レンズ越しのセイレーン【完】   作:あんだるしあ(活動終了)

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 わたしを全て曝け出す おねがい、みらいをかえて


Mission9 アリアドネ(4)

 ――ちょっかいかけないでね、お医者さん。

 言って、ユティはエントランスの柱の一本を見上げた。

 

 ビルの柱の陰から出てきたのはリドウ。案の定盗み聞きしていた。中へ入るまでもなかった。

 リドウはいつもの厭らしい笑みを浮かべながら、ユティのほうへとやって来た。

 

「よーやく君の依頼の真意が分かったよ。まさか未来の人間だったとはね。しかも親がアイツとは――」

「ミラには危害を加えないで。YES or NO?」

「O・K。分史世界のマクスウェルには手を出さなきゃいいんだろ。最後の『道標』がすでに手に入ってんなら、あの女を排除する理由もないしな。つーわけで、その『道標』よこしな。分史対策室で厳重に保管しといてやるよ」

「オネガイシマス」

 

 ユティは最後の「道標」をリドウに手渡した。リドウが捨てるとか隠すとかは考えない。彼にとっても「カナンの地」は希望だ。内臓黒匣(ジン)を改造してまで生きようとしているリドウにとっては。

 

 受け取ったリドウは、白金の歯車の集合体を矯めつ眇めつした。

 

「ところでさ、これ、最後の『道標』ってことは、『最強の骸殻能力者』だよね」

 

 猛禽類の目だ、と思った。死肉を見つけたハゲタカ。生に貪欲で正直で、

 

「お前の世界の『最強の骸殻能力者(ヴィクトル)』は誰だったんだ?」

 

 呑まれるほどに、切実。

 

「ワタシの、とーさま」

「――っは。てことはお前、自分の父親を殺して『道標』を手に入れたってワケ? その上自分の世界まで壊しちゃったんだ! 傑作だなこりゃ。見てみたかったなァ、娘に殺される父親(あいつ)の顔」

 

 リドウは明らかにユティの未来の父がユリウスと知って嗤っている。

 ――ユースティアに許せないことは、両親とアルヴィンとバランを侮辱されること。

 

「あるよ」

 

 ユティはずっと封印していた物をショルダーバッグの奥から探し出し、訝るリドウに突きつけた。

 

 黒いアルバム。

 中身はユティが拙い腕で撮った素人写真であったり、あの人たちがシャッターを切ってくれた思い出の一枚だったり。

 喪服を着られないユティの、せめてもの哀悼の意を込めたカバー色。死んだセカイへの手向け。

 シアワセだけを詰め込んだ、生まれ故郷の写真集だ。

 

 その中でユティが開いたページは、ユティ自身が父親を刺し貫いた連続写真のページだった。

 

「へえ。趣味悪いもん撮らせてんじゃん。さすが」

「よく、見て。ワタシに殺されるとーさまの顔」

 

 リドウは、皮肉が通じなかった忌々しさを隠しもせず、ページを覗き込んだ。その表情のままリドウは写真をしばし見、一つの写真に対して瞠目した。――ユティは内心で勝利を確信した。

 

笑ってるでしょう(・・・・・・・・)? とーさまは。最期まで。間違った道でも曲げなかった。だからユースティアも止まらない。間違った道をまっすぐ進む」

 

 ユティは黒いアルバムをバッグの中に片付け、その場を去るべく歩き出した。まっすぐ、背筋を伸ばして。

 

 

 

 

 

 

 時を経て、マクスバード/エレン港にてルドガーたちは集合した。

 

 この場には関係者、否、仲間が揃っている。トリグラフから足を運んだルドガー、エル、ミラ、ジュード。小一時間前までアルクノアのシージャック阻止に奔走していたローエン、ガイアス、アルヴィン。ジュードから連絡を受けて駆けつけたエリーゼとレイア。彼らの気配を察して顕現したミュゼ。

 

 そして。今回の集合の発端であり、ルドガーたちも知らない真相を語るべく立つ、ユースティア・レイシィ。

 

 人のいない埠頭を、等しく潮風が吹き抜けた。

 

「ユティ。話してくれるか。さっきの言葉の意味と、お前が知ってること」

「分かった。……長いようで短かったわね、ここまで」

 

 ユティはメガネを外した。ナイフじみた蒼眸が全員を見渡した。

 

「ワタシの本名はユースティア・ジュノー・クルスニク。18年後の未来に当たる『番外分史』から来た――――ユリウス・ウィル・クルスニクの実の娘よ」

 

 

 場の全員が大きな驚愕をあらわにした。

 

 だが、おそらく誰より驚いたのはルドガー自身だ。最初にユティが名乗ったタイミングがタイミングだったので、ルドガーはてっきりユティを自分とミラの娘と思い込んでいた。

 

(恥ずかしすぎて死ねる…!!)

