三脚の悪魔   作:アプール

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第1話

 遥か昔、この世界では戦争が起こった。

 後年では古代文明と呼ばれ、繁栄をしていた人類。様々な科学革新が起こり、生活水準は向上。とどまる所を知らない科学の発展は、人類の未来に希望を注ぎ込んでいた。

 

――そんな時である、突如として『ソイツ』らが現れたのは。

 

 最初の異変は天候に現れた。突如として黒雲が空を覆い、さらにはある地面に落雷が発生したと思ったら、連続してその地面に落雷が落ちるなど、異常気象が発生した。

 落雷した地点には何事かと野次馬が群がり、しかし特に何も起こらなかったので次第に興味が薄れ、誰もが元の生活に戻ろうとしていた。その時――『ソイツ』らが現れた。

『ソイツ』らはあらかじめ地中に埋めておいた巨大な銀色の戦闘機械を操り、地面を掘り起こしながら群集の目の前で姿を現した。

 そして『ソイツ』らは唖然としている群集に自身に備え付けられている光線兵器を突きつけ、攻撃を開始した。

 幾多もの年月を重ね、これまでは人類の繁栄の象徴であったビル群が薙ぎ倒され、買い物を楽しんでいた親子は光線兵器によって原子レベルにまで分解された。

 それは、これまで人類が体験した事の無い、地獄であった。

 無論、人類側も抵抗を示した。各国の政府は直ちに非常事態宣言を発令し、軍の派遣を開始した。しかし、かたや銃や大砲で武装する人類。かたや巨大な戦闘機械を操る火星人。力の差は歴然としていた。

 この世界では高度な文明を誇っていた人類だが、遥かかなたの宇宙からやってきた火星人からすれば科学技術が何世紀も遅れている未開な野蛮人。いや、ただの家畜同然としか見ていなかった。

 結果として、人類側の成果は数機の戦闘機械を破壊した程度にとどまり、火星人の侵略を押し止める事はできなかった。

 軍を蹴散らした火星人は、無抵抗な民間人に対し、無慈悲な攻撃を加え、さらには自分達の食料にするために老若男女を問わずに捕らえられ、生血を吸われた。

 これまでは繁栄していた都市は無残に朽ち果て、代わりに火星人が持ち込んだ赤い根っこの様な植物が都市全体を覆った。あたかも、人類の歴史は終ったのだと見せ付けるように。

 その光景に、誰もが希望を失いかけていた。しかし、火星人侵略から一ヵ月後、ある奇跡が起きた。

 時間差はあれど、ほぼ全ての戦闘機械が活動を停止したのである。地面にひれ伏す戦闘機械。巨大な樹木にのしかかるように倒れている戦闘機械。さまざまな姿で皆倒れていた。

 原因は分らない。しかし、ようやくこの悪夢から開放される。誰もがそう思っていた。

 

――しかし、現実は非情であった。

 この世界には、モンスターと呼ばれる凶暴な生命体が存在した。

 だが、これまでは圧倒的な科学力で全ての生命体の中で頂点にいた人類。しかし、火星人の侵略により人類の力は著しく減少した。

 さらに、火星人たちはあくまでも人類の撃滅を目的としていたのか、攻撃をしてくるモンスター以外には一切攻撃を加えず、モンスター達の被害は軽微であった。

 その結果、これまでは人類の手によってやすやすと駆除してきたモンスターたちはたちまちとその数を増やし、人類に牙を向いた。

 この事態に対し、人類は抵抗した。しかし、火星人の侵略により社会秩序は崩壊しており、そして何より軍隊が壊滅状態にあった。

 生き残った民間人や軍人は手元にある銃や工場からまだ残っている兵器などを活用したが、まともな整備器具さえ無い状況ではそれらは装填不良などの故障を引き起こし、直に使い物にならなくなった。

 そしてなにより、新たに銃器を作ろうにも、各地の軍需工場などは壊滅状態に陥っており、残っていたとしても機械を動かす為のインフラ設備が破壊されていたため動かす事が出来なかった。

 さらには政府によって対火星兵器用の武器の開発を担ってきた優秀な科学者達は火星人の襲撃によって全滅しており、そうでない科学者も火星人によって殺されたりモンスターに食われたりなので殆ど生き残っておらず、銃器の開発すら不可能な状況に陥った。

 結果、人類は機械の普及によって衰えていた身体能力ではモンスター達の猛攻を防ぐ事が出来ず、その数を急激に減らしていった。

 火星人に追われあちこちの散らばった人類は、モンスターから自分達の身を守るために団結し、それぞれの場所に村を形成。武器などは原始的な剣や槍、弓などが使用され、人類は凶悪なモンスター達に立ち向かった。

 以後、人類とモンスターの力は均等化し、数千年にも及ぶ人類とモンスターとの長い長い生存競争が始まった。

 それにより、人類は過去の戦争の事など、すっかり忘れてしまったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、これで最後だ」

 

 旧大陸のテロス密林に、まだ幼さを残した少女の声が響き渡る。

 その少女の装備はレザーメイル一式で固めており、見るからに新米ハンターといった雰囲気をかもしだしている。

 そんな少女は今、目の前に生えていた特産キノコを採取し、満面の笑顔を浮かべている。

 

