三脚の悪魔   作:アプール

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第17話

 俺の触手を振り払い、レンズの触手目掛けて勢い良く突進してきたオオナズチ。

 その速度は、その巨体からは想像もできないくらい機敏で、素早い動きだった。

 しかし、元々そういった事態を想定していた俺に抜かりは無い。

 すぐさま触手を引き戻し、そしてその場から離れる。

 突進をオオナズチは勢いを抑えることが出来ずそのまま数百メートル突き進み、木にぶつかってようやく停止した。

オオナズチはキョロキョロと顔を動かし俺の姿を確認しようとする。

 しかし、周囲は木々に覆われているため視界が劣悪な状況だ。音を頼りに探すしかない。

 対して俺は熱探知機で常にオオナズチの位置を把握できる。情報面でも俺が非常に有利だ。

 

 オオナズチがそうしてもたついている間に、俺はオオナズチとの距離を広げる。

 そして、十分に距離を広げたことを確認するとその場で停止し、頬の部分に力を込める。

 すると、両方の頬から一本ずつ、短い触手が新たに現れた。

 触手といっても、レンズが付いている訳でもないし、槍が付いている訳でもない。

 その触手の先端部分には、指を銃に見立てような物が付いていた。その先っぽは尖っているとはいえ、長さが短すぎる。

 とても脅威があるとは思えない触手だ。この世界の人間ならば誰もがそう思うだろう。

 

――しかし、それは間違いだ

 

 この触手こそトライポッドの主兵装にて、破壊の象徴。

 触れるもの全てを粉砕し、消滅させる。

 圧倒的な科学力によって生み出された最強にて最恐の兵器。

 『光線兵器』だ。

 

 その光線兵器を取り出した俺は、オオナズチに向けて掃射すべくエネルギーを充電させる。

 光線兵器はエネルギーを充電させないと撃つ事が出来ず、時によってはそれが致命的なミスになりうることがある。

 しかし、その反面威力は絶大だ。

 そして何より、50メートル上空の物体を攻撃する手段はオオナズチには、無い。

 仮にあったとしても、攻撃は全てシールドが弾いてくれる。

 初めから、オオナズチに勝機など無いのだ。

 

 樹海に、甲高い音が響き渡る。

 初めは遅く、しかし徐々に早くなり聴く者を焦らせるような音。

 そして、触手の先端部分が青白く輝き始める。

 オオナズチは、連続して響き渡る充電音によって位置を特定したのか、俺の方に向かって突進をしてきた。

 しかし、それは想定済みであった。

 今更突進したところで、間に合うはずも無い。

 俺は冷静に充電が終わるのを待つ。

 そして、一際大きい音が鳴り響き、先端部分がこれまで以上に輝いたその時――

 

――一条の閃光が、樹海に煌いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あわ……あわわわわっ……」

 

 若いアイルーが腰を抜かしたように尻を地面に付け、言葉にならない声を上げる。

 それを「だらしない」とか「情けない」等と戒めるような言葉を発する者も、いない。

 誰もが、目の前で起きた惨劇に目を見張らせ、硬直している。

 

「一体……何が……起こったんだニャ……?」

 

 リーダーのアイルーがようやく搾り出したと言わんばかりの小さな声で呟く。

 応答する者は、誰もいない。

 

 

 

 

 事が起きたのは、ほんの数十分前の事だ。

 食料の備蓄が少なくなってきたので、アイルーメラルー合わせて10匹で食料を集めに集落から出てきた。

 食料の採取はなんの滞りもなく進められた。木に実っている木の実や果物を採り、密かに栽培していた野菜を抜き取り、持ってきた釣竿で魚を釣るなど、普段となんら変わりは無かった。

 しかし、それは突如として響いた二つの音によって変化する事を余儀なくされた。

 

「なんニャ? この音?」

 