 

 今すぐ顔を覆ってしゃがみ込みたいが、それができない事情がある。ルドガーは気力だけで耐えて平静を装った。

 

「お前……兄さんの子、なのか?」

「ええ。ユリウス・ウィル・クルスニクはワタシの父。ルドガーは叔父に当たる」

「ルドガーがユティのおじさん!?」

「ナァ~!」

 

 呆然とする間に、ユティはルドガーの懐に入り込んでいた。見上げてくる蒼眸は、初めて会った時と同じで、無機質なのに鋭い。

 

「ワタシが列車テロの時にアナタに最初にかけたコトバを覚えてる?」

 

 

 ――“今すぐ列車から降りて。その子と一緒に。でないとアナタ、死ぬよ”――

 

 

 やけに確信的なくせにもったいぶった言い回しだと感じたのを思い出す。あの時は単にテロリストに殺されるという意味での、半ば見下した忠告だと受け取って言い返し、結果として列車テロに巻き込まれた。

 

「アナタがあの日、アスコルドの式典に向かう列車に乗るかがターニングポイントだった。死ぬよって脅してでもアナタに降りて(・・・)ほしかった。クルスニクの宿業にまみれた世界から」

 

 この時、ルドガーはユティの後ろに確かにユリウスの影を見た。ルドガーを何年もクルスニク一族から隠し続け、ルドガーに何年もクルスニクの宿業を隠し続けたユリウス。

 

「お前も兄さんと同じか。俺に隠して、俺を遠ざけるためにわざわざ来たのか」

「ちょっと、ルドガー」

「手段の一つとして視野に入れてはいた。でも無理な目算のほうが高かったから、むしろアナタのサポートを主眼に置いて行動してきた」

 

 はっとする。キジル海瀑での変身に始まり、ユティの様々な言動が芋づる式に思い出される。

 

(どんな分史破壊任務でもユティは俺のそばにいた。エルを庇ってるんだと思ってた時も、エルじゃなくて俺を庇ってたとしたら? 空気を読まない撮影ばっかで注意すんのが大変だったのだって、ユティの気遣いだったら? アルヴィンに漫才みたいだって言われたけど、確かにユティと言い合う時は息が楽にできた。世界を壊す重苦しさを忘れられた)

 

 ――自分は、気づかないところで、ユティに救われてた?

 

 ぶつかるまで30センチと迫った少女と、今までの言動を重ねた瞬間、ルドガーは飛びずさった。ユティを我が子と勘違いした以上の羞恥心、さらに、目の前の少女への不気味さ。

 

 好意ではなく義務感で命をなげうてるユティが理解できなかった。

 

「分からなくていい。コレはユティ一人の問題。そんなことより、アナタが知るべきは別にある。今からとーさまが経験した、ココではない世界での『オリジンの審判』にまつわる話、する。聴いて。そして、選んで。誰もが救われる未来を」

 

 ――こうして、ユースティア・レイシィの、長く暗い人生劇場が幕を開けた。




あんだあ「あんだあでーす(≧▽≦)」
るしあ「るしあでーす(・д・。)」
あ・る「「二人合わせてあんだるしあでーす(≧▽≦)(・д・。)」」
あ「と自己紹介をしておいて申し訳ないんだが、今回のトークはお休みだ」
る「今回は作者が自ら語りたいと申したゆえに、我らは退場致す。申し訳ござらぬ」
あ「ではどーぞー」
 ↓
 ↓
 実にお久しぶりでございます。あんだるしあ本体でございます。
 ついにオリ主の過去とオリ分史の内容を明らかにできる日が来ました。
 ここまで本当に長かった。
 連載を始めて半年余り。病気で折れかけ、自分自身で内容やキャラクターを疑って、新しく公式資料が発売されて混乱し、伸び悩んだり感想に悩んだりしながらここまで来ました。
 次で明かされるオリ主の分史は完全なるオリジナルです。つまり完全なる作者の人格の投影です。次回がどう評価されるかは作者の人格がどう評価されるかに等しいと考えております。
 大げさだとお笑いかもしれません。脅しだ、公私混同だとお怒りかもしれません。作者にとって初の、「ちゃんと終わらせられそうな連載」で、おかしな認識をしている部分も否めません。
 読者様は作者のぐるぐるした気持ちなんて関係なしに、作品を楽しんでいただければ幸いです。

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