三脚の悪魔   作:アプール

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第6話

――ガノトトス。それは、『異空間タックル』で有名なモンスターである。

異空間タックルを喰らった者は、「避けたと思ったら弾き飛ばされていた。な、何を」状態に陥り、その威力のため多数の新人ハンターたちを薙ぎ倒してきた。

あまりにも理不尽な攻撃に、新人ハンターたちにはガノトトスにトラウマを植えつけられた者は多い。

 

 

 

 

 

 

(チクショウッ! 陸ばかりに気を取られてた!!)

 

俺は毒づきながらグングンと近づいてくる不恰好な姿をした魚、『ガノトトス』を睨めつける。

ガノトトスの襲来は俺にとっては完全な奇襲となっていた。

これまではハンターや大型モンスターの来襲を防ぐため、時々熱探知機で周囲の熱反応を探知していたが、海までは注意を払っていなかった。灯台下暗しとはこの事か。

しかし、これは少々厄介な事になった。ガノトトスは水竜だ。海の中はガノトトスにとって庭みたいな物だろう。それに対し、俺は水中戦なんて経験した事は無い。

救いといえば俺には強力な光線兵器が装備されているが、発射するには少々のチャージが必要だ。そんな事ガノトトスは許してくれないだろう。

逃げる、という手もあるが俺の身体では水の抵抗が強く、速度が出ない。ガノトトスにはやすやすと追いつかれてしまうだろう。

――ならば、とる行動は一つしかない。

 

シャキンッ、と金属音を鳴らしながら俺は何本かの触手を伸ばし槍の部分を取り出す。そして――

 

(テメェなんか、テメェなんか怖かねぇ!! 野郎ぶっ殺してやらぁ!!)

 

――ヴォオオオオオオォォォッッ!!!!

 

これまでの困惑を断ち切るため、俺は雄叫びを上げながらガノトトスに立ち向かう。

そして、俺の雄叫びに即発されたのか、ガノトトスもまた咆哮を返してきた。

 

――グアアアアアァァッ!!

 

腐っても竜であるガノトトスの咆哮は、水中に良く響き衝撃波となって俺に伝わってきた。

咆哮を終えたガノトトスは俺の方に一直線に突き進んでくる。俺はそれを追撃するため数本の触手をガノトトスの方に向ける。現在の状況を例えるならガノトトスが騎兵で俺が槍兵といったところか。

このまま行けばガノトトスは突き出された槍の部分に突き刺さってしまうが、流石にそこまで馬鹿じゃないのかガノトトスは突進の速度を緩め俺の周囲を旋回し始めた。

背後に回られて突進を喰らったら洒落にならんので俺もガノトトスの旋回に合わせて身体をグルグルと動かす。

暫しの間、ガノトトスがトライポッドの周りを旋回しトライポッドもそれに合わせてグルグル回るというシュールな図が現れたが、遂に均衡が破られた。

 

(ぬおっ!?)

 

不意に、浮遊感を感じた。

足元を見ると、一本の脚が小さい溝に入っていた。

それを確認した瞬間、俺は罠に嵌められたと悟った。

バランスを崩し、俺は慌てて身体を直そうとするが、ガノトトスはこの隙を逃す訳がなく。

 

――グアアアアァァッ!!

 

口を大きく開けて、水ブレスを放ってきた。

人間が当たったらその水圧により内臓などが潰れてしまうほどの凶悪の威力を持ったガノトトスの水ブレスが、バランスを崩しよろけている俺の頭に襲い掛かってきた。

ガノトトスにとっては絶好の機会。その照準は正確で俺に難なく当たろうとガノトトスは予想していた。

――しかし。

 

――グアッ!?

 

ガノトトスが心底驚いたというような間抜けな声を上げる。

ガノトトスが放った水ブレスは、数メートル離れた空間で突然現れた緑色の『何か』によって阻まれた。

恐らくガノトトスは何が起こったのか分らないだろうが、俺は無事に作動したことによって安堵の息をついた。

水ブレスが阻まれた緑色の『何か』は、映画版のトライポッドが持っている装備の中でもっとも優れた装備である、『シールド』だ。

トライポッドはその構造上耐久力が弱く、それを補うためにシールドが付いている。

シールドは攻撃を受けた時だけ作動する仕組みだからこれまでは検証することが出来ず、稼動するかどうか心配だったが、無事に作動してくれた。

――グアア?

