワーアーマーとかタレットとか見せられた後じゃ、その言葉をハッタリだって笑い飛ばせないもんねえ」

「それをさせないために、オイラ達は公園地区に足を向けてないんっすよ。ブチキレた誰かさんが暴走しないように」

 

 ずいぶんと信用のねえ事で。

 

「なんかねえかなあ。商人ギルドに持ち込んでも問題がなくって、そんだけで議員連中が俺達に会いたがるような物資が」

 

 パッと思いつく車両にタレット、クラフトを利用した建設なんかはもちろん見せるはずがない。

 そしてじゃあ他に何があるんだと問われたなら、特にありませんと答えるしかないだろう。

 

 そんな無理難題の答えはついぞ出ぬまま、美咲が迎えに来てくれる予定時間になって俺達は小舟の里にファストトラベルをしてそれぞれの自室へと帰還を果たした。

 

 

 


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