 アイルー達は不思議な音を聴き、不思議に思った。

 しかし、次第に大きくなる音や振動によって身の危険を感じたアイルー達は、事前に決めておいた洞穴の緊急避難所へと集まり、一箇所に集まった。

 その間にも、振動はますます大きくなり、音もけたたましく鳴り響く。

 振動からしてなにやら大きなモンスターが現れたのかは分かるが、何よりもアイルー達を不安がらせたのは、”音”だ。

 それも足音でも咆哮でもない。これまで聴いた事が無い全く見当の付かない音だった。

 これが現代人であれば、その音で機械の作動音だということがおぼろげながらも聞き取れたかもしれないが、この世界では最新鋭の機械でもボウガンや撃龍槍といった原始的な物しかない。

 故に、アイルー達がこの音の正体を見極めることは不可能だった。

 

「何なんニャこの音はいったい!?」

 

 本能的に危険を感じたのが、若いアイルーが騒ぎ始める。

 それを仲間のアイルーが若いアイルーの口を強引に塞ぎ、黙らせる。

 

――騒げば、見つかる

 

 アイルー達は根拠も無くそう思い、ただジッと身を丸めて音と振動が過ぎ去るのを待つ。

 しかし、お前達は既に見つけたと言わんばかりに音と振動はなおも強くなり、それと同時に焦燥感がますます強くなる。

 

 

 と、突然、足音が止んだ。

 それと同時に、あの不気味な音も止む。

 見つかったか? とアイルー達は思ったが、音からして少々遠すぎる。

 アイルー達は伏せていた顔を上げ、お互いに顔を見つめあう。

 誰もが、困惑していた。

 どうして止まったのか? 一体何があったのか? 

 何もかもが、予測不可能であった。

 

「……俺が見てくるニャ」

 

 リーダーのアイルーがそう言うと、ギョッとした目つきで他のアイルーとメラルーがリーダーのアイルーを見つめる。

 そして、一斉に止めに掛かった。

 

「だ、だめニャリーダー!? ここで隠れていたほうが安全だニャ!?」

 

「そうだニャ!!」

 

 ニャ~ニャ~と煩く喚き立てるアイルーとメラルー達を、リーダーのアイルーは右手を突き出し、制した。

 

「なぁに、心配いらないニャ。あの振動からしてモンスターは大型クラス。それに距離も離れているニャ。こんな深い森林地帯で俺を見つける事など、不可能だニャ」

 

 そう言うとリーダーのアイルーは颯爽と洞穴の出口まで歩き、外に出て行った。

 背後から他のアイルーやメラルーの声援や心配する声を聴きながら。

 

「さて、一体なにが起きたんだニャ?」

 

 リーダーのアイルーはまず洞穴から顔を出し、周囲を見渡す。

 不審物無し。クリア。

 リーダーのアイルーは周囲にモンスターが居ない事を確認すると、少し安堵の息を付きながら身を外に晒し出した。

 

「ふむ、見たところこれといって変わった所は無いニャ」

 

 木どころか草すらも変わっていない周囲を見て、呟く。

 やはり、モンスターはかなり遠い場所にいるのか?

 そう思いながらリーダーのアイルーは再度周囲を見渡す。

 右を見て、左を見て、後ろを見て、前を見て――――上を見て、固まった。

 

「な…な…なっ!?」

 

 言葉にならない絶叫を上げ、リーダーのアイルーは硬直した。

 口をだらしなくあんぐりと開け、目は目玉が飛び出るかと思われるほど見開らかれている。

 

「リーダー! どうしたニャ!?」

 

 絶叫を聞きつけ、若いアイルーが飛び出してきた。

 それに続き、手に得物を持ったアイルーとメラルーが続々と出てくる。

 しかし、リーダーのアイルーはそれに構う余裕は一切無かった。

 自分の目に映っている光景に、頭は破裂寸前だったからだ。

 

「リーダー? どうしたニャ? リーダー……?」

 

 アイルーとメラルー達は周囲を警戒しながらリーダーのアイルーに近づいていったが、ただ空を眺めて呆然としている自分のリーダーを不審に思った。

 そして、リーダーの目線を追い、今度は全員が絶句した。

 