 

俺が安堵している中、ガノトトスは『何が起こった?』といった様子で首を傾んでいる。

シールドを目の当たりにしたせいか、ガノトトスは俺を警戒して中々近づいてこようとしない。

その間に俺は体制を建て直し、中々近づかないガノトトスに向かって攻撃を加えようとするとガノトトスはサッと身を翻して一定の距離まで離れ、時々水ブレスを放っている。

うーむ、水ブレスは効かないとはいえ、これじゃあ泥沼化だ。無視して陸に上がるという手もあるがそれじゃあ何の解決にならんし、寝てる所を襲われたら最悪だ。

仕方がないと、俺は触手の一本をクイクイと動かしながらガノトトスを挑発した。

 

(来いよガノトトス! 水ブレス何か捨ててかかって来い!! 俺が怖いのか?)

 

――ヴォオオオオォォッ!!

 

どこぞの筋肉モリモリマッチョマンのような挑発をする。すると――

 

――グアアアアァァ!!!

 

ガノトトスは見事に乗ってくれたようで、俺に向かって突進をしてくる。何か鼻息が荒い気がするが些細な問題だ。

(どおりゃあ!!)

 

俺は突進してくるガノトトスに向かって触手を突き立てるが、それをガノトトスは顔を逸らしてかわす。

しかし、それは想定内だ。ガノトトスの予想位置を俺はコンピューターで分析し、そこに向かって事前に脚を振り上げておいたのだ。

 

(喰らいやがれ!)

 

勢い良く上げられた脚は、コンピューターで分析した予想位置にまんまと来たガノトトスの腹目掛けて振り切られた。

勢い良く蹴り上げられたガノトトスは、その衝撃で口から息を吐き、苦悶の表情を浮かべている。

俺はその隙を許さずすかさず触手をガノトトスの身体目掛けて突き立てる。

 

――グガアアアアァァッ!?

 

ガノトトスの身体の右に3本、左に5本と計8本の触手が突き刺さっており、その痛さでガノトトスは絶叫を上げる。

絶叫を近くで聞いた俺は余りの煩さに俺は顔を顰めるが、この隙を逃さずと俺は止めを刺そうと吸血を開始しようとした。

しかし、ガノトトスは触手を抜こうと身体を左右に揺らしてもがき回る。

これまでは食事をとるために触手を捕まえていた。その時の獲物も逃げようともがいていたが、大した力は無かった。

しかし、今回は違う。力が余りにも大きすぎる。

 

(ぬっ! くく、この野郎ジタバタとっ!!)

 

俺は触手が抜けないよう更に触手を伸ばしガノトトスを押さえつけようとするが、遅かった。

まず右の身体に突き刺さった触手が耐え切れず抜け、それを感じたガノトトスは身体を右に大きく振り、左に刺さっている触手を抜いた。

そして距離をとる為に身を翻す、と俺は予想していたが、予想に反してガノトトスは身体の下に潜り込んだ。

 

(し、しまった!!)

 

ガノトトスの意図を読み込んだ俺は、焦った声を上げる。

正面からでは勝てないと見て、無防備な脚を攻撃目標に移したのだ。

俺は自分の不覚を心中で罵倒するが、それで戦況が変わる訳が無い。

ガノトトスは俺の脚目掛けて突進をしてくる。……が

 

――グアアッ!?

 

 ガノトトスの突進はシールドによって阻まれていた。

その光景を見て、俺は一つ勘違いをしていた。

俺はトライポッドのシールドは生物ならば抜けられると今までは考えていた。事実これまではシールドを張りながら生活していたが生きていた獲物はシールドをすり抜けていた。

しかし、敵意が感じられる生物にはご覧の通り通れない。

考えられるとすれば、コンピューターが管理していてそこで通すか通さないかを判断している。と、思う。

そう結論づけた俺は、シールドにぶつかってよろけているガノトトスを再度捕獲するために頭を下げ、全体を確認したら今度は触手を身体に突き刺すのではなく絡めさせる。

 

――ガアアアアァァッ!!