「よし! 特産キノコは集まったから、後は蜂蜜や鉱石を掘ってベースキャンプに戻ろう」

 

 そう言い身体を起こした少女は、ある異変に気づいた。

 

「ん? 何か変な音が……向こうから聞こえるな…」

 

 そう言いながら少女は音が鳴っている方に耳を傾ける。その音は地面が擦れあっているような奇妙な音で、地面の中から聞こえてきたような気がした。

 

「もしかして、ダイミョウザザミ? いやでも、ここは海岸から離れてるし…」

 

 その少女はある甲殻種のモンスターを想像したが、直にそれを否定した。

 不思議な現象に少女は首を傾げていると、またしても異変が起こった。

 

「…あれ? あそこの地面が盛り上がってる」

 

 少女から訳60メートル離れた地面がいきなり盛り上がったのだ。そして、その盛り上がった地面からだんだんと亀裂が広がっていく。それにともない、地鳴りの音も大きくなっている。さらには小規模な地震まで発生しだした。

 

「な、何々!? 何が起こってるの!?」

 

 突然の出来事に少女の頭は混乱の極みにあった。訳が分らずオロオロしている内に、その亀裂はさらに広がっていく。そして、その亀裂はやがて半径数十メートルはある『円』を作り出した。

 そしてその『円』の中心から地面が陥没し始めた。地面の陥没に根が耐え切れず、『円』の近くに生えていた木の何本かが激しい音を鳴らしながら地面に叩きつけられた。

 目の前で起こった怪奇現象に何もすることが出来ず、少女はただ呆然とすることしか出来なかった。

 

 その間にも怪奇現象は進行していく。その『円』はいきなり高さ数メートルまで盛り上がったと思ったら、今度は一気に陥没し周りに土煙を撒き散らした。

 驚いた少女は足をもつらせ地面に尻餅を付いた。

 

「い、一体何が……」

 

 何とか搾り出した声でそう言うが、声は掠れていた。

 ふと、少女の耳に聞いた事の無い音が聞こえ始めた。その音はいまだ砂煙が立ち込めているあの『円』から聞こえてきた。文字にして表すなら『ウィーン』だろうか。

 少女がその砂煙に目を凝らしてよく見ると、何か足のような物が動いているのが確認できた。その大きさはかなり大きい。

 何かが居る!! そう感じ取った彼女は即座にモンスターだと感じ、そしてまだ新米である自分には勝てないと悟り、直に逃げようとした。しかし、身体が全く動いてくれない。まるで金縛りにあったような感覚だった。

 

(ちょ、何で動かないの!! は、早くしないと!?)

 

 全く動かない身体に少女はもはやパニックになっていた。

 そうこうしている内にその足は空高く舞い上がり、少女の近くにへと着地した。

 

「きゃっ!!」

 

 着地した時に発生した風圧により小柄である少女の身体は木の葉のように吹き飛ばされた。そして少女の身体は近くにあった木に背中から叩きつけられた。

 

「あ、ぐぅぅ……」

 

 新米である故、それ程戦闘を経験したことの無い少女にとって、木に叩きつけられた痛みはかなりの衝撃であった。肺にあった酸素が全て吐き出され、少女は激しく咳き込む。

 

「ゴホッ! ゴホッ!……っ?」

 

 咳き込みながらも、今度は『キーン』という聞きなれない音に反応し顔を前に向ける。そこには、『円』の地面がだんだんと盛り上がっている光景。否、何かに押し出されているような光景が映っていた。

 そして、『ソイツ』は姿を現した。

 

「あ……ああっ……」

 

 少女は目の前に現れた『ソイツ』にただ掠れた声しか出せなかった。

 『ソイツ』は全身銀色に輝き、頭にはひし形の甲羅のような物をかぶっている。足は細く長く、さらには一本の足にまた三本の足が生えている。恐らく指のような物だろうか。

 脚の付け根部分には何本もの触手がついており、一見蛸か烏賊の様に感じられる。

 顔のような部分にでかい目が一つと、その左右に小さい目が2つついている。そして驚くことにその3つの目からは光が発せられている。

 全高は、相当な物だ。50メートルはあるといっても誰も疑わない位の高さだ。

 その姿は少女が図鑑でみた全てのモンスターに該当しない。唯一該当するならば『シェンガオレン』がそうだろうか。しかし、その姿は余りにも『シェンガオレン』からかけ離れていた。

 地面からもぐり出てきた『ソイツ』は、歩くことも鳴くこともせずただその場で佇んでいた。

 その姿に少女は怪しむ。っと、その時。

 

――ヴォオオオオオオオォォォッ!!!

 

 『ソイツ』はいきなり咆哮した。その声は不気味きまわりない声で、しかしかなりの威圧感がある声だった。新米である少女には初めて耳にする大型モンスターの咆哮で、心臓が鷲掴みにされるような感覚に陥った。

 

――ォォォォォオオン

 

 密林の周りに重低音を響かせながら『ソイツ』の咆哮は終った。それと同時に、我に返った少女は顔を恐怖で歪ませながら一目散にベースキャンプへと駆け出した。

 

――これが、のちに三脚の悪魔。通称『トライポッド』と呼ばれ、再びこの世界を恐怖のどん底に陥れた火星の戦闘機械の最初の目撃談であった。





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