レンズ越しのセイレーン【完】   作:あんだるしあ(活動終了)

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 もう二度と くり返すものか


Mission10 ヘカトンベ(4)

 クロノスとの連戦により、ルドガーもガイアスたちも満身創痍だった。

 

(全力でやっても時間を巻き戻して全快とか、反則にも程があるだろ大精霊!)

 

 双剣の片方を杖代わりにルドガーは何とか立つ。気合で構えを取っているガイアスはともかく、マクスウェル姉妹など荒い息をしながら前屈みだ。

 

「念入りに命の時を停めるとしよう。クルスニクの『鍵』よ」

 

 悠然として、クロノスは片腕を上げる。

 終わる。こんな所で。こんな形で。

 悔しさに奥歯を強く噛んで瞼を瞑りかけた。

 

 

「――イイエ。停まるのはアナタの狂った時計」

 

 ズドン!!

 クロノスの胸から槍が生えた。ルドガーにはそう見えて、さらに上を見上げた。

 傷を押さえて黒い血を流すクロノス。その手傷を与えたのは何者か。

 

「ユ、ティ……」

 

 ストリボルグ号で初めて会った日と同じだ。どこからどう飛び降りたのか。上から骸殻をまとったユティがクロノスを強襲したのだ。

 

「な…ぜ、ただの骸殻の刃が…我を貫く…!?」

「アナタ何も見てなかったのね。人間ギライもここまで極めると清々しいわ」

 

 ユティはフリウリ・スピアから手を離し、空中で一回転してクロノスの正面に着地した。クロノスが背中からフリウリ・スピアを生やしたまま、苦痛と怒りをないまぜにユティを睨み据える。

 

「本物の『クルスニクの鍵』は、彼じゃない、ワタシ一人よ」

 

 

 

 

 

(あーあ。またルドガーの活躍のチャンス、奪っちゃった。『鍵』を武器に変えられるのも骸殻と一緒で事前に言ってなかったから、ルドガー、ショック……だったみたいね。やっぱり)

 

「別に驚くことでもないでしょう。アナタはワタシが『鍵』だと知っていたんだから。一世代に『鍵』は一人いるかいないか。しかも骸殻を同時に持つなんて、考えておかしいと思わなかった?」

 

 それでも口は言葉を吐き出す。そう在るようにユースティアは育てられた。目的のために邪魔な感情は排するように。

 かつて誇らしかったそれが、今は重い。

 重いと感じるように、ユティは変わった。変えられた。後ろにいるたくさんの人たちのせいで。

 

「その槍、アナタが後生大事に隠してきたオリジンの、無の力を武器化した『鍵の槍』。どう? 自分の体で味わってみた気分は。温存した分、出し惜しみなし。叩き込ませてもらった」

「…人間、っ風情がァ!!」

 

 ユティは一度変身を解き、また骸殻をまとった。フリウリ・スピアがクロノスの背から消え、彼女の手に戻った。

 フリウリ・スピアが結界に向けて投擲される。穂先が表面に当たるや、結界は弾けて消えた。

 

「ルドガー!!」

 

 真っ先にエルがルドガーを目指して駆けて来た。

 ジュードたちもぞろぞろ出てくる。回復担当のジュードとエリーゼはミラたちの手当てに回った。

 

「ルドガーとミラとミュゼと王様、レッドカードでチェンジ。傷は治癒術で治っても体力回復には効かないんだから。ココは――ワタシ、に、やらせて」

「けどそれじゃお前…! ユティだって兄さんと同じ…時歪の因子(タイムファクター)化してるはずだろ!?」

「ええ。でも命に係わるほどじゃない。ワタシだけがたった一人、クロノスに巻き戻しをさせずに戦える。ワタシの命、安くはないけど、アナタのためなら惜しくもない」

 

 ユティは普段通りにフリウリ・スピアを構える。クロノスもまた応えて灰黒色の立体術式陣を展開する。

 先に動いたのはユティだった。駆け出し、クロノスに槍を突き出そうとして、

 巨躯の赤い男に遮られた。

 

「安かろうが惜しくなかろうが命は一人一つきりだ。安易に捨てるな」

「ビズリー・カルシ・バクー……」

 立体陣が消えた。さすがのクロノスも正史世界の最強(ヴィクトル)が出ては様子見せざるをえないらしい。

 

「『カナンの地』に入る方法なら、私が知っている」

「「ええ!?」」

 

 ルドガーとミラの声が重なった。知っているのなら今までどうして教えてくれなかった、と全力で聞きたさそうな声。

 

(無理もない。この二人は特に関わりが深いはずなのに、クルスニク一族の事情に通じてないもの)

 

「エル」

「え? ――へ!?」

 

 ユティはエルの肩を抱いて前に引っ張り出し、ルドガーからより引き離した。

 

「強いクルスニクの者の魂、だろう?」

 

 ビズリーの暴露が、至近距離にいたエルとユティだけに届くように。

 

 エルは真っ青だ。利発なエルは気づいてしまった。幼いゆえに、小難しい理屈を弄さず、ただ結果がどうなるかを、ジュードたちより速く弾き出した。

 

 ――「橋」を架けるためにはクルスニク一族の死が必要。では「橋」を担うべく殺されるのは何者なりや?

