レンズ越しのセイレーン【完】   作:あんだるしあ(活動終了)

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 無理よ  この世には壊せないものがある


Mission10 ヘカトンベ(7)

「ただいま」

 

 ルドガーは読んでいた本から顔を上げた。悄然と部屋に入ってきたのはユティだった。

 

「遅い。もうとっくに外暗くなってんぞ」

「ごめんなさい」

「……あったかいもんでも飲むか?」

「はちみつミルク」

「了解」

 

 ルドガーはソファーを立ち、キッチンに向かった。冷蔵庫を開けて蜂蜜と牛乳を探し出し、鍋に牛乳を注いでコンロにかけた。

 

 準備の間にユティはソファーに落ち着いて、ぼんやりと下方に視線を泳がせていた。

 

「できたぞ」

「アリガトウ。いただきます」

 

 ユティはカーディガンで両手を覆い、マグカップをその両手で持って飲み始めた。

 

「あの後、どうしてた?」

「ヘリオボーグとラフォートの研究所に別れて向かった。骸殻の力の元はクロノスだから、精霊研究の中にヒントがあるんじゃないかってジュードが言ってな。俺もヘリオボーグで文献やら過去のデータとにらめっこだ」

「収穫は?」

「ゼロ。初日はこんなもんだろ。エルにはアルヴィンが、シルフモドキ? だっけ。伝書鳩みたいなの飛ばして手紙送って現状報告するって。エルはGHS持ってないから」

「そう」

「アーストとローエンは一時帰国して、国の書庫に手がかりがないか探すって言ってくれた。賢者クルスニクの弟子だか子孫だかが六家とかいう貴族らしくて、そこから遡れないかやってみるって。王様と宰相ならどこの文書もフリーパスだからさ」

「へえ」

「エリーゼが世話んなってるシャール家ってのがその六家の一つらしくてさ。エリーゼ、ドロッセルに古い歴史書とか見せてもらえないか頼んでみるって言ってくれたよ。やっぱしっかりしてるよな」

「そうね」

「……何だよ、ノリ悪いな。いつもならもっとネタ振ってくるくせに」

「気が滅入ることがあっただけ」

「確かに今日は一日ハードだったもんな……」

 

 ユティはマグカップをテーブルに置いた。

 

「誰も殺さずに『カナンの地』に行く方法、探しても見つからなかったら、どうする?」

 

 あれやこれやと考えていた段取りが爆破された気がした。

 

 ルドガーはソファーの上で三角座りをして俯いたユティをまじまじと見返す。確かに彼女はシビアだったが、彼女自身がそれを弱音の形で吐き出したことはなかった。

 

「――見つかるまで探すさ。社長も言ったろ。『カナンの地』は逃げないって。だからお前がそんな顔するなよ。ティポとかローエンとかとは違った意味でムードメーカーなんだからさ。お前が沈んでると俺もミラも気になってしょうがない」

 

 ルドガーはユティの横に腰かけ、ユティの髪をぐちゃぐちゃに掻き回した。

 ユティはちらりと客間を見やる。

 

「ミラとは上手くいったみたいね」

「ま、一応な。恋愛どうこうじゃなく、ミラが正史世界で生きてく上で俺はどうするかって話になったけど。おかげで俺たちがどういう付き合いをしてけばいいか分かった気がする」

「ミラのためにも、簡単にくたばらないでね」

「分かってる。あんな悪趣味な試練とやらで、くたばってたまるかってんだ」

 

 ことさら飾り立てた意思表明になってしまったが、障害は果てなく大きいから、これくらいの大言壮語がちょうどいいかもしれない。

 

 この時のルドガーは、不安を抱えつつも、まだそう考えられるだけの余裕があった。

 

 

 

 

 

 

 2日、3日、4日と調べても、「魂の橋」に代わる案も、代案の糸口さえ出て来なかった。日が経つにつれ、仲間たちの口数は減り、表情に焦りが見え始めた。

 どうにか方法を見つけなければ仲間を殺さなければならない、というプレッシャーも彼らを追いつめた。エルのように、「カナンの地」に行かない、という選択肢は彼らにはなかった。

 

 

 

 

 5日、6日、7日と調べる頃には、作業はもはや惰性だった。他に手段などないのだと思い知らされるための時間と言ってよかった。

 エリーゼやミラといった感情的になりやすい者は、泣いたり怒鳴ったりもした。誰も彼女らを咎めなかった。すでに皆が、進展ゼロ、収穫ゼロの日々に憔悴しきっていた。

 

 

 じわじわと、彼らの心を、諦めという毒が冒していく。

 

 

 “こうしている間にも、世界がいつ破綻するかも分からないのに”

 “××××を殺せば、今すぐにでも「カナンの地」に行けるのに”

 

 

 仲間のそんな悪意のない殺意を、ルドガー自身もまたうっすらと感じ取っていた。

 

 

 ――彼らの破綻は、もはや目の前だった。




あ「あんだあでーす(≧▽≦)」
る「るしあでーす(・д・。)」
あ・る「「二人合わせてあんだるしあでーす(≧▽≦)(・д・。)」」

る「して(なれ)よ。ついに本作のキモ中のキモ、『橋』問題にルドガーたちがぶち当たったぞ」
あ「苦節Xヶ月……ブクマ件数は100を越え、ptも上がりに上がり……ここまで来たか(TmT)」
る「(なれ)よ。感慨深いのは分かるが太平洋に沈む夕日を眺めておらんと解説せよ。ここの所サボリ過ぎぞ」
あ「見逃せ。リアルが忙しかったんだ。――えー。我が家のルドガーたちは誰も犠牲にならない方法を探し出そうと動き始めました。それが行き着く先はどこなのか……読者の皆様はもうお分かりですよね?( ̄▽ ̄)ニヤリ」
る「ヒントは前書きぞ。皮肉にもクロノスがよく似たことを言っておった」
あ「公式によると『最も人間らしいクロノスとマクスウェルが人間と敵対してしまった』のが『エクシリア最大の皮肉』らしいからな~」
る「確かに皮肉よの。最もクロノスに抗いたい者が『壊せない』事実を先に知ってしまっておるなど」
あ「みんなでやれば何とかなる、が通用するのは高校時代まで。大人は一人だろうがみんなだろうが大抵のことはどうにもならないっす。何が言いたいかと言うと、原作でさえ兄さん殺したのに二次創作で都合のいい方法が書けるわけねえだろってことです<(_ _)>」
る「……今貴様は全ての二次創作家を敵に回したぞえ」
あ「だからこうして土下座で語ってるんだよ<(_ _)> 我が家のメインテーマはこれで作者が出した答えの一つがこれなんだから土下座しながらでもうpるしかねえだろがよ」
る「覚悟できておるならば理性(われ)は何も言えぬのう」
あ「今回の見所はオリ主の萌え袖+マグカップふうふうコンボだぜ!ヽ(´▽`)/」
る「いきなり血迷いおった!」

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