「……っ!!……っ!!?」

 

 誰かが声にならない悲鳴を上げる。

 見れば、若いアイルーが顔面蒼白になっており、尻餅を付きながら口をパクパクと動かしている。

 あまりの衝撃と恐怖に、身体全身が麻痺しているようだった。

 そんな彼の姿を見て手助けを名乗り出る者も、居ない。

 誰もがリーダーのようにまるで金縛りにあったの如く身体を動かせられなくなっているからだ。

 

 そんな彼らの目線の先には、一匹の大型……いや、超大型モンスターの姿が映し出されていた。

 全高は目視で測定して50メートル前後と思われるほどで、誰もがその巨体に度肝を抜いた。

 周囲には巨木が多数生えているが、その超大型モンスターはその巨木の2倍近くの長さがある。その巨大さは巨木が小木に錯覚して認知してしまいそうなほどだ。

 更には、これまで見てきた全てのモンスターとは全く似つかない外見――しかし本能的に不気味さや恐怖を沸き起こすような外見をしている。

 脚の付け根部分に生えている多数の触手もその助長をしている。

 

 そんな超大型モンスターの姿に驚いているアイルーやメラルー達を尻目に、当の本人はそのことを露知らずといった様子で触手を何やら下の方で蠢かせ、何かを探している様子であった。

 と、突如蠢いている触手が動きを止めた。そして続いて――

 

――ヴォオオオオォォッ!!

 

 咆哮が、響き渡った。

 その咆哮は、これまで出会ってきた数多くのモンスターともに似つかない性質の咆哮であった。

 通常のモンスターの咆哮では、本能的に恐怖を悟らせるような性質を持っているが、あの超大型モンスターの咆哮は違う。

 まず、第一に不気味さが身体全身を廻りまわるのだ。

 まるで、この世のものとは思えないような、関わってはならないといった感覚が血液を通じて回り、廻る。 そして次に、じわじわと恐怖感が押し寄せてくる。

 それも本能的な恐怖ではなく、まるで幽霊を見たかのような恐怖感だ。

 これまでとは次元が違う方向に、アイルーとメラルー達は身を震わせながら身を屈ませ、耳を押さえる。

 まるで、あの音は呪われた音だと錯覚するように、耳を押さえる。

 そしてその姿は、咆哮が終わった直後に起きた足音と不気味な音が再開したことによって終わりを告げた。

 

「や……奴が動き出したニャッ!?」

 

 震える声を押し堪え、出来るだけ大きな声で班員に伝えるようにリーダーのアイルーは叫んだ。

 その声を待っていたかのように、全身が膠着していたアイルーとメラルー達は弾けるようにして身を起こす。

 見れば、奴はこっちに向かって走り出して来るではないか。

 その巨体からは想像も出来ない速度で駆けてゆく超大型モンスターの姿に、全員が恐怖した。

 

――自分達では、どうやっても勝てない。

 

 彼らはそう本能的に認識し、しかもその相手がこっちに向かって駆けてゆく。

 その恐怖は、並みの物ではない。

 

「い、急いで洞穴に戻るんだニャッ!?」 

 

 声を上ずらせながらリーダーのアイルーが絶叫に近い声で叫ぶ。

 自分達の身体は小さい。身を隠せばまだ助かるかもしれない。

 そんな淡い希望を抱いての、咄嗟の行動だった。

 

 班員はその言葉に聞き、弾け飛ぶように空洞へと一目散に駆け出した。

 さほど遠くまで行ってない事が幸いし、彼らは直ぐに洞穴へ転げるように入っていった。

 

「はぁ…はぁ…ぜ、全員いるかニャ?」

 

 肺の中に急いで酸素を取り入れながら、リーダーのアイルーはそう言い、猫数を数える。

 1、2,3、……8。

――一匹、足りない。

 

「――まさかっ!?」

 

 慌てて出口に駆け寄り、外の様子を伺う。

――そしてそこには、腰が抜けて這うように超大型モンスターから逃げようとしている若いアイルーの姿があった。

 