 そう、ルドガーだ。エルにとってこの世界で生きる寄る辺である、ルドガー・ウィル・クルスニクなのだ。

 

 もちろん今この場にいないユリウスもリドウも、ビズリーの中では候補に入っていよう。だが、ここでエルに「ルドガーの代わりに死ぬ人間はちゃんといるから安心しろ」と言うわけにはいかない。利としても、情としても。

 

「貴様――」

「おっと。最後の『道標』、『最強の骸殻能力者』は分史世界で手に入れた。正史世界には、まだ残っているぞ。私と『クルスニクの鍵』、同時に相手をしてみるか?」

 

 ビズリーは、骸殻をまとったままのユティを指してきた。

 

「ビズリーさんも骸殻を…!?」

「――ならば」

 

 気づけばクロノスに懐に入られていた。空間転移。対処が間に合わず、腹を強かに蹴られて地面に転がった。

 

「は――うぇっ、ゲホッ、ゲホッ!」

 

 弾みで骸殻が解け、二つの懐中時計が手の届かない場所へ転がってしまった。

 クロノスがユティに向けて転移の術式を編み上げる。

 

「『クルスニクの鍵』だけでも!」

「させるか!!」

 

 

 ――この時、ユースティア・レイシィは人生16年で最大の驚きを知った。

 路地裏に置いて来たはずのユリウスが、横ざまにクロノスにタックルしたからだ。

 

 

「ユースティア! 時計を!」

 

 ユティは慌てて立って懐中時計まで走り、銀時計の一つを掬う勢いでユリウスへと放り投げた。

 

(って、何してるの、ワタシ。ユリウスととーさまは同じ人じゃないって、間違えるなって。でも、だって、とーさまの声で目で、そうしなさいって、言われた、らワタシ、わ、たし…)

 

 クロノスの転移術式に巻き込まれながらも、ユリウスは器用に銀時計をキャッチした。

 

 ――同じ過ちを犯したなら、結末もまた同じくなる。

 クロノスからユティを庇って(●●●●●●●)、彼は再びこの世界から消失した。




あ「あんだあでーす(≧▽≦)」
る「るしあでーす(・д・。)」
あ・る「「二人合わせてあんだるしあでーす(≧▽≦)(・д・。)」」

る「して(なれ)よ。ほぼ原作を書き写したような展開だが意味はあったのかえ?」
あ「あるに決まってんだろー( ゚Д゚)ゴルァ!! さくっとぶっちゃけすぎだー! 今回はついにオリ主が骸殻&鍵の全力モードで戦ったの。秘密秘密のオリ主がやっと!」
る「感慨深いのう。主は本当に隠したがりで手を焼いたものなり」
あ「展開自体は原作とほぼ変わりません。クロノス巻き戻し→ビズリー登場で牽制→ルドガーを庇ってユリウスが代わりに転移に巻き込まれる――変わらない、よね?|д´)チラッ」
る「変わらん変わらん。隠れるでないわ。何十回もC13をチェックして書いたであろ。原作ではルドガーを庇ってだったユリウスの行動が、拙作ではオリ主を庇っての行動になった箇所はあるが」
あ「兄さんもはや父性芽生えちゃってるよ。親心ログインしてるよ。『路地裏からよくここまで走って来れたな兄さん』? そのために前回、わざわざ治療シーンを入れたのさ(`ー´)ドヤッ! 因子化の痛みは……根性で振り切ったことにしてください<(_ _)>」
る「急に低姿勢!」
あ「相変わらずウソはつかないけど本当も言わないオリ主です。自分が鍵と明かしつつエルには一切触れない、ルドガーが鍵じゃないと思わせてクロノスの標的から外す等々」
る「そもルドガーはヴィクトル分史を経ておらぬゆえ自分がエルを介して契約していることにも、エルの因子化にも気づいておらぬ」
あ「あえてね。兄弟問題に終始させたかったから。でも知るべきを知ってないキャラって面白くね?」
る「しかし『橋』問題がエルのみに聴こえるよう抱き寄せたオリ主は目的のために手段を選ばん典型例よの」
あ「そこは許して! エルたんのみ聴こえる距離にするにはこうするしかなかったのよ!。゚(゚´Д`゚)゚。」

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