三脚の悪魔   作:アプール

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第29話

「皆急げ! タラタラ走ってるとやられてしまうぞ!」

 

 カルパンドラ中に広がる黒煙、爆音、悲鳴。

 あちこちに倒壊した建物がその姿を晒し、破けた衣服が散乱する。

 そんな異様な光景の中で、人々が必死な表情で逃げ惑っている。

 その瞳には最早輝きに限りが見え、黒に染まってしまいそうな有様だ。精神的にも肉体的にも限界が近づき、諦めが徐々に支配していく。

 だが、そんな中で諦めない者も存在した。

 その者達は身をモンスターの素材で作った防具で守り、モンスターの素材で作った武器で武装をしている。

 そしてその集団は、人の波に逆らい今現在戦闘、いや虐殺が起こっている最前線へと向かっていく。

 彼等の名は”ハンター” このモンスターが蠢く世界において唯一モンスターに対抗する事ができる超人的な力を持つ人間である。

 

「畜生! セシールの危惧していた通りになっちまったっ!!」

 

 走りながらそう口々に喚くリオレウスSシリーズを着た男。

 それに対し、ディアブロスSシリーズを身に纏う男が言った。

 

「そんなこと言ってる場合かカロンっ! 今奴を倒すことだけに集中しろ!」

 

「分ってるよカイザー! だが愚痴だけは言わせてくれえっ!!」

 

 走りながら二人して喚くカロンとカイザー。

 彼等はギルドが派遣した第一次調査団で唯一トライポッドと遭遇した第3調査団の護衛依頼を受けていた事があり、トライポッドに対する危機感を誰よりも多く持っていた。

 その中で常に警戒していたのは、『水中論』である。

 トライポッドが泉水能力を持っているかもしれないことが調査によって分っていたため、もしかしたら水中に潜ってそのままカルパンドラの港に現れるのではないかという論だ。

 この論ではカルパンドラに1番効果的であり、もし現れたらどうしようかと日々頭を悩ませていた。

 そして現にその事が現実として起こってしまい、彼等を含むハンター全てがトライポッド迎撃に向けて最前線へと移動をしている。

 ハンターランクの低い者は、各砲台の操作や砲弾運び。ハンターランクの高い者は、トライポッドが上陸した際に備えて港へ移動をし、身を隠しながら機会を伺う。

 カロン達は、後者の方に選ばれた。ハンターランクが高い上に、ほんの一瞬とはいえトライポッドと遭遇しているため他のハンターよりかは動揺が少ないと、期待がされていた。

 

「それにトライポッドは1体だけのはずだっただろ! 何で6体もいるんだよっ!?」

 

「知るかよそんなの! 逆に俺が聞きたいわっ!!」

 

 だがそんなカロン達であったが、想定外の事態が発生した。トライポッドの数である。

 あれほどの超大型モンスターならばその繁殖能力は低いはずだ。現に他の超大型モンスターの繁殖能力も低く、お目にかかれる機会は滅多にない。例えお目にかかれたとしても、その数は例外なく全てが1体だけであった。

 だが、今カルパンドラを襲っているトライポッドの数は、6体。

 ――ありえない。カロン達はそう思った。

 上記の理由に加え、自分達が調査団にいた際に見たトライポッドの数は、僅か1体だけであった。

 その時から僅か、僅か1ヶ月で6体もの数に増える。どう考えても辻褄が合わない。第一1体だけでは繁殖すら出来ないはずだ。

 カロン達は常識的にそう考えた。だが、そう考えてもトライポッド6体が目の前にその存在を卑小な人間どもに見せ付けるよう湾外に堂々と仁王立ちをしている。その事実が混乱に拍車をかけた。

 

 ピカっと、トライポッドから展開している光線兵器の先端部分が光り輝き、一筋の光線がカルパンドラに煌く。

 と同時に、カロン達の近くにあった4階建ての宿らしき建物が轟音を響かせながら1・2階部分を除いて木っ端微塵に吹き飛ぶ。あちらこちらに破片が吹き飛び、その破片が避難している民間人やカロン達に降り注ぐ。

 

「クソッ! 何なんだよあのブレスっ!? 射程も威力も桁外れだぞっ!」

 