「あの馬鹿っ!」

 

 リーダーのアイルは一目散に腰の抜けている若いアイルーの所に駆け寄った。

 距離はそこまで遠くは無かったので、すぐに傍まで駆け寄ることが出来た。

 

「あっ、ああ、り、リーダー、こ、腰が抜けて…たてなっ……っ!?」

 

 震える声でそう言う若いアイルーは、最後の言葉を発する事が出来ず絶句する。

 何事かとその方角を見ると――超大型モンスターがすぐ傍まで近づいていた。

 

「――うわああぁぁああっ!? 死にたくない! 死にたくないニャアアァァアッ!!?」

 

 極限状態になりパニックに陥ったアイルーは我武者羅に這いながら超大型モンスターから逃げようとする。

 しかし、その方角は空洞とは真反対の方角だ。

 ただ逃げたいという一心での行動で、そこには理性などなかった。

 

「おい!! そっちは違うニャッ!?」

 

 リーダーのアイルーが叫ぶが、恐怖状態になっている若いアイルーの耳には届かず、這うのを止める気配が無い。いや、さらに這う速度を上げている。

 埒が明かないと、リーダーのアイルーは腰の抜けた若いアイルーを肩に担ごうと持ち上げようとするが、パニックに陥っている若いアイルーはもがきにもがき、うまく担げない。

 

「この馬鹿ッ! 少し落ち着け!!」

 

 リーダーのアイルーは、喝ッ!! と表現できるような大声で若いアイルーを怒鳴った。

 その大声によって、ビクッと身を震わせた若いアイルーはもがくのを和らげる

 しかし、時すでに遅しであった。

 

 超大型モンスターの脚が、二匹のアイルーの付近に踏み下ろされる。

 数百トンもの重量を支えるその脚はそれ相応に大きく、踏み下ろされる衝撃によってかなりの風圧が発生する。

 そして、アイルーの身体は人間よりも遥かに小さい。

 

「うわああぁぁぁああああ!?」

 

 悲鳴を上げながら、二匹のアイルーはその風圧によって吹き飛ばされた。

 そして地面に叩きつけられた二匹は、エネルギーがまだ消滅しておらずゴロゴロと地面を転がりまわる。

 そして、傍に生えていた木の根元に衝突し、完全に停止した。

 

(あぅぅ……クソッ、右腕が折れたニャッ……っ!)

 

 リーダーのアイルーは右腕に広がる激痛にそう判断し、顔を歪ませる。

 しかし、そんな事をしている時間は無い。リーダーのアイルーは素早く身体を起こし、超大型モンスターの姿を捉える。

 超大型モンスターは道端の石ころのように自分達の存在すら気づいていないのか、そのまま通り過ぎていった。

 

「た、助かった……ニャ?」

 

 身に起こった情報を整理し、結論を出すと同時に、無意識に安堵の息をついた。

 しかし、状況が良いとは言えない。

 依然として超大型モンスターは近くにおり、何かの拍子で見つかるかもしれない。

 そして、自分は右腕を骨折している。

 利き腕を失っているこの状況では、ランポスですら勝てるか怪しい。

 一刻も早く、あの空洞に戻らなくては。

 

 そう思い、リーダーのアイルーはヨロヨロトした足取りで若いアイルーに近づく。

 その若いアイルーは、背中を強く打ち痛みに悶えている。

 腰の抜けも治っておらず、未だ立つことが出来ない。

 右腕を骨折した状況では、持ち上げることは出来ないが、まだ左腕がある。

 引きずって行けば、まだ何とかなる。

 そう思い、それを実行しようとした時――新たな足音が加わった。

 

「こ、こんどはなんニャ……?」

 

 顔を引き攣らせながらリーダーのアイルーは足音のする方角に向けて顔を向ける。

 状況は、最悪だ。

 二人とも負傷し、まともに武器を握ることも出来ないのだ。

 更には全身に痛みが走っており、立つのもやっとの状況だ。

 今ならモスでも負ける気がする。リーダーのアイルーは多少現実逃避気味にそう考えた。

 

