(うむむむ、困ったな)
隠れ場を探すこと数時間、俺は未だに隠れ場を見つけられずジャングルを彷徨い続けてきた。
では隠れ場が見つからなかったと言えばそうでもない。現にそれなりの規模の洞窟を何箇所か見つけた。
ならばなぜそこに隠れないのかと言うと、答えは単純――俺があまりにもでかすぎるからだ。
元々トライポッドは人類を根絶やしにするために発明された兵器だ。科学技術的に圧倒的に劣る人類相手に隠れる必要性なんかない。だから『迷彩なんて知ったことか』とでも言うような全身銀色だし全高が数十メートルとかなりでかい。むしろこんな状況になるなど火星人でも想像がつかなかっただろう。
ぐぬぬ、しかしこれは本当に不味い事になったぞ。早急に隠れ場を見つけなければ巨体な俺は直に現地人に発見されてしまう。見た目モンスターな俺は問答無用で攻撃されるだろ。
(しかし、そうは言ってもこの巨体が入りきるような洞窟はないだろうなあ……)
早く隠れ場を見つけなければ現地人に見つかってしまう可能性が高まる。しかし、その隠れ場が無い。完全にジレンマだ。
焦りながら視界を左右に揺らすと、東の方角を見ると海岸が見えた。ああ、確かそんな所もあったな。等と現実逃避に近い感覚でそう思う。
……ん? 海岸? 海?
そう言えば、確か映画版のトライポッドは水中でも活動が出来たな。海の中に潜ってフェリーが通るのを待ち伏せしていた描写もあったし。
海中は視界が悪いから隠れ場としては最適だ。まあソナーなどで探知されればお手上げだがそれでも人目は避けられる筈。
いやぁ、昨日まで人間だったから海中と言う価値観がなかったぜ。急にトライポッドになってもこれまでの習慣はそう簡単には変えられないからな。
っと、こんな事考えている場合じゃなかった。早く海中に潜水しなければ。
俺は天の助けとばかりに、海の方に向かっていった。
海に向かいながら歩くこと僅か5分、俺は海岸に到着した。
いやあ、脚が長いから移動速度が速い速い。余裕の速度だ、馬力が違いますよ。
冗談はさて置き、俺は海の中に入るべく脚を海の方へと動かした。
歩むうちに俺の脚はずぶずぶと海の中に入っていくが、不思議なことに感覚があった。
何度も言うがトライポッドは兵器だ。兵器に神経などある訳が無い。しかし、現に俺は海の中にいる感触や冷たさなどが感じられている。
一体これはどういうことなのか? 考えられるとすれば、俺の身体は兵器という無機物な物ではなく、紛れも無く生き物のだと言うことだ。形はトライポッドだが中身が違う『何か』に。
まあ、今更という感じだな。本来は俺がトライポッドの姿になった時点で既におかしいんだ。て言うか何で俺はトライポッドになったんだ? そりゃあ宇宙戦争は結構好きだったが、だからといって何もこんな姿にしなくても良いだろう……
そう心の中で愚痴を溢しながら俺はどんどん海の中に突き進んだ。
そして高さ数十メートルの高さを誇る俺の身体は完全に海の中にへと消えた。
(……うむ、どうやら酸素は必要ないみたいだな)
海の中に入って5分が経過したが別に息苦しいと言った現象は起きなかった。と言うか俺には鼻が無い。鼻が無いと言いながら鼻くそを飛ばす亀の通着を着たチビハゲと違い本当に鼻が無いのだ。そして口も無い。これでは呼吸なんて出来るわけが無い。
まあ世の中には酸素を必要としない生き物もいるし、この身体が酸素を必要としない生物だと言う事だけだ。別に珍しいことではない。
しかし、口が無いとするならば食事はどうするんだろう? 酸素を必要としないのは別に問題ないが俺が生物ならばエネルギーを採取するために食事が必要となる。だが食事をとるために必要な口が無い。まさか植物のように体内でエネルギーを生成するという事はあるまい。
……まあ、こんな事を考えて現実逃避しているが、食事の事に関しては推測だが目星が付いてる。
火星人の食料は人間の血液だ。更には謎の赤い草の肥料にもなる。映画ではトライポッドの触手の先端を槍の様に尖らせ人間に刺し、そこから血液を採取していた。
俺が推測するにその触手の部分がこの身体の『口』だ。そして食料は人間の血液。まあもしかしたら鹿や猪などの動物でも代用が効くかも知れんが。と言うか代用になって欲しい。流石に人間の血を飲むのは『元』人間の俺には勘弁願いたい。
……まあできれば鹿や猪の血を飲むのも勘弁願いたいが。
俺は吸血鬼じゃ無いんだぞ。昨日まで日本で普通に学生生活を過ごしてきた一般市民だぞ。血なんか飲めるか。
(ふう、何か今日は色々ありすぎて疲れてきたぜ)
そうため息を着きながら俺はそう思う。口無いからため息つけないけど人間だったら確実にため息をついてる。
本当に今日は人生で一番波乱万丈な日だった。そう振り返ると余計に疲れが来る。少し寝ようかな。
そう思い俺は暗い海の中で光を放つ瞳を閉じた。
……てかこの目閉じれるんだな。いやまあ閉じれなきゃ俺が困るんだけど何か、ねえ?
いや、それよりもこの身体寝れるのか? 元々が兵器だから精神的な疲労なんか無いだろうし。
ああ、くそ。こんな事考えたってしょうがねえ。寝れることを祈りながら目を瞑るしかないか。
そう思い俺は目を瞑り続ける。そして、疲れによって意識されずに俺は夢の中へと消えていった。