 降り注いだ破片を軽い身のこなしで避けながら、カロンが叫ぶ。

 もう1つ想定外は、あの光線だ。

 一体どこに収納してあったのか、頬の部分から短めの触手を取り出し、驚く事にその触手からあのブレスを放っている。

 ブレスというものは、モンスターの口から吐き出されるものだ。この点では全てのモンスターが一致している。

 だが、あの超大型モンスターはその常識を覆した。

 口が存在しなくてもブレスを放つ。しかも二つ同時に。

 そして何より厄介なのは、その射程と威力だ。

 普通ブレスの射程は短くて数十m、長くて数百mだ。

 だが、トライポッドのブレスの射程距離はその居場所から見るに優に数kmは超えている。

 射程距離が数km。これは存在の常識に比べて驚異的な数字だ。

 何せ人類が現在持っている兵器の中で1番射程距離が長い兵器は後装式の大砲であり、射程距離は約4km。ギルドはこの最新鋭の大砲を使って飛竜や古龍には当たらないとしても、超大型モンスター等の動きの鈍いモンスターにはその長距離能力でもって遥か遠方からのアウトレンジ戦法を検討していた。

 未だ実戦でその砲門を開いた事は無かったが、その貫通力と長距離能力にギルドは高い関心と信頼を置いていたのである。

 

 ――だが、その前提がたった今崩れ落ちた。

 

 後装式の大砲と同じ、または凌駕する射程距離を持つブレスを持つトライポッドの出現。それは人類が必死に古代文明の技術を解読し、失敗を何度も繰り返しようやく完成に漕ぎ付けた努力を無駄な努力であると嘲笑っているようであった。

 射程距離の面では劣ったが、威力の面ではどうか?

 答えは、”劣る”である。

 確かに、後装式の大砲は従来の大砲に比べその性能が大幅に向上している。装填速度が上がり発射速度が飛躍的に増加し、また砲弾の威力も上がっている。

 だが、いくら性能が上がったとしても、それは”砲”である。

 トライポッドの光線とは概念が違っているのだ。そしてその両方の概念どちらが優れているのかは、カルパンドラの惨状を見れば一目瞭然。

 僅か一瞬で大規模建築物が粉砕・倒壊させられ、人はその原型を例外なく留めなくなる。

 差は、明らかであった。

 

「砲台連中は一体何をしているんだっ!? 何故応射をしないんだっ!」

 

 トライポッドから放たれる光線を凄まじく恨みの篭った目で見つめながら、カイザーが叫ぶ。

 数十分前からけたたましい音を響かせながら盛んに砲撃音を上げていたが、現在ではその砲声一切聞こえてこない。まるっきり沈黙している。

 これ程まで市街地にトライポッドの光線が襲い掛かってきているのに、応射しないとはなにごとだ。いくら旧式の大砲とはいえ、持ちえる装備で最善の職務を果たすのが責務ではないのか――カイザーはそう考えていた。

 

「……あっ! 皆さん港が見えてきましたよ!」

 

 今まで黙って走っていたギザミUシリーズを着た小柄の少女、ベルが指を刺しながらそう叫んだ。

 その声に、全員が顔を前方へ向ける。

 広い土地に倉庫群が立ち並び、海の方面には商業都市という名に相応しいほどの大量の桟橋が設置されていた。

 だが、本来なら活気に満ちているこの場所は、人っ子一人見受けられないゴースト港と化していた。

 船から積み降ろされた、または積み上げられる予定の荷物があちこちに散乱し、船にいたってはトライポッドの光線攻撃によって全てが破壊され、炎上していた。

 しかし、カロン達はそんな光景には目もくれず港へと突っ切り、そして一旦倉庫の中へ入り身を隠した。

 

「ハァッ! ハァッ! ……よし、何とか見つからずにここまでこれたなっ……」

 

 激しく息を切らしながら、カロンがそう言う。

 何故ここまで消耗しているのかというと、市街地がトライポッドの猛攻撃に晒されていたためチンタラ歩いているとその攻撃に巻き込まれてしまうからだ。

 

「ハァ、ち、畜生……忌々しいブレスだぜ……」

 

 同じく息を切らしながら、カイザーが呟く。

 そんな事を口にしたところで何の効果も無いが、こんな状況では愚痴も叩きたくなったようだ。

 

「お前がっ……ハァッ……弱音を吐くとは珍しいな……」

 

「ああっ……俺自身驚いてるよ……」

 

 上級ハンターであるカイザーは自分に自信を持っていた。その自分がこんな弱音を吐くなど、自分でも驚いていた。

 だが、それは仕方の無い事であった。いくら上級ハンターとして数々の死線を潜り抜けてきたとはいえ、これほどの破壊力を持つ光線など見たことが無い。

 見た目はグラビモスのブレスに似てなくも無いが、そのブレスでさえあれほどの射程距離や威力は持っていなかった。

 

 

「……どうやら、砲台は既にやられてしまっているようだな」

 

 倉庫の出入り口から周囲を見張っていたセシールの言葉に、話を止め全員が振り返る。

 