 しかし現実逃避をしても、現実は終わらない。

 次第にバキバキと木が折れるような音とともに、足音も大きくなってゆく。

 そして、その光景を生み出した元凶が姿を現した時、リーダーのアイルーは泣き笑いの表情を作った。

 

「はっ……はは……こんニャことが……」

 

 目の前に現れたのは、生ける伝説、古龍である『オオナズチ』であった。

 普段は独自の特殊な身体によって姿を周囲の風景に同化させ、滅多に姿を現さない。

 そのオオナズチが、姿を隠そうともせず荒い息を吐きながら猛突進をしている。

 一目見て、オオナズチが怒り状態である事が分かった。

 

 しかし、分かった所でリーダーのアイルーには何もすることが出来なかった。

 力の差が、ありすぎるのだ。

 今出来ることは、見つからないように身を伏せて、神に頼ることしかなかった。

 

 と、突如に、また新たな音が聞こえてきた。

 甲高い音で初めは遅く、しかし次第に早くなってくる音。その音は、まるで心臓を手で握られるような恐怖感を煽るように計算されたかのように鳴り響く。

 その音の方角を見ると、超大型モンスターが両頬の部分から一本ずつ短い触手を展開しており、その先端部分が輝き始めていた。

 その行為が何なのか、リーダーのアイルーには分からなかったが、本能が悟った。『あれは、危険だ』と。

 そして、その音が一際大きく鳴り響き輝きもいっそう大きくなったかと思うと――

 

――2本の触手から、光線が放たれた

 

 

 

 

 

 

 そして、冒頭に戻る。

 超大型モンスターから放たれた光線は、寸分の狂いも無くオオナズチへと着弾した。

 そしてその光線を浴びたオオナズチはというと、”消滅”した。

 誇大表現でもなく、その言葉通り、綺麗さっぱり消滅したのだ。

 

――あの古龍であるオオナズチが、ろくな抵抗すら出来ず、消滅した

 

 その事実に、リーダーのアイルーは恐ろしさのあまり全身を振るわせる。

 その横では、若いアイルーが腰を抜かし言葉にならないうわ言を狂ったように呟き続けている。

 最早、逃げるという選択肢は浮かび上がってこなかった。

 どれだけ逃げても、自分達もオオナズチのようにあの光線によって消滅させられる。

 早い話が、諦めていた。

 リーダーのアイルーは若いアイルーと一緒に尻を地面に付け、目を瞑る。

 

(すまん、親父、おふくろ。そして村の皆。約束、果たせそうにないニャ)

 

 リーダーのアイルーは死ぬ覚悟を決める。

 願わくば、殺されるのは俺だけにしてほしいと、願いながら。

 そして、それに答えるようにトライポッドが動き出し――

 

「……え?」 

 

 遠ざかっていった。

 彼は、一つ勘違いをしていた。

 いくらオオナズチがでかいとはいえ、周囲は深い木々に覆われている。

 その中からオオナズチを探し当てるなど、至難の業だ。

 しかし、超大型モンスターはそれをものともせずオオナズチを攻撃した。まるで、その光景が分かっているかのように。

 もしや、あの超大型モンスターには、視力のほかに相手が分かる何かの機能を持っているのかもしれない。

 だとしたら、オオナズチの近くに居た、自分達も――

 

 そう思った彼は、逃げることを諦めたのだが、それは憶測であった。

 自分達は、見つかってなどいなかったのだ。

 そう結論付いた彼は、安堵の息をつくと、身体を大地に横たわらせた。

 顔を横に向けると、危機が去ったと感じたのか一匹のアイルーが顔を出し、安全を確認すると班員全員が自分達の救出に向かってきた。

 その光景をみながら、彼は考えた。

 

(あんな奴がここに居座るとなると、俺達はどうすればいいニャ?)

 

 少なくとも、今よりも生活は厳しくなるだろう。そう考えながら、彼は班員のメラルーに肩を貸してもらいながら、集落へと足を進めた。


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