 

触手を身体に絡められたガノトトスは、怒りの声を上げながら再度触手を振り払おうと身体を激しく振り回す。

しかし、不安定な刺突と違い絡めるのは安定しているため、触手は中々振りほどけない。

それを見た俺はガノトトスを捕まえながら陸地へと歩みだした。

ガノトトスは水中戦は強いが陸上戦はそこまで強くない。戦闘力は落ちるだろう。

暴れまわっているガノトトスを逃さぬよう、硬く絞めながら歩いていくが、抵抗が激しすぎる。

もしかしたら逃げられてしまう。そうなっては今度こそ警戒したガノトトスは俺に近づこうとしないだろう。

流石にそれは不味いので、俺は視界を遮るために、触手をガノトトスの2つの目に突き刺した。

グチャっという生理的に拒否するような音と共に、ガノトトスの目は潰れた。

――グガオォアアァアァアアッ!!?

 

一瞬遅れて、これまでで一番の絶叫が響き渡る。

余りの痛さのためか、ガノトトスは痛みを誤魔化すように頭や身体を我武者羅に振り回す。あまりにも動くので何度か頭がシールドに当たっているがそれでも動くのを止めない。

その衝撃で瞳に突き刺さっていた触手が瞳と共に引き抜けた。ドロリっと、赤い液体がガノトトスの目のあった部分から湧き出し、海に溶け込んでいく。

俺はそれを無視して陸地の方へと突き進み、遂に水飛沫を上げながら海面に躍り出た。

 

(ふっふっふ、ここまで来ればもうコッチのもんだ)

 

心中で薄ら笑いを上げながら俺はガノトトスを見る。

依然としてガノトトスは暴れまわっているが瞳が取れているため視界が無く、我武者羅に身体を動かしているだけだ。

目を失っているため正直もう脅威にはならないだろう。しかし、ガノトトスはもう自然界では生き残れない。目が無ければ獲物を捕らえることが出来ず、餓死してしまうからだ。

ならば、いっその事楽にしてしまおう。

そう考えた俺は、振り回されているガノトトスの頭を触手を絡ませ固定し、槍の触手を真上に持ってきて――

 

(地獄に落ちろ、ガノトトス)

 

一気に振り下ろした。

 

グシャッという音と共に触手はガノトトスの頭に突き刺さる。

 

―ーガッアアァァ……ァ……

 

頭を貫通した触手によって脳を破壊されたガノトトスは、弱弱しく鳴くと、そのままグッタリとして動かなくなった。

 

(や、やったか?)

 

グッタリとして動かないガノトトスを確かめるよう、身体をユサユサと揺すったり、触手でつんつんと突っついたりしたが、動かない。

それを見た瞬間、俺はこの戦いに勝利したと実感した。。

 

(く、くくく。うはははははっーーー!! 勝ったぞ! 俺は勝ったんだーーーっ!!)

 

――ヴォオオオオオオォォォッッ!!!

 

初めて大型モンスターと戦い、勝利したことによる喜びと、気が大きくなったことにより俺は勝利の雄叫びを上げる。

傍目から見るといかにも凶暴そうな生き物だと言う事を印象付けられてしまうような光景だが、ガノトトスを倒した事によって極度に興奮した俺はそんな事はお構いなしにはしゃぎ回る。

 

(はーっはっはっはっは! っと、しまった。気が大きくなりすぎて周囲の警戒を怠ってしまった)

 

しばらく、俺は勝利の感動に浸っていたが、興奮が下がり始めると自分が無警戒だったと気づき、熱探知機で周囲を探る。

すると、前方のジャングルの方角から近い位置に熱反応が7。種類は――人間だ。

 

 

 

 

 

――――あっ

 

 

 

 

 

 

 

 





 トライポッド(触手)×ガノトトス

 ほら、おまいらの大好物な触手ものだぞ、喜べ。
 
 ……どうした? 萌えろよ、おまいら。

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