「なに、それは本当か?」

 

 先程砲台隊を罵っていたカイザーが真っ先に反応し、自分も倉庫から顔を出し湾岸砲台の方角に顔を向ける。

 そして、顔を強張らせた。

 

「……どうやら、失礼な事を言ってしまったようだな……」

 

 カイザーが小さい声で、呟く。

 明らかに様子が変わったカイザーの姿に何事かとカロンとベルも倉庫から湾岸砲台のある方角に顔を向け、同じように顔を強張らせる。

 

「うわぁ……」

 

「ひどい……」

 

 同じ瞬間に、2人の口から声が漏れる。

 湾岸砲の全てが黒煙を噴きながら滅茶苦茶に破壊され、その原型を留めていなかった。

 そしてその周囲には、黒焦げになった死体や手足がグニャグニャに折れ曲がった死体、血濡れになった死体が散乱している。

 酷いところでは、火薬に引火したのか石の床が黒く煤けてその周囲には何一つ残っていない。爆風で全て吹き飛ばされてしまったのであろう。

 

「湾岸砲が沈黙したという事は……攻撃方法が無いじゃないかっ!」

 

 死体しかいない湾岸砲台の悲惨な姿を見ながら、カロンが叫ぶ。

 現在トライポッドは沖合いから光線攻撃をしており、とてもこちらから攻撃する事は出来ない。

 ガンナーの持っているヘビィボウガンでも射程距離は数百mしかなく、その弾丸は到底トライポッドに届かない。剣士にいたっては論外だ。

 その射程距離を埋める為にバリスタや大砲が各地の都市や砦に設置されているのだが、バリスタは未だ射程距離に入っておらず、大砲は破壊されてしまった。

 つまり、トライポッドが近づいてくるまでハンターには打つ手が無いのだ。

 そしてトライポッドは、それが分っているかのようにカルパンドラに近づく気配を見せず、光線攻撃を持ってカルパンドラを攻撃し続けている。

 

「くそぉ……っ!」

 

 顔を歪めながら、カロンは苦々しい口調で呻いた。

 自分たちが生まれ、そして共に歩んできた故郷であるカルパンドラ。

 それが今、侵略者の手によって破壊し尽くされている。

 だというのに、自分達は抵抗すら出来ない。抵抗する手段が無いのだ。

 

 カロンはギリギリと歯を噛み、血が滲むほどの力で手を握り締める。

 悔しかった。上級ハンターとしてもてはやされていた自分が、肝心なときに何も出来ない事に。

 ただ、故郷が破壊され、知り合いが虐殺されていくのを眺め悲しむ事しか出来ない自分に。

 

 そしてその思いは、他の3人にも当然のことながら抱いていた。

 カイザーは顔を苦々しく歪め瞳に殺気を含ませながらトライポッドを睨んでいる。ベルは生まれ故郷が破壊される姿を見るのが辛いのか目を背け、セシールはそんなベルの傍に付き慰めている。ただし、ベルに見えない角度で手を強く握り締めているが。

 そしてそんな者たちを他所に、トライポッドは攻撃を続ける。

 空に一筋の光線が煌くと同時に、建物が粉砕される重々しい音が響き渡る。

 そしてそれに続く、絶叫に近い悲鳴。

 最早このカルパンドラでは日常とまでに繰り返された光景だ。だが、決して慣れる事が無い日常である。

 

「もう良いだろ……っ掛かって来いよっ!」

 

 そんな光景を見続け何を思ったのか、カロンが得物である双剣を抜き、そしてトライポッドに向けて怒鳴りつける。

 そして一歩一歩足を踏みしめ、トライポッドに近づいていく。

 それを見たカイザーが慌ててカロンをウ広から羽交い締めにして倉庫内の奥に引き寄せた。

 

「離せカイザーっ! 俺はアイツと戦うんだっ!!」

 

「馬鹿を言うな! あのブレスで一方的に撃たれるのがオチだぞ!?」

 

「それでも避難の時間が一秒でも稼げるのなら構わないっ!!」

 

 激しく取り乱しながらカロンが叫ぶ。

 その豹変した姿に、3人が驚く。

 カロンは何時も馬鹿だと思っていたが、こと狩に関しては上位ハンターらしく冷静に判断を下す。

 だが今の姿はどうだ。冷静さを失っている。

 あまりの惨劇に脳の許容量が限界を超えてしまったか――

 カイザーはそう考え、分らんでもないと相槌を打った。 

 愛する故郷がモンスターに蹂躙される光景をただ黙って見ていることしか出来ないなど、ハンターにとって耐え難い屈辱だ。

 実際に、カイザーも内心憤りが体内に滾ってしょうがないと感じている。

 だが―――

 

「その時間のためにお前は命を捨てるのかっ!? 」

 

 カイザーの目からして、カロンはあまりにも死に急ぎ過ぎていると感じられた。

 カロンがしようとしている事はどう考えても無謀だ。こっちは何の攻撃手段を持っていないため、リンチにされるのがオチだ。

 だが、そんな事知った事ではないとカロンが叫ぶ。

 

「ああそうだ! 俺の命で街の皆が助かるのならいくらでもくれてやる!!」

 

「―――ッ! 馬鹿野郎っ!!」

 

 ドカッと、何かを殴る音が倉庫内に響き渡った。

 見ると、カイザーが腕を振り下ろした状態でカロンを見下ろし、カロンは床に転がりながら真っ赤になった右頬を押さえていた。

 突然の出来事に、セシールとベルが呆気に取られる。

 

「カイザー! 何をっ!」

 

「黙っていろ、セシール……」

 

 慌ててセシールが言葉を発するが、今まで聴いた事の無いカイザーの低い声を聞いて口をつむんだ。いや、つむぐ事しかできなかった。

 カイザーは外見から見ればぶっきらぼうな印象を持つが、内面では冷静で根の優しい男であった。長年パーティとして一緒に戦ってきたセシールはそれを良く知っている。

 そのカイザーがここまで怒る姿など見たことが無かった。その威圧感に、セシールはただ黙っている事しかできない。

 

「っ! いきなりなにをするんだ!?」

 

 右頬に走る鋭い痛みに殴られたと実感したカロンは、倒れたままカイザーに顔を向け激しい剣幕で怒鳴った。

 その怒鳴りに、カイザーは醒めた目つきでにらみ返しながら返す。

 

「なにをするだ? その言葉、今のお前にそっくりそのまま返すぜ」

 

「なんだとっ!?」

 

 挑発な口調で言うカイザーに、カロンが激昂しカイザーの胸倉を掴みかかろうとする。

 だが、体格差や冷静さの違いによって再びカロンは冷たい床に叩きつけられた。

 

「……今死んだところで、犬死にしかならんぞ……」

 

 倒れたカロンに向かって、小さく、ボソッとまるで呟いているかのような声でカイザーが言う。

 その言葉に倒れたカロンは目を見開き、そしてギロリと怒りの篭った眼差しでカイザーを睨みつける。まるで親の敵を見つめるように。

 だが、それも仕方の無い事だ。自分が命を賭けてまで己の使命を全うしようとした時に、「お前の行為は無駄だ」と全否定されてしまったのだ。

 人間、自分の行為を否定されれば誰もがその人物に対して怒りが湧いてくるであろう。

 

「悔しいか、当然だ。俺だって悔しいさ」

 

 そして胸中に怒りが渦巻いているカロンに向かって、カイザーが話しかける。

 その声に既に怒りは無く、ただ懸命に説得をしようという気迫が現れていた。

 そんなカイザーの声に、カロンの怒りも若干和らぐ。

 

「だがなカロン……その悔しさに任せて無鉄砲に飛び出した所で、一体何秒の時間が稼げる? 冷静さを失った者ほど弱い者はいないぞ。まさに今のお前のようにな」

 

 カロンはただ俯いて何も言わない。構わずカイザーは続ける。

 

「それよりも、このまま隠れてアイツ等が近くに寄ってきた所を奇襲したほうがずっと効果的だ。

 事はカルパンドラだけじゃない、この旧大陸全体に広がっているんだ。今この場だけしのげたとしても、次はしのげるのか? 

 

 確かに、俺達の故郷がこんな惨状にされているのは腸が煮えくり返るほど腹が立つ。だが、俺たちはハンターだ。いかにモンスターからの被害を最小限に抑えるか、それが俺達の仕事だ。

 ―――今は、トライポッドを倒す事だけに集中しろ」

 

 カイザーはそう言い切ると、カロンから背を向け、そして外の光景を見る。

 相変わらずトライポッドが光線を乱射し、倒壊音やら炸裂音やらがカルパンドラ中に響いている。

 だが、この倉庫内は静かだ。

 誰も言葉を発しようとしない。

 カイザーは背を向け、カロンは俯き、セシールとベルは何を言っていいのか分らずおろおろとしている。

 

「……ああっ……」

 

 奇妙な沈黙が数分続いた後、カロンが呟きとも呻きとも取れるような声で言葉を発した。

 

「そうか、そうだよな……俺は一般人じゃない。『ハンター』だ」

 

 ゆっくりとカロンが立ち上がり、そして顔を上げる。

 そしてそれと平行して、カイザーもカロンに向き直る。

 

「すまないカイザー。俺が間違っていた」

 

 カイザーはカロンの瞳を見て、感嘆の声を上げた。

 その瞳に揺るぎは無く、何かを固く決意した目であった。

 そしてなにより―――怒りに燃えている。

 

「そうだ、その目だカロン。怒りを覚え、だが決して冷静さを忘れるな」

 

「へっ、まるで新米ハンターのように情けない姿を曝け出しちまったな」

 

「精神面では新米どころか子供だろう」

 

 互いに軽口を叩きながら、互いに笑顔を浮かべながら、互いに握手をする。

 2人の絆がまた一歩、前進したかのように。

 

「セシールとベルもすまなかったな、俺は冷静さを失っていたみたいだ」

 

 そして握手が終わった後、すっかり蚊帳の外であった2人に向き直り、そして己の行いを詫びた。

 そしてそんな潔いカロンの姿に、元々あたふたとしか出来なかった2人は呆気なく許した。

 

「気にする事ではありませんよ。誰だって生まれ故郷がモンスターに攻撃されれば憤怒しますから」

 

「そうだ。それに私だって……この手でトライポッドを切り刻みたいのだ」

 

 ベルがカロンを気遣うように、そしてセシールが自分も同じだと伝える。

 そしてそんな2人に、カロンは「すまない」ともう一言謝り、そしてカイザーと向き直る。

 

「カイザー。本当にすまなかったな」

 

「礼はいらん。結果で示すんだな」

 

 ニヤリ、とカイザーが口元を上げながら言う。

 それに釣られ、カロンも口元を上げる。

 そう、冷静さがあったとしても、気持ちは同じであった。

 

「ああ、必ずトライポッドの腰抜け共をこの手で―――」

 

 片付けてやる。カロンはそう言うつもりであったが、それは突如発生した爆音で遮られた。

 

 ――ヴォオオオオオォォッ!!

 

 沖合いに発生した不気味な重低音の咆哮。その咆哮に、否応にも意識をそっちに向けてしまったのだ。

 咆哮の残り音がカルパンドラ中に響き渡る。

 そしてその残り音が無くなった時、トライポッド達にある変化が生まれた。

 

「―――トライポッドがこっちに向かってくる」

 

 そう、先程まで沖合いでこちらの射程外から光線を放っていたトライポッドが、遂に行動を起こしたのだ。

 十分戦力を削ったのかと思ったのか、真相は定かではないが。分かっている事は、このまま進んでくれば上陸してくるという事だけ。

 だが、その”上陸”という言葉だけでカロン達を含むハンター達にとって十分な情報であった。

 

「噂をすればとはこの事か、馬鹿め」

 

 ギラギラと瞳を輝かせながら、カロンが言う。

 一刻も早くトライポッドを倒したいと願っていたカロンにとって、これ程良い事態はなかった。

 ――ようやく、故郷の敵を取れる。

 カロンはそう考えていた。

 

「だが、こっちに向かってくるのは3体だけのようだな。」

 

 カロンが見ている横で、カイザーが言う。

 確かに、カルパンドラに向かってきているのは3体だけだ。残りは沖合いに残っている。

 

「ふむ。威力偵察か、それとも支援射撃をするために残った、といったところか」

 

 セシールが目の前の光景を見てそう呟く。

 もしそうだとしたら、知能は予想以上に高いと推測される。

 

「まったく、つくづく化け物だな、アイツは」

 

 己の得物である太刀を抜きながら、セシールがまたもや呟く。

 これほどの組織的な能力で攻撃をしかけてくるモンスターなど、これまでのハンター生活の中で見た事も聞いた事もない。

 だが、不思議と恐怖は無かった。

 ただ、高揚感と怒りが混ざったよくわからない感覚が湧き上がってくる。

 

「アイツが化け物だろうが古代のモンスターだろうが関係ねえ、――この街を襲ったことを心底後悔させてやろうじゃねえか」

 

 カロンもまた、得物である双剣を抜きながらそう言い切る。

 そしてそんなカロンに、3人が頷き返しす。

 気持ちは、皆同じであった。

 

「さあ―――反撃開始だ!」

 

 徐々に近づくトライポッドの姿を見ながら、全てのハンターの気持ちを代弁した言葉をカロンが叫んだ。

 

 

 




 進撃の巨人を見ていたら今作の主人公が進撃の巨人の世界に現れ人類の味方をするという設定が浮かび上がってしまった……
 題名は『進撃のトライポッド』……書きもしない二次小説をなに考えているんだろう